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宮部みゆき1

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楽園
名もなき毒
孤宿の人
日暮らし
ICO-霧の城-
誰か Somebody
ドリームバスター
ドリームバスター2
ブレイブ・ストーリー
あかんべえ
ぼんくら
あやし〜怪〜
模倣犯
火車
理由
RPG
平成お徒歩日記
長い長い殺人
レベル7
魔術はささやく

(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


「楽園」 宮部みゆき

久々に正統派の宮部作品を読みました。
ある家族に秘められた謎を解いていくという点では「火車」に近い作品。
もうひとつ、別の意味でも「火車」と共通するところがあります。

導入部では超能力やサイコメトラーなんて話が出てくるので、
また不思議話になってしまうのかと不安を感じましたけど、
それはきっかけのひとつで、基本的には現実社会の話。

主人公は「模倣犯」に登場した前畑滋子。
では「模倣犯」を読んでいないとわからない話なのかと 心配される方も
いらっしゃるかもしれませんが、いわゆる続編ではないので大丈夫。
もちろん読んでいれば、より納得できますけどね。

前畑滋子については、実は私も覚えていませんでした(^^;)
でも小説の中にちゃんと説明が出てくるので、
「あ〜、あの人か」と思い出すことが出来ます。

あらすじ
ある夫婦が高校生の娘を殺して自宅の床下に埋めた。
16年後、その自宅が火事になり、発覚を覚悟した夫婦は警察に自白する。
殺人はすでに時効になっていたので事件にはならず
事実関係の確認だけが行われたが、
発覚前にその事件を透視し、絵に残した少年がいた。
少年はなぜ事件を知ることが出来たのか?
前畑滋子は少年の母親の依頼で調査に乗り出す。


事件の謎解きというよりも、事実が次々に明らかになっていく過程が面白い。
思いがけない日常からヒントを得られたり
意外なところに探していた情報が隠れていたり、
まったく別の事実と事実がつながる面白さ。
これがこの小説の醍醐味で、まさに私の好みの小説でした。

調べものって、好きなんですよ。
昔、バイトでレファレンスサービスのお手伝いをやったことがあったんだけど、
調べながら自分でワクワクしてしまったことがよくありました。
まったく違う分野の本や雑誌から探してた情報を見つけた時なんかは、
すごい達成感がある。
あれは探偵に近いものがありますね。

ただ手放しで傑作といえないのは、ひとつの謎が謎のまま残っていること。
それが気になって仕方ない。
どなたかわかったら教えてください。


▼続きはネタバレしてます。反転させて読んでね。




美しく生まれながら家庭の貧困によって社会の底辺から羽ばたけない少女。
そんな少女を幻影で弄ぶバブル。
そのバブルの崩壊。
幻影にしがみついていた美女の転落と悲惨。
「火車」に通じるテーマですね。
「美女と貧困は似合わない」って、「火車」に出てくるフレーズでしたよね・・・??

真面目な夫妻が娘を殺す決意をするまでには、
よほど切羽詰った現実があったのだろうというのは、ある程度推理できる。
茜はなにかとんでもないことをやってしまった。
もしかして殺人か?というところまでは考えました。
あるいは茜は実の娘ではなく、わが子の誠子を守るための殺人かもしれないとか。
そういう点では意外性は少ないです。

茜が美少女だったというのも意外でした。
妹に比べて平凡な外見なんだと思い込んでた。
だからより僻んでしまったのかと。
若くて美しければ、成り上がるチャンスもあったのにね。
もう少し早く生まれていれば。

ひとつわからない謎が残っています。
どこかに書いてありますか?
私が読み飛ばしてしまったのかな?

等の絵、死の山荘の絵に描かれていたドンペリの瓶は
結局どこから透視したものなのか?
誰の頭の中を読み取ったものなのか?
書いてないですよね?






名もなき毒

『誰か』に登場した杉村三郎が再び登場。
そう、あの今多コンツェルンの会長令嬢と結婚した逆玉探偵です(笑)
これはシリーズになるのかな?

導入部は緊張感があって、濃密なミステリーが始まる予感にわくわくしたのですが、
本編に入ると、急にのどかな杉村テンポになります(笑)
このジュブナイルのような語り口は好き嫌いがあると思うのですが、
正直、私は苦手です(^^;)
もちろん読んでいる時は面白いですし、一気読み出来ます。

主になる事件は無差別連続殺人なのですが、それとは別に、杉村の職場でも、アルバイトの女性・原田いずみが問題行動から事件を起こします。。
私はこの原田いずみの事件の方が、不気味で印象強かったです。

ネットにも一人いますね、こういう人。
現実社会にはもっと多いのでしょう。
有名人なら被害に遭う可能性も多いかもしれません。
もしかして宮部さんも被害者かと想像してしまいました。

あそこまで極端でなくても、職場での態度だけなら被害者はさらに増えそうです。
原田いずみのような人間が杉村に出会ってしまったら、負の衝動を刺激されるのは
当然。不幸な出会いですね。

しかし杉村夫妻とはどういう考えで作り出されたキャラクターなんだろう?
世間離れしてる人は嫌いではないけど、
かといって素直に感情移入出来るキャラクターでもないですよね(笑)
飛び切りのお嬢様と優秀で善良な青年。高級住宅地の豪邸をあっさり買ってしまうし、費用のかさむ土壌汚染調査も迷うことなく実行してしまう。犯罪に追い込まれる人たちとのギャップが大きくて、なにか納得できないんですよね(笑)
まあ本人が悪いわけじゃないんだけど、私も心が狭いのかな〜(^^;)




孤宿の人  宮部みゆき   

時代小説です。出来れば夏に読んで欲しい作品。
上巻は夏らしい因縁話で、下巻はその謎解き。

舞台は四国讃岐の国、丸海藩。
自然に恵まれた穏やかな小藩に突然の困難災難が降りかかる。
流刑となった幕府の罪人を預かることになったのだ。
その罪人とは元勘定奉行、船井加賀守守利。

幕府が持て余すほどの罪人をどう処遇するか。
罪人とはいえ元は幕府の高官、粗略に扱っては礼を失するし、
かといって丁寧に遇すれば幕府に叛すると捉えられかねない。
豊かな丸海藩を取り潰す機会をうかがっている幕府に口実を与えないためにも、
ここは高度な政治的対応が必要であった。そこで丸海藩の首脳は一計を案じる。

加賀守お預けが決まってから、丸海では謎めいた事件が続いて起こっていた。
そのひとつが冒頭で起こる殺人事件。
物語の本筋が始まったと思うといきなり事件が起こるので、引き込まれました。
あの展開は意外性充分。

主人公は男まさりの少女と、その妹分とも言える不幸な生い立ちの少女。
登場人物はいつもの宮部キャラなので安心して読めます。
その他には、藩医に同心、和尚様、いろいろな登場人物の人生が絡み合います。
政治家には政治家の商家には商家の、そして庶民には庶民の身過ぎ世過ぎがあり、
それぞれに人の世の因縁が絡まる。
人の内には仏もいらっしゃるけど修羅もあるということが、
辛い現実として迫ってきます。

人がたくさん集まって作った社会には、それなりの暗黙のルールが出来てしまう。
たくさんの人の生活が危うくなるから、何の責任もない人にまで迷惑がかかるから、
そういう理由で真実が曲げられ、多くの人に都合のいい事実が作り上げられる。
そういう意味では昔の話と割り切って読むことの出来ない小説でした。

しかしいつか真実は明らかになる。
それで誰が救われるのかはわからないけど・・・

丸海は日本の中の1つの藩ですが、同時に世界の中の日本とも読める。
外から押し付けられた難題を政治家がどうのように利用するかという意味もあるのかもしれません。


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