展覧会の紹介

WAVE NOW '02 2002年9月10−15日
コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階)
4月1−6日
井上画廊(東京都中央区銀座3の5の6、井上商会ビル3階)
 北海道出身で首都圏在住の浅野修、伊藤彰規、上野憲男、菅野充造の4氏が、札幌の阿部典英、杉山留美子、丹野信吾、米谷雄平の4氏をさそって、この4月、銀座・井上画廊で開いた初のグループ展の移動展。
 とはいっても、展示作品はかなり入れ替わっているらしい。

 首都圏組は中央の公募展などでもおなじみだし、札幌組は北海道の美術を代表する抽象作家である。このうち、伊藤さんは、札幌ではあまり聞かない名だが、横浜在住の画家。公募展には所属していない。
 1955年小樽に生まれ、北見北斗高、多摩美大を卒業している。 
 青などの色がいちめんににじみ、重なり合った画面に、ひっかいたような痕が縦横に走る抽象画だ。
 なんでも、上野さんの推薦で出品することになったらしい。

 オープニングパーティーで、伊藤さん以外は60にさしかかろうというメンバーが、申し合わせたかのように黒い服を着ていたのを見て
「玄の会だね」
と冗談交じりに言った人がいたらしい。
 「玄」の意味は「黒い」ということだから、「玄人」と書いて「くろうと」と読ませたりもするのだが、ここでいう「玄の会」とは、1978年に道内の、大正生まれの画家・彫刻家によって結成されたグループのことで、87年まで毎年続けられた、北海道の美術史の年表にもかならずと言ってよいほど載るあつまりだった(もちろん、筆者は、リアルタイムでは知りません)。
 メンバーは、伊藤将夫、亀山良雄、小谷博貞、坂坦道、砂田友治、栃内忠男、本田明二の七人で、なおお元気に絵筆をふるう栃内さんをのぞき、みな鬼籍に入られた。
 これに対し、札幌組の4人は、もっぱら公募展には拠ることなく、「TODAY」など数々のグループ展を繰り広げてきた、わかい世代の中心ランナーとでもいうべき顔ぶれであり、その人々が還暦をむかえるというのは、それはそれでひとつの感慨であろうとおもう。
 なんだかまわりくどい書き方になってしまったけど、このグループは21世紀初頭の「玄の会」と称してもよいほどの顔ぶれになっている。ようするに、長年走り続けてきて、なお元気いっぱいの充実世代のグループ展なのだ。この1、2年ほど、道内では「HIGH TIDE」「水脈の肖像」「北海道立体表現展」という大規模なグループ展が相次いでいるが、それらよりも上の世代も、抽象系にかぎったメンバーとはいえ、存在感をしめしたといってよい。
 というかですねー、「グループ展」「美術運動」というものにたいする考え方がちがうので、ここでぐしゃぐしゃ言ってもしかたないんですけど、米谷さんたちが20、30代のころとくらべても、いまのわかい世代っておとなしすぎないか?

 その 自作の前に立つ米谷雄平さん。右の立体は阿部典英さんの作品米谷さんは、平面インスタレーションとでもいうべき作品を、今春の「札幌美術展」などでも発表していたが、今回の「Ga-02」もその延長線上にある。もっとも、段ボールのつかいかたなどはかなり手慣れてきた感じがあるし、にぎやかさとポップさが以前より強くなったような気がする。

 ことし5月にも個展を開くなどなお精力的に活動をつづける阿部さん。
 東京では、その5月の個展で発表した、エロティシズムを感じさせるインスタレーションを出品したらしいが、今回は「ネェダンナサン あるいは再生(1)」「ネェダンナサン あるいは再生(2)」を出している。前者は、ギャラリーの天井ぎりぎりであるが、それがかえって、米谷さんの作品ともどもギャラリー空間ににぎやかさをあたえているような印象を受ける。

 丹野さんは、この春の「札幌美術展」などと出品作が一部重複しているだが、体調は快復されたのだろうか。「黒色小宇宙 black galaxy」「初源宇宙 sigma energing cosmos Σ」「X状星雲 X mode nebula」の3点は、いずれも、大気のおおきな流れ、ビッグバン、人体など、マクロからミクロにいたるさまざまななにかを連想させる、骨太の絵画である。

 杉山さん「From all thoughts everywhere」は、8枚のキャンバスからなる、青や緑系統だけの色彩からなる絵画。札幌美術展  のときと色調はおなじだが、その際ほとんど縦方向だった色の微妙な移ろいが、より曲線的になったような印象を受ける。黄昏時の空を見ているような、精神のいちばん深いところで色が鳴っているような、いずれにせよ、うまくいえない。

 菅野さん(東京都武蔵野市)は、国展と全道展の会員であり、全道展には毎年欠かさず作品を出しているから、あまり道外の画家という感じがしない。「STYLE02−2」「STYLE02−3」「STYLE02−4」の3点を出しているが、いずれも空間の深みをのぞかせるような独特の世界をつくりだしている。

 深み、という点では、「水の中のノート」「Rose Garden Novの空」を出した上野さん(栃木県)も負けていない。オイルチョークを活用し、細い線が繊細に走る画面は、いわゆる宇宙的なモティーフがないのにもかかわらず、どこかとおい空間で音もなく雨が降っているような、そんなひろがりをかんじさせる。

 浅野さん(神奈川県鎌倉市。主体美術会員)は、もともと四角いカンバスに絵を描く人ではなかったけれど、今回はおよそ220もの大小の木片を壁にちりばめた(「四角の空間がある」)。絵画は解体して、ばらばらに音楽を奏でているようだ。

 伊藤さんは「Land2002」と題した連作2点。

 ほかに、小品をそれぞれ1、2点出品している。

 なお、吉田豪介さんが、展覧会リーフレットにみじかい文を寄せ、枕で横浜トリエンナーレについて述べている。
 戦後の北海道の美術界とずっと伴走してくるように各作家の営みを見続けてきて、最新の現代美術が、あたかも絵画や彫刻といった旧来のジャンルに属しているというだけの理由でそれらの作品を排除しているかのような近年の傾向は、まことにおもしろくないであろうし、それについてはまったく同感である。
 ただ、表現方法がどうだという前の話として、このグループの作品はやはり、杉山さんをのぞいて、フォルマリズム的ではないかという気がするんですよ(とくに首都圏組にその傾向がつよい)。

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