エンターテインメントとして文句の付けようのない作品。
特に新しい趣向も、驚くような仕掛けもないんだけど、一気読みしました。
事件は過去の医療ミス問題と、現在の病院脅迫事件が同時に進むのですが、
閉ざされた病院の中の出来事という緊迫感はあまりありません。
医療ミス問題といっても、起こったのは10年以上前のことであり、
遺族が疑いを持っているというレベル。
もう1つの病院脅迫事件も、最初は犯人の意図がわからないので、
ゆるやかに始まります。
1通目の脅迫状の渡し方なんて、ちょっと笑った。
でもそこが引き込まれるところなんですよね。目的が謎めいているから。
そしてその謎が少しづつ解けていく過程、
そういう細かいところが本当に丁寧に作られています。
例えれば、あり合わせの材料で一流シェフが作った絶妙な料理という感じでしょうか。
料理の味も細部に手をかけるかどうかで決まるますからね。
ここからネタバレ↓ 反転させて読んでね。
【他の患者を巻き込まないように脅迫状を送ったといっても、
常識的に考えて全員が退院・転院することは無理。
重症患者ほど残ることになるはず。
ちょっと考えが安易。
西園の長男の事件は必要なエピソードなのかな?
そこまで絡める必要があるのか。
警察官である有紀の父が割り切るのは当然として、西園も理性的ですね。
西園の苦悩は枝葉のストーリーなので省いたのかもしれないけど、
それなら逃げて死んだのが西園の息子ということじゃなくてもよかったような気がしました。
犯人の動機も、誰でも納得できるものではないと思いました。
気持ちはわかるけど、そこまで追求すると収拾がつかないでしょう。
事故渋滞は日常的に起こってるから。
それとは別に、無責任な運転で渋滞引き起こしたドライバーには賠償請求したくなるけどね。
ラストについては描かれてる犯人像から予想は出来たことだけど、
それだけ殺害の手段が間接的過ぎたってことでしょう。
「夜中に忍び込む方が簡単なのでは?」と思いませんでしたか?
でもそれが出来ない犯人だから、あのラストになったんでしょうが。】
騙された〜
見事に罠にはまりました(^^;)
考えてみれば王道とも言うべきトリックなのに、あの仕掛けに騙された。
私も数学には向いてない。わかりきってることだけど(笑)
これはガリレオシリーズだったんですね。
そうと知ってたら、もっと早く読んでいたのに。
帯に純愛と書いてあったから、もうひとつのシリーズかと思ってしまいました。
ということで、細かく読んでいくと、実にさりげなくヒントが書き込まれています。
綿密に読んでいれば、石神の言葉の矛盾に気づくはず・・・だよね?
ただ、純愛ものにしては感情移入しにくい。
靖子にも石神にも好感が持てない。
特に靖子は、それほどまでに愛される女性かな?と疑問を感じてたら、
みなさんも同じ感想みたい。このヒロイン、人気ないですね(笑)
まあ、だいたい東野さんの描く女性キャラは同性に好かれないタイプが多いけど。
帯に書かれているように純愛物として読んでもそれなりに面白いし、
トリックものとしてもレベルが高い。
間違いなくミステリー史に残る作品。
ここからネタバレ。
【
ミステリー好きが「顔のない死体」に遭遇すれば、まず第一に入れ替わりを考える。
でも考えなかったのよね。
まさか死体を隠すために死体を作ったとは考え付かなかった。
でも仮に死体の身元に疑問を持っても、解剖による死亡推定時刻に騙されたと思う。
それはやっぱり時系列に縛られてしまっていたから。
犯行日の偽装には気がつかなかった。
でも犯行当日、石神の部屋で事後のことを相談している時に「8時30分を回っていた」という記述がある。
このことから、その日にうちに映画館へ行くのは無理だとわかる。
終了間際に駆け込んだりしたら逆に印象に残ってしまう。
でも、半券が残っていること、石神が靖子に「芝居をする必要はない」と言っていること、美里が10日の昼に友人に映画へ行く話をしていることなどから、映画館へ行ったことは事実。
ということは、犯行は3月10日ではないと推理できるはずなんだよね。
ただ、警察の身元確認には疑問。
レンタルルームに落ちていた毛髪が死体のものと一致したとしても、
犯人が毛髪を持ち込んだ可能性だって考えられる。
そもそも部屋を借りたのが本当に富樫かという確認はしてないんだよね。
公衆電話のことも、ずっと疑問に思っていました。
「どこで刑事が見ているかわからない」と言いながら、毎晩電話をかけに出かける。
固定電話も携帯も持ってるんだから不自然。
でもああいう伏線だったのね。
でもなんで最後の指示だけ文章で残したんだろう?
やっぱりどこかで自分の犠牲の証拠を残したかったのかな?
そういえば、ラストも意外だった。
私はてっきり研究に没頭するために刑務所に入ろうとしているのだと思ってたんだけど、
本当に純愛だったんですね。
面白かったのは、石神の「恋愛に不器用な理系人間」ぶり。
靖子のいる日だけ弁当屋に通うというバレバレの行動をとりながら、
自分の想いがなぜバレたのかわからない。
女性なら、分数でつまずいた人でも、そのくらいの計算はする(笑)
】
一言で言うと中途半端な印象でした。
かなり重い作品かと思って読み始めたのですが、そうでもなかった。
娘を殺された父親が犯人に復讐したいと思うこと、そのためにとった行動も、あの段階では議論になるほど反社会的なものではないと思います。261ページで突然登場する織部の彼女、法律事務所でバイトしているというその彼女の口を借りて語られる法律の専門家の見解(長嶺が伴崎を殺したのは衝動的なものなので情状酌量の余地が充分にあること)は当然のことでしょう。子供を無残に殺された親が犯人に復讐したいと思うのは、人間として充分理解できる感情。
やはり問題は法律。でも、その少年法についてもTVの中の議論という形で描かれているので、一般論を並べているだけで終わっています。被害者についてのみ興味本位に報道をするマスコミに対する批判も、突っこんだ描写はありません。こういう点は無難にまとめられています。
でも、週刊誌の連載小説と思えば、こんなものなのかも。レイプシーンの描写についても、週刊誌にはこういう描写を入れないといけないんだろうな〜と思いました。犯人捜索の舞台が長野のペンションという設定と和佳子の存在によって、なんとなく2時間ドラマ風になってしまったような気がします。
しかし考えてみれば「刃」はさまよっているわけで、誰の手にも握られていない・・・
誰が握るべきかではなく、人が人を裁く刃は、さまようしかないものであることを
描いているのかもしれません。
ところで、少年法の改正や極刑に反対する人は「刑を重くしても犯罪は減らない」とおっしゃるけど、その根拠は何なんだろう?
どこかにそういう統計があるんだろうか?
仮に統計結果があったとしても、犯罪の性質や時代、民族性によっても結果は違うでしょう。刑罰が重ければいいとも思わないが、人の命にかかわる事件には慎重な判断が必要だと思います。
犯罪を犯す人間のほとんどはその時点では捕まるとは思っていないだろうから、必ずしも刑罰が抑止のためにならないとは言えるかもしれないけど、でも自分がやってしまったことの代価を支払うと考えれば、重い刑を科す意味はあると思うんですよ。
現代の刑罰の目的は更正らしいけど、その目的を達成するためには、かなり綿密なプログラムが必要ですよね。それが達成されているのかな・・・?
話はそれるけど、携帯や飲酒運転が原因の交通事故があいかわらず多い。
自分の都合や楽しみを最優先して人を傷つけているということでは
この犯人と変わらない。
人の命を一番軽視しているのは大人。
大人が変わらなければ子供は変わらない。
小学校の非常勤講師の「おれ」が、赴任した先々の小学校で起こる事件を解決する連作集。小学生が探偵役の短編2本も収録。
小学生向きの学習雑誌に連載されていたものということで、パズル的要素が強く、
気軽に読める内容です。
でも、その「パズル」が、いかにも「学習」的なのが面白い。
ちゃんと勉強してないと、探偵役にもなれないってことですね(笑)
ところで、解説によると、連載当時、PTAから抗議があったらしい。
大人って、なんで子供の前では聖人君子面したがるのかね。本性はバレてるのに(笑) その点、「おれ」は正直でいい(^^)
ちょっとしたツッコミ→【 教師なら、「10×5+5+1」くらい暗算して欲しい(笑) 1、5、6、章は、漢字パズル。 】
市立中学を受験する子供とその両親の4組が、避暑地の別荘で受験合宿をしていた。そこへ親の一人の不倫相手が現れたことから、殺人事件が起きてしまう。
一応倒叙ものになっているので、サスペンス感と緊張感があって面白く読めます。避暑地でいきなりテニスシーン。しかも医者とテニスコーチが出てくるというのも、後から考えると意味ありげな展開かも(笑)
ずっと「このまま終わるはずはない。何か仕掛けがあるはず。」と思って読んでいたんですが、展開は普通。これはきっと、動機がとてつもなく意外なものに違いないと思っていたんですが、これも普通でした。私としてはこのあとが興味あるんですが・・・
でも評価の難しい本なんですよね。これは謎解きパズルとして読んでいいのでしょうか? パズルとして考えるとヒントはけっこう判りやすいですし、犯人の予想もつきますよね。
ネタばれ注意→ 【 P6「道路側にテールランプを向けている」は不自然に挿入された文章なので、何かの伏線とすぐ気が付きます。ただP72「へッドライトをつけると前の道が明るくなった」は、見逃しましたね。】
ネタバレへ
帝都大のアメフト部の同窓会が終わった後、かつての女子マネジャーが姿を見せた。しかし彼女は、13年の間に男の姿になっていた。
一応殺人事件も起りますが、性同一性障害をテーマにした作品です。
テーマが大き過ぎて、簡単には感想が書けないんですが、人間は生れ落ちた瞬間から、父、兄、祖父という男達と、母、姉、祖母という女達、それ以外にもさまざまな男女に囲まれて育つわけです。
この、意識があるかどうかの時期からの刷り込みの強さは、そうそう変えられるものではないと思いました。無意識に吸収してしまった観念を変えるのは、その思いこみ自体を自分が意識しなくてはならないわけだから、覚悟して変えないと出来ないでしょうね。
それにしても、最後の『男の世界』の洞察はすごいと思いました。
男性で、ここまで理解できる人は少ないんじゃないかな?
やっぱり東野さんはすごい作家でした。
【勝手に陶酔している自分を、多くの仲間達が見守っていてくれたのだ。
理沙子が『男の世界』という言葉を忌み嫌った理由も今はよくわかる。
それは自己愛にすぎなかったのだ。】
一般に言われている"男らしさ"というものは、結局、周囲の人間が作ってあげるものなんですよね。まわりにいる人間が理解して見守っていかないと、成り立たない。ちょっと意地悪な言い方になりますが、裸の王様に近い。誰かが真実を指摘すれば、壊れてしまう世界なんですね。
でも、その真実を自分で認めた後、裸になった後、すべての責任を自分で背負う覚悟をした時が、本当の男らしさだと思うんですよ。
いえ、男とか女とかじゃなく、人間として真実の生き方だと思います。
といっても、実行するのは難しいんだけど・・・
でも私としては、こういう単純な男らしさを信じてる男も嫌いじゃないです(笑) 無理に男の世界に入れてくれとも思わないし、ちゃんと見守ってあげます(^^) ただしそれは、プライベートな関係限定。仕事関係で、こういう「俺の男の世界を守ってくれ」というタイプが居たら、大迷惑。
推理作家はどのようにして作品を生み出しているのか?
「推理作家の舞台裏を描く衝撃」の短編集。今回は推理小説家のパロディ。つい読みながら「これはあの作家か?」「あの本のことか?」などと、いろいろと想像してしまいました(笑)
「超税金対策殺人事件」
必要経費が少ない著作業、節税の為には何でもやる。
思わず納得してしまう!(笑) こんなトラベルミステリーあるものね。
「超理系殺人事件」
「私」タイプいますね〜
「超日本史殺人事件」だったら、私もそういうタイプかも?(^^ゞ
「超読書機械殺人事件」
"ショヒョックス"使ってる人がいそうな気がする…(笑)
いろんな小説の酷評モードが読みたくなりました。
「超長編小説殺人事件」
1番面白かったです。ミステリーはどこまで厚くなるのか?
「何で最近のミステリーはみんな分厚いんだ?」と思ってる方、是非読んでください。笑えます!
ガリレオシリーズ。帝都大学理工学科物理学教授・湯川学が科学的謎解きをする短編集。見えないはずの物が見えたり、不可能と思えること、原因のわからない事に明快な解答を与えてくれる、すっきりする1冊です。
「夢想るーゆめみる」……一見予知夢と思える事件の謎解き。
「霊視るーみえる」……幽霊を見た、その正体は?
「騒霊ぐーさわぐ」……突然振動する家のなぞ解き。
「絞殺るーしめる」……やっとでた科学の謎。
「予知るーしる」……これこそ予知夢のお話。
ネタバレへ
大学生の原菜穂子と沢村真琴は、冬休みを白馬のペンション「まざあ・ぐうす」で過ごすことにした。というのも菜穂子の兄の公一がちょうど1年前、この「まざあ・ぐうす」で自殺したからであった。兄の死に疑問を持つ菜穂子は友人を誘って同じペンションに滞在し、真実を探ろうとしていた。ところが滞在中に新たな殺人事件が起こる。
雪の山荘ものというより、密室と暗号、特に暗号解読がメインです。暗号解読ものって苦手なんですよね。だいたい読んでて解けるはずがない。資料も必要だし、たくさんのパターンを試さなくてはならない。「勝手にやってね」という感じで読んでしまいました。密室の方もアンフェアだと思うな。本格ではなく、ドラマ性に重点を置いた作品でした。
「誰が殺したコックロビン」で何を思い出すか?
『僧正殺人事件』『そして誰もいなくなった』が定番でしょうね。
私は一番はやっぱり『僧正』です。でも『パタリロ』を思い出したあなた!お仲間です(^^)
ネタバレへ
樫間高之の婚約者である森崎朋美は、結婚式の直前に交通事故で死んだ。その3ヶ月後、朋美の父親の別荘に一族と関係者が集まることになり、
高之も招待された。
全員が集まった夜、朋美の事故に関して親友だった桂子から疑問が投げかけられた。別荘に集まった人々は、それぞれ胸に秘める疑いがあるようだった、しかしその夜、別荘に銀行強盗が逃げ込んで来た事から事態は意外な展開になる。招待客の一人が殺されたのだ。犯人は強盗かと思われたが、彼らには動機が無い事がわかる。
例によって閉ざされた空間物ですが、逃げ込んだ強盗によって外界との連絡が絶たれるという設定は面白いです。ストレートな謎解き物ではないということはタイトルからもうかがえますが、ラストに大ドンデン返しがあります。「騙された」と思うか不満に思うかで評価が変わってくる作品でしょう。これも一種の趣向を楽しむ作品ですね。しかしこのタイトルも意味が深い!
ネタバレへ
犯人の人生を19年という長い年月に渡って描いています。最初に起こるのは質屋の主人が殺された殺人事件。その事件が迷宮入りになった事から、事件に関わった人達のその後に人生が描かれていきます。
犯人探しではありません。犯人は判るように書かれています。強いて言えば動機探しでしょうか。このようにしか生きられなかった人生が悲しいですね・・・
この読後感は何かに似ていると思ったら「火車」でした。「火車」の時間や視点を逆にしたような作品ですね。
交通事故に遭った母娘。母の体は死んだが、その魂は生きていて娘の体の中に蘇ってしまった。その状況で夫婦は、父娘は、どう生きていったら良いのか?
いろいろな結末を考えましたけど、ラストはそのどれでも無かった。
上手いとしか言いようの無いストーリーですね。
でも、もう1度受験はしたくないなあ・・・
名探偵・天下一大五郎と、引き立て役の警部・大河原番三の連作短編。
・・・と言っても内容は、ミステリーのパロディ集です。
名探偵より先に事件を解決してはいけない警察、連続殺人の最初に犯人がわかっても、最後まで知らない振りをしなければならない名探偵。
ミステリーの登場人物達の裏話集とも言えますね。面白いですよ。
「人間が燃える」などと言う不可解事件の謎を、物理学部助教授が解く連作。
ここまで聞くとビビリますが、そんなに難しくないので、パズルとして楽しめます。
ドラマのネタバレはこちら
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