展覧会の紹介

別 府 肇 個 展 大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)
2002年5月9日(木)〜14日(火)

 未知の作家の個展を見るのはたのしいものです。
 とりわけ、作風もほかにないものであったなら。
 別府さんは札幌在住で、アトリエは近郊の南幌町にあるそうです。
 ふだんは、南幌の画廊喫茶「風樹」で年1回個展を開いているそうで、札幌での発表は久しぶりとのこと。
 別府肇さんの作品作品はいずれも抽象の小品。でも、それぞれが宿している世界は、深いものがあります。
 無機質な抽象の世界、といって思い出すのは、小樽の版画家、一原有徳さんと嶋田観さんでしょうか。いずれもモノタイプで、安易な連想を阻む独特の画面が特徴です。
 別府さんは、版画ではありません。支持体が紙だというのは、見ていてわかります。だけど、どうやって描いたのかはわかりません。
 「表面から薄い1センチの境界」「金属の細い森」というシリーズが出品されていましたが、まさにその題名のとおり、錆びた金属の表面を薄く剥ぎ取って紙に貼ったように見える作品もありました。
 あるいは、どこかの地面の表面のようでもあります。
 ご本人にお聞きしたら、じつにいろんなものを塗っているようです。しかも、何層も。乾くまで何ヶ月もかかるものもあるということでした。
 メモをとっていなかったので、あらかた忘れてしまいましたが、クレンザーとか台所用洗剤とか唾液とか…。
 「画材屋じゃなくて、金物屋なんかで買うものでかいているんです」
と笑います。
 フォルムのほとんどない作品ばかりですが、マチエールが独特なのでついつい見とれてしまいます。
 それらのなかで、いくらかおもむきを異にするのが、上の写真でいえば左列の中央の作品。この写真では、いくつかの点が黒っぽくうつっていますが、他のいくつかの作品では、にじみの中の色斑が真紅です。書道にも、このようににじみを強調した作品はしばしばありますが、さすがに真っ赤というのはみたことがありません。しかも、これらの作品で書かれているのは、文字のようで文字ではない形なのです。
 「意味のない自由な線をかかせたら3歳や4歳の子どもにはかなわない。だから、むかし好きだった女の子の名前とか、或る文字を書こうとして、途中できゅっと曲げたりしてね。それぞれの作品にいろんな意味が込められているんです。もちろん、それを知らなくても見ることはできるんですが」
といたずらっぽく話す別府さん。孤独な営みではありますが、それでもひそかにファンをひろげているようです。

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