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杉本苑子

 山河寂寥 風の群像  壇林皇后私譜  穢土荘厳 流されびと考

 

 山河寂寥―ある女官の生涯                        岩波書店

「壇林皇后私譜」の次の時代の話にあたる作品。伊勢物語の時代でもありますね。

主人公の女官とは正一位尚侍藤原淑子で、藤原基経の異母妹です。文徳天皇の女御明子(染殿の后)のもとに出仕、後に清和、陽成、光孝、宇多の四代の天皇に仕える女官として正一位まで上り詰めた実力者です。

ちょうど藤原氏の他氏排斥の仕上げに時代にあたるので、謎の事件の多い時代です。この小説の中でも不可解な死が多く、天皇の殺人事件などもあり、その点ではミステリーのようでもあります。

事件としては承和の変、応天門の変、登場人物は在原業平、菅原道真など。あまり小説になっていない時代なので面白く読めました。



 風の群像

主人公は足利尊氏、直義の兄弟。直義がひたすら兄を支える弟として描かれています。かなり美化されている気もしますが、面白ければ良いのです(^o^)

兄を支え通す弟はやっぱりカッコイイです(*^_^*)(武田信繁、豊臣秀長も良いですね〜)

この時代は天皇が2人いるなどというおかしな事態が続いた為か、日本的思考パターンに当てはまらない人物が多くて面白いですよ。



 壇林皇后私譜

壇林皇后橘嘉智子の生涯を、背景となる事件と共に描いています。
時代的には平安遷都の直後、桓武天皇から文徳天皇まで。

回想シーンまで含めると、橘奈良麿の乱、恵美押勝の乱、道鏡事件、藤原種継暗殺、薬子の変、承和の変と、日本史上もっとも訳のわからない事件が続発した時期にあたります。

この時代の事件が陰湿なのは、この時代にはじめて怨霊が正史に登場した、怨霊大活躍の時代だからなんですね。

では何故この時期に怨霊が集中したのか? そこには1人の天才政治家の意思が働いていたから…ということらしいです。

いやあ、陰謀と天才〜まさに好みで良かったです。



 穢土荘厳  文芸春秋

光明子が生んだ聖武天皇の皇子・基皇子の誕生から始まって、大仏開眼に至るまでの聖武帝の時代を描いています。

前半最大の事件は長屋王事件。この事件の真相とは? 黒幕は誰だったのか? この謎解きは充分納得できる説。その後も藤原広嗣の乱、安積親王の謎めいた死、と暗殺事件が続きます。

藤原四兄弟の死と合わせて考えると、聖武帝が怨霊を避けるために宮都を転々としたのもわかりますね。何人殺せば終わるんだろうというくらいの徹底した政敵排除です。

この作品では持統天皇を中心とした蘇我系女帝と、藤原不比等は対立関係にありますが、そうすると「藤原京」の謎が解けないんですよね。やはり中臣鎌足の直系一族が藤原を名乗ったのは、平城京遷都後となるのかな?

ところで諡号に「聖」の字のつく人間は、最高の礼を持って鎮めなけらばならない強い恨みを持った魂だという説がありましたけど、聖武は充分怨霊になりそうな苦しみの多い一生ですね。自分の娘が即位するために、自分の息子と妻が死ななければならないんですから。

一方、「武」の字のつく天皇は、その天皇の即位で王朝が変わったという説もあります。やはり藤原氏を母に持つ天皇で、ここから王朝が変わったという認識があったのでしょうか。

ちなみに「崇」のつく天皇は殺された天皇、「徳」の字は不幸な死に方をした天皇につけられたという説があります。



 流されびと考    文芸春秋

群に対する依存が強い人間という種族は、所属する集団から引き離されることで耐えがたい苦しみを覚える。ここに流刑という処罰が生まれる要因がある。身内、社会、組織から強引に引き離された人間は流刑という境遇の中でどう生きたか、時代背景を含めて流刑の理由と共に考察したもの。

この本に取り上げられているのは、ヤマトタケル、軽大郎女、小野篁、惟喬親王、蝉丸、菅原道真、崇徳上皇、八百比丘尼、本多正純、英一蝶の10人。

中でも、伊予に流された後の軽大郎女の運命について、惟喬親王、蝉丸と流浪の技術集団の関係は特に面白かったです。ただ小野篁と冥界伝説に付いてはもう少し突っ込んで欲しかったですね。

そういえば、歴史や文学に興味のある方には京都六条あたりはお薦めのスポットです。風葬の地であったという先入観もあるのでしょうが、時代を超越した怪しい雰囲気、古い都の持つ暗さは他では味わえないものがあります。珍皇寺には冥界への入り口という井戸もあります。


 

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