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あーとだいありー 2004年3月後半

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 3月28日(日)・29日(月)

 まずは、30日で終了する展覧会について。

 齊藤市輔写真展・原田玄輝写真展アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル 地図
 齊藤市輔写真展の会場風景北大写真部の中心メンバーとして活躍してきた齊藤さんと、原田玄輝さんが、卒業を記念して、個展をひらいています。
 部の展覧会やグループ展では精力的に発表してきましたが、個展ははじめて。ふたりとも、すべてモノクロの、完成度の高い作品をならべ、4年間をふりかえっています。

 齊藤さんは、得意とする夜景が多いです。「夜 2002−2004」はこれまでの集大成ともよべる21枚で、冬の札幌が中心。街灯の下のあかるみで見える、降る雪が、きびしい孤愁とでもいうべき感情をたたえています。客待ちのタクシーの列や工事現場の入口さえも、やさしく、どこかあたたかみのある風景になってしまうのは、齊藤さんならではです。
 また、2月の「Sスクール写真展」で発表した、中判カメラによる「夜」の連作もあります。
 齊藤市輔「untitled」の1点筆者がいちばんすきなのは、「untitled」という題(?)でくくられた15枚です。
 丸いテーブルの上に、白いマグカップと小さな花瓶と水の入ったコップを配した写真は、まるでできの良い静物画のように、物が存在することの不可思議と神秘にふれて、静寂の音楽を発しているかのようです。
 ほかには、北欧の街角や小樽の坂道などが被写体になっていますが、どれも観光写真とはほどとおく、作者の個性によって統一感のある連作になっています。いずれにも共通するのは、無人であることと、ひそやかなさびしさをたたえていることだと思います。

 キャプションのすくない齊藤さんにくらべ、原田さんはわりとマメに、撮影年月をしるしています。
 それによると、わりあい初期の2001、02年の写真には、ロボットのような人形に空き缶を持たせてみたり、石山緑地などの風景の中に人間を立たせてみたり、作為のある(べつにこれはわるいことではないのですが)ものが多く、意外な感じがしました。
 原田玄輝写真展の会場。左は「卵」の連作また、02年ごろにとりくんでいた、卵の連作からも3点ならんでいます。余計な要素をいっさいそぎおとした、ミニマルなうつくしさを極めた写真でした。
 しかし、やはり彼の真骨頂といいたくなるのは、風景写真にあるような気がします。
 2002年1月の北大理学部は、新雪をかぶった木々の中でひっそりとたたずんでいますし、01年11月の前田森林公園は、水盤や、星々の光跡が、日本離れした非現実的な光景となっています。
 「03年5月 小樽」は、いったい小樽のどこで撮ったのでしょうか。夕闇の中で、ちいさなハロウをかかえて光る街灯群は、息をのむうつくしさです。
 北大3年の宮本朋美さんが「友情出品」しています。

■Sスクール写真展(04年2月)
■北大の情景−北大写真部展(03年11月)
■北大写真部展(03年9月)
■北大写真部・水産学部写真部合同展(03年5月)
■学生三月4人展(03年3月)
■加藤、齊藤、原田3人展(02年11月)
■写真展EX(02年4月)


 少女あります2004・24・ひとみ★まさこ=同
 昨年に続く二人展ですが、昨年と同様、どちらが「ひとみ」さんで、どちらが「まさこ」さんなのか、わかりません。
 ひとりは、少女のイラストを5点、もうひとりは大小のモノクロ写真を大量にならべています。
 写真は、身の回りの風景に心象を託していて、よくあるタイプの作品と言えないこともないですが、けっこういい感じだと思います。
 ただ、その周囲に、詩みたいなことばを書いた紙がたくさん貼ってあるのは、どんなもんでしょう。
 孤独感、焦燥感のようなものは、写真からだけでもじゅうぶんつたわってくると思うんですが。


 谷地元麗子 ねこまつりオリジナル画廊(中央区南2西26 地図D
 高校生のころから道展に入選してきた谷地元さんですが、これまた意外にも初の個展です。
 彼女が猫好きだということで、作品の大半は、北海道教育大学札幌校日本画展サッポロ未来展でも発表した「猫百態」(120号、130号、120号という超大作)をはじめ、猫を題材にしています。
 猫と裸婦というモティーフは、加山又造や藤田嗣治も描いており、以前からやってみたかったのだそうです。
 この絵が−というより彼女の絵が−、いかに「日本画であること」に自覚的であるかは、以前書きました。平面性(奥行きと陰影の欠如)、装飾性は徹底しています。たとえば、画面にちらばる毬にはまったく暗い部分がありません。それでいて、猫の毛並みなどの細密描写は徹底しています。すごいものだと思います。
 谷地元さんご本人は毎日、着物姿で画廊に来ているそうです。

 ■にかわ絵展(2001年1月)
 ■道教大七月展(01年7月)
 ■道展(01年10月)
 ■道展(02年)
 ■にかわ絵展(03年1月)
 ■オリジナル大賞展(03年11月。5日の項)
 ■北海道教育大学札幌校日本画展(04年3月)


 橘井裕彫刻展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階 地図A
 廃品や鉄をつかって、ユーモアと、ときにはメッセージをこめた作品をつくる札幌の彫刻家。
 会場のいちばん奥にでんとかまえた「平和の壁」と、その手前の床に置かれたカブトガニのような9個の「ぞろぞろ」が目を引きます。
 作者はもともと、トキをつくるつもりだったそうです。なるほど、とさかにあたる部分が朱色なわけです。
 筆者には、平和の壁の前で右往左往する人々(日本人)の寓意のようにも見えました。
 会場の手前には「石山の案山子」「東山」「最後の一羽」など、小品が12点。
 これまで使っていた黒い台をやめて、背の低い灰色の台にして、彫刻よりめだつことのないようにしています。
 「石山の標本箱」は、灰色に塗ったメロンの段ボール箱を台座代わりにつかっています。上部は、蝶のようなかたちが目を引く、たのしい作品でした。
 橘井さんは全道展会員。

 小澤年博作陶展=同
 胆振管内虻田町の陶芸家。
 大半がうつわで、値段はかなり安いほうだと思います。
 いちばん多いのは、白樺灰のかかった焼き締めの花器など。いわゆる備前よりも、色調がどことなくやわらかいような気がします。
 ほかにも、黒釉、そば釉、黒織部など、さまざまな食器類がならんでいます。


 伝展 hito kara hito heShiRdi(中央区南6西23) 地図D
 長谷川傳さんの個展も「傳展」(「傳」は「伝」の旧字)を名乗っていますが、関係ないようです。
 いちばん目を引くのが、「10×10」と題したドローイングの連作。題名よりも多い、187枚のドローイングが、すべて10センチ四方の紙に書かれています。来場者には、1枚持ち帰って、台紙があいたところにメッセージを書き残していくようもとめています。
 ドローイングは、抽象画やリアルな筆致の動物、舌のからまった2匹のカエルなど漫画的なものまで、バラエティーに富んでいます。
 筆者は、針葉樹林の絵を持ち帰ったのですが、家に着いてからよく見ると、人が枝からぶら下がっているのでした。ひええ、不吉だ。
 コミュニケーションアートの一種ということができるでしょう。
 ほかに、コラージュ、油彩など。
 □展覧会のサイト

 以上、30日限り。

 
 3月27日(土)

 28日で終了の展覧会をいそいで見てまわるものの、見残し多数発生。

 「大地康雄の油絵」展=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階) 地図
 大地康雄さん「郷愁」。屏風型キャンバスが特徴2001年に独立美術の会員に推挙され、ますます画業にみがきがかかっている札幌の大地(おおち)さん。
 「会員になる前は課題曲をやらされてた感じだけど、いまは自由にやってやるし、自由に料理してくれっていう気分」
と言います。
 昨年までは、裸婦が饗宴するさまを「人間模様」シリーズと題して描いてきましたが、今回の個展からは、屏風型のキャンバスと、画面の白い裸婦はそのままに、周囲が道内の風景になっています。
 たとえば、右の作品では、女性の頭の右上にさっぽろテレビ塔が見えるのですが、お気づきでしょうか。
 風景を描いてみては−という勧めがあったそうなのですが、
「自己模倣ばかりやっているわけにもいかないし。またこのテーマでしばらくいきます」
と本人は意気軒昂です。
 色彩は以前にもましてまばゆくなりました。
 これは、輪郭線が朱色になったことも一因でしょう。屏風のふちも朱色です。
 輪郭のなかは、朱や緑、黄色などがフラットに塗られ、陰影は排除されています。
 白が主調となっている女性のなかにもさまざまな色がはいりこみ、地との一体化がすすんでいます。
 大地さんは
「風景にしたことで、背景がやりやすくなった」
といいます。
 つぎの画像は、横長の支持体を、谷折りにした「都市化社会」「望郷」ですが、これら大地康雄さん「都市化社会」「望郷」(左から)の作品では、羊蹄山や函館の風景が自由に描かれています。
 「じぶんは、人物や風景でもって、色面を描いている」
と話す大地さんですが、ここにきて風景が出てきたのは、じぶんのなかにあるノスタルジーがあたまをもたげてきたという面もあるといいます。
 小品は、人物が登場しない風景画ばかりですが、札幌のポプラ並木や函館、小樽などとならんで、故郷の岩内(後志管内)を描いた絵が何点かあるのも、郷愁のあらわれかもしれません。
 筆者の目には、女性たちよりも風景のほうが、作者自身というか、作者の思いが投影されているような気がします。ちょうど、セザンヌの裸婦が、題材として割り切られているのに対し、サントビクトワール山には思い入れがあるように見えるように。
 そうはいっても、作者の一番のねらいはあくまで色面のくみたてにあり、ウェットな要素はまじっていません。
 ただし、、なにぶんにも初年度です。
「この次からは人物の体もバランスに応じて変形させていくかも」
との言葉どおり、画風が変わっていくような予感があります。
 なお、「郷愁」「望郷」の2点ある大作は、ことしの独立展と全道展に出品する予定とのことで、今後も加筆があるようです。

 半立体(二曲一双)の作品はほかに
「都市化社会」(同題2点)「人間賛歌」「望郷」
 小品は
「モニュメント」「羊蹄山」「道東夕映え」「手宮公園」「青巌峡」(10F)
「懐古岩内」「手稲連峰」「中島公園」「函館山」(8F)
「ポプラ並木」(6F)
「積丹」「大通り」「孤愁」「岩内遠望」(4F)
「待春」「積丹」(サムホール)

■03年6月の個展
■02年8月の個展
■01年8月の個展(画像あり) 


 藤女子大学写真部写真展札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階 地図G)
 すべてモノクロ。もともと、プリントのうまさには定評のあった藤女子大写真部ですが、今回の展覧会では、さらにみがきがかかりました。学生の写真としては、札幌圏ではダントツの水準に達しています。
 ただし、完成度はきわめて高い反面、撮った人の思いやせつなさがあふれでているといった調子の写真ではないので、好ききらいという点ではわかれるかもしれません。筆者としては、うまい焼きを見せられ、すなおに脱帽というのが正直なところです。
 北川恵世さん「PRIDE」は、女性ふたりをモデルにしたシリーズで、真剣な表情や笑顔がならんでいます。いきつけのヘアスタジオを題材にした連作も、黒はあくまで黒いのにつぶれてなく、白も白いのにとんでおらず、金属の光沢もみごとに表現され、美容師さんの表情もよく撮れていて、完成度が高いと思います。
 伊藤恵さんは、砂浜を撮った一連の作品にひかれました。ひくい視線で、粒子の粗い砂の上に足跡がつづくようすは、いちまつのさびしさをただよわせています。
 岡島貴衣さん「ぶらり散歩」は、野球場の小さなスコアボードや、列車の走っていないレールや架線など、視点がおもしろい。長屋は函館じゃないかと思うんですけど、だとしたら、わざわざ函館に行ってこんな被写体をえらぶのはすごい。
 湯山美里さんの、夜のススキノを撮ったプリントを隙間なくならべた写真は、すべて被写体がななめになっていることもあって、ほかの部員とはちがった躍動感があります。もっとも、すべて手ぶれなどなくかんぺきなプリントになっているのはさすが。三脚をきちんと立てているんだろうな。
 生田紗苗さん、真鍋心さん、大瀧恵さんも、完成度の高い作品です。ただし真鍋さんは1点だけです。紅露さんは、部員の集合写真だけのようです。

■大川紅世の心展
■北側恵世写真展(03年12月)
■加藤・紅露写真展(03年10月)
■紅露亜希子写真展(03年9月)
■昨年の藤女子大写真部展(画像あり)


 STEP2004=さっぽろテレビ塔2階ホール(中央区大通西1 地図
STEPの会場 学生による学生のための、はじめての大がかりなアートイベント。
 90×90センチ(高さは170センチ)のブースのなかに、絵画、写真、建築、衣裳、本、立体などがところせましとならび、おまつりのような雰囲気です。
 実行委員がせっせと宣伝につとめたこともあって、ふだんはギャラリーに来ないような学生やおじさんもおおぜい来ていました。
 4丁目交差点のメガビジョンでもこの1週間、3種類のスポットを流していたというのですからびっくりです(会場でもながれています)。
 ブースは61。札幌市立高専、道都大(北広島)、北海道東海大(旭川)、道教大、北大、北海道造形デザイン専門学校、文化服飾専門学校、千歳科学技術大、北星学園大、札幌国際大、北海道浅井学園大(江別)、札大、ヒューマンアカデミー、札幌デザイナー学院、道工大、北海学園大、酪農学園大、ベルエポック美容専門学校−と、学校もさまざまで、こうしてみると、美術を学校でならっていないけどなにかを表現してみたいという学生も少なくないのが目に付きます。
 また、ソーラーカーについてのパネルなどもありました。
 端っこでたくさん作品をならべていたのが、おなじみ道都大の中島ゼミ有志。ミカミイズミさんの漫画「ワラビモ」や、森迫暁夫さんの染色など。
「ほんとは天井から吊れば(染色は)迫力があるんですけどここはカーテンレールがないので」
 その向かいに写真のファイルを置いていた中川晋吉さん(北大)。モノクロで、高感度フィルムで冬の夜景を撮っているようで、荒れ気味の粒子のなかにうかぶ白い道路と車の跡などが、いい味を出していました。
 浅井学園大の「ART GROUP D.O.」も、絵画と、石膏の手を組み合わせるなど、たのしい作品を出しています。
 奈良知佳さん(札幌市立高専)は、ベニヤ板にペンキをぶちまけ、写真をコラージュしています。
 阿部安伸さん(道教大)は、波型の支持体に格子状の模様を描いた、一風変わった絵(?)です。

 ほかに、全体企画として、来場者の写真を撮り、テレビ塔の窓に貼って「STEP」という文字をつくろう! というものなどがありました。

 最終日28日は午後4時まで。1時から4時半まで、1階広場でダンスやヘアメイクショー、マジックなどのパフォーマンスもあります。
 実行委員長の高橋可奈さん(札幌出身、早大3年)と実行委員の猪熊梨絵さん(札幌市立高専4年)は
「案外こういう場って求められているのかなという感じがしました。ほかの出品者や、一般の来場者とつながりができるのがいいみたいです」。
 つぎのSTEPは、猪熊さんが中心となって9月か10月にも開催の予定。高橋さんは?
 「わたしは、女性だけのSTEPをやってみようかな」
 次のステップを見据えているんですね。
 見にいけなかった人は、公式サイトに作品写真がアップされるので、ごらんください。
 □STEP2004


 すごい分量になってきたなあ。

 無名異焼 玉堂窯・細野利夫作陶展=工芸ギャラリー愛海詩(えみし=中央区北1西28 地図D)
 佐渡島の佐和田町で玉堂窯をひらいている細野さんの、道内ではたぶんはじめての個展。
 無名異焼とは、金山のある佐渡で取れる、酸化鉄のまじった土で焼いたもの。しかも、ふるいにかけた土は微粒子のために、焼くと30%も収縮するそうです。
 そういう特別の土をつかっているせいか、色彩のうつくしさには目を見張るものがあります。土味とか景色とかよりも、純粋な色彩の美といえるでしょう。
 「碧彩花瓶B」は、沈んだ緑色に、茶色を帯びた灰色の縞が入っているのがなんともおちついたうつくしさ。
 「抹茶茶碗」は、瑠璃色と緑がまじりあっています。
 「窯変赤錆花瓶」はまるいフォルムに、火の跡がきれいについています。
 とおいあこがれのような微妙な色調に、しばし時のたつのをわすれそうになりました。


 竹津昇スケッチ展=ギャラリーユリイカ(中央区南3西1、和田ビル2階 地図)
 年末からことし初めにかけおよそ3週間、スペインのいなかをスケッチ旅行してきた竹津さんの個展。毎年のように海外をひとり旅している竹津さん、うらやましいというか、すごい行動力というか…。あるいは、理解のあるご家族というか。
「いや、もうあきらめているんです」
 水彩作品はすべて現地で描いたもの。紙の束と水彩道具はかさばらないので大丈夫とのこと。筆数はさすがに多くありませんが丁寧で確実なタッチは、現地だけで描いたとは思いませんでした。
 作品と旅行記はすべて竹津さんのサイトで見られます。
 □水彩の旅(MADRID FREE TIME)

 北海道教育大学札幌校美術科一年生展「テハジメ」札幌市資料館(中央区大通西13、地図C
 まだ1年生なので、この時点で優劣がどうのこうのいってもしかたないのかもしれません。
 板本伸雄さん「幻殻」。三角屋根の家のようなかたちを、松脂で覆ったもの。どことなくなつかしい、心のあたたまる立体。
 長嶺智美さん「火の子ランプ」。クルミ、カツラ、センの3種の木をつかった、かわいらしいあかり。
 内田彩さん「 」。こういう題です。油彩のF100号。裸婦の上から白い絵の具をかけて、微妙な心の揺れを感じさせます。
 土田拓磨さん「披露死魔」「那餓裂鬼」。すごい題名だな。どちらもきのこ雲のようなかたちを描いていますが、前者は日本画、後者は油彩です。うまくいえないけど、パンクロックだと思う(ぜんぜんうまく言ってないすね)。

 インテリア書道展=同
 いろんな習い事があるなあ。
 でも、これは見ていておもしろかった。パッチワークといっしょに軸装したり、和紙とつるでつくったあかりに書いたり、陶器、クッションカバーなど、暮らしの中におしゃれに書を持ち込もうという心持が感じられて、ふつうの書展よりも身近な感じがしました。


 第26回 丹心会書展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階 地図)
 桑原翠邦の弟子だった島谷雅堂さんのグループ。毎年展覧会をひらいています。
 参考作品として、桑原と、幕末から大正にかけて活躍した中林梧竹の作品が陳列されています。中林のは、縦の運筆に自在な力強さがあります。
 リーフレットには漢字の少字数書が載っていますが、会場にあるのはほとんど漢字の臨書です。
 島谷さんは「澄」「有中」など3点。運筆の呼吸がつたわってくるような作品です。

 読売書法展の巨匠と道内出品作家による北海道秀作展「特別展」=札幌市民ギャラリー(中央区南2東6、地図G)
 筆者は毎年、村上三島(書家で文化勲章受章者)を見に行くために300円払っているようなものです。
 ことしも「私の感性がいつも微妙に動いているなら」ではじまる、味わい深い作品でした。調和体というべきなのでしょうが、技芸を誇示したり、ねらいを強調したりするところはまったくなく、といって枯淡の境地ともことなる、じつにすなおでのびやかな筆致なのです。
 道内の理事は、阿部和加子、田上小華、多田博英、八巻水鴎(へんは、はこがまえの中に口が三つ)の4氏で、この顔ぶれのためか、一般出品者もかなが大半を占め、北海道書道展などでは多数派の漢字作品がごく少ないという、めずらしい構成になっています。


 第29回岸本アトリエ画塾展=同
 何点あるのか受付の人に聞いても「100点以上」とだけしかわかりませんでしたが、すごい点数。1人1、2点ずつ水彩や油彩、パステルなどを出品しています。
 指導者の岸本裕躬さん(行動美術会員)は「深海魚」。イエローオーカー系の背景が目立ちます。
 喜寿の特陳を前にして亡くなった衣川勇喜さんの油彩「夏の北大構内」がおちついた色調です。
 吉田貞子さん「長流川萌ゆ」は、すごく淡い黄緑がきれいでした。

アーティスト・イン・レジデンス展の準備風景 3月26日(金)

 朝8時半集合で、夜の11時ころまで、道立近代美術館で「札幌アーティスト・イン・レジデンス展 国境を越えた美術の冒険」の展示準備作業。
 いよいよ27日開幕です。
 みなさん、ぜひいらしてください。
 筆者はじつは実行委員をやっています。
 アーティスト・イン・レジデンスとは、アーティストに滞在してもらってその土地で制作してもらおうというもので、世界的に盛んになっています。札幌でも1999年に始まり、年6人を国内外からうけいれてきました。
 「国際都市・札幌」の地道な取り組みが実感できると思います。
 3月25日(木)

 きのうのつづき。

 五輪窯 五十地裕之うつわ展=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1 地図A
 後志管内余市町に「五輪窯」をひらいているいそちさんの個展。
 案内状には、穴窯で焼いた花器の写真が出ていましたが、じっさいには、青白磁の清楚でシンプルなうつわが多かったです。青白磁って、見ているだけで、ミントティーをのんだみたいにすっとしますよね。
 穴窯の焼き締めは、食器などもありました。備前などとは土の色がぜんぜん違い、灰色で寡黙な感じです。土味の大胆さを強調しすぎることなく、おちついた印象でした。
 28日まで。

 高田稔個展=ギャラリーたぴお(中央区北2西2、道特会館 地図A
 少年が登場するたんねんなタッチの、心あたたまる絵を、毎年おなじ会場で発表している高田さんですが、ことしは新作は小品2点だけでした。
 そのうち「海の音」は、近年多い海辺の絵。昔風の顔立ちをした女性がこちらを見つめて立っています。腹の下には、小さな男の子が寄り添っています。青い空にかもめが1羽。
 4月3日まで。

 オープン記念特別展第11期 春からの新設講座道新ぎゃらりー(中央区北1西2、札幌時計台ビル地下 地図A
 昨秋からつづいてきた、道新文化センターの講師陣の作品を紹介する企画もこれでひと段落。
 あらためて、たくさんの講座があることを知りました。
 これは札幌だけで、道内はほかに11都市にもあるんですからねえ(と、ここで関連企業の宣伝)。
 今回は「かな書 雅びな世界」の滑志田方〓(くさかんむりに「必」。なめしだ・ほうひつ)さん、「アイヌ刺しゅう」の計良(けら)智子さん、「フルーツ・ベジタブルカービング」と「ソープカービング」の冨谷久子さん、「パーチメントクラフト」の大竹佳子さん、「古布を生かすさきおり」の大滝いづみさんの5人です。
 このうち「フルーツ…」は、タイでさかんなクラフトで、スイカやキュウリを花などのかたちに細工して食卓を彩るもの。「ソープ…」は、それとおなじ要領で、せっけんをナイフで細工してブーケなどのかたちにするもの。本物の花そっくりです。また「パーチメントクラフト」は、トレーシングペーパーにこまかい穴を開けるなどして、レース編みそっくりの白一色の絵をつくるというものです。
 いやー、いろんな講座があるんですね。こういうので、現代美術や抽象画をやってみるとおもしろいと思いました(無責任な発言)。


 
 3月23日(火)

 今週は、札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)で開催中の5つの展覧会から、すべて案内状が筆者のところにとどきました。
 これはめずらしいことです。
 このうち、NORD展については「展覧会の紹介」でくわしくかきます。


 第70回 衆樹会春展
 道内にも絵画グループはたくさんありますが、1961年結成の「札幌日曜画家サークル」を母体に73年旗揚げしたこの会は、かなり古参の部類に入ります。
 歴史の長さでは、戦前からつづく「方究会」がダントツですが、回数ではこの衆樹会がトップだと思われます。
 なにせ年4回ひらいている年がけっこうあるのです。88年以降はおおむね春と秋の年2回ペースにおちついています。
 穏当な写実の油彩が大半ですが、入会にとくに資格はなく、だれでも入れます。公募展に出している人もいれば、出していない人もいます。もちろん「●●教室展」と違うの「衆樹会展」の会場風景で、作風には個性があります。
 かつては、石塚春枝さん(道展会友)や上野仁奥さんもメンバーでした。
 61年当時からのただひとりのオリジナルメンバー村元惇さんは、原色をたっぷり用いた豪快な風景画。「ガウディの館」「ばら」のいずれも、とても80歳とは思えぬ、若々しさがいっぱいです。
 その村元さんを描いたのは、沖本慎介さん「創立会員M氏」で、この人の若々しさをつたえています。
 味のある風景画にとりくむ沖本さんが2点とも人物というのはめずらしいかもしれません。
 下田敏泰さんは「ケイマンの噴水」など、カリブ海のリゾート旅行に取材した3点。はー、うらやましい。
 沖本さんは「わたしたちは絵を描くから、風景を見ても女性を見ても美しいと思う。どこへ旅行してもなにも感じない人にくらべると、人生何倍も生きているような気がして、こういう趣味を持ったことでずいぶん得をしていると思います」と話しておられました。絵筆を執る生き方、いいですね。
 メンバーはほかに、安味真理、菅野寅吉、佐久間伸、佐藤悦實、堤博子、時川旬子、福岡良子、藤田敏次、松本美智子、横山和代の各氏。

 □沖本慎介さんのサイト


 吉川孝個展=同
 全道展で入選をかさねている若手の吉川さん。
 この会場では初の個展です。
吉川孝「翳ニ続ク雨」 昨年の全道展出品作「翳の記憶、夜の雨」に、さらに手を加えた作品のほか、大作、小品が4点ずつ。
 いずれも、紺色を基調とした暗い部屋で男女が絡み合っている絵です。吉川さんご本人は暗い人ではありませんが、絵は暗くて、目をこらさないと、なにが描かれているのかわかりません。人間のどろどろとした欲望や、思いが、暗がりの中でうごめているかのようです。
 右の写真は「翳ニ続ク雨」。病院にありそうなベッドが、空間のぶっきらぼうな性格をつよめているようです。
 ほかに大作は「翳ニ降ル雨(A)」「翳ニ降ル雨(B)」「翳ノ夜、記憶ノ海」。
 どの絵にも白いマウスが描かれているのが特徴。これは、実験用動物というよりも、人間たちの希望とみるのが合っているのかもしれません。
 全体的にはストロークがすばやく、動きのある絵になっているという印象を受けました。
 ご本人は「今回は小品で苦労した。もっとかっちりとした、ノイズミュージックのような絵をかきたい」と話していました。


 ’04 Group創展 \=同
 阿部みえ子さん(石狩)、近藤満子さん(小樽)、佐井秀子さん(胆振管内白老町)、酒元英子さん(空知管内栗沢町)、千葉富士枝さん(石狩)、本間良子さん(札幌)の6人の女性が毎年ひらいている、意欲的な絵画グループです。近藤さん以外は抽象画で、このあたりもめずらしいグループでしょう。
 阿部、佐井、酒元の3氏は新道展会員ですが、100号クラスの作品は少なく、30号ぐらいまでの小品が中心です。
 阿部さんは6点。正方形3つの画面からなる「創」など。「image」はピンクと紺のくみあわせがきれいです。
 佐井さんは「ノクターン」など4点。明滅する色の斑点がぼーっとうかびあがります。
 酒元さんは「情景」など5点。灰色の諧調のなかに、はっとするような黄色や青がつかわれています。
 千葉さんは「ドリーム」など4点。幾何学的な構成のなかにオレンジや緑がつかわれていますが、ゆるやかな感じです。
 本間さんは「風の記憶」のシリーズ4点。ピンクのかたまりがふわふわとうかんでいます。
 唯一の具象の近藤さんは「バラ」など3点。「雪の灯」は、ストライプからなる作品で、抽象にちかいものがあります。
■01年
■02年
■03年


 一の会デッサン展=同
 道新文化センターで裸婦デッサン、クロッキーをおしえている谷口一芳さん(春陽会会員、全道展会員)の教室展。
 講師の谷口さんが、長い紙にスケッチを書いているのは、さすがに線にむだがなく、かっちりしています。

 以上、27日まで。


 3月21日(日)

 23日未明に書いています。

 たちどまり、またあるき。 ウリュウ ユウキ写真展宮田屋珈琲店豊平店((豊平区平岸4の1)
 モノクロームで静謐な写真を撮る若手の人が札幌には多い−ということは、これまでもこのサイトで何度もとりあげてきましたが、またまた豊かな才能の登場です。
 以前企画していたカフェでの個展が、夜逃げのためお流れとなり、仕切りなおしての個展。80数点のモノクロ写真がならび、いい感じになりました。
 まず、どこかのオフィスで撮ったとおぼしき、人の影が長く伸びている写真に惹かれます。
 木の幹を見上げるように撮った1枚。函館の街かど。空。小樽。さびれた海水浴場…。
 しかし、どれも、どこかでみたような、既成の写真ではありません。
 そして、孤独の影を宿していながらも鬱々としておらず、作者がどこかで希望を信じていることが、つたわってくるような写真でもあります。
 23日まで。
 ちなみに、サイトはとてもセンスがいいです。

 □作者のサイト

 POSTCARD展〜All the students〜アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル 地図
 大谷短大の学生、澤田万理恵さん、谷田梨江さん、尾形彩香さんによる、学生だけの初のポストカード展。
 道内外28校から70人、2005点の応募がありました。
 写真は意外と少なく、多様なイラストレーションが多いです。文字だけのもあります。
 すべて販売しています。
 筆者は今村健朗さんの作品が気になりました。人間がジグソーパズルになって解体したり、家の壁から抜け殻のように吊り下がったり、不安なイラストを精緻に描いていました。
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 23日まで。


 第4回北海道二科支部展(絵画)=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階 地図A
 熊谷邦子さん(会友)が「ヴィナス生誕 2」など、幻想味のある画面で目を引きました。
 北田弘美さんは、「サカサマ」など3点。人間をデフォルメした、シンプルな構図の、しかしマティエールには凝った作品で印象にのこります。
 ベテラン会員の園田郁夫さんは「遊牧の民」、会友の柴崎康男さんは「秋刀魚船のある風景」で、安定した力量を見せています。
 ほかに、会員の田中睦子さん、会友の飯田由美子さん、一般の新井千鶴子、大築笙子、亀井由利、沢田和子、高橋記代美、山田美代子、小柴弘の各氏が出品しています。
 23日まで。

 APA新入正会員展2003富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館 地図A)
 APAは、日本広告写真家協会の略称。新入会員とはいえ、みなさんプロですから、風景にせよスタジオ写真にせよ、べらぼうにうまいです。
 しかも1人2点で、まったく傾向のことなる作品をならべている人が多いです。
 道内の人はいませんが、とにかく技術の高さを見るだけでも、勉強になると思います。すべてカラーですが。
 24日まで。


 3月19日(金)

 第2回 永井漾子個展ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル 地図A
 油彩、コラージュなど20点あまり。
 こまかい完成度なぞ気にせず、ぐいぐい力強く描いた絵画が多いです。
 「連なる」の連作は、さまざまなロープがからまりあうさまを描写しています。ほかに、人物画など。
 第7回 藤田博子個展も同時開催中。
 こちらは油彩など33点ほど。「人のかたち」など、荒削りながら、おおまかにとらえた人物のかたちが目を引きます。
 2人とも、「グループ風雅」などに出品しており、水野スミ子さん(全道展会員)の教室出身のようです。
 21日まで。

 合田典史・早苗江 水と油の二人展=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階) 地図
 典史さんが油彩、早苗江さんが水彩です。
 典史さんの「富良野」「春 小樽景」などは、写実を基盤としながらも、あまり細部まで固めずに自由に描いているのが特徴。小樽を題材にした絵が多いのですが、北運河など、よくある題材を避け、忍路(おしょろ)の一角などを、明暗にメリハリをつけて描写しています。
 早苗江さんは、より茫漠と、物の輪郭をあいまいにした風景画が中心。あかるいグリーンが全面にひろがり、空気感をただよわせています。
 21日まで。


 3月18日(木)


 虫螻狂想曲 浅井憲一 鉄彫刻=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1 地図A
 個展の題は「むしけら」と読みます。
 その名のとおり、2フロアある会場のうち上の階は、「動 ガサゴソ」という通しタイトルがついた虫の彫刻が6点ならびます。
 「T」がアリ。以下、カメムシ、ハサミムシ、クワガタ、カブト(ムシ)、ハチです。いずれも、銀色に鈍く光るステンレスの四角い台の上にのっています。
 動物や人間をスムーズな曲線でデフォルメすることの多い浅井さんですが、今回は図鑑と首っ引きで制作したとあって、かなりリアルにできています。
 「最初はきらわれものの虫から始めた」
という浅井さん。「一寸の虫にも五分の魂」ということばがありますが、ちいさな生き物への、浅井さんなりの共感があったのでしょうか。
 「パーツを組み立てるんだけど、そこで動きを入れて、模型のようにならないように苦心しました」
 リアルではありますが、なめらかな形態は浅井さんならではのものだと思います。
 下のフロアには、猫や鳥などをモティーフにした旧作のほか、「遊」と題した魚の新作4点が出品されています。
 これらも、虫と同様、あまり誇張をくわえず、リアルに制作しています。また
「水中に浮かんでいる感じを出したくて」(浅井さん)
ステンレスの四角い枠のなかに魚をはめこんでいます。これは知り合いに、すこし切れ目の入った枠をつくってもらって、そこに魚をさしこんだのだそうです。
 ほかに、キャンドルスタンドや花器などもあります。
 有機的で、どこか官能的ですらある浅井さんの鉄の彫刻は、独特のものがあると、あらためて感じました。
 浅井さんは札幌在住。21日まで。

■03年9月、アトリエでの個展 (画像あり)
■02年9月の個展(画像あり)
□作者のサイト AZプロジェクト(Ken Asai)


 三輪薫 デジタルプリント展 風色−U=キヤノンサロン(北区北7西1、SE山京ビル) 地図A
 伊勢和紙に風景写真を出力したユニークな写真展。
 19世紀後半に流行した「ピクチャレスク」の現代版とでもいうのでしょうか、写真とも絵ともとれる、おもしろい効果をねらっています。
 会場のパネルにあった作者のことば。
 侘寂(わびさび)を漂わせた日本画や墨絵的な作風を求め写真に拘(こだわ)りながら、写真を越えた描写とはなにかを考えつづけるようになっていた。
(中略)
 写真でありながら写真でも絵でもない新しい表現を目指し、風雅な世界も引き出してみたいと考えている。
 作品はすべて風景で、印画紙ではないので光沢は皆無。
 また、露出はかなりハイキー。
 長い間目をつぶっていて、あけた瞬間、まわりがやたらとまぶしく幻想的に見えることがあるけれど、あのときの感覚に似ています。
 雪景色の写真も多いですが、白い部分はほとんど飛んでおり、地の部分と区別がつけづらいほど。一般的には、ハイライトをとばすのはいけないこととされていますが、これは心象風景ですから、むしろ効果を挙げているというべきでしょう。
 作者は神奈川県相模原市在住。
 19日夕方で終了ですが、人と違う風景写真を撮りたいと思っている方は、足を運んでいただきたいと思います。
 29日から4月9日に名古屋、4月22日から28日まで大阪梅田の各キヤノンサロンに巡回。


 
 3月17日(水)

 福岡アジア美術館コレクション NOW Soul of Asia道立近代美術館(中央区北1西17 地図D)

 アジアの現代美術を中心としたコレクションを中核とした福岡市立のアジア美術館から、国も表現形態もさまざまな作品46点を「コミュニティ」「魂」「女」「ポップ/キッチュ」という4つのセクションに分けて紹介した展覧会。

 美術作品としてつくられたわけではないブータンの「仏壇」や、まるで日本のデコトラを思わせる極彩色に飾られたバングラデシュの「リキシャ」から、インスタレーションとしての完成度が高いリン・ティエンミャオ「卵#3」、ビデオアートまでとにかくバラエティーに富んでおり、楽しめましたが、これはひとえに、平易でありながら決して水準を落とさず、見どころをコンパクトにまとめた解説パネルの文章のよさに負うところが大きい。
 あまりにわかりやすすぎて、見る人が自分なりの発見を求めなくなってしまうんじゃないかと要らぬ心配をしてしまうくらい、すばらしい解説文だと思います。
 美術業界にも、啓蒙ということをバカにする人とか、やたらと難解な文章を書く人がいるが、筆者はこういう場合、だんぜんキンビの味方です(ただし、バングラデシュはアジアでいちばん若い国ではないと思う)。4セクションのうち3つをキンビで書いたというのです。すごいな。

 おじさんが気に入った作品は、マニット・スリワニチプーン「旅するピンクマン」。ビデオ映像とポストカードからなるもので、ピンクのド派手なスーツを着た男性が、タイのさまざまな場所に、時にはスーパーマーケットの台車付き買い物かご(これもおなじくピンクにぬられている)を手前に置いて立っている−というもの。伝統的なうつくしいタイの風景を違和化しているのは、西洋資本の暴圧的な進入への批判をこめているのでしょう。このピンク親父が出てくるシーンと、女性たちが出てくるシーンが交互にあって、女性たちがみんな美女ばかり。これは目が離せません(笑い)。

 わかりやすいのがラオ三兄弟による年画のパロディ「我、北京天安門を愛す」の連作ですが、この題が1970年代の曲をふまえているのなら「私の好きな天安門」にすべきだと思います。まあ、それはともかく、中国のめざましい経済発展はしばしば日本の1960年代に比せられますが、外国文化の猛威にやられている度合いは、あるいは日本の高度成長期よりもすさまじいものがあるのかもしれません。なんたって、西洋プラス日本ですからねえ。

 シュ・ビン「お名前は?」のニセ漢字も楽しい。苗字をパソコンに入れると、そのローマ字表記を漢字風にアレンジした、実際には無い漢字がプリントアウトされてくるのだ。ただし、事前に登録された苗字でなければ、出てこないらしい。
「YANAI」
なんてめずらしい苗字があるとは?
と思った人もいるでしょうが、九州には多いんですよ。
 マックをキーボード抜きで置いてやたらと小さいところをクリックさせるタカビーな現代美術作品が多いなかで、これはすごくパソコン操作がわかりやすいのもマル。

 マレーシアのウォン・ホイチョン「粛清」は、ぜんぶ見たわけではないけど、ドキッとしたビデオ。画面の人物がいきなり
「見よ、東海の空あけて」
とか
「君が代は」
って歌いだすんだもの。日本がしかけたあの迷惑な戦争が、そういうかたちでなお刻印されているんだなって、あらためて思いました。
 主任学芸員の方によりますと、このマレーシアの現代美術をリードする作家は、ヴェネツィア・ビエンナーレで、かつて植民地の人が宗主国の欧州をあこがれた図式を反転させたインスタレーションを出品し、西洋の人に衝撃をあたえたのだそうです。

 いま執筆中の「札幌の美術2004」でも出てくる話題ですけれど、文化の混淆(こんこう)は、よきにつけあしきにつけ、ここでも出てきます。
 たとえばリン・ミンホン「おもてなし」。彼は、畳を、台湾の伝統文化だと思っているのかしらん。
 チョン・ヨンドゥが高層住宅の各部屋を撮った「エヴァーグリーン・タワー」にいたっては、西洋文化の支配がほとんど完了した現代都市の「肖像」だし。

 えーと、あと、ヘリ・ドノ「バッド・マン(悪党)」は、インドネシアの現代史を思うとけっこう切ないですね。
 この人の立体は、1998年に道立旭川美術館でひらかれたインドネシアの現代美術展でも出品されてたはずです、たぶん。

 こういう美術展、あるいは美術館にたいしては
「ユーロセントリズムの再生産ではないのか」
という批判が当然ありえるわけです。
 えーと、わかりやすく言うと、西洋が非西洋文化に関心を持って取り上げるのはいいことなんだけど、評価するのは西洋で、評価されるのは非西洋という図式が固定化しちゃうんじゃないか、そして「評価する側」は「評価される側」の刺戟的な要素を収奪し、ソフィストケートして延命していくんじゃないかってことです。日本は「評価される側」だったんだけど、ここでは立場が逆転して、アジア(という、ヨーロッパ人がこしらえた地理的概念)の美術を評価する側にまわっているんじゃないかと。
 でも、図録の文章を読む限り、さすがにアジア美術館ではそこらへんは無自覚ではないみたい。日本が高みにたつのではない、マルチカルチュア(多文化主義的)な実践が、継続的にとりくまれています。
 わたしたちは、もっとアジアに目を向けることによって、モダニズム以来固定化されてきた西洋主導の価値観の軸を、複線化できるのではないでしょうか。それは、きっと、わたしたちにとって、西洋だけを相手にするのよりは、くたびれない実践のあり方ではないのかと思うのです(とまとめてしまった)。


 ちょっとむつかしめの議論ですいません。
 以下、きのうまでのつづき。

 異国の詩人たち ミャンマー水彩画展=エルエテギャラリースペース(中央区南1西24、リードビル2階 地図D
 とくに水彩画をかいている人にはぜひ見てほしい絵画展。
 ミャンマーでは美術大学で教鞭をとっているような画家10人の写実的な水彩画が展示されています。いずれも、色彩に濁りがなく、精緻なタッチで、描写をはしょったようなところがありません。モンスーン地域の湿潤な空気感もよく描かれています。
 題材になっているのは、湖での漁、にぎわう市場、語らう娘さんたち、水牛がひく車など、ミャンマーの日常生活ばかり。
 このことは、一見あたりまえのことのように思われますが、わたしたちの周囲で見られる具象の水彩画の大半が、アトリエに花やりんごなどを配した静物画だったり、だれもいない場所や古い建物の風景画であって、年の街路を携帯電話で話しながら歩いている人々やオフィスで働くビジネスマンはけっして題材にしません。「絵になる」題材とそうでない題材を、わたしたちは、無意識のうちに選別しているのです。
 ミャンマーの美術市場は現在ほとんど海外との交流がないそうですから、画家たちが海外を意識してあえてノスタルジックな題材を描いているとは思えません。買い付けてきた日本人が「アジアらしい」絵ばかりをえらんできたのか、あるいは、ミャンマーの画家たちもいつしか「絵になる風景」を選別する目を持つようになってきたのかもしれません。
 21日まで。


 守分美佳展=ギャラリーミヤシタ(中央区南5西20 地図D
 昨年の個展は植物を意識した絵がならんでいましたが、ことしはクラゲみたいです。これが、たのしいんだなあ。
 シェイプト・キャンパスの作品なのですが、曲線がスムーズ。
 青と茶といった、色彩の配置も、意外性があると同時に、まばゆいです。さらに、ウニをおもわせるかたちのビーズのオブジェを絵に貼り付けるなど、ユーモアもあります。
 「去年は支持体を切ってからかいたんですが、ことしは描いてから切りました。このほうが描きやすい」
 カラフルな海の底のような、あかるい絵です。
 21日まで。

 ■03年3月の個展(画像あり)


 オープン記念特別展 第10期道新ぎゃらりー(中央区北1西2、札幌時計台ビル地下 地図A
 道新文化センターの講師陣による作品展シリーズも、第10弾になりました。
 深雪アートフラワーの守屋麗子さん、押花サロンの多比良桂子さん、木版画の玉村拓也さん(全道展会員)、バードカービングの房川比呂志さんです。
 アートフラワーは、白い布を自由に染めて造花をつくるものです。
 多比良さんの押花は、近年は白樺などの樹皮をつかってあえて色数を抑えた作品が多いようです。第20回ニュークリエイティブ展というアワードに初出品で大賞を得た「太陽のカード」は、ふたつの円がしのぎあうように配置され、たしかに非常にまとまった作品です。砂川市在住。
 玉村さんは対象を直線でおおまかにとらえた「男のプロフィル」など。
 バードカービングは「本物の鳥そっくり」というのがウリであり、房川さんの作品も、写真ではわからない鳥の形態をつかむのに適した作品ですが、あえて着彩せずに木の自然な風合いを生かした作品が何点かあったのに感服しました。
 21日まで。
 □多比良桂子さんのサイト
 □房川さんのサイト