目次 . 掲示板 つれづれ日録 あーとだいありー 展覧会の紹介 ギャラリーマップ
リンク集 スケジュール ギャラリー日程 道内美術館の日程 アート本情報 その他のテキスト

あーとだいありー 2003年10月後半

前のページ  次のページ

 10月28日(火)

 藤野千鶴子展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
藤野千鶴子展 40点あまりの油彩、水彩などすべて新作です。
 6月にさいとうギャラリーで個展をひらいたばかり、その後新道展と美術文化協会道支部展に新作を出したことを思えば、驚異的なペースとしか言いようがありません。
 「気が付くとずーっとかいてて、1日2、3時間しか眠ってないのよ」
って、こちらは、お体を大切にとしかいえなかったりします。
 写真にうつっているのは「宙 コスモステーション」と題した連作。
 深い色彩の海(あるいは宇宙)に、細い線がたのしく躍る、まさに藤野さんの世界。
 また、ペンによる小品の連作「星のかたち」は、古代文字がヒントになっているそう。男の子と女の子の2種類があり、周囲にうかぶ丸の数などがちがうんだそうです。
 札幌在住、美術文化協会と新道展会員。

 中村修一・前川アキ二人展=同
 札幌の若手ふたりによるめずらしい組み合わせ。
中村修一・前川アキ二人展 中村さんは「お正月展」や、版画家・友野直実さんとの二人展で、インスタレーション的な作品を発表している若手の陶芸家です(ちなみに八子直子さんの弟さんだそうです)。
 今回は「reproduce」「emerge」の2点のみ。あまり広くないD室の空間を斜めに横切って、空間を異化しています。
 全道展、主体展で活躍中の前川さんですが、この個展では50号以下の絵ばかりを展示しています。
 寒色をリズミカルに配置した図柄で、濃い青の線が自在に走っています。
 近作「wave」は、水色の面積が少なめなのにもかかわらず、冴えた印象をあたえます。

 船川照枝個展=同
 旭川在住。札幌では初めての個展だそうです。
 19点を展示。大作は「出合った2人」など、濃い茶色を中心にごつごつした造形が特徴です。よく見ると、英字紙などのコラージュを多用して表面に変化をつけているのがわかります。
 一方で小品は、静物、風景など、うってかわって写実的な画風です。
 主体展会員、全道展会友。

 8・6の会展=同
 昨年亡くなった阿部国利さんに絵を習った札幌在住の女性7人による絵画展。
 筆者は以前、このウェブ上で「師匠の影響が強すぎる」と批判して、某氏から「ことばがきつい」とたしなめられたことがありました。
 今回展覧会を見て、以前にくらべ、師匠の影を脱して自分の個性を出しつつある…という思いを強くしました。
 いちばん変化が感じられるのは野呂恵子さん(新道展会友)ではないでしょうか。大きなフキの下のはにわというかコロポックルみたいな像を描いてきましたが、今回の3作からはそのモティーフが消えつつあります。「夢想」は、植物がアラベスク模様を描く図柄で、日本画を思わせる繊細なマティエールが魅力です。
 河合キヨ子さん(同)も、茶色の地に、干物のような魚を配したスタティックな絵が多かったのですが、今回の「孤独な魚」「赤い実」では、茶色の地が、画面下方で林の絵に変化するという、ユニークな構図です。木片の質感の描写もみごとです。
 藤井静江さん(同)は石をねばり強く描写しています。周辺に配した水滴もリアルです。 藤田恵さん「MUGEN」(同)は、人形がモティーフ。実物と影のようにかさなりあった2体の人形は、片方が目をひらき、もう片方が瞑目(めいもく)しており、なにやらなぞめいています。地は水彩のような繊細で明るい緑がひろがっています。
 細木博子さん(新道展会員)は「時の流れのなかで」という題の絵が2点。うち1点は、細木さんおなじみの木馬が画面から消え、三角錐を中心として、やや構図に動感が生まれてきているといえそうです。
 かたや真っ赤な背景なのが、福島靖代さん(同)の「雲」など。彩度の高い空間が丁寧に構築されています。
 鴇田由紀子さん(同)「バルカローレ」は、舟歌の意。渋い色合いの草原がひろがる上を船が飛ぶ、ふしぎな絵です。 
 
 菱川和子展=同
 札幌では3年ぶりの個展。
 抽象画の油彩20点余りを展示しています。
 テーマは「時間的、空間的な『間隔』」とのこと。「ディスタンス」などという題のついた、さまざまな色の線が飛び散る絵があります。
 ちょっと見ると、未来派のレイヨニスムの絵を思い出させますが、個人的な好みでいうと、生っぽい絵の具が画面上で混じり合っているのは、あまりすきではありません。ごめんなさい。
 札幌展のあとは、パリとローマでも個展をひらきます。

 時間切れ、以下あす。
 
 10月27日(月)

 水落啓 新作版画展=マリヤクラフトギャラリー(中央区北1西3 地図A
 まるで、満月の真夜中に、月光の下、夢うつつでおどっているような、ふしぎな幻想性と浮遊感と、音楽的なリズムをたたえたシルクスクリーンの作品。
 札幌出身、埼玉県在住で、全道展会員でもあります。
 最大の特色は、1枚1枚に銀箔を貼っていることでしょう。それぞれの作品で、人物はわりと小さめに描かれている分、箔の面積はひろく感じられます。
 具象で、カラフルなので、だれにでもとっつきやすい版画なのではないかと思います。
 28日まで。

 石垣渉風景画展=喫茶十字館(豊平区西岡3の9)
 札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)かどこかにおいてあった案内状を見て、よくありがちな淡彩スケッチだと思って正直なところあまり期待していなかったけれど、会場に行ってみて、これがいちばんあっさりと描いた作品だということが分かりました。
 水彩画が7点しかないのですが、かなりリアルな画風です。微妙な冬の光に対する作者の鋭敏な感受性がうかがえました。
 とくに、60センチのパネルを3枚つなげた大きな作品「荘厳」は、芦別と富良野の間の国道から空知川の雪景色を描いた絵ですが、空を覆うわずかにばら色を帯びた雪雲が空を覆い、蛇行する川の岸辺で裸の木々が雪の中に立つさまを丁寧な筆致でとらえています。
 また名寄で取材したという「寂光」も、冬の弱い太陽光線とまばゆい雪景色が、水彩特有のにじみ、ぼかしを活用して、うつくしく仕上げられています。
 1979年生まれ。2度目の個展だそうです。
 31日まで。

 札幌駅前(東急百貨店南口)から中央バス83番か79番「西岡4の14行き」に乗り(「北1条」=市民会館の前、「南1条」=南1西1のアインズドラッグストアの前などからも乗れます)、およそ30分後、「西岡3の8」下車。
 あるいは、東豊線の月寒中央駅から中央バス82番「西岡4の14行き」に乗り、「西岡3の8」下車。
 あるいは、南北線澄川駅から中央バス「西岡環状線」に乗り、「西岡3の8」下車。「西岡3条先回り」のほうが15分早く到着します。
 「フレッティ大丸」の南側の道を入ると、青いネオンサインが見えます。徒歩3分。
 駐車場あり。

 芋虫・青虫二人展アリアンスフランセーズギャラリー(中央区南2西6、南2西6ビル2階 地図)
 阿部正子さん、長谷川みちるさんの二人展。
 どうにもやる気の感じられないタイトルがついていますが、阿部正子さんの油彩の筆力はかなりのものです。ただし2点しかないうえ、大作「1歳」も、子供のスナップ写真を引き伸ばしたような絵で、せっかくの技量が生かされていません。
 長谷川さんは絵、バッグなどいろんなものを壁にかけており、多彩な人です。
 11月1日まで。

 高橋佳子作品展 きのっこ=はーぜん・ろっほ(中央区南4西9)
 版画と木工というサブタイトルがついています。
 版画は、木版に和紙で、素朴かつシンプル(というか、ナイーブ)な作品。
 木工のほうが手が込んでいますが、かんなくずをつりさげたような作品もあり、のんきな感じです。おもしろかったのは、太鼓と絃楽器。端っこにひっそりと置いてありましたが、よい音がしそうでした。
 31日まで。

 きょうは札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)にも行ってきましたが、あした書きます。

 10月26日(日)

 芸術の森美術館(南区芸術の森2)で開幕した「北の創造者たち展 虚実皮膜」のオープニングに行ってまいりました。
 出品者は、伊藤隆介、上遠野敏、鈴木涼子、坂東史樹(以上札幌)、坂巻正美(栗山)、藤木正則(稚内)の6氏。
 いずれも脂の乗り切った中堅作家で、まさに「北海道の現代美術の現在」をつたえる展覧会になりました。
 ただし、一般の人というか、現代美術に興味のない人から見ると
「なんじゃこりゃあ」
という感想を抱かれるかもしれません。
 しかし
「なんじゃこりゃあ」
と考えることがだいじなんだと思うんですね。
 ぼけーっと美しいものを見るのではなく、わたしたちの日常生活に疑問符のシールを貼ること。それがいまのアートなんだと思うのです。
 というわけで、来年1月までやってます。筆者は、今回もできるだけギャラリートークに足を運びたいと思っています。

 会場でロッパコの宮島さんに会いました。
 青森でおこなわれたプロジェクトに参加、制作した版画は、青森、函館、下関、北九州の主催4市に所蔵となるとのことです。

 Free Space PRAHA(中央区南15西17)の大橋拓くんからのメールによると、11月はオランダなどに旅をするそうで、とくに11月7日、南仏のグルノーブルのアートスペースをかりて、白戸麻衣さん(着せ替えプロジェクトやコーヒーのパフォーマンスをする札幌の美術家)と、現地の参加者が理想の服や家を「ぬり絵」でつくるというアートプロジェクトをおこなうことになったとのことです。

 
 10月25日(土)

 終了間近の展覧会を中心に、多数報告します。
 おおむね写真、工芸、絵画、書道の順でいきます。

 菅原みどり写真展「北国の詩」(風の彩り、愛しきものを見つめて)富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館 地図A)
 見ると、心がやさしくなる写真展です。

 写真というのはシャッターを押せば写るものですから、技術はともかく、そこに人間の意図や感情が介在する余地はあまりないはずですが、にもかかわらず人は、写真に作者の感情や人柄までをも読み取ってしまう。菅原さんは、エゾリスやナキウサギ、タンチョウなどを撮っていて、おなじ被写体をねらっている人はほかにもいるのですが、なぜだかわたしたちは
「やさしい写真だなあ」
と感じるのです。これは、筆者が菅原さんご本人を存じあげているせいばかりではないと思うのです。
 プロが定点観測して、野生生物のめずらしい生態にせまった−という写真とは、ちょっとだけちがうのです。

 300ミリの望遠レンズに1.5倍のテレコンバーターをつけて、動物たちのじゃまにならないよう撮る姿勢は、好きです。
 エゾモモンガの写真は、十勝管内音更町で、古い木を伐採している際の音にびっくり菅原みどり「秋色の中で」したのか、木の洞から飛び出してきたところをパチリ。
 「夜行性なので、ふつうなら絶対撮れないんですよ」
 
 左の写真は「秋色の中で」。
 冬支度をいそぐエゾリス。森の中で、ちょっと休んでいるのでしょうか。
 生き物にそそぐ、あたたかなまなざしの感じられる1枚だと思います。

 ほかにも、石狩管内厚田村の海岸で撮った、雲のかたちがおもしろい「暮色」といった風景写真もあります。
 29日まで。

 加藤D輔・加藤美奈・紅露亜希子 写真展Gallery Strawberry’s(中央区南2西1、RISEビル3階) 地図
 大学の異なる男女3人による写真展。札幌のギャラリーをまわっていて、いまもっともイキの良さをかんじるのが学生・若手の写真であることは、このサイトでも再三ふれていますが、それを象徴するような展覧会です。すべてモノクロというのもしぶい。
 加藤美奈さんは、北海学園大部写真部(通称「ニブシャ」)。
 ニブシャは1990年代後半、荒削りな作風で札幌の大学写真部をリードしながらも、近年はおとなしくなっています。
 昨年からことしにかけて1年間ロンドンに留学していたそうで、そのときに写したものが中心です。 
 「London1」は、イラク戦への反対デモなど、ロンドンの街の息吹をかんじさせるのですが、「2」のほうは、紫陽花の咲く庭やネコ、手のシルエットなど、ひそやかでプライヴェイトなたたずまいの写真の組み合わせです。札幌の自宅で撮ったといわれれば、そうかなって思ってしまうくらい、ロンドンぽくないです(紫陽花は日本原産の花だし)。

 さいきん怒濤の勢いで発表をつづけている藤女子大の紅露さんは
「あまり執着心がないし、撮りたいものがつぎつぎ変わる」
とのことで、小樽鉄路写真展や先日の個展ともちがう新境地。焼きがかためでシャープなのは紅露さんらしさかな。
 加藤美奈さん(奥)と紅露さん(右)の写真先日、写真を撮りに東京へ行ったそうで、最初の晩に東京タワーに昇って撮った夜景の組み写真が「fly high,fly into the shine」。
 超高層ビルや首都高速道路が発するまばゆいばかりの光の洪水。
 まるで、手塚治虫のSFマンガのようです。
 しかし、この肯定的な気分は長続きしなかったようで、となりに展示された「匿名希望都市」は、沈鬱な空気に満ちています。
 「渋谷に行ったけど、仕事につかれた人ばかりたくさんいる感じで、ここには住めない、このマチに入りたくないという気持ちばかりがつのったんです」
 頭部が切れて映っている通勤中のサラリーマンをうつした1枚が、全体を象徴しています。
 20本くらいフィルムをつかったそうですが、自身のふるいにのこった枚数は意外とすくなかったよう。ただ、9月の個展にくらべて、まとまり感ははるかにあると思います。渋谷でこんな暗い写真ばかり撮る人もめずらしい。
 このほか、北海道の風景に心象を託した「望人」、旭川の旭山動物園などで動物を撮ったほのぼの路線の「kiss…more kiss」。

 加藤D輔さんは、「ako」「aco」と題した女性のポートレートと、「揺らめき」と題した街角のスナップ(こちらはキャビネサイズ)を、交互に陳列しています。
 「ako 4」など、彼のサイトにすでにアップされているものもあります。
 ご本人は
「これまでとまったくちがう」
と作風について解説しています。
 27日まで。

 北海学園大学T部写真部写真展札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階 地図G
 なんと出品者およそ30人。かなりのもんです。
 ただし、作品の水準は玉石混淆で、モノクロの焼きの技術はまだ向上の余地ありとみました。
 中田雄介さんも焼きにムラがありますが、駅の近くでバルコニーに老人が出ている1枚はなぜだか心に残りました。
 潮田あやさんの写真もふしぎ。何の変哲もない雲や葉の写真も、心象をどこかで反映しています。とくに、電線巻きがふたつならんで、小さな子が玉乗りのようにその上に載っている1枚はなんともふしぎです。
 林泰弘さんはカラーです。花などを写した写真に、作者の静かな感情がこめられているようです。
 神山純平さんは廃墟写真。焼きは安定しています。
 石田麻友さんは、いかにもデジカメっていう感じの発色ですね。
 26日まで。

 第5回フォトクラブ四季写真展=クリエイトフォトギャラリー(中央区南1西9 札幌トラストビル 地図C
 ネイチャーフォトの美しい写真が勢ぞろい。
 大田かほるさんの「宙(ソラ)への憧れ」はどうやって撮ったんでしょう。
 11月1日まで。

「波〜合同展」の会場風景 波〜合同展=ギャラリーたぴお(中央区北2西2 道特会館 地図A))
 写真家の山岸せいじ、藤川弘毅、箭内博行、為岡進、染色家の長谷川雅志、画像作家の進藤英俊の6氏が出品。
 テーマのとおり、波をそのまま撮った人もいますが、山岸さんは例によって、大きなプリンターで出力した、あいまいな風景の写真を出品しています。
 いちばん目立っていたのは、長谷川さんの染色。
 写真を見ると、おなじデザインの薄い布3枚が垂れ下がっているように見えますが、まんなかの1枚だけが、渦の中央部分などところどころに穴があいています。
「ぜんぶにあけるのも、うるさいかなーって感じがしてね」
 背後の壁には小品がびっしり貼り付けてあります。
 11月1日まで。
 長谷川さんは、小樽のすし屋「多喜二 貳番館」でも個展を開催中です。

 尾形香三夫 陶芸展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階 地図A)
 練上技法による皿などが、ますます精緻に、さえを見せています。
 「空中楼閣」と題した大皿など、厚さ1ミリほどの陶片をわずかずつずらし、重ねていく技法で、波模様やX字が浮かび上がってくるようです。
 ごらんになったことのないかたは、ぜひ見てほしいと思います。
 昨年までにはなかった、青やピンクのあざやかな発色の皿もありました。
「これは、今後につながる試作品なんです」
と尾形さん。これは来年がまたたのしみです。
 今回は、練上ではないビアグラスなどもわりあい安値で売られています。
 ことし日本工芸会正会員になりました。石狩管内新篠津村在住。
 28日まで。

■昨年の個展(写真と拡大写真あり)
■ご本人のサイト

 絵画に移行します。
 横田章個展=同
 油彩、水彩、アクリル、淡彩など計約30点。
 淡彩は、4年間通ったシルクロードの印象をつづったもの。ほか、ネパールやアムステルダムなどずいぶんあちこちの風景が描かれています。
 28日まで。

 下田敏泰風景画展&ひろ子のアートフラワー=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階 地図B)
 油彩20点余り。いずれも20号ぐらいまでの比較的小さな作品です。
 下田さんというと川縁の風景画を思い出しますが、今回はベネツィアが半分、札幌やニセコなど道内が半分。後者には、ゴルフコースをモティーフにした絵もあります。
 作品の写真と題名、モティーフの地名を組み合わせて作品に添えたり、横長のキャンバスをつくってみたり
「たのしんでやってます」
と笑っていました。横長のキャンバスは風景画に合うのです。
 奥様の、ほんものの花にそっくりのアートフラワーも展示され、彩りを添えています。

 第3回村井貴久子油絵展=同
 案内状を見ると抽象画のようですが、じっさいは、街並みや家並みを描いた風景画と、花を題材にした静物画の油彩です。
 それも、透視図法などにこだわらずに描いた、心象風景のような絵でした。タイトルは附されていません。

 いずれも26日まで。

 徳丸滋展ギャラリーどらーる(中央区北4西17、HOTEL DORAL 地図D)
 後志管内ニセコ町の山の中に住み、自然をミクロの目で、あるいは単純化して描く画家。
 さすがに年2回の個展は大変だったようで、大半の作品がすでに発表済みと思われます。
 「湿原」などで、草を細かく描き分ける目と、流れる川や羊蹄山などの風景をとらえる目とが、共通の視線であると感じられるのが、徳丸さんの絵の特徴だと思います。ひたすら小さい部分だけを見つめるのではなく、風景をデフォルメしただけでもないのです。自然の本質をすくいとるということでは、共通しているのでしょう。
 針葉樹に霧のかかった1枚など、ほんとうに美しく、ため息が漏れます。
 全道展会員。31日まで。

 ご本人のサイトはこちら
 ■03年5月の個展(画像あり)
 ■02年の個展
 ■01年の個展

 第6回燎原会展札幌市資料館(中央区大通西13 地図C
 5人による絵画展。
 辻井秀郎さんは、南アジアの物売りの女たちなどを描いた作品。
 光永実奈子さんは「MAN」など、ファッションイラストのようなアクリル画。
 佐久間伸さんは「ザルツブルク」など、まるでアカデミスム絵画のような精緻な筆遣いで目を引きます。
 湊征一郎さんも「美田の秋」など、田園風景を丁寧なタッチで描いています。
 石崎哲男さん(岩見沢)は「華」の小品を出品しています。

 藤原明・山田純子イラストスケッチ展=同
 ふつうのイラスト展なのですが、山田さんの題材は、茶房森彦、円山茶房、サッポロ珈琲館といった札幌の飲食店、喫茶店ばかり。タウン誌みたいな割り切り方で、統一感もあって、これはこれでおもしろいと思います。

 絵画展・札幌の古き建物たち=同
 絵としては素人の小品が大半ですが、60点もあるので、知っているなつかしい建物が見つかると思います。

 以上、26日まで。

 大地会有志の画展=アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル 地図B
 旧制岩見沢中学17期の3人、西川淳さん、佐藤力さん、小田正男さんが、8点ずつ出品。
 とりわけ小田さんの「石狩平野(暑寒残雪)」「トッカリショ浜」など、おだやかなリアリズムに感服しました。
 28日まで。

 最後は書道。

 第八回藻臨会書展=同
 永澤楊舟さん(札幌)が代表のグループ。
 24人が、臨書と創作を出品していますが、なかなかバラエティーに富んでいてたのしめました。
 安保旭舟さん「董其昌」は、流れる水のようなふにゃふにゃした草書がおもしおい。
 飯田黄星さん「風樹」は、メリハリのある、鋭角的でモダンな作品。
 太田欽舟さん「静黙」「婉艶」は、前者が金文のような味わい、後者が淡墨で、まったくことなる書風の2作。
 長谷川北邦さんもあいかわらず、力の抜け切ったような独特の書風です。
 本間弧峰さん「熱」も、書き出しに渾身の力をこめながら、後半は力を抜いてふっとまとめるというおもしろさを感じました。

 おなじ会場では、第16回北海道篆刻協会と越坂柳徳一門の篆刻展もひらかれており、多彩な作品があつまっていたのですが、筆者は篆刻がまったくわからないので、パスさせていただきます。悪しからず。

 
 10月23日(木)

 今週の札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)も、見ごたえのある個展がそろいました。

 丹野信吾展
 これほど色彩のうつくしい絵はひさしぶりに見たような気がします。
 デジタルカメラによる写真をアップしておきますが、微妙な色調をつたえているとはとうてい言えません。
 「前より彩度を上げた」
とのことです。
  
 丹野さんは1933年生まれ。まだ公募展が圧倒的な力を持っていた時代から「反公募展」を掲げ、「オード」などのグループや、個展を中心に精力的な発表活動をつづけてきました。道内の抽象画のパイオニアのひとりといえると思います。
 今回の個展はすべて油彩。キャンバスのほか、手漉きのパルプを支持体にした作品が11点展示されています。
 宇宙をイメージしたタイトルと絵柄は丹野さんならでは。あざやかな色と、それを引き締める黒が、ダイナミックに交錯しています。
 また、フラットに着彩されている部分と、書を思わせる筆跡もあらわな部分との明瞭な対比も、丹野さんの絵の切れ味を良くしている要素です。
 エネルギッシュだからといって、やみくもに筆を走らせるのではなく、きちっと計算しつくした画面の構成と色の配置は、プロの仕事という印象をあらためてつよくしました。

 左の写真は「超新星残骸−紅α。」
 星が爆発した後に三つの天体が生成する様子を表現しているようでもあります。
 さきほど書いた「フラットに着彩されている部分」の色合いがなんともいえない美しさで、ずっと見ていても飽きません。朱色の部分はヴァーミリオンより深みがあって、緑の部分もビリジヤンとは微妙にちがいます。混色の妙なのでしょうが、色がくすんだり濁ったりということは、まったくありません。
 しかも、朱や緑、黒といった、広い部分につかわれている色のあいだに、青や黄などがアクセントのように、絶妙に配されています。
 ほかに「宇宙の膨張。」「原始星・オリオン−BN.U.」「タランチュラ星雲−赤」「K−宇宙の混沌」など。「K−」は、脳と宇宙のイメージが直結しているようです。
 やはり色にはずいぶんこだわりがあるようで、アイボリーブラックは経年変化があるのでつかわずパールブラックを用いるとか、いろいろなくふうをしているようです。
 ■01年の個展
 ■札幌の美術 20人の試み展
 ■WAVE NOW '02

 中谷有逸展
 「碑・痕跡」という通しタイトルがつけられたモノタイプ版画のならぶ個展。
 これまでも鉄粉による錆びを効果的にもちいて、時の変化を思わせる深い作品世界をつくりだしてきました。
 今回は、「9.11」から「イラク戦争」への事態の推移に筆者がきびしい目を向けた作品が大半で、人間の蛮行や愚かさにたいする作者の怒りというか、心情がストレートに表現された、統一感のある個展になりました。どの作品にも、銃痕のような穴がいくつもうがたれています。
 いちばん目立っていたのは、F80号パネルを2枚つなげた「碑・痕跡(二つの神が降らせた雨)」です。アジアプリントアドベンチャー03にも発表されていました。時計台ギャラリーの天井の高さにおさまりきれず、まんなかでふたつに折りまげられています。ティグリス、ユーフラテスを思わせるふたつの流れの中をおびただしく降ってくる兵士たちが、大画面を覆っています。
 「碑・痕跡(無かった標的)」は、大量破壊兵器が見つからないことを痛烈に皮肉った作品です。
 中谷さんは帯広在住ですが、毎年札幌で個展をひらいています。
 モダンアート協会、道展、道版画協会、平原社(十勝の公募展)の会員。
 ■02年の個展(10月25日の項。画像あり)
 ■しかおいウィンドウアート
 ■アジアプリントアドベンチャー

 のこるふたつはグループ展。
 C室の「グループ未知展」。絵画やコラージュなどいろいろな作品があります。屋中厚子さんとおっしゃる方の「二人語らう」に登場する男性は、木工の屋中秋谷さんにそっくりで、ほのぼのした雰囲気をかもし出していますが、ご夫婦なのでしょうか。
 ほかに、竹生洋子、千村由紀子、清水美紀子、村上富美子の4氏も出品。
 3階全室は第17回ジェム木版画展
 40人からなる大がかりなグループ展です。ことしの全道展出品作がちらほら見えます。大木を下から見上げた力強い構図の、近藤貞子さん(会友)「木もれ日」、黒の線が自在に躍る吉川勝久さん(会友)「6月の風」、メリハリのある色彩配置で雪の駒ケ岳をとりあげた山本修一さん「姫川浅春」など。
 ことし会友になった伊勢陽子さん「たゆとう」は、植物と裸婦を組み合わせ、S字型の構図が目を引きます。

 いずれも25日まで。

 もみじ窯 香西信行作陶展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階 地図B)
 びっくりしました。横80センチ、縦90センチはあろうかという巨大な壺「焼締叩き大水瓶」香西信行作陶展の会場風景がふたつ、会場の中央に鎮座しています。子供ならすっぽりとなかに入れてしまいそう。
 空知管内栗山町の穴窯で焼くことのできるぎりぎりの大きさなのだそうです。
 「叩(たた)きってなんですか」
 「まずじょうぶな土でかたちをつくってから、その上に薄く土をたたいてかぶせるんです」
 なるほど。フジツボみたいなもようをした、薄い色の土は後からつけたんですね。
 一見割れ目のような文様はちがう土を、象嵌のやりかたで埋め込んだのだそうです。
 ふたにはちいさな穴があいていて、そこから水をおとして水琴窟としてもつかうことができます。
 この作品はそうでもないほうですが、全体的にはシラカバの灰がかぶって、窯変がいちじるしく、景色を見ていてため息の出る茶碗や花入れなどがならんでいます。
 「会場が3年連続で借りられそうなので、がんばります」
と香西さん。
 札幌在住。来週の北海道陶芸会展にも出品します。

 ■01年の個展
 ■02年の個展(画像あり)

 以下翌日。

 10月22日(水)

 Dam Dang Lai展OKUI MIGAKU Gallery(中央区旭ケ丘5の6の61)
dam damg lai展 1973年ベトナム生まれで、日本女性と結婚したために現在札幌に住んでいるアーティストの個展。
 前回、大同ギャラリーでの個展は彫刻展でしたが、今回は木彫とアクリル画の両方がならんでいます。
 絵画は、即興的な抽象画がほとんどです。
 写真の右側の大作は、19日にこの会場でひらかれたジャズコンサートの際、音楽にあわせてわずか1時間半でかきあげられたもの。作者はジャズが好きで、札幌でもときどきライブに出かけるそうです。
 ほかに「風景」「古里」などと題された絵がありました。
 24日まで。
 東西線円山公園駅からJRバス「ロープウエイ線」、あるいは、南北線中島公園駅か幌平橋駅から同「山鼻環状線」で、「慈恵会前」徒歩1分。

 時計台ビル(時計台の北側のビル)の地下に「道新ぎゃらりー」がこのほどオープンしました。
 道新文化センターの生徒さんの発表の場を想定しているようですが、一般にも貸すようです。
 今週と来週はオープン記念で、講師の作品展。伏木田光夫さんや木村富秋さんといった人々の絵、谷口一芳さんのデッサンなどが展示されています。
 筆者が入ったときは、ほかに客はおらず、男性1人がいすにすわって本を読んでいるだけでした。「いらっしゃいませ」「こんにちは」とか「どうもありがとうございました」とか、そういうのはありません。また、そのうち、ほかのギャラリーから案内状などがとどくのでしょうが、そういうものを並べておく棚も見当たりません。このあたりは、追って改善されていくものと期待します。
 10月18日(土)−20日(月)

 更新をサボっていてすいませんです。
 というわけで、大量です。

 まず、26日から始まる道展の協会賞が、笠原昌子さんの彫刻にきまったそうです。
 笠原さんは在学中の裸婦彫刻で、すでに学生離れした力量を示していました。
 おめでとうございます。
 ■笠原昌子・渡辺玲奈2人展(2002年3月)
 ■道教大の卒業制作展(同)
 ■個展(ことし7月。インスタレーション)

 つづいて、
  1. 21日かぎりで終了のもの
  2. 会期が終わるまで余裕のあるもの
  3. 20日ないし21日で終わったもの
の順に紹介していきます。

 まず、20日に、横須賀玲子さんのアニメーションの上映会に行きました(アートスペース201=中央区南2西1、山口中央ビル 地図B)。
 1981年以来、おもに墨絵によるアニメーションを個人でこつこつとつくってきた横須賀さん。札幌には、ご家族の仕事の都合で数年前にいらしたそうです。
 上映されたのはつぎのとおり。
「幻」(3分、81年)
「人魚」(2分30秒、同)
「いちめんの菜の花」(3分、83年)
「Number 7」(同、84年)
「錬金術」(同)
「人魚その2」(3分、85年)
「もうれんじゃかじゃか」(同)
「転寝(うたたね)」(1分、86年)
「記憶」(3分、同)
「クレーターのなる木」(同、87年)
「月の彫刻」(2分30秒、88年)
「なんじゃもんじゃおばけ」(5分、94年)
「柿の木もっきぃ」(同、99年)
「メデューサの森」(2分、2001年)
「ムーブメント」(4分30秒、03年)
 ほとんどの作品は、墨で描かれた絵をうごかしていますが、「いちめんの…」は水彩とパステル、「Number 7」は鉛筆と色鉛筆、「転寝」は色鉛筆、「メデューサ…」は木炭と色鉛筆です。また、「錬金術」は、銅版にプチプチと穴をあけていってつくった、キラキラした作品です。
 前半の作品も、アイデアはおもしろいのですが、作品としてのまとまりががぜんよくなってくるのは「クレーターのなる木」あたりから。どこからともなく現れた笛吹きのあとを、奇妙な者たちがくっついて歩いてきて…というもので、音楽との相性もばっちりです。
 音楽といえば、大半はオリジナルのようで、作品とマッチしており、既製の曲を安易に用いがちな自主制作映画のなかでは、その姿勢が光っています。
 さて、なかでも完成度が高く、感服したのが、NHKプチプチアニメとして放送されたという「なんじゃもんじゃおばけ」です。アニメの特性を生かして、なんにでも姿を変えるおばけが、キツネに襲いかかります。
 この作品ですばらしいのが、キツネは、おばけに立ち向かうのでも、おびえて逃げまくるのでもないんですね。機知と機転で、闘いをはぐらかしてしまうというか、対立構造を無化してしまうんです。このへんは、ことばで説明するのがむずかしいんだけど、おばけが鳥居の化け物みたいに大きくなって、舌でキツネを平らげようとすると、キツネは垂れ下がった舌をブランコにして遊びはじめるんです。舌が輪郭だけで描かれている墨絵の特徴がフルに生かされています。
 ちらしによると、第6回国際アニメーションフェスティバル広島大会入選、ワールドアニメーションセレブレーション(第6回ロサンゼルス国際アニメフェスティバル)入賞、フランスのアヌシー国際アニメフェスティバルパノラマ入選に輝いています。
 アートスペース201では、これらの原画が展示されています。

 松尾芭蕉の七部集を内外35人の作家がアニメ化した「連句アニメーション 冬の日」がちかくDVD発売(東京ではラピュタ阿佐ヶ谷でロードショー)されますが、横須賀さんも参加しています。総合監修が川本喜八郎、音楽が池辺晋一郎、そしてアニメ作家がユーリ・ノルシュテイン、九里洋二、林静一、黒坂圭太、IKIF、古川卓、高畑勲…という豪華版です。
 ご本人のサイトはこちら

 アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル)のほかの部屋は、書道展がふたつひらかれています。こりゃ「墨ウィーク」ですね。どちらの書道展もなかなかおもしろかったです。
 第八回心臨会書展
 三橋啓舟さん(札幌)の社中。 三橋さん「祈祈祈」は、細い直線が縦横に走る前衛書。
 ほかは、漢字の少字数書が中心で、臨書はありません。行草書もありますが、まるで漢字の発生の時点にさかのぼったかのような自由な造形が目を引きます。筆者は、しろうとなので、うまく言えませんが、できあがった篆書や隷書、象形文字を書いているのではなく、漢字の発現そのものを模索しているかのようです。
 串だんごのように見える川口華丘さん「貫」にせよ、矢印のように造形された増田文さん「独(獨)立」にせよ、能登谷直子さん「斉」「実」にせよ、木村寛子さん「どことなく絵文字ふうです。児玉星光さんの「山」3作は、篆刻(てんこく)なのに、絵文字的というか、シンプルな抽象画のようです。そもそも漢字の成り立ちが絵からきている、ということをあらためて思い起こさせます。

 むつはな書道会第2回師範会書展
 小比賀秋嶺さんの遺作が展示されていました。
 こちらは、漢字少字数書、かな、近代詩文、写経など多彩です。どうしても師の作風に従ってしまいがちな書のグループ展ですが、ここまで自由だと、見ていてすがすがしさをおぼえます。
 おもしろいと思ったのが、板橋嶺水さんの「啄木百人一首」。下の句かるたみたいに、啄木の短歌を書いています。

 内海真治個展 −陶月の宴−=マリヤクラフトギャラリー(中央区北1西3) 地図A
 砂川市で「浮浪工房」をひらいている陶芸家。
 いちばん目を引くのは、中近東ふうの意匠の陶板作品…と思いきや、これは陶ではなく、タイルなのだそう。独特の発色はそのためなんですね。
 うつわは陶ですが、あらためて絵付けをするのではなく、釉薬で絵を描いているとあって、これまた独特の発色。
「ただ雑器をつくってるだけじゃ、飽き足らなくなって」
と作者。
 ほかに木彫などもあり、まるでアジアのバザールをあるいているような、たのしい展覧会になっています。

 星座燦々展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階) 地図A
 道学芸大(現道教大)を昭和33年に卒業したことがグループ名の由来になっています。
 市内東区に「ふしこ窯」をひらいている陶芸家の加藤五十和さん。赤土のうつわは、野幌粘土を1160度で酸化焼成したものだそうです。ほかに、たのしいオブジェなど。
 中村律子さんの水彩3点は、なんということもない風景画ですが、あざやかな赤やオレンジの紅葉がいまの季節にぴったりマッチしています。
 岡田義博さん「雨上がり」は、細部を気にせずぐいぐい押していった水彩の風景画。
 ほかに、斉藤幸雄さん(水彩)、和田弘さん(同)、飛鷹岸男さん(彫金、道展会員)、伊藤英世さん(彫刻)が出品。案内状には更科eさん(版画、道展会員)の名前も出ていましたが、作品はなかったように記憶しています。

 以上、いずれも21日まで。

 つづいては、まだ会期終了まで若干の余裕のある展覧会。

 白鳥信之展TEMPORARY SPACE ・器のギャラリー中森(中央区北4西27 地図D)
 隣接した2会場での個展です。
 テンポラリースペースには、風景画4点、人物画2点。
 器のギャラリーには、風景画12点とデッサン1点。
 新作は、実家のある胆振管内喜茂別町の田園風景を題材にしたものが中心です。
 ほとんどおなじ位置から見た、夏の風景と雪景色。
 器のギャラリーの奥に陳列されている針葉樹林の絵は旧作です。人物(画家の父親です)が微細な斜線の集積で描かれているのは、スーパーリアルな画風だったころの名残で、背景の木々は、新作のわりあいラフなタッチでえがかれています。
 ラフといっても、落ち着いた筆つかいは、リアリズムの名にふさわしいと思います。
 それにしても、なんの変哲もない、凡庸といってもいいようなありふれた農村の風景に心がうごかされるのはなぜでしょう。
 白鳥さんは、故郷への愛着をこめて描いているのですから、通り一遍の風景画ではないものになるのは、或る意味で当然なのかもしれません。しかし、わたしたちにとって、べつに故郷ではない。
 ただし、その平凡さこそが、どこかに、多くの人間にとってのふるさと的なものをはらんでいるのかもしれません。
 ロマン派的衝動というのは「ここではないどこか」へのやみがたいあこがれなのでしょうが、その「ここではないどこか」というのはじつは、喪失した故郷だったりします。白鳥さんの寡黙な絵がなつかしさを感じさせるのは、そのためなのでしょうか。
 札幌在住。
 26日まで。

 ■02年10月の個展

 川畑和江個展=ギャラリー山の手(西区山の手7の6)
 このギャラリーは、ときおり「山の手(地元)在住」という理由で個展をひらきます。
 今回もそのパターンで、ギャラリーとしては
「いずれはご主人も」
ともくろんでいるようです(川畑さんはおしどり画家夫妻として有名)。
 今回の展覧会のみどころは、桜を描いた小品ということになっていますが、この画家が、室内と室外の風景を融合することにいかに腐心してきたかが、分かる展覧会でもあります。油彩25点。
 桜がモティーフの小品では、瀬戸内の風景画もあり、なんとはなしに心がなごみます。
 一方、100号クラスの作品は、1995年の「愛惜」など、なつかしいものも。
 川畑さんは道展会員。
 29日まで。

 地下鉄東西線西28丁目駅からJRバス(いずれの路線でも可)に乗り、「ふもと橋」徒歩3分。札幌駅前から手稲、小樽方面行きのJRバスに乗り「発寒橋」下車、徒歩8分。

 吉住ヒロユキ個展〔sex;male/female〕 −肉体の哲学−CAI 現代芸術研究所(中央区北1西28) 地図D
 筋肉モリモリの小さいサイズの裸婦石膏像を反復させる手法で、ギャラリーたぴおのグループ展ではおなじみの作家ですが、今回CAIの展示空間いっぱいに石膏像を展開しました。
 もちろん、全部が同じ型からつくられているのではないのですが、奥の壁に約230個、屏風に260個あまり、それ以外に116個という、膨大な裸婦を見ると、頭がくらくらしてきます。しかも、小さな頭部が床に88個も規則的にならんでいます。損壊の程度が微妙に異なるので、単純な反復ではないんですが、しかしこの反復という要素がないと、21世紀にただの裸婦像をつくったところで意味はないでしょう。じゃあ反復させると意味があるのかというと…むずかしいところではありますが、差異と反復のダイナミズムがあるのはたしかでしょう。
 31日まで。

 とっておきのティ−タイムVol.6 毎日使いたいガラスの器=クルトゥーラ(北区北12西4)
 空知管内由仁町に工房を持ち、宙吹きガラスのうつわをつくっているくまがいマナさんの個展。
 自然な感覚のうつわが中心。雨の雫のかたちを模した「SHIZUKU」や、キノコ型の「KINOKO」といったオブジェがあり、かわいらしいです。
 25日まで。

 第10回全国高等学校写真選手権大会写真展「写真甲子園」富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館 地図A)
 上川管内東川町が毎年夏にひらいている名物行事。参加校数も年々増えてきたようです。
 高校生といってもあなどれません。ことし参加の旭川工業高校は、予選と本選で、作風をがらりと変えて勝負しています。叙情的な組写真と、人間くさい組写真と。たいした力だと思いました。
 22日まで。

 6girlsギャラリー パレ・ロワイヤル(豊平区月寒中央通9)
 19歳から20代なかばのわかい女性6人によるグループ展。写真やイラストによるポストカードの展示販売が中心です。
 「allo?」サイトでおなじみの北川まゆみさんの写真は、ことしに入りかなり露出オーヴァーぎみになってきました。しかし、これはわざとやっているんでしょうね。光に満ちた雰囲気が、ささやかな幸福感を醸し出しているので、これはこれで良いと思います。
 橋本具(つぶさ)さんは、アヒルのイラストがキュートです。ただ、アヒルのおもちゃを入れた写真は、おんなじことをペンギンでやって有名な人がいるので。。。
 山下敦子さんは、猫などが被写体の写真。
 青柳あゆみさん、佐々木悠さんも出品しています。
 25日まで。

 地下鉄東豊線の月寒中央駅下車、国道36号を札幌ドーム方向に歩いて約5分。国道沿いです。中央バスの清田、平岡、北広島方面に乗って「月寒中央通10丁目」下車、徒歩1分。

 最後に、すでに終了した展覧会についてもふれておきます。

 第45回札幌墨象会展=コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階 地図C) 
 道内で墨象というと、じゃがいもの塊のような作品を書く人がかなり多いのですが、この展覧会はわりあいバラエティーに富んだ作品があつまりました。
 変幻自在の安藤小芳さん「魔」は、まだれを大きくとり、下部はあえてすばやい筆つかいで処理した風変わりな作品。
 島田青丘さん「凛」はまとまり重視の、わりと小さめな作。
 東志青邨さん「毬」は、文字全体がまるみを帯びた、造形性に富んだ作品です。
 目を引いたのが三上山骨さん「土」。画面の80%以上を、黒が覆っています。中央やや右下寄りに丸い空白が、うがたれた穴のようです。たしかに地中のイメージです。

 はやと・うらこ油彩二人展=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階 地図B)
 廣瀬隼人さんと有良子さんの夫婦展。
 隼人さんの喜寿を記念する展覧会でもあります。
 会場にあったリーフレットによると、以前から絵を見るのが好きだったふたりですが、肺腫瘍(しゅよう)手術から全快した有良子さんが木村富秋・由紀子夫妻(いずれも全道展会員)に絵を習い始め、94年からは夫もイーゼルをならべるようになったそうです。
 ご夫婦の仲の良さがつたわってくる、気持ちの良い絵画展でした。
 有良子さん「レシピ」は、チーズフォンデュをつくっている食卓がモティーフ。「黄色が好きなんです」と言うとおり、温かみのある色彩が特徴です。

 木もれび会展札幌市資料館(中央区大通西13 地図C
 やはり斉藤由美子さんの水彩は、これまでの写実的な絵や、いわゆるボタニカルアートとは、似て非なる感性のきらめきを感じるなあ。ぼあーっとした明るさが魅力です。あるいは、はっきりした明暗の差というのは、よほどうまく描かない限り水彩の腰の弱さを露呈させてしまうのかもしれない。「樽川6条通り」は、車道と歩道の間にある街路樹帯の雑草などに目を向けた風景画。視線の低さもおもしろいです。
 水彩ではほかに、北原契恵子さん「窓辺」も良かったです。ガラス窓をとおして花々にふりそそぐ光の明るさが印象的で、下のほうにある木枠に、花びんがプリズムになって映った小さな虹が描かれています。

 石田邦夫・工藤直子・石田志郎三人展=同
 石田邦夫さんと工藤さんが個性的なイラストを展示していました。

 第33回新梢会油絵展=同
 井口富美子さん「ポプラ」、藤原八郎さん「積丹の海(西の河原)」に、まとまりの良さを感じました。
 ほかに、飯田正一、牛嶋義則、内田和子、刈和野良一、鈴木ナオ、山木晃治の各氏が出品。

 小林さと枝個展=ギャラリー遊(中央区南2西6、狸小路プラザハウス2階)
 札幌在住、二科所属の画家。
 花を描いた油彩とパステルの小品が中心。
 函館をモティーフに、深い緑色の海を描いた作品が目を引きました。

 ここまで読んでくださったかた、おつかれさまでした。

 
 10月17日(金)

 酒井浩慶展=ギャラリーミヤシタ(中央区南5西20) 地図D
 5月にコンチネンタルギャラリーがひらいた記念企画展以降の新作展。
 1階と2階で、ことなったアプローチをしています。
 1階は、インスタレーション。角張ったキノコのような大小の立体が19個、にょきにょきとならび、奥には、建材のように規格的な木材でこしらえたシンプルなアーチが3つ立っています。
 ことばにしてしまうとつまらないのですが、自然と人工の対比、といえなくもありません。
 壁には、数字の「9」のようなレリーフ型作品がふたつ掛けてあります。
 いっぽう、2階はこれまでと同様、ひとつひとつ木彫として独立した作品。
 大小ありますが、しぜんな曲線を生かした抽象的な、しかしどこかユーモラスな作品が多いです。
 いい忘れましたが、すべての作品には題がついていません。
 「最初にどんなものをつくるか決めてかかるんじゃなくて、木がこんなふうにけずってほしいというのを聞きながらつくっている」
と話していたけど、なんとなくわかる気がします。
 ただ、1階のインスタレーションについては
「最初、かたちが出てきたときは、すごく充実感があるんですけど、それを何個もつくっていると、楽は楽なんだけど、なんかちがう−という感じがある」
と、いささか否定的な口ぶりでした。
 19日まで。

 香川みのり銅版画展 −ポルトガル・旅のスケッチ−=エルエテギャラリースペース(中央区南1西24、リードビル2階) 地図D
 ベテランの渡会純价さんに銅版画をならっていた香川さん。イタリアかフランスに行ってこようかな、と思ったら、師匠から即座に
「きみはポルトガルだよ」
と言われ、どんな国なのかもよく知らなかったけど、スケッチ旅行をしてきたということです。
 初の個展は、すべて1版単色の銅版画23点。うち、大作3点をのぞく20点は、リスボンやモンサントなど、ポルトガル各地の風景を題材にしたもの。フレーム、マット付きで7000円が大半と、かなりやすいので、けっこう売約済みをしめす赤丸がついていました。
 大作の「奇妙な入り口」「もうひとつのモンサント」「街角の鏡売り」は、じっさいの風景を下敷きにしながらも、作者の想像力でさまざまな味付けがしてあります。
 ことしの全道展奨励賞を受けた「街角の鏡売り」の、鏡売りも想像力の産物。絵はがき売り、骨董売りなんぞはほんとうにいたそうですが。悪魔の犬のようなふしぎなけもの、空を泳ぐ長い魚など、どこかきみょうな世界です。
 「奇妙な入り口」でも、コウモリのような羽をつけたマリモが低空を飛んでいたりします。
 19日まで。

 あとふたつ、なかなかみなさんが足を運ばないであろう展覧会について。

 鈴木謙彰個展♯3 Parametric eyes=CAFE and GALLERY ShiRdi(中央区南6西23) 地図D
 アクリル(?)画とカラー写真、テキストが入ったポスターなどによる展覧会。ほかに「memories.」と題された3冊の冊子が置いてありました。
 写真はなかなかわるくないです。
 「その沈黙が怖いから」という題ともテキストともとれるふだがついていた4枚は、陰鬱な曇り空と、無表情にそびえたつ鉄塔をとらえています。ほかには、廃墟を題材にしたものもありますが、パソコンで加工するなどして、さいきんはやりの廃墟写真とは一線を劃(かく)しています。
 絵は、はだしで白衣の女の子(なんだかCoccoみたいだな)が港の岸壁のような場所に立っている「軌跡」など、こちらもイラストとしてみればかなりの腕だと思います。
 いちばんふしぎなのは、ポスター(?)と冊子なんだよなあ。
 「BIG GENERATOR」という、やはり廃墟をバックにしたグラフィクス作品には、
今月中旬からついに世界初の本格的位相差抽出型発電機である“タワー”が稼動を始める。
という書き出しの、長いテキストが書かれているんだけど、SFとも疑似科学ともつかない、妙な文章なんです。
 タイトルは、イエス(プログレッシブロックのバンド)におなじ題のアルバムがあるけど、たぶん関係ないでしょう。
 妙、といえば、冊子もふしぎ。写真と詩をおりまぜた、一種の画文集といえばいえるけど、テキストは、詩とも評論とも日記ともつかない。断片的な語句がある一方で、未完の短篇小説のような文章もある。ともあれ、写真とテキストが違和感なくいっしょに印刷されています。
 唐突な印象かもしれませんが、山口泉の小説の読後感につうじるものがちょっとあるような気もします。
 すぐれた展覧会かどうかは判断を留保したいと思いますが、見たことのないタイプの表現がここにあるということは、疑いのない事実です。
 21日まで。

 菊地絹枝陶磁器展 それぞれの器 PART2=あとりえ倫土(ろんど、西区山の手3の12の3の56)
 白い花器がインスタレーションふうに配置してあります。
 入口あたりにあるのは、どこか人のお尻を思わせるユニークなかたち。中央部には、ひょろひょろと細長くて背の高いもの。ろくろのあとでしょうか、横の縞がこまかくついています。
 窓際の床には、球体のオブジェのようなものがころがっています。
 壁には、艾沢詳子さんの版画、砂山脩菜さんと蔵本真地子さんの書が展示されています。艾沢さんの版画は、草が生えているようなモノクロームのコラグラフですが、まるいフォルムが画面にあるのがめずらしいと思います。
 19日まで。

 地下鉄の駅に「あなたと市営交通を結ぶ情報誌 With You」なる小冊子の「秋号」が置かれていて、特集は「秋の風に吹かれて札幌アート散歩」となっていました。
 市内のいろいろなギャラリーや、絵のかかっているカフェを紹介しているのですが、トム・エバハートの絵があるというだけのカフェが出ているのに、札幌時計台ギャラリーも大同ギャラリーもスカイホールもさいとうギャラリーもギャラリーたぴおも札幌市資料館も市民ギャラリーも出ていません。よく読むと誤植もちらほら。
 いったいどんな人が編集しているのか知りませんが、ふだんからギャラリーをまわって、美術に愛着を持っている人でないことだけは、はっきりしています。なんだかなー、と思います。