北1西25 ポストの上に帽子の忘れ物つれづれ日録

2001年12月




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 12月28、29日(金、土)
 さっぽろ東急百貨店(中央区北4西2)の東急画廊などで、ラウル・デュフィ水彩・素描・版画展が開かれています。
 デュフィ(1877〜1953年)は、20世紀のフランスの画家ではかなりの大物だとされています。奔放な線と派手な色遣いが特徴です。今回の展覧会でいちばん良かった大きめのリトグラフ「ニースのカジノ」などによく表現されているように、地中海の明るく穏やかな光と空気感がデュフィらしいです。
 同じ大きさのリトグラフでは「モンソネエの私達の絵」が、やはり温かで穏やかな世界を表現しています。「ヴァイオリンのある風景」は、これまたデュフィらしい、フォルムに全く拘泥せずに鮮やかな色を塗りたくっている作品です。
 小さめのリトグラフでは、「タラスコンのタルタラン」と題されていた2点に感心しました。夜景が、ほっとするような優しいタッチで表現されています。
 なにも説明がなかったけれど、おそらくドーデ(「最後の授業」などで知られるフランスの名短篇作家)のユーモア小説への挿絵だと思います。
 素描は、ノートの切れ端に鉛筆でささっと書いたものなど。50万円以上ですが、100万円台のものはなく、バブル時代に比べるとかなり安くなってるんじゃないでしょうかね。
 ただ、気になるのは、版画(すべてリトグラフ)は、今挙げたもの以外はどれもエディションなどが書いてないんですよね。パネルには「350部限定」とかって書いてあるんだけど。原作者の死後に数百部単位で刷られた版画というのは、デパートでよく売られている版画と同じようなもので、あまりオリジナルのオーラは漂ってませんよね。もちろんその分安いんだけど。
 個人的には、「ニースのカジノ」とかっていわれても、なんか、わしらとはあんまし関係ない世界だなあって感じ。根が貧乏人なもんですいません。日常から離れた夢を見せてくれるから芸術ってイイんだよ−って言われれば、それも正しい意見だとは思いますが。
 1月9日まで。

 「私のベスト5」で、どーしてヤナイは「HIGH TIDE」を選んでないんだという声が一部にありますが、まあ、自分の携わった展覧会を挙げるのもフェアじゃないかなーと思っただけです。ほんとは「砂澤ビッキ」とかも良かったけど、違う開催会場の展覧会を選びたいという気持ちもあったし。
 版画や写真のグループ展がおもしろかったという感想はあります。
 で、ぜんぜんメールがこないんだけど。正月になってもお待ちしてます♪

 今年の更新はこれでおしまいです。
 来年は1月1日から再開します。
 みなさん、良いお年をお迎えください。

 
 12月26日(水) 杉吉篤「けん引」
 杉吉篤個展
 杉吉さんの絵は、サボテンのオバケが夜の山河をのし歩いたり、想像力が羽ばたいた愉快な絵であることが多く、ご本人が面白いこともあって、いつも面白がって見ていたのですが、今回はちょっとまじめな感じがします。
 左の絵は「けん引」(100号)。ご本人は
「色を使うのに飽きた」
などとおっしゃっていますがほんとのところは分かりません。画面に板のようなものを貼るコラージュ技法を用いています。白っぽい地は、平坦に見えますが、じつは何度も塗り重ねられています。左下の線は、黒く細い線なので、白い線などはひかれていないのですが、デジカメだとうまく出ないんですね(ついでに、一番上の線は額です。消し忘れた。スイマセン)。
 「ブラフマの卵」(100号)は、カラフルな作品。紫の地に、人の形の輪郭をかき、その内側に、爆発する火山や一つ目の人間、フクロウなどをにぎやかに描きこんでいます。いつもの杉吉さんらしいとはいえ、どこか北米先住民族のようなプリミティブなものを感じさせます。
 杉吉さんは札幌在住、全道展会友。
 ギャラリーユリイカ(中央区南3西1、和田ビル2階)にて、27日まで。
 うーむ、これだとまじめに取材してきたみたいだなあ^^;堀田真作「Like Someone in Love」

 堀田真作個展
 こちらもデジカメが苦手な被写体ですが、はたしてアルミニウムの材質感が出ているでしょうか? 個展のタイトルにもなっている作品「Like Someone in Love」です。
 縦に細長いアルミ片を規則正しくつなげ、表面に絵の具を塗った絵画です。この種の平面ばかりが、ギャラリーの壁面を、ほとんど隙間なく埋めています。
 一見して、米国の抽象表現主義を受け継ぐ仕事なのだなあと思いました。そのうち、ダニエル・ビュランを思い出し、それがじゃましてきちんと絵が見えなくなってしまったけど。
 まあそれはともかく、たとえばフランケンサーラーやケリーの仕事には「地」と「図」とは何か、という問いが根底にあったと筆者は勝手に解釈しているわけですが、堀田(ほりた)さんの縞模様も、「地」と「図」が不断に前進と後退を繰り返し、相互の判別が無意味になるほど滲透しあうことで、独特の画面をつくっていると思うのです。それと同時に、油彩のようにマチエールやテクスチュアで表面を紡いでいくのではなく、もっぱら光沢の違いで画面の構造、つまり禁欲的な美の世界をつくりあげているのです。
 しかし、個人的には、この方向性にまだ未踏の沃野が残されているのだろうか、という疑問を抱かざるを得ないのですが…。
 それにしても、こんなエラそうなことを書いたあとでなんなんですが、堀田さんは筆者のことを評論家か何かと思ってらっしゃるらしいですが、そんな大層なものでは全然ないので、今後ともよろしくお願いします。

 あしたは忘年会なのでたぶん更新しません。

  
 12月25日(火)
 きのうは休み。
 きょうも、見にいけた展覧会はありませんでした。

 2001年度私のベストのページを設けました。まだ間に合いますので、このページへの投稿をメールにてお待ちしています。

 
 12月23日(日)
 まず、25日で終わりの大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)から。
 伊藤隆弘・石の彫刻小作品展は、抽象彫刻の王道、といった感じの、佳作の並ぶ個展です。イチ押しです。
 なかでも、「The slide of Ring」は、そのシンプルさにおいて比類ない滑り台です。ようするに、オニオンリングを斜めに傾けたフォルムなんですが、階段と滑り台が同じ円環の中におさまっています。遊ぶこどもたちは楽しいでしょうね。だって、滑り終わったらすぐそこが階段の昇り口なんだもの。21世紀の滑り台のスタンダードになる予感すらします。
 ほかに、茨城県笠間市などに設置されている「未生」、ソラマメに似た形で隙間から光が漏れる「雲の指標」、流線型の美しい「風標X」など。屋外設置作品のミニチュアとして作られているものも多く、スケール感があります。イサム・ノグチや安田侃につながるものがありそうですね。
 1961年生まれ。空知管内長沼町在住。ことし9月の北海道立体表現展にも出品。HPはこちら

 上のフロアは「6人鋳造展」。鴻上宏子、武田省一、武田亨恵、富原加奈子、久蔵美和子、船木ゆずかの6氏による金属の小品展です(ただ、武田亨恵さんの「The power of being silence」はかなりでかくてパワフル)。船木さんはいつものジュエリーじゃなくて、金属板など。個人的には、富原さんの、街の風景のような彫刻が好きです。

 札幌芸術の森の展覧会もあすでおしまいです。
 工芸館展示ホールの、北のクラフト「木仕事〜20人の工房」。家具、楽器、カヌー、玩具、日用品、動物をかたどった彫刻など、いかにも北海道らしい仕事をしている作家を紹介しています。
 最先端の現代美術も重要ですが、こういう日々の生活に根ざした作品も大切にしていきたいと思いました。
 芸術の森美術館では、イタリア彫刻の20世紀
 ことしは「日本におけるイタリア年」ということで、カラヴァッジオとかイタリア絵画の100年もみましたけど、3つのなかではこれが個人的にはベストでした。イタリア人って、ファッションや料理や彫刻は得意だけど、やっぱり絵は苦手なんじゃないか、ってこれは偏見か(笑い)。
 詳細は別項で。

 道立近代美術館(中央区北1西17)できのう始まったA★MUSE★LAND ハッピィ・バディ・デイ。子どもも大人も楽しめる展覧会です。
 とくに今回は、体験型・参加型の作品が多いようです。
 筆者は、午後1時から神奈川県在住の高橋洋子さんのパフォーマンスを見ましたが、美しかった!
 高橋さんは「センシティヴ・カオス」というインスタレーションを出品しています。電球やステンレス球の入ったアクリルの台の上に水槽が乗っているのですが、水を揺らすと、白い天井や壁に波紋が大きく映るのです。
 ときにはゆらゆらと波模様、ときには網目模様…と、緩やかに変化し、たゆたうモノクロームの映像。まさに、至福のひとときでした。
 通常も、観覧者のみなさんが自由に水に触って模様をつくりだすことができるので、どうぞ。

 会場で、最初に置いてあるのがアイディーブティックによる、衣服の作品群。
 「短冊ドレス」は、観覧者がそれぞれ願い事を短冊状の布に書いて、白衣に安全ピンで取り付けるというもの。なんだか、七夕みたいな作品です。「大学に合格できますように」「家族みんな幸せに」といった、ありがちな言葉のなかで、ひときわ目立っていた短冊がありました。
 係長が早く異動しますように
 ……切実なんですね。

 道新の夕刊などにも写真の出ていたLOCO「まわりに誰がいるかなんて気にならない。楽しまなくっちゃ」は、樹脂製のコップ(花見とかでビールを注ぐのに使うアレです)の底をつなげてボール状にしたものを、観覧者が頭にかぶって歩くというもの。半透明だから何ほどのことやあらん―と思っていると大変、ほとんど外が見えません。けっこう疲れます。
 丸山隆さんはHIGH TIDEに次ぐ登場。「歩行機構」は、直径2メートル、長さ6メートルの鉄製の円筒の中を歩くという作品。通路はぐらぐら揺れてバランスがとりづらいのですが、大人の歩行が困難というほどではありません。それより、ヘルメットや肘当てを装着するほうが時間がかかる。
 岩野勝人さん「メンタルチェア」は、真っ赤な鉄線を溶接して人体の形にしたいす。自由に座ることができます。筆者は赤いカーディガンを着ていったので、学芸員の方からは
「作品に溶け込んでいる」
と言われました。すわり心地は、横浜トリエンナーレの蔡国強さんのマッサージチェアのほうがいいなあ。この作品、屋外からも窓ガラス越しに見えるそうです。夜は赤い蛍光塗料がけっこうまぶしいとか。

 iモード用に「週末お薦め展覧会」のページを設けました。週1回更新し、週末見られる展覧会を紹介するもので、基本的には「スケジュール」欄と内容は同じです。
 ただし、筆者は携帯電話を持っていないので、動作確認ができません。見た方がいらしたら、ご一報くださると助かります。

 
 12月22日(土)
 復活

 長らくお待たせいたしました。
 みなさんにはご心配をおかけしました。
 パソコンはもう大丈夫です(たぶん… 自信ないけど)。

大雪の後の西岡 この2週間、HIGH TIDE展が始まって終わっちゃうし、仕事は年末進行で忙しいし、いろいろありました。そういえば、ひどい雪がふりましたねえ。右の写真は、自宅の近くの水源地通りですが、ごらんの通り、片側2車線のうち1車線が完全に雪に埋もれています(街路樹が、撮影位置より相当右側にあることに注意)。
 会社の帰り、札幌駅前から50分遅れのバスに乗ったら、2時間近くもかかりました。運転手さんも大変であります。

 このHPもいつのまにか1年になってましたね。これもみなさんのおかげであります。こんごともよろしくお願いいたします。

 もう終わってしまった展覧会について書いてもあまり役に立たないかもしれませんし、そもそももう忘れかけてるんですが、まあつれづれなるままに書いていきます。

 まず、「HIGH TIDE ラディカルな意思の現れ」ですが、なにせ筆者、のっぴきならない事情で最終日の討論などに出ておりません。うちの「掲示板」なんかを見る限りでは、けっこう議論になってたんじゃない講演する佐藤友哉課長かなー、って気がするけど。
 初日は、佐藤友哉・同館学芸第一課長による記念講演「グループ展の動向と「北海道の美術」の変革について」がありました。大学生時代に「THE VISUAL TIME」展などをリアルタイムで見ている友哉さんならではのお話でした。もっとも、昨年亡くなられた竹岡和田男さんを引き合いに出して「自分が美術を見始めた時代を『活気ある時代』と思ってしまうのは、美術評論家の通弊かもしれませんが」と話していたのは、ウムムでした。
 で、意外だったのが、会場を出てから売ってたアートグッズがけっこうはけてたこと。丸山隆さんの知恵の輪みたいなオブジェとか、佐々木徹さんの日めくりカレンダーとか、レスリー・タナヒルさんの着彩ネクタイとか、完売してました。絵とかだったら何ぼ安くても数万円するからなー。数千円で手に入るものって案外需要があるのかもしれません。
 で、個々の作品については、近々書くとして、ほかの個展ね。

 菊地又男遺作展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)。
 8日のパーティーは、とにかくすごい人でした。
 作品は、絶筆の「早春」など。コラージュなのですが、澄み切った色彩と、悟りきったような開放感があるように思えるのは、絶筆だと思って見るからでしょうか。

 川上りえ個展=ギャラリーたぴお(中央区北2西2、道特会館)。
 DMを見た人、道展を見た人は分かると思いますが、下半身しかない針金の人体を、天井の低いギャラリー空間に置いてみたら…という試みです。3体あるので、人が歩き回ってるのをプールの底でしゃがんで見上げてるような不思議な感じがします。
 人物の全身が表現されないことで、かえって想像力を働かせることができるんですね。
 それにしても今年の川上さん、芸術の森美術館、ポーランドのトリエンナーレ、アリアンス・フランセーズ個展と大忙しでしたね、お疲れさまでした!

 最終週の時計台ギャラリー(中央区北1西3)、けっこう見ごたえがありました。
 B室は澤田範明個展
 札幌の道展会員です。筆者は、毎年道展に出している構想画(人物と風景の組み合わせ)よりも、風景を描いた小品のほうが好きです。「冬の馬追丘陵」とか。あちこちに散らした色斑も、けっこうイイ味を出してるし。
西川孝 E・F室は、西川孝展
 西川さんは根室管内中標津町の新道展会員ですが、熱心に風景画に取り組んでいます。
 以前は、大好きな相原球一朗に影響されたモノトーンの作品が多かったのですが、今年に入り、なんともいえない微妙な色調(青緑や薄茶)で、ふつうなら人がかかないような平坦な景色をまとまりある絵に仕立てようと苦闘しています。
 右は、開陽台という、中標津の名所から眺めた風景を、少し加工してつくった一枚です。
 越智紀久春さん(石狩管内厚田村在住)はすごいとか、いろんな話で盛り上がりました。

 G室は第3回グループ耀日本画展
 会場に入って「おっ」と思った作品は、竹澤さんの「Soul Master`s Cafe」。なーんだ、道展に入選してた作品じゃないですかあ。筆者はもっと若い人の絵かと思ってたけど、若々しい感性ですね。
木村初江作陶展
 左の写真は、木村初江作陶展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階)。手前の壺は、釉薬をほとんど使わず、土の色を生かしつつ、べんがらなども用いているそうです。奥の、宇宙感覚あふれる陶板画はいつもの木村さんですね。
 HPはこちら。
 同時に開かれていた、かな書道展(さわらび会)も、かな書の王道って感じで、風格がありました。

 写真展LAD(liberty and doing)=札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階)は、鈴木あゆ美さんら7人の若々しい感性が光るグループ展でした。
 やっぱ、石川ひとさん、すごい。また、題名の付け方がうまいんだよなー。凍りかけた水溜まりに集まった落ち葉の写真に「死ぬということ」、だもん。閉ざされた庭のような空間で、長時間露光して、人間を幽霊みたいに写しこんだ連作もおもしろかった。
 福岡将之展=イーストウエストフォトギャラリー(中央区南3西8、大洋ビル2階)、北海学園大学2部写真展=アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル5階)もよかった。

 じつは、今週はほとんど見てません。
 あしたからぼちぼち見ようと思ってます。ぼちぼち何て言ってたら、年が暮れちゃうけど。

 
ハイタイド準備風景 12月7日(金)
 「HIGH TIDE ラディカルな意思の現れ」という展覧会があすから道立近代美術館(中央区北1西17)で始まります。きょうは搬入日とあって、夜遅くまで会場で準備が進められました。
 どういうわけか筆者も、この展覧会の「市民と現代美術を結ぶ会」の一員に名を連ねているので、あまり肩入れして紹介するとフェアじゃないんですけど、ざっと会場を見て回った感じでは、面白いですよ。…って思いっきり肩入れか(^.^)
 現代美術のグループ展ですが、かなりいろいろな傾向の作品が展示されています。そうだ、確か山谷圭司さんは前庭に出品の予定なので、お見逃しなく。
 あすは初日で、午後2時から、佐藤友哉・同館学芸第一課長による記念講演「グループ展の動向と「北海道の美術」の変革につ展示作業を終えHIGHTIDEをPRする伊藤隆介氏と上遠野敏氏いて」があります。
 左は、展示作業を終えて「HIGH TIDEにおいで!」とアピールする出品作家の伊藤隆介さん(左)と上遠野(かとおの)敏さんです。

 夕刊各紙によると、取次店(本の問屋)の鈴木書店が倒産しました。
 東京・神田神保町の鈴木書店は中堅の取次店で、硬派の本を多くあつかうことで知られていました。岩波書店などが支援に入っていましたが、出版不況には勝てなかったようです。
 以前、道新の本欄で「神保町すくらんぶる」を連載していた井狩春男さんがここの部長さんでした。彼の情報網はすごいもので、たとえば「ハリー・ポッター」を翻訳前から紹介していました。その関係で鈴木書店を一度だけ訪れたことがありますが、古い社屋にものすごい数の本が積みあがっていました。
 井狩さんも、日本の出版文化も、将来が心配です。

 12月6日(木)
 芸能面を組み、夕刊第3面、文化、芸能、生活(2ページ)、金曜らしんばん(同)、本(同)、新年号(6ページ)を点検した。疲れた。口もききたくない。

 予約していた、大西みつぐ写真集「遠い夏」が、本人のサイン入りで送られてきた(あとで3800円プラス消費税払い込まなくちゃ)。93年の木村伊兵衛賞(=写真界の芥川賞みたいな賞)を受賞しながら、いまだ出版されていなかったもの。プール、川辺、だれもいない海の家…。まぶしいのにどこかさびしい、そんな夏の風景を切り取ったカラー写真集です。出版社はワイズ出版。
 冒頭の芦別をはじめ、クマ牧場の近く、札幌の豊平川河畔や駅前など、意外と道内の風景が多い。ただ、やっぱり北海道の夏って、東京や伊豆と比べてどこか涼しそう。

 12月5日(水)
 きょうもとくにありません。
 表紙にも書いてありますが、そろそろ年末回顧の時期ですね。読者の皆様から「今年見た展覧会ベスト5」の原稿を募集します。「ベスト5」としましたが、10でも3でも1でも、「イヤそういう数合わせはいかん」という主旨でも、道外の展覧会でも、本やイベントでもなんでもかまいません。ふるってメールで送ってください。クリスマスあたりで締め切ります。

 会社への行き帰りのバスの中で小林秀雄の評論を読んでいます。
 「光悦と宗達」には、以前サントリー美術館で見た歌巻が出てきて懐かしいです。「雪舟」という一文もありました。来年は京都と東京で雪舟展があるそうですね。見たいけど、いけるかなあ。東京の展覧会は、人が多いのが閉口です。

 12月4日(火)
 帰宅10時。
 昨夜は原稿を二つやっつけた。HIGH TIDE展のテキストはまだ手付かず。

 12月3日(月)
 きのう書いた中村友三さんの作品展については、本人からいろいろ訂正というか、書き込みがありました。どうか「掲示板」をごらんください。とりあえず、大きさは30から60センチに直しておきました。すいません。

 Yさんから薦められて丸井今井札幌本店で開かれている英国人の陶芸展に行きましたが、あまりの仕事の粗さに驚きました。まあ、オブジェ展ならいいけど、器だからなー。
 
 12月2日(日)
 なんだか体調がすぐれず、更新が遅れております。
 
 1日は午後からギャラリーめぐり。
 更新が遅れたので、ほとんど役に立たない情報ばっかりです。すいません。
 
 まだ終わってないほうから。
 ホテルDORAL(中央区北4西17)で、輪島進一展のオープニング。
 輪島さんはいまは小樽在住。独立美術、全道展の会員で、道内中堅きっての実力派ですが、今回はちょっと、いい意味で予想を裏切られました。
 油彩が2点だけ。あとは、コンテ、水彩などです。
 コンテの新作「セプテンバー」は、以前独立の会員になって初めて出品した小樽運河の作品と似た調子で、ビル建設中の札幌駅前を題材にしています。アピアの透明エレベーターを中央に、右にはJRタワーやエスタ、左にも建設中の大丸百貨店が、パノラマ的に描かれています。もちろん、モノクロです。
 直線の北5条通りを中央で曲げてかいてるのはなぜ? と聞くと
「角度で言うと230度とか260度くらいを画面に入れたかった」
とのこと。
 小品はバレリーナがモティーフのものが中心。背景を、支持体の四隅まで描き尽くさず、モティーフの周囲のみに着彩しています。洋画ではつねに、画面の端をどう処理するかというのが大きな問題になりますが、これは輪島さんなりの模索なのでしょう。
 ともあれ、20世紀までの輪島さんの絵を想像していると、びっくりします。
 オープニングパーティーは、遠来の方も多く、大盛況でした。
 30日まで。

 アートスペース201(南2西1、山口中央ビル6階)では、第21回存在派展が開かれています。
 中心人物の金子辰哉さんは「追悼」と題した、木に傷をつけた立体を出品。
 山岸誠二さんは「そこにとどまる理由はない」と題し、さびたトタン板16枚にアクリル絵の具を散らした作品を並べています。なかなか色がきれいですが
「これほど考えないでつくった作品は珍しいですよ。余った絵の具使ったり…」。
 来年も、4月に三つ発表が重なるなど、あいかわらず忙しいようです。
 林玲二さんは、青のにじみが美しい平面のインスタレーション。
 東京からも出品があります。宮尾雄次さんは「F−1終焉」など、和紙や布、顔料などさまざまな素材で複雑な表情を見せる平面を出しています。
 なお、午後6時までなのは最終日だけで、ほかは午後7時までやっています。
 4日まで。

 意外と(失礼!)よかったのが、大同ギャラリー(北3西3、大同生命ビル3階)での渡辺節代ステインドグラス展
 現在は茨城在住ですが、18歳まで札幌で過ごしたそうです。
 電気スタンドが中心です。意匠には、虫や草花など、アール・ヌーボーを思わせるものが多いですが、ドームなどがいささかバタくさいのに対して、渡辺さんはいかにも日本人らしい細やかな神経の行き届いた作品にまとまっています。
 4日まで。

 橋本博写真展 冬・さっぽろ”ひとり歩き”は、題名の通り、肩の凝らない街角スナップでした。
 富士フォトサロン(北2西4、三井ビル別館)で、12日まで。

 それでは、以下、もう終わってしまった展覧会。
 時計台ギャラリー(北1西3)は、豪華メンバー。
 A室は岸本裕躬個展
 今回はほとんど人の姿が画面から消えて、虫や草などを拡大して描いています。といって、ボタニカルアートのように客観的ではなく、表現主義的な、やや激しいタッチです。「浜辺のバッタ」は、2匹のバッタが夕日を見ながら語らっているような情景を描き、どこか風刺画のような苦さがあります。
 札幌。行動展会員。
 B室は豊田満個展
 30号以下の、穏やかな風景画の油彩が並びます。モティーフも、北大、道庁などの定番。新緑の季節、植物園あたりでしょうか、「緑風」は風の流れも感じさせる佳作でした。
 札幌。道展会員。
櫻井マチ子「deeply deep」 C室は櫻井マチ子個展
 うーん、櫻井さん、ちょっと変わりましたね。
 これまで天国におられたインドの神様が動物園に降り立ったみたいな…
 半ば抽象的なモティーフが渦を巻いていたこれまでに比べると、わりとわかりやすい現実的なモティーフが画面を覆っています。左は「deeply deep bQ」。ほかにラクダを描いた絵なんかもあります。
 小品は、楕円形の油彩の画面を、フランス字新聞で覆ったものがありました。
 多少モティーフは変わっても、櫻井さんの作品には、生命なんかに対する肯定の念が込められているように思えます。
 札幌。新道展会員。
 D室は藤野千鶴子展
 だいたい隔年で、大作展と小品展を開いており、ことしは小品展です。
 が、宇宙の広がりを感じさせるスケール感は、小品でも変わりません。抽象は分かりづらい、という人も、すごく親しみやすい作品だと思います。
 「宙 シンフォニー」の連作は、横に細長い紙に、油彩やエアスプレーで着彩したもの。
 「オーケストラ 宙」の2点は、これまであまり用いなかった青系の色彩が主体。薄い青から、群青、紫まで、さまざまな青がひしめき、その中を白の線が自在に走り、ずっと見ていても見飽きない作品になっていました。
 札幌。美術文化協会、新道展会員。
 E・F室は竹薮多代子・了道早智子2人展。ふたりとも、明るい色数の多い、陰影に乏しい絵画。
 G室は水野スミ子ドローイング展。毎年12月に油彩展を開いてきた水野さん、いったん休み? スピード感ある線はますます速くなり、ほとんど抽象の世界です。
 札幌。全道展会員。

 ギャラリーたぴお(北2西2、道特会館)では、中村友三作品展
 縦横60センチほどの正方形の板が8つと、少し小さな正方形が1つ、壁に並んだ、非常にミニマル的、というか、すっきりした会場構成です。
 1つ1つに違った色が塗られ、表面には、それぞれ違ったふうに細かい線の模様がつけられています。「blac」には紺、「tomb」には青、「akari」には赤い、「afghan」にはオレンジ…といった具合。
 キャンバスに穴をあけたフォンタナとは別の形で、中村さんは、絵画の拠って立つ基盤みたいなものを模索しているように感じられました。
 ただ、水色が塗られた「yuz」の表面には、模様ならぬ文字がカッターナイフで刻まれ「ジャコメッティ」「とか「吉本隆明」とかはいいんですが「バカヤロー死ね」「殺してやりたい」なんて文字が読み取れるので
「ああ、中村さん、疲れてるのかナー」
なんて思ってしまいました。
 中村さんのHPはこちら

 ギャラリー大通美術館(大通西5、大五ビル)で見た五輪窯・五十地裕之展も、なかなかよかったです。
 五十地(いそち)さんは、後志管内余市町で1987年から陶芸に取り組んでいます。
 展覧会には、焼き締めと青白磁の器が並んでいます。青白磁は、ふつうわずかに青みがかっていますが、五十地さんの作品にはまったくの純白のものもありました。
 とりわけ感心したのは焼き締めの茶碗です。灰がつくる模様のほか、表面には深緑や青なども混じり、じつに微妙な景色をつくりだしていました。

 

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