無線関係の用語について解説します。
① 微弱無線局 電波法では無線機器から3m離れた地点で、一定の電界強度以下であれば、免許を受けずに使用することができます。322MHz以下では500μV/m(54.0dBμV/m)ですが、322MHzから10GHzにおいては厳しく、3mの距離で35μV/m(30.9dBμV/m)以下です。 30.9dBμV/mの電界強度を自由空間の条件でEIRPに換算すると-64.3dBmとなりますが、実際の測定はハイトパターンのピークを測定しますので数dBずれます。 EIRPが-64.3dBmアンテナ利得2.14dBiの場合 空中線電力226pW、さらに、昔は検波方式が準尖頭値検波(QP)でしたが広帯域対応に改正されRBW1MHzの尖頭値検波になっていることにも注意が必要です。測定方法は詳細に規定されています。 また、ELPマークという制度(EMCC、JAAMA)もあるようです。 ② EIRPと電界強度 EIRP(等価等方輻射電力)と3m離れた距離での電界強度の関係は以下の通りです。 EIRP(dBm)=E(dBμV/m)-95.2dB E:3m離れた点の電界強度(λ/2πが3m以上に適用) ③ アンテナ利得とアンテナ係数 無線機器では、通信品質として通達距離(フリスの伝達公式)を電力のレベルダイヤで評価することが多いためアンテナ利得(G:アンテナゲイン)が用いられますが、EMCの分野では意図しない周波数や強度の妨害波を電界強度で評価するためアンテナ係数(Af:アンテナファクター)(dB/m or dBmー1)が用いられるようです。 Af=√(120π×4π)/√(50×G×λ2) 自由空間インピーダンス(120πΩ)、給電点インピーダンス(50Ω)が適用できる場合には、上記の換算式が適用できます。概ね10λ以上の距離では自由空間インピーダンスが適用できるようです。多少の誤差を許容してもλ/2π以上離れないといけませんが、この条件が適用できるとして整理すると。 Af(dB/m)=9.73/(λ√G) EMCの測定(CISPRやVCCI)では広帯域の測定用アンテナが使用されますが、無線機の測定でも、技術基準がEIRPで規定されたスプリアスの簡易測定では広帯域アンテナが用いられるようです。 ④ ダイバーシティ ダイバーシティ(ダイバーシチ)は同一情報を含む複数の受信信号などの合成(等利得合成や最大比合成など)又は選択を行うことにより通信品質を改善する方法として用いられており、2つ以上のアンテナを用いるものや、1つのアンテナで送受信機の信号処理を用いるものなど多様な方法があります。 (a)複数アンテナを用いる方法は、空間ダイバーシティ、偏波ダイバーシティ、角度ダイバーシティなどがあります。 (b)1本のアンテナで送受信機の信号処理による方法は、周波数ダイバーシティ、時間ダイバーシティ、パスダイバーシティなどがあります。 (c)システムとして複数の無線局(地球局や基地局)を用いる方法は、サイトダイバーシティ、ルートダイバーシティなどがあります。 (d)送信側の複数アンテナによって、受信アンテナ1本でもダイバーシティ効果を得る方法は、送信ダイバーシティがあります。 ⑤ 無線LAN 電波法では、2.4GHz帯高度化小電力データ通信システム、2.4GHz帯小電力データ通信システム、5GHz帯小電力データ通信システム(5.2GHz、5.3GHz、5.6GHz)、5GHz帯無線アクセスシステムに区分されています。5GHz帯はIEEE 802.11a、ac、nですが、2.4GHz帯は11b、g、nの他、Zigbee、Bluetooth、ラジコンのプロポ、デジタルコードレス用途など多様なものが含まれています。なお、拡散率も規定されていますが、電波法の拡散率はプロセスゲイン(処理利得)とは異なりますので注意が必要です。 ⑥ 雑音指数と等価雑音温度 移動通信などでは雑音指数(F:NFノイズフィギュア)が用いられますが、衛星通信などでは等価雑音温度(Te)が用いられています。 F=(S/(kToB))/(gS/(kBg(To+Te))) 等価雑音温度と雑音指数の関係は、上記の式となります。F;雑音指数、S:入力信号電力、g;増幅器の利得、k:ボルツマン定数、B:帯域幅、To:温度、Te:等価雑音温度 F=1+(Te/To) ⑦ FM受信機の復調S/N (S/N)=(3/2)(C/kTF)(1/f2)(ΔF/f2)2 k:ボルツマン定数、T:絶対温度、F:雑音指数、f2:復調周波数の上限周波数、ΔF:最大周波数偏移となります。分母のf2の3乗は正しくはf23-f13ですが、3乗すると復調周波数の上限周波数に比べ下限周波数は省略しても問題にならない程度に小さくなります。計算値はスレッショルドポイントから、残留雑音レベルまでの範囲で一致します。 なお、移動通信では入力電界強度(横軸)とS/N(縦軸)のカーブを用いNoiseが右下がりのグラフで表現しますが、衛星通信では入力C/N(横軸)とS/N(縦軸)のカーブを用いて右上がりのグラフになります。 また、移動通信ではSINAD12dBとなる電界強度又は入力電圧を受信感度としますが、衛星通信ではS/Nが計算値より1dB劣化するC/Nをスレッショルドポイントとしており、C/N6dBまで改善するスレッショルドエクステンション方式が用いられます。 ⑧ M系列 デジタル変調方式の無線機などでは、基本的な要素として重要で、疑似乱数として広く利用されています。M系列の特徴は、全ビットが一致したときに自己相関が1となり、1ビット以上シフトすると、1周期まで全て相関が1/2(正確には1ビット異なる)になる点で、更に高速のクロックで分解すると、全ビットの位相が完全に一致したときのみ相関が1になるという点です。 ちなみに、1周期の符号長は2n-1となります。なお、nはシフトレジスタの段数です。 BER測定器や、均一な変調をかけて測定する場合に、標準符号化試験信号としてPN系列(Pseudo Noise Sequence)、疑似乱数系列(Pseudo Random Sequence)PN符号、PRBS(Pseudo Random Binary Sequence)などという用語が用いられていますが、ITU-T O.150で規定されている疑似乱数はPN符号の中で最も代表的なM系列で、生成多項式は、M系列の中でもシフトレジスタの帰還タップ数が最も少なくなる符号として規定されています。 ⑨ ハミング距離とユークリッド距離 ハミング距離は、デジタルデータ伝送において、誤り訂正や誤り検出で用いられる符号間距離のことで、ユークリッド距離は、コンスタレーション上での距離で位相と振幅の2乗和のルートとなります。ユークリッド距離の評価としてはEVMとMERが一般的で、EVM(エラーベクトルマグニチュード)の評価では、理想の点からのずれ(エラーベクトル)の評価として、(エラーベクトル/理想の点のベクトル)の比を(%)で表記します。なお、放送関係ではMER(変調誤差比モジュレーションエラーレシオ)が用いられることが多く、S/Nと同様に(理想の点のベクトル/エラーベクトル)の比を(dB)で表記するようです。 ⑩ 誤り検出と誤り訂正 最も分かり易いのが3bit多数決で、データの3倍の伝送速度を使う方法で、000の信号が1bit誤り001になった場合、多数決をとれば、000に戻せるため、1bit誤り訂正できます。また、2bit誤り011になった場合、多数決を取ると111になってしまい、訂正はできませんが2bit誤りを検出することはできます。従って3bit多数決は1bit訂正、2bit検出です。実際にはなるべく少ない付加bitで多くの誤りを検出又は訂正できるような符号が用いられています。有名なのはハミング符号、CRC、ゴーレイ符号、BCH符号、畳み込み符号、ビタビ複号、リードソロモン符号です。最近はブロック符号と畳み込み符号の組み合わせや高速演算が可能となったため軟判定が一般的なようです。 ⑪ 同軸ケーブルと導波管 高周波伝送路として一般的なのは同軸ケーブルですが、周波数が高くなると線径を細くする必要があり加工精度が必要なため、概ね18GHz以下で使用されます。18GHzを超えるとコネクタやケーブルは精密加工が必要になります。インピーダンスは携帯電話や通信機器では50Ωが一般的ですが、TVアンテナや船舶用無線機では75Ωが主流なようです。また、導波管は昔は数GHz程度で使用されていましたが、最近は26GHz程度以上で使用されることが多いようです。 ⑫ dB(デシベル/デービー) dBm(dB 1mW) 1mWを基準とする電力 dBW(dB 1W) 1Wを基準とする電力 dBμ(dB 1μV) 1μVを基準とする電圧(emf注意) dBd(dB dipole-antenna) アンテナ相対利得 dBi(dB isotropic-antenna)アンテナ絶対利得 dBμV/m(dB 1μV/m)1μV/mを基準とする電界強度 dBμA/m(dB 1μA/m)1μA/mを基準とする磁界強度 dBc(dB carrier) 搬送波電力に対するスプリアス発射等の比 dB/m(dB/meter) アンテナ係数 dBsm(dB squared meter)1m2を基準とするRCS dBsd(dB spectrum density)衛星通信帯域外マスクITU-R dBm0(基準点からのdBm)ITU-T Gシリーズ dBm0p(dBm0)ソフォメータ入れた雑音レベルITU-T dB 音響関係でも多様な規定があるようです。 ⑬ UWB(超広帯域無線システム) FCCでは、3.1GHzから10.6GHzの帯域において以下の条件を満足するものと決められています。国内では、3年以上も情報通信審議会で審議され平成18年8月1日に無線設備規則が改正され使用できるようになりました。 FCCでは帯域幅が500MHz以上ですが国内は450MHz以上のもの。 国内でも、平均電力EIRP:-41dBm/MHz以下、尖頭電力EIRP:0dBm/50MHzはFCCと同じですが、国内の不要発射の強度は-90dBm/MHz以下とされました。ETSIもー90dBm/MHzです。 ⑭ スプリアス発射と不要発射 RRとITU-R SM.329-10(最新版は-12)の改正に伴い、電波法関係規則が全面改正され平成17年12月1日に施行されました。従来スプリアス発射とされていたものが、「帯域外領域におけるスプリアス発射」と「スプリアス領域における不要発射」に整理されました。また帯域外領域とスプリアス領域の境界周波数は必要周波数帯幅(主に占有周波数帯幅)の±250%ですが、例外規定も多く携帯電話等では帯域外領域についても不要発射で規定され「帯域外領域における不要発射」と規定されています。また測定周波数範囲や参照帯域幅も明確にされました。 ⑮ PLLと位相雑音 無線機の局部発振器などで使用されるPLL(Phase Locked Loop)周波数シンセサイザは、従来はインテジャーN型(整数分周)が一般的でしたが、最近は制御回路部の高集積化が進んだ結果、フラクショナルN型(分数分周)が一般的になってきたようです。ちなみに、分数分周ではスプリアスを低減させるためにΔΣ変調器が用いられており、4次ΔΣ変調器とディザを用いてスプリアスを位相雑音以下にしているICもあるようです。また、位相雑音は、Leeson式という計算式があり、フリッカコーナー周波数、NF、負荷Q、発振周波数などを入力することにより、離調周波数ごとの位相雑音が求められるようです。最近はVCOを内蔵したPLLICも多く、位相雑音の計算ツールまで提供されています。 ⑯ 水晶発振器 水晶振動子や水晶発振器は、主に温度変動に対する周波数変動の程度によって、種類が分けられています。パソコンなどで用いられるものは、水晶振動子とICに内蔵の発振回路と組み合わせて使用するもので、周波数温度安定度はSPXO程度ですが、サーミスタなどの温度センサや温度補正メモリ内蔵ICと組み合わせる場合の周波数温度安定度はTCXO程度になるようです。SPXOの周波数温度特性は、±50 ~±100 ×10-6 程度。VCXOはバラクタダイオードの印加電圧を制御し、発振周波数を可変できる水晶発振器。TCXOは温度補償回路を付加し、±0.5 ~±2.5 ×10-6 程度。OCXOは、恒温槽で温度を一定に保ち、±0.1× 10-6 ~±0.5×10-9 程度のようで、ppmやppbという単位が使われます。ちなみに、水晶の発振周波数は、(ATカット水晶素板の共振周波数(MHz)=1670/水晶素板の厚み(μm))で決まっているので、厚さの加工精度が1/1000000以下ということになるようです。 ⑰ 通信容量 無線通信システムは、周波数帯域幅(占有周波数帯幅)を広くし、送信電力(空中線電力)大きくすれば伝送速度を大きくすることができ、これを明示したのが、情報理論における通信容量に関する定理として有名なシャノン・ハートレーの定理です。 ⑱ 略語などは紛らわしい 略語などは紛らわしく分野が違うと別の意味になるものが多いようです。 周波数偏移なども移動通信のシングル系ではkHz0-Pですが、衛星通信や基幹マイクロの多重系ではkHzrmsです。単に周波数偏移kHzで誤解すると1.4倍異なってしまいます。 無線関係の略語でもSAR、RCS、SS、インターリーブ、ADC、デルタ・シグマ変調、NF、デュープレクサ、ダイプレクサ、RLなどは紛らわしいようです。 英文と和文で異なる表現もあるようで、ポケットベル(NTT商標)とページャなどが有名ですが、有機ELなども悩ましいようです。 ⑲ 電波法や無線設備規則などの用語は意味不明かも 空中線電力、占有周波数帯幅、副次発射、軸外輻射電力なども意味不明ですが、「FM変調度70%」なんてAMと間違えてるんじゃないかと言われます。 また、測定器でも一般の用語とは異なり、スペクトル分析器はプリズムのような光スペクトルを分析するものではなくスペアナのことで横軸が周波数、縦軸が電力で、汎用品としては9kHz~26.5GHz程度の無線周波数を測定する測定器のことです。 ちなみに、技適等で用いる主な汎用測定器は、スペアナ(電波法では「スペクトル分析器」)、パワーメータ(電波法では「電力計」ですが家庭のAC100Vの電力量ではなく、高周波電力を測定するものです)、周波数カウンタ(電波法では「周波数計」ですが、RF信号を無変調で測定する周波数カウンタの他、携帯電話や無線LANなどのCDMAやOFDMの場合はコンスタレーションでEVMと周波数偏差を測定するシグナルアナライザも周波数計に含まれます)ですが、無線機器の種類によっては、SSG(標準信号発生器)、AFSG(低周波発振器)、オシロスコープや特殊な専用測定器なども用いられ、測定系の確認にはネットアナ(ネットワークアナライザ)なども用いられるようです。 |
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