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表紙 美術展のスケジュール 札幌の11月のギャラリー日程
11月14日(木)
きょうは長文です。
見た順番にだらだら書いていきます。
きょう見たなかの後半で、わりとおもしろかったのは、安住久美子展、Borageパッチワークキルト展’02『〜ほんわかほんわか〜』、葉多まこといった展覧会でした。
それではまず、地下鉄東西線で、西28丁目駅へ。
黄宇哲展=TEMPORARY SPACE(中央区北4西27)
ことし6月、道立近代美術館で開かれた、道内と韓国の現代美術作家によるグループ展「水脈の肖像−日本と韓国、二つの肖像」にも出品していた、韓国の若手画家の個展。
油彩の抽象画です。
激しいタッチは、80年代のニューエキスプレッショニズムを思い出します。
と言ったら、中森さん(TEMPORARY SPACE主宰者)は
「ぼくは6,70年代を思い出すな。韓国の人は、濃い人が多い」。
縦2メートル、横4メートルの大作「The Price of Insomnia」は、さまざまな色の上に、黒い直線を格子状に引き、さらに黒々とハングルを大書したもの。
「永遠の青春」
と書いてあるそうです。
22日まで。月曜休み。
’02晩秋「花を挿す」 コ橋浩・真知子展=器のギャラリー中森(同)
室蘭ので「ラピタ工房」をひらいている陶芸家夫婦。
今月上旬、さいとうギャラリーで4人展「晩秋 壷天の秋を探る」を開いたばかりですが、器が大半だったそのときと、印象はかなりことなります。
真知子さんの陶人形やランプシェードはどこか土俗的な雰囲気がただよいます。
浩さんの花生は、三角形の格子模様の間から一輪挿しを通すという、変わった趣向です。
もちろん「フノリ色」がかろやかな日常の器もたくさんあります。
16日まで。
柿沼忍昭 いのり〓(INORI BAKO) 〓は、はこがまえの中に「単」=ギャラリー軸(北3西29)
寺を持たない“フリー禅僧?”として札幌で活躍中の柿沼さん。
いのりばこ、とは、モダンな小型仏壇とでもいうべき木製の工芸物で、扉を開けると小さな立像があります。
ほかに、仙崖みたいなシンプルな墨絵や、陶のちいさな皿など。
きょうで終了。
小鹿田焼作品展=工芸ギャラリー愛海詩(えみし=北1西28)
九州の山村で、土づくりから窯焼きにいたるまで昔ながらの製法でつくられる民芸のうつわ。「おんたやき」と読みます。バーナード・リーチが激賞し、しばらく滞在してともに制作に励んだそうです。
刷毛目による文様は、地味ながらしぶい味わいです。“有名ブランド”ながら、珈琲カップで2000円台と、値段もそれほど高くはありません。透明な釉薬を通して細かい貫入がうつくしいカップでした。
17日まで。
第5回オリジナル大賞展(前期)=オリジナル画廊(南2西26)
ギャラリーが毎年一般公募しているアワードの入賞作品展。スペースに限りがあるので、あまり大きい作品はありません。
ことしの大賞は、半抽象的な絵を描くセキ・トシさんでした。
昨年の大賞の稲田務さんが出品しているのも、おもしろいです。細密なペン画です。
富良野の盛本学史さんも油彩を2点。賞金かせぎかしらん。
前期はきょうでおしまい。後期は、18日から。
+0:paintings 安住公美子展=ギャラリーミヤシタ(南5西20)
岩教大を卒業した若手の個展。
半立体絵画が、5組ほど展示されています。
かたちは相似していますが、大きさも、そして高さもそれぞれことなります。
とくに右側は、正面よりも側面のほうが面積がひろい。横から見たほうが広がりの感じられる、ふしぎな作品でした。
17日まで。
ここまでずっとあるいてきたので、さすがにめんどうになって、南3西18から市営バスに乗りました。
中央区役所前で下車。
フォトプロジェクト遊 写真展=札幌市資料館(大通西13)
田中裕見子さんの写真はわるくないです。
なにかの廃墟、高速道?の高架下、ならぶ4つの椅子といった、無人の光景が、モノクロらしい静謐感をたたえています。
第6回一彩会展=同
ポプラの絵でおなじみ、道展会員・北野清子さん(札幌)の教室展。
北野さんの「習作」は、ことしの道展の出品作の下がきとおぼしきもの。
佐藤信子さん「薔薇」は、床のフローリングや、紙の質感がなかなか。これで瓶が瓶らしかったら、最高です。
ほかに、江口澄子、小池民子、佐竹和子、加藤生子の4氏が出品。
Borage(ボリジ)パッチワークキルト展’02『〜ほんわかほんわか〜』=同
これが意外と、と言っては失礼だけど、おもしろかったです。
パッチワークだけじゃなくて、窓につるは這わせるは、だるまストーブは持ってくるは、会場中、大インスタレーション状態。
上嶋恵子さん「子どもたちへのおくりもの」は、室内用の大きな木製ブランコを会場の中心にでーんと置き、ぬいぐるみは、キルトのバッグなどを散らした大作です。会場の方は
「雑貨店みたいで」
と謙遜してましたが、なかなかたのしいです。
安岡三恵さん「赤いケンジントン(アウトライン)ステッチ」も、おびただしいイラストの集積。キルトはほとんど半抽象の世界ですから、刺繍とのドッキングというのは初めて見て、こういうのもありかあ、と思いました。ただ、全体的に、キルトそのものは、一般的な作品が中心でした。
以上、17日まで。
フォトサークルSou 写真展−自然賛華−=コンチネンタルギャラリー(南1西11、コンチネンタルビル地下1階)
石津聰さんの初の教室展。
24人が3点ずつ出しています。
どれも、被写体の的を絞っていて、気持ちの良い作品になっています(すべてカラー)。
風景が多いですが、鎌田繁さん「街の朝」、米澤淳さん「たそがれの都会」は、道内ではめずらしく、都市の遠景がモティーフです。
米谷一美さん「映える」は、水溜まりの波紋をきれいに撮っていました。
17日まで。
地下鉄の西11丁目から東西線に乗り、大通で下車。ウィズユーカードを自動券売機に通すと、バスとの乗り継ぎ料金になりました。ラッキー、80円得した。
彩りの器展 草の窯・中村裕=さいとうギャラリー(南1西3、ラ・ガレリア5階)
札幌の駒岡に窯を開いている中村さん。今回は、すべて器です。
絵付けの器が中心です。道内で絵付け、というと、柴山勝さんが有名ですが、あそこまでダイナミックではなく、むしろ繊細な筆で野鳥やウサギ、エゾリズといった自然や、淡い色を黒い線で挟んだ文様などを、かきつけています。
リバーシブルな大皿がユニークでした。
中村さんは、北海道陶芸会のメンバーです。
葉多まこ 光と自然展パートU=同
題名だけ見ていると、なんだかよくわからないけど、ほおずきの実にちいさな電球を入れ、淡く光らせているオブジェがメーン。なかなかきれいです。雪の庭なんかにあったら、すごく映えそう。
もちろんほおずきは、壊れないように処理をほどこしてあるようです。
いずれも17日まで。
羊の会展=スカイホール(南1西3、大丸藤井セントラル7階)
札幌の羊丘(ひつじがおか)小学校に勤務した8人のグループ展。
長谷川傳(油彩)、伊藤恵(紙人形)、白石寿信(水彩)、小野健壽(彫刻)、古川茂(写真)、堀忠夫(油彩)、泉豊吉(陶芸)、桶川公延(彫刻)の8氏が出品。
堀さんは道展会員で、スケール感のある遺跡の絵でおなじみ。「カスバと女」には、エキゾチックな雰囲気がただよいます。小野さんは、正統派の人体彫刻です。
このほか、同会場では、四季彩ステンドグラス15周年記念展と、札幌市医師会美術クラブ展(油彩、水彩)を開催中。
17日まで。
会社に着いてみたら、きょうも15段(広告なし)。「国際」面の担当だった。
やはり、上遠野さんのおみくじは当たりだったか…。
11月13日(水)
きょうは札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)の後半戦。
A室は高幣佳代日本画展。
10年前に札幌に移り住んできて、ずっと院展に出品している方なんですけど、いやー、うまいですよ。
春の院展では、雪の降る中、建物の前にたたずむ女性像を描いています。が、個人的にいいなーと思ったのは、風景画。
「水ぬるむ頃」など、あの早春のはりつめていながらもどこかやわらかさの萌す空気感が、表現されています。奥行き感をかもしだす構図もみごとです。
人物画が、比較的輪郭線をはっきり書いて、そこから色彩がはみ出る、わりと院展にありがちな描法をとっているのに比べ、風景は没骨で、洋画のもつ風合いに近いものがあります。
花の絵も、たんなる写生ではなく、おそろしく複雑な色の配合により、微妙な味わいを出しています。灰色や緑などが、これほど微妙に混じりあいながらうつろっていく絵は、あまりないんじゃないか−と思いました。
B室は、柳川育子油彩展。
柳川さんは美術文化協会と新道展の会員。
花や、風にはためく布を、独自の画法で描いてきました。
今回出品されている「幻想」の連作も、花や白い布、蝶などが、所狭しと描かれています。
新作では、背景が青くなってきています。筆者にはめずらしく感じましたが、初期の絵につうじる配色だということです。
油彩のほか、パステルの小品もたくさんあり、柳川さんならではの独自の世界をつくっています。
C室は、六五会秋展。
65歳以上のアマチュア絵描きの集まりです。
以上、すべて16日まで。
きょうは1面。またまた締め切り間際にニュースが飛び込んできました。
イラクが国連決議を無条件で受諾する意向を決めたというのです。
これで、国連の査察が入り、米国の攻撃はひとまず回避される見通しとなりました。
しかし、予断は許さないと思います。
11月12日(火)
きょうはギャラリー回りはありません。
北海道陶芸会展のところで訂正。ことしから、北海道陶芸会の代表は、中村照子さんから前野右子さんに交代したそうです。知らずにいて、すいませんでした。
11月11日(月)
札幌市立高等専門学校 ’02教員作品展 28個の視点=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)、 ライラックホール(JR札幌駅南口地下街アピア)
どちらかというと、ライラックホールのほうが、デザインや、環境・造園・プロジェクトなどのパネルが多く、時計台ギャラリーに、CGや工芸、絵画、彫刻などの“実作”が多いです。建築系も時計台ですけど。
このサイトでもおなじみ、上遠野敏さんが、先日のギャラリー門馬のこけら落とし展“Northern Elements”で発表していた「繭望房」を中心にしたインスタレーションを出品していました。ちいさな“現代の茶室”が、写真パネルでとりかこまれ、牢屋のように建ち並ぶ鉄の棒におびただしいおみくじがゆわえつけてあります。
「あなたもおみくじをひいて、結んでください」
という意味のことが書いてあったので、ひいたら
「凶」
でした。ううう。
両会場とも16日まで。
札幌市立高専のサイトはこちら。
北の写真家集団DANNP写真展 北の貌2002 partU=富士フォトサロン札幌(北2西4、札幌三井ビル別館)
後半も、うつくしいネイチャーフォトや風景写真がならびます。
紅一点の小野寺由紀さん(江別)は、エゾリスがテーマ。「青の樹間」は、太い幹のシルエットのとり方が大胆です。
小林忠さん(滝川)は、霧のある風景を撮影しています。「丑三つ時」はスキー場を撮ったそうですが、谷あいのイルミネーションがなんとも幻想的。
山本隆さん(砂川)は、森を、極端に仰角ぎみに、広角レンズを活用して写しています。いささか無理のあるアングルだという人もあるかもしれませんが、筆者は、あの包み込むような森の感じがよく出ていて、おもしろい撮り方だと思いました。
ほかに、山本勝栄さんは住んでいる網走管内女満別町の風景を、北正明さん(滝川)は原始の川や滝を、星河光佑さん(同)は長時間露光した太陽を写しこんだ風景を、三浦忠雄さん(札幌)はさまざまな野鳥を、それぞれ撮影しています。
13日まで。
第48回創究展=大同ギャラリー(北3西3、大同生命ビル3階)
札幌の4人による絵画展。それぞれ4−6点を出品し、真摯に対象に迫ろうとしています。
村岡治夫さん「ルツェルン湖」(F40)は、湖の手前に花を、向こう側に街並みを描くというむつかしい構図ですが、花の彩度を上げるという一種の空気遠近法を用いて、画面にひじょうな奥行き感をあたえることに成功しています。「オタモイ海岸」(F50)などは、独特のぼかした描法で、空気感をゆたかに描いています。
山崎隆治さんは、サケの遡上や漁港風景がテーマ。濁流のなかを、大きな口を開けて突進するサケの群れを活写した「遡上」(F40)がいちばん迫力がありました。
三好十郎さんは「運河風景」など。こちらは、太めの線で、対象をおおまかにとらえています。
堀昭さんは、例年細かい描写で目を引きますが、ことしはいつもの乾いたタッチが若干後退し、溶き油を多用しているように感じられました。「北大第2農場」(F15)「北大農学部裏A」(F20)「北大農学部裏B」(F12)の3点は、「20年前のスケッチをもとに」という副題がついています。いずれも、モティーフとなる建物の手前の空間に余韻が漂う作品ですが、なるほど、現在の北大キャンバスでは、この絵で緑に描かれている空間にも近代的な校舎が建ってしまっている可能性がありますね。
12日まで。
木崎甲子郎油彩展「チベット・ヒマラヤ・南極の風景」=アートスペース201(南2西1、山口中央ビル6階)
北大助教授から琉球大教授となり、現在は那覇在住ながら、「歩歩の会」メンバーでもある木崎さんは77歳。これが初個展だそうです。
8号から30号までの油彩42点がならんでいます。いずれも、写実的でありながら、細かいところまで描きすぎず、適度に対象を簡略化していて、好感がもてました。
南極の風景とはめずらしいですよね。地質学が専門だったので、昭和基地で越冬したり、日本南極観測隊長を務めたこともあったそうです。「ファイフェヒルズ」(P30)の濃紺の海は、ほんとうにつめたそうでした。
12日まで。
それにしても、今週はほかにも展覧会があるはずなのに、11日に行ったら、ひらかれていたのは木崎さんの個展だけ。どーなってんの?akaさん。
11月10日(日)
連休です。
「展覧会の紹介」に「二人のシュルレアリスト 福沢一郎と三岸好太郎」「回想・北海道の25人」のふたつを追加しました。
つれづれ日録は、読むところがありませんが、上の2本をよんでください。
11月9日(土)
休みです。
「アートな本棚」が4ページ目になりました。あまりおもうように更新できていないのですが、みなさんの投稿もお待ちしています。
11月8日(金)
きのう(7日)の、「でこぼこ・ざらざら−見る感触」の文章を一部修正しています。
半分寝ながら書いてたせいか、意味不明な個所があったためです。ご諒承を。
キンシオタニの世界=Gallery・Cafe marble(中央区界川2)
人気イラストレーターの札幌初個展。
本も何冊か出しています。夏になると北海道に旅行に来たり、路上で絵はがきを売ったり、ライフスタイルというか感性としては絵描きよりもミュージシャンにちかいような気がします。
イラストというには、わりに大きめ(30号くらいの)の油彩がけっこう多かったです。あと、トートバッグやTシャツなどのグッズも売ってました。
すごくひどい言い方になっちゃいますけど、最初見たとき
「わー、こんなスキルで、油絵描くか、ふつう」
と思いましたよ、正直言って。下塗りもしてなさそうなカンバスに原色で人間の顔をどばどばっとかいてるんですから。
でもね、しばらく見てると、これがけっこうイケルのです。キース・ヘリングほどはっきりしてるわけじゃないけど、作者なりの個性があるんですね、じつは。メーンになる登場人物は黒で描くとか。
そして、メーンの人物って、よく見るとみんな顔が似てるんです。これって、一種のキャラクターなのかもしれない。
そこで、筆者はひとつのいーかげんな仮説をたてました。
日本人が絵を描くとキャラクターになる。
「源氏物語絵巻」から浮世絵を経て、現代のマンガにいたるまで、どうも人物の顔をパターン化して描くほうが得意なのではないか、という気がしてきたのです。
キンシオタニさんの公式サイト「綺羅星」はこちら。
マーブルへの行き方。
地下鉄東西線の円山公園駅から市バス「旭山公園線」で「界川2丁目」で下り、左側に入る道をえっちらおっちら上っていって、すし屋のすぐ上で左折して、さらに上っていった突き当たりです。
ただし、このバスは、以前も書いたとおり、1時間に1本しかありません。
次善の策として、おなじ駅から「ロープウェイ線」もしくは「山鼻環状線」に乗り「界川」で下りても、徒歩8、9分くらいでなんとか行けます。ほんとは「旭ヶ丘高校」で下りたほうが近いけど、これは地理に強い人向き。
とかなんとか言って、筆者はきょうはじぶんの車で行きました。駐車スペース、1台か2台ってとこですけど。
珈琲600円。でも、値段にふさわしい味です。とりあえず、札幌で屈指のうまさ、と言っておきます。
サッポロファクトリー(中央区北2東4)で、日本を代表する写真家によるアフガニスタン関連の写真展が複数ひらかれています。
ひとつは、東松照明写真展 アッサラーム アレイクン=2条館地下
1963年、グラフ誌「太陽」の仕事で撮影した際のアフガニスタン。モノクロとカラー計125枚。
まだ王制で、平和だったころのカブールの、商店や街路の表情がとらえられています。すこしですが、遊牧民を写したものもあります。
アジア系から欧州系までいろんな顔立ちの人がいて、さすがに「文明の十字路」とか、「民族の交叉点」とか言われるところだなあと思いました。
でも、どの写真も、あたりまえですが、戦乱の影はみじんもありません。カラチ、サマルカンド、テヘラン、どこで撮っても似たような写真になりそうだなあという感じがしました(男たちがヒマそうで、女がほとんど写っておらず、子供が働き者)。
12日まで。入場料500円は、医療NGO「ペシャワール会」をとおしてアフガニスタンにとどけられるそうです。
もうひとつは、長倉洋海写真展。
コニカプラザサッポロ(レンガ館3階)と、札幌市写真ライブラリー(同)の2会場での開催です。
コニカプラザは、子どもの写真ばかり43点。
戦争の影を感じさせない、笑顔のすてきな写真がならびます。
ふたりの少年が、松葉杖をついた若者と道ですれちがっているのが、ほとんど唯一戦乱を物語る写真です(松葉杖を、荒涼たる風景を見ると、どうしても映画「カンダハール」を思い出してしまう)。
日本の子どもより、ずっと明るくて、イイ顔してる−というのは凡庸な感想ですけど、実感です。
写真ライブラリーのほうは、「獅子よ眠れ」と題し、昨年の9月11日のテロの2日前に暗殺されたマスード将軍がメーンです。
一部、一昨年暮れに富士フォトサロン札幌でひらいた写真展と重複していますが、ことし撮影した彼の廟の写真などもふくまれています。
重複といえば、両会場でこどもたちの写真で、同一のものが何点かありました。
マスードの風貌は、苦労を知っているインテリという感じで、慕われていたのも分かる気がしました。
コニカは11日、ライブラリーは17日まで(月曜休み)。
また、ギャラリー市田(北1西18)でも、長倉洋海写真展「コソボの少年」が17日まで(月曜休み)。
さらに、来年2月28日から3月5日まで、「少女ヘスース エル・サルバドル内戦を生きて」が、富士フォトサロン札幌(北2西4、札幌三井ビル別館)でもひらかれるそうです。
札幌市資料館(大通西13)にも寄りましたが、とくにしるすことはありません。
道展の評、ようやくぜんぶ書き終わりました。予想外に長くなってしまいました。
11月7日(木)
寺島春雄展=道立帯広美術館(帯広市緑ヶ丘公園)
1911年旭川生まれ、ながく結核と闘いながら66年に歿した画家の回顧展。
帯広で展覧会を開いているのは、1918年に釧路移住後、44年に国立帯広療養所に入り、その後はずっと帯広にいて、療養所を出たり入ったりしていたためです。
さいきんの若い人には、知らない人もいるでしょうが、50年代まで結核は、死の病でした。病状がゆるやかに進むため、患者は高原など気候のよいところにある療養所(サナトリウム)で過ごすといった以外に、病気をやり過ごすことはできませんでした。この病気抜きに、たとえば堀辰雄など、日本近代の文化は語れないかもしれません。
画家にとって、絵は、闘病する自分の生きている証だったのではないでしょうか。
ただ、これはきびしい言い方かもしれませんが、とくに前半の具象画などは、正直言って見るべきものはとぼしいように思われます。西洋画に特有の立体感や、対象の厚みといった感覚を、最後まで会得できないままに、抽象画に移行していったようにすら感じられました。
ここでは、太い輪郭線が、対象のかたちを強調する以外の役割を果たしておらず、そのためヤギや少年たちは奥行きのない型紙のように見えてしまいます。
後半の抽象画は、明快なフォルムにとぼしく、また色数もすくないため、関心はおのずとマティエールに集中してしまいます。
いささか文学臭のつよい題名とあわせ、絵の具の塊をカンバスにぶつけていくという、その行為の痕跡のなかに、この画家の生の力のようなものが込められているのではないでしょうか。
ちらしなどに採用されている「赤の原野」は、画家の闘病の精神と、荒涼たる北の風景とがシンクロして、きびしい感動とでもいうべきものを、見る者につたえます。
最後に展示されていた遺作の「無題」には、おどろきました。
まるで、自らの死期を見越したかのような絵だったからです。
手前の白衣の人物は、黄色い棺に横たわっているかのように見えます。
かたわらに、蝋燭が一本立ち、その向こうの濃い緑の空間のなかで、黒い服を着た悪魔とも見える人物が、譜面台を見ながら、チェロを弾いているのです。
悪魔は、死の音楽をかなでているのかもしれません。そう思わせるくらい、黒衣の人物にはなぞめいた迫力があります。
いや、あるいは、親しい人が、最期にやさしい音楽を聴かせてくれているのかもしれない。そう思うようにしたいものです。
(11月8日追記。棺には布しか入っておらず、チェロを弾いているのは画家本人だという見方もできます)
参考出品として、たくさんの素描がガラスケースの中に置いてありました。
そのなかの言葉。
コスチュームで良いんだ 女のモデルが欲しい
空想や夢はあきあきだ
模写や臨画もいやなものなり
ケーテ コルウィッツ
貧民診療所 医師の妻
ロシヤ、丸太小屋でも建て療養に専心したいものなり
繪も描きたい
14日まで。
コレクション・ギャラリー でこぼこ・ざらざら−見る触感=同
神田日勝「人と牛 B」や、楢原武正「日の出」など、絵の具の盛り上げのすごい絵。
一原有徳「A,Mi,SON 2」など、アクリルミラーをつかった作品。
富谷道信「WAVE」「雲は切れて晴れるかもしれない」は、その名の通りでこぼこしている彫刻などなど。
題名の通り、なかなかおもしろいところに目を付けた企画で、思わずさわってしまいたくなるような魅力的な「表面」を持っている作品を集めています。
ほかに、池田良二、関根信夫、島州一、中谷有逸、百瀬壽、矢柳剛、ロイ・リクテンスタインの平面がならんでいます。
中谷さんのは、96年に時計台ギャラリーあたりで見てるなあ。なつかしい。
矢柳さんは、動物をモティーフにした軽快な版画しか知らなかったので、今回出品作「ブラジルの叫び」「宇宙と人間D」のような純粋な抽象画(といっていいのかわかりませんが)があるとは、意外でした。
ただし、せっかくなので、1点でいいから、ほんとにさわってもオッケーという作品があれば、もっと良かったのにと思いました。
11月6日(水)
北の写真家集団DANNP写真展 北の貌2002 partT=富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館)
筆者は、ネイチャーフォトって、けっこう好きです。
他人とおなじような写真を撮りたがる人というのはよくわかりませんが、自然のいろいろな横顔を見せてくれる写真というのはいいと思います。とりわけ、北海道には、すでに本州ではお目にかかれなくなったスケールの大きな自然がのこっています。これらを今後ものこしていくための啓蒙活動としても、ネイチャーフォトは役立っていると思います(反対に言うと、うつくしい構図のために、野生の動植物の生存を脅かしてまで撮影される写真があるとすれば、それはまったく本末転倒です)。
「DANNP」は、札幌以外の会員も多く、札幌の人間の知らないさまざまな世界を見せてくれます。
横田雅博さん(札幌)はフクロウを、出口大芳さん(滝川)はカワセミを追っています。金澤静司さん(小樽)の積丹の夕景は、うつくしいの一言に尽きます(昨春の個展のもようはこちら)。
大崎順助(滝川)、中島浩之(網走)、西井作一(空知管内新十津川町)、吉澤隆司(滝川)の各氏も出品しています。
7日まで。8−13日には、partUがひらかれます。
民野宏之作品展=扇谷記念スタジオZOO(南11西1、ファミール中島公園地下)
民野さんは、林真理子さん「不機嫌な果実」など、本の装丁の分野で大活躍している札幌の画家です。
今回の個展では、油彩が40点以上はありました。
花がいちばん多く、パリの風景や、ホテルの室内を描いた絵などもあります。
百合などいろいろな花がありましたが、いずれも色彩は濁りがなく、影もほとんどありません。塗りはフラットで、背景もひとつの色でぬりつぶされています。油絵というより、アクリル画やシルクスクリーンを思わせる独特の作風です。
描写はしっかりしているので、陰影や、筆の痕がなくても、リアルに見えるのが、おもしろいところです。
パリやバリ島の街並みにしても、これほど匿名性の高い、つまりどこの町でもおなじような場所をえらんで題材にする人はめずらしいでしょう。
バンコクのホテルの室内をモノクロームに近い色調で描いた作品がありましたが、これなど全世界どこのホテルでもおなじなんじゃないかと思われる、なんのへんてつもない部屋です。
このクールなところが、小説家や出版社には支持されるのかもしれませんね。
9日まで。
「ZOO」は、地下鉄で中島公園駅下車。キリンビール園やヤマハの前の通りを南下し、徒歩3分。地下にもぐる専用入り口があります。くれぐれも、マンションの住民が使う出入り口や、セイコーマートから入らないように。
多津美克也素描展=クレセール・アートバーグ(大通西9、札幌デザイナー学院)
リンゴの芯に近い部分だけとか、こごみとか、雲とか、あいかわらずちょっとユニークな鉛筆による素描が15点。
なかでも変わっているのが「リンゴと線」などの作品。ここでいう「線」とは、輪郭線のことではなくて、西洋画で明暗を区別するための線のことです。またいつもの例で恐縮ですが、ギュスターブ・ドレの銅版画なんかを思い出してください。明るいところは線がすくなく、陰になっているところは線が密にひかれています。
この作品では、左半分に、克明な素描でリンゴが描かれ、右半分は、その、粗密によって明暗を現すための線だけが取り出されて描かれているのです。
西洋画は、線はおもに明暗のためのもので、かたちは面でとらえようとしますが、それがひとつのフィクションであることを、わざわざ言っているようにも見えました。うがちすぎかな?
多津美さんは、こういう迂回路を経ていずれペインティングに回帰してくるものと、筆者は期待してます。
15日まで。日曜休み。
若山雄雲(象風) LIFE SHO=パークギャラリー(南10西3、パークホテル中二階)
未知の書家。札幌・宮の森で書道教室を開いてらっしゃるらしいです。
書風は、ひとことで言うと、ライト。
「春夏秋冬」や、十二支などの文字が、曲線を生かした軽い字体でさらりとかかれています。
洋間や飲食店のインテリアなどにも無理なく合いそうで、21世紀の日本人の生活のなかに生き残っていく書というのはこういうタイプなのかもしれないなーなどと思ったりしました。
11日まで。
彩華会・水彩画展=ギャラリー大通美術館(大通西5、大五ビル)
札幌の画家・酒井芳元さんの指導する展覧会のようです。
厚岸の海岸とか、南区・滝野すずらん公園、酪農学園大など、ほかのグループ展ではあまり描かれているのを見たことがない題材が多いのがよかった。
酒井芳元さんの小品展も開かれています。
ごじぶんのHPで毎日(!)公開している水彩の小品がずらりとならんでいます。
以前も書いたかもしれませんが、酒井さんの水彩は、水をたっぷりふくんだ筆で描いた色彩がにじんでいるのがうつくしく、紫が絶妙のアクセントになっています。
10日まで。
読売新聞によると、第6回小磯良平大賞展で、札幌の美術家・木路毛五郎さんのアクリル画「巫山(ふざん)之夢」が佳作賞にえらばれました。
佳作賞は全国4点で、大賞1点、優秀賞1点に次ぐ、3席にあたります。
この賞は、絵画のアワードでもかなり有名な部類に入ります。
木路さんの、曲線を生かした簡素な画面のユニークさが評価されたのだと思います。おめでとうございます。
11月5日(火)
道立近代美術館(中央区北1西17)がことし開館25周年をむかえたのを記念して開かれている「回想・北海道の25人」を見てきました。
なんと、7日までは観覧料が無料なのです。
北海道ゆかりの画家・彫刻家計25人をえらび、館の所蔵品から計54点(ただしうち1点は個人蔵)を展示するものです。言ってみれば、近代美術館によるベスト・オブ・北海道美術というところでしょう。
無料なので、盛況かと思って行ったら、意外とすいていましたよ。
くわしくは、いずれ別項にて。
展覧会自体は、12月8日まで。
北海道陶芸会展 2002=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)
案内状に
「面」
という大きな文字が印刷され、その周囲に
ツラ
おもて
めん
face
mask
かお
などの文字が躍っていたので、なんじゃらほいと思って見に行って、得心がいきました。
それぞれの陶芸家による、仮面が陳列されていたり、表面に気を配った作品があったり、陶板があったり−と、「面」を各自各様に解釈した作品がならんでいます。
仮面系では、中村照子さんの「眠れるピエロ」が、いつもの落ち着いた作風とは違い、瀟洒でおしゃれな感じ。
石川進一さんの「Good-by」は、顔の半分を布で覆ったようなデザインが、なにやらなぞめいています。
労作は、空知管内長沼町で窯を開いている英国人ケイト・ポムフレットさんの「FACE TO FACE」です。流木を組み合わせたはしごに、仮面が90個あまりもならんでいます。ケイトさん、じつはアフリカ人だったんじゃないかとおもわれるくらい、なんだか人類学博物館に迷い込んだような雰囲気。ふつうの釉薬のほかに絵の具などをつかっていて、黄緑や紫などの顔もあります(写真奥)。
写真手前は、千古窯・福盛田眞智子さんのインスタレーション「畝」です。
香西信行さんの大作オブジェ「希望」もありました。先日個展を開いたばかりなのに、ちゃんとこの展覧会のためにとっておいたんですね。炎のすごさを、ひそかにうかがわせる表面がみごと。
ほかの出品者は、阿妻一直、荒関雄星、小木美則、柿崎淳一、北山祥山、木村初江、桐生明子、高井秀樹、高橋武志、谷本杉雄、コ橋浩、中村裕、前野右子、山梨保子、吉田明、吉田時彦、和田一夫の各氏。
虚心会選抜11人展=同
札幌の書家・山田大虚さんのお弟子さん11人によるグループ展。漢字の臨書と創作。
岩戸太珠さん「山光澄我心」は、いまどきめずらしいストレートど真ん中な作品。
塩谷粧香さん「暁」は、まじめななかにも伸びやかさのある一字書です。
ほかに、阿部玉翠、桶谷明弘、川本珠扇、宍戸静邨、関鳳仙、竹内聖硯、福原芳園、村上翠泉、山口紫雪の各氏が出品。
プラタナス画会展=さいとうギャラリー(南1西3、ラ・ガレリア5階)
中本昭平さん(道展会員、1925−)の教室展。師匠は「霧の大沼」を出品。
河田隆子さんが「アロエ」「くちびる山」を出品してましたが、道展でキュビスムふうの絵を出品している河田さんでしょうか? 画風はだいぶちがいますが。
いずれも、10日まで。
さいとうギャラリーさんも、独自のホームページ開設を計画しているようです。
道展の評は、彫刻を追加しました。
けさの読売新聞を見てわらってしまった話。
現在建設が進められている「第二東名・名神道」は、時速140キロ走行にも対応できる高度な設計・施工がされていることで知られていますが、なんと、警察側はいちども140キロ走行などみとめておらず、道路公団が見切り発車で工事を進めていたことがわかったそうです。
この高度施工のために、第二東名・名神は、他の高速道路に比べ、おなじ延長でじつに5倍もの工費が掛かっているとのこと。
実質債務超過に陥っているのに、どうしてこんなムボーなことをするのか。ふつうの会社ならとっくに倒産してます。道路公団というところは、なにを考えているのでしょうか(なにも考えてない?)。
11月4日(月)
まず「道都書房」さんからのメール。
数日前に、新聞の「おくやみ」面に出ていた「小林英吉」さんは、元道展会員で、一水会、日展に出品していた画家の方ではないかということです。
道展の図録巻末を見ると、小林さんの道展退会は1985年。道都書房さんによると、その後小林さんは長い闘病生活を過ごしていたということですが、どなたか事情をご存知の方がいらっしゃいましたら、情報提供をよろしくお願いいたします。
二部黎木彫展=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
最近は石やテラコッタなど守備範囲を広げている彫刻家が、2年ぶりに、昔からとりくんでいる木彫に的をしぼって開いた個展。
まあ、いまだから言いますが、二部さんの彫刻にはこれまで不満がないわけではありませんでした。一言で言うと、マッスの存在感よりも、きらびやかな装飾物がめだっているという感じがしたわけです。
今回のA室の「ORIGIN」「二人」などは、素材が本来持っていた物質感や厚みを、無理なく掘り当てているという感じがして、好感がもてました。「日光月光」の2体も、一見派手な感じですが、自然なフォルムになっていると思います。
空知管内長沼町在住。全道展会員。
星ヱイ子個展=同
うーん、昨年までの絵には「nibe reiko」とサインがしてあるんだけどなあ。
絵は、今年になってからのほうが断然いいと思いました。
「暮色」は、さびしげな犬とうずくまる人の背後にフクロウがたたずみ、地平線の向こうは真っ黒な空です。
地上は白で処理されていますが、さまざまな色が重なり合って、深みを出しています。
自我像14人展=ギャラリーたぴお(北2西2、道特会館)
「自画像」じゃなくて「自我像」ね。
でも、いわゆる「自我像」を描いてきた,、すなおな人が多いんだなあ。
まあ、廃品でユーモラスな自画像を作ってきたM.ババッチさんや、40年以上前の自画像(油彩)を出してきた横山隆さん(新道展会員)は、ユニークなほう。笹岡素子さん(江別)は、壁を紐でくるんだいつもとおなじ作品です。
でもいちばんエライのは、若手・山林優さん、アナタです。壁に布でテントのような穴をこしらえ、そこに上半身を突っ込んだ姿の立体造形で、脚の部分だけは石膏でかたどった由。自画像といっても、四つん這いになった下半身だけなのです。
ほかの出品者は、阿部玲、井村郁子、岩佐淑子、佐藤光子、竹内はるみ、竹田博、千葉有造、林教司、山岸誠二、渡辺恵子の各氏。
以上、9日まで。
道展の評、まだ彫刻と工芸について書いていませんが、とりあえずアップします。
きょうは仕事でした(朝刊1面)。
だいたい、筆者が1面の担当になると、なにか事件がおきるのですが、きょうは
「釧路市長を逮捕」
です。
道内で、現職の市長が逮捕されたのは、戦後はじめてのことだそうです。
容疑は公選法違反。釧路市と合併論が出ている隣町の「釧路町」(ややこしい)で、こないだ町長選があったのですが、わざわざ市長以下、市役所ぐるみで、合併推進派の候補が当選するようにと、釧路町から釧路市に通勤している市の職員(187人)に指示したそうです。
ちなみに、この推進派の人は落選しました。また、当選した町長は、合併反対をつよく掲げていたわけではありません。
なーんか、国が市町村合併を焦っていることのしわ寄せが、来たような気がするなあ。
11月3日(日)
札幌は2日朝から雪です。
すっかり冬景色になりました。
承前。
横田章個展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)
個展20回目というベテラン洋画家。
上下の両フロアをつかっています。下の階はおもにイタリアなど海外の風景。上の階は道内の風景や静物という構成です。
筆者はどちらかというと上の階のほうが好みでした。
ただ、下の入り口すぐのところにあった「炭鉱の花束」という50号くらいの絵は、気になりました。
穏当なリアリズムといったかんじのほかの絵とは違い、適度にデフォルメされた画風です。
手前に花束が置かれています。その向こうに、首を傾けた女性。かたわらに、子供と、炭鉱マンが立っています。女性と花束のあいだには、明示されていませんが、シーツの下に炭鉱事故で命をうしなった夫の遺骸が横たわっているものと思われます。
色調は、ピカソの「青の時代」のような、やや神秘的な水色で統一されています。ただ、さっきも書いたように、あのようなリアリズムではありませんが、この色調のために全体がたいへん落ち着いて見えます。題材は社会派的ですが、声高に主張するという感じはみじんもありません。なかなかの佳品だと、つくづく見入りました。
さて、上の階で筆者の目を引いたのは「雪雲来る」「晩秋」「マオイ運河夕景」といった風景画です。筆者は、こういうありきたりの風景に美を感じる感性にすごく共感します。「雪雲来る」は、雪でうもれた小川が手前にあるらしく、画面左奥にふるい橋があり、雪原の奥に防風林が黒く並んでいます。鉛色の重たい空からは、いまにも雪が降ってきそうです。この陰鬱な空気感と静けさは、雪国ならではのものです。
5日まで。
道展の評を書き始めましたが、昨年よりすごく長くなっているのに、なかなか終わりません。
11月2日(土)
更新をサボったため、だいぶ書くべきことがたまってしまいました。すいません。
まず、会期が済んでしまったものから。
坪野秀子展=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
坪野さんといえば、ピンク系の色を中心に架空の街を描いた絵をおもいだします。
でも、今回の個展に並んでいるおもな絵は、前回2000年の個展で1点だけ出ていた、花吹雪に、照準のような赤い同心円と十字模様がかさなった作品のシリーズです。
今回の絵の題にはとくにしるされていませんが、前回のその1点の絵は、内戦下のサラエヴォにインスパイアされたものでした。今回の絵にも、その意識が継承されているのでしょうか。
街の絵を見た坪野さんの元教え子の自衛官が
「家じゃなくて墓に見える」
と言ったそうですが、そのせいなのかどうか「きのうの廃虚あるいは明日の遺跡」は、五つの同心円と十字の模様の向こうに、白い十字架の墓標が56個整列している絵です。ただ、色調があかるいので、深刻さはあまりかんじられません。
120号のキャンバスいっぱいに円をきちんとかくのは、意外とむずかしいとおもいます。
「でもわたし、数学の先生で仲のいい人いなかったから、コンパス借りられないの」
と坪野さんはわらっていました。
「廃虚の昨日」は、墓標のかわりに、いちめんに花がみずみずしく描かれた作品。
ほかに、太い点線が画面にうねる抽象画もあり、こちらのほうが気軽にたのしく描いた感じがします。
川井紘子個展=同
毎年、心象風景を小品の油彩にして、個展で発表しています。
昨年もかきましたが、油絵よりはイラストとか水彩のほうが体質に合っているような気がします。
札幌現代美術展=ギャラリーたぴお(北2西2、道特会館)
楢原武正さん、三神恵爾さん、西条民治さんによるグループ展。
なんだか大げさなタイトルですが、あてずっぽうにつけたわけではないようです。
会場の入口に、マニフェスト(宣言)みたいな文章がありました。後半は、次のとおり(原文のまま)。
「30数年前、芸術家だった人達が、なぜその後多くが絵描きやさんになってしまったか。それは経済的にめぐまれ出し、トラウマが経済力によって解消するという代償が興ったからではないのか。我々は社会的トラウマを、トシを食ってきたとはいえ、あくまで作品で解決することをし、作品が単に美術ではなく芸術であることを願っているウ」
さて、このうち三神さんの平面インスタレーション「秘めやかな叛逆のエクリチュール」に注目しました。
三神さんはこれまでおもに、ドイツロマン派やタルコフスキー監督の映画に触発されたようなふしぎな水彩やドローイングを発表していたのですが、今回はむしろ表現主義的な抽象の水彩などを、壁いっぱいに、無造作な感じで貼り付けています。
楢原さんは「大地開墾」シリーズの2点。廃品を利用したインスタレーションです。今回は、壁面に立てかけるかたちで、板や缶などを置いています。
西城さんは「もはや地球がピンチになったら」という題ですが、板などのほかは、長靴、ラジオ、缶詰、サイダーの空きびんなどが置いてあり、インスタレーションというよりも浮浪者の隠れ家みたいな感じもします。文明への危機感はわかるのですが…
さとう凛香個展〜愛の距離について〜=this is gallery(南3東1)
武蔵野美大在学中の若手によるインスタレーション。
東京・小平(こだいら)市の公園で、樹木を使って繰り広げたプロジェクトを、かなりの程度まで忠実に再現しています。
人の顔を石膏取りして作った彫刻を、包帯を巻いた樹木の幹に埋め込み、木と木の間を包帯でつないだもの。人と人の間ははなれていても、つながっている―というあたりが、コンセプトでしょうか。
ギャラリー空間に、直径数十センチの木を再現しているので、なかなか迫力があります。
小林恒司絵画展 HORIZON 天涯=アリアンスフランセ−ズギャラリー(南2西5、南2西5ビル2階)
空をおもわせる抽象画が、隙間をあけずにびっしりと陳列されています。
空、といっても、ただ青いだけでなく、白、薔薇色、黄色などのすばやい線、飛沫があちこちに走り、画面に奥行きをあたえています。
でも、どうしてあんなに壁の高いところに並べるのだろう。見づらい。
以上、2日で終わり。
つづいて、3日までの展覧会。
宇野渓雪 書展=スカイホール(南1西3、大丸藤井セントラル7階)
スカイホール全室をつかった個展。
大作「甲骨文」は、漢字のもっとも古いかたちに取り組んだ意欲作です。アルカイック、ということばがぴったりです。
このアルカイックな感じは他の行草書の作品にも受け継がれているように思われます。全身全霊をぶつけたわけでもなければ、達筆ぶりを誇示したスピーディーな作品でもない、肩の力を抜いたやわらかさが作品全体にただよっているのが、好ましく感じられました。
「酔月」「一期一会」など、板に書いた作品も、小さいが広がりの感じられる作品。とくに前者は、店の看板などにもぴったり?
つづいて、5日までの展覧会です。
第13回 函館と近郊を描く三人展=アートスペース201(南2西1、山口中央ビル5階)
札幌の、綿谷憲昭さん、原田富弥さん、日下康夫さんによる風景画のグループ展。
あれっ、昨年は第11回美瑛・富良野の三人展だったですよね、原田さん。
「いやー、あれは第12回のまちがいだったんです」
思わず、吉本喜劇調にずっこける筆者でした。
それぞれ6ないし8点の小品の油彩を出品。
綿谷さんの「ハリスト教会」は、名高い観光名所がモティーフですが、手前の民家の茶色の屋根が、教会の屋根や木々の緑とおだやかに調和しています。
「ヨットハーバーT」の水の色も清澄でうつくしい。
原田さんは、写実からちょっと離れた、大胆な色遣いが特徴。「立待岬の夕景」は、原田さんお得意のあざやかなオレンジが画面を覆ってまぶしいです。
日下さん「ガンガン寺」は、前景の木々の緑の階調が、バルビゾン派を思わせます。
三人が函館にスケッチ旅行へ出かけたのは夏のこと。
「でも、酒をのむのがメーンみたいになっちゃって、秋になってもう一度出かけたんです」
と原田さんはわらいます。
加我幸子さん、植野純子さん、瀬川裕子さんが賛助出品しています。
第40回 歩々画展=同(6階)
菓子店「六花亭」の包装紙でおなじみ、坂本直行の門下生らによるグループ展。山歩きの好きな人が多いらしく、山に材を得た作品がわりあい多く、肩ひじ張らないのん気な展覧会です。油彩、水彩、ちぎり絵、貝殻に描いた絵、ステンドグラス、陶芸、リース、写真、版画など、バラエティーに富んでいます。
高畑順子さん「メルヘンヴィーゼの夜明け ナンガパルパット(8126m)を望む(パキスタン)」という長い題の絵がすてきでした。
ちょうど40回目ということで、メンバーが所有している坂本直行作品を持ち寄って展示しています。
筆者は、坂本直行というと淡彩画のイメージがありましたが、「初冬の南日高」など、油彩もありました。うーむ、この時期のカシワって、たしかにこんな茶色。鉛筆デッサン「ヤチハンの実」、コンテによる「原野の立枯」は、いずれも1931年の作です。
第4回 萌彩会展=同(5階)
久守絵画教室のグループ展。梶浦ヒサさんの北大構内の絵、明暗のメリハリがあっていいですね。