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鮎川哲也

風の証言 宛先不明  黒い白鳥  死のある風景  準急ながら
砂の城  人それを情死と呼ぶ  りら荘事件

  
(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。

  風の証言                       創元推理文庫

井之頭公園で男女の死体が発見された。男は電機メーカーの研究者、女はバレエダンサー。次々に浮かぶ容疑者はすべて強固なアリバイを主張する。1つのアリバイが崩れても、次々に新しいアリバイが出てくるので、たっぷり楽しめます。

鬼貫、丹那ものですが、珍しく時刻表の出てこないアリバイトリック。
中学生の時に読んで、トリックに感心した記憶があったので、
楽しみにしていたのですが、今読むと、それほどでもなかった(^^;)
やはり時刻表トリックじゃないと重みがない気がしてしまいますね。
でもトリックのために、ここまで計画して実行するとは、
この犯人は殺人よりトリックに情熱を傾けてますね(笑)



  準急ながら                            角川文庫

みやげ物店の主人・鈴木武造が殺された。調べを進めるうちに、彼は他人の名を騙っていたことがわかる。さらに殺された武造の過去に関係すると思われる女性が浮かび上がったが、その女性も殺されていた。しかし犯人と思われる人物には強力なアリバイがあった。

写真と列車を使ったトリック。わかってみればなんと言うこともないんですが、見事な盲点。解決のヒントもちゃんと書いてあるんですが、普通に読んだら気が付かないでしょう。
中篇ですが、アリバイトリックは一級。


  宛先不明                          講談社文庫

タイトルから推測できると思いますが、郵便を使ったトリック。鮎川作品にしては気軽に読める1編です。

印刷会社の営業マンが社員旅行の途中、秋田の公園で殺された。その裏には取引先の出版社の社内の勢力争いが関係していると思われた。捜査を進めるうちに有力容疑者が浮かんできたが、彼には強固なアリバイがあった。

これは珍しくトリックがわかってしまった作品。 というのも、あとがきでも書かれているように『11枚のトランプ』のマジックのトリックの応用なんですね。刑事コロンボにも似たようなトリックの出てくる作品がありましたね。こんなことを書くと簡単な作品と思われそうですが、鬼貫警部がトリックを暴いていく過程はやっぱり面白いです。


  黒い白鳥               創元推理文庫

労使抗争の真っ只中にある紡績会社の社長・西ノ幡が線路際で死体で発見された。西ノ幡は東北線の陸橋上で殺されたあと、列車の上に投げ落とされ、カーブで列車の屋根から振り落とされたと見られる。警察の予想通りに翌朝白石駅で屋根に血の跡を付けた列車が発見された。その結果殺害時刻が割り出されたのだが、容疑者はすべて鉄壁のアリバイを持っていた。

最初に読んだのは高校時代。深夜の陸橋から投げ落とされる死体。闇の中で屋根に死体を乗せたまま疾走する列車。このイメージがかなり恐ろしかったです。

『砂の城』と共に時刻表トリックの双璧といわれている作品ですが、世間の評価はこちらの方が上なんですね。でも私としてはやっぱり『砂の城』の方を押したいです。

どちらのトリックも幾何学的な美の世界ですが、『黒い白鳥』のトリックは錯覚を利用したもので証言に頼っている。それに対して『砂の城』は純粋に時刻表に隠されたトリックで、掲載されている時刻表のみで解けるところがフェアだと思います。

謎解きとは関係ないので書きますが、この中にアフレコ風景が出てくるんですよ。OVAのおまけなどで見たことあるけど、この描写がとてもリアルで驚きました。昭和30年代の始めは外国のTVドラマが大人気で、第1次声優ブームの時代。吹き替えの声優さんに注目が集まっていたから、こういう描写が出てきたのかと思うと楽しかったです。

ご注意→【 いきなり4文字目に犯人の名前が出てくるというのも、読み終わった後で考えるとすごいですね。

でも労使問題や宗教関係をミスリードに使っているから、ここで犯人を出しておかないと、いきなり意外な人物が犯人として登場することになってしまう。それを考えると当然といえば当然なんだけど、最後に知多が登場することによって、その意外性が必然に思えてしまうところもすごいです。

おまけに36Pには謎解きとなる路線図も乗っている。 】


砂の城」  

鳥取砂丘で女性の絞殺死体が発見された。犯人は下りの急行《出雲》でやって来たと思われるが、その時間、容疑者は別の列車に乗っていて《出雲》に乗る事は不可能だった。

アリバイトリックです。時刻表がメインになるので、好き嫌いがはっきりするかもしれません。しかし、次々に明らかになる事実がやがて1つの結論に近づいていく過程は、ぞくぞくする興奮です。
そしてあの最後のシーン!!特急に愛情を感じてしまいました(^o^) 
わざわざ乗りにいった私(^^;)


りら荘事件」  

山奥の別荘で起こる連続殺人。最初に読んだのは12〜3歳の頃、見事に眠れなくなりました。けっこう色彩的な描写が多くて、想像すると恐いんですよ。

 1つのトリックは素晴らしいですが、あとの2つは「???」かもしれません。
最近読み返そうとして途中で投げ出しました。昔、読んでおいてよかった。


人それを情死と呼ぶ 」                 光文社文庫

A省の汚職事件の捜査中、渦中にあった贈賄側の企業の販売部長河辺遼吉が、女性と死んでいるところを発見された。情死として処理された事件だが、河辺の妹だけは情死であることに納得できず、独自に調べを進めていった。その結果、次々に容疑者が現れるが、どの容疑者にも確固としたアリバイがあった。

あとがきにあるように、出だしは社会派なんですが内容は本格ものという作品。
2/3までは、警察ではなく被害者の妹が事件を調べていくのですが、読み終わってみると、それにも意味があったと気が付きます。

何気ないヒントが次々に真相を暴いていき、それによって事件の性格が変わっていくという展開が見事。最終的なアリバイはちょっと面白いものです。

ネタバレ→【 アパートで同棲していた男が偽物なのは考えるけど、久子まで偽物とは気が付かなかった。でも本田の登場は充分怪しいから、なんとなく予想はつきますね。でも最初に読んだ時は、まったく騙されたんですよね。たぶん中2か中3の頃(^^;) これだからミステリーを読む年齢と、順番は難しい・・・ 】


死のある風景                    角川文庫

婚約者と金沢を旅行中の女性が、夕食後一人で行動中に射殺され、彼女を撃った銃は翌朝、上の駅構内のポストから発見された。犯人は金沢駅20時発の急行北陸で東京に逃げてきたと思われたが、容疑者には鉄壁のアリバイがあった。

2つの殺人事件が起こり、共通の容疑者はどちらの時間にもアリバイがあるというおなじみの設定。トリックに付いては、まあ普通でしょうか。

ネタバレ→【 電報を打つのも無理やりな気がするし、共犯者がいることがちょっと不満でした。 】 

 

 

 鮎川哲也 内田康夫 清水義範 奥田英朗 杉本苑子 永井路子 東野圭吾 宮部みゆき エラリー・クイーン

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