日暮らし
「そうだね。おまえよりずっとよく知ってると思うよ。……
世間に潜んでいる鬼の怖さみたいなものをね」
「ぼんくら」の続編。
「ぼんくら」と同じく、前半は連作短編。後半、それがひとつの大きな事件につながるという構成。そしてまた前作と同じく短編部分が面白い。
特に「子盗り鬼」は怖かった。今で言うストーカーの話ですが、人間は自分が危機に直面しないと危険に気が付かないというのがよくわかる。
「おまんま」では“おでこ”こと三太郎の気鬱が描かれる。
植木屋がおでこに言った意地悪な言葉。
大人にはちょっとした憂さ晴らしでしかないことも子供には重大な意味を持つ。
でも他人の言葉にいちいち傷ついていたら生きていけない。
そういう日常の嫌なことを自分の中で消化して大人になっていくんだよね。
「嫌いの虫」は佐吉とお恵の夫婦の話。
お互いを思うあまりに心配かけまいとなんでも自分で抱え込んでしまう。
そこから来る気持ちの行き違い。
こちらはちょっと微笑ましい。
徳松とおとみの夫婦の話も「犬も食わない」ってことか。
「なけなし三昧」こわいものを見てしまって、
それにおぼれた女と、逃れることが出来た女の話…かな。
タイトルにもなっている「日暮らし」は事件としては平凡ですが、
それそれの登場人物の味わいが格別です。
平四郎で藤田まことを連想するのは古いのかな?(笑)
単語で話す佐伯錠之介もお気に入りです(^^)
ICO -霧の城-
1・2章をがんばって読み進めば、3・4章は面白い。
元になったゲームは知らないのであくまで小説だけの感想です。基本的なストーリーは、闇の女王を倒す呪文を手に入れて世界と少女と救うという話。(ここまで要約すると身も蓋もないですが)
1〜2章は謎の提示。
この章では壁をよじ登ったり敵を倒したり、キャラクターの動きを中心にして話が進むので、ゲームを知らない人間はイメージを作るのが大変。
私の頭ではどうも「SASUKE」しか思い浮かばない(^^;)
よくて宮崎アニメ。何度か挫折しかけて1〜2章だけで3週間かかりました。
でも3章になって急展開。霧の城に隠された歴史の謎が徐々に明らかに。
ここからは謎解きが主になるので俄然面白くなります。
4章は解決編。
この辺は宮部さんのカラーが一気に出るところ。
最後の逆転はある事件を思い起こさせて、考えさせられてしまいました。
ただやはり映像イメージがないときついかもしれない。もしキャライメージを固定されることににこだわらない方はICOのゲーム公式ページでムービーを見てから読んだ方がいいかもしれません。空間や風のイメージが見事ですよ。
誰か Somebody 実業之日本社
-あらすじ-
今多コンツェルン会長の運転手を勤めていた梶田が、自転車にひき逃げされ死亡した。梶田の二人の娘、聡美と梨子は、逃げた犯人に訴えるために、父親の人生をつづった本の出版を計画する。そこで今多会長の娘婿で、元編集者という経歴を持つ杉村三郎が本の制作を手伝うことになった。
しかし、本の制作にはひとつの問題があった。姉の聡美には幼い頃の恐怖の記憶があり、それが父親の過去につながると信じていた。出版ための取材が、父の隠された過去を掘り起こすこと心配していたのだ。聡美の危惧を受けて、杉村は独自の取材を始める。
宮部さんはずいぶん文章が変わったんですね。ジュブナイルを読んでいるような文章には、かなり違和感がありました。まあ、探偵役の杉村が、児童文学の元編集者という設定なので、それに合わせているのかもしれませんが。
しかし、そのために「火車」の系列に入る作品ではありますが、あれほどの緊張感はありません。導入部の杉村の私生活の描写も、ちょっとくどい。彼のキャラクターも大切な要素になっているので、本筋にまったく関係ないわけでもないのですが、もう少し簡潔に書いてほしかった。2時間ドラマなら、「婿殿探偵」とか「逆玉探偵」と言われそうな設定です(笑)
杉村のような現実肯定派の考え方は基本的に好きなので、反発する部分や嫌な気分になるところはないのですが、一言で言ってしまうと、学習雑誌に掲載されているような小説でした。それにしても、読者がとっくに気が付いてることに探偵役が気がつかないのは、イラつくところですね。
ただ、読み終わって感じたのは、やっぱり宮部さんとは考え方が似ているということ、共感できるところが多いということでした。私たちはまず現実を肯定すること、受け入れることが大切なのではないでしょうか。どんな現実でも、その裏にはきっと、そうならざるを得なかった人の必死の思いがあるはずです。
それからゆっくり解決する方法を考えればいいんですよね。誰でも進んで不幸を選ぶわけではない。生きることに焦ることはないんですよね。
この中でも問題になっている暴走自転車。あれは怖い。マナーも悪いし、「事故起こしてから後悔しても遅い」といっても、そこまで想像力がないんだろうな。他人に与えた情けが自分に返って来るものならば、悪事もまた自分に返ってくるものなんですよ〜
ドリームバスター2
徳間書店
「目撃者」「星の切れっ端し」の2編。
「星の切れっ端し」は途中で終わっているので、続きが気になると困るという方は、
「3」が出てから読んだ方がいいかもしれません。
「目撃者」は、ちょっとミステリー的な要素のある1編。深夜の路上で若い男二人が口論になり、一方が一方を刺してしまう。たった一人の目撃者である女性がモンタージュの作成に協力し、それによって犯人が捕まる。しかし彼女は自分の証言が警察に誘導されたものではないかと不安を感じ始める。その不安に同調した脱走犯が彼女の夢に侵入するという話。
………
物語も「2」まで進んで、この世界が見えてきたような気がします。
こういうシリーズものは、頭の中でキャラクターが動くようになると楽しいんですよね。
キャラにも馴染んで来たので、かなりハマって読めました。
今回登場のグリズリさんは、かなりのお気に入りです。(声は田中秀行さんがいいな)
リップの過去と正体も気になるし、先が楽しみになってきました(^^)
ブレイブ・ストーリー 角川書店
まとめてしまえば、親の離婚で追い詰められた少年が、異世界での旅を経験することによって、精神的に成長するという話。
全体の3/4は、幻界と呼ばれるRPGのような異世界の話なので、ゲームが苦手な私としてはなかなか進まなくて困りました。現世での部分はサクサクと読み進んだのですけどね。私はやっぱり、ファンタジーには大人の美形キャラが出てこないとハマれない(笑)
小学生はパス(^^;) それに、カタカナの固有名詞は覚えにくくて嫌いだ〜(笑)
ただ、ありきたりのファンタジーとは違って、文章は読みやすいし、一つ一つのエピソードも深い意味があって、そういうところは、さすが宮部作品と思わせます。
テーマ的にも、他の宮部作品と変わらなくて、メッセージは「みんなみんな幸せに」ということ。幸せになるために一番必要なのは「自分を持つ」こと。まわりを変えることは出来なくても、自分を変えることは出来る。人の考えや行動に振りまわされていると、結局は何もかも失ってしまう・・・ということですね。
とは言っても、亘の父親は精神が幼稚過ぎる!
筋を通すのが好きなら、自分の生き方にも筋を通して欲しいね。
まあ、母親もちょっとエキセントリックだから、どっちもどっちなんだけど(笑)
人生は1度きりだから、みんな後悔ばっかりなんだよ〜
でも、その後悔を背負って生きるのが大人の醍醐味というものだ(^^)v
あかんべえ
PHP研究所
江戸ものです。
深川の料理屋「ふね屋」の娘おりんは、高熱で生死の間をさまよったことから亡者の姿が見えるようになる。そんなおりんが見たものは、ふね屋に住みつく5人の亡者だった。
それは、ふね屋の建っている場所がもとは墓場であったこと、向かいにあった寺が焼け、住職が大量の人殺しをし廷たことが発覚して逃げていたことと関係があるらしい。いったい彼ら亡者の正体は何なのか?
「あかんべえ」のシーンで、「となりのトトロ」を思い出してしまったんですが、全体の雰囲気はそんな感じです。この世のものでない者が見えてしまう少女、彼女にやさしく接する亡者達。亡者達のために真相を探るうちに、いろいろな事件が起り、やがてすべてがあきらかになる・・・。
亡者が見えてしまう人は、亡者と同じ心の闇を持っている人だというのは考えさせられますね。心に隙があると見えないものが見えてしまうのでしょうね。私は霊感0の人間なんですが、悩みがないと霊も見えないのかも。よかったよかった(^^)
ドリームバスター 徳間書店
時空のトンネルを抜けて異次元からのお尋ね者が、この世界に入り込んでしまった。
彼らは弱った人間の夢に入り込み、その人間の体を乗っ取ろうとする。
そのお尋ね者を追って異次元の世界に連れ戻すのが、
これも異次元からやってきたドリームバスターと呼ばれる賞金稼ぎ。
そのお尋ね者と賞金稼ぎのバトルを1話完結で描いた連作集。
異次元からの侵入者といっても、ちゃんと人間の形をしているのでご安心を。
SF仕立てですが、書かれてる内容は現代に生きる人の心の痛みを描いていて、
いつもの宮部さんらしく深くて暖かい話です。
「自分の問題は、最後はやっぱり自分の力で解決しなくてはならない」
「自分の傷に立ち向かう強さを持ってほしい」
そんな願いは、たしかに『摸倣犯』などにつながるテーマだと思います。
この先も大人の心の問題を描き続けて欲しいと思います。
ところで、シェンくん、かっこいい〜♪
私の個人的な趣味なんですが、刀を背負ってるキャラが好きなんですよ。 これは「風神の門」の才蔵さんの影響かも(^^)
火車
休職中の刑事のもとに親類からの依頼があった。それは親類の青年の失踪した婚約者・関根彰子を探して欲しいというものだった。彰子は過去に自己破産していた事が発覚して姿を消したのだったが、その手続きをした弁護士のもとを訪れてみると、失踪した婚約者と関根彰子は別人であった事がわかる。
婚約者は本当は何者なのか? 本物の彰子の行方は?
調査を進めていくうちに本物の彰子と、彼女に成りすまそうとした女性の悲劇が明らかになる。
次々と現れる謎と判明する意外な事実、ぐいぐい惹きこまれる濃密な作品です。狂乱の80年代、みんなが無いものをあると思い込んで踊り狂っていた時代。その隙間に落ちてしまった2人の若い女性の見た、ある地獄のお話です。
本当にあの時代って何だったんだろう? あそこからすべてが狂っていった気がします。
この本の303ページ上段に、「これからの社会では自分の不満を犯罪という狂暴な形で清算する人間が増えてくるだろう。そのなかでどうやって生きていけばよいのか?」という予測が書かれています。「火車」の出版が1992年、「模倣犯」の連載開始が95年ということだから、この文章から「模倣犯」に続いているのかなと思いました。
摸倣犯 小学館
この小説のあらすじを書くのは難しいです。
「事件があって謎があって解決がある」という単純なストーリーでは無いので。
主になる事件は異常者による連続殺人です。「自分は特別な人間だと思っているのに社会は認めてくれない。そのことに不満を持つ人間が犯罪によって有名になろうとする」という、最近目立つ犯罪のパターンです。
ミステリーというより犯罪小説。犯人はすぐ明かされるので、犯人探しというより犯人の精神状態、犯人の家族、被害者の家族の置かれた立場や苦しみ、その回りで躍らされる人々を、主にして描いてます。
私がこの作品で強く感じたのは、被害者とその家族の苦しみと言う事でした。これからの世の中で生きていく上で、「被害者にならない」という事は、とても大切な事ではないかと思ったのです。もちろん、被害者になりたくてなる人間はいません。
犯罪は、犯す人間の方が100%悪いのです。でも、少しの注意力や判断力、洞察力、想像力などを使う事で犯罪から逃れられるなら、逃れた方が良いに決まってます。
今の世を生きていくには、犯人に出会いながらも被害者にならなかった女性や有馬義男の強さを学ばなければならないでしょうね。
ミステリー的感想としては、2部と3部の前半を入れ換えて欲しかった。2部までを読んでる時は、もしかして意外な犯人が出てくるんじゃないかと期待してしまったんですよね。真犯人探しの楽しみも欲しかったです。
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R.P.G. 集英社文庫
解説が清水義範さんというのが楽しい!
このタイトルも意味が深いです。「摸倣犯」の武上刑事と「クロスファイア」の石津刑事が登場。「事件より先に刑事が紹介されるのは宮部作品では珍しい」…と思ったあなたは、既に騙されているのです(笑)
正当派のミステリーというよりも、ある趣向を楽しむ作品ですね。
全編に仕掛けがある作品なので詳しい事は書けませんが、48歳の会社員が殺される。実生活でも42歳の妻と16歳の娘を持つ父親である彼は、ネット上でも擬似家族を持ち"お父さん"を演じていた。犯人を目撃した実の娘が擬似家族達を見分けていくという話です。いつもの宮部作品のつもりで読むと肩透かしですが、とにかく気軽に楽しめる一冊です。
感想としては、私には犯人の気持ちがどうしてもわからなかったです。そこまでするほどの問題ではないと思ってしまいました。ネットで別人になるという話もよく聞きますが、難しそうですよね。つい地が出てしまうので、私には出来そうもありません(^^;)
ちょっとだけ疑問を↓ネタバレなので反転させてね。
【 所詮警察が考えた事と言ってしまえば仕方ないんですが、偽者とは言え、擬似家族の娘役が若い女の子で弟役が男の子、母親役は中年女性と言うのは想像力が無さ過ぎるのでは? それでいいならネットじゃなくても出来そうです。嘘っぽいと思った方も多いのではないでしょうか。
目撃者の池田さんは、町内会の付き合いで母親の事はよく知っていたが、一美の事は見分けられなかったということなんですが、実際はそうでもないよね! 確かに16歳の娘は隣近所の事には無関心でしょうけど、近所の主婦の方は違いますよ。特に若い娘の事はよく見てると思う。私の経験から言っても、近所のおばさん達には服装から行動までいろいろチェックされてました(笑)「芽衣ちゃん、昨日○○で買い物してたわね」なんて母に言いつけてたぞ(笑)
とにかく16歳の娘にあそこまでかまってもらえる父親は恵まれてるかも・・】
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平成お徒歩日記 新潮文庫
宮部氏と編集スタッフが歴史上有名なルートを実際に歩いたレポート。
徒歩こそが主要な移動手段であった歴史時代の距離感や時間の感覚を体験しようという試み。でもせめて、もう少し歩いて欲しい(笑)
歴史上の人物が実際に歩いたルートを歩いてみるのは楽しいですよね。京都では随分歩きましたけど、昔の人は思った以上に健脚です。藤原行成の日記では、御所と道長邸を何往復もしてるんですから、貴族といえど足は鍛えられてますよね。
そういえば以前、同じような試みをした本を読んだことがありました。タイトルなどは覚えていないのですが、佐々成政の針の木峠越えや、河井継之助の八十八里越えなどを実際に歩いていて、迫力のレポートでした
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理由 朝日新聞社
ひとつの事件から次々に新しい事実が掘り起こされていく過程は、さすがに読ませます。冒頭の事件場面は、明確で緊張感のある文章で迫力がありました。
ぼんくら 講談社
江戸の長屋を舞台にした捕物帳(?)。
面倒がりの定町廻り同心・井筒平四郎の謎解きです。短編集かと思ったら長篇でした。
1つ1つのエピソードが最後に1つの事件にまとまると言うパターンなんですが、わざわざまとめなくても連作推理で良かったんじゃないかと思いました。
あやし〜怪〜
江戸のお店の奉公人達の身に起こった様々な奇怪な話を集めた短編集。
残酷で陰湿な現代のホラーと違って、人間の業や哀しさをテーマにしているので味わいがあ
ります。
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