札幌芸術の森つれづれ日録の題字

表紙に戻る  3月前半のつれづれ日録   4月前半         2002年3月後半  

3月31日(日)大通公園2丁目に咲いていたクロッカス
 大通公園の2丁目で、クロッカスが咲いているのを見ました! 春です!
 それにしても、早い。札幌の3月としては信じられないことです。
 さて、まずは、4月2日までの展覧会から。 

 大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)の三明伸水彩個展がなかなか良いです。
 リアルな筆致の、単なる水彩の風景画なのですが、とにかくうまい。そして、色彩が、写真の露出で言えばちょっとハイキーかなって思えるくらいに、明るいのです。
 水彩は、塗りを重ねるとすぐに画面が汚くなってしまいます。だからこそ、色の選択が重要なのですが、それが適切なのだと思います。
 また、朝の光、冬の雪野を反射する光、昼の光など、それぞれの光の性質に対して、するどく反応しているのがわかります。
 題もおもしろい。西岡水源地でスケッチした「春を待つ巣箱」なんて、思わず画面の中を探してしまう題です。北大第二農場を描いた絵には「日曜画家のメッカ」と題がついています。    

 同じギャラリーでは、小澤敏博作陶展も開催中です。
 作品の多くが焼き締めで、白樺の灰の釉薬をかぶっている大皿や花器もあり、渋い出来です。「葉文」と銘打たれた作品には、かえでの葉の模様がついています。
 白くつるりとした肌合いの雲母練り込み半磁器も目を引きました。

六曜会の会場風景 アートスペース201(南2西1、山口中央ビル6階)では、3人によるグループ展六曜会 写真展「斜陽」が、初めて開かれています。石川ひとさん、若林慎二さん、杉坂真由美さんです。
 なんと、3人は、ネットで知り合ったばかり人らしいですよ。
 石川さんは、旧作が半分以上。ただし、砂浜の足跡を撮った「道程」という作品に、太宰治「人間失格」の1ページを重ね撮りした新作もあります。
「今回は初顔合わせということで、自分の以前の面も知ってもらいたくて」
と石川さん。昨春の個展の紹介はこちら 。昨年12月のグループ展LADはこちら
 若林さんは「過剰と記憶 2000-2001」というモノクロ連作。ヌードや風景に地名が附されています。ロードムービーのような作品群です。
 杉坂さんは、展覧会名となった「斜陽」や、セルフポートレイトなど。サイト「M`s room」はこちら

 アートスペース201の続き。
 Noto&Forest's 12は、札幌芸術の森の七宝講習会で指導している能登誠之助さんと、生徒さんたちの作品展。元木雅子さん「飛翔U」の、色の微妙な調子がおもしろく感じられました。
 北海道教育大学札幌校視覚映像デザイン研究室展示会
 教官・伊藤隆介さんの「Chinese Fan」は、戦闘機のプラモデルみたいです。
 及川嘉代子さんは、卒業展で使ったアリの立体を再利用。うーん、気味悪くてちょっと触れないぞ。

 ほかに見た展覧会から。
 奥野時夫写真展「雲南・秘境の旅」=富士フォトサロン札幌(北2西4、札幌三井ビル別館)
 中国の少数民族がモティーフ。うーん、しかし撮影のためとはいえ、遠くまで行くもんだ。
 4月3日まで。

 守分(もりわけ)美佳展=ギャラリーミヤシタ(南5西20)
 木の幹や根をモティーフにしたような、あるいは、北米先住民族の絵のような、シンプルな平面。
 31日まで。

 進藤冬華 凧揚げ〜はせちゃん、すぎちゃん、ちーちゃんと共にFree Space PRAHA(南15西17)
 ホントに、凧揚げの記録でした。のん気だなあ。
 31日まで。
 プラハでは、大橋くんたちが、大掃除の最中でした。北海道では、年末は寒いので、年度末に大掃除をするところが多いですね(というのは、真っ赤なうそ)。
 そういえば、±0Cafe、きょうが最後でしたね。
 来週から、1年余りの継続の記録が、プラハで紹介されます。

 美唄の4回目。
 市郷土資料館で開かれている「人民裁判事件記録画 その時代とゆかりの画家たち」を見忘れていたことに気付くと、なんだかくやしくなってきて、突発的に行ってきました。
 詳細はあす以降。


3月30日(土)
 きのうの続き。
 シアターキノで「カンダハール」を見た。29日が最終日。
 昨年9月以前に、イランの監督の手によって、タリバーン政権下のアフガニスタンを舞台にした映画が撮られていたのである。
 ドキュメンタリーではなく劇映画じたてで、飽きずに最後まで見ることができた。
 どんな酷い状況でも人間は生きているんだな。それにしても酷いな。
 地雷で足を吹き飛ばされた男たちが、赤十字のヘリコプターから義足が投下されるのを見るやいっせいに松葉杖姿で走り出すシーン。あるいは、イランからアフガニスタンへ帰還する難民の少女たちへ、教師が贈る言葉、「塀は高い。しかし空はもっと高い」などは、忘れることができない。
 映像は、乾いた砂漠の大気や、ひりひりするような熱気みたいなものまで感じられるようだった。

 ギャラリー回りはあす31日の予定。


3月29日(金)
 札幌市資料館(中央区大通西13)の越後光詞個展は、抽象的な木版画の小品が中心。おおざっぱな淡彩がほどこしてあります。
 黒い塊がどん、どんと配されています。
 珈琲を入れる袋みたいな粗い布に太い線をひいた絵もありました。

 いちばん大きな部屋では杉吉貢個展が開かれていました。
 淡墨による墨絵のインスタレーションです。
 2月に、日高管内新冠町で、舞踏家の岩下徹さん、音楽家の畑中正人さんと、即興的なコラボレーションを行った際にかいたものとのこと。こりゃ創作の現場を目撃してなきゃ、おもしろみ半減だナと思いました。
 隣室では、杉吉JUKU展が行われています。墨絵はなく、デッサン、オブジェ、フォトコラージュなど、生徒さんたちがそれぞれの個性を活かした作品を出品しています。


3月28日(木)
 まずは、きのうの訂正。
 上遠野敏さんの姓は「かとの」ではなく「かとおの」でした。訂正します。
 固有名詞の誤りは恥ずかしいですね。気を付けます。上遠野さん、ごめんなさい。

 今週の札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)は、2階のA、B、C室が油絵(一部に水彩)。3階のD、E、F、G室がデッサンです。
 A室は、山田勝代個展
 昨年の全道展入賞作など、1人ないし3人の人物と、装飾的な模様を、正面から描いた作品が中心。全道展に多いタイプの作品です。 

 B室は、第7回グループWho展
 女性7人のグループ展。笹尾ちえ子さんの「湿原」など、色の塗り重ねをしっかり行っている作品が目を引きました。花山幸子さん「ローズ」も、きれい。 
 石部セツ子さん、加賀ケイ子さん、時川旬子さん、松下比砂子さん、宝示戸美世さんも出品。

 C室の谷藤茂行個展
 谷藤さんは北大教授を退官後、山川真一さん(道展会員)に絵の指導を受け、今回が初の個展です。近年は道展の常連です。
 以前は、廃船をモティーフにしていたのが、最近は、「廃墟」と題して、工場や鉱山の跡地を描いています。しかも、だんだんリアルさを増しているようです。
 うーん、なかなかうまい。このうまさはどうしてなのか、かんがえてみました。
 ひとつは、マチエールが巧みで、よく練られていること。
 コンクリートの表面はすべすべと、割れたところはでこぼこに処理されています。鉄の錆なども、表面がリアルです。
 もうひとつは、陰影に乏しく、全体に奥行き感が乏しいこと。空の面積が小さいことも手伝っています。
 しかしこれは、広大な風景を描くのではなく、廃墟の存在感を表すのですから、平面的な描写のほうが適しているのでしょう。また、それぞれの色面はしっかり丁寧に、ちょうどよい明度の色で塗られており、色が生っぽいところはありません。草や木の葉も、克明に描写されています。
 というわけで、筆者は、「廃墟」シリーズはわりと好きな絵なのですが、道展ではたんなる風景画よりも構成画のほうが高く評価される傾向があるようなので、もうワンランク上を狙うなら、さらに工夫があってもいいのかもしれません(余計なお世話ですね(^_^;)。

 3階は、一の会デッサン展
 道新文化センターで、谷口一芳さん(春陽会、全道展会員)にデッサン、クロッキーを学ぶ生徒30人余りの、毎年恒例の展覧会。
 ほとんどが裸婦で、バレリーナの格好をした女性像がいくつか。
 鉛筆やコンテでかかれたものが多いのは当然ですが、グループWho展にも抽象画を出している時川旬子さんが墨で描いているのが目立ちます。谷口さんはサスガ師匠、線に迷いがありません。
 クロッキーとは、いかに実物の輪郭をとらえるか、が問題ではなく、どういう線を引けば美しいのか、あるいは絵になるのか、が問題なのかな、という感想をもちました。

 市写真ライブラリー(北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階)では、藤女子大学写真部写真展
 今回も、おとなしく、静謐な印象の展覧会です。全点モノクロということに加え、風景が多いというのも理由かもしれません。
 窪田万里恵さんや松本知子さんは、おそらく本州の風景を撮っているのでしょうが、ほとんどのショットに人が入っていないうえ、その土地土地のにおいや特徴みたいなものの感じられない一角にレンズを向けているようです。もちろん、観光写真みたいのよりはずっと好感が持てますが。
 31日まで。


3月27日(水)
 訃報です。
 札幌の画家の久守昭嘉さんが亡くなりました。
 春陽会と全道展の会員とのことでしたが、ここ数年は出品していなかったようで(筆者は見たことがない)、後進の指導に専念していたようです。

 ようやく、ギャラリーどらーる(中央区北4西17 HOTEL DORAL)の羽生輝展を見ました。個展は久しぶりです。
 厳しい風土の漁村を描く釧路の日本画家であります。
 日本画でありながら、油彩のようなマチエールは、創画会らしいと思いました。
 羽生さんというと、黒が基調で、色彩については禁欲的だというイメージがありますが、「北の浜辺(漁火)」は、トタン屋根の赤や青が意外とあざやかでした。
 また、静物を描いた小品もありました。「備前にサビタ」なんて、いかにも釧路の画家らしいですね。
 31日まで。

 竹津昇水彩スケッチ展を、ギャラリーユリイカ(中央区南3西1、和田ビル2階)で見ました。
 こんどはスペインでの水彩スケッチ。トレドの美しい街並み、はるかに風車を望む丘など、味わい豊かに描いています。タッチは細かく丁寧ですが、細かすぎて調和を失うということはありません。
 ドライポイントにも挑戦しています。
 31日まで。

 札幌の美術家、上遠野敏(かとおの・さとし)さんから、東京の展覧会の批評が寄せられてきましたので、さっそく全文を掲載します。
 いいなー。見たかったなー。
 上遠野さん、どうもありがとうございました。
 これを読んで「よし、自分も」と思った方は、メールをください。


3月26日(火)
 アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル)のアカギさんからひさしぶりにメールが届き、ギャラリーのスケジュールを教えてもらいましたが、なにぶん量が膨大なので、適宜(ぼちぼち)スケジュールコーナーに追加していきたいと思います。

 表紙にも書きましたが、英国のロジャー・アックリングさんが来札するそうです。昨年の蔡国強さんといい、なんか、ひそかに? 海外の有名アーティストが来ることになりつつある北海道であります。
 彼は、電気もないような家に住んでいると聞きましたが、いまもそうなんでしょうか?


3月25日(月)
 すっかり忘れていましたが、いま美唄市の郷土資料館(西2南1)では、戦後の労働運動の高揚のなかで描かれた「人民裁判」の絵が市に返還されたことにともなう特別展を開いていたんですよね。大月源二など、関係作品もかなり展示されているようです。これからアルテピアッツァへ行く人は、こちらに足を延ばしてみてはいかがでしょう。
 詳しくは、美唄市のホームページを参照してください。4月7日まで。


3月23日(土)
 きのう、CAFE and GALLERY Shirdi(中央区南3西28)へ、山岸誠二・山岸美津子展 −瞑想&迷走−を見に行ったら、作者の山岸誠二さんが来ていました。
 作品のほうは、Shirdiの展示スペース全体をつかったインスタレーション。山岸さんが得意とする、印画紙に現像液をぶちまけて作ったモノクロームの抽象作品が、壁じゅうに貼り付けられています。
 中央には美津子さんが透明なフィルムに、赤などのアクリル絵の具で描いた抽象画2枚が天井から吊り下げられています。そして、明るさの調整できる電球が一つ、天井から床近くにまで下がっています。そして、太田ひろさんの制作した音響が流れています。なかなか瞑想に良さそうな空間です。ちょっと怖いけど。
 美津子さんのほうは数年前に札教大を卒業した人とのことですが、筆者は記憶にありません。山岸さんは「卒展」を見て、コラボレーションをいちどしたいと思っていたということです。
 それにしても山岸さん、来月は「北海道抽象派」など4つの展覧会があるとかで、からだを壊さないでくださいね。
 2人展は4月1日まで。シルディは、東西線円山公園駅下車。宮越屋珈琲本店の西側の道を曲がり、ひたすら道なりに歩いていくと、普通の民家を改造した店があります。隠れ家のような店ですが、メニューは豊富でしかも安いですよ。 

 北海学園大U部写真展を、アートスペース201(南2西1、山口中央ビル5階)で見ました。
 すっかり世代が変わり、以前のエネルギッシュな展示会場はすっかり影を潜めて、むしろ内省的な作品が壁面を覆っています。ただ、全作品がモノクロームというところが、学園大U部らしいといえるかもしれません。
 加藤美奈さんは、林檎を一種の狂言回しにして、砂にまみれた林檎や、木などを写した写真を組にしています。
 原舞子さんが、いちばん内省的かな。曇り空の下孤独に立つシラカバや、打ち寄せる波のようすが、なぜか印象に残ります。
 点数がもっとも多いのが田中皓平さん。大通公園や地下鉄駅、無人のエスカレーターなどのスナップですが、都会の孤独さがにじみ出ています。
 近藤千代さん、高橋広教さんは、小樽に撮影に出かけたようです。花園附近の歓楽街だと思いますが、うーん、イイ所ですねえ。時代に取り残されたような、独特の表情があります。
 清水貴子さん、サトウタカフミさんも出品しています。
 26日まで。
 アートスペース201では、遠藤克子陶展も開かれています。瀟洒な器が中心です。

 美唄の3日目。
石川亨信展の会場風景 そんな大旅行じゃないんで、そろそろ終わらせますけど。
 石川亨信さんの版画って、抽象か具象かっていえば、もちろん抽象なんだけど、図と地の区別もないし、なにかを連想させる形が描かれているわけでもない。強いて言えば、壁のしみとか、水蒸気とか、そういうとりとめのないものに似ています。
 時々2色の作品があるけど、大半は緑や灰色などの単色だし。
 だから、どんな空間にも、不思議とマッチするんですが、このアルテピアッツァ美唄ギャラリーにも、とてもなじんでいました。
 なじむといえば、かつて学校だった木造の校舎に置かれている安田侃さんの大理石の彫刻も、じつになじんでいます。まるで、何万年も以前からここにひっそりと息づいているかのようです。そういう荘重さを宿しアルテピアッツァ・ギャラリー外観。明るい2階が石川さんの作品が展示されている空間ていながら、子供たちの心にはすっと入っていくのが安田侃さんの作品。じつはこの校舎の一階は、いまも幼稚園として使われているんですが、玄関の一隅に、大理石の小品が置かれてあって、そこから子供たちの歓声が響いてくるようでした。
 もちろん、ギャラリーにも廊下にも人はなく、とても静かでぜいたくなひとときを過ごせたんですが。

 安田侃さんの大きな作品は、屋外と、むかし体育館だった建物に配置されています。
 夕刻のひととき、薄明かりの中の彫刻は、古典劇の役者が無言でたたずんでいるかのように、じっとしていました。

東明駅舎 帰りは、二つ手前のバス停「東明5条」まで歩き、そこでバスを待ちました。待っている間、雨が降ってきて、閉口でした。
 この停留所の前には、1972年に廃止された三菱鉱業美唄鉄道の東明駅の駅舎が残っています。
 この鉄道は、国鉄の美唄駅から、東明、盤の沢、我路、美唄炭山、常盤台に至る10.6キロ。1日6往復を運転していたようです。
 ちなみに、奥に見える青いシートは、SLを保存しているものです(北海道では、屋外のSLには冬の間シートをかけるのがふつうです)。美鉄バスは、美唄鉄道の廃止後、地元の人の足代わりだったわけです。
美鉄バスの車内 このへんは、むかし映画館だったとおぼしき建物や、古い住宅などがあり、天気がよければじっくり見て回りたいところです。
 なお、アルテピアッツァ美唄の伊東さんによると、美鉄バス廃止後も4月1日から市がバスの営業を引き継ぐそうで、ダイヤは一部変更になるかもしれませんが現行の28往復は維持されそうだとのことでした。
 それにしても、この春からの自由化が、都会での新規参入を促すことはなく、地方のバス路線切り捨てをもたらしているのは、由々しきことだと思います。このほか、道内では、JRバスの地方路線廃止も日程に上っています。いぜん、新得から鹿追まで乗ったバスは、ほとんどの区間で乗客が筆者一人だけでした。こういう路線もじきに廃止になっていくのでしょうか。税金で、立派な道路があちこちに建設され、その一方でお年寄りたちの日常の足がなくなっていくという事態には、なんともやりきれないものを感じます。

 きょうは仕事でした。


3月22日(金)
 佐藤萬寿夫展を「展覧会の紹介」にアップしました。

美唄駅と美鉄バス 唄の続き。
 美唄までは34分。近いです。
 駅は橋上駅になっていまして、周辺はまだ工事中でした。
 左の写真に見える、円筒状の建物は、駅からの階段部分です。
 止まっているバスは、17日の「日録」でふれた美鉄バスです。
 炭鉱閉山後も人口流出による乗客減が続いているため、今月いっぱいで全線の営業をとりやめることになっています。
 そのニュースだけ聞くと、どんなひどい過疎路線なのかと思ったけど、アルテピアッツァ美唄までの便数は、その先の「国設スキー場行き」を含め、1日28往復!
 札幌圏は別として、これは道内では、驚異的に多い本数といえましょう。1日5往復なんて路線がざらにあるのですから。
 乗客も、一時は20人を超えました。まあ、ほとんどが子供と高校生とお年寄りですが、やはり地方都市としては相当なものです。
 また、バス停とバス停の間隔が短いのも特徴で、駅前を出たと思ったら、駅舎が見える国道沿いの「南2丁目」という停留所に止まるなど、どうも2、300mおきにとまっているようでした。
 美唄出身で、イタリアで活躍中の彫刻家・安田侃さんの作品を常設展示しているアルテピアッツァ美唄は、小学校の廃校跡を利用した施設です。しかし、その事実から思うほどには山奥ではありません。駅前からバスで20分ほど。しかも、バスはいったん西側の市役所や市立病院のほうを迂回してから、東のアルテピアッツァに向かいますから、思いのほか市街地から近いのです。
 さて、目的地では、石川亨信凹版画展「季、天、温、と。(トキトソラトヌクミト)」が開かれていました。
 建物の前で、品のいい夫婦とすれ違いました。会釈をしたら、奥さんのほうが「こんにちは」と言いました。
 ン?! 今のは安田侃さんじゃないか!
 (以下翌日)


3月21日(木)
 春分の日。
 きょうはたくさん書くことがあります。
 要点だけいうと、こんなところでしょうか。

visual poetry in sapporo2002+の会場風景 最初に行ったのは、道立文学館(中央区中島公園)。
 Visual Poetry in Sapporo 2002 +が開かれています。
 「視覚詩」の展覧会。毎年この時期に、国内外の詩人から作品を集めて、実行委の手弁当で開かれています。3回目のことしでいちおうひと区切りとのことです。
 国内では、著名な詩人で、30日同館で講演する藤富保男さんが、サスガという感じの、手慣れた作品を出しています。題は分からないけど、山から岩や石がたくさん転げ落ちてくるさまを、絵ではなくて、「山」「岩」「石」という大小の活字を紙の上に散らして表現しているのです。もとより、深い思想などを表しているものではありませんが、クスリとさせられまvisual poetry in sapporo 2002 +会場す。
 また、伊藤元之さんの連作「Air door」は、コンセプチュアルアート的な面があって、注目です。「3」は、直線だけを書いた絵と、次のようなテキストが組になっています。

 長さ1mのヒモを用意し、先端A、Bに同時に火をつける。中心Cの点でA、Bの火が正確に衝突するまでつづけられる。

 このほか、道外では、実行委員長の高橋昭八郎さんが「詩篇」を寄せています。清水俊彦さん(この人はジャズ評論も書くと思いますが)のフォトコラージュは、1969年ころの総合雑誌のグラビアみたいな感じです。
 海外からは、フランスのジャンフランソワ・ポリイさん(この分野では国際的第一人者です)、インドネシアのメラ・ジャールスマさんらが出品。オーストリアのヨーゼフ・リンシンガーさんの作品「OVENLAPPING VOWELS,2001」は、カタカナの「アエウイオ」とアルファベットの「AEOIU」をデザイン的に処理したものです。
 今回の特徴は、道内の美術家の出品が多いことでしょう。左の写真で見てもわかりますが、中央の巨大なオブジェ2点は石狩管内浜益村の猪風来さんの縄文土器、右に見えている染織作品は、さいきん活躍めざましい朝田千佳子さんの「覚醒の森-夏」です。
 ほかに、カワシマトモエさん、小林重予さん、艾澤詳子さん。美術評論家の柴橋伴夫さんも、詩と写真とボックスアート(ピエロ・デラ・フランチェスカのコラージュ)を組み合わせた作品を出しています。
 ただ、美術作品としてはいいんだけど、ビジュアルポエトリーとしてはどうかなあという感じは、正直言ってありますね。
 4月7日まで。月曜休み。大学生以上300円(常設展は別)。
 なお、地下鉄南北線・中島公園駅からでも幌平橋駅からでも徒歩7分くらいです。 

高山洋夫「沈黙の音」 パークギャラリー(南10西3、パークホテル内)へ。高山洋夫展
 高山さんは札幌在住の抽象画家です。筆者は、けっこう好きですよ。それほど大きくない画面なのに、ダイナミックで、宇宙的広がりが感じられます。
 以下、文化部記者時代に書いた記事です。基本的には、作風は、今と変わってないと思います。 

 作品はすべて「沈黙の音」と題され、三ないし四枚で一組という作品も多い。
 ユニークなのは、凹凸のある岩のような下地。縦長あるいは横長に切ったベニヤ板に、砂やアクリル絵の具を混ぜ合わせて塗り、半年間かけて乾かすという。ざらざらした表面に、緑や赤など原色の絵の具がしぶきのように飛び散り、宇宙空間を思わせる。
 「抽象も具象も、結局は自分自身を描いているという点で同じだと思います」と高山さん。

 今回は、5枚1組という作品もありました(写真で見ても、よく分からないかもしれませんが)。
 この横にあったのは、4枚1組で、灰色の筆が水や気の流れのようなものを感じさせます。
 高山さんの作品は、勢いのあると同時に、工芸的な細かさも兼ねそなえています。日本人である以上、だれもがポロックやフランケンサーラーのような勢いでは制作はできないのですから、この緻密さというのは、好感が持てるのです。
 3月25日まで。

 中心部へ。
 札幌時計台ギャラリー(北1西3)は全室見ごたえがあります。
 まずA・C室の佐藤萬寿夫展
 いずれ「展覧会の紹介」に書きますが、白の美しさにはため息が出そうです。

 B室はGroup創展。女性6人のグループ展。まずまずの抽象画がそろっています。
 胆振管内白老町の佐井秀子さん(新道展会員)は「奏」という連作。微妙な色彩が魅力的です。
 石狩の阿部みえ子さん(同)は、色面の構成が素朴で、どこかパウル・クレーを思わせます。
 札幌の本間良子さん(新道展会友)は「未来からのメッセージ」と題した2点。赤や黒で大胆に構成した画面です。
 ほかに、空知管内栗沢町の坂元英子さん(新道展会員)、小樽の近藤満子さん(同)、石狩の千葉富士枝さんが出品しています。
 ただ、独自に流していたBGMがうるさくて、早々に出てきました。

 3階は、札教大で川井坦さん(道展会員)に学んだ若手の日本画家4人がそろって個展を開いています。
 D室の安永(あんえい)容子さんによると
「なにかというと、教育大でまとめて見られがちなので、4人ともこんなに違うんだ、というところも見てもらいたくて」
とのこと。たしかに、タッチはリアルですが、4者4様の作風です。
安永容子「映し、夏」安永容子「緑雨」 D室は、安永容子個展
 恵庭在住、初の個展です。
 きめ細かでリアルな花鳥画、と言いたいところですが、単純に植物を描いているわけではなくて、植物の周囲の空気感みたいなものまで描こうとしています。
 写真右は「緑雨」、左は「映し夏」。いずれも130号の大作で、並んで飾られていました。
 安永さんは昨年、道展の会友になったのですが、これは昨年の道展の審査にいっぺんに出したのだそうです。しかし、審査を通ったのは左。
 「緑雨」のほうは、ガクアジサイとオオウバユリの群落に、細い雨が降る様子を描いており、湿気のようなものまで伝わってきます。左下が空いているのが、構図として効いていると思いました。
 一方、「映し、夏」は、黄色を主体に、じりじりと暑く乾いた感じが出ています。
 このほか、似たような構図で、盛夏らしい「緑陰」と初秋に色づき初めた「秋彩」も並んでいます。
 植物をモティーフにした日本画はともすればワンパターンになりがちですが、そこをクリアしてがんばってほしいと思いました。

 E室は高橋明子個展
 札幌在住。一昨年の道展で佳作賞を受けています。
 高橋さんは音楽に興味があるらしく「バラライカ」「ウード」など各国の弦楽器を描いているほか、大作「残響」は雅楽がテーマ。また「樹韻」は、木陰に置かれたシタールなどの楽器が、薄めの色彩でやわらかな光で描かれており、シルクロードのオアシスの1場面のようでもあります。

 F室は齊藤美佳個展
 札幌在住。1998年の道展で新人賞を受けています。
 齊藤さんの作品はとにかく彩度が高い、というか、目にまぶしいほどの黄緑や黄色がメーンです。また、縦や横に長い変形作品をよくかいています。
 空中を魚が泳いでいるような、幻想的な図柄が多いです。
 「月の記憶」は、Tが縦長、UとVが横長の三部作。ゆったりと泳ぐ3匹の魚、古い木の椅子、貝殻、タチアオイ…とくれば、甘い図柄ですが、下部にはロープや浮球、長靴も描かれ、ただのメルヘン調におさまらないところをみせています。

陳曦「華」 G室は陳曦個展
 中国・西安出身で、札幌在住。道展会友です。
 陳曦さんといえば、中国の少数民族を画面いっぱいに描くのが特徴です。どの人物も、民族衣装を身につけ、堂々としています。
 今回は、チベットや、苗(ミャオ)族を描いています。右の写真は苗族の少女をモデルにした「華」です。うーん、実物はもうちょっと背景が明るかったような気がするなあ。
 陳さんには珍しい風景画「韻」も出品されています。
 また、おもしろかったのが、「観鳥補蝉図」「宮女図」という二つの模写です。西安にある、則天武后の孫娘と息子の墓にあった壁画の模写ということです。いまは、壁画自体は博物館に移されているので、それをかいたそうです。
 則天武后といえば、唐の時代の、中国の長い歴史の中でもただひとりの女帝です。反対派をすべて粛清した残虐さで知られています。
 かんがえてみれば「日本画」というのは明治期に成立したカテゴリーであって、筆と墨でかいている分には、日本も中国も一緒なんですよね。そう考えてみると、陳曦さんの仕事を、狭い日本画というわくの中だけで考えていてもしかたないのかな、という気がしてきます。
 いずれも23日まで。

 第5回蒼騎会札幌支部展は、さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階)で。
 蒼騎会は1959年結成の全国公募展です。
 支部展には、14人が出品しています。一番の腕っこきは、全道展会員でもある藤井高志さんでしょう。「少年の日(秋)」は、橋のたもとで背中をこちらに見せて横たわる少年の絵です。
 小林達夫さん「街角」や、道展に出している佐藤順一さん「漁船集う」は、昨年9月、小樽で見た「グループ連」展で見た絵のような気がしますし、濱登武さん「広島で焼かれた天使」はつい先日、ギャラリー大通美術館の自画像展で見たなあ。
 北斌さん「ガンボ巖と旅人」は、網走管内遠軽町の願望岩がモデルのようですが、ナイーブアート的な独自の世界に突入しつつあるようです。
 小品ですが、河嶋利郷さん「晩秋の北大農学部」は達者だと思いました。
 ほかに、上原菊枝(新道展会員)、金谷実郎、工藤茂、高見たまゑ、竹薮多代子、棚川リツ子、堤田俊雄、柳瀬美穂のみなさんが出品。
 24日まで。

 書の第24回丹心会展は、スカイホール(南1西3、大丸藤井セントラル7階)で。漢字の臨書が主体です。
 島谷雅堂会長は「無」の一文字がいかにも闊達。
 参考作品の大塚鶴洞「李白詩」も、達者で自由な筆使いです。明治19年生まれ、昭和43年歿で、道内書道界の先達だそうです。
 となりに掛けられた参考作品・桑原翠那「遊仙」も、まさに自在の境地を感じさせます。
 一般の会員では、安藤春玲「石門頌」にひかれました。隷書の良さを存分に引き出していると思います。
 24日まで。

 このほか、市内で見た展覧会にふれておきます。
 工藤良治・広地登志子作品展=ギャラリー大通美術館(大通西5、大五ビル)。
 工藤さんは陶芸。うつわが中心ですが、北国らしい壷もあり。
 広地さんは油彩。小品ばかりですが「早春の月寒」「笹田沼(豊頃)」など、全道各地の風景を、達者な筆で描いています。ピンクや紫などの微妙な色調に特徴があるところは、あるいは酒井芳元さんの門下か?
 同館ではすみれ会展も開催。久守絵画教室の油彩グループ展。
 野口トヨさん「静物」が、魚をじっくりと描いていて目を引いた。
 24日まで。
 堀田真作小品展=this is gallery(南3東1)
 昨年暮れの個展で発表したアルミ絵画の小さなバージョンを50点展示。形、加えられた筆など、それぞれの差はごく小さなものに。
 23日まで。
 岩崎能子作陶展=コンチネンタルギャラリー(南1西11、コンチネンタルビル地下1階)
 信楽、萩ふうが中心。茶器は手びねりがあっておもしろい。
 同ギャラリーでは、今野親子個展も。衣服。
 24日まで。
 日下康夫個展=大同ギャラリー(北3西3、大同生命ビル3階)
 「内モンゴルから北京へ」と題し、4号から120号2枚をつなげた大作「紫禁城落日」まで計40点。素早い筆致は達者で、緑や茶の階調も豊か。大作よりは小品のほうが良い。
 26日まで。

 札幌から特急スーパーホワイトアロー17号で美唄へ。16日のダイヤ改正で、全部のエル特急が美唄(と砂川)にも停車することになったのです。
 きょうは遅いので、続きはあす。ご容赦くだされ。


3月20日(水)
 朝イチしかギャラリーに行く時間がない。
 けさは、フォトギャラリーウエストフォー(中央区大通西4、カメラの光映堂本店2階)で、住友照明・伊藤直樹 ONNA二人展を見た。
 すべてモノクロ。どのフレームにも美女が一人ずつ写っている。半分以上はヌードで、木の上に上らせたり、金粉みたいのを塗ったり、ソラリゼーションみたいな効果を用いたり、なんだかいろんなことをやっている。残りも、Tバック水着を着ていたりする。
 ヌードの写真展って、ありそうで少ない。カメラ雑誌の投稿欄には月1、2枚は出てるけど。

 こんどは、ギャラリーどらーるに行こうっと。朝8時からやってます。


3月19日(火)
 会社へ行く前にキヤノンサロン(北区北7西1、SE山京ビル)をのぞいてみたら、鉄道ファン・キヤノンフォトコンテスト入賞佳作展というのをやっていまして、これがけっこうおもしろかったです。
 「鉄道ファン」というのは、いわゆる鉄道3大月刊誌のうち、「鉄道ピクトリアル」ほど学術的・専門的ではなく、「鉄道ジャーナル」ほどは易しくないという位置付けらしいです。
 とくに、特別賞(「改札口」秋元佳良)は泣かせますね。手前は暗い駅舎の内部で、上方に、縦書き・漢数字で書かれた時刻表が薄明かりに浮かび上がります。そのむこうには、オレンジ色の、先頭が円い旧型の車輛が2輌見えます。
 これはたぶん、日本最南端の民営鉄道として知られた鹿児島交通(伊集院−枕崎間)でしょう。ただでさえ、モータリゼーションが進んで経営が苦しくなっていたところに、1983年6月に襲った集中豪雨で全線が不通となり、そのまま廃止となったのでした。まだ車輛が残っているのでしょうか。
 グランプリは、新幹線(700系ひかりレールスターか、500系のぞみか忘れましたが)の先頭部を洗っている場面を撮影した住本勝也「ただいま洗顔中」。この人は鉄道写真のツボを心得ているらしく、海沿いを走る特急列車の窓に夕日が反射し、それがさらに波の間にオレンジ色に反射している一瞬をとらえた「残照」という作品も入賞しています。
 シニア賞には、びっしりと桜の花びらが駅構内を覆い尽くした場面を撮った太田誉「白い絨毯の駅」が選ばれていました。
 3枚の組写真からなる「静夜」は、全く車輛が映っていないのに、シグナルの赤や、線路沿いの塀の影が、旅愁をセンチメンタルに表現していました。
 それにしても、鉄道写真というのは、なんと人の旅情を誘うことでしょう。いや、それには個人差があって、人によっては車の写真のほうが好きなのかもしれない。でも、筆者は、鉄道に乗るのも好きだし、鉄道写真にはロマンを感じます。
 そして、ふいに口にした「ロマン」というのは、ようするにどういうことなのか、ある種の写真が現代美術の文脈で語られて、鉄道写真がある程度の美的水準を保持しているにもかかわらず現代美術の文脈はもとより一般の写真雑誌からも排除されているのはなぜなのか、といったことについて、考えてしまうのです。
 29日まで。土、日、祝日休み。

 きょうの道新夕刊の文化面に、登別の矢元政行さん(行動展・全道展会員)が、安田火災美術財団選抜奨励展の絵画部門で最高賞の安田美術賞を受け、安田火災東郷青児美術館で展示されているという記事が出ていました。
 この賞自体は、どんなものなのかよく知りませんが、ともあれ全国最高賞とはすごいことです。おめでとうございます。
 ただ、さいきんの道新の文化面の写真は下手ですね。絵の写真を斜めから撮ってどうするのだ。地方版の写真じゃあるまいし。
 毎日の夕刊にはVOCA展の批評が出ていましたが、総じて否定的です。ことしも、北海道から推薦されて出品されていった作家については、まったく触れられていません。


3月18日(月)
 なかなか仕事が終わらない。畑中正人さよならライブにも行けなかった。彼がいなくなったら、端聡さんや坂東史樹さんは、サウンドをだれに頼むんだろう。

 札幌美術展の紹介は、きりがないので、このへんでいちおう脱稿。
 アートな本棚、「プラドで見た夢」を追加しました。


3月17日(日)
 札幌美術展の紹介を少しずつ書いていますが、まだおわりません。

 石狩市の版画家・石川亨信さんの展覧会が開かれるアルテピアッツァ美唄は、静かな谷あいに、廃校跡を利用して設けられた良いところです。
 札幌からドライブがてら行くのにちょうどよいのですが、美唄駅前から美鉄バスで行くというのも捨てがたい選択肢です。というのは、美鉄バスが、今月末をもってすべての路線の営業をやめ、廃業するからです。
 1980年代の初頭までは、今の京王プラザホテルのあたりに、薄汚れた美鉄バスの営業所があったんですけどねえ。美唄行きの路線バスもあったんじゃないでしょうか。これも、広義の「なくなっていく炭鉱遺産」といえるかもしれません。


3月16日(土)
 会社を7時半より前に退社したのが火曜日だけで、くたびれた1週間でした。きのうはさぼってしまいました。
 さすがに、ギャラリーめぐりもめんどうくさいなーという気持ちが先にたつのですが、良いものを見ると疲れもふっとびます。
 第2回北海道二科(絵画)支部展は、大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)で。
 なんといっても、道内では唯一の二科・絵画会員、園田郁夫さん(帯広。新道展会員)「北国の詩A」「北国の詩B」が目を引きます。
 これまでの園田さんの絵は、ベールをかぶった砂漠の女性やラクダなどを巧みな線で描いたものが多く、たしかに良い絵なのですが、どこかエキゾチシズムに頼ったところがあるような気がして筆者はそれほど注目してはいませんでした。
 今回の2作では、人物は布の後ろ側に隠れ、手や足だけがのぞいています。絵の大半は布で覆われ、ほとんど抽象画といってもよいくらいです。キャンバスには、白や緑を主体に、青や茶などさまざまな色が、短いがたしかなストロークで置かれ、まじり合い、深みのある画面をつくっています。
 布には緩やかな皺が寄っていますが、これも単純に黒い曲線を上から曳いたのではなく、色の配置から皺の線が浮き出るように描かれており、円熟のわざを感じさせます。
 この2作は、園田さんの画業のターニングポイントになるのではないかと思いました。
 亀井由利さん(札幌。新道展会友)は「かかえるU」「かかえるV」「棟」の3作を出品しています。
 前2者は、花束を抱えた裸婦がモティーフ。
 「棟」は大作で、白や水色の花で埋められた夜の野の中央に、大きな裸婦が白い背中を見せて坐り、その頭上にこれまた巨大な金色の満月が耀いている図です。くらい空には不吉な黒い鳥が飛んでいます。絵の具の溶き方などにはまだ上達の余地がありそうですが、なかなか独自の世界を作り上げています。
 新井千鶴子さん「白いテーブル」は、魚、水差しなどで構成した静物画ですが、よく見ると、テーブルクロスの表面に細かい線を入れるなど、画面が単調にならないようなさまざまな工夫の跡が見受けられます。
 柴崎康男さん(会友。伊達)は、もう少しで抽象になりそうな風景画。「港のある風景」などは、ほとんど線の集積だけで画面が構成されています。「丘の上の教会」は、パリのモンマルトルでしょうか。専ら縦に鋭く走る黒い線と、茶や白の帯が重なり合い、スピーディーなリズムをうんでいますが、離れて見ると建物の屋根や尖塔などがおぼろげに浮かんでくるから不思議です。
 ほかに、飯田由美子さん(会友)、熊谷邦子さん(会友。全道展会友。室蘭)、高橋記代美さん、大逐笙子さん、沢田和子さん、滝牧子さん、小川清さん、山田美代子さんが出品しています。
 19日まで。

 きょう16日で終わってしまいましたが「伊藤仁個展 手づくり額と心象風景」(らいらっく・ぎゃらりい=大通西4、道銀本店1階)も、見ごたえがありました。
 ドイツロマン派から、ドランやモローへと至る系譜につながりそうな、幻想的な風景を描いた油彩、アクリル画が並んでいるのです。
 「静かな森」は、黄緑のやわらかい色彩で覆われた木々の前に、似た色調の馬がたたずんでいる―という図柄ですし、「遥かな地」「永遠の地」は、航空写真のように高い位置から見た雪原の中に、クレーターのような地形があり、その内外に疎らに針葉樹が立っているという、不思議というか、荘厳さすら感じられる絵でした。朝焼け、夕焼けのころの空や森を題材にした作品も多く、心打たれました。

 スカイホール(南1西3、大丸藤井セントラル7階)で開かれている森川昭夫油絵個展。原色をふんだんに用いた、まばゆい風景画が並びます。
 とくに、山を題材にすると、派手な色調になりますね。「ニセコ」なんて、尾根が真っ赤。
 また、海を描いた作品「小樽埠頭2」「島武意(積丹)」など、水面の占める割合が高く、風景の反射とその揺れが、作者の関心のようです。
 個人的にすきなのが「桜湯・雨(夕張)」。古い映画の看板を掲げた、古い建物をモティーフにした10号の作品ですが、題名の通り、雨が降っているときの情景です。手前に走るアスファルトの坂道が黒く濡れ、建物を反射しています。雨の風景を描いた絵って、ありそうでないんですよね。独特のにおいや、車が通る時にたてるシャーっという音まで、聞こえてきそうです。
 17日まで。

 残りは簡単に。
 武田史子Selection展=カフェ・エルエテ・デ・ミュゼ(南1西24、リードビル2階)
 若手銅版画家として人気のある武田さん(東京)の作品展。オーナーの渡辺さんによると、「時刻(とき)のループ」など展示中の初期作品はなかなか入手できない由。もちろん新作も飾ってあります。明快な線と、空気感が持ち味でしょうか。
 横本一男写真展・CRATIVEPHOTO=NHKギャラリー(大通西1)
 パソコンを使わず、合成やフィルターワークによる不思議な写真。といっても、そんなにへんてこりんな写真はないが、80歳近くになってこういうものに挑戦する心意気に感心。個人的には、ライトボックスの上にミニトマトをいっぱい並べて撮った作品が、かわいらしくて好きです。
 山岡将秋作陶展・こぶし焼文色(あいろ)窯=丸井今井札幌本店(南1西3)大通館8階工芸サロン
 道内陶芸の草分け・岩見沢のこぶし焼を継承する陶芸家。釉薬の混じり具合が生む文様は、深みがあります。
 以上、20日まで。 

 札幌時計台ギャラリー(北1西3)は、A室が第18回Bridge展。岡和田暁子、片山美代、後藤やよい、武田直美、原田渥美の5人による油彩グループ展。武田さんの「オイ、新しい時代が来たぞ」は、力強い若者の群像。片山さん「平和な風景〜夜道」など一連の作品は、その名の通り平和な風景なのだけれど、昨年の同時テロやアフガニスタン空爆に触発されたものなのでしょう。気持ちは分かります。
 B室は、横田章・赤羽真純2人展。なんとふたりで20回目。
 赤羽さんは、江別付近の森の風景画が中心。短いストロークで、淡い色を中心にまとめています。
 横田さんは、パステルらしき画材で、札幌などの風景を描いています。独特の湿り気まで描かれているようです。また、1985年ごろに行ったアフガニスタンのスケッチもありました。
 C室は、中谷武個展。右側の壁には女ものの靴をさまざまに配置した静物画が、左側の壁にはどことも知れぬ西洋の街角を描いた絵が並んでいます。人気の全くない絵ですが、そのために神秘性を高めています。
 いずれもきょう16日で終了。

 清水知秀作陶展が、ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル)で。
 帯広在住。生活の器が中心です。「オンネトーブルー」と名付けたものなど、釉薬が何種類かあるのが楽しいです。
 三越札幌店では、高野元孝油絵展。パレットナイフを多用する画家ということで、荒天の風景を描いたものの中には、ヴラマンクによく似た作品もありましたが、静かな天候では穏やかさがよく出ています。「停車場の風景 函館」では、函館山を臨む広い駅構内が描かれています。中央にぽつんと置かれたディーゼル機関車がよいアクセントになっています。DD51はもうちょいオレンジ色が強いと思うけど、まあそんなことはどうでもいいや。
 以上、17日まで。

 「札幌美術展」の紹介が、まだ書き終わりません。とりあえず、いったんアップします。

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