無線設備の共用条件

      より多くの人が無線機を快適に利用できるために

 無線機は、限られた周波数資源を使用し、同じ空間で利用されるため、より多くの人が干渉や妨害が無く快適に使用するために最低限のルールを決める必要があります。共用条件は無線設備をどのように使用するか(運用規則)なども重要ですが無線設備の性能条件(無線設備規則)として規定されているものの概要を以下にまとめます。

@ 周波数の偏差
無線通信は、周波数帯を無線システム毎に割り当てて運用されているので、割り当てられた周波数からずれると、他の無線システムや無線局に妨害を与えるため、無線システム毎に周波数の許容偏差が定められています。時分割多元接続(TDMA)方式や符号分割多元接続(CDMA)方式でも割り当てられた周波数帯の収容チャネル数を超えると別の周波数帯が必要となるため、周波数の許容偏差は全ての無線機で重要な要素です。携帯電話などでは基準発振器として水晶発振器などが用いられるのが一般的です。

A 占有周波数帯幅
占有周波数帯幅は、割り当てられた周波数において通信に必要最小限の周波数幅として定められており、占有周波数帯幅が広がると隣の周波数チャネルを使用している無線通信に妨害を与えます。特にアナログFM方式では帯域制限をしないと、入力音声レベルによって周波数幅が広がるため必要最小限の幅として定められ、デジタル変調方式においても変調や増幅器のひずみなどで周波数幅が広がるため占有周波数帯幅の許容値は重要な要素です。

B スプリアス発射又は不要発射の強度
無線機は、10MHz程度の中間周波数で変調し、局部発振周波数とミキシングして、割り当てられた周波数の信号を作るため、ミキシング信号及び高周波信号の相互変調ひずみや高調波ひずみなどが発生し、必要としない周波数に妨害信号(スプリアス発射又は不要発射)が発生し、これを抑圧しないと他の無線通信を妨害してしまうことになります。このため、スプリアス発射又は不要発射の強度の許容値が定められています。この許容値は通信に用いる信号の電力に比べ1000分の1程度から1億分の1程度の厳しいものまで無線機や周波数帯域ごとに詳細に定められています。

以上の@からBは、電波の質とも言われ特に重要です。

C 空中線電力の偏差
空中線電力は、必要最小限とすることとされており、必要以上の空中線電力を発射すると、遠くまで電波が伝わるため、同じ周波数を他の無線局が使用できる距離が大きくなってしまいます。また空中線電力が変動すると通信できる距離や通信品質に影響しますので、変動を一定の幅に収めるための許容偏差が定められています。

D 隣接チャネル漏洩電力
占有周波数帯幅も周波数幅が広がらないようにする規定ですが、隣接チャネル漏洩電力は特に同じ無線システム内で隣の周波数チャネルを利用する無線通信へ妨害を与えないように一定の値が定められています。特にアナログ変調方式の無線機では厳しい値となっています。

E 副次的に発する電波等の限度
 受信機の性能として最も重要なのは、受信感度やスプリアスレスポンスですが、直接他の無線通信を妨害することがないため海上通信用など一部の無線機を除いて、強制規格の試験をしなくて良いことになっています。強制規格の試験では、直接他の無線通信を妨害する恐れがある不要な電波の発射として、副次的に発する電波等の限度(副次発射)が定められています。無線機が受信状態の時には当然電波を発射する必要はありませんが、内部の回路から不要な電波が発射されることがあります。一般に無線機は送信状態よりも受信状態の時間が格段に長いため、この不要な電波が大きいと雑音として他の無線通信に妨害を与えるため一定値以下となるよう定められています。

F 送信時間制限装置
送信時間制限装置は、同じ周波数を複数の無線局で使用する場合、特定の無線局が長時間占有して他の無線局が使用できなくなることを避け、多くの無線局で使用できるよう一定時間で送信を停止する機能として、免許不要の無線機等で共用条件として定められています。

G キャリアセンス機能
キャリアセンス機能は、他の無線局が通信を行っているときに同じ周波数で電波を発射すると妨害を与えるため、電波を発射しようとする周波数で他の無線局が通信を行っていないことを電波の強さ等で検出し、他の無線局が通信を行っていない場合のみ電波を発射する機能として混信を避けるために定められています。

H 送信アンテナの特性
送信アンテナの利得が必要以上に大きいと、空中線電力が同じでも遠くまで強い電波が伝搬するため、無線機毎に上限が定められています。また、衛星通信などでは同じ衛星の中継器などを異なる偏波で同時に使用する場合があるため、交差偏波識別度が定められており、複数の衛星で同じ周波数を使用する場合、隣接衛星との干渉について指向性や追尾性能が軸外輻射電力等として定められています。

I 比吸収率(SAR)
 無線性能以外では、無線機から発射される電波の人体への影響として比吸収率(SAR:Specific Absorption Rate)が定められています。人体側頭部で利用される携帯電話や、人体に近接して利用される無線機においてそれぞれ許容値が定められています。

J その他
 無線機の無線性能の試験項目として主要な項目は、他への妨害や共用条件として重要な@からHの項目ですが、その他の項目として時分割で共用する携帯電話などでは、搬送波を送信していないときの漏洩電力、発着呼動作、最低限の空中線電力で通信を行うための空中線電力制御、基地局間のハンドオーバー等も定められています。


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