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あーとだいありー 2003年3月後半
3月31日(月)
「時空・ベトナム」横木安良夫写真展=キヤノンサロン(北区北7西1、SE山京ビル)
「サイゴンの昼下がり」(新潮社)などの本がある写真家の個展。デジタルカメラで撮影したものを出力した11点(うち1点は3枚からなる大作)を展示しています。
半分くらいはアオザイやジーンズ姿の美女。もう半分は、散らかった雑沓や、バイクで疾走する若者などの写真で、画面が大きいことも手伝って南国の活気がびんびんつたわってきます。
それにしても近年のデジタル写真の進歩にはあらためておどろかされます。このサイズに伸ばしても画面の劣化はまったく感じられません。発色も自然です。
銀塩写真が生き残っていくのはなかなかたいへんだな、と思ってしまうほどでした。
4月11日まで。
大阪梅田:5月8−14日、福岡:5月26日−6月6日、名古屋:6月23日−7月4日、仙台:7月14−25日の日程で巡回(東京銀座はすでに終了)。
「エゾリス〜北の森に生きて」久保田亜矢写真展=富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館)
シマリスとはべつものですが、愛らしさではまけていません。
とくに「見上げれば、そこに」など、ラブリー系大好きな人は必見です。
望遠レンズを多用し、シマリスの生活圏を荒らさないようにそっと撮っているところにも好感がもてました。
2日まで。
フォトクラブひかり第3回写真展=NHKギャラリー(中央区大通西1)
青野勝美さんの指導をあおぐグループ。ほとんどがネイチャー、風景です。全点カラーで、ひとり3点ずつ、10人が出品しています。
残間光男さん「フラノ桜景」がおもしろかったです。まばゆく光を浴びる桜の背景には、芽吹いたばかりのエゾマツがそびえています。その対比がいかにも北海道らしいと思います。桜も、めずらしく葉が出ておらず、最高のタイミングでした。
3日まで。
高崎勝司初個展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)
高崎さんは恵庭在住。もともと絵画を描いていましたが、今回はすべて抽象の版画です。それも、コラグラフとかエングレーヴィングとか、いろいろな技法を使って、ふしぎな世界をつくっています。
なかには、電気溶接をつかってアルミ板を傷つけ、そこにインクを盛った作品もあります。このあたりが、道内では抽象版画の先駆者といえる一原有徳さんらとのちがいでしょうか。
「銅板は腐蝕できるけど、アルミ板はそうはいかないでしょう。電気溶接だと、裏側も使えますし」
なんと、「02−03」と、「KAZAANA」の一部とは、おなじ版の裏側と表側を使っているのです。白く抜けているところは穴があいてしまったところのようです。
小澤年博作陶展=同
うつわが中心の展示。
雲母練込半磁器は、通常であればうとまれる鉄分のような斑点を、模様としてちゃんと成り立たせています。
つぎに多いのは、白樺灰焼き締めのうつわ。備前に似ていますが、備前ほど火の跡が露骨でなく、穏やかで親しみがもてる感じがしました。
いずれも4月1日まで。
「道内美術館のスケジュール」に、木田金次郎美術館と旭川美術館を追加しました。
3月29日(土)
30日でおわる展覧会のつづき。
藤女子大学写真展=札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階)
11人が出品。そのうち、アルバム形式でサービスサイズの作品を出品した数人をのぞけば、全員がモノクロプリントという意欲的な展観。焼きもきれいでした。
題材は、どうしたわけか、沖縄の写真が半分以上を占めています。
藤女子といえば、地味な風景が多かったのに、今回は亜熱帯してます。明るいです。まあ、むかしのくらいのも、けっこう筆者は好きだったりしますが。
北側恵世さん「眩暈(めまい)」の、植物のむんむんとした繁茂ぶりを表現した作品や、カエルの置物が印象的な生田紗苗さんの連作などは、人はいっさい画面にいれない或る種の静謐さが、藤女子らしいといえばらしいですが。
なんといっても、真鍋心さんのブタが印象的でした。「2−3割引」「見なきゃ損」という、ブタの頭の周りに書かれた文句もすごい。
紅露亜希子さんが、3人の女性モデルを使って19枚の作品をならべています。
「女性の肌のきれいなところを出したかった」
と作者の弁。学生離れした完成度ですが、このまま行くとコマーシャルフォトに陥ってしまうような気もします(コマーシャルフォトだからダメだという気はありませんが)。
ともあれ、北海学園大U部や北星などがリードしてきた札幌の学生写真界に藤女子が本格参入(というのもヘンな表現ですが)するのろしのような展覧会だと思いました。
関連ファイル(ただし、画像なし。記述短め)
■つれづれ日録2001年4月
■同 02年3月後半
第28回 岸本アトリエ画塾展=札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
岸本裕躬さん(札幌。行動展会員)の絵画教室展。100人近い出品者です。
油彩は意外とすくなく、水彩が大半。また、風景画が多くを占めています。
読売書法展の巨匠と道内出品作家による第8回北海道秀作展=同
戦後、新聞社で書壇の発展に尽くしてきた社といえばまず毎日が挙げられ、「毎日は書家が購読しているぶんが大きい」とまで言う人があるくらいですが、近年どうしたわけか読売がこの分野に進出を果たしています。
しかし、全体的に新傾向の作品はなく、肩書きも日展のようになんだかやたらといっぱいあり、読売新聞社が日本の書文化にどういう役割を果たしたいのかはさっぱりわかりません。
文化勲章受賞者・村上三島さんの、まるで初心に返ったかのような伸びやかな作品がありました。
天が私に九十代の餘生を残してくれるならば過去を顧み より高い境地を求めてせい一ぱい生きたい
ちなみに、これまで文化勲章を受章した書家は3人しかおりません。村上さんは唯一の現存者です。これは、日展系洋画家や純文学作家にくらべると、ずいぶんな冷遇だと思います。
それはさておき、道内の理事4人のうち2人がかな作家ということもあって、道内出品分は半分以上がかなの作家です。
力強くカキカキっと筆を運ぶ阿部和加子さんと、丸みを帯びた字体に特徴のある田上小華さんと、ふたりのかな作家は、なかなか対照的な個性。のこるふたりは、多田博英さんと八巻水鴎さん。
3月28日(金)
30日で終わる展覧会をあわてて見たけど、積み残しが出てしまいました。
なお、きのうの文章は、一部寝ぼけていて日本語になってなかったので、手直ししています。
art-movement ♯1=ギャラリーART-MAN(中央区南4東4)
千葉英希、椿宗親、丸勢文現、野口耕太郎の若手4人によるグループ展。
丸勢さんの平面が、抽象絵画として秀逸。青と銀を主体に、細長い矩形を斜めにおびただしく重ねた図柄は、抽象表現主義ふうであり、運動感に富んでいます。
野口さんは金属と木工の立体。テーブルは、表面にたくさんあけられた穴に、ビー玉やおはじきをさしこむ仕組みになっていて、全体は優美な形です。
伊藤幸子・新保恭子2人展=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階)
道教大の特美(いまの美術コース)で同級生だったふたりの展覧会。
伊藤さんは彫刻で道展会友。新保さんは北海道金工作家協会などに出品しています。
写真の右側は、昨年道展会友賞を受けた「カイスイヨク」。石膏作品です。
「どうして着彩するんですか」
と訊いたら、伊藤さんの場合は、削ってからも表面に鉛筆やチョークで線を描きながら制作したり、傷つけたりするので
「マチエールが目立つようにしたかった」
とのこと。なるほど。色を塗ると、白いときには気づかなかった細かい傷などが見えてきます。
一方「樹の子」など、ブロンズの、優美な首もあります。
新保さんは鉛が中心。鉛にしたのは、流したり、音を立てたりしなくても良い素材ということで、はさみで切れて洋裁感覚でできる−ということが理由のようです。
写真左側の「glowing up」は、子どもの服をハンガーにかけたところみたいですが、フードの部分に時計がついているのがユニーク。ほかにも、仕事から帰ってくたびれたお父さんを表現した「A
Hard Day's Night」など、感覚が主婦・母親的です。
ほかに、アンディ・ウォーホルへのオマージュとして、キャンベルスープ缶が平面から立ち上がってくるさまを7場面で表現した連作「Dear Andy Warhol, I just like it,too」など。
星の七宝展 飯沢能布子=同
空知管内長沼町在住、道展会員の七宝作家。
飯沢さんは以前から星座や、女性天文学者のはしりであるハーシェルを題材にした七宝作品(壁掛け)を多く制作しています。
今回つくづく感じたのは、飯沢さんの(良い意味での)マニアックさです。
ふつう星座をテーマにした作品って、黄道十二宮(星占いに出てくる12の星座)ぐらいであることが多いんですが、飯沢さんの作品の題を見ると
「はと座」
「コップ座・からす座」
「きりん座としし座流星群」
「くじら座とLINEAR彗星」
といったぐあいで、かなりの星座好きでないとわからないですね。また「くじら座…」には、周辺のうお座やエリダヌス座がちゃんと描かれています。このあたりに、飯沢さんの、星にかける思いがつたわってくるし、だからこそ昨年、専門誌「月刊天文」の表紙を飾ることができたのだと思います。
もちろん、七宝独特のうつくしい発色をした、花の絵の壁掛けや、アクセサリー類の展示即売もしています。
(ちなみに「はと座」は、オリオン座の下の「うさぎ座」のさらに下に位置する星座。コップ座とからす座はともに、春の南天でうねうねとうねる「うみへび座」の背中に乗っている小さな星座。くじら座は秋の南天を飾る星座で、有名な変光星ミラがある)
第20回記念尚志会書展/第5回記念石田壱城と信子の書と表装展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)
石田さんは北広島在住の書家。信子さんは奥様。
12歳で桑原翠那さんに書を習い始めて半世紀、信子さんが表装を始めて15年などなど、記念の年だそうです。
「和敬清寂」のやわらかい筆致にはオーソドックスな表装を、「雲」にはオレンジの鮮烈な表装を−といった具合で、ふたりの息の合っている様子がうかがえます。直線が目出つ「竹林秋」には、バックに緑の布を斜めに貼るといった「わざ」も見せています。
その石田さんの指導する尚志会。全員が漢字です。
秋田孝徳さん「雲十一体」、早坂壱陽さんの「風九体」、斉藤大孝さん「壺九体」がおもしろい。おなじ字を、さまざまな字体で書き分けています。といっても金文とかではなく、行草書でバラエティーに富ませているのです。
戸塚秀清さん「心織畊筆」、野村恵果さん「楽寿」など、字のバランスが気に入りました。
渡辺静澄さんもリズミカルな速筆です。
田村須眞子個展=ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル)
花や風景などを描いた油彩(一部水彩)が45点ほど。ぼわーっとした、ふしぎな画風です。
ハスの花がうかぶ「道庁池」などを見ていると、モネみたいだなーと思うのですが、いちばん多い花瓶の花の絵を見ていると、これはありそうでなかなかないタイプの絵だなという感じがしました。
「いっぺんに仕上がるということはなくて、何度も筆を入れます。はじめはモティーフを見ているのですが、筆をくりかえし入れるころになるとあまり見ません。見ると、絵がかたくなってしまってダメなんです」
個展は3年ぶり、5回目。無所属。札幌在住。
西井文知子作陶展=同
ユニークな展示の陶芸展。荒々しい信楽ふうの花器に、電気仕掛けで水がつねにながれおちる仕組みをつくったり、鳥の絵付けのオブジェを壁一面にずらりとならべたり。かなり「あそび」のある陶芸展でした。
第1回ホッホ3人展=札幌市資料館(中央区大通西13)
油彩のグループ展。
百瀬京子さんだけが穏当な写実風の絵で、のこる小笠原弘子さんと木本アツ子さんは、ピカソや万鉄五郎を連想させるキュビスムふうの作品。輪郭を強調して画面にリズムをうむのも万ふう。
小笠原さんの母子像には「NO WAR」という題がついていました。あるいは、道内でもっとも早いイラク戦争への反対の絵画かしらん。
つづいて来週までの展覧会。
竹津昇水彩展 MADRID FREE TIME(水彩の旅)=ギャラリーユリイカ(中央区南3西1、和田ビル2階)
ここ5年ほどの、欧州への旅を題材にした水彩や油彩が展示されていますが、近作のほうが雰囲気が出ています。「ANIOMの広場」など。
4月6日まで会期が延びました。
高田稔個展=ギャラリーたぴお(中央区北2西2 道特会館)
ちょっとなつかしい子どもの世界を描いて毎春この時期に個展をひらいている高田さん。
ことしは複数のキャンバスによる作品にいどんでいます。
ふたつのキャンバスが、ちょっと間隔を置いて展示され、その間を空想でおぎなえるようにしたものもあれば、海浜の風景を、四つのキャンバスをつらねて描いたものもあります。これは、キャンバスひとつずつでも作品として自立するのがおもしろいところです。
手前の女の子はGジャンを着ているので、この絵の舞台がすごく昔だということはないと思います。が、北国特有の鈍い光とあいまって、どこかなつかしさをただよわせています。それと同時に、男の子の存在や自転車などが、背後に隠された物語を感じさせます。
今回の高田さんの個展は、ただ子どもの絵をならべただけでない、意欲を感じさせるものになっていたと思いました。
4月6日まで。
季刊フリーペーパー「elan」入手。
穂積利明さんと伊藤隆介さんの対談がおもしろい。というか、この水準の言論って、これまでの道内の美術界にほとんどなかったものじゃないだろうか。
3月27日(木)
きょうは北区特集です?
写真展「三月・四人展」=北大大学構内「ファカルティハウス・エンレイソウ」(北区北11西8)
北大の学生である齊藤市輔、原田玄輝、宮本朋美、庭亜子の4氏が出品しています。すべてモノクロで、焼きはわるくないです。
斎藤さんは「あかり」と題した連作。得意の夜の風景です。
この人の手にかかると、ふだんはそれほど美しくは見えない、工事現場とか、客待ちのためとまっているタクシーのあんどんといったものが、静かで崇高なものに見えてくるからふしぎです。小樽運河の「雪あかり」の写真は文句なしのうつくしさです。
原田さんは、撮影した年月を記したシンプルな風景写真をならべていますが、やはり「2001年9月」と題した写真には考えさせられます。屋上のようなところに立てられたアンテナ用の(?)鉄塔は十字架のように見え、そのたもとにいる人物は、夕空に肉体をなかば透けさせているようです。
これは、どうしても、米国の同時テロへの鎮魂に見えてしまうなあ。
28日まで。
村上雄山 能面展 現と幻〜幽玄の世界〜=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1)
富山の能面作家の個展。14点。
札幌で能面の展覧会がおこなわれるのは5年ぶりのことだとおもいます。
筆者は、能面といえば、“表情中立”というか、角度や照明によってさまざま表情に見えるのが特徴だとばかり思っていましたが、今回のははじめから表情がいくらかついているようです。
「般若」はやはり恐ろしいし、「白式尉」は笑顔とひげが楽しげです。
4月6日まで。
立木義浩「Live?」写真展=キヤノンサロン(北区北7西1、SE山京ビル)
立木(たちき)さんは1937年生まれ。人物写真など、第一線で活躍中であることは言うまでもないでしょう。
今回の写真展は、昨年の12月から全国6カ所のキヤノンサロンを巡回してきて、札幌が最後の会場です。
夢を追ってがんばっている人たちを、ポートレートや、その人が働いている場所の雰囲気などが分かる写真などを組み合わせて構成しています。プロスキーヤー、レコード店主兼大学講師、看護師、ライフセーバー、パントマイム、温泉でアルバイトしながらサッカー選手… いろんな人がいます。札幌出身のシンガー・ソングライター志望、奥山友美さんという方も被写体になっていました。
どの人も笑顔がイイです。写真展全体にあふれる楽天的な調子。人間という存在を、心の底から信頼している立木さんという写真家の心根が感じられます。
もう一つおもしろいとおもったのは、夢をめざしてがんばっている人って、10、20代というイメージがあるけれど、今回被写体になった33人のうち、21人が30歳以上なんですよね。なかには、筆者より年上の人もいます。これって、なかなか勇気付けられます。「あなたも生きてるかい?」という励ましになります。
28日まで。
ダム・ダン・ライ VIETNAM EXPRESS=TOM’S CAFE(北区北6西2、パセオ地下1階)
碓井良平さんらのつくる「Paint Box」による絵画展。今回は、1973年ベトナム生まれ、札幌在住の抽象画家の作品です。
碓井さんたちの絵が、けっこう激しいタッチをもちながらも喫茶店空間にすっかり溶け込んでいたのに対し、ライさんの絵は、自らが絵であることを主張しているような絵です。情熱的な線や色がほとばしり、そこらへんの空気をざわつかせているような感じがあります。
4月10日まで。
北海道教育大学札幌校美術科一年生展=札幌市資料館(中央区大通西13)
まあ、若いからこれからぐんぐん伸びる人もいれば、意欲がなくなってしまう人もいるでしょうから、いまの段階で即断はできませんが、ことしは、油彩の水準の高い人がけっこういました。
佐藤裕一さん「朱に交われば」は、うずくまった裸の人間を背後から描き、人の苦悩を寒色を用いて表現した作品のように見えますが、まわりにカニがただよい、裸の人間の背にもカニの甲羅のとげがはえてくるという、ヘンな絵です。
船山千郁さん「静謐」は、緑地の中のベンチに腰掛けた白衣の女性が古楽器をつまびいている図で、学生がこれほどまでに、いわゆるアカデミズムの手法を取り入れているというのは初めて見ました。うまい。松田郁美さん「明け」も、とまと農家の不安と喜びをあらわしているのでしょうか。これまた達者です。工場地帯を描いた笠見康大さんも完成度高いです。
29日まで。
サーバーの容量の限界にたっしたので、プロバイダーに追加を申し込みました。(月160円よけいにかかるけど)
きのう一部見られなかったこのファイルの写真についてもたぶんちゃんとアップされていると思います。
3月22−26日(土−水)
22日から23日、函館に行ってまいりました。
その前に、札幌で開催中の展覧会から。
JAMANI「JAMANI スペース」=Free Space PRAHA(中央区南15西17)
とにかくいろんな種類の作品のある個展。
絵画、いす、自ら考案した楽器、くつ、置物、石製の絵皿、かんざし、マネキンのような人形などです。
JAMANIさんはプラハのなかのアトリエに住んでいますが、店のインテリアや、演劇の美術・道具などを担当し、いわゆる美術のフィールドとはややちがったところで活躍しています。
たとえば、南2西1の、マクロギャラリーのある建物(レストラン、ヘアサロンが入っている)の内装なども彼が手がけたそうです。来月、シアターZOOでおこなわれるTPSの演劇公演にもたずさわっているそうで、舞台でつかわれる予定のいす(キャスターつきの風変わりなデザインでした)なども展示されていました。
そのためか、ふだんはあまりギャラリーでは見かけないようなお客さんがつぎつぎと見に来ていました。
下駄のようにかかとが高いけれどちゃんと履けるくつとか、パーカッションつきギター、馬頭琴の馬頭が竜の頭になっている楽器(いずれもちゃんと弾ける)楽器など、美術の世界のなかだけにいてはちょっと発想が出てこないような作品には感心させられます。
筆者は、むつかしいりくつなしでは理解できないような現代美術をけっして否定はしませんが、こういう、個性的でいて、多くの人に支持される(ジャマニさんは、こういうものづくりで生計をたてている)作品ってすごいなー、とおもいます。一見の価値ありです。
30日まで。
一の会デッサン展=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
道新文化センターの、谷口一芳さん(春陽会会員、全道展会員。札幌)のデッサン、クロッキー教室でまなんでいる生徒さんたちの作品展。44人が83点を出品しています。
裸婦が大半ですが、ピスチェを付けた女性の像も何点かあります。作風も、陰影をまったくつけずシンプルに線描だけで表現しているものや、炭でていねいに影をつけているものなど、多彩です。
もくじのページにも書きましたが、発表会が20回目をむかえたのを記念した素描集が発刊されました。1993年につづき、2冊目です。谷口さんや、OBのデッサンも収録されています。
作品もさることながら、巻末に、いろんな本から抜粋したデッサン論が掲載されています。三雲祥之助、レオナルド・タ・ヴィンチ、ジャン・コクトー、鬼丸吉弘といった人たちのことばです。さらに、デッサン関連書目のリストも充実しており、80歳をすぎてなお絵画の基本を追究してやまない谷口さんの姿勢には、頭の下がる思いです。
第19回 Bridge展=同
絵画のグループ展。毎年メンバーはすこしずつ入れかわっているそうで、ことしは女性ばかり5人です。いずれも、写実的ではないタッチの油彩にとりくんでいます。
片山美代さんの「ピアノを弾く人」は、題名のとおりピアノを弾く男性を斜め後ろから迫力ある構図で描いたもの。後藤やよいさんは、キャンバスに発泡スチロールを貼り付けた半立体作品で、宇宙の生成をイメージした抽象作品です。
岡和田暁子さんは静物、武田直美さんと原田渥美さんは風景で、いずれも、色と形の効果を考えながら、モティーフを画面に配置しています。武田さんの絵は、冬山のきびしさのようなものがつたわってきます。
第8回グループWho展=同
石部セツ子、時川旬子、加賀ケイ子、松下比砂子、笹尾ちえ子、花山幸子、宝示戸美世の7氏による絵画グループ展。こちらも、Bridge展とおなじく、全道展に入選めざしてがんばっている人が多いようです。
笹尾さんはことしも湿原に題材を得た風景画を2点出しています。これまでもいろいろな試みをおこなっていましたが、ことしはいちばん素直な構図になったとおもいます。田辺三重松などの日本的フォーブというものの伝統をうけついだ作品といえます。
日本画のんびり7人展=同
北海道教育大学札幌校日本画研究室の2年生によるグループ展。
題名のとおり、のんきな感じの花鳥画、風景画が多いです。
きくと、2年生7人も、のんびりとマイペースな人ばかりだそうで、こういうグループ展の名にしたということです。
日本画研究室の最後の学生ということで、はっぱをかけてきました。
池田さやか「マロンとカシオペア」「温」「華」
今野美緒「桜さくら」「そら」
為口沙衣「犬U−M・賢治のおひるね」
内藤まゆ「しゃぼん」「青い小鳥」
新野友子「流れ」「うつむく」
村木愛「遥か」
桝本士乃「深呼吸」
いずれも29日まで。
それでは函館の話。
民宿美術=(函館市元町24の17)
一昨年、札幌の道教育大学生(当時)の6人で結成されたアートグループ「loppaco(ロッパコ)」のあらたなプロジェクト。
生活のにおいの残る民家に滞在しながら制作することで、作品と環境について考えてみようというもので、ロッパコのメンバーや、札幌、帯広、山形、北九州、埼玉、鹿児島などから多数の作家が参加しました。
函館・元町は、函館山ロープウェイの駅やハリストス正教会などがある、歴史の古い街です。
近年は観光地として有名ですが、いまはあたらしい住宅が市の北部や東部にひろがっているため、高齢者の多い地区になっています。
もともとロッパコは、一昨年の夏、今回の会場のとなりにある民家を2日間借りて、パフォーマンスなどを行ったのが活動のスタートでした。
今回の会場は、さらに古い木造平屋でした。
筆者は一昨年はこの目で見ることができなかったうえ、ことしも、21日のパフォーマンスなどは見ていないので、きちんとした比較とか評価はできないということをあらかじめおことわりしておきますが、それでも今回は、地域とのかかわりが稀薄だったことはいなめません。
前回のように、地域住民をまきこんだパフォーマンスなどはすくなかったようです。
山形の鈴木順子さんが、山形市内で展開したパフォーマンスのビデオがながれていて、これは、円筒形の布の中に人が入って街路を歩くという、コミュニケーションを考えさせるユニークなものでした。23日は函館市内でもおこなう予定だったそうですが、彼女は体調がわるそうで、時間や場所などを聞けないまま会場を離れてしまったので、じっさいにおこなわれたかどうかはわかりません。
ともあれ、道内でも特異な景観と歴史的背景を持つ元町地区を会場にする必然性がうすくなり、いささかもったいない話です。
また、ただでさえ狭い民家を宿泊にももちいたので、作品を展開するスペースがわずかになってしまい、「見ばえ」という点では、つらいものがありました。
そのなかで、しっかり自分の場所を確保していたのは、はるばる鹿児島から参加した土居康紀さんでした。
床の間には
「解き放たれたい」
と書かれた掛け軸をかけ、その下に、土居さんがサラリーマン時代に交換した名刺約100枚がちらばっています。
「この人は、解き放たれたがってるなー、という感じの人の名刺をえらんで持ってきたんです。でも、旅が終わるとぼくと一緒に九州まで帰らなくちゃいけない」
筆者のような中年オヤジにはしみじみとくるインスタレーションでありました。
彼は、いまどきめずらしい汲み取り式便所にも、およそ40個のトイレットペーパーホルダーをずらりと設置。当初きちんと、端を三角形にしていたトイレットペーパーが、時間の経過でどのようにみだれていくのかをテーマにした作品を発表していました。
ロッパコのリーダー宮嶋宏美さんの、皿をつかったインスタレーションもおもしろかったです。
見た目には、ただ、いろんな人から借りてきた皿を陳列してるだけなんですが、その横に、その皿が、嫁に行くときに親が持たせてくれたものだとか、働いていたお店の床下から見つかったものだとか、由来が書いてあるのです。「たかが皿」にも、その人その人のいろんな物語がかくれているんだなー、と、シンプルながらしみじみとさせられる作品でした。
北九州の阿部幸子さんは、各作家にインタビューするビデオ作品を制作していましたが、どうなったでしょう?
パーティー(22日夜)では、いろんな参加者とふとんのなかで一緒に語りあう、同衾プロジェクト(と筆者が勝手に名づけました)を展開していました。
本来なら、もっといろんな作家に話を聞くべき立場にある筆者が、作家といっしょになって酒を飲んでわいわいとしゃべっていたという点については反省しています。
どうも午前3時半くらいまで、数人と飲んでたようなのですが、ここで出た話は
「(九州にくらべると)北海道の作家はおとなしい! 会っても、作品について語り合わない!」
というものでした。
うーん、たしかにそのとおり。
なお、この「数人」が翌日死んだようになっていたのは、言うまでもありません。
参加者は次の通りです。(五十音順)
阿部幸子、阿部ナナ、大橋拓、岡和田直人、樫見菜々子、川村亜水、工藤一大、黒田晃弘、小林麻美、齋藤信一、佐竹真紀、白戸麻衣、スズキ順子、仙庭宣之、土居康紀、野上裕之、久野志乃、VF(佐々木玄、内田享輔)、宮嶋宏美、武藤浩大
ようするに「民宿」は「雑魚寝」だったわけで、二児の父である38歳の筆者が若者たちと酔っ払って話しているというのは思い返すだにきみょうな光景ですが、ともあれ、結成当時みんな学生だったロッパコのメンバーも、いまや院生や社会人になりつつあり、学生のような時間の使い方で作家活動をつづけていくことはだんだんできなくなってくるわけです。ここで、志をどう持続させていくのかは、たいへんな問題です。あの川俣正さんですら、40歳くらいで東京芸大に迎えられるまでは、レジデンスなんかをわたりあるいて不安定な日々を暮らしていたわけで、北海道などの地方では、生活していくことの困難さはますます大きいわけですから。
なお、ロッパコのこれまでの活動については、PRAHA PROJECTのウェブサイトをごらんください。
さて、函館で見た、その他の展覧会。
オプ・アート展=道立函館美術館(五稜郭町37の6)
道立近代美術館(札幌)が所蔵する、ヴィクトル・ヴァザルリ、ヘスス・ラファエル・ソト、ヤーコブ・アガム、リチャード・アヌスキウィッツ、ブリジット・ライリーの計43点と、ジョーゼフ・アルバースのシルクスクリーン11枚からなる展覧会。
同美術館がオプアートを収集していたのは知っていましたし、今回の展示作品のうち何点かは「これくしょんぎゃらりい」で見ていましたが、こんなにあるとは!
近代美術館でも、まとめて展示をしたことはなく、しかも、アルバースの版画はまだたくさんあるそうです。
スケジュール表では、「目がちかちかする美術」などとしょーもない説明をしてしまった筆者ですが、図録の「ごあいさつ」に、もっとちゃんとした定義があるので引用してみます。
オプ・アートは、幾何学的図形や波状パターンのシステマティックな配列によって、錯視や目眩(めまい)などの生理的効果を起こし、網膜としての視覚に直接訴えかけるものなのです。
しかも、視覚が刺戟(しげき)されるだけじゃないんですよね。
見ているうちに、こちらのカラダがゆらゆらしてくるような感覚が味わえます。とくに、ライリーの「アレスト T」などは、まるでキャンバスが波打っているように見え、見る側もふらふらしてきます。
アガムの平面作品は、見る角度によって絵柄が変わって見えるという、キャラメルのおまけにありそうなチープな感じですが、立体「鼓動する心臓(ムード)」は、監視の女性が動かすとじつにきれいなウェーブをつくりだしていました。
なお、図録には、中村聖司さん(近代美術館)と穂積利明さん(函館美術館)の両学芸員による興味深いテキストが掲載されています。図録は、近代美術館の資料コーナーなどでかんたんに閲覧できますので、ぜひごらんください。
23日まで。
国井しゅうめい水彩画展 色紙==国井しゅうめい水彩画コレクションギャラリー(松風町6、ギャラリービル6階)
国井さんは函館の水彩画家。函館や札幌で水彩画教室を開く一方で、合気道を教え、ピアノ弾き語りまでこなすという方です。駅前の百貨店「ボーニモリヤ」のすぐ裏側に、国井さんの作品を常設する展示場ができました。
いまひらかれている展覧会は、色紙や小品が中心ですが、「納屋」という大きな絵も展示されていました。いろいろな道具が置かれた納屋の内側と、外の景色を描いた作品です。中と外ではかなり明るさの違いがある場面ですが、内側も暗くなりすぎず透明感をなくさずに描いているあたりは、国井さんの面目躍如です。
30日まで。
25日で終わった展覧会についても書いておきます。
野田四郎&豊子二人展=アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル)
2年ぶりの夫婦展。四郎さんは、山や花の水彩にくわえ、今年は水墨もあります。豊子さんは書。四郎さんの詠んだ漢詩を書いたものもありました。感情をほとばしらせるのではない、ていねいな筆使いです。
studio未来「未来展vol.1=同
サムホールのキャンバスを裏返しにしてちいさなオブジェを貼り付けた「四季」の連作がかわいらしいです。ほかに、ビーズをつかったアクセサリー、布絵など。
「未来」というのはお名前なんですね。毎年、コンチネンタルギャラリーで元気な展覧会をひらいている女性の異業種交流グループ「こすもす」のメンバーでもあります。ウェブサイトはこちら
第3回北海道二科支部展(絵画)=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)
有名な全国公募展「二科展」の出品者が描いた、油彩の大作がならんでいました。
会員は、帯広の園田郁夫さんひとり。
前回、抽象の力作を発表していた園田さんですが、ことしの「砂漠の詩」は、いつもと同様な、砂漠の女性たちをモティーフにした異国情緒ある画風にもどっています。
会友は3人。そのうち、熊谷邦子さん(札幌、全道展会友)は「森の祝い日」「森の祭日」の2点を出品。前者は、立ってこちらを見つめる、白い肌をした裸婦を中央に、熊やアカゲラ、キツネ、鹿、カエル、フクロウといった動物たちが集まってきているという絵です。バックの木々は、表面の絵の具をひっかいて描かれており、いかにも北海道らしいイメージを表現しています。
ほかに、飯田由美子さんが「夏よぶ風T」「夏よぶ風U」、柴崎康男さん(伊達)が「秋刀魚船のある風景」を出品しています。
一般の出品作はつぎのとおり。
新井千鶴子「白いテーブルと魚」(同題3点)
亀井由利「REVERSE」
高橋記代美「マリオネット」(同題3点)
大築笙子「サボテンと女」(同題2点)
澤田和子「三重唱(春のうた)」「冬ごもり」=案内状には「沢田」となっていました
滝牧子「郷愁」「刻」
小川清「SOLITUDE 03T」「SOLITUDE 03U」「SOLITUDE 03V」
山田美代子「風の行方U」
秋庭幸美子「湘風」「森」「海」
小柴弘「十勝岳五月」「十勝岳十一月」
3月21日(金)
23日終了の展覧会をいくつか見てきました。
おっと、道立近代美術館の「OUTSPOKEN GLASS」展も23日で終わりです。まだの人は、ぜひどうぞ。おもしろいですよ。
とうとう「展覧会の紹介」、会期内に書けませんでしたけど m(__)m
北海道教育大学札幌校 視覚・映像デザイン研究室展=コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階)
動画がおもしろかったです。
4年生の大村敦史さん「VISONS OF MARS」は、本格的なアニメ。ふしぎな巨大動物と女の子との旅。あかるい色調が魅力です。ただ、ラストの、ハンマーみたいな機械の出てくるシーンはちょっとなぞがのこります。
坂井抄織さん「A WOMAN OF LIFE」は、フィルムを映写したものをわざわざビデオにした作品。フリッカー現象っていうんでしょうか、チカチカが妙な効果をあげてます。あいかわらず編集は達者。
広島祐介さんのアニメも、よく知られた物語(アルキメデスの「ユーレカ」)などを下敷きにしており、なんとなく夢をかんじます。
3年の近藤寛史さん「Work From Teine Remix」も、おもしろい。札幌近郊のJR線の車窓風景が素材なのですが、だんだん風景が横に輪切りになってきて、ビルがずれたり、別の風景がまじったり−と、変容していきます。見慣れた風景の再発見。なんたって、映画の起源は、演劇というより、鉄道の車窓風景ですからね。ただ、リミックスじゃないほうの作品はちょっと長い。
横濱志織さん「終わりのイメージ」は、ポラロイドによる写真の平面インスタレーションふう展示。似たようなイメージがくりかえし出現するのが特徴的。
教官の伊藤隆介さんは「RIGHT WARD(右へ)」という、CCDカメラでおもちゃの兵隊を写した映像をモニターで見る作品です。タイムリーというかなんというか…。でも、ちょっち手抜きというか。お忙しいんでしょう。
久保昭・哲哉の書展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)
墨人所属の墨象作家二人展。
昭さん「梢」は、大作(280×360センチ)ですが、墨象としては、余白の美を感じさせる作品です。計5点。哲哉さんは「無」など6点です。
安達久美子個展=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階)
道展入賞作の「待春」など。おだやかな筆致の油彩の風景画がならびます。
庄内綾子作品展(水彩)/小松重夫・凌子作品展(油彩、水彩)/小松平国子・高桑みち子二人展(水彩)/広地登志子油彩展=ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル)
たぶん、みなさん、酒井芳元さんの生徒さんたちだと思われます。ほとんどすべて、風景画の小品です(静物、人物はまったくといっていいほどない)。
いずれも写実的で、紫や緑の微妙なにじみの活用は師匠ゆずりのようです。
これくらい描ければ、たのしいだろうなあと思います。
庄内さんは、「江別冬道」「オタモイ岬」など、グレー系の使い方が絶妙。精緻でリアルな画面にはおどろきました。
小池さんは、凌子さんが油彩、重夫さんが水彩。空をおもいきって広くとった構図の「冬の摩周湖」など、重厚なタッチです。
小松平さんは、合掌造の民家を描いた「冬景色」など、本州の風景をモティーフにした作品もあります。「流氷 網走」は、エメラルドグリーンの配置がうまい。高桑さんは、全体にハイキーぎみなのが特徴。「さくら並木」など、木々は太い筆でたっぷりと描いています。
広地さんの「厚田の菜の花」は、春を迎える喜びを感じさせるあざやかな黄色が印象的でした。
ギャラリーのサイトに作品画像がアップされています。そのうち、YONEさんが大和画材のサイトにたくさんアップするでしょう(?)
3月20日(木)
訃報です。
旭川の書家、塩田慥州さんが亡くなりました。97歳でした。
塩田さんは北海道書道展の顧問であり、59年に開かれた第1回の同展の審査員でもありました。
安元亮祐 新作札幌展=エルエテギャラリースペース(中央区南1西24、リードビル2階)
1954年生まれ、茨城県在住の版画家。道内でははじめての紹介になります。
銅版画のほか、コラグラフ、壁に掛けられる木彫(彩色)、アクリル画、ドローイングなど、盛りだくさんの個展です。
アクリル画のうち、花瓶に盛られた花を描いたものが、「蒼い刻」「蒼い希望」「砂漠の花」など、何点かありました。
背景はペパーミントグリーン系の微妙な色で、花も、この世のものとは思われない、不思議な存在感があり、個性的です。
ご本人は
「画家はだれでも花を描くでしょう。とくに意味はない。自分のなかにある花を描いています」
ということです(聾唖者なので、東京・不忍画廊の方に手話通訳をしていただきました)。
「アクリル・コラージュ」と表記されていますが、よくある、英字紙を貼ったようなものではなく、紙を小さくちぎってアクセントにしたり、タバコの吸殻を薄い輪切りにして画面に凹凸をあたえています。
そういったくふうにより、独特のマチエールをかもし出すことに成功しています。
また、家の屋根に十字架が立っていたり、オーラをいただいた聖人のような人物が描かれたり、どこかイコンのような雰囲気のある絵もあります。家や人物、雲などの配置が効果的なので、3号の小品が大きく見えるのです。
安元さんは北海道にいらっしゃるのは30年ぶりだそうで
「こんなに雪が残っているとは思わなかったけど、茨城のほうが寒い」
とのことでした。
30日まで。
under23=CAI(中央区北1西28)
毎年恒例の、23歳以下の若手を対象にした展覧会。ことしは、寺林陽子さんや益山育子さんなど、卒業展とか修了展なんかで見たことのある作品が多いなあ。
道幸学さんの大きなインスタレーションは、いすに座ると金具があがって音がちょっとするのだけど、大掛かりなわりには意外と動きがすくない。
杉野公亮さんは、札幌高専の卒業展にもインタラクティブなアニメーション(おなじ作品)を出していたけど、パラパラマンガが断然おもしろい。傑作です。
23日まで。
水谷のぼる小品展=珈琲円山社中(中央区南4西23、アーバン表参道)
小樽在住の彫刻家。
対になっているブロンズ像「金の月光」「銀の月光」が目を引きます。直方体のような細長いかたちにデフォルメされた人物像であること、そして、頭の上に三日月をのっけているところは、いかにも水谷さんらしいです。
彫刻の小品10点のほか、やはり角張った顔をした人物をモティーフにしたレリーフ11点、素朴な味わいのクレヨン画が6点。クレヨン画の「夜」は黄色いやかん、「山の道具」はアルコールランプがモティーフですが、どこか畦地梅太郎なんぞを思い出してしまうのでした。
31日まで。
道内の美術館のうち、道立近代美術館、三岸好太郎美術館、帯広美術館、市立小樽美術館の来年度のスケジュールが入手できましたので、とりあえず2003年度のスケジュールのページを新設しました。
各美術館の方、よろしければメールにてスケジュールをお知らせいただければ助かります。
また、ちょっと早いですが、来月の札幌圏のギャラリースケジュールのページもつくりました。まだ市民ギャラリーなどが不完全です。判明ししだい、補完していきます。
3月19日(水)
イラスト展 クローバー=ほくでん料理情報館MADRE(中央区北1東4、サッポロファクトリー・一条館3階)
今直美さんのイラスト展。水彩(?)が23点と、粘土でこしらえたとおぼしきレリーフ状のイラストが6点展示されています。
水彩は、輪郭線をはっきりかき、明るい色彩でまとめた、おだやかな画風です。物語が感じられる作品が多いのが、気に入りました。
「忘れたい事」は、野原で靴を脱いで座り込んでいる女子学生がモティーフ。上から俯瞰した構図が新鮮で、表情はわかりませんが、彼女の悩みみたいなものはつたわってきます。
「父さん」という絵は、大きな窓のある居間にすわって、はさみを手に、小鳥のいる窓のほうを見ているお父さんの図。こちらも表情はわかりません。テーブルの上には「ボンド」とかかれた大きな入れ物がおいてあります。今さんのお父さんって、紙工作が好きだったんでしょうか。
「7月の夕方」は、居間の大きなラジオに、家族4人が耳を傾けている図。日めくりには「昭和12 10月10日」とあります。とても37歳の人の作品とはおもえない。
また、23点のうち12点は、COZYという名の、クリーム色の豆腐に手足が生えたような妖精が活躍する図です。
30日まで。
佐々木匠写真展=札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階)
「連なり」をテーマにした、カラー30点。
前半は、洞爺湖と空をうつした写真が中心。後半は、四季のナナカマドや紅葉がメーンです。
とくに、あっとおどろくような作品をねらっているのではなく、月夜を長時間露光で撮ったり、複雑な雲のかたちをとらえたりといった、だれでも見覚えのある感じの風景が多いです。その点、親しみやすい写真だと思いました。
佐々木さんは札幌在住。「週末は毎週のように洞爺湖に行ってました」と話していました。
23日まで。
’03-1 31期生FURANO美術展=札幌市資料館(中央区大通西13)
昭和31年(1956年)に富良野高校を卒業した7人によるグループ展。
版画、絵画、書道、写真と多彩ですが、坂尻覚さんの彫塑「K君」「F子」「バレリーナ」が、たしかな写実の腕で、会場をきりりと引き締めていました。
卒業から半世紀近くたっても、こうやって展覧会ができるなんて、すてきなことですね。
23日まで。
川上りえさんのワークショップの報告のページをつくりました。ごらんください。
また、きょうの「つれづれ日録」は、イラク反戦の大特集です。
3月18日(火)
まずはきのうの続き。
東 誠展=ギャラリーどらーる(中央区北4西17、HOTEL DORAL)
東さんというと、食べ物や子どもたちが登場する、たのしくてカラフルでポップな絵画というイメージがあります。
今回の出品作でいうと、ウルトラマンや仮面ライダー(ただしうしろ姿)などのヒーローたちや怪獣がが大きなプリンアラモードの上にいる「正義の舞台」、エビフライのようにころもをつけた人間を描いた「衣をまとったポートレート」などは、たのしい作品です。
それは大筋でそのとおりだとは思うのですが、今回の個展を見ていると、かならずしもそのイメージにあてはまらない絵が、近年多くなっているふしがうかがえるようです。
たとえば「大きすぎたforce」という絵は、巨大なフランスパンのかたちをした飛行船? が中空に浮かんでいるというものです。しかし、地上に目を移すと、暗鬱な砂漠のなかに、電信柱の列がさびしくつづき、1軒の家がぽつんと立っているのが見えるのです。
さらには、「冠」。グリザイユで描かれた3人の女性。その前に、1枚ずつ白い皿が浮かび、それぞれ丸パン、魚、クリスマスツリー用の電飾が置いてあります。
そして、「冠」や「force-2」「波とともに」といった作品に共通するのは、背景で、滝のようにながれおちる黒っぽい絵の具です。
力強さが身上のフォーブ系の画家には、画面で絵の具を垂れさせたり流れさせたりする人もいるでしょうが、東さんぐらい意図的にやっている人はめずらしいのではないでしょうか。
そして、あちこちの絵に頻出するフランスパン、題の「force」ということば…。
東さんが、通り一遍の諷刺をこころざしているわけではないことはもちろんですが、かといってふつうの絵をめざしているわけでもなさそうで、見終わったあともつい、あれこれと考えてしまう個展でした。
函館在住、新道展会員。
作品の画像は、ギャラリーどらーるのサイトにあります。
31日まで。
第2回 サッポロ未来展=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
40歳以下の作家たちが、昨年第1回をひらいた大規模なグループ展。
道内在住者と、首都圏で「011展」などに参加していた道内出身の作家たちとが、ともに出品しているのが特徴でしょう。
ちなみに今年は
札幌 10
東京 8
旭川 2
岩見沢 2
苫小牧、留萌、稚内、空知管内南幌町、同栗山町 各1
となっていて、全道的なネットワークになっています。
で、結論は
昨年よりずっと良かった
ということに尽きます。
昨年は、陳列の仕方などにいささか難がありましたが、ことしは
「みんなでお金を出し合い、東京からコンテナを借り切って作品を運んだ」
という力の入り具合で、東京組と道内組に、作品の大きさの差をまったく感じません。
出品者数が若干減ったのも、会場をゆったりと見せるのに貢献しています。
また、出品分野も、昨年はやや絵画に偏った感がありましたが、ことしは、洋画のほかに、日本画、工芸、版画、インスタレーションまでを含み、多様さがつよく印象にのこりました。
そのインスタレーションですが、渡辺元佳さん(東京在住。伊達出身。1981−)の「山羊は糞を生産し続け木々を芽吹かせる。」は、電気掃除機用のものとおぼしきごみパック3個が床の上に置かれ、そのなかから、草食動物のふんのように、どんぐりが時おり、ぼろん、ぼろんと出てくるというもの。さして大きいともおもえぬパックのなかにあんなに多くのどんぐりが入っているのか−という、ふしぎな作品です。もちろん、この地球を支えている食物連鎖についてもかんがえさせられます。
こないだ、道教大の大学院修了展に絵画の大作を出品していた間笑美(はざま・えみ)さん(栗山在住。1976-)は、そのときにも出品していた1点と、未発表とおもわれる大作2点を出品。ところどころくずれているコンクリートタイルのうえに紙風船などさまざまなモティーフがおどるシュルレアリスムふうの作品で、とくに「記憶のとき」は、寝そべっている女性が左手でつかんでいる赤い布のなかに女性の顔が描かれているのがおもしろい。こういう、説明にこまる情景を、絵はさらっと実現してしまうからだ。
宮地明人さん(札幌。1977−)「day light」の迫真の描写力にはおどろきです。
札幌の美術で本を使ったインスタレーションを発表し話題をまいた竹居田圭子さん(南幌。1971−)は、おりたたんだ紙にふたりが自由に模様をえがき、終わったら交換して、相手の絵を見てイメージしたものを、その裏に描いていくというプロジェクト。どうやら相手は、おなじ町内在住の別府肇さん(昨年の展覧会はこちら)のようですが、ぜんぜんクレジットがなくていいのかしらん。
ほかの出品者はつぎのとおり。
朝地信介、石山有貴子、伊藤生野、柿本礼子、風間真悟、加藤広貴、河野健、河野紫、佐久間和子、佐藤弘法、田中怜文、中川治、中島涼沙、波田浩司、秦朋子、平松佳和、藤本太志、堀口静子、村山之都、山田啓貴、山本陽子、渡辺和弘、渡邊慶子
22日まで。
堀田真作展「So Much Water So Close To Home」=TEMPORARY SPACE(中央区北4西27)
アルミニウムの、幅数センチの板を横にならべ、もっぱら表面の光沢の微妙な差によってのみ絵柄をつくりだす絵画。
昨年、this is gallery(札幌)で発表した作品と、基本的におなじようです。
アルミの表面に塗られた透明な樹脂が、まるで水の膜のように見えます。
アルミは、にぶく光る部分のある板と、ほとんどない板とが、交互にならんでいます。前者の板の、光沢のある部分が、おおまかな模様を見せています。
抽象絵画としては、展示空間を引き締める、ミニマルな佳作だとは思いますが、どうして「絵画」というものに堀田さんがそれほどこだわるのか、筆者にはやっぱりよくわからないのです。「抽象表現主義」からさらに「pureness」をつきつめてミニマルアートに到達したモダニスムはそこでいったん収束(=終息)したのではないかというのが筆者の考えです。
隣接の「器のギャラリー中森」に、先日のthis is galleryでの個展で展示されたいすなどが展示されています。
一昨年12月「つれづれ日録」に、作品画像があります。
30日まで。
伊藤梢・片岡敏子 木彫二人展=ギャラリー山の手(西区山の手7の6)
片岡さんは、レリーフやあかりなど。
伊藤さんはちょっと変わっていて、静物画を立体におこしたような、システム手帳とか、バッグなどの造形がメーン。「Yさんからの旅立ち」などの「Yさん」シリーズと、「38歳 キャリアウーマン」女性の年齢をテーマにした作品と2系列あり、それぞれ短いテキストが附されています。
Yさんのほうは、なんだか背後にメロドラマのようなストーリーがありそうですが、筆者にはよくわかりませんでした。
おふたりとも美工展会員、札幌在住。
29日まで。
3月17日(月)
サッポロ未来展=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
富士フォトサロン新人賞2002発表展=富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館)
東誠展=ギャラリーどらーる(中央区北4西17、HOTEL DORAL)
の3つの展覧会を見ましたが、3つともすばらしかったです。
とくに、富士フォトサロン新人賞で、この賞の歴史ではじめて複数の審査員から選出された岡田敦さん(札幌)のシリーズ「Platibe」は、あまりに時代とシンクロしているすばらしい出来で、筆者はしばらくことばを失いました。
19日で終了、ということもあり
「会場へ急げ!」
ととりあえず言っておきます。
詳細はあす。
いよいよイラクへの武力行使が秒読み段階に入りつつあります。
美術家たちの反戦運動も急速に高まりつつあります。
できれば一両日中に、筆者のところにまわってきたメールを紹介するつもりです。
ただし、筆者の、この戦争にたいする考えについては「つれづれ日録」ですでに述べたとおりですので、いまこのウェブサイトとしてなんらかの運動に加担する予定はありません。ご諒承を。
3月16日(日)
きのうの続き。
原田富弥個展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)
あちこちのグループ展や三人展などに、精力的に油絵などを出品している原田さんですが、意外にも、大きな会場での個展は初めてとのことです。
出品32点はほとんど近作ですが、1点だけ、15年ほど前の「茨戸静水」(F60)がありました。
緑が画面をおおい、どこかコンスタブルを思わせる、写実的な風景画です。
原田さんもむかしはこういうのを描いてたんですね。
最近は、オレンジと紫が入った、大胆な色遣いの風景画が多いです。
ただし、今回は、建物の影から小樽運河を眺めためずらしい構図の「窓辺の運河」(F12)や、黄色い花畑を描いた「キカラシの畑(美瑛)」(F4)など、わりあい落ち着いた色調の絵もけっこうあります。
それにしても原田さん、道内はずいぶんあちこち、スケッチ旅行に出かけているようです。
上の絵は「美瑛の丘」(F50)。パッチワークキルトのように、さまざまな緑の斜面が織り成す複雑な地形を、微妙な色あいで描いています。
あまりとき油は多用しないという原田さんは
「パレットにこびりついた絵の具をけずって使ったりしますよ」
などと話していました。
なお、端にある静物画の小品「茶器と干柿」「鰯」「野菊」など6点は、原田さんいわく「実験的な手法」を使ってかいてみたという作品。いったん描いた地の絵の具をがりがりと削ったものもあり、荒っぽいタッチがめずらしい効果を挙げています。
下のフロアでは、綿谷憲昭個展。
原田さんの友人です。
今回は、函館のスケッチをもとに描いた油彩の小品が大半。太い筆で風景をおおまかにとらえ、わっしわっしとかいていく綿谷さんの風景画は、その場の空気をみずみずしくとらえています。
あまりこまかいところには拘泥せず、函館の坂道や教会のある風景、駒ケ岳の牧場などを、的確な筆で描写しています。
ふたりとも札幌在住、大洋会会員。
16日まで。