展覧会の紹介
日本工芸会東日本支部 第42回 伝統工芸新作展 |
三越札幌店(中央区南1西3) 2002年5月7日(火)〜12日(日) 東京:4月23日(火)〜29日(月)、新潟:5月15日(水)〜20日(月)、盛岡:5月24日(金)〜29日(水)、仙台:6月4日(火)〜9日(日) |
(敬称略)
この展覧会の図録の後ろに「鑑審査結果表」というものが載っている。
これを見ると、伝統工芸新作展とはたいへんな厳選であることが分かる。
正会員、準会員、研究会員、一般と4つの階梯からなっているのだが、正会員でも15%ほどが落選している。
一般にいたっては、入選105点に対し、落選256点。なかでも陶芸は入選40点、落選150点というきびしさだ。
筆者は、まったくの門外漢なので、作品を見て、どうしてこれが受賞作品なのかといったことは、まるでわからないのだが、以下気になった作品について、怖いもの知らずで述べたいとおもう。
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陶芸。
高井秀樹(渡島管内大野町)「灰釉縞壷」は、瓜のような形と色。
大野耕太郎(滝川)「黄瓷組皿」は、底にわずかにたまった釉薬の色が美しい、清新なデザイン。
尾形香三夫(石狩管内新篠津村)「練上各皿『眩暈』」は、精緻な練上げ模様による、オプアートを思わせる作品。
板橋喜美子(北広島)、千尋悠子(旭川)も入選している。
まったくノーマークだったのが西村和(札幌)。「網代麻葉文扁壷」は、幾何学模様の美しい、スッキリした作品だ。
道外勢では、菊地弘「黒釉銀彩線文花器」の現代的でスマートな絵付、望月集「牡丹文大鉢」の力強い文が目を引いた。
ただし、洋食の食卓などにも合いそうな皿といえば、佐々木里加と小島由希子くらい。伝統工芸と現代性の兼ね合いというのは、むずかしい。
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染織。
友禅も型染も絣も、どれもお金があったら買いたいくらいの名品ぞろい。
ただし、現代的という観点からいくと、これくらい顧慮されてない分野もほかにないよなーとおもうくらい。
塩澤啓成(恵庭)の友禅訪問着「来る春」が、抽象的な波線模様をちらして、ものすごくモダンに見えてしまう。
岩山翠娥(札幌)「型絵染着物『蒲』」は、近くから見ると写実で、遠くから見ると抽象的に見える意欲作。
人間国宝の田島比呂子の友禅「いとざくら」はすごいけど、ちょっと着れないな。
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漆芸。
道内からの入選者は、昨年も今年もなし。
松本達弥の彫漆箱「蒼松」が、派手な文様で目立っていた。
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金工も、ことしは道内からの入選がなかった。
やはり、人間国宝の高橋敬典「和銑筒釜梅文」の印象が強い。渋く処理した表面に浮き彫りした梅の枝一輪。まさに至芸。和銑(わずく)とは、わが国古来の銑鉄製法で、砂鉄をタタラ吹きしてつくられる。
一方、日本工芸会賞を受けた勝文彦の「象嵌有線七宝線紋花器」は、シャープな文様だ。
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木竹工も、道内の入選者がいない。
ちょうど筆者が見たとき、審査員によるギャラリートークの最中で、作品の中を見たり、製法について聞いたりできて、たいへん好都合だった。
たとえば、須田賢司「楓拭漆印箱」は、外観はふつうの直方体だが、蓋をあけると中は3層に分かれ、底部には銀の飾りがついている。この人は、江戸の指物職人の三代目らしい。
吉田宏介「黒柿拭漆箱」は、図録の写真ではよく分からないが、四囲に柘(ツゲ)をごく細く象嵌して、黄色い線のアクセントをつけている。材料は、ウズラ木という、いまではめずらしいもの。
松澤一義の花籃(かご)「千條」の素材は煤竹。100年以上も煤でいぶされ、変色したもの。その変色が、陶芸の景色のようなものを感じさせておもしろい。
島崎敏宏「老松提酒杯箱」は、樹齢100年以上とおぼしき松を使っているので、年輪がつくる模様と色合いが独特で、松脂の香りもする。だが脂分が多くて削るのには熟練が必要という。手提(さ)げの部分は黒檀。
渡邉栄「神代杉砂磨箱」は、独特の白っぽい色をしている。これは、山形県の鳥海山の土に100年から300年は埋もれていた木が、土中の鉄分などの作用で変色したもので、水分を多く含んでいるために加工が難しいという。
エライ作者は、素材をケチらないのであった。
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人形。
剣持小枝(札幌)「里帰り」は、子どもをおんぶした母親と、漁師のような格好をした女性の対話。和服か、さもなくば着飾った洋装が多い中で、とても庶民的な雰囲気なのが好感を持てる。
高井和枝(渡島管内大野町)「凛風」も、寒そうにコートのえりをつぼめる女性の仕草に、いかにも北海道的なものを感じた。
ユニークなのが亀田裕延「望郷」。腕の部分の長い服をすっぽりと着たふたりの男が、遠く空を見上げている。どことなく中国人的なふぜいである。あるいは寒山拾得だろうか、悠久なるものを感じる作品。
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その他の工芸。
ようするに、七宝とガラスと硯である。
長谷川房代(函館)が有線七宝香合「ヤドリギ」で入選している。
例年の精緻さに加え、モダンさを兼ねそなえた作品。
気賀澤雅人「硝子切子花瓶」に惹かれた。こういう群青のガラスに弱いのです。