2002年5月前半
5月15日(水)
昨日はまたも更新の途中で眠ってしまいました。
きょうはいくつかまわれたので、見た順にざっと書きます。
終了間際の「山の島と花の島」 宮本誠一郎・杣田美野里写真展(富士フォトサロン札幌=中央区北2西4、札幌三井ビル別館)は、利尻島に移り住んだ夫婦写真家の展覧会。
宮本さんが「利尻の見える風景」、杣田さんが「星のうすゆきそう」という写真集を、このほど北海道新聞社から出したのにあわせての開催であります。
杣田さんが可憐な高山植物にスポットをあてている一方で、宮本さんは利尻富士が主なモティーフ。湖を前にした山容は、どこかアンセル・アダムスを思わせる日本離れしたスケールです。
15日で終了。
ギャラリー大通美術館(大通西5、大五ビル)の第6回アート・リラ油彩展は、よくあるタイプのグループ小品展ですが、たぶん平山幹昌さんが指導役なのでしょうが、みなさんなかなかじょうずです。
川村かつゑさん「雪晴れ」は白を主体にした構成がさわやか。山木徹也さん「中島公園」も手堅いです。
橋本和子さん「愁道」は、コロー調の筆致で木々とさびしげな道を描いています。
マンネリ化したモティーフではなく、それぞれの気に入った風景や静物を前にじっくり描いているところが、好感を抱かせた理由かもしれません。
さいとうギャラリー(南1西3、ラ・ガレリア5階)では、第5回北斌個展。
きた・つよしさんは、聖書を題材におびただしい数の油絵をかいています。今回は、旧約聖書の「詩篇」です。およそ50点。
前回の「創世記」とちがい、原典を読んでないものですから、各場面の絵を見てもサッパリ何がなんだかであります。
となりのスカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)では、第17回 北の日本画展が開かれています。道展日本画部関係者勢ぞろいです。
詳しくは展覧会の紹介にかきます。
開店70周年の記念催事がつづく三越札幌店(南1西3)では、生誕100年記念 棟方志功作品展。
この展覧会でめずらしいのは、オリジナルのリトグラフ15点が出品されていることです。
彫刻刀を筆に持ち替えて描いたモノクロの作品(1点のみ手彩色)。いかにも棟方らしいモティーフや構図ですが、別の味わいもあります。南画というには大胆すぎ「やっぱり棟方」としか言いようがないです。
パネルの案内文によると、棟方志功がリトグラフを始めたのは、1959年の渡米時。今回の作品は、67年と74年に米国ニューヨークにある、アーウィン・ホーランダー教授の工房で刷ったもので、74年のものは、帰国後に予定していたデ・クーニング(戦後の米国を代表する画家)との2人展のために制作されたそうです。
これらのリトグラフは、まとまって紹介されたことはほとんどないとのこと。今回は27年ぶりの公開の由です。
74年の作品は最晩年だけあって、「御老樹」などは、自分の画業にまさに「柵」を打ったような枯淡さと大胆さが同居しています。
もちろん、木板画もたくさん出品されています。
「釈迦十大弟子(舎利弗)」「振向妃の柵」といった代表作や、谷崎潤一郎の小説の挿絵として名高い「鍵」シリーズもあり、デパートのふだんの展覧会にくらべると、やはり力が入っています。
ユトリロ版画展も同時開催。アルコール依存の低迷期をやや脱した晩年のあっさりした画風のものばかりでした。
以上、いずれも19日まで。
ギャラリーたぴお(北2西2、道特会館)の後藤顕個展は、タイポグラフィーの展覧会。猫や人のかたちをしたアルファベットのデザインがならび、理屈ぬきに楽しい。
18日まで。
出品2000を超す道内最大の書の公募展、北海道書道展は、ことしも3会場での開催となりました。
招待作家と会員(苗字がア、カ、サ行)が丸井今井札幌本店(中央区南1西2)で14日まで。
会員(苗字がタ行以降)と会友が札幌パークホテル(南10西3)できょう15日まで。
そして、一般公募作品が札幌市民ギャラリー(南2東6)。こちらは12日に終了しています。
筆者は、丸井今井とパークホテルに行ってきました。
丸井今井で目に付いたのは、なんといっても物故者の多さです。
近代詩文書の生みの親で文化勲章受賞者の金子鴎亭さんをはじめ、桑島雁来、田中翠鶴、水島美枝子、松井琴舟、嘉瀬萬秋、蓮沼公仁子の各氏が1年で亡くなっています。
金子さんほどの大物が北海道書道展に所属していたことは、道内の書をこころざす人にとっておおきなはげみになっていたのではないでしょうか。あらためて喪った人の大きさを思います。
気になった各作品について。
赤石蘭邦(旭川) 僧侶の手のような味わい。
我妻緑巣(札幌) 清岡卓行の詩が題材。近代詩文はなかなか現代詩をとりあげないので、この志は良し。もっとも、清岡らしい抒情詩ではなく、ユーモラスな詩行(ぼくは出不精のデブです)だけど。
阿部和加子(同) きびきびした運筆に好感。でも、かなで個性を出すというのは、むずかしいですね。
河合蕉竹(渡島管内森町) 「赤い椿 白い椿と落ちにけり」。絶妙の文字配置
君庸子(札幌) 近代詩文。左右を思い切ってあけたレイアウト。文字はかなり崩れて読めない。
島田無響(同) まるで筆の尻で書いたような、かすれた文字。
パークホテル。
こちらはさらに、文字の配置に凝った、おもしろいレイアウトの作品が多かった。
紙の下方を7割がたあけた二本柳朴秋(札幌)「飛雲」、上半分をほぼあけた竹内津代(同)も、かなとしては意外の冒険である。八木重吉の詩を、大きく空白をとって書いた古谷玄山(同)には、清新なリリシズムを感じた。
力を抜いた線でさらりと書いた漢字も目立った。
羽毛蒼洲(同)「心神」、藤根凱風(同)「静観」、三橋啓舟(同)「暢遂」といった作品である。
中野層雲(同)は一見古い味わいの隷書だがじつは文字ではないようだ。中野隆司(同)も、図録には「斉」となっているが、どうやら○と|を組みあわせた記号を三つ並べたものに見える。
また、東志青邨(同)、馬場怜(後志管内余市町)らの墨象作品には、簡単に小さくまとまってたまるか、という意思表示のようなパワーを感じた。
最後に中野北溟。昨年までの作品に感じた上品さ、清新さはなく、墨をたっぷりつけた太い筆で「人間力」と書いている。これが新しい境地なのか、あるいは衰えなのか、筆者には判断しかねるが、ちょっといままでの中野さんとは異なる書風になっている。
「展覧会の紹介」に、伝統工芸新作展をようやくアップしました。
5月13日(月)
昨夜は気がついたら寝てました。
じつは、きょうから、昨年8月以来の仕事内容が変わり、再び、夜勤の多い勤務体制になりました。
ごくおおざっぱに言うと、この半年あまりは、文化面や生活面などをチェックする仕事をしていたのです。そのため、ほぼカレンダーどおりに休め、健康にはよかったのですが、ギャラリー回りにははなはだ不都合でした。
これからは、従来よりも新鮮な情報を提供できるとおもいます。
今後とも、よろしくお願いいたします。
とはいえ、今週はほとんど夕刊の担当なので、出勤時間はこれまでとあまり変わりません。
空き時間に、札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)に行ってきました。
A・B室は第66回方究会洋画展。1936年(昭和11年)結成のグループです。
大ベテランの川村正男さん「美瑛風景」は、あいかわらず水色の塗りが穏やかで、心和む風景画です。色が、生っぽすぎず、混ぜすぎて暗くなってもいず、ちょうど快い明るさと色価を保っているのです。
こちらもベテランの、この会唯一の版画家、尾崎志郎さんは「冬木立と牧舎」。尾崎さんにはめずらしい縦構図ですが、木版画らしい素朴な味は変わりません。
今月上旬に同じ会場で個展を開いたばかりの小林耀子さん。その時に出品していた油彩から2点を出品していますが、「ベネチア運河」と題されていた作品は、どう見ても「丘の上の街」だと思うんだけど。
筆者には未知のかきて、笹谷圭子さん。なかなか達者です。「平揺にて」は中国旅行の産物でしょうか。暗い室内の扉を開けて屋外の祭事のようすを見る構図が、なかなかドラマ性を感じさせます。
村岡治夫さん「椅子とバイオリン」も手堅い静物画。
ほかの出品は次の通り。
市川祐子「奏でる」(F50)、川村「チャイナドレスのMASUMI」(F30)、小林「カターニア港」(F100)、笹谷「五台山にて」(F30)、関建治「冬の牧舎」(F50)、高橋芳夫「胡蝶蘭と作並こけし」(F60水彩)、千葉久信「三崎」(F100)「待春」)F80)、津田義和「スペイン・ロンダの橋」(F150)、平野俊昌「習作」(P20)、福屋久美子「静物(鮭)」(F30)「静物(花)」(F30)、堀昭「樽前山と原野」(F60)、増田正子「園」(F80)、松永節子「卓上」(P30)「夏の日」(F20)、宮崎君子「K嬢」(F40水彩)「菊花」(F20水彩)、安河内太郎「冬の北イタリア(アルバ)」(F50)「ヨットハーバー(パレルモ)」(F20)、吉岡良子「窓辺の静物」(F40)「ポピーと少女」(F30)、渡辺弘子「晩夏の海(豊浦)」(F30水彩)「化粧する女(ひと)」(F40水彩)。水彩以外は油彩です。
昨年はこちら。
C室は、方究会にも「園」を出品していた増田正子個展。
陰影のない、比較的平坦な塗りの人物画や静物画が特徴です。輪郭を強調した絵も目立ちました。
筆者は、輪郭をひいた絵はあまり好きではないのですが、増田さんはただ輪郭をかいた絵とは一線を劃しています。
たとえば「ブルーの室内」と題された連作が3点あるのですが、すべて輪郭の色が微妙に異なります。ただ黒い線をかくのではなく、モティーフの果実の色を濃くした線だったり、白っぽい線だったりさまざまです。全体の色調をそろえる中で、レモンだけを目立たせてみたり、視線の角度を変えてみたり、探究心がうかがえておもしろいです。
80号がいちばん大きく「陽」と「春が来る日」。後者は黒く鋭い輪郭線が画面を引き締めています。ここでは、すべての輪郭線が直線で表されています。
3階の第27回新麓樹会展。
毎年この時期にやっていますが、ほかの展覧会ではなじみの薄い人が多いこともあって、どういう集まりなのかは今もってわかりません。なかでは、金属で人形をつくる菅原義則さんが、わりとあちこちでパブリックアートとして採用されているので、なじみのあるほうかもしれません。
また、佃多哉志さんの少女像はリアルでかわいらしいです。
岩寺かおりさんは、生まれいづる陶展に出品してたよなあ、たしか。
らいらっく・ぎゃらりい(大通西4、道銀本店ビル1階)の第4回絵画グループ白い夢展もみました。
森克代さんのオーストラリアの風景画、筆触にリズムがあって、好感が持てました。
以上、すべて18日まで。
10月20日に、美術作家の中橋修さん(札幌)が、札幌芸術の森アートホールで「第1030回市民劇場 奏でる音と立体の響き」を、二人の音楽家とともに行います。
クラシック音楽の催しが大半の「市民芸術祭」に新しい風を起こしてくれそうな感じですがはたしてどうなることでしょうか!?
別府肇個展の文章を「展覧会の紹介」にアップしました。
5月11日(土)
朝から夕方までギャラリー巡り。
まず、あした終わる展覧会から。
北海道教育大学金工室展は、コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階)で。
多彩な作品がそろっている中で、異色(というか、金工じゃない)なのが、大島志保さんのインスタレーション「心眼−ミミズバレ」です。
手前に「般若心経」を書写した半紙がどっさり積んであります。奥の壁には人の背中を撮ったモノクロ写真が3枚貼ってあります。いずれも背中には、漢字や、古代文字みたいな模様などが、みみずばれになって浮かび上がっているのです。痛そう!
本人は
「みみずばれってリアルな感じがするじゃないですか。ほら、2時間くらいで治るんですよ」
と腕をひっかきながらケロっとしています。まさか、リストカットとかするタイプなんじゃないでしょうね。
「え、なんですか、それ」
指導教官の佐々木けいしさんになにか言われませんでした?
「『志保、こわい』と一言だけ」
……。
齊藤友華さん「たたずまい」は、なんとなく心和むオブジェ。八木美樹さんの無題のオブジェも、石みたいに見えるアルミの二つの塊の間に縄梯子のような形の金属を渡しているのが面白いです。
ギャラリーミヤシタ(南5西20)で、内田芳恵展。
内田さん、前回の延長線上にある作品ですが、ついに一部立体になってしまいました。
「やっぱり立体がつくりたくなってきて」
ということのようです。
平面のほうは、紙などさまざまな支持体を固めて着彩したもの。
中央のまるい立体も紙などを固めて作られており、自由に手に取ったり転がしたりすることができます。
この形状だと、どうしても頭にかぶりたくなるんですよね。
そう言いながら積み上げたのは筆者です。
平面の虹色が、まるい立体の内側の色と対応しています。
理屈ぬきで楽しい展覧会でした。
I.K.K.Y.道展グランプリ受賞20周年記念書展を、スカイホール(南1西3、大丸藤井セントラル7階)で見ました。
これは、1982年の北海道書道展で大賞を受けた柏木淳風さん(岩見沢)と、準大賞の石井華賀子さん(札幌)、熊川景子さん(同)、山田汎暁さん(旭川)によるグループ展です。
書道展というと、同じ師匠のグループ展が多かったのですが、近年はいろいろなかたちの展覧会が増えてきました。
三越札幌店(南1西3)では、10階催事場で、第42回伝統工芸新作展を見ました。
さすが、粒ぞろいの、隅々にまで神経の行き届いた作品ばかりです。詳しくは「展覧会の紹介」に書きますのでごらんください。
同店の9階では、ピカソ生誕120年―ピカソとその周辺版画展も開かれています。
ピカソの版画25点にくわえ、シャガールやユトリロ、マリー・ローランサンらの版画も同じくらい展示即売されています。版画なので、価格も目の玉の飛び出るほどのものではありません。ブラマンクなんて10万円くらいからありました。
ピカソは、晩年のリノカットによる色刷りもありましたが、単色の銅版画のほうがおもしろかったな。「347シリーズ」が数点あったほか、「アトリエ」「しゃがむモデルと彫刻頭部」など、奥行きのない人物配置や、陰影に乏しく細い輪郭線で専ら絵画空間をつくっていくやりかたは、いかにもピカソらしいです。
シャガールのほうは、道立近代美術館も所蔵している「ダフニスとクロエ」シリーズなど、文学に材を取ったものがありました。
三越は札幌開店70年ということで、大がかりな催しが続いてます。来週は、棟方志功展です。
札幌市民会館(北1西1)の北星日本画サークル10周年記念展は、北星新札幌高校の学校開放で日本画を学ぶ人たちの展覧会。中野邦昭さん(道展会員)の指導がいいのか、みなさんおじょうずです。
枝澤隆敏さん「娘(はたち)」は、こう言ってはなんですが、庶民的な顔立ちの娘さんの表情がじつにいいです。
加藤蓉子さん「花の髪かざり」は、景色が見える窓の前の少女というユニークな構図。
堀田芳江さん「想」は、雪の積もった河畔の裸木がモティーフ。前景は、さびしく木の影が雪の上に伸びている図ですが、雪だけで大きな面積を描いて間延びさせていないのはさすが。全体の、水彩のようなトーンも魅力的です。
西森光子さんの植物画も、よくある日本画とは異なり、微妙な陰影のつけ方がおもしろいです。
小林文夫さん「春」は、桜の絵。「さくらに見る日本の美」のページにも書いた「三島」ふうの花びらの描き方なのですが、よく見るとすべての花びらをちゃんとかきわけているのがすごいです。
なお、中野さんは道展初入選時の作品を出品しています。さすがに、近年の絵に比べると甘いですが、つうじるものはありますね。
ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル)の岩墨画会五月展は、水墨画家の李鉄君さんが岩見沢で教えている生徒さんたちの展覧会。岩絵の具による着彩が多いのが、李鉄君流です。
とくに北市清美さん「緑宝」は、マスカットの緑のみずみずしいこと!
武田恵美子さん「桜」は、しだれる枝をリズミカルに描いています。
いっぽうで、南画ふうのモノクロームに近い絵もけっこうありました。
教室展がつづきますが、札幌市資料館(大通西13)では、第7回「パレット彩」水彩画展。
道展会員の成田一男さんが講師です。
村中幸子さん「鴨々川」、三本松健二さん「サイロ」など、達筆です。
しょっちゅう屋外で現場制作をしているグループだけに、たのしそうな雰囲気の絵が多いです。
以上、すべてあす12日までです。
きょう11日で終わってしまったのが、ギャラリーたぴお(北2西2、道特会館)の島田晶夫展。
石狩管内当別町スウェーデンヒルズにアトリエを構える若手の家具作家です。
和家具の直線美とスウェーデン家具の削ぎ落とされたデザイン美を融合した家具を目指しているとのこと。
いつものたぴおとはかなり雰囲気が変わり、シンプルないすやテーブルなどが並びました。とくに、ディスプレイ用のサイドボードは、インテリア雑誌などにそのまま出てきそうなおしゃれなものでした。
近年、若者向けの飲食店やブティックなどがたくさんオープンしている南3条通り。
ギャラリーnew star(南3西7)は、2階にベトナム料理店が入っている建物の1階にあります。
たぶん道内で最小のギャラリーだと思います。
奥行きは4メートルほどありますが、幅が1メートルあるかないか。たぶん、4人はいったら、いっぱいです。立体はまず無理だし、大きな絵も、下がってみることが不可能なので、展示できないでしょうね。右側の壁は、札幌軟石なので、雰囲気はあるのですが。
行われていたのは、野越さゆり写真展「桜の下」。
満開の桜のほか、花や草などのモノクローム写真。最後に、セーラー服を着た物憂げな少女が桜の木の下にたたずんだり、坐ったりしている写真が数枚出てきます。
桜の露出がオーバー気味なのには好感が持てました。桜って、あかるいんだよね。
13日まで。
なかなか楽しかったのが、大同ギャラリー(北3西3、大同生命ビル3階)です。
下のフロアは、中舘侑子水彩画展。留学していた英国の風景などを、巧みに描いています。
どうして英国なのか。直接ご本人にうかがったわけじゃないけれど、たぶんターナーが好きだからじゃないかなあ。展示された「通り雨」「冬の朝」「St.Margaret
Church」などの作品の一番の魅力は、水彩特有のにじみを最大限生かして空気感を表現していることにあります。
空気感を出そうとするとついフォルムの把握がおろそかになりがちですが、中舘さんの場合はきちんと風景の形を保ちながらも湿り気のようなものが表現されているのです。
上のフロアの別府肇個展もおもしろかったです。
無機質な画面というと、一原有徳さん、嶋田観さんが道内では有名ですが、お二人とは違った魅力があります。
詳細はあすまでに「展覧会の紹介」で。
荒関雄星作陶展は、丸井今井札幌本店(南1西2)の大通館8階で開かれています。
荒関さんは後志管内京極町在住。灰かぶりによるダイナミックな釉薬の壷などが特徴です。
でも、今回「売約済み」の赤丸シールがついていたのは、瀟洒な赤紫色の光沢が美しい辰砂の器ばかりでした。やはり食卓や生け花には、あまり主張しないうつわのほうがこのまれるんでしょうかね。
カフェ・ルネ(南4西22)で、林啓一ペーパークラフト展。
メルヘン調の紙工作です。げんきにあそぶ夏休みの子どもたちを題材にした「夏の友達」など、たんなるノスタルジックな作品ではなく、子どもより大きな蛙がいたり、河童が交じっていたりして、想像力がじゅうぶんに発揮されています。
林さんは、「たけしの誰でもピカソ」(テレビ東京―TVH)の「アートバトル」に出演、メダルを通算3個獲得したそうです。すごい。
カフェ・ルネは、テーブルの配置を一部変えており、飲食をしない人でもすんなり鑑賞できるようになっていました。
以上14日まで。
下澤敏也・多田昌代二人展−食・楽・彩・器・2002−は、器のギャラリー中森(中央区北4西27、中森花器店2階)で。
下澤さんは料理のうまい居酒屋なんかに似合いそうな酒器がメーン。
多田さんは「空を見ている花器」など、ほんわかした形のうつわがありました。
20日まで。
古書ザリガニヤ(大通西12、西ビル2階)で中西揚一展。
未知の作家だけど、落合多武、奈良美智の系譜に連なる新しい感覚の人物画がやっと北海道にも出現したとおもった。
ただ、壁面はギャラリーnew star並みに小さいので、4点くらいしか展示されておらず、なんともいえんが。
31日まで。
おもしろい展覧会があとまわし、というのは自分でもこのましくないってわかってるんだけど、カンベンしてください。
5月10日(金)
職場の飲み会だったので、とくになし。
明日は大量に更新する予定です。
5月9日(木)
さいきん「アートな本棚」をけっこうマメに更新しています。みなさんも、おすすめの本があったら教えてくださいね。
リンク集も、道内の音楽や芸術の情報提供、支援などを目指す「OFFICE EASTER」を追加するなど、さらに充実を図りたく思っています。
5月8日(水)
釧路の村上別館という旅館の食堂に、増田誠の100号クラスの油絵が飾ってありました。
アムステルダムあたりでしょうか、水辺の街にしんしんと雪が降っています。
いかにも日本人が西洋で描いた、哀感とエキゾチズムがただよっています。
増田誠は1920年、山梨県生まれ。終戦後、十勝管内清水町に入植。50年には釧路に移り、青空画会(現釧路美術協会)などに参加するとともに、上野山清貢の知己を得て一線美術会に出品、会員になっています。57年以降はフランスで制作し、89年に没しています。
サッポロファクトリーの1条館(中央区北1東4)にある北ガスショールーム「サガティック」で、Life→ing Yuriko Kazama展を見ました。ポラロイド写真とレタリングによる言葉の組み合わせです。
5月7日(火)
さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階)の「←16の版作用→」は、おもに札幌圏の中堅・新鋭版画家によるグループ展で、小品ばかりとはいえ、なかなか見ごたえがありました。
同じ作風にとどまっていない人が多いので、たのもしく感じられるんですよね。
たとえば、銅版の田崎敦子さん。昨年の個展に並んでいた作品では、格子模様が多用されていましたが、ちょっとキツイ言い方をすれば、絵画空間をこしらえるための方便みたいなとこもなきにしもあらずだったと思うのです。それが、今回の「マーチ」では、石畳のようなふぞろいの模様になったため、ぐっとリズム感が増し、画面にも動きが出てきたように感じました。三角形のシートというのもかわってますね。
あるいは、おなじく銅版の早川尚さん(道展会友)。さいきんは、一時期まで残っていたある種ウエットな文学性がぬぐい去られ、薔薇の花によるシンプルな画面構成を追求しているようですが、今回の「Twilight」も、細い縦線で画面を埋め尽くすことで陰影をつけています。
リアルな作風で注目される吉田敏子さん(全道展会友)の「都市の配置」は、公園などに見られる車止めと、家の大きさを逆転させることで、非現実的な雰囲気を強調しています。
力強い輪郭線が特徴だった若手の兼平浩一郎さんも、今回の「光射す」では、画面に黒い線をほとんど描かず、すっきりした色の処理が目を引きました。
ほかに、木村多伎子(道展会員)、瀬戸節子(全道展会員)、武田道代(全道展会友)、種村美穂(道展会員)、友野直実、内藤克人(道展会員)、鳴海伸一、坂東伸之、丸山郁代(全道展会友)、三島英嗣、山内敦子、(全道展会友)、渡邊慶子(道展会友)のみなさんが出品しています。
隣室では、米澤榮吉風景画展が開かれています。
米澤さんは雪景色に特徴がありましたが、今回は冬以外の季節が多いような…。
江別の、石狩川と夕張川の合流点を描いた「二つの川」、北湯沢でデッサンした「渓流」など、あまり人に知られていない風景も多いです。画風は、印象派風です。
1919年生まれ。示現会会員。
いずれも12日まで。
「さくらに見る日本の美」の紹介をアップしました。
5月6日(月)
3−5日のつづき。
3日は、道内のあちこちで桜を楽しむことができました。
札幌ICから道央道に乗って三笠ICで下り、三笠の道の駅により、道道岩見沢三笠線を通りました。三笠は炭住など古い建物が多いです。それから、桂沢湖を横目に国道452号へと抜け、昨年開通したばかりの道道美唄富良野線を通って富良野方面へ。しかし、市街地には入らず、北の峯地区から道道山部北の峯線を走って、山部地区に出ました。東大演習林の中を抜ける国道38号は、道路わきの桜が満開でした。
それと、西達布消防倶楽部という、すごく渋い3階だての建物がありました。写真にとれなかったのがざんねん。
「南ふらの」の道の駅で昼食。狩勝峠は、ほとんど残雪なし。国道は避け、道道帯広新得線を経由して帯広へ。道立帯広美術館に寄りました。「さくらに見る日本の美」については、近日中に「展覧会の紹介」にアップします。
それからは国道38号をひたすら走って釧路へ。かなり車の量は多かったのですが、順調に流れていました。
4日は、道立釧路芸術館で、聖と俗 幻想と風刺 世界巨匠秀作展 版画と絵画にみる魅惑の西洋美術を見ました。
123点もの作品はすべて道立近代美術館の所蔵品です。
デューラー、レンブラント、ドラクロワ、ミレー、ムンク、シャガール、ピカソ、ダリ、マティス…とくれば、たいへんな豪華メンバーですが、これらはすべて版画。油彩はルオーやユトリロなど10点だけです。
低予算の企画でなんだかさびしい気がしないでもありませんが、札幌から遠く離れた釧路の人は道立近代美術館の所蔵品を見る機会なんてあまりないということを思えば、悪くない展覧会かもしれません。それに、道立近代美術館が、開館から25年たって所蔵作品も増え、常設展(これくしょん・ぎゃらりい)でもなかなか陳列されないものもあります。筆者自身、初めて見た版画がいくつかありました。
たとえば、、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージの「ティヴォリのメチェナンテ荘」(1749年。写真左)などは、正確な遠近法で細かく描かれた古代遺跡が、迫力を感じさせます。21世紀のわたしたちにはなかなか想像しづらいことですが、この時代の西洋人にとってかならずしも「いまの時代」は最高の時代ではなく、古代が最も偉大であったという考え方が支配的だったようです。巨大な遺跡に比べてあまりに小さい人間に、そこらへんの考えが垣間見えます。
英国の詩人・美術家ウィリアム・ブレイクの連作「ヨブ記」が26点も展示されていますが、あまりに精緻なので、立って見るのはなかなかくたびれます。
エコール・ド・パリの画家パスキンが最晩年に制作したエッチングの連作「シンデレラ」は、奔放な線が楽しいです。
14日まで。
5日は、国道38号の浦幌町直別で死亡交通事故が起き、その影響か、白糠町の恋問から市街地までノロノロ運転が続きました。
釧路管内って、どこまでも原野がつづき、さびしいですよね。
浦幌から国道336号に入り、道道生花大樹線から忠類へ。忠類、更別、中札内の3つの道の駅に寄り、十勝中部広域農道と道道清水大樹線などを経て、国道274号で日勝峠越え。十勝はどこも好天で、新緑の防風林や青々とした小麦畑など、日本離れした風景を存分に楽しむことができました。
6日。
大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)で吾孫子雄子油彩展。
大作は、女性像を中心に犬や鳥を配した絵が多い。背景は主に暖色が塗り重ねてあって、とりたててなにかのかたちがかいてあるわけではありません。その暖色の重なり具合が魅力なのかもしれません。
吾孫子さんは釧路在住。
7日まで。
札幌時計台ギャラリー(北1西3)。
A室は山崎亮個展。
筆者にとって山崎さんの絵を見る楽しさというのは、湿原とオオカミとか、海底と若い女の子とか、組み合わせの妙だったのですが、さいきんはその楽しみが減ってきたのがざんねんです。
今回は、エルサレムと、モン・サン・ミッシェルを題材にした、おだやかなタッチの風景画がメーン。このうち何枚かには地図というか、衛星写真のような図像を背景にあしらっています。エルサレムの遠景や嘆きの壁は描かれていますが、昨秋以来のパレスチナ人との紛争がまったく影を落としていないというのもすごい。いや、かならずしも時代と同伴しなくてもよいのが美術の良いところではあるのですが。
B室は小林耀子個展。
欧州スケッチツアーで見た風景による初の個展。
うまい、へたでいえば、けっして上手な絵ではないんだろうけど、なんだかすごくたのしくかいているみたいなのが、いいんだなあ。
たくさんの色をつかうことにためらいがないのがいいのかもしれない。
「ファドの聴こえる街角」は、人物の描き方はいささか雑だけど、左手前のミモザとおぼしきレモンイエローの花が効果を出しています。
「アルベロベッロ」は、黄色と赤の厚塗りの空と、薄塗りの前景の対照が不思議。
「丘の上の街」は、茶、灰色、青にしぼって、力強い線で家々の重なりを描いています。
C室はみずすまし展。日本画家の川井坦さんの教室展。
D室は休み。
E、F室は第22回金の眼展。
雪原を走る馬をばら色で描いた赤田久美子さんの「A Winter Scene」、佐藤幸子さんの精緻な人物画「やすらぎ」が目を引いた。
G室は高橋和彦油絵展。道内の風景を手慣れたタッチで描いた小品が並ぶ。釧路在住。
いずれも11日まで。
5月5日(日)
釧路から11時間かかって札幌に着きました。
途中渋滞があったりして、綿のようにくたびれておりますので、きょうはあまり更新しません。
美術関係の話題は、道立帯広美術館の「さくらに見る日本の美」と道立釧路芸術館の「世界巨匠秀作展」くらいのものです。
5月2日(水)
筆者はあまりペットというものに興味がないのですが、すきな人にはおもしろいかもしれません−という展覧会が、札幌市資料館(中央区大通西13)でふたつも開かれています。
ユトウアツコ個展は、パステルでリアルに描かれた猫と、ペンおよび水彩で漫画タッチに描かれた猫の小品、それに漫画的に擬人化されたウサギの絵の3本立てが中心です。イラストレーションとしては、けっこう達者だと思います。個人的には、パステルの風景画が数点あったのが良かったけど。
わかばやしようこ展−光あそび−は油彩で、子犬の小品が大半。極端に陰影を強調して黒い部分を多くとった画法は個性的ですが、それを1匹の犬を描くのにしか使わないのというのはどうも妙ですね。
いずれも6日まで。
iモード用のページを休載することにしました。
けっこう手間がかかるわりに、ぜんぜん反響がないからです。
読んでいる人、だれかいますか?
きのう福井路可さんの個展にオープニングに、江別の林田嶺一さんがいらしていて
「あした椹木野衣さんがうちに来るんだ」
と言っていました。
さわらぎのいさんは、若手でいちばん精力的な美術評論家です。なんだか、林田さん、昨年のキリンアートアワードで優秀賞になってから、周りがにぎやかになってきたみたいですね。
筆者はあす3日から釧路方面に行きます。
3、4日の更新はお休みしますので、ご諒承ください。
5月1日(火)
仕事が7時前に終わったのはなんと4月9日以来。
まず、スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)の新田志津男日本画展に滑り込みセーフ。
新田さんは、以前道展に出していた時から、けっこう好きでした。
ちょうど今ごろの季節、札幌の周りの山の木々が芽吹き、コブシや桜が咲きますよね。あの春浅い、なんともいえない萌黄色に、白や薄桃色を散らした山の様子を、丹念に写実的にとらえた絵を出品していたからです。
あの感じは、写真だと色が、わたしたちが感じるのよりも淡すぎて、なかなか表現がむずかしいと思うんですよ。きっとわたしたちは、春の山を、感情をこめて見ているから、花や若葉の色を実際よりも鮮やかに見てしまうんでしょうね。
今回の個展では「水辺の春」などが、明るい黄緑の葉を出した川べりの木を描いています。なんだか、蛍光インクを使ったみたいにまばゆい緑です。
大作は1点だけ。白鳥の群れをびっしり描いた「寒い朝」です。
昨年10月に丸井今井デパートで開いた個展に出品した「秋壁」のような絵ではなく、オーソドックスな写実の絵です。
ただし、背景を抜きにして全体を白鳥で埋め尽くしたというのは、ちょっとふつうの風景画とは異なるといえましょう。苫小牧のウトナイ湖でスケッチしたそうです。
ほかに、花を描いた「朝露」も目を引きました。おつゆがきのように画面全体を覆う極薄の白が、湿潤さをたくみに表現しています。
6日まで。
次に駆けつけたのは、ギャラリーどらーる(中央区北4西17 HOTEL DORAL)。福井路可展のオープニングです。
以前、福井路可(るか)さんは、母なる大地の神を思わせる女性像を中心に渦巻くような画面を構成していましたが、だんだん影が薄くなり、さいきんでは、板の十字架をキャンバスに貼り付け、その周囲はなかば抽象画といえるような作風になってきています。
ひとくちに言うと、もっぱらマチエール(画肌)によって絵画空間をかたちづくる絵、とでもいえましょうか。
ことばで説明できるような形は十字以外にないし、はっきりした色の変化があるわけでもないのです。
にもかかわらず、絵画空間がちゃんと形成されていて、なんだか画面には風が吹いているように見えるのです。
どうして板を貼るのか、と尋ねると、直接十字架を描くと画面から浮いてしまう、というようなことを言っていました。
バーナーで焦がした茶色の十字架は、周囲のアンバー系の黄色とたしかに調和しています。
そして、その黄色は、刷毛で刷いたようになっていたり、飛沫のような小さい穴があちこちにあってそこから下地のさまざまな色が覗いていたり、裸木のような模様から下地が見えていたり、さまざまな表情の変化を見せます。
また、ガーゼのようなものを部分的に貼って、変化を出している作品もあります。
右の写真は「夜の雨、昨日の風」です。3枚のキャンバス1組でひとつの作品です。
とくに、中央のキャンバスは、びっしりと打ち付けた板の間に絵がある、という感じがしますね。
もちろん純粋絵画なのですが、それでも、微妙な表情を見せるマチエールと、中心からずれて置かれている十字は、ある種の精神性をたたえているようにも見えます。
出品作は次の通り。
「一月の風」「冬の風」「昨日の海、昨日の風」「夜の風」「樹風」「風の景」「明日の風」「昨日の風」「昨日の風、明日の海」「顔」「冬景」「樹」「風の日」「冬の景」「明日の風」「明日の夢」
31日まで。
表紙をごらんになってすでにお分かりのことと思いますが、「ゴッホ展」の前売り券の特別販売を行います。
ふだん会社の悪口を書いている筆者ですが、協力するときはしっかりするのです。
本社事業局の人によると、昨年9月に起きたテロのおかげで、輸送に伴う保険料が急騰し、たいへんなんだそうです。
米国や、巡り巡ってアフガニスタンの人に危害を加えた(とされる)アルカイダですが、北海道新聞社の財務状況にも大きく影響しているのでした。
それはともかく、前売り券、買ってください。
お願いです。