ダイバーシティ(diversity)

 ダイバーシティは同一情報を含む複数の受信信号などの合成(等利得合成や最大比合成など)又は選択を行うことにより通信品質を改善する方法として用いられており、2つ以上のアンテナを用いるものや、1つのアンテナで送受信機の信号処理を用いるものなど多様な方法があります。なお、文献によってはダイバーシチと記載されているものもあります。

@ 空間ダイバーシティ(スペースダイバーシティ)
 空間的に数波長以上離れた無相関となる2以上のアンテナを用いて受信した信号を合成又は、選択して用いる方法。一般的に移動局受信と基地局では無相関とみなせるアンテナ間隔は異なる。

A 偏波ダイバーシティ
 偏波面が直交(水平偏波と垂直偏波又は右旋円偏波と左旋円偏波)する2つのアンテナを用いて受信した信号を合成又は、選択して用いる方法。

B 周波数ダイバーシティ
 異なる2以上の周波数を用いて受信した信号を合成又は選択して用いる方法で、選択性フェージング対策として、有効な方法。1本のアンテナで複数受信機の復調信号を合成するのが一般的。

C 時間ダイバーシティ(タイムダイバーシティ)
 (a)時間をずらして送信された信号を合成する方法で、2倍以上の時間が必要となるがバースト誤り対策として有効で、1本のアンテナで送受信機の信号処理による。以前ポケベル(ページャー)で採用されたFLEX-TD方式はM社提案のFLEX方式とD社提案のタイムダイバーシティとして2回送信する方法でした。
 (b)受信側で誤りを検出した場合に、送信側に再送要求を行うARQ(Automatic repeat request)やW-CDMAのHSDPAで導入されたHARQ(Hybrid ARQ)も時間ダイバーシティの一種として整理されています。 

D 角度ダイバーシティ
 指向性の異なる2以上のアンテナを用いて受信した信号を合成又は選択して用いる方法。

E パスダイバーシティ
 RAKE受信機を用いた方法として、伝搬路で発生したマルチパスを分離した後に合成する方法で、第3世代携帯無線通信のW-CDMAなど直接拡散方式のスペクトル拡散(DS-SS)で用いることができます。
 RAKE受信機では、逆拡散を行う複数の相関器(フィンガー)の出力において、データの位相を揃えて熊手のように合成する方法。ただし、屋内のように遅延分散が小さい場合は分離が困難なため効果がありません。

F サイトダイバーシティ
 準ミリ波帯、ミリ波帯を用いる衛星通信で降雨減衰対策として、20km程度離れた降雨の相関が低い2つの地球局で受信した信号を合成又は選択して用いる方法。

G ルートダイバーシティ
 移動局(端末)から送信された信号を、複数の基地局で受信し、信号を合成又は選択して用いる方法。

H 送信ダイバーシティ
 (a)フィードバックTDD方式
 基地局の複数アンテナの受信電界強度情報等により、アンテナ毎に重み付けをした送信電力で送信する方法。TDD方式の送受信周波数が同じこと及び、受信から送信までの時間にフェージングやマルチパス伝搬路が同じことが前提となるため高速移動時には用いることができない。PHSでは送受間隔が5msのため、低速移動時には有効である。なお、角度ダイバーシティの一種として整理されることもあります。
 (b)フィードバックFDD方式
 基地局の複数アンテナの受信電界強度情報等を移動局(端末)で測定した結果を、上りデータにより基地局へ送信し、アンテナ毎に重み付けをした送信電力で送信する方法。
 (c)オープンループSTTD(Space Time block coding based Transmit Diversity)方式
 CDMA方式の基地局で適用される2シンボルの複素共役を別のアンテナから送信し受信アンテナ1本で2ブランチの最大比合成と同じ効果が得られる方法。
 (d)オープンループTSTD(Time Switched Transmit Diversity)方式
 CDMA方式の基地局で適用される送信アンテナを周期的に切り替える方法。
 (e)オープンループCDTD(Cyclic Delay Transmit Diversity)方式
 CDMA方式の基地局で適用できる方法で、送信側でマルチパスと同様な遅延を与え、受信側のパスダイバーシティを用いる方法。

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