展覧会の紹介

47 新道展 2002年8月28日−9月8日
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
10月24日−29日
藤丸(帯広市)
1.新道展の前線 
 最初に、アップがおくれたことをおわびします。
 
 「第三の公募展」といわれ、道内の美術ファンに親しまれている新道展(新北海道美術協会)ですが、全体的な印象は昨年とさほど変わりませんでした。会員の作品に、意欲作が多く見られるいっぽう、鑑賞者をおどろかせるような新鋭の登場がすくなかったようにおもえます。95年以来の「協会賞」(最高賞)該当なしという事実がそれをものがたっているのかもしれません。

 会場に入ってまず目を引くのが、野又圭司さんの「グローバリズムの暴力(夕張タイプ)」です。
 8月に、夕張の廃校跡で開かれたグループ展「リレーション・夕張2002」に出品されたものとおなじ立体作品です(細部まで検証したわけでないので、もしちがった点があったらごめんなさい)。ただし、教室の入口に張られていた、その名の通りグローバリズムへの反対意見をつづったテキストは、今回は見当たらなかったようです。
 荘厳な雰囲気にはあらためて惹かれましたが、サイトスペシフィックという観点からいうと、たしかにこの作品は、夕張の廃校跡に置かれていたほうが、しっくりくるようです。

 新道展の会場風景立体では、田中まゆみさん「MEMENTO−MORI」(初めのEは、アクサンテギュ付きのE)も力作です。
 90年代まではビデオアートを取り入れたインスタレーションを志向していた田中さんですが、近年はシンプルな作品になっています。今回は、八つの卵形の頂点からワイヤが伸びて、中空でひとつになっているというもの。
 それぞれの卵には、新聞紙かなにかをコピーしたような白黒のまだら模様がはいった紙が貼られていますが、なにが書いてあるのかはよみとれません。
 ただ、卵が生命の象徴であり、この作品が死と再生をあらわしていることは、たしかなようにおもえました。

 林教司さん「Satiation」。
 ナイフとフォークを持った両手と、1個の皿の部分だけが、10組、真っ白い食卓の上に、一列に並んでいます。
 ただし、皿の上に料理らしきものはなく、右手のナイフが左手の甲(あるいは指)を切ろうとしているあたりに、なにか寓意めいたものをかんじます。
 一列に並んでいるとつい「最後の晩餐」を連想しますが、あれは13組の手と皿が必要なので、直接の関係はおそらくないでしょう。
 97年に全道展から新道展に転じ、重たい作風のインスタレーションに取り組んでいる林さんですが、今回は深刻ともユーモラスともつかない作品です。

 ほかに、阿智信美智さん「グッド・バイ」、横山隆さん「廃墟・人のかたち」などが、立体の作品です。
 横山さんは、絵画と、段ボールや石膏などを素材にした立体を、交互に出しているようです。
 また、坂本順子さん、大橋弘子さん「TRANSMISSION」も、タブローではありますが、廃物を貼り付けています。やはりシンプルで重々しい作風だとおもいます。
 
2.絵画。変貌への模索 
 冒頭で、新鋭のすくなさを指摘しましたが、あたらしい才能がまったく見られないわけではありません。
 いちばん“化けた”のは、志村まみ子さん「うらしま」(新会友)ではないでしょうか。
 題名から連想されるように舞台はどうやら海の底らしく、遠景には魚影の群れが小さく光っています。でも、前景に、横向きに描かれた人物は現代人です。左側の女性と、右の男性の視線はからみあって、なんだか男が求婚しているみたいです。女性は黒いドレスからはみ出た脚がなまめかしいのと対照的に、男は白のセーターとジーンズというカジュアルな格好。女のかたわらにもうひとり女性がおり、また、画面の右端から、まるで制止するように男の左腕をつかむ手が伸びてきているのも、さまざまな憶測をさそいます。さらに、男女のそばには犬と猫がいるのにくわえ、画面奥には、上り階段があり、茶色の列柱の間を、ゆったりした衣服の女性たちが行き来しているのが見えます。
 ゆたかな物語性もさることながら、描写力もたしかなものがあります。人物の影の部分に緑をもちいていますが、それが自己目的化しておらず、全体の画面の中で必然性をもった使われ方をしているようにおもわれました。
 いっぽう、高村徳行さん「回想2002」(新会友)は、黒い直線が画面全体に躍る幻想的な大作です。抱き合う人の半身像や、天使、楽器などがかなりデフォルメされていっぱい描かれています。これで、色があったらうるさいでしょうが、ほとんど茶と黒のみを使っているので、すっきりしています。
 このほか、星川千晶さん「夜を待つ」は、ダイナミックな抽象。中埜渡美栄加さんはマティエールに特徴があります。山本洋子さん(佳作賞)も4匹の虫を主人公にしたシュールレアリスム的な絵画で印象に残りました。

 会友では、油彩以外の作品に力作がありました。
 遠藤厚子さん「芯」(佳作賞、新会員)は、膨大な数の写真断片のコラージュです。その9割はモノクロで、かぞえてはいませんがおそらく1000枚は超えるとおもわれます。そこに写っているものに意味があるのではなく、明暗を表現する手段としてもちいられています。
 西尾栄司さん「遠い空」(佳作賞)は、細密なペン画で、ふしぎな光景を描いています。
 前景は野原ですが、花や草よりも球や卵型がびっしりと埋め尽くしています。野原の奥には円錐がにょきにょきと生えており、空から垂れ下がったり、空中に浮かんでいるものもあります。ハチドリが2匹飛び、空には不穏な雲がたれこめています。中央の卵がひび割れているのは、新生の象徴でしょうか。
 ほかに、機械の集積を大画面に展開する水彩の岩田琿さん(新会員)の名も挙げておきたいと思います。

 永井唱子さん「欠落の情」は、壊れかけた天使の像が巨石を抱いて、沼の上にいるという、幻想的な絵。水面の中にも人がいるし、手前や奥に雪をいただいた幹や枝が斜めに配されるなど、かなり要素が多いのですが、それほどごちゃごちゃした感じがしないのは、モノクローム調のためでもあるでしょう。力量を感じます。
 鴇田由紀子さん「出航(やさしい朝に)T」は、いつものように原野に浮かぶ廃船というモティーフですが、船がばらばらにこわれ、今後の展開を予兆させます。

 ベテラン会員は、ことしも安定した力量を発揮しています。
 藍色の空に線や色斑が躍る抽象画で宇宙的な時空の広がりを表現する藤野千鶴子さん、崩壊した人間像をモノクロに近い静謐な画面で描く阿部国利さん、壊れた立像などでマニエリスム的世界を表現する鈴木秀明さん(7月の個展はこちら)らです。
 また、古田瑩子さんの、水彩とは思えぬ堅牢なマティエールにも、ますますみがきがかかってきました。

 しかし、あらたな展開をもとめる会員もすくなくありません。
 今荘義男さん「古里」。今荘さんはずっとこのタイトルで、抹茶色など、日本的な色の組み合わせによる抽象画にとりくんでいます。ことしの「北海道抽象派作家協会展」あたりからだったとおもいますが、最後に、黒い即興的な線を書き加えることで、書のようなテイストもただよわせています。
 東誠さん「無原罪の御食事」。東さんは模索をつづけています。コミカルな画風に変化がみられ、ことしはフランスパンのサンドイッチを持った三人の人物を描いています。右の人物のドレッドヘアが後光のようにまるくひろがり、頬にはロープのようなものが貫通しています。
 抽象的な作風ながら、木などを画面に配して、北方の風土を暗示させてきた佐藤萬寿夫さんですが、今回の「時はゆるやかに」では、いっさい具象的な要素がなくなり、白っぽい色の組み合わせだけで画面を構築しています。
 イラストのような画調で人物を描いていた井出宏子さんも抽象に転じた組です。対象が画面から消え、白や黄色の大小の四角が黒い地の上に明滅する、マレーヴィチをおもわせる作風になりました。
 これまでのポップで洒脱な作風を清算するかのように、仮面を画面右下に積み上げて、わりあい少ない色数で人物などを配置した宮澤克忠さんの「祭りの後」も目を引きました。
 インドをおもわせる摩訶不思議な絵を描いてきた櫻井マチ子さんが、トカゲと巨大な花をモティーフにした「Very Very」で、トロピカル路線に転進したことも、書き落とせません。
 
 抽象では、オプアート系の長沢勇さん「気団」が、メタリックなかがやきを持つ高い完成度をかんじさせ、もっぱら青や緑の細かい線の集積で図形を浮かび上がらせてきた後藤和司さんがまばゆいレモンイエローに転じたのが目に付きました。
 比志恵司さんも、どこかユーモアのただよう抽象です。
3.風景画は健在 
 新道展というと、抽象やシュルレアリスムの印象をもたれる方もおおいとおもいますが、じつは「道展」的な、写実の風景画をよくする作家もけっしてすくなくありません。
 このジャンルでは、山本家弘さん、山口大さん、中矢勝善さん、田中進さん、西澤宏生さんといったベテラン会員たちが、安定した作品を出しています。山本さんはスペインの街角がテーマで、高低差のない家並みがきっちりと描かれ、厚いマティエールも魅力的です。
 中村哲泰さんは、峨々たるヒマラヤの高峰がモティーフ。迫力たっぷりです。
 飯田辰夫さんは、年来の画題である「巻胴」に、廃船を組み合わせました。リアルな筆致です。ふたつのものを描いても「虻蜂取らず」にならないのもさすがだとおもいます。
 写実というのとはすこし路線がことなるかもしれませんが、松本道博さん、香取正人さんも、風景を独自に解釈して、たくみに画面を構築しており、名ははずせません。
 会友では、合田典史さんだけがこの系譜です。

 一般では、佳作賞に入った佐藤毎子さんの、きちっとしたたたずまいのある冬の情景が魅力的です。
 まだ、あまり注目されていなかったようですが、橋本明美さん「共栄」も名前を挙げておきたいひとりです。丹念に描かれた森は、このままでは「佐藤道雄フォロワー」で終わってしまいかねませんが、あたらしい風景の描き手として可能性を秘めているように感じられました。
 また、西口康子さんは、朽ちかけているちいさな漁船を描き、高い力量をしめしていますが、バックの処理をかんたんに済ませすぎていてずいぶん損をしているとおもいます。
4.待たれる新鋭 
 というわけで、昨年とおなじ結論になってしまいますが、わかい才能が出てくると会場もだいぶ華やぐとおもうんですけど…。
 最後になりましたが、菅原勇さんと木下和男さんのご冥福をお祈りします。
 菅原さんは、戦闘機と塀、少年の影などを組み合わせた「壁A」など、社会的な視線をもちあわせた作家で、58歳の死は惜しまれます。
 木下さんの展示作「ドンキホーテ」は、金工を大胆に導入した作品でした。

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