展覧会の紹介

北海道抽象派作家協会第弐拾九回展 2002年4月17日(水)〜26日(金)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)

 1973年に、札幌の前衛芸術運動の中心的存在だった渡辺伊八郎の呼びかけで始まったこの集まりも、はや30年近くになろうとしています。
 いかめいしいグループ名とはうらはらに「抽象」という以外の共通項がとくになく、参加メンバーには他の公募展に所属する人もしない人もいます。同人の入れ替わりもけっこうめまぐるしいものがあります。そのへんの融通無碍さが、長続きの秘密なのかもしれません。
 とはいえ、ことしは15年ぶりに「生け花」畑の作家の推薦がなくなるなど、新たな動きもみられます。

 全体の第一印象は
「ずいぶん、すっきりしたなー」
です。
 林教司作品と山岸誠二作品同人の林教司さん(空知管内栗沢町。新道展会員)、推薦の山岸誠二さん(札幌)の二人の作品が、上部は壁に、下半分が床に据えつけられているのを別にすれば、ほとんどが壁掛けタイプなのです。
 さきほど「融通無碍」と書いたばかりですが、具象絵画でも、ポップアートでも、コンセプチュアルアート以後の現代美術でもない「抽象絵画」を目指すというかたちになったことで、ほんとうにひさしぶりにこの団体の向かっているところが見えてきた−といえなくもありません。狙いの明確な展覧会がよいのか、ごった煮のような何でもありの展覧会がよいのかは、なんともいえませんが。 

 林の作品=写真左=は、会場で配られているパンフレットには5点記載されているが、どう見ても大きな作品1点きりにしか見えません。
 人が壁を背に、床にすわりこんだような格好のように、黒く塗られた板が設置されています。床と壁の境目附近は、紙がたわんだような形に、板もカーブしているのが特徴です。
 黒い塗りは、昨年までとちがって、黒鉛ではないようです。そのため林さんの作品にふだん見られる重厚さがさほど感じられないのは残念ですが、そのぶん、表面にナイフのようなもので刻み込まれたたくさんの線がなまなましさを表しています。

 山岸さんの「ソレデモ時は流レル」=写真右=は、7.5メートル×1.6メートルのロール紙に、色とりどりのアクリル絵の具をぶちまけたもの。方法論的には、昨年8月に上條千裕さんと開いた2人展で発表した作品と似ていると思います。つまり、山岸さん得意の、印画紙に直接現像液を振り掛けた作品の、カラーバージョンとでもいうべきものです。
 オールオーバーという点では、ジャクソン・ポロックを思い出させますが、山岸さんはドリッピングだけのように見えます。ただし、単に飛沫を散らしたのではなく、同一の方向に刷毛を動かしているとのこと。それが、画面に、一見しただけでは分からないある種の統一感をもたらしているようです。

 推薦はほかに4人。浅野美英子さん、丸藤真智子さん、田村陽子さん(以上札幌)、笹岡素子さん(江別)です。
 このなかで、ファイバーアートの田村さんが異色の存在といえましょう。彼女のインスタレーションは、カーテンで他と隔てられた空間に設置されています。中を覗くと、薄暗い中に、ビューワーのような電燈パネルの上に、緑色のプラスチックの紐の塊が置かれています。
 丸藤さんは「アート人」「キプロスの土と遊ぶ」の2点を出品していますが、茶の太い線が自在にくねり踊る前者のほうに好感を持ちました。

 同人は、1999年以来顔ぶれが変わっていません。
 創立メンバーの今荘義男さん(栗沢)と佐々木美枝子さん(札幌。自由美術協会会員)、それに、あべくによしさん(旭川)、神谷ふじ子さん(札幌。二紀会同人)、後藤和司さん(札幌、新道展会員)、近宮彦彌さん(旭川)、外山欽平さん(函館)、服部憲治さん(苫小牧)、三浦恭三さん(小樽、道展会員)、林教司の10人です。
 ことしも、日本的な抽象画を目指す今荘の連作「古里」6点(図録の5点に急きょ1点「古里」(ト)を追加した今荘義男「古里(ホ)」)に、惹かれました。
 右の写真は「古里」(ホ)ですが、深い藍色、落ち着きあるみかん色などは、とうていネット上などで完全に再現できるものではないと思います。
 おもしろいのは、カリグラフィー(書)を思わせる黒い線が、右側に登場していることです。
 今荘さんに聞くと
「ぜんぶ色が決まってからエイヤッと書くから、一発勝負なんだ」
とのこと。
 この線を加えたことで、ちょうどよい軽みのようなものが生まれたように感じられます。

 全体的には同人は、昨年までの仕事の延長線上にあります。
 あべさんは、画面に貼ってあるマスキングテープのようなものがますます増えているような気がするな。
 佐々木さん、服部さんは、枯淡の境地に入りつつあるのかしらん。しぶい、やや曖昧模糊として色面分割の細かいカラーフィールドペインティングといったらいいのでしょうか。
 外山さんは先日の時計台ギャラリーの、神谷さんは丸井今井の、個展の出品作でした。

 昨年の「北海道抽象派作家協会展」   昨年秋の秋季展

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