無線機の測定に用いるアンテナ

1.無線機器の測定において、不要発射(スプリアス領域の不要発射)や副次発射(副次的に発する電波等の限度)では、広い周波数範囲について測定することが求められており、技術基準がEIRP(等価等方輻射電力)で許容値が規定されている場合は放射測定が可能です。この場合、許容値に対して概ね10dB以上余裕がある場合の簡易測定法として広帯域アンテナを用いて電界強度を測定しEIRPを計算で求める方法及び、許容値に対して余裕がない場合は置換測定による詳細測定によりEIRPを求める方法とされています。これらの測定に用いる代表的なアンテナを紹介します。

測定周波数           簡易測定用広帯域アンテナ
1MHz 〜 30MHz程度   ループ型アンテナ
30MHz〜200MHz程度   バイコニカル型アンテナ
200MHz〜 1GHz程度   ログペリオデック型アンテナ
1GHz以上        ダブルリッジドガイドホーン型アンテナ

測定周波数           置換測定用アンテナ
1MHz 〜 30MHz程度   ループ型アンテナ
30MHz〜200MHz程度   半波長ダイポール型アンテナ
200MHz〜 1GHz程度   半波長ダイポール型アンテナ
1GHz以上           標準ゲインホーン型アンテナ

各アンテナ使用時の注意:

@ループ型アンテナ(1MHz〜30MHz程度)
測定周波数が30MHzでは、半波長ダイポール型アンテナの寸法はλ/2の5mとなり、3m離れた距離での測定は困難になります。したがってこれ以下の周波数では、ループ型アンテナを用いるしかありませんがアンテナ係数が大きくなり感度が低くなるため電界強度の値が低い測定は制限されます。また、実際にループアンテナは磁界強度を測定していますので、空間インピーダンスを用いて電界強度に換算する必要がありますが10λ(30MHzの場合は100m)以上離れないと自由空間インピーダンス(120πΩ)とのずれがあります。なお、最低でもλ/2π以上離さないと静電界の影響で放射界の値が測定できませんし、空間インピーダンスが自由空間とは大きく異なりますので、15MHz以下の周波数の測定では、測定値に対し個々に検証が必要になります。また、プリアンプ内蔵のアンテナを用いる場合は、最大放射レベルを測定する場合はあまり問題になりませんが、スプリアス発射や不要発射の測定においては、搬送波によるプリアンプの内部ひずみの余裕を確認しておく必要があります。

Aバイコニカル型アンテナ(30MHz〜300MHz程度)
バイコとも呼称され広帯域の測定が可能ですが、アンテナ利得の周波数特性が10dB〜15dBばらつきがある他、VSWRも細かく変動しますので、アンテナ端に3dB程度のアッテネータを挿入することが一般的なようです。

Bログペリオデック型アンテナ(200MHz〜1GHz程度)
ログペリ又は対数周期ダイポールアレイとも呼称され広帯域の測定が可能ですが、その構造からわかるようにそれぞれの周波数ごとに共振する複数のアンテナエレメントを用いていることから周波数によって励振エレメントが異なるため、利得が細かく変動する他、距離も変動するため、校正や測定に用いるアンテナの中心点を規定しておく必要があります。

Cダブルリッジガイドホーン型アンテナ(1GHz〜18GHz程度)
ダブルリッジとも呼称され広帯域測定が可能ですが周波数によって指向性やVSWRが変動するほか中心方向の利得が低下するなどの特性があるため、それぞれの周波数ごとの特性を十分に把握しておく必要があります。また、波長に比べ開口径の大きなアンテナの遠方界条件は、アンテナ中心と端から発射された電波の位相差がλ/16(π/8)となる距離(遠方界条件)が用いられ、2D2/λ(D:アンテナの開口径)より大きな距離をとることが必要になります。

Dバイログ型アンテナ(30MHz〜3GHz程度)
バイコニカル型とログペリオデック型を組み合わせた型で、広帯域の測定を可能としているのでEMC測定では用いられますが、アンテナ利得が15dB〜25dB以上も変動するため、無線機の測定で用いられることはありません。

E無線機が直線偏波の場合は、測定用アンテナの偏波面を合わせて測定しますが、無線機が円偏波の場合は、楕円偏波の可能性もあるためEIRPなどの測定用アンテナとして円偏波のアンテナは用いず、直線偏波のアンテナを直交させてV面とH面で測定し、V面とH面での測定値の和を用いて測定値とします。
ただし、円偏波の交差偏波識別度を測定する場合には、円偏波のアンテナを用いることになります。

F放射測定の測定距離
 周波数が低い場合は、アンテナ寸法や、静電界(距離の3乗に反比例して減衰)、誘導界(距離の2乗に反比例して減衰)の影響が大きいため、λ/2π以上の距離を離す必要があります。自由空間インピーダンスとして120πΩを安心して使うためには、10λ以上の距離があれば良いかも。
 周波数が高い場合に、波長に比べアンテナ開口径が大きい場合には、アンテナ各部から放射された電波の位相差がλ/16(2π/16)以下となる距離(遠方界条件)として2D2/λ以上の距離が必要とされています。特に指向性を測定する場合には距離が近いとダイナミックレンジが不足し正しい測定ができないようです。
なお、2D2/λは対向アンテナを点波源とした場合ですので、対向するアンテナの寸法が無視できない場合は、2(D1+D22/λ以上の距離を離さなければなりません。ちなみに、D1:供試器アンテナ開口径、D2:測定アンテナ開口径です。


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