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あーとだいありー 2004年5月後半

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 5月31日(月)

 きのうのつづき。

 奥野侯子・後藤和司・高橋博昭・高橋佳乃子4人展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階 地図A
 この顔ぶれによる4人展は、たしか4回目。
 後藤さんが新道展の、ほかの3人が道展の会員です。後藤さんと高橋博昭さんが欧州旅行で一緒だった縁で、仲良くなった4人組なんだそうです。
 絵画ということを考えるにあたって、なかなかにおもしろい取り組みをした絵が多いと思います。
 下のフロアは、岩見沢の高橋さん。
 博昭さんは「生存 ’04」のシリーズ。
 塗り壁のような地の上に、布などによる矩形などのかたちをした派手なコラージュ部分が貼り付けられています。
 赤い布のなかには、ジッパーがとりつけられている作品もあります。筆者のこのみでいえば、このジッパーをもっと目立たせれば、ローリングストーンズのアルバムジャケットみたいでカッコよかったのにと思いました。
 佳乃子さんは、「window 04」シリーズを計8点出品。昨年の「ギャラリーどらーる」の個展の際と同様、画面の大半を薄いピンク一色で覆った絵ばかりです。上の色から下の色が透けて見える油絵の特性を生かした作品だと思います。
 上のフロアでは、苫小牧の奥野さんと、札幌の後藤さん。
 奥野さんはこの4人で唯一、具象的なモティーフのある作品を描いています。
 「ウィリアム・モリスが好きで、装飾的なものを画面にとりいれてみたらどうなるか興味があった」
という奥野さん。繰り返し画面に描かれている女性のワンピースも、装飾的な文様をしています。女性がリアルに描かれているぶんだけ、衣服の文様がまったいらなのが気になります。マンガのスクリーントーンじゃないんだから、などと考えます。
 後藤さんは、ツイード地の織物のような、繊細な筆致の細い線のくりかえしが特徴です。
 1日まで。


 朝日章個展アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル6階 地図
 3室あるうち2室に「A partment」の連作がならびます。
 高層住宅の非常階段部分のモノクロ写真を、シルクスクリーンかなにかにしてうすい石膏板に刷り、支持体に載せたもののようです。
 いちばん高い作品で、23階まであります。といっても1階部分があるわけでなし、屋上もなし。
 どうやら、2つの階の画像をひたすら反復しているようです。
 したがって、上下に無限につづく建物の一部分のように見えます。シンプルな美しさがあります。各階の右にある窓が、まるでフィルムのパーフォレイションみたいです。
 もっともそのうつくしさは、都市の人間の孤独と背中合わせなのですが。
 6月1日まで。

 以下、陶芸展をいくつか。

 第22回 陶の会作品展=同(5階)
 遊辰窯(石原辰夫さん)、ひょうたん窯(大原弘通さん)、北の沢窯(宮部則子さん)、向窯(向キヨさん)による4人展。
 たしか、藻岩窯の谷内丞さんが師匠だったと思います。
 宮部さんは素朴な練上、大原さんは師匠譲りのトルコ釉、向さんは釉薬の飛沫を生かしたデザイン、石原さんは重厚な灰釉など、それぞれ特徴があります。
 1日まで。


 工藤和彦うつわ展=青玄洞(中央区南2西24 地図D
 工藤和彦展の会場風景1970年生まれの若手陶芸家(旭川在住)。
 昨年は、カリスマ主婦栗原はるみさんが選ぶ「栗原はるみ大賞」にみごと選ばれたほか、ほとんど毎月のように展覧会に出品、大忙しだったようですが、ことしもすでにこれが4回目の展覧会で、精力的な活動ぶりはとまりません。
 織部などもありますが、いちばん多いのが黄瀬戸。貫入のような模様のはいったうつわは、独特のやわらかさを感じさせます。
 工藤さんは
「やっぱり存在感のあるものをつくりたいですね」
と話しておられました。
 1日まで。

□工藤さんのサイト
■江別市セラミックアートセンターの企画展「素−そのやわらかなもの」(03年)


 5月30日(日)

 きのうの続き。

 瑶水のことだま展〜書と印のたのしみ〜MADRE(中央区北1東4 サッポロファクトリー一条館3階 ほくでん料理情報館) 地図G
 「田中一村展」の紹介でちょっと書いたけれども、日本画と同様に書も、とくに戦後、「展覧会芸術」化してきたと思う。とくに、かななどは、そのことによって藝術の質自体がかわってきた部分もあるんじゃないかという気がします。
 で、そうそう一般家庭で、巨大な展覧会用の作品なんかかざっていられないから、わたしたちの日常の暮らしの場にもう一度書をとりもどそうという動きが出てくるのも必然的じゃないかな。
 ただし、暮らしががらっと洋風化してきたいま、むかしと同じようなスタイルにもどるのは意味がない。堂々と漢詩が書かれた扁額や掛け軸じゃ、洋間にはあいません。現代の家には、それにふさわしいスタイルの書があるはずで、この展覧会はその点、よく考えてあると思いました。額や紙なども、かるくてフラットでニュートラルなデザインになっていると思います。
 もうひとついいのは、「夢」「月」など、作者がすきな文字やことばをえらんで書いているということ。見た人が元気づけられることばもあるんじゃないかと思います。会場の最後にあったのは「mercy」。現代ふうです。
 31日まで。


 5月29日(土)

 きょうも大量です。

 一線美術会第22回北海道支部展札幌市民ギャラリー(中央区南2東6 地図G
 客観的な根拠はなにもないのだけれど、昨年よりうまくなっている人が多いような気がして、うれしいです。絵の具のもたついた絵が減っているという感じでしょうか。
 ただし、100号クラスの大作と、10−50号を同時に出している人が多いのですが、小品のほうが精彩を放っている人がけっこういます。
 石山宗晏さん(旭川)「春の港」(100F)。灰色の組み合わせで、あえて彩度を落として、しずんだ色合いにしているのが特徴。舟よりも、漁協の建物のようなもののほうが大きく描かれているのもユニーク。
 河瀬陽子さん(芦別。道展会友)「マリオネットT」(100F)は、昨年の道展出品作。逆光を生かしたドラマティックな構図。「マリオネットU」(50F)では、コバルトブルー系の服を着ていすに腰掛けている女性が中心で、あやつり人形は背景の絵の中などにしりぞき、今後の作者の画題変更を予感させます。
 神林仁さん(旭川)「響き」(100P)は、初秋の林を安定した筆致で描いています。「馬鈴薯の花咲く頃(B)」(25M)はシンプルな構図。
 木村好さん(苫小牧)「北国の漁場」(40F)は水彩。点描に似たユニークな描法。
 鈴木利枝子さん(札幌)「北の大地1」(120F)は、地面の上に並ぶ大根をリアルに描いています。おいしそう。
 竹津昇さん(同)「A WALL」(80F)は、水彩。画面の大半を、摩滅しかかったれんがの壁が覆っています。壁の前には黄色い自転車が置かれています。左が開いていて、遠くの橋の上に人が小さく配され、奥へと視線を導きます。こういう構図のほうが、ずっと奥まで視線が開けている絵よりも、むしろ広がりや奥行きを感じさせるのがおもしろいと思います。
 田島繁一さん(旭川)「初雪十勝岳」(20F)は、頂上の噴煙が効果的。
 富田忠征さん(同)「北辺の集落(むら)」(100F)。木造家屋が軒を連ね、その間を、リヤカーを引いて女性が通り過ぎます。奥には海が広がって見えます。ともすれば重くなりがちな題材ですが、水色や緑を多用しているので、むしろ明るい感じです。ひと昔前までどこにでも見られた風景ですが、いまは少なくなりました。通り一遍のリアリズムでもなければ、懐古趣味でもない、独特の味わいのある絵です。
 中村国夫さん(同)「トドワラ」(30P)。手前のウバユリらしき植物と、画面全体で影の部分につかわれている紫がかった茶色が効果を出しています。
 信岡成子さん(登別。道展会員)「刻(とき)」(100P)も昨年の道展出品作。横向きの裸婦と、アンモナイトを組み合わせ、青系でまとめた幻想的な作品。
 湯浅工さん(札幌)「廃船の詩 04−1」(100F)は、黒をバックに浮かび上がる廃船を、リアルに描出しています。錆の質感など、ドラマチックに描いています。
 ほかに、川西由峰、小崎侑子、平原智子、渡部泰子(以上札幌)、中村恵美子、村田重吉(以上旭川)の各氏が出品しています。

■03年の北海道支部展
■02年の選抜展・支部展
■01年の道支部展
□一線美術会のHP
□竹津昇さんのサイト「水彩の旅(MADRID FREE TIME)」
□湯浅工さんのサイト

 30日まで。


 谷内丞 藻岩窯展千歳鶴 酒ミュージアム(中央区南3東5) 地図G
 谷内さんは札幌のベテラン陶芸家。
 以前から、オリエンタルというか、シルクロード的な雰囲気漂う作風だと感じていましたが、今回略歴を見てなるほどと思いました。
 トルコなどで釉薬の研究をしているのです。
 緑釉のピッチャーや、コーヒー紋の皿、「ニンフの踊り」をあしらった置物「陶彫」など、どれをとっても日本というより、広大な東洋の広がりを感じます。
 三島の皿などは、渋い趣き。
 藻岩山で取れた土や、植物からつくった釉薬を使っているそうです。
 八雲・遊楽部(ゆうらっぷ)川で釣ったヤマベを描いた「秋空のもと」など、水彩画もなかなかのものです。
 31日まで。


 岩絵の具の優雅な世界 高幤佳代日本画展三越札幌店 9階三越ギャラリー(中央区南1西3 地図
 高幣さんは札幌在住の院展院友。
 道内ではあまり多くない、道展に属さない日本画家です。
 丹念かつ優美に、花や風景などを描いた約30点を出品しました。
 いずれも、ひとつひとつ非常にていねいに描かれているという印象を持ちました。
 また、地がかなり厚く塗られていることも、絵の堅牢感を高めているようです。
 春先の川べりを描いた作品は、川面の部分に銀色をちりばめ、豪奢なムードを高めています。
 フキノトウなどの花の絵は、背景の色に微妙なにじみ・ぼかしを取り入れ、青やばら色がうつろっていくところは見ていて飽きません。
 31日まで。

 三越では、「藤田嗣治とエコール・ド・パリ版画展」も開催中。版画ですが、高いです。シャガール、ローランサン、ユトリロなどもあります。


 原田富弥 淡彩スケッチ小品展=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1 地図A
 大洋会の道支部長を務めるほか、各種グループ展など精力的に出品をつづける原田さんの淡彩展。
 ペンで描かれた「小樽運河」、筆ペンのような墨のタッチが味わいある「ヤマメとエゾノリュウキンカ」、木炭かコンテによると思われる「遊楽部岳を望む(今金町)」など、用いている画剤は多彩。サインのかわりに押されている落款(?)もいろいろなものがあり、見ていて楽しいです。
 あかるいピンクが画面にあふれる「桃の花咲く頃(藤野)」は、市内南区の風景ということですが、札幌にまだこんな桃源郷のようなところがあるんですねえ。(しみじみ)
 30日まで。

 ■悠々会展(04年2月)
 ■原田・綿谷・日下 第14回3人展(03年11月)
 ■03年3月の個展(画像あり)
 ■第13回3人展(02年11月)
 ■札幌簡易保険美術クラブ展(02年2月)
 ■第19回大洋会道支部展(02年1月)
 ■美瑛・富良野の三人展(01年11月)
 ■第18回大洋会道支部展(01年1月 画像あり)



 5月27日(木)

 フリースペースPRAHA(中央区南15西17)の大橋くんからメールがきてまして、PRAHA Projectが、6月18日−27日、名古屋、大阪で、シンポジウムなどに参加するんだそうです。
 以下、勝手に引用します。

共同企画:N-mark(中部) Osaka-Arts-Aporia(関西)
■2004.6.18-----------------------------------
in 中部
「アートプロジェクトとNPOの活動と運営
     〜神戸 CAP HOUSE projectと札幌 PRAHA Projectの場合〜」
パネラー:杉山知子 大橋拓
日  時:2004.6.18 14:35-16:35
会  場:名古屋芸術大学 ギャラリーBE&be

■2004.6.19-20--------------------------------
in 中部
『PRAHA Project 名古屋 辿る』
野上裕之『DON'T TOUCH ME.』
阿部安伸『燃ゆる儚さ足跡残し』
久野志乃『家族旅行への招待』
 札幌から名古屋へ・・・・・。沿っているのか、外れているのか、そもそも道なんてあったのだろうか目には見えない何かを辿って、PRAHA Project、名古屋へ行く。
会  期:2004.6.19 20:00-、 2004.6.20 12:00-18:00
会  場:カノーヴァン(名古屋市中区新栄2-2-19新栄グリーンハイツ1F   Tel:052-262-3628)
参  加:無料
企  画:PRAHA Project  N-mark
特別協賛:アサヒビール株式会社
協  力:カノーヴァン

■2004.6.27----------------------------------
in 関西
『きはったで!−カフェライン/PRAHA Project 大阪 辿る』
アーティスト:武田浩志 野上裕之 久野志乃
内容:全国のオルタナティブアートスペースをつなぐ、
カフェラインが、札幌のアーティストを誘って関西発登場!
日  時:2004.6.27 19:00-20:00
会  場:築港赤レンガ倉庫211交流スペース(大阪市港区海岸通2-6-1 築港赤レンガ倉庫内)
参  加:無料
企  画:PRAHA Project N-mark Osaka-Arts-Aporia
主  催:NPO法人大阪アーツアポリア

同日は、NPO法人大阪アーツアポリア企画「サウンドアートラボ2004[1]KOJI ASANO」(スタジオ公開:15:00-19:00、レクチャー :20:00-(参加費500円)を開催しております。


 それでは、きのうのつづき。

 鈴木 謙彰 個展#4「P.U.」SOSO CAFE (ソーソーカフェ)(中央区南1西13、三誠ビル 地図C
 鈴木謙彰さんの小冊子「memories vol.1」デジタル出力し、一部コンピュータで画像処理をほどこした写真およそ130枚からなる大作「欠損記憶群像」が、カフェの壁一面を覆い、圧巻です。
 ほかに、ポスターが数枚。写真に活字を組み入れたシンプルな作品。とりわけ「daily necesarry」と題した作品は、「Will you talk to me?」という文字と、月世界のような荒れはてたでこぼこの地面(どうやら、雪捨て場らしいのですが)のみからなり、「荒涼とした美」とでもいうべき一作です。
 たしかに、あえて分類すればいま流行の「廃墟系」ということになるのかもしれません。
 炭鉱施設の跡や、乱雑ななにかの解体現場。人気のない建物…。人間が写った写真は1枚もありません。
 ただ、一般的な「廃墟系」と異なるのは、撮影地が表記されているものはひとつもなく、廃墟の紹介が目的ではないこと。そして、線路脇の風景など、廃墟とは無関係な被写体もかなりあること。
 となると、そこにたちあらわれてくるのは、廃墟というよりむしろ、人間が衰退したか滅亡した後の、近未来の風景のような感触です。作者がそういっているのではなく、筆者がそういう印象をもったということで、人によってはたぶんいろんな感じをもつと思います。
 もうひとつ独特なのは、会場で販売していた冊子「memories. #00.1」(1500円)を見るとわかりますが、文章とのくみあわせです。
 カフカの小説、あるいはSFの一部分とも、詩ともとれるような、ふしぎな短文が、たくみなレイアウトによって配置されています。
 たとえば「sophisticated love passion.」という文章。
錆びた鉄の匂い。
口の中には、血の味がする。遠くから聞こえるのは、鉄の軋む音。
昨夜からの強風で、街全体がぎいぎいと鳴っている。
子供たちは、その音を怖がって、いつもの様に外で遊ぼうとはしない。
雨はもう、しばらく振っていない。
酸化した鉄の粒子が風に混ざって、空気が赤く染まって見える。
大人達が、また、雨乞い師を呼ぶ話をしていた。もう、水は底をついてしまったらしい。
でも、最近では、本当に雨を呼ぶ事が出来る雨乞い師は、すっかり少なくなってしまった…。
耳を澄ませてみる。聞きとれるぎりぎりの低音が、街全体を覆っている。
少しだけ咳き込む。
 これはやや小説ふうの文章ですが、もっとモノローグに近いものも多く、それが廃墟系のCG処理された文章と組み合わされた感覚は、都市に生きる若者の孤独な感情をサンプリングしたみたいな、特異なものがあると思います。すくなくても筆者は、味わったことのない感覚です。
 ざんねんながら、無料配布しているほうの冊子は、身辺雑記みたいのが多くて、作者の人となりはわかるのですが、「memories. 」のようなゾクゾクした感じはありません。
 31日まで。

 ■03年10月の個展


 あとは、駆け足でいきます。

 漆山豊展=ギャラリーたぴお(中央区北2西2、道特会館 地図A
 水彩の抽象画。
 フリーハンドによる矩形をたくさん描いて青系で塗り分けたものなど、パウル・クレー的です。
 12部限定の版画集も販売していました。
 29日まで。

 以下は、30日までです。

 林茂竜 個展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階 地図)
 水墨画、墨彩画の北海道南画会(北南会)の主宰者。
 出品作も、これまで北南会で発表したものが多いようです。
 墨一色で描いた霧にけぶる森など、墨のにじみを生かした水墨画もありますが、緑あふれる森の風景、赤がまぶしい夕焼けなどカラフルな作品が意外と多いです。
 また、革をたくみにつかった皮革造画もあります。得意の、背中から見た裸婦は、肌が盛り上がって、なかなかの迫力です。
 札幌在住。

■04年の北南会
■02年8月の個展


 凛の人形達展−野呂理枝子・高岡雪枝−=同
 粘土による人形。肌は油彩などで着彩し、染めた絹の髪を埋め込み、衣裳をひとつひとつ手作りし…と、手が掛かっています。
 大きさも、道展などの出品作の倍くらいあるものもあります。関節人形もあり、なかなか多彩です。
 衣裳は、洋装や、ファンタジー小説の登場人物を思わせるものが中心ですが、金属のメッシュでできているものも多く、前と後ろだけ隠して横はすけすけというものもあって、男性の目から見るとかなりエロティックです。


 DEN デッサン展札幌市資料館(中央区大通西13 地図C)
 長谷川傳さん(札幌)の個展。「デッサン」とありますが、17点のうち2、3点以外は黒一色の単色による絵だということで、いわゆる素描ではありません。
 墨のにじみのなかに人物の顔などがデフォルメして描かれたものが多く、油彩ではめだつ自在な線がかくれたかっこうになっています。

 「KOPSC」油絵展=同
 金沢節子、五十嵐祐子、磯谷洋子、能川満子、畠山節子、細田栄子、三木慶子、宮腰タケ子の女性8氏によるグループ展。この手の展覧会としては、個性の感じられる意欲的な絵がならんでいます。
 能川さんの「冬のロケーション」は、雪景色と山、木々が力強く描かれ、磯谷さんの「然別湖」は紫の山容が迫力を感じさせます。三木さんの「冬支度」は、大根の列、冬囲いした庭木の列、その下の赤の塊という、色のならびかたがおもしろい作品。五十嵐さんの「アーチ橋」は、冬枯れのようすが情感をこめて描かれています。

 グループ朋展=同
 油彩と水彩のグループ展。
 埴原悦子さん「街角」は、抽象的な背景を前に孤独そうにたたずむ人物を描いています。


 第2回野ばら展ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル 地図A
 札幌の後藤俊子さんと出口靖子さんによる15年ぶりの絵画展。
 出口さんはライラックなどの花の絵、後藤さんは装飾性を強調した室内画などです。


 感性のアート展=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階 地図)
 名寄の知的障害者施設「名寄丘の上学園」の園生による、札幌では初の絵画展。
 見ていると、それぞれの出品者に個性があることがわかります。色をまぜるのが好きな人、げんきにストロークを走らせる人、書道みたいに文字を書く人、人の顔を正面から描く人、あるいは人の顔をたくさん描く人などなど…。
 陶芸家の岩寺かおりさんと恵波ひでおさんが協賛出品しています。


 5月26日(水)

 竹岡羊子展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A
 竹岡羊子さん「花火となって逝った夏」3年前の個展のときもおなじようなことを書いた気がするけれど、竹岡さんの絵は、それはもう、にぎやかで楽しくて、そして切ない。
 もう何年も前から、ニースやヴェネチアのカーニヴァルを題材に絵を描いていて、底抜けの楽しさも、さびしさも、この数年、強まってきているように思えます。
 「花火となって逝った夏」は150号の大作です。
 この絵には、ほとんど中身のおなじ50号バージョンがあって、米ラスヴェガスでおこなわれたアートコンペティションで大きな賞を得ています。
 色彩のまばゆさ、明るさは、とうてい写真などではつたえきれるほどではありません。
 花火をあらわした部分は、極彩色のばら色や黄色、黄緑、深緑などの斑点が、踊るように乱れ飛び、ちらばっています。
 花火の像を描写したというよりも、はなやかな印象を定着させたといったほうがふさわしいような感じです。
 そして、前景には、花火を見上げるたくさんの人々の後ろ姿。左下には、横向きの顔も描かれていますが、全体的に後ろ向きの人が多く、見る人が、絵に思いをこめやすくなっています。
 筆者も思いをこめて勝手なことを書くのですが、この春、3年ぶりの欧州の旅で、前回の旅のときにはご一緒だったという夫の竹岡和田男さん(映画・美術評論家)のことを思い出したのではないでしょうか。
 作者は、札幌・豊平川にほど近い高層住宅の11階に住んでいて、夏は、河畔で打ち上げられる花火がよく見えます。窓を開けて(高いので虫は入ってこない)、室内のあかりを消せば、花火見物の特等席です。毎夏3度ひらかれる花火大会の思い出も織り込まれているように、筆者には感じました。
 でも、そんな背景を知らなくても、この絵はじゅうぶんににぎやかで楽しくて、切ない。
 火薬のにおい。大きな音。雑沓。ゆかたの女の子。ちょっとつめたい夜風…。人それぞれの花火の思い出が、この絵からは感じ取ることができそうです。
 さて、花火と並んで「パッと咲いてパッと散る」ものの代表といえば、桜です。
 ことしの「えすかりゑ展」でも出品されていた200号の大作「満開の桜の花の木の下で」。
 画面上半分を覆う桜色がまぶしいくらい。木の下では、3人が花見に興じています。遠くを、自転車で駆け抜ける人がひとり。
 それにしても、花火とか桜とか、この画家はすごく人生を刹那的にとらえているんじゃないかと思う人がいたら、それはちがうと言いたい。「夜と霧」で著名な精神科医フランクルの著書に「それでも人生にイエスと言う」というのがあったけど、そういう、どこまでも人生を肯定的にとらえかえしていく精神の強さが、カラフルな画面のいちばん底を支えているんじゃないでしょうか。
 独立美術会員、女流画家協会会員、全道展会員。
 他の出品作は次のとおり。
「微風・サンマルコ」(150号)「打ち上げ花火」(100号)「宴」(同)
油彩の小品…「CARNAVAL de NICE 花のパレード」「アルベール1世公園の午後」「Lucienからのたより」「祭りの女」「poissonnerie ニースの魚市」「白い花」
パステル「carnavale venezia」(同題3点)「Masque」(同題2点)「ゴンドラの頌歌」「FLORIEN」「アドリア海の落日」「ギリシアの踊り」「アンスリューム」
デッサン「祭りの女」
エッチング「裏どおり」
リトグラフ「装う女」
その他「祈り鶴」

 ■01年の個展(画像あり)


 2・X次元スケッチ展=同
 立体化・動画化されたイラストの映像をパソコンで見られる北大大学院の青木由直教授といえば、パソコンがまだ「マイコン」とよばれていた時代から札幌のIT産業の中心人物として活躍中ですが、こんな特技もあったとは!
 毎年年賀状に描いたイラストを展示しているのです。
 それもすべて海外の風景のスケッチ。ジブラルタル、チベットの「天池」、米国など、さまざまです。「学会のついでというのが多いんです」ということですが、うらやましい。
 もっとおもしろいのは、このスケッチをパソコンに取り込み、まるで「飛び出す絵本」のように半・立体化させ、動画化させたこと。
 パソコンで前後に動くイラストを見ていると、手前の銅像にかくれていた背景の建物がしだいに姿をあらわしてくるなど、まるでイラストの世界のなかに入りこんで、そこをあるいているかのような、ふしぎな体験ができます。
 もちろん、原画では描かれていない、手前の物にかくれていた建物の部分などは、今回のために青木さんが描き足したそうです。
 「写真にも使えるんですか」
 「じつは写真のほうが遠近法にのっとっているので簡単なんですよ。人間が描く絵はどうしても遠近法に狂いがあるから、調整しなくてはいけないんです」
 透視図法にそって奥へと一本道が続いているような絵はまだうまく「2・×次元」化できないとのことでした。
 いやー、それにしてもオモシロイ。


 時計台ギャラリーの、ほかの部屋についてもふれておきます。
 第52回 北彩展は、女子美大の同窓展。絵画が多いですが、松林恵子さんのガラスのオブジェや、戸坂恵美子さんのタペストリー「月明」などが目を引きました。
 畠山定男とんぼ玉展は、立体の花模様などが入ったガラス玉がたくさん! ことしは「花びらの中にさらに模様を入れた」のが特徴だそうで、その細かい芸にはおどろかされます。
 三友展は、水彩の片瀬恵子さん、油彩の国分信子さん、小林智恵子さんの3人展で、3−30号をひとり7、8点出品しています。写実的な静物などが中心です。

 いずれも29日まで。


 島田晶夫・藤沢レオ2人展=コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階 地図C
 石狩管内当別町の木工作家・島田さんと、苫小牧の金工作家藤沢さんの、若手による2人展。
 スウェーデンでまなんだ島田さんのインテリアは、ごくシンプルで、どんなオフィスやリビングにでもあいそうな洗練されたデザイン。「フロアースタンドY3」など、これほど都会的な雰囲気をかもし出すあかりはめずらしいのではないでしょうか。
 藤沢さんは、木と組み合わせた大きなテーブル「イキ」など、曲線をいかしたつくりになっています。
 風変わりなのは島田さんのフラワースタンド。表札のような板(あるいはおなじかたちの2枚の板)の中央にまるく穴をあけ、さらに上部からも丸い小さな穴を通して試験管を入れています。それを28個も板の上にならべて展示していました。21世紀の一輪挿し、といったところでしょうか。
 30日まで。


 高幹雄個展 A dream.or not #2 - 夢ではないのかGallery・Cafe marble((中央区界川2の5の6) 地図E
 札幌やハンブルクなど、精力的に発表を続けている若手画家の高さんの個展。
 連作「夢ではないのか」は、わりと方向性が見えてきたような感じがします。
 今回の出品作の多くは、キャンバスの表面に大量のニスを塗布したもの。一部は、ミロのヴィーナスなど、写真画像をインクジェット出力したものをとりこんでいます。
 どれも重たそうです。或る作品は、ニスがだらーんとキャンバスから垂れ下がっています。
 本来、物質性から解き放たれているはずの絵画の物質性をあえて強調すること。作品によってはドローイングを取り入れることで、絵画の原点のような位置に立ち返ること。両面作戦かな、とも思うのですが、高くんはあまり自作について語らないので、うーん、どういえばいいんでしょう。
 29日まで。

 中央区界川3マーブルには、地下鉄東西線円山公園駅で、ジェイ・アール北海道バス「旭山公園線」に乗り継ぎ、終点「旭山記念公園前」で下車。終点からさらに上って公園入口の横にある駐車場に入ると、十数段の石の階段があるので、それを上って、あとはひたすらまっすぐあるくと、つきあたりにあります。徒歩5分。
 右の写真は、階段を上ったあたりからマーブル方向を撮ったものです。
 ただし、このバスは1時間に1本しかありません。
 平日は、円山公園駅発11時18分、12時43分、13時28分、14時41分、15時17分、16時39分、17時22分です。
 おなじ駅から「ロープウエイ線」「山鼻環状線」に乗って「界川」で下りるという手もありますが、かなり急な坂を10分以上もあるくことになり、けっこうな運動不足解消になります。


 岡本洋典小作品展「野の花の景」=札幌フラワーギャラリー24(中央区南1西24)
 円山地区にまたあたらしいギャラリーの誕生です。
 裏参道と西25丁目通の交叉点のちょっと北側、「大通西24」バス停のすぐ前にある花屋さん「札幌フラワー」の横につくられました。
 第一弾として、雨竜沼湿原などのうつくしいネイチャーフォトで知られる岡本洋典さん(空知管内新十津川町)の花の作品21点を展示しています。
 大雪山系のチングルマの群落、くもの巣に着いた水のしずくにうつるタンポポモドキの黄色い花、雪の中でけなげに咲くフクジュソウなど、北国の短い春と夏の花をとらえた美しい写真です。
 花だけでなく、周囲の自然とからめて撮ったものが多いのが、今回の写真の特徴だと思いました。
 30日まで。


 5月25日(火)

 更新がおくれております。

 表紙のTOPICSにも書きましたが、8月に予定されていた木路毛五郎さんの遺作展は、ご遺族の都合で、延期となりました。
 「展覧会を楽しみにされていた方々には大変申し訳ありませんが、あらためて開催の折にはご連絡申し上げます」と、事務局の方は話しています。


 さて、あす26日まで会期のある展覧会。
 大谷泰久・孝子 染色展=丸井今井札幌本店 一条館8階美術工芸ギャラリー(中央区南1西2 地図
 旭川で染色工房「染あとりえ草創」を主宰する大谷泰久、孝子夫妻による二人展。
 型染めを中心に、ぼかしや手描きなどの技法を組み合わせ、タペストリー、ストールなどをつくっています。
 麻に染めたタペストリーはやわらかい色あいで、やさしい味があります。どちらかというと抽象的でシャープなデザインが泰久さん、白樺林など北国の風土を生かした作品が孝子さんです。
 「素材で遊んでみようとおもって」
と、泰久さんは、目の粗い麻のテーブルセンターを見せてくださいました。タペストリーにするには、2枚重ねるなどして、向こう側が透けないようにしているようです。

□染あとりえ草創
■03年12月の展覧会
■03年5月の展覧会


 梅沢民雄油絵展=同
 留萌管内初山別村出身で、東京在住の洋画家。
 丸井今井札幌本店では毎年個展をひらいており、今年で10回目だそうです。
 セーヌ川やベネチアなど、海外の風景を、鮮やかだけどやさしい色彩と安定した構図で描いている、穏当な写実の絵です。
 小樽などの道内風景もあります。


 横田雅博写真展「ふくろうの森」富士フォトサロン(中央区北2西4、札幌三井ビル別館 地図A)
 枝に止まっているかわいらしいフクロウの幼鳥の写真は、写真集の表紙になっているので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
 フクロウの四季を、40枚ほどのカラー写真で追っています。
 ただ、今回の写真展でおもしろいと思ったのは、これは「ふくろう」ではなく「ふくろうの森」なんですね。
 もちろん望遠レンズで鳥に迫った写真もあるのですが、かなり引いた位置から鳥を撮ったものも多く、思わず「フクロウはどこだ」とさがしてしまいます。
 また、本来ならフクロウの生活時間帯である夜の写真がないこと、春先を中心にフクロウがうつっていない森の写真があることも特徴です。
 いわば「人間の視座」からとらえたフクロウ−ということなのでしょう。ネイチャーフォトというと、しゃにむに対象に近づこうとするのが多いと思いますが、一歩はなれたところで見守る姿勢に、作者のあたたかさのようなものを感じました。


 以下は、25日かぎりで終わってしまった展覧会で、もうしわけありません。

 櫻井マチ子「妄想空間」絵画展THE PRESTIGE GALLERY(中央区北7西22、中村税理士ビル2階)
 櫻井さんの絵は、ことばで説明するのがむつかしいです。
 いちおう、新作「Very Very T」の画像をかがけておきますが、光線の具合がわるくて桜井マチ子「Very Very T」周辺部がくらくなってしまっていることもさりながら、とても作品の魅力をじゅうぶんにつたえられているとはおもえません。
 写真で見ただけでは、軽いイラストふうな見方をされるかもしれませんが、実際の絵は、よく練られた色調と、計算された構図で、しっかりと描かれた油絵で、120号の大作です。
 以前にくらべ、直線による抽象的な模様の部分が減り、曲線による動植物の描写が前面に出てくるようになりました。この新作は、2匹のトカゲのようなペアが主題です。微妙な色調の緑で繁茂する植物がまわりをとりかこみ、熱帯のジャングルのような雰囲気をかもし出しています。中央下で、よだれをたらしているカエルがおもしろいですね。
 性的な含意のあるものが描かれているわけではないのに、どこかエロティシズムを感櫻井マチ子展の会場風景じさせるのが、ふしぎです。
 ほかには、原画をスキャナーでとりこみ、モノクロで出力した作品や、旧ソ連の硬貨などをつかったコラージュのシリーズもありました。
 
 櫻井さんの絵は、7月6−11日に、さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階)でおこなわれる「『ゆらぎ』の世界」展にも出品されます。

■03年8月のデッサン展
■2001年12月の個展(画像あり)
■02年8月の2人展


 スウェーデン手工芸品展道新ぎゃらりー(中央区北1西2、札幌時計台ビル地下 地図A
 木工、染色など6作家のクラフトを紹介しています。
 たった6人で全体的な傾向を判断するのは危険なことですが、展示されている範囲では、北海道のクラフトと似たテイストを感じました。
 「札幌の日時計」というのがおもしろい。庭などにあったら、たのしそう。


 福盛田眞智子 作陶展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階 地図A
 江別に「千古窯」をひらいている福盛田さん。
 グループ展などには、ビル街を連想させるダイナミックなインスタレーションを出品することがありますが、今回は、粉引などの、うつわ展でした。
 ただ、にょきにょきと生成してくるような花器数個からなる作品「街」は、そのインスタレーションを思わせるところがありました。


 第24回でんそん展=同
 以前は、札幌時計台ギャラリーでひらいていたはずですが、昨年から会場が変わったようです。
 「でんそん」は、主宰の画家・彫刻家の田村宏さん(道展会員)の姓を音読みしたものだと思います。田村さんは、厚紙パレット10枚に、蛍光色をとりどりにぬりわけた、幾何学的抽象画というにはあまりににぎやかな作品を出品しています。
 松井茂樹さんの彫刻もユニーク。「交響楽団−早朝トレーニング」は、指揮者のようにも打楽器のようにも見えるユーモラスな形態をしています。



 5月22日(土)

 きのうのつづき。

 山内敦子展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階 地図)
 この10年余りに制作された油彩16点。
 100号クラスの大作も多いです。いずれも、少女や天使を手前に大きく描き、背景をさまざまな色やストロークなどでまとめたもの。最新作の「追憶」は、背後に緑の地平線がひろがり、白いオイルチョークのような筆致でうすく塔や鳥などが描かれています。青みを帯びた全体の色調がどことなく幻想性をただよわせています。
 ややサイズのちいさな「初夏」なども、少女の横顔に、作者の力量を感じることができました。
 道展会友。札幌在住。

 「第6回 リブレ展 壱岐伸子絵画講座作品展」「みーどぅん達ぬてぃわざ展−おきなわ・石垣島 女たちの手仕事展」も開催中。
 後者は雑貨店のような雰囲気。陶器、染色など石垣島の女性工芸家だけで13人もいるというのがすごいですね。


 第11回 高橋和彦 油絵展ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル 地図A
 釧路在住。小品35点(うち6点が淡彩、のこりは油彩))を展示しています。
 「湿原の夕景」「釧路港帰船」といった、いかにも釧路の風土を色濃く反映した絵が多いです。濁りのないアンバー系の色が乾いたタッチで定着されています。
 小樽、富良野などの風景もあります。

 □高橋和彦 絵画倉庫

 おなじ会場では、「小松平国子 高桑みち子水彩画展」「三好清子水彩画展」「中西京子水彩画展」も開催されています。
 透明感のあるあかるい色調、影の部分などにおける紫の効果的な使いかた、輪郭をあまり強調しないなど、みなさん酒井芳元絵画教室の優等生です。
 もっとも、たとえば中西さんの絵には、アタリの鉛筆の線がのこる一方で、馬などの描写が力強く、富良野の風景画にはスケール感がある−といった個性の違いはあります。


 田中緑個展=ギャラリーユリイカ(中央区南3西1、和田ビル2階 地図)
 油彩、パステルなど23点。
 パキスタンで見た光景をもとに描いた「ワタリドリ 飛ぶ」をはじめ、モティーフが背景の中にほとんどとけこんでしまって、ほとんど抽象画のよう。色の濃淡とストロークが、画面全体を覆っています。
 そのなかでは「光の中で 葉」が、色のつかいかたにメリハリがあって印象にのこりました。
 札幌在住。


 須貝敏明個展札幌市資料館(中央区大通西13 地図C)
 風景や花など油彩40点あまり。
 穏当な写実で、山登りが好きな人らしく、山小屋や高山の風景に材を得た作品がけっこうあります。


 5月21日(金)

 五島健太郎写真展 「北の炭都 羽幌炭鉱」=ニコンギャラリー(北区北7西4、新北海道ビルジング2階、ニコンサービスセンター内 地図A
 4月、おなじ会場でひらいた、三笠の奔別炭鉱の写真展につづく第2弾。
 先月も、水準の高い個展だと思いましたが、今月はさらに気持ちがはいっているような印象を受けます。
 あるいは、作者夫人の父親が羽幌の炭鉱に勤めていたらしいので、個人的な思い入れが強いのかもしれません。
 今回はすべてデジタルの25点。ほかに、額装されていない写真や、廃鉱前の記録写真(大半がモノクロ)もあり、多彩な構成です。
 羽幌は、留萌管内中部のマチ。人口は9500人ぐらいですが、このあたりでは大都会です。いまは、離島の天売・焼尻をかかえるマチといえばわかる人が多いのかもしれません。
 60年代には3つの炭鉱があったそうですが、炭鉱の歴史が短かったためか、5階建ての炭住と施設がならんだ写真などを見ると、空知あたりにくらべて“廃墟度”が低く、まだ人が住んでいそうな気さえしてきます。
 雪景色のなかの選炭工場などにしても同様です。
 それらが、非常にクリアな映像でとらえられています。
 資料写真も、宝塚の公演風景、ボンネットバスなど、興味ふかいものがならんでおり、ついこないだまで炭鉱や石炭産業が現実のものだったことを、あらためて感じました。
 28日まで。土、日曜休み。

 ■「朽ち行くもの−奔別炭鉱立坑櫓」(04年4月)
 □作者のサイト


 青山由里子=ギャラリーミヤシタ(中央区南5西20 地図D
青山由里子さんの作品。右にうつっているのは作者の腕です ボックスアートをつくっている札幌の青山さん。
 最初はジョセフ・コーネルにインスパイアされたそうですが、現在は、木とガラスをおもな素材とする、シンプルで、どこかなつかしさのただよう作風です。
 ガラスにも、木の壁面にも、木々や鳥の写真をコピーしたものを小さめに貼り付けています。
 今回の特徴は、右の写真のような、立方体形の作品が4点あること。面の1つはガラス張りで、表面に木々の模様などがコピーしてあります。
 これは、自由に手に持って、光線の入りぐあいなどをたしかめることができます。
 もう1点は、奥の壁にあたる面にあかるい色がつかわれる作品が多くなってきたこと。グワッシュによる青や黄色が、白い上塗りのの下から顔を覗かせています。
「むかしは色がすきだったけど、一時期それをぐっと抑えていたんですね。今回は、自然なかたちでまた色が出てきたんだと思います」
 筆者個人としては、見ていてなんだかほっとするというか、かすかな郷愁をおぼえる展覧会でした。ガラスを通して光が箱の中に入るようすが、遠い日の記憶をさそうのかもしれません。
 23日まで。

■03年5月の個展(画像あり)
■02年2月の個展


 あとは駆け足でいきます、ごめんなさい。

 クレヨンで描く 2004年 水谷のぼる個展=珈琲 円山社中(中央区南4西23 地図D
 水谷さんは小樽の彫刻家ですが、最近はクレヨン画の個展を喫茶店でひらくことが多いようです。
 クレヨンというと子どもの画材というイメージがありますが、水彩やパステルにくらべて表面は堅牢で、しかも重ね塗りがきく点で、なかなかあなどれないという印象を持ちました。
 今回はおよそ10点を展示。
 いちばん多いのが「青の風景」と題した連作で、青いトタン壁と茶色の屋根の小屋をモティーフにしています。
 透視図法にはのっとっていませんが、そのぶん青の壁の存在感が強調されているようです。
 そのうち1点は、よく見られる「死後さばきにあう」「ローン マルフク」などの看板までかきこまれていて、みょうなリアリティがあります。
 一方、「早春の春香山」などはリアル路線。葉のない木々の密集する斜面をじっくりと描いています。
 25日まで。珈琲450円。ポットで出てくるのでお得です。


 和 把留望・ふるさと切手を詠む・三 コラボレーション磯谷真美 小林真美=札幌中央郵便局(東区北6東1)
 北海道のふるさと切手を題材に和(わ)さんが俳句を詠み、それを見て、イラストレーターの「いそや・まみ」さんと動物挿画家の「こばやし・まさみ」さんがイラストをつけるという趣向の展覧会で10点がならんでいます。
 もっとも、上下2列のうち、上がパステル、下が水彩のようですが、どちらがどちらの絵なのかはわかりません。
十勝野や ぐるり峰雲たたせゐて
 23日まで(最終日は正午まで)。
 おなじ会場で「シチリア、南イタリア 旅の絵手紙展 のとやちえこと仲間達」も、28日までひらかれています。


 第10回 さん美術会展=コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階 地図C
 風景画家として定評のある札幌の越澤満さん(道展会員)が指導する油彩のサークル展。
 19人が4点ずつ、風景画や静物画を出品しています。
 飯田常男さん「厳冬天狗山」は力強いタッチ。久光賢治さん「茜の手稲山」は、オレンジの空と薄紫の山容がうつくしい対比を見せています。赤羽八重子さん「安曇野風景(信州)」は、川べりと林の、まとめづらい風景をうまく仕上げています。
 越澤さんも4点を賛助出品。あかるい緑の諧調による「新緑とオンネトー」、手前に中洲のある風景を描いた「真白き芦別岳」などです。
 後者の絵では、雪をかぶった山々はくっきりと描かれていますが、前景の林はすばやい筆づかいです。近づいてみると、茶色の線や黄色の斑点、深緑のかたまりだったりするわけで、こうしたものを裸木や葉、針葉樹と認識しうる人間の眼のおもしろさというものについて、筆者は、絵の前で考えていました。
 23日まで。


 小樽の画家展北海道画廊(中央区南3西1、HBC3条ビル2階 地図
 いわゆる売り絵です。道内では有名な画家の小品がずらりとならんでいます。
 意外なのは、小樽運河など「定番」の絵があまりなかったこと。
 森本三郎さん(1909−88年)「静物」、富樫正雄さん(1913−90年)「冬のサイロ」など、きっちり描かれています。現代版画の鬼才・一原有徳さんの色紙はめずらしいかも。
 ほかに、川村正男さん、大本靖さん、笠井忠郎さんなど、小樽出身者って多いんですねえ。国松登、小島真佐吉、沢田哲郎ら故人の絵もあります。
 23日まで。


 千葉尚・博子 布もの・土のもの 二人の仕事展=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階 地図
 千葉尚さんは、芦別に「一尚窯」をひらいています。
 陶芸にむかないとされる道内の土ですが、地元・芦別でとれる白い火山灰を原料としてつかっているそうです。還元焼成によるあわい緑色は、織部などの緑とことなり、さわやかさがあり、どんな食卓にもあいそうです。ジョッキ、長皿、鉢など。
 23日まで。


 「幻花」水本薫作陶展=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1 地図A
 和歌山県の南紀白浜に「南薫工房」をひらいている女性陶芸家。
 若手らしく、白を基調とした小さめのうつわが多いです。
 目を引くのが、ろうそくをうかべるためのうつわ。あかりを落とした会場にろうそくの炎がゆらめき、幻想的な雰囲気をかもしだしています。これは、若い女性には受けそうです。
 上のフロアでは「ふたりの手織り展 in 札幌 はな(山岡英恵)+ヒロミ(竹内洋美)」も開催中。
 23日まで。

 5月20日(木)

 AROUND YOUR LIFE(アラウンド・ユア・ライフ)SOSO CAFE (ソーソーカフェ)(中央区南1西13、三誠ビル 地図C
 斬新なフラワーアレンジメントやディスプレイなどをてがけてきた札幌・円山のフラワーショップ「アラウンド・ザ・コーナー」のオーナー道順大地さんによる展覧会。
 会期が長いので、もう3回も植物を入れ替えたと、お店の人に聞きました。
 ただ、植木鉢や花瓶に花をならべたのとはちがいます。もちろん、生け花とか、いわゆる美術とも異なります(草月や小原とは共通点あるけどね)。
 筆者の印象で言うと、ムーミンの童話で、ムーミン谷が或る日ジャングルに覆われてしまう話があるけれど、あれに近い。
 透明な円筒に入った植物、根とそれを覆う土ごと皿に置かれた草、天井からつるされた球体に繁茂する草、ばけつに無造作に入れられたチューリップ…。「生命の感じ」が、過剰なまでに会場にあふれています。
 ただ、札幌は緑が多い(とみんなが思っている)ため、人工的に緑の空間をこしらえる所為について、東京ほどにはみんなありがたがらないという傾向があるかもしれません。もっとも、都市公園の面積などを比較すると札幌は決して首位ではなく、緑の多いマチというのは留保が必要なのですが…。
 22日まで。


 〜Meditative Lotus〜蓮の瞑想 合田彩油彩画展‥‥‥すべての人の心に宿る蓮の花の宝石のために‥‥オリジナル画廊(中央区南2西26 地図D
 武蔵野美大中退、登別在住の画家。
 文筆のほうでは、天安門事件のさなか中国各地を逃げ回った「逃(TAO)」で講談社ノンフィクション賞を受賞しています。
 案内状に
新世紀より制作をはじめた、蓮、天空、天使を題材にした油彩画作品から新作を含めた約20点余りを展示します。争いの最中に、空を見上げて深呼吸します。空との対話に、わたしたちがみなつながっていることを想い起こし、蓮の姿に、あなたの心に宿る珠玉を感じていただけると幸いです
とあるとおり、ヒーリングアート的な色のつよい絵が多いです。
 青い室内で天使が竪琴をひいている「blue room」、虹のかかる野で天使の手から羊が果実を食べる「ゴールドオレンジを食べる羊」、花の咲きみだれる丘からふたりの天使が夕暮れの海を眺める「守護天使の到来」、さらに、蓮を大きく描いた絵や、プレーリードッグの楽隊が登場するたのしい絵もあります。
 共通するのは、天使などのモティーフは小さめにし、水平線が見えるような広いパースペクティブのなかに配したこと。色使いでは、あかるいピンクと水色がめだちます。宗教的ともいえる感情が作者の心の中に自然にやどり、それを描いたのだろうと勝手に推測しました。
 22日まで。

 □個展のサイト


 新 素材の対話展=ギャラリーたぴお(中央区北2西2、道特会館 地図A
 林教司、児島英亀、太田ひろ、西城民治の4氏による現代美術展。
 太田さんの、半球形に似たかたちにくぼんで穴のあいた金属の立体が、ギャラリーの中央にころがっています。太田さんのことですから、楽器としてつかえるものなのでしょうが…。
 そこから壁のほうに向かって、床に豆や種子のようなものが、天の川の天体写真のようにちらばってつながっています。壁には、林さんの、さびた鉄による正方形のオブジェが掛かっており、その左右にも、林さんの立体が台の上にのせられています。右側は、人間の手が手にナイフを入れて飽食の現代を諷刺する「飽食」シリーズの1点と思われます。
 22日まで。

 5月19日(水)

 徳丸滋展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A
 北海道の自然と風景を細密なタッチで、しかしただ単に現実を模写するのではなく、そのもっとも深いところで本質を汲みあげ、シンプルな画面にしあげる後志管内倶知安町の画家。
 徳丸さんの絵を見ていると、ずっと昔の遠い記憶が、そこにあるような気がして、心がしんとしずまっていくかのようです。
   
 筆者がおじゃましたときにも、お客さんがいらしていて、徳丸さんは、メディウムのつかいかたなどを懇切丁寧に説明していらっしゃいました。
 独特の「ぼかし」を表現するには、いろいろな苦労があるようです。
 今回は、澄み切った青がつかわれている絵が何点かありました。
 左の写真の「ダケカンバ」(F50)もそのひとつ。
 背景に影のごとく見えている木の枝をまず描き、その上から青い絵の具を重ねています。
 手前の木は、枝をさまざまな方向に折りまげ、きびしい自然の中でじっと耐えているかのようです。
 ほかにも「キタコブシ」「エゾアジサイ」(いずれもF10)といった、ボタニカルアート的な作品のバックも、目の覚めるような青でした。
 右の写真は変形40号の「岸辺」。
 この冬の感じは、北海道外の人にはわかるまい−と言いたくなるような、冬の一瞬をとらえていて、非常に共感します。
 とはいえ、空が、灰色ではなく、ごく薄い水色に塗られているあたりは、徳丸さんらしさだと思います。
 しんしんと寒さがつたわってくるような、でもどこかであたたかさをかかえている、そんな風景です。凡庸だけど、果てしがない。それは、この風景が、ひとつの典型を、描いているからではないかと思います。
 この絵は、じつは油彩ではなく、アクリルです。
「ぼくはお酒が飲めなくて。油絵だと、オイルで気持ちが悪くなってしまうんです。いままではアトリエがぼろかったから空気もたまらなかったけれど、コンクリート製に改築したら頭にがんがん響くようになってしまって、それでアクリルをはじめたんです。でも、ぼかしの技法は、油絵だとうまくいくけれど、アクリルはなかなかむずかしい。エアブラシを使うといいんだろうけど、デザイン画みたいになっちゃうから使いたくないしね」
 おなじくアクリル画の「雪の林」も、北海道の冬の林のエッセンスを抜き出したかのような、深みのある、それでいてまばゆい色使いの絵ですが、ピンク色の絵の上に一本一本細かい線を塗り重ねていってぼかしの雰囲気を出しているという労作です。
 ほかに「草と木」(F 12)も、さびしさの吹き渡るような絵でした。葉の少ない木の手前に、細いストロークで描かれた緑の草原。そこに5つの切り株がひそんでいます。
 何の変哲もない、でも、ふしぎに普遍性をたたえた風景がそこにあるのです。

 ほかの出品作は以下の通り。
 「ニセコアンヌプリ」「木華の丘」「湖」「水辺」「雪の日」「ヤマザクラ」「山湖」「クルミ」「キタコブシ」「森」「ニセコ高原」「カラマツ」「森」

□作者のサイト
■03年のどらーるでの個展
■03年(画像あり)
■02年
■01年


 第68回 方究會洋画展=同
 1936年(昭和11年)に結成し、戦中戦後の一時期をのぞいて毎年展覧会をひらいてきたグループ。
 すごいのは、結成当時のメンバーである平野俊昌さんがご健在で、今回も「帽子」という女性像を出品なさっていたことです。
 ご本人は「いやー、ごまかしてる絵ですよ」
と謙遜なすっていましたが、若々しい絵です。
 いまひとり、80歳を超えた川村正男さんは、「トッカリショ岬」「積丹岳遠望」「定山渓の秋」の、F30の3点を出品していますが、こちらも丁寧なタッチはまったく老いを感じさせません。画面全体に、おだやかな風が吹いているかのような清新な絵です。
 村岡治夫さんの「シチリア島の漁港」(F60)と「チェスキー:クロムホル(チェコ)」(F80)も、力のこもった佳作だと思います。
 とりわけ後者は、古都の建物を覆う屋根のオレンジ、壁の薄紫や灰色、街路樹の黄緑、そして稜線そばの空の薄紫などが、微妙な交響をかなでているようです。
 ほかの出品者は次の通り。

 小林耀子、笹谷圭子、杉本セツ、関建治、高橋芳夫、千葉久信、南里葉子、福家久美子、増田正子、宮崎君子、安河内太郎、渡辺弘子、横田章、吉岡良子


 小野礼子 水彩画展=同
 札幌在住の道彩展会員で、3年連続の個展になります。
 「野の仏」シリーズなどがならんでいます。
 「無人駅静寂」などを見ていると、まっすぐ線をひくのが苦手なのか、あるいはあえて線をふるえるように描いて画面に動感を出しているのか。
 丁寧さよりも勢いが先行しているのは道彩展らしいといえるかも。

 じゃが芋の花油絵展=同
 米谷哲夫さん(札幌。全道展会員)の教室展。
 荏原綾子さんの「壊」「憧景」(原文ママ)など、なかなか雰囲気が出ていると思います。独立というより二科調だけど。
 田上万司さんは一般的な人物画。はにわなどは登場しませんが、モデリングなどさすがにうまいです。
 弥永槙子、藤田佳久、山崎美代、港道真智子の各氏も出品。

 いずれも22日まで。


 街角の時間 村岡秀男写真展=キヤノンサロン(北区北7西1、SE山京ビル 地図A)
 チェコなどの街角を撮ったスナップ。
 東京在住で、道内での個展ははじめてのようです。
 すべてデジタルで、フォトショップ(画像処理ソフト)を駆使した作例を見ると、来年70歳を迎える人とは思えないチャレンジ精神を感じます。
 もっとも、人物をエンボス加工するのは、写真の自然さをうしなわせているような気がしましたが。
 デジタル写真は色彩が銀塩ほどには立ち上がってこないので、エッジを強調するような画像処理をほどこすことがよくおこなわれているようです。
 しかし輪郭線という本来自然界にないはずのものを人為的に強調した画像のほうが人間の目にはむしろ自然に感じられることもあるのですから、人間の認識とはおもしろいものだと思います。
 21日まで。
 銀座、名古屋での個展は終了。6月14−25日に仙台のキャノンサロンに巡回。


 田中一村展などはあす以降。
 ただ、ひとこと書いておくと、同展を見るには1時間はほしいところだだと思います。


 5月18日(火)

 きのうのつづき。

 林啓一ペーパークラフト全作品展「月と太陽と星とぼく」アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル5階 地図
 2002年春、カフェ・ルネの個展を見た筆者は、童心にかえれる素朴な作品というような意味のことを書きました。
 それは、登場人物のほとんどが子どもであることから、大筋ではまちがっていないと思うのですが、今回はじめて1990年から現在にいたる数々の作品を見て、そんな評言におさまりきれるような、なまやさしいものではないと、驚嘆したしだいです。
 とにかく並みの緻密さではありません。
 写真は、展覧会タイトルとなっている「月と太陽と星とぼく」です。「月と太陽と星とぼく」
 この作品は、動きます。手前にいる子どもが自転車をこぎ、時々うしろをふりかえります。
 それだけでもすごいのに、左のアパートの陰からは、擬人化した太陽がぬっと突き出て日輪をぐるぐるまわし、後ろからは星を持った人が出てきて★のかたちが天空を左右に往復し、右からは月の男があらわれて舌を出すのです。
 しかも、いちばん奥にはオレンジの星がひかり、時間によってその数を変えるのです。
 そうとう複雑な電気回路を設計したようです(これは黒い台がかんたんにひらくので、見る人が見たらわかるかもしれません)。
 この作品の設計図やエスキスをおさめたクリアファイルだけで4冊もあり、会場に置かれていました。
 ご本人は
「プラモデルとおなじ。そんなにむずかしいことはありませんよ。まあ機械がすきなんですけどね」
とすずしい顔で話していますが…。
 うごかない作品でも、たとえば「キャラメル」。なかばひらいたキャラメル包装紙のかたちをした上に、キャラメルをわたしている子どもともらっている子どもの像をつくったものですが、子の手のひらの上に乗っているキャラメルのつぶは、1ミリあるかないか。気が遠くなるような細かさです。
 ほかにも、惑星の位置がわかる柱時計型の「天井の羅針」など、労作がそろっています。
 24日まで(水曜休み)。

 □K.Hayashi's Paper Gallery


 以下、執筆をさぼっていた分をアップします。
 いずれも23日までです。

 アトリエで生まれたおもちゃたち 作家からの贈りもの展芸術の森美術館(札幌市南区芸術の森2)
 美術家が、子どものためなどにこしらえたおもちゃ。余技といえそうな作品にも、彼らの本質が垣間見えそうです。
 出品作家は、ピカソ、カルダー、ファイニンガー、クレー、藤田嗣治、香月泰男、有本利夫、本郷新、猪熊玄一郎、舟越桂、若林奮。
 このうち活躍中なのは舟越さんだけですね。
 本郷新は、札幌彫刻美術館の所蔵品であるテラコッタの小品が出品されています。
 また、香月泰男展が来月から道立近代美術館と後志の3美術館でひらかれます。今回は、香月の出品点数が多いので、格好の「予習」になりそうです。

 展覧会の作品はさわっていけないものばかりなので、家族連れで行くといささかストレスがたまりそうな気もしますが、ちゃんと最後に、子どもが遊べるコーナーがあります。

 おもちゃの実作以外に、カルダーがサーカスごっこをしている記録映画は見逃せません。
 モビールで知られるこの彫刻家は、どちらかというとエリツィン大統領のような、ちょっと怖い顔つきをしており、大まじめな顔をして針金細工の人形で空中ブランコごっこをしたりしているのを見ると、ちょっとわらえます。

 舟越さんもいろいろな木製のおもちゃなどがならんで壮観でした。
 それにしても家の雰囲気がバタくさい。クリスマスのおもちゃなど、日本の家庭ではないみたいです。
 お父さんの保武さんがクリスチャンだったことも影響しているのかもしれませんが、芸術家というのはこういう家庭から生まれるんだなーとしみじみ。

 図録もおもしろ「作家からの贈りもの」展のユニークな図録いです。
 それぞれの作家別に、判型や大きさのことなる小冊子にまとめられており、箱に入っています。

 それにしても、ここにある作品の中で、「本業」とくらべて何ら見劣りしない水準の作品は、有本利夫ぐらいです。
 もともと「本業」の質が高い人たちばかりなのでしかたない面もあるし、また見ておもしろくないということではけっしてありません。
 ただ、おなじようなおもちゃを、そこらへんの無名の人が作ったとしても、美術館で展示されることがあるかといえば、それはたぶんないでしょう。
 つまり、おもちゃも、つくる人がつくれば、ふれてはいけない「作品」になってしまうのです。
 これって、モダニスムかな。ちがうか。

 新潟市美術館と三隅町立香月美術館は終了。高知県立美術館(5月30日−7月25日)、大丸ミュージアム・梅田(8月18−29日)、女子美アートミュージアム(9月8日−10月18日)に巡回します。


 小川マリの世界道立近代美術館(中央区北1西17 地図D
 1901年札幌生まれ、ことし103歳になる現在も絵筆を執りつづける画家の回顧展。
 日本の女流洋画家のはしりともいうべき先達が健在なのは慶賀すべきことといえましょう。
 27年ごろの初期作品から一昨年の春陽会出品作まで62点を展示しています。

 ひと目で気がつくのは、初期の人物画2作がF50号で最も大きく、あとはすべて40号以下というサイズです。
 彼女の作品は、大半が身近な静物や風景を描いたものです。小さなサイズがちょうど合っているといえます。
 しかし、戦後の公募展などでは100号クラスの絵が主流となり、抽象表現主義でも大作が多くなったことを考えれば、現役作家の回顧展としては、おそらくほかの人ではありえないことでしょう。
 彼女が大きな絵を描かずに済んだということは、公募展の大作化が進む直前に春陽展の会員になれたということであり、彼女にとっては幸福な事態だったといえましょう。もし、彼女があと10年遅く画業をはじめていたら、絵のよしあしはべつにして、公募展でめだつことはむずかしかったと思われます。

 もうひとつ特筆すべきなのは、戦後の画壇を風靡したアンフォルメルの影響がほとんど見られないことです。
 戦後を生きてきた画家の回顧展で抽象画的な絵のない作家というのも、これまたとてもめずらしいのではないのでしょうか。
 ようするに彼女は、他の画家が多かれ少なかれ時代の影響をうけざるをえなかったのにくらべると、ひじょうにマイペースで、じぶんの画業を追究することができたといえると思います。
 展示されている絵全体が或る種の幸福感をかもしだしているのだとすれば、そのためかもしれません。だれしも、公募展の先輩画家や画商や批評を気にしないで、じぶんの思うとおりに描きたい。でも、そうはいかない。小川マリさんは、なにも気にせず、ただじぶんを恃みとして描いてきたように見えるのです(見えるだけで、そんなことはけっしてないのですが)。

 ざんねんなのは、70年代の絵がほとんどないために、現在の画風にいたるまでのプロセスがまったくわからないことです。81年の「アネモネ」は、白っぽい地に薄い色で対象を描く現在の画風とほぼ同じになっているのですが、どういう過程でそうなったのかを示す作品がえらばれていません。81年以降の絵は20点以上もあり、それをすこしへらしてもいいから、中期の作品も見たかったように思いました。


 ガラスの情景=同
 筆者の大好きなジェイ・マスラー「街景」もありました。ガラスケースに入っているのがざんねんですが、何度見てもうっとり。
 さて、かならず「これくしょん・ぎゃらりい」(常設展示)の一部を占め、道立近代美術館の「売り」となっているガラスの展示。今回は、果物や人間、風景など具体的なモティーフを表現した作品が中心です。
 そして、そのなかでも、ふだん展示されている古典的な作品、つまりエミール・ガレやドームといった20世紀前半の作品がラインナップにほとんどなく、昨年の企画展「Outspoken Glass−遠慮のないガラス」の出品作があるのが特徴です。
 家をモティーフにした扇田克也、舟のある、ふしぎとさびしい風景を表現する塩谷直美といった気鋭の作家の作品が見られます。


 新収蔵品展=同
 2003年度に収集した作品の紹介。
 こちらにも「Outspoken Glass」展の作品が3点。
 ほかに地元画家の絵が9点です。

 白江正夫「朔北」(94年)
 望月正男「秋の漁港」(54年)
 西村計雄「海辺」(49年)
 小川原脩「前へ進む群A」(57年)
 小谷博貞「原野墓標」(63年)
 伊藤光悦「Airport」(99年)
 尾形圭介「まつりの復活」(78年)
 繁野三郎「道庁南門通」(27年)「午睡」(26年)

 このうち知らない人がふたりいました。
 望月さんは1918年名寄生まれ、49年からは釧教大で後進の指導にあたるとともに、日展で活躍したそうです。
 尾形さんは1936年生まれ。小樽商大に通い、在学中から二紀展に出品しています。現在は横浜在住、二紀展委員。


 5月17日(月)

 H+H./NOW PAINTINGSアートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル6階 地図
 札幌の原田龍哉さん10年ぶりの個展。
 若いころは、先ごろ亡くなった木路(きじ)毛五郎さんに絵を習っていて、ニューペインティングふうの絵を描いていたんだそうです。
 「H+H」展の会場風景個展は、女のコをグラビアふうに描いたアクリル画が左側の壁に、書道ふうの作品が右側の壁にならび、ほかにTシャツが1点。
 「under 18」という文字と、胸をはだけた女の子のモノクロ写真がいっぱいプリントされていて、着て歩くにはちょっと勇気がいりそうです。
 書道のほうは、壁に貼って書いたので、絵の具がだらだらとこぼれ落ちているのが特徴です。「平和」「鬼」「憎オ」など、激しい筆つかいは、やはり墨象というよりはニューペインティングっぽいです。
 女の子の絵は、ネットにあった画像を加工したもの。
 天地や左右に、書や日本画の軸装のような帯があるのが風変わりです。
 写真は「ACOM」と名づけられていますが
「顔は飯島愛に変えてあるんです」。
 オリジナルとコピー、という問題は、ボードリヤール(フランスの社会学者)の議論にも影響されて1980年代以降の現代アートでもさまざまに展開されてきましたが、ネット時代・デジタル時代になってあたらしい局面をむかえていると思います。
 データを劣化させずにどんどんコピーが可能になった時代に人物の画像がどういう意味を持つのかなど、いろいろと考えさせる作品です。
 原田さんの作品は、ギャラリー入口にある「自販機芸術」でも400円で発売中です。
 18日まで。

 □作者のサイト「キリヒトツウシン」


 おなじギャラリーの5階では、林啓一さんのペーパークラフト展がひらかれています。こちらは24日まで。なかなかすごいので、こちらもぜひごらんください。
 詳細はあす。


 Kの会デッサン展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階 地図A
 裸婦デッサンひとすじの木下幾子さん(札幌)の教室展。
 木下さんと、14人の生徒さんが出品していますが、画風、画材とも多彩です。
 「始めて1年ぐらいで、みなさんだいぶじょうずになりましたよ」
と木下さん。
 来月7−13日には札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)で個展があります。
 18日まで。
 
 (追記。下のフロアで個展を開いている清水良子さんも、木下さんの生徒さんです)