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あーとだいありー 2004年4月前半

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 4月17日(土)

 18日で終わる展覧会を駆け足で見てきました。

 まず写真から。
 大橋郁子・高橋洋子写真展<W>札幌市資料館(中央区大通西13 地図C
 札幌でライブステージなどの写真を撮っている原田直樹さん(n-foto)の生徒さんとおぼしきふたりの展覧会。いずれもカラー。
 大橋さんは、ブレやボケを効果的につかって色彩のうつくしさを引き出した、一種の心象風景。野の草花をわざと手ぶれさせて撮ったり、ビー玉や香水瓶を近接撮影したり、幻想的な画面をつくっています。
 高橋さんは、いわば「後ろ姿の幸福」とでもいうべき一連の作品。夕方の住宅街で自転車を押して帰る男の子二人、浴衣を着て小走りにあるく少女、平岡公園(清田区)の梅林を見ながら腰をおろす親子連れ…。なぜかみな、それぞれのささやかな幸せをかかえているように見えるのです。表情はぜんぜんわかんないんだけどね。かえってそれがいいのかもしれません。

 第55回 アサヒ全北海道写真展=同
 朝日新聞社系の写真コンテスト。
 さすがに力作ぞろいです。9割はネイチャー系なのも北海道らしいです。
 最高賞は、渡島管内森町の水元鉄雄さんの組み写真「四季」。農作業の図なのですが、バックにいつも駒ガ岳が見えるのが効いています。
 次席は池内宏好さん(室蘭)「宵月」。羊蹄山と、下弦のほそい三日月、群青の空にシルエットをうかばせる2本の木。それだけでもじゅうぶん美しいのに、雁の群れがV字を描いて空を渡っています。完璧な1枚。


 写真クラブ「Be PHaT!!」作品展 「夢フォト2004」札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階 地図G
 テラウチマサトさんが指導する写真クラブの初展覧会。
 カラーが多いですが、モノクロもあります。ジャンルは多彩です。
 新堂勝彦さん「二人の時間」。夕日にうかびあがる廃船。これだけではわりとよくある写真ですが、二人のシルエットが船体にうつることで、世界にふくらみが出てきています。
 神威邦夫さん「ポプラの小径」。まるでダゲレオタイプで撮影したような、ぼーっとした粒子のモノクロ写真。なんだかつくりものめいてみえてきます。
 三宅博郎さん「ポートレート」。モノクロ2枚。1枚はバルコニーにたたずみ、こちらに目線がきている女性。ふつうポートレートというのは100ミリくらいの望遠レンズで背景をぼかして撮るのが常道なのですが、あえて周囲の風景もすみずみまでピントをあわせて撮ることで、見慣れないポートレートになっています。瓦屋根が多い町が写っていますが、これはどこなんでしょう。
 今江昭美さん「あの日」。太陽のまわりにかかった巨大な暈が印象的。その下にポプラの並木がつらなり、4人の親子らしい人々がシルエットになって、あそびながらあるいています。不吉な暈と親しげな人間模様の同居がおもしろいです。


 第26回 日陽展札幌市民ギャラリー(中央区南2東6、地図G
 親睦と研究をかかげて1979年にスタートしたグループ展。絵画だけでなく、切り絵、七宝のメンバーもいます。
 昨年、会長の江口美春さんが逝去され、今年から代表幹事を数人おくなどあたらしい体制に代わったそうです。具象が大半の、ふつうに見るのにちょうどいい規模の展覧会だということは毎年書いていますが、公募展の会員・会友クラスの力量あるメンバーがすこしずつ逝去や脱会のためぬけており、時のならいとはいえ一抹のさびしさをかんじさせます。
 油彩は、道展のベテラン会員の大作がならんだ奥の壁が、やはり見ごたえがあります。
 小林政雄さん(札幌)「廃船」(F100)は、黒い線が力強くスピーディーです。
 種市誠次郎さん(同)「浮遊(母の使ったザル)」(F100)は、大小のざる11個と、グラス50個を平面的にならべた作品。かたちの反復がうみだすリズムを追求しています。
 濱田五郎さん(後志管内岩内町)「早春暮色」(F100 )は、波打ち際からやや引いた位置から日本海をのぞんでいます。
 濱向繁雄さん(赤平)の「赤平橋より眺望」(F80)は、以前にも描いていた場所からの風景画ですが、どちらかというと薄かった陰影が、この絵ではほとんどなくなり、あえて平面的な処理をほどこしているのが目を引きました。
 藤井幸一郎さん(札幌。新成会展代表委員)「終戦の稚内港」(100号)は、茶色で厚く塗られた町並みが、重々しい作品です。
 なお、第1回からの会員であった矢野為夫さん(札幌)の遺作2点が展示されていました。矢野さんは1912年(明治45年)香川県生まれ、朝鮮の京城師範卒。戦後、夕張を経て札幌に移住、創元展会友などとして活躍されました。
 さて、水彩も、穏当な写実が大半です。
 近藤健治さん(札幌)が「樹齢三千年・大三島の楠」で、あいかわらずリアルで、力のこもった筆つかいを見せています。「エッ! これが札幌なの?」は石山緑地がモティーフ。
 工藤敏雄さん(同)「白樺樹林」は逆光気味の光が効果を出しています。
 ほかに、七宝作家の能登誠之助さん(同)が、「裂」で、撓みのある支持体に挑戦しています。

 ■03年の日陽展
 ■02年の日陽展
 ■01年の日陽展


 第19回 北翔展(久守絵画教室合同展)=同
 ぜんぜん期待しないで見たのですが、よかったです。
 久守浩司さんに絵を習っている101人もの生徒さんが1点ずつ絵を出しているのですが、みな、絵の具の置き方にもたつきがなく、一定の水準にたっしていると思います。
 筆者が評価したいのは、なんの変哲もない風景を、じっくりと愛着をこめて描いている絵です。道内風景にくらべ、海外は、絵葉書的になってしまう傾向にあるのは、いたしかたないことかもしれません。
 そういうわけで、
雪原をしっかりと描いた山本紀恵子さん「冬の勇払原野」、
バルビゾン派を思わせる緑の諧調で北大植物園と思われる風景を描いた安達京子さん「静寂」、
緑などの色彩がよく考えて配置されている熊田禮子さん「浅春の田園」
木漏れ日を丹念に描写した米田陽子さん「日だまり」
傘を差してあるく赤い服の女が絶妙の効果を挙げている井上妙子さん「雨に歩けば」(背景は余市のニッカウヰスキー工場でしょうか)
といった絵はなかなかのものですし、次の絵にも感服しました。
 小野寺麗子「雨あがり」
 小畠ヤス子「舟見坂より」
 梶浦ヒサ「秋のせせらぎ」
 菊地千代「北大農場の秋」
 夏堀幸代「風の岬(積丹)」
 舟橋洋子「木陰の洋館」
 本宮順子「秋香」
 渡辺栄子「風景」


 4月16日(金)

 樫見菜々子『なぜ鳥と目が合ったか』 -- 色 匂い 音 湿度 の一致した『その時』--フリースペースPRAHA(中央区南15西17 地図F
 札幌在住の若手の初個展。
 題のとおり、五感をつかって体験、鑑賞したい個展です。
 展示されているのは、じゅうたんのような平面1点と、刺しゅうによるドローイングが7点(伊藤存氏とちがい“抽象的”です)。
 また、会場内にはぬいぐるみが点在しており、奥の壁には14個がはりつけられ、その半数は、半透明なアクリル板の後ろ側にあるので、覗きこまないと見えないようになっています。犬のぬいぐるみもありますが、抽象的というか、得体の知れないかたまりのようなものが多いです。
 さらに、筆者の目をひいたのは、三つの窓に、うすく絵の描かれた白いカーテンがとりつけられていること。窓がすこしあけられているので、「カーテン画」が風にすこしずつ揺れます。カーテン越しに、庭に咲いた白のクロッカスがかすかに見えます。筆者にとっては、白いカーテンが風に揺れる光景は、学校の放課後の教室を思い出させ、或る種の幸福さの象徴であります。
 会場内には良いにおいがたちこめています。某サイトで「ニュービーズ」の香りと紹介されていたので、これ以外の香りをおもいうかべることができず閉口しました。
 西山美なコ氏とは別のやりかたで、一種の少女らしさ、かわいらしさを表現しているのだと思いました。ただし、どこかにおぞましさを秘めてはいるのですが。
 18日まで。


 板橋美喜子個展=ギャラリー紀(中央区南5西24、地図D
 1961年生まれ、北広島に窯のある陶芸家。
 押しつけがましさがなく、どんな食卓にも合いそうな、ライトであかるい感覚の食器がならびます。
 ただ、以前にくらべると灰色が基調のうつわが減り、白など、あかるい色使いが増えているような気がします。
 めずらしく白磁の香炉、青白磁のコップなどがありますし、初挑戦といううすいピンク色の茶碗などがあって、いまの季節にぴったりの感じです。
 青化粧の各皿や楕円の皿などは、いつになく鉄分の多い土を焼いているようです。
 また、白化粧の皿や鉢は、かきおとしで文様を描いているのでしょうか。太い線による花模様がうかんでいます。
 日本工芸会準会員。1998年に「使ってみたい北の菓子器展」で大賞を受けています。
 20日まで。
 ■01年9月の個展


 石田千華ドローイング展 「snap shot」=カフェエスキス(中央区北1西23 地図D
 こちらも若手。
 案内状に紹介されていたようなコラージュの平面と半立体があわせて9点。
 それよりも筆者は、店内の北東の隅にはりわたされていた6本の細いワイヤによる「天気雨」のほうがすきです。ビーズなどが通されて、日にきらきら反射する雨上がりの蜘蛛の糸を連想させます。
 27日まで。水曜休み。珈琲450円。


 4月15日(木)

 五島健太郎写真展 「朽ち行くもの〜奔別炭鉱立坑櫓」=ニコンギャラリー(北区北7西4、新北海道ビルジング2階、ニコンサービスセンター内 地図A
 東京から札幌に移り住み、プロ写真家として活動するかたわら、廃鉱の写真を撮り続けている五島さんの、2カ月連続の個展。
 今月は、デジタル、銀塩あわせて25点が展示されています。
 もっとも、筆者ごときの目には、デジタルのほうがエッジが強調されていて色のにじみが少なく、銀塩のほうが色が明快で−という特徴は、そういわれればそうかなという程度のもので、いわれなければまったくわかりません。
 奔別(ぽんべつ)は三笠市幾春別地区にあった炭鉱。当時のやぐらはまだ往時のおもかげをのこしています。
 筆者は、やぐらのシルエットが藍色の空にはえる「月夜」や、機械類に存在感のある「端座する発電機」といった作品にひかれました。野菊やルピナスのむこうに立て坑が見える「花畑の向こう」は、トンボが2匹、花の先にとまっているのが印象的でした。技量的にはさすがプロで、安心してみていられます。
 30日まで。5月6日からはおなじ会場で、羽幌の廃鉱をモティーフにした写真展がはじまります。

 □作者のサイト


 梅田東支子油絵展ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル 地図A
 「古代記憶」シリーズで02年の道展で新人賞を得た、滝川市江部乙町の画家。
 今回は、ギャラリー全室を使い21点を展示。うち13点が100号超の大作という力の入った個展です。
 02年の個展で見た作品もふくまれていると思うのですが、今回はキャプション類がいっさいないこともあってはっきりとはわかりません。
 ただ、大半の絵に共通するのは、実物よりもはるかに巨大に描かれた古代の鏡の裏面を床やバックに据え、その前に、無国籍風の衣裳をつけた美貌の女性がたたずんでいる−という図です。
 ほかに、絵によって、古代の神社をおもわせる建築物や、馬に乗った軍勢、舞う天女たちなど、ことなるモティーフがくわえられ、画面にいろどりを添えています。
 イマジネーションに富んだ絵だと思います。
 18日まで。


 第20回記念斗水会日本画・墨描展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階 地図B)
 道展会員の日本画家、千葉晃世さん(札幌)の教室展。
 「墨描」とはききなれないことばですが、墨を中心にして色も使った絵のことでしょうか。たとえば、残雪や針葉樹を墨でちからづよく描写した森見太郎さん「夕暮れ」、加藤妙子さん「春」などは、墨ならではのおちつきが画面からただよいます。
 徳中瑠璃さん「ささやき」は、大沼と駒ヶ岳のような絵。奥行き感はまるで3Dアートを思わせます。
 竹谷綾子さん「菊立」や東海林茂子さん「鉄線家」など、植物がげんきで、紙から飛び出しそうです。
 なお千葉さんは、カレンダーに使ったとみられる、草花を主体とした13枚を展示してます。

 ■02年12月の個展

 4月14日(水)

 きょうは、特集の2本立てです。
  1. 「The Prestige Gallery」16日オープン
  2. 「think garden 思考の庭」23日から本格稼動
 蔦井乃理子さんのユニークな陶芸展についても紹介がありますので、最後まで読んでいただければ幸いです。


 プレステイジ・ギャラリー(中央区北7西22、中村税理士ビル)は、ギャラリー(おもに貸し)と、ウェブサイト、アートのデジタル化のスタジオの3本立ての活動をめざしています。
開設準備大詰めのプレステイジ・ギャラリー
 ギャラリーは、曲線部あり、のぞき穴あり、やや奥まった空間ありの、けっこう変化に富んだ空間です。
 基本的にジャンルは制限しないということです。ただ、壁の長さは計44メートルもありますから、あまり小さいものばかりだと、つかいきれないかもしれません。
 オープン第1弾は企画展で、今後もときどき企画をやっていきたいとのこと。
 日程はかなり空いており、オープン記念の割引もあるそうなので、広い発表場所をさがしている方はどうぞ。

 スタジオのほうは、説明がいるかもしれません。
プレステイジ・ギャラリーのスタジオ こちらは、キヤノン製の最新の装置をそなえています。デジタルですから、「暗室」にする必要はなく、ギャラリーに隣接しています。幅44インチ(1メートル超)までプリントできるという、大きなものです。
 いささか宣伝めきますが、銀塩の場合は基本的に印画紙にプリントするしかなかったのに対し、インクジェットプリンターでは、絵画用のキャンバスや、版画用の紙、和紙など、さまざまなものに出力することが可能です。
 会場には、ふすまや障子まで見本として展示してありました。
 さらに、絵画の複製という使い道もあります(もちろん、画家の許諾を得て、ですが)。
 何百万円もする絵画でも、デジタル複製だと何万円かで済みます。さすがに、絵の具の盛り上がりやマティエールまでは再現できませんが、ふつうに眺めているとどちらが本物かわからないほどです。ちなみに、今回の展覧会にならぶ複製画の数点は、サインだけが肉筆です。
 「知り合いの画家はみなすぐに承諾してくれました」
とギャラリーでは話しています。オレの絵は号いくらで、1点ものだ−などという頑固な人はいないそうです。
 著作権の問題などがのこりそうですが、一般には高嶺の花だった絵画や写真が茶の間に普及していくにあたって、強力な武器になりそうです。

 ギャラリーは、ジェイ・アール北海道バス北7条線(大通西4発)で「北7西23」下車、徒歩1分。地下鉄東西線西28丁目駅から徒歩12分ぐらい(リーフレットには18分とありますが、たぶんそんなにかかりません)。駐車場あり。


 「think garden」は、Gallery&Cafe marble(中央区界川2の5の6 地図F)の1階にオープンする美術書の図書館、カフェです。
リーフレットには
「本から夢と元気をもらい、自由な心になって様々なことを考えるための‘庭’」
とあります。
 名前は、マーブルの「シンクガーデン」にひっかけているようです。
 
 ここをオープンさせた津田知枝さんは、東京生まれの東京育ち。02年に帯広でひらかれた現代美術展「デメーテル」のスタッフとして働いていましたが、このほど札幌にひっこしてきました。
 デメーテルではたくさんのボランティア学生たちとかかわっていましたが、催しが終わると、彼(女)らが美術に興味を持っても、それを持続させるための環境にとぼしい。
「アドバイスしていく環境が必要だなあと思ったんです。それに、大きなイベントをやった側としては、多少なりとも責任がある、と。イベントもいいんですが、じっくり地道に文化、芸術の蓄積をしていくことが、まちづくりにつながっていくと思うんです」

 特注の本棚は、一部いすや机と兼用になっています。何冊あるかはかぞえていないのですが、絵本や文庫本などもあります。
 いちばん目立っている(?)のは、ベッヒャー夫妻のりっぱな写真集が何冊も置かれていたこと。ほかに「武蔵野美術」のバックナンバーなんかもあります。
 ここには津田さんが常駐し「本のソムリエ」として、紹介やアドバイス、登録メンバーへの貸し出しなどをおこなっていくそうです。

 また、年4回ぐらいはレクチャーやワークショップなどのイベントをやっていきたいとのこと。
「本や雑誌の向こう側には人がいるわけで、美術に限らず、編集長などをよびたいですね。ここを、人と人とが出会って知り合える場所にしていければ」

 (4月15日追記。think gardenは日、月曜休み。午前11時から午後7時まで。金、土曜は午後10時まで)


 Noriko Tsutai clay work Q....QuestionGallery&Cafe marble(中央区界川2の5の6 地図F
 札幌の陶芸家、蔦井乃理子さんは、この半年で3度目となる個展をひらいています。
 壁掛け型の花器と、帽子のようなかたちの器をそれぞれ50個ほどならべ、ユニークな空間をつくっています。
 
 うつわは、食器にも灰皿にも花器にも自由につかえるタイプ。
 展覧会タイトルの「Q」というのは、あなたならなににつかいますか−という問いかけの意味合いがあるようです。
 ちなみに蔦井さんは、お香をたく器につかうのが好みだということでした。大きめのものだと、線香がかくれて煙だけが見えます。
 「つば」にあたる部分の幅や角度、中央部のへこみなど、かたちや大きさは微妙に違います。単純なかたちですが、バリエーションは豊富といえます。
「銀彩のうつわをつくるときはマスクをしたりたいへんだけど、今回はろくろで一気につくって、ひさしぶりに心から楽しかった。色は、素焼きの上に、顔料をまぜた化粧土で塗りました」
 いっぽう、壁掛け型は一片12−15センチの正方形が大半。すべて、花をいけることができます。「幾何学的抽象が好き」という蔦井さん。シャープでたのしい造形感覚が反映しています。
 インスタレーションのような展示は、工芸だけでなく一般の美術愛好家でもたのしめるのではないでしょうか。
 ことしは、東京と名古屋で個展を予定しています。
 17日まで。


 4月13日(火)

 本日は大量です。
 おおむね、工芸、絵画、写真、12日でおわった展覧会−の順で書いていきます。

 その前に
 羽生輝「海霧」挿絵原画展について。
 真鍋敏忠アートギャラリーの真鍋さんによると、「海霧」の挿絵に人物があまり登場しないのは、作者の原田さんの意向なんだそうです。
 それはそれで、ちょっとむずかしい註文のような気がするなあ。


 染司(そめつかさ)よしおか 植物染作品展=工芸ギャラリー愛海詩(えみし=中央区北1西28 地図D
 京都の吉岡幸雄(さちお。1946〜)さん主宰の工房による道内初の展覧会。
 吉岡さんは、江戸・文化年間に始まる染物屋の5代目。出版にたずさわっていましたが、先代から工房を引き継いだとき、人工染料はあつかわないと決心したそうです。
 会場には、ショールなどの布が展示されていますが、日本の伝統に根ざした色あいには、驚きます。これが天然の染料だとは信じられないほど、鮮やかで、深みのある色です。
 吉岡さんは、古典文学の素養があり、色にかんする著書もたくさんあります。筆者は、布は買えないので、「日本の色を染める」(岩波新書)と「日本の色辞典」(紫紅社=これは吉岡さん自身が設立された出版社です)を買ってきました。
 18日まで。


 七尾佳洋 作陶展=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1 地図A
 檜山管内厚沢部町に「清水工房」をひらいている国展会友の陶芸家。札幌でも、同ギャラリーなどでさかんに発表しています。
 今回は皿などの食器が大半。糠白釉、藁白釉の茶碗やとっくり、大皿など、やわらかな色合いが、見ていてほっとします。青白磁が清楚な美しさだとしたら、糠白釉、藁白釉の白はもっと暮らしに根ざした白なんだなあと思いました。
 大きな珈琲カップでも3000円台で、とくに黒釉柿差は、珈琲に似合いそうです。
■100の皿展(03年12月画像あり
■陸人展(ろくにんてん。03年9月)
■器々展(個展。03年5月)
■素−そのやわらかなもの(江別市セラミックセンター企画のグループ展)

 25日まで。

 つづいて絵画。
 札幌時計台ギャラリーは、全室が絵画です(G室は展示なし)。
 いずれも17日まで。

 村上豊油絵個展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
 後志管内余市町在住ですが、毎春、札幌で個展をひらいています。
 道新札幌市内版によると、村上さんはがんで、昨年6月にも手術したばかりということですが、色調などはむしろあかるくなったようです。
 今回は大小34点。「ゴンドラを待つ人」をはじめ、ベネチアなどの風景画が大半で、青や緑といった原色にちかい大きな色斑が画面のあちこちに浮遊するという画風には変化がありません。
 ただし「晩秋のニセコ」「シリパ遠望」といった、これまで札幌の展覧会にはあまり出品していなかった、地元の風景を題材にした作品が今回は多かったような気がします。
 あくまではなやかなベネチア風景とことなり、やはり余市周辺の風景には、別種の愛着のようなものが感じられるように思えました。
 現展会員。

■03年の個展
■01年の個展


 塚崎聖子個展=同
塚崎聖子個展 
 毎年道展で入選している塚崎さんですが、意外にも、個展は初めてとのことです。
 筆者は、道展の選考がどんなぐあいでおこなわれているかを知りませんが、たぶん毎年、賞選びでは、塚崎さんの絵はかなりいいところまでいっていると、筆者は思うんですよ。それくらい、気持ちと手数のはいった絵だと思います。
 「とにかく制作には時間がかかるんです」
という塚崎さん。凝ったマティエールは、塗っては削り、削っては塗り−のくりかえしなのでしょう。
 左上は、新作の「雲の室内(発芽)」。飼い犬をモデルにしたそうですが、羽がはえています。
 塚崎さんの絵には、どれも、大空とか、飛ぶことへのあこがれが感じられます。
 「空」の連作で女の子の手から、連続合成写真のように宙にとびたつ球は、亡父への思いがこめられているものもあるのだそうです。
 大作7点のほか、小品14点も、マティエールは変化に富んだ作品ばかり。なかでも筆者は「花」の荒削りな存在感に注目しました。
 札幌在住。

 のこる3つは、グループ展です。
第3回 陽の会展は、砂田陽子さん(全道展会員。札幌)が講師の教室展。
 中村友子さん「画質」は、洗面台やテーブル、傘立て、掛け時計などの円形が、小気味良いリズムをうんでいます。
 砂田さんは「2004 家族(ルーム)」を出品。太くモティーフを区切っていた輪郭線に、溶解の気配がみられます。
 ブランの会展は、川畑和江さん(道展会員。札幌)の教室展。
 酒井陽子さんの「植物」などが風変わり。高柳陽子さんは安定した力量をみせています。
 第24回金の眼展は、女性ばかり16人からなるグループ展。新道展に入選している人が何人かいます。赤田久美子さん「passion T」は斜光をあびて力走する馬を、手なれた筆致で描写。本間智恵さん「トレド」は、西洋の町並みを、空想の都市のように中空にうかべて描いています。
 ほかに、朝日弘子、石塚睦子、大山栄、小川敬子、奥村晶子、三上とも子、佐藤毎子、高木三千子、千田ふじ子、中村スエ、西川恵美、平野トキ、砂田幸、武田京子の各氏が出品。

 いずれも17日まで。

 春への協奏展(コンチェルト)2=ギャラリーたぴお(中央区北2西2、道特会館 地図A)
 たぴおでおこなわれるグループ展では、かなり若そうな部類(ただし、オーナーの竹田博さんをのぞく)。
 案内状ができあがってから参加が決まった奈良知佳さんは、藤川千聡さんと同様、ベニヤ板にコラージュをほどこしています。藤川さんは、先日の「STEP」出品作のほか、まるまっちい立体を床置きしてます。
 佐々木未来さんは、本のスタイルをした小さな作品を出品しました。
 村元由紀子さんは、縦長構図のイラスト12枚。季節感がにじみ出て、ほのぼのとしています。
 ほかに、兼岩綾乃さん、廣瀬美砂さん、千葉愛子さんが出品しています。
 17日まで。

 写真展をふたつ。

 金井紀光写真展「非電化暮らし」=キヤノンサロン(北区北7西1、SE山京ビル 地図A)
 静岡市の梅ヶ島地区で1999年から2003年までの間、電気のない生活をしていた一家の暮らしを42枚の写真で追った記録。
 この会場ではめずらしく、全点モノクロ。「吊橋の向こう」「自然の中で」「暮らしを紡ぐ」「家族」の4部構成で、電灯も電話もテレビもないけれど、充実した山間の生活を追っています。
 なにがいいって、やっとあるきはじめたひとりむすめの慧(けい)ちゃんの表情がいいんですよね。絵本に夢中だったり、大きくなりすぎて味がなくなったキュウリを喜んでかじっていたり、いたずらがすぎてお母さんにしかられたり…。週に1度は保育園にも通っているようで、まったく外界から隔絶された日々でもないようです。
 この便利な現代社会にあってあえて電気のない暮らしを選び取る決断にはすなおに感服させられますが、道内でも戦後しばらくは電気のない村落がたくさんあったことを思い出しました。
 16日まで。

 光彩の四季 杉山栄治・杉山澄子二人展=クリエイトフォトギャラリー(中央区南1西9、札幌トラストビル 地図C
 定年退職後の趣味として写真にとりくみ、NPM(Nature Photo Masters)の教室にかよっている芦別在住の夫婦の二人展。
 うつくしい自然写真がならびます。
 澄子さんの「藍の渓流」は、上から見下ろした冬の川がつめたそう。ダイナミックな画角です。栄治さんの「春霞の森で」は、福寿草に蜘蛛の糸がからんでいます。望遠レンズを効果的につかった1枚だと思います。
 17日まで。
 6月1−15日、滝川市江部乙町の「道の駅たきかわギャラリー」に巡回。


 最後に、13日かぎりでおわってしまった展覧会から。

 第2回 萌展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階 地図A
 道内の抽象画の大御所だった故菊地又男さんが主宰していた「新女性展」を母体にした絵画展。
 11人が、おもに30号くらいの絵を中心に出品しています。
 浅水邦子、伊吹住江、井村郁子、菊地美智子(新道展会友)、笹島スミ子(同)、清水アヤ子、渋谷美智子(新道展会員)、鈴木裕子、平原郁子、三浦かず子、宮下久子(新道展会友)の各氏。
 笹島さんの「太古のひびき」は、土器などをくみあわせたとおぼしき半抽象ですが、マティエールのあたたかさが気に入りました。渋谷さん「バラ」は、おちついた色調です。
 賛助出品として、ベテラン画家の高橋英生さん(稚内。男性です)が「野の華」などシルクスクリーン2点を出品しています。

 福島靖代個展=同
 真っ赤な背景に、ちいさな人物や図形を配する独特の画風の作家。
 「dream 何処へ」「閃光 微睡みのなかから」など、新道展出品作などを展示しています。
 どの作品も、赤の彩度がかなり高いのに、どぎつい感じをうけないのは、微妙に赤がグラデーションしていることにくわえ、何度も絵の具を塗り重ねて、色のてかりを抑えているためでしょう。赤の下地にかなり暗い色が重ねられているのがわかります。
 宙にうかぶ円錐形やはしごが、幻想的な雰囲気を出しています。
 札幌在住、新道展会員。

 山里稔個展=ライテング・コア札幌 3階ギャラリー(中央区南2西8)
 筆者ははじめて聞く名ですが、1960年代から70年代初頭までグループ展などで活溌(かっぱつ)に絵画やインスタレーションなどを発表していたそうです。その後30年ほど仕事に専念し、3年ほど前から制作を再開。
 今回は、着彩の彫刻というよりはオブジェといったほうがふさわしそうな立体をたくさん出品しています。着彩といっても、白や青などを平坦に塗ったもので、実物のものをリアルに再現しているのではありません。
 はじめにとりくんだのは「汽船星」の連作。古めかしい、ずんぐりむっくりしたかたちの船でありながら、同時に遊星でもあるというもの。いちばん大きなものは煙突を押すとあかりがつくしかけになっており、内部をのぞくことができます。甲板には地形のようなものもつくられ、スケール感のあるたのしい作品です。
 近作の「静かなる空間」シリーズは、フォルムのシンプルさがましています。台座の上に魚がのったもの、無限に階段がのぼっていくものなど、簡潔な構成のなかにも余韻がただよいます。
 「これからもどんどんつくる」
というお話でした。
 会場は、狸小路8丁目の、FAB cafeのならびにある、あかりのショールームの3階です。絵画を陳列するレールはありませんが、ハロゲンなどはさすがに充実しています。

 □山里さんのサイト

 4月9日(金) 
 
 きのうのつづき。

 「Japanese Style」伊藤隆介個展CAI現代芸術研究所(中央区北1西28 地図D
 実験映画、映像を使ったインスタレーション、マンガ評論など多方面に活躍する道教大助教授の、意外にもギャラリーでははじめての個展。
 これほどたくさんのグループ展などに出品していながら、すべて美術館の展覧会か、ギャラリー企画のグループショーだったわけで、札幌ではめずらしい「貸しギャラリーにお金をはらったことのない作家」なわけです。
 今回は、近年とりくんでいる「Realistic Vertuality」シリーズの、インスタレーション3点を出品。
 うち「Science Fiction Realistic Vertuality(Flying Giant/空飛ぶ巨人)」は、昨年9−10月に青森県七戸町でひらかれた「成田享が残したもの」に出品されたもの。ウルトラマンが雲の中を飛ぶという、この作者らしいオタク的テイストの作品です。
 の伊藤隆介さん「Vertualistic Reality/Japanese House of the Dietこる「Realistic Vertuality(Japanese House of the Diet/日本の議会)」と、「Realistic Vertuality(Prefablicated Bathroom/ユニットバス」は新作です。
 いずれも、プラスティック板などで精巧にこしらえたミニチュアを、モーター仕掛けで規則的なうごきをくりかえす小さなCCDカメラで撮影し、壁に投影するというメカニズム。
 たとえば、写真の「日本の議会」は、カメラが近づいたり遠ざかったりするので、映像も、正面の玉座を大写しにしたり、引いたりします。
 また「ユニットバス」は、カメラではなく、ユニットバスを模した箱のほうがぐるぐるまわるという、あたらしい趣向。箱の内側に、鏡が貼ってあるので、まわるたびにギャラリー空間を反射して、壁にうつします。

 シリーズ出発当初は、ミニチュアを投影してほんものそっくりの映像に見せるというしかけ自体におもしろみを感じていた筆者ですが
「どうやらそれだけではないぞ」
ということに気がつきつつあります。
「この作品は、どちらが虚像で、どちらが実像なのか」
という問いは、とうぜんもつわけですが、それでは、この作品のモデルになっている事象は、はたしてリアルなのか。そして、わたしたちは、ほんとうにそれを「見て」いるのか…。
 ここで無意味に大きくなったり小さくなったりしているのは、もちろん、新聞やテレビでよく見る国会なのですが、では衆議院なのか参議院なのかと問われるとこたえられない人がほとんどではないでしょうか。
 正解は参議院で、作者はわざわざ本物の見学にいったそうですが(ちなみに衆議院はテロ警戒がきびしくていまは議員の紹介がなくては入れない由。参議院は「ひらかれた姿勢」をアピールしたいのだろうが、片方だけ自由に入れるというのも妙)、答弁席の後ろに天皇のためのいすがあるなど、構造は微妙にちがっています。
 だれでも見たことがある映像なのに、だれもが見ていない映像。それは、映像と情報の氾濫にともなって、なにが擬制で、なにが事実なのかますますわからなくなっている現代、そして、「国権の最高機関」と憲法に規定されながらはたしてその規定にふさわしい活動をしているのかどうか見えないという、いまの日本のありようにどこかでかさなってくるように思えます。
 また「ユニットバス」は、会場がちがうと、映し出される映像もちがうので、作品の実体が何なのか、見るものをとまどわせます。
 しかも、生活様式の西洋化がすすんだ日本において、ユニットバスは西洋的な意匠でありながら、じつは西洋人にどう説明したらいいかこまるほど、日本的なものであるという皮肉。つまり、あんな貧乏くさいウサギ小屋仕様のものは欧米にないんですよね。
 これまた、「Realistic Vertuality」というシリーズにふさわしいモティーフとはいえないでしょうか。

 ■映像個展(03年12月)
 ■カフェ「capybara cafe」での個展(03年7月)
 ■吉雄孝紀さんとの映像往復書簡(03年3月)
 ■アジアプリントアドベンチャー2003
 ■ぼくらのヒーロー&ヒロイン展(市立小樽美術館)
 ■northen elements(02年秋)
 ■札幌の美術2002
 ■水脈の肖像(日刊現代美術家の交流展。道立近代美術館)

 10日まで。最終日にパーティー。


 第46回 札幌墨象会展札幌市民ギャラリー(中央区南2東6、地図G
 太い筆でエイヤッと書いた墨象は、
「どうしてこれが『●』という文字なのだ」
などとかたくるしいことを考えなければ、見ていて元気が出ると思います。
 メンバー36人が1点ずつ出品。
 代表の島田青丘さん「空」は、第一画が極端に長く、おもしろいバランス感覚です。
 東志青邨さん「寂然」は、かなりうすめの墨をもちいており、力で押すタイプの作品の多いなかで異色。
 三上聡子さん「重」は、左側の飛沫が丸くて、右側の飛沫が針型なのが、興味深い対照を見せています。
 佐藤放心さん「山」は、縦線が強調されて或る種の切迫感と緊張感を全面に出しています。
 安藤小芳さん、三上山骨さん、三上禮子さんなどの作品も力作だと思いました。

 ■03年(3日の項)
 ■01年

 10日まで。


 公募第16回 北南会展=同
 札幌の林茂竜さんが代表を務める水墨画と墨彩画の団体。なぜか毎年、埼玉や山梨の出品が多くあります。
 全体を通していえば、道内の山林の風景が半数以上をしめています。地の白い部分を残して理想的風景を描いた中世の水墨画とはことなり、画面の隅々までリアルに描いた画風のものばかりです。
 もちろん、きちっと描かれた作品は、見ていてきもちのよいものです。札幌市長賞の西村矢寿さん「メルヘン公園」、依田豊さん「秀峰羊蹄」、霧の流れるようすがよく描かれている高松登美子さん「霧の針葉樹林」などです。
 11日まで。


 冨澤謙個展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階 地図B)
 63点。うちイタリアの風景が2点で、のこりは地元の小樽をはじめ、利尻、道南の駒ケ岳、羊蹄山、札幌など、道内各地を描いています。
 冨澤さんはもう70歳ぐらいのはずですが、じつによくあちこち走り回ってモティーフをさがしているものと感服します。
 手堅い、穏当な写実路線。影の部分でも明度を下げていないので、画面全体はあかるいトーンに満ちています。絵の具は、生っぽい発色になっていないのはもちろんですが、むやみに白と混ぜてもいないようで、にごったりかすれたりした感じがありません。
 「冬のシリパ岬」は、木々の部分につかったイエローオーカー系と、空や海を描いた明冨澤謙さんの絵はがきセット暗の青を対比させた配置の妙。
 駒ケ岳を描いた作品は、雲の影を効果的に配置することによって、絶妙の奥行き感を出しています。
 小樽在住、道展会員。
 会場で、絵はがきセットも販売しています。12枚入り700円とお買い得です。

 ■グループ環展(03年)
 ■グループ環展(02年)
 ■02年4月の個展
 11日まで。


 第8回 竹岡絵画教室展 えすかりゑ展さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階 地図B
 指導するのは、札幌の竹岡羊子さん(独立美術と全道展の会員)。
 「教室展」といっても、全道展の会員や会友もいます。
 また、今回の特徴として、何人かが、下絵用に制作した貼り絵を同時に展示しています。竹岡さんが
「描きだしてから迷わないように」
と、つくらせたものだそうです。
 亡くなった瀬戸節子さんは全道展の版画の会員でした。「大地」「回想」の2点は、素朴な味と明快な構図が特徴です。
 竹岡さんは「満開のさくらの木の下で!」という200号の大作。ピンクがまばゆい画面には、底抜けのあかるさと、祭りがおわったあとのうっすらとしたかなしみが、同居しているかのようです。
 11日まで。


 「混沌とするイラク」写真展札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階 地図G
 あまりにタイミングの良い? 展覧会。
 昨年11月からことし1月にかけてイラク各地をまわり、小学校などで撮影した写真がほとんどです。ひとびとの表情や、はしりまわる戦車などがよくとらえられていますが、撮影者の名前がどこにも表示されていないのがふしぎです。
 11日まで。


 room of the head 4=ギャラリーユリイカ(中央区南3西1、和田ビル2階 地図B)
 小田蓉子、村上幸織、カッシー、マニの4人によるグループ展。
 小田さんの立体が「おぞましい」というか、ふしぎな味を出しています。
 カッシーさんは写真。陳列の仕方を変えれば、もっとよくなるような気がしますが。
 11日まで。


 高橋三太郎チェアーズ=STV北2条ビル(中央区北2西2 地図A)
 札幌に工房をかまえる高橋さんのいすが10脚ならび、うち7点にはじっさいにすわってみることができます。いずれも、木の質感をいかした、それでいて重苦しくならないように軽快にデザインされたものです。
 ただし、会場はビジネスマンが行き交うビルの入口ですので、いすにすわっているとはずかしかったりします。
 11日まで。


 羽生輝「海霧」挿絵原画展道新ぎゃらりー(中央区北1西2、時計台ビル地下 地図A)
 北海道新聞をはじめ、中日、東京、西日本などの各紙に連載された原田康子さんの小説「海霧」(講談社刊)の挿絵原画展です。
 釧路在住の日本画家、羽生輝(はにゅう・ひかる)さん(道展会員、創画会会友)が描きました。
 新聞紙上ではわからなかった細かい筆のつかいかたや、白のいれかたなどがわかります。この水準の絵を毎日描くのはたいへんなことでしょう。しかも、作中に登場する本州や函館も取材する念の入れようです。
 ただし、これは好みの問題だと思うのですが、連載中から気になっていたのは、風景が多すぎて、人物があまり登場しないことでした。出てきても、後姿などが多く、顔がはっきりわかる回はごくかぎられていました。
 小説はやはり人間が主役です。顔つきをはっきり描いて読者の想像のさまたげにならぬよう−という配慮は、よくわかります。ただ、似たような海岸の風景が何度も出てくることは、読者を小説の世界にひきいれる挿絵本来のやくわりからするとどうなんだろう−と思いました。
 ほか、日本画を2点。
 
 13日まで。
 羽生さんの作品の画像はこちらにあります。
 □ぎゃらりー・どらーる

 12日の項に追記 ▲
 
 4月7、8日(水、木)

 訃報です。
 戦後を代表する日本画家で、文化勲章受章者の加山又造さんが亡くなりました。
 装飾的という日本画の伝統をふまえつつも、裸婦を描いたり、桜の大作にいどむなど、まさに日本画の革新につとめてきた大作家だったと思います。
 97年に道立近代美術館(中央区北1西17)でも大規模な個展がひらかれています。

 以下、大量に更新があります。

 中山紀子写真展「風をポケットに入れて vol.2」富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館 地図A)
 東京在住の写真家。フィルムのいれかたから学んだのが十数年前ということですから、急速に上達したことがわかります。
 身のまわりのものにレンズをむける人はたくさんいますが、これくらいセンスよく、さりげなくフレームにおさめることのできる人はすくないように思います。
 たとえば「街を歩くと」は、舗石の上から顔をのぞかせているコスモスのひとむれと、ハングルの印刷された紙につつまれた花束が舗道上にころがっている情景とをうつした、2枚のプリントを組にした作品です。たったそれだけなのに、きまっています。
 解説文にもありましたが、中山さんは絞りを最小にして、ピントの合う位置をごくせまくしています。あれもこれもとよくばってフレームの中におさめるのではなく、撮りたいものだけに焦点をあわせ、ほかはぼかす。それは、通常の写真にくらべると、作為的な撮りかたのようにおもえますが、じつは人間の視覚の生理にあっているといえます。人間は、リラックスしているとき、視野に入っているものすべてを注視しているわけではないのですから。
 「眠らない街」も2枚をひとつのパネルにおさめた作品。街路樹をかざるイルミネーションと駐車している車を上から撮った写真と、雨にぬれた舗道に街燈が反射している写真のくみあわせです。夜の街のにぎわいを、人間をいれずに表現しています。
 34枚ある写真のうち、人間がうつっているものはまったくありません。そのことが、かえって人間の存在を感じさせます。
 台紙にあかるい黄色をつかうなど、ほかの人がしない見せかたもおもしろいです。
 14日まで。
 

 追悼 展覧会 今井和義の一首を描く=ギャラリーたぴお(中央区北2西2、道特会館 地図A
 今井和義さんは2月15日亡くなりました。46歳でした。
 今井さんは、たぴおのグループ展に出品するほか、晩年は口語短歌にとりくんでいました。
今井和義さんの追悼展 三上恵爾さんの作 今回は、彼の短歌を題材に、生前交友のあった29人が新作をもちよった追悼の展覧会です。今井さんの平面作品や、原稿用紙に書きなぐった短歌も展示されています。
 絵、詩、立体、今井さんをうつした写真、コラージュなどさまざまです。
 上條千裕さんは「うただより まよなかだより」という本の作品を、箱の中にいれて出品。
 林教司さんは、今井さんの短歌を印字した細長い紙片をたくさん、ふるいびんの中に入れました。やまぎしせいじさんも似た発想の作品で、こちらは透明な細長いシートに印字して、水の中に入れています。
 三神恵爾さんは、新聞紙の上に、色鉛筆や土などをばらまいたインスタレーション。それにしても、三島由紀夫の自殺とか、東大・安田講堂の落城とか、ソ連崩壊とか、最近では米国の同時テロとか、三神さんふるい新聞紙をずいぶん保管しているんですねえ。現代史の重みをたたえた力作。
 「たぴお」のオーナー竹田博さんのコラージュには、酒のふたが貼られ、故人と酒を酌み交わした思い出がつつみこんであります。
 今井さんの短歌。
雪を食ふ獣となって夜の底を通りぬければ眼前の春
松江でもレゲエの店は続けると中古の四駆で帰っていった
 そのお店の主人公から電報がとどいていました。
 入口の上にかざっている今井さんの肖像画は、彼の部屋にあったもの。一見竹田さんの筆になるものかと思いましたが、作者不詳だそうです。故人の面影をよくつたえていると思います。
 10日まで。


 これくしょん・ぎゃらりぃ 栃内忠男の世界道立近代美術館(中央区北1西17 地図D
 道内画壇の重鎮、栃内さん(1923年−)の回顧展。
 93年に、芸術の森美術館で大規模な回顧展がひらかれていますが、今回は、それ以降の作品をくわえた51点を展示しています。
 97年の個展(札幌時計台ギャラリー)で展示されていた「古典的な自画像」など、6点の導入部につづき、「風景」「静物」「抽象」「貝殻」「裸婦」「顔」「リンゴ」という、モティーフ別の構成になっています。
 この構成は、画業の年代にだいたいそっているところが興味深いところです。たとえば、風景は、38年(昭和13年)「崖」など、戦争の前後にしか登場しません。
 栃内さんは根っからの抽象画家ではない。かといって、画面に、形や色以外の要素をもちこみたくないのでしょう。風景からはなれていったのは、そのためと思われます。いいかえれば、風景画は、画面以外の要素をかたりすぎるのです。
 栃内さんの敬愛するピカソも、初期をべつにすればほとんど風景にとりくんでいないのではないでしょうか。
 ちなみに39年の「札幌遠望(浄水場より)」は、遠景にふたつの大きな建物が描かれていますが、これは以前ご本人にたしかめたところ、丸井今井と三越だそうです。
「このころは、高い建物はこれしかなかったんだよ」
うーん、隔世の感アリ。
 栃内さんは札幌在住。独立美術と全道展の会員。

 これくしょん・ぎゃらりい 光のうつわ=同
 道立近代美術館の常設展示の半分ないし3分の1は、同館を特色づける分野であるガラスの展示ときまっています。
 これまで何度も見てきたガラスの常設展ですが、個人的には、今回のがいちばん陶然とさせられました。
 「うつわ」とありますが、食器展ではなく、光の透過する性質をよくあらわした作品がならんでいるのです。
 筆者の大すきなジェイ・マスラー「街景」もありました。じぶんから光を発しているわけでもないのに底の部分のオレンジはどうしてこんなにあかるいのでしょう。
 このあかるさはなんだろうというのは、わが国を代表するガラス作家の岩田藤七の「花器・宵」などでも感じたことです。
 バックライトの力でほんとうに光をはなっている作品もあります。ケンプル作の19世紀のステンドグラス「人々の救いのイエス」などがそうです。
 一方で、扇田勝哉克也の「アメノヒモアル」などの家型のオブジェは、内部に光をかかえこんでいるような、鈍い光を感じさせます。
 また、ベルナール・ドゥジョング「円環」は、まるでうつわの中に水がたまっているようなふしぎな光にみちています。
 昨年の「Glass Skin」展の出品作だった家住利男の作品は、厚みのことなる板ガラスを重ね合わせることによって、微妙な光のニュアンスを感じさせるものです。
 ともあれ、見ていてうっとりさせられることは保障します。
 11日まで。

 なお、これくしょん・ぎゃらりぃ(常設展示)の入場料が4月から50%上がって、450円となりました。
 こんなところからも徴収をふやさなくてはならない道の予算のきびしさを感じさせる措置ではあります。


 長谷川忠男自選展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A
 1934年(昭和9年)江別生まれ、札幌在住の画家(全道展会員)が、古希を記念し、ギャラリーの3室を借り切ってひらいた個展。
 52年の「窓辺の花」以来の油彩44点を展示しています。いわゆる売り絵はなく、100号クラスの大作が中心です。
 安井賞にノミネートされたり、自由美術展に初入選でいきなり会員に推されたりしています。
 あえて分類すればフォーブなのだと思います。奔放でスピーディーな筆の運びです。80年代の裸婦像などに見られるように、陰影はまったくなし。70年代の「ユーカラ」「海辺」などは、さまざまな原色が乱舞していますが、しだいに色数、モティーフとも減ってゆきます。
 どの時代もつらぬく特徴をあげると、おなじ画面に、薄塗りの部分と、絵の具がもりあがった非常な厚塗りの部分が同居していることだと思います。
 ただ、相当の画力のある方だと思いますが、個人的にはあまり得意じゃないんですよ、こういう絵。画面上で絵の具がまざりあった濁った色彩や、100号超の大きさの割にはいやに少ない筆の跡など。
 もっとも、小生、以前はマティスとかぜんぜんわからなかった。だから、長谷川さんの絵も、いずれわかる日がくるのかもしれませんが。
 10日まで。

(追記。展示作為外にも多数の作品を収録した画集を、会場で販売しています)

 4月4日の続き

 右の写真は、「札幌アーティスト・イン・レジデンス展 国境を越えた美術の冒険」展の最終日におこなわれた打ち上げのもようです。
 それにしても、へたな写真だな。われながらいやになってしまう。
 米国で、版画家の艾沢詳子さんが滞在していた先の団体の役員をはじめ、共同通信の東京の文化部の記者、海外の招聘アーティスト、ボランティアなどなど、いろいろな人でごったがえしていました。
 筆者は、「地域創造」などを出しているTさんから
「5年でおわるっていうけど、行政のキーパーソンをひとりつかまえておけばなんとかなるのよっ。柴田さん、札幌市のラジオ番組に毎週出てるんでしょ」
と説諭? されておりました。まあ、わがS-AIRは、たとえば、さいきん地下鉄東西線琴似駅にあるスペース「パトス」の運営をまかされたNPOの「コンカリーニョ」なんかにくらべると、行政との関係のとりかたがいまいちなのかもしれないなあ。ううむ。
 ともあれ、筆者はいろいろな話をきけて、たいへん有意義でした。
 その話のひとつとして、都心の小学校統合によって生じる曙小(中央区南11西9)の教室のうち何部屋かをアトリエやギャラリーにつかおうといううごきが具体化しているそうです。
 とちゅうから、久野志乃さんも参加していました。彼女は、日高管内浦河町の高校の講師をこの春かぎりで辞め、制作に専念するということでした。
 デメーテルの企画運営などにもたずさわっていた「P3」にいたツダさん(名前違ってたらごめんなさい)が、オダイさんとはべつのルートで北海道にひっこしてきたとのことで、さっそくGallery・Cafe marbleアートライブラリーを設置する仕事にたずさわったそうです。マーブルは、改造をへて6日に再オープンしています。

 
アーティスト・イン・レジデンス展のうちあげで事務局に花束贈呈

札幌アーティスト・イン・レジデンスの打ち上げ

札幌アーティスト・イン・レジデンス展の打ち上げ

札幌アーティスト・イン・レジデンス展の会場風景
 最後に、首都圏の方が読んでいたら、おしらせ。
 かつて富士フォトサロン(中央区北2西4、札幌三井ビル別館)でひらかれた「浦島甲一写真展 十勝野メモリーズ」が、2−8日、東京の富士フォトサロンで開催中です。
 なかなか感動的な北海道の大地を見ることができるので、機会があればごらんください。
 作品写真はこちら

 4月3、4日(土、日)および5日(月)

 「内包」−内にあるもの− 中橋修展アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル 地図B
 もともと絵画制作が多かった札幌の中橋さんですが、この数年は立体が大半です。中橋修展の会場風景
 それも、アクリル板を用いた、シンプルな作品で、空間をつくることが多くなりました。
 色も、青などの原色をつかっていた時代をへて、昨年の個展では白ばかりとなり、ミニマルな様相をつよめています。
 今回の個展は、2室あるうち、左側の部屋は、昨年の個展の延長線上に位置づけられる立体群です。
 白い躯体のなかに、紙をまるめて、その断面を見せるなど、四角形を中心に、うずまき型など、最低限の変化で作品を成立させています。また、一部の作品では、金属のちいさな棒をのせています。
 もうひとつの部屋のようすが、左の写真です。
 正面の黒い立体は、横30センチ、縦と奥行き60センチの直方体を、内部が見えるように、規則的に積み重ねているようにみます。
 直方体の奥の面の中央には、縦に細いスリットが入り、向こう側からわずかに光が漏れています。スリットの太さは、下にいくにしたがってすこしずつ太くなるという芸のこまかいところをみせています。
 この黒い塔の奥には、白い30センチ角の立方体が、これまた整然と床にならんでいます。
 床や、それぞれの筐体にうつる微妙な影の変化などをたのしめる人であれば、興味ふかく鑑賞できると思います。ただし、影のできぐあいなどは、今回のような室内のギャラリーよりも、昨年の開催場所だったギャラリー門馬のほうが、外光がさしこんでおもしろみがあったといえるでしょう。

 SWING=同
 「異なる視点で写し撮る表現。互いの感性が交錯し振れていく。」と副題にあるとおり、となりの部屋で個展をひらいている中橋修さんが、絵画の菅原美穂子さん、木彫と写真を組み合わせたユニークな活動で知られる山本祐歳さんと組んでひらいたグループ写真展です
 山本さんは、今回は、札幌市資料館の裏庭にある1本の木を、1年間にわたって追いつづけた結果を発表しています。プリントの大小など、見せかたをくふうしているのはさすがだと思いました。

 いずれも6日まで。

□NAKAHASHIサイト
■2003年9月の個展
■奏でる音と立体の響き−音楽家と美術作家のコラボレーション(2002年10月20日)
■2002年の個展
■2001年の個展


 黒田孝個展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階 地図A
 砲弾で地面などに穴がいくつもあいた光景を描いた「矢臼別」、瓦礫の破片が宙に浮かぶシュルレアリスティックな「BLOCK」、尖端のまるいきみょうな建物を描いた「MONUMENT」の3つのシリーズの油彩を中心に、木版画の小品が数点。
 どれも、ほとんどグリザイユといってかまわないほど、灰色だけで描かれており、寒々しさを強調しているようです。
 矢臼別とは、根室管内別海町などにまたがる、わが国でもっとも広い自衛隊の演習地です。砲撃の音が附近の酪農家で飼う牛の乳量に影響をあたえているとして、根強い反対運動がつづいています。
 でこぼこにされた灰色の土地からは、反戦のさけびがきこえてきそうな絵です。
 黒田さんは伊達在住。新道展会員。
 6日まで。

(以上6日昼執筆)



 4月2日(金)

 梅田美智子作品展(第7回)=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階 地図B
 「カドミュウム・レッドに魅せられて…」という副題のとおり、濃い赤の花の絵を中心とした絵画個展。
 花の静物画は、リアルなタッチのものか、さもなければ三岸節子調のものが多くなりがちですが、梅田さんの場合は、いろいろな花を盛った花瓶の場合でも、赤と白以外の花は彩度を落として、赤が目立つようにしているので、はなやかさと落ち着きが同居しています。
 ただ、個人的には、わずか2点の風景画「彼方」「白い道」が気になりました。ほとんど抽象といってもよいくらい、具体的なモティーフの描かれていない絵なのですが、そのぶん広漠とした空気感がただよっています。

 堤幸子ステンドグラス展=同
 一般的なあかりや、絵の作品もありましたが、おもしろかったのは、茶の湯のコーナー。茶道具がすべてステンドグラスでできていて、和洋のユニークな折衷になっていました。
 また、家型のランプは、インテリアとしてもたのしそうです。窓際にちいさな造花を置いてあるところが、心憎い配慮です。

 いずれも4日まで。


 「美術館の日程」に、木田金次郎美術館、札幌彫刻美術館などを追加した。各館のみなさま、情報提供ありがとうございます。
 釧路の2館、旭川、小樽などが、まだ情報を入手できていない。

 春は人事の季節。
 芸術の森美術館の笹野館長と、道立近代美術館の鈴木学芸副館長が退任される。
 1日の北海道新聞によると、学芸副館長には佐藤友哉学芸部長が昇進し、部長には、帯広の副館長の浅川泰さんがもどってくる。さらに、帯広の学芸課長の寺嶋弘道さんも、近代美術館の学芸第三課(新設)の課長として札幌に帰ってくる。デメーテル学校がどうなるのか、ちょっと気になる。なお、第三課の主任に、久米さんがなるそうです。
 函館の穂積利明さんが三岸美術館に異動し、函館にはキンビの大下さんが赴任。三岸の主任学芸員だった苫名真さんは帯広に移る。
 考えてみたら、都道府県立の美術館学芸員が転勤するのって、北海道ぐらいかもしれないな。


 4月1日(木)

 佐藤武銅版画展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A
 実力派の画家の佐藤さん。インドなどに材を得た、夢幻的な絵は、悠久の時間の流れを宿しているかのようです。
 そのリアルな筆致からは想像できないのですが、アクリル画はまったくの独学。それと同様、銅版画(今回はエッチングとアクアチント)も独学で、試行錯誤しながらつくってきたのだそうです。しかし、画面を見るかぎりでは、淡い色彩は美しいの一言で、独学とはしんじられません。
 大作のような、建物が崩壊する瞬間を描いた作品はさすがにありませんが、縦長の構図で塔などを描いた「楼上」「星降る夜」、時間のイメージがふくらむ「刻」「ピラミッドのある風景」、空の色合いの微妙さがなんともいえない「春宵」「夕景」など、佐藤さんらしい世界がひろがっています。
 札幌在住。無所属ですが、毎年ひらかれる「具象の新世紀」などには出品しています。

 三者三様展=同
 札幌大谷短大を卒業した仲間で、昨年道展に入選した中井亜美さん、笹森衣里さん、田中慶子さんの三人展です。
 22歳という若手ですが、それぞれ個性が発揮されたユニークな世界を展開しています。
 田中さんの「かたまる」は、裸の男たちが塔を必死でのぼっていくさまを、モノクロで描いた作品で、昨年の道展でもかなりのインパクトがあった絵でしたから、覚えておいでの方も多いと思います。
 今回出品の「振って湧いて」がユニークなのは、中央を左右に貫通する棒にしがみついている男たちを、やはりモノクロで描いた絵の横に、真っ白い画面のレリーフ状の作品をならべたことです。
 まんなかの棒は、紙の筒をつかっているそうです。左の黒は絵画、右の白は反立体。絵画とはなにかを問う、興味深い作品だと思います。

 中井さんは抽象画です。
 アクリル絵の具の飛沫が画面にちらばる、フレッシュで力強い作品です。
 「風塵」「銀河」「熱」などと名づけられた作品は、ジャクソン・ポロックを思い出させますが、ポロックが「オールオーバー」な画面をつくっていたのに対し、中井さんの絵は、色彩の構成がわりと明確なところが特徴です。
 「無限」は、レモンイエローと赤のせめぎあいが、画面にここちよい緊張感をうんでいます。

 笹森さんはシュルレアリスムふうの絵を描きますが、その想像力のゆたかさは、昨秋の道展よりも花開いているようにおもえます。
 右の「ミルクの河」にしても、裸婦から枝がはえていますし、「渚」は、上半身だけの巨大な人物がふたり波打ち際にあらわれ、しかもその二人はひものようなものでつながっている、砂浜の女の子は逃げ惑っているという、きみょうな絵でした。

田中慶子「降って湧いて」



中井亜美「無限」



笹森衣里「ミルクの河」

 グループK展(絵画)=同
 全道展に入選している人たちが中心の絵画展。
 秋元智恵子、奥井登代、木村照子、小松倉子、関川英紀、田湯裕子、棚瀬泰子、富岡澄恵、永井洋子、広瀬有良子、宝示戸美世、水島征子、武藤悦子の13氏が、大作を1点ずつ出品しています。
 顔がはっきりと見えない人物を主軸に、風景などとくみあわせて構成した、全道展に多いパターンの絵がめだちます。
 田湯さん「惑」は、中央の親子らしき人物の背後に、青い星条旗がはためいています。
 秋元さん「汐風」は、人物をいれず建物だけで構成。小樽のようにも見える坂のある町で、手前にある黄色い重機がおもしろい味を出しています。
 武藤さん「三月」は、縦のストロークで、画面に統一感を出しています。

 岩佐淑子・中野明美水彩二人展=同
 岩佐さんは石狩在住の新道展会員。札幌大谷短大卒の中野さんは現在、茨城在住で、以前「みずゑ展」というグループ展の仲間でした。
 ふたりとも、デッサンが3枚と、水彩が12枚ほど。中野さんはパステルもあります。
 岩佐さんの「憂」は、夜の浜辺とおぼしき場所に裸婦4人を配した、幻想的な絵。昨年の新道展出品作です。リアルなタッチですが、あたりの鉛筆が透けて見えるほどのうす塗り。これはこれで、微妙な効果をあげていると思います。
 「佇」は、後ろ向きの裸婦がひとり月を見上げているという絵で、足元にころがっている貝殻が、やはり夢幻的な雰囲気をつよめています。
 中野さんの「風景」は、余計な要素をそぎ落とし、色数もおさえた作品で、カラーなのですが上質のモノクロ写真のような、おちついた気配があります。

 小倉宗個展=同
 ちょっと漫画的な人物と動物を描いた24点。
 表情などは明快で、色彩はあかるく、とにかく派手です。
 近づいてみると、マティエールの違いで表現しわけるなど、描写にもこまかい神経がいきとどいています。

 いずれも3日まで。


 小出雅敏写真展 Heart of Alaska=キヤノンサロン(北区北7西1、SE山京ビル 地図A)
 題の通り、アラスカの雄大な自然をとらえた写真展。
 熊の群れや、残照のマッキンリーなどが印象にのこります。
 ただ、この分野では、星野道夫という偉大な先達がおり、ちがいをうちだすのは、なかなかむつかしいかもしれません。
 2日まで。


 カルチュレ2004展ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル 地図A
 八木野蓉子、森田芳子、細見久子、加賀谷智子、栗城陽子の5氏による油彩展。
 ひとり3−5点を出品しています。
 栗城さん「丘のイメージ」が目を引きました。
 ほんらいなら奥行き感のある風景ですが、作者はあえて奥行きのイリュージョンを排し、緑や白の諧調を軸に、平面的な画面をくみたてています。それでも、風景に見えてしまうというおもしろさ。
 加賀谷さんの「丘」なども、パッチワークのようで、遠近法的な奥行き感はありません。こちらはマティエールが、画面をつくっています。
 一方、八木野さん「月と樹」は、青で塗られた太い幹と、黄色系の月光が、味のある対照を見せています。
 4日まで。

 同会場では、「通路」展もひらかれています。
 おそらく知的障碍のある作家のドローイングが十数点飾られています。


 3月31日(水)

 28−30日のつづき。
 まだ会期がある展覧会が多いので、ファイルをあたらしくしました。

 外山欽平油絵個展 グロードさんの偉業を称えて=作品Gシリーズ=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A
 外山武男「G」シリーズの1点外山さんは、函館在住の画家としてはめずらしく、毎年札幌で個展をひらき、さらに「北海道抽象派作家協会」にも出品をしています。
 函館は、札幌よりも古い文化を誇り、また距離が遠いこともあって、函館や東京だけで展覧会をひらき、札幌のことはあまり気にしていない人も、少なくないようなのです。
 さて、今回の副題に出てくる「グロードさん」とは、函館のカトリックの神父フィリップ・グロードさんのこと。
 高齢者福祉に尽くす一方で、毎年夏に五稜郭でおこなわれている「野外劇」を提唱するなど、函館を愛する文化人でもありますが、外山さんによると現在は病床にあるとのこと。
 外山さんは野外劇の舞台裏で中心的な役割を担ってきた人ですから、快癒のきもちをこめての個展なのでしょう。
 さて、「G」は、「グロード」の頭文字ですが、外山さんは毎年アルファベットをひとつ決めて、それをもとに抽象画を描いています。
 絵といえば具象しか思い浮かばない人にとっては
「いったいこの人はなにをやっているんだろう」
と思うかもしれませんが、20世紀なかば以降の前衛絵画がほとんどノンフィギュラティブ(非対象)になってしまった以上、極端な話「なにを描いているか」というのはどうでもいいことなんですね。
 天国のポロックにむかって
「おまえのかいているのは、水しぶきなのか、なにかの模様なのか」
などと問うても、まったく意味がありません。また、ピカソの「ゲルニカ」が偉大なのは、反戦の絵画だからではないのです(その要素がまったく無関係だとはいいませんが)。
 外山さんの絵も、色とかたちを見るべきなんだと思います。
 シリーズを始めたころは比較的少なかった色数もすこしずつ増えてきました。
 今回の特徴は、昨年までほとんど登場しなかったオレンジがあちこちで用いられていることと、一部の絵で、縦横に走るレモンイエローの細い線が、山吹色っぽい黄色に代わっていたこと。さらに、その線がところどころで太くなっていることです。
 上の絵など、青のバリエーションが多いのも特徴といえそうです。
 直線がほとんどなく、自由な曲線と色面だけによる世界の追求は、まだまだつづきそうです。

■03年の個展(画像あり)
■02年の個展
■01年の個展

 3日まで。
 同ギャラリーの他の展覧会はあす報告します。


 赤穴宏作品集 刊行記念展=エルエテギャラリースペース(中央区南1西24、リードビル2階 地図D
 根室出身で、わが国洋画壇の重鎮、あかなさん。02年にひらかれた釧路芸術館での回顧展の感動も記憶にあたらしいところです。
 エルエテでの赤穴さんの個展は2回目。前回よりもややサイズの大きな作品もそろえました。
 基本は静物画なのですが、やや大きめの絵には背後の空間に、赤穴さんが50−60年代にもっぱらとりくんでいた抽象画のモティーフなどがあらわれ、いわば静物画と抽象画が混在している絵になっています。
 ものとものが存在し、たがいに響きあい、空間をかたちづくる。そのきびしさだけでなく、抽象画の要素が入ってくることで、存在の背後によこたわる或る種の矛盾を示唆しているといえないこともないでしょう。
 背筋の伸びた、きもちのよい絵だと思います。
 近作のほか、74年ごろの「くじゃくの羽と貝」なども。
 18日まで。月曜休み。
 ■赤穴宏展

 5月20−26日、大阪・梅田の阪急百貨店に、6月9−14日に愛知県豊田市のギャラリー松下に、秋に東京・渋谷の東急百貨店本店に巡回。


 加藤宏子彫刻展=ギャラリーミヤシタ(中央区南5西20 地図D
 加藤宏子展の会場風景昨年に続く個展。
 作風は一変しました。案内状の写真とはまったくちがいます。
 石という素材にはかわりありませんが、直線がまったくなくなって、丸っこい、かわいらしいかたちになりました。
 「なんにも考えなくても、どんどんつくれちゃう。そこがかえって不満で、これまであまりつくっていなかった」
というフォルム。
 しかし、裏を返せば、ストレスのないというか、むりがなく、すごく自然に存在しているかたちだともいえます。
 そういう自然さをあえて排してきたという加藤さんの問題意識はすごいなあと思いましたが、今回のは、すなおな気持ちでナデナデしたくなるかたちで、これはこれでいいと思いました。
 計9点。道展会友、札幌在住。
 11日まで。月曜休み。

■北海道立体表現展(03年秋)
■03年4月の個展(画像あり)
■02→03展(02年12月)
■リレーション夕張(02年8月)
■サッポロ未来展(02年3月)

 Third-ex 学生合同写真展札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階 地図G
 大学の枠を超えた写真展として一昨年はじまった展覧会「ex」も3回目。参加校と人数は増える一方で、盛況なのはよいのですが、ひとりあたりの点数が減ってしまうのは、痛しかゆしといったところでしょうか。
 また、全体では、モノクロがカラーを圧倒しているのも札幌らしい現象かもしれません。
 印象にのこった人を挙げておきますと、まず足立成亮さん(北星学園大)。「冬の未完成」と題した3点組をはじめ、雪景色がしっかりととらえられています。静穏さをたたえたプリントと、ドラマチックに仕上がったものとがあるのがおもしろい。
 大谷剛矢さん(札幌学院大)は、女の子をモデルにした組写真ですが、左半分の数枚が、白いガウン姿なのに対し、右半分は、ガウンにも背後の壁にも大量のインク(?)がぶちまけられ、鮮烈な対照を見せています。
 小山瞬さん(北大)は、旅情を感じさせる4点。2枚目の「線路沿いの小径」も、駅そのものより、その脇に視点をあてているのがおもしろい。でも、なんで光珠内駅(美唄市)に「オホーツク」が止まってるんでしょう。つぎの「海のある町」も、題とはうらはらに海がうつっていないところがニクイ。これは小樽市蘭島ですね。  
 先日個展を終えたばかりの北大(大学院に進学しました)の齊藤市輔さんと原田玄輝さんは、高水準の作品を出しています。齊藤さんの「ハナ」は、みょうになまなましさがあります。
 五味ともえさん(道浅井学園大)は、かっちりまとまったセミヌード。
 奥村聡子さん(北星学園大)「雨の日」は、どことなく心がなごみます。
 大川聡史さん(札医大)は「自分、仲間。」は、真剣に人物に向き合っています。
 カラーでもおもしろい作品がありました。渡邉晉さん(札幌学院大)「サイコ vol.1」は、花に、さらに色をくわえた組写真。デジタルの色のどぎつさをさらに強調し、ユニークな世界をつくっています。
 加藤美奈さん(北海学園大2部)は、デジタル。ともすればエッジと色あいが強調されすぎるデジタルですが、彼女の作品は、おだやかに仕上がっています。雪の上に白い和服を着た女性を配しても、色とびなどがありません。祖父母らしき人と並んで撮った写真も、ちょうどよいボケ味で、人物の表情もいいです。
 ほかの出品者はつぎのとおり(敬称略)。
 武田K:北星学園大
 篠原正寛、笹本知宏、西村巧:札大
 吉田菜緒、岩淺恵果、勝又聖乃、辻澤里美:北大
 松原悠、小室久子、大井葉摘、本間あや:札幌医大
 岡村修一、山本早奈恵:札幌学院大
 加藤美奈、大野涼、新保恭子、川上菜々子:道教大
 瀬戸亜由美、工藤涼子:道浅井学園大
 五十嵐翔太:北海学園大2部
 青柳みのり、金森昌子、福島あゆみ:ごめんなさい大学名メモし忘れ

 4日まで。


 春展 #1Gallery ART-MAN(中央区南4東4 地図G)
「春展」の会場風景 息の長い現代美術グループ「存在派」を札幌で主宰する金子辰哉さんが中心となって始めたグループ展。
 金子さんがオブジェなど、最上愼一さんと本庄友美さんが写真を、BANさんと糸井崇史さんが絵画を出品しています。
 最上さんはモノクロ9点。風景などをとらえていますが、ビルの解体現場だったり、どこかさびしげ。
 札幌最大の繁華街、4丁目交差点をうつした1枚は、長時間露光によって歩く人の姿を消していますが、信号待ちでとまっている車は露光されており、ふしぎな雰囲気です。
 3日まで。

 ■最上さんの二人展(2001年2月)


 〜緑の風にさそわれて〜松井玲子の世界ギャラリー喫茶 パレ ロワイヤル(豊平区月寒中央通9)
 清田区の平岡公園をはじめ、シュヴァーヴィングの森、恵庭公園、野幌森林公園などでとらえた草や花の写真33点。すべてカラーです。
 いっぱいまで絞り込んでわずかにハイキー気味に撮るのは、写真グループ「フォトファン」に特有の技法。植物図鑑よりも心象風景のような、さわやか系の写真に仕上がります。
 会場の奥にあった6枚組はあえてそういう技法をつかわず、すなおに撮っていました。
 3日まで。

 春らんまんの妖精展サガティック(中央区北1東4、サッポロファクトリー1条館3階、北ガスショールーム 地図G)
 かわいらしい妖精が登場するイラストを色鉛筆で描き、活発に発表を続けているAtsukoさんの個展。
 春、といえば桜やラベンダーで、会場中央を飾る絵にはピンク系の色が目立ちます。
 外はまだ雪がちらついているのに、ここだけは春満開で、妖精もピンクの中にかくれているようです。
 もちろん、ポストカードなどもたくさん即売しています。
 4日まで。

 □Atsukoさんのサイト