江別市大麻園町34のシラカバ並木つれづれ日録の題字

 2002年12月前半

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 12月15日(日)
 谷内丞作陶展=丸井今井札幌本店1条館8階美術工芸ギャラリー(中央区南1西2)
 どこか、唐の時代の文化やシルクロードを思わせるような、うつわが並んでいます。
 経歴を見ると、トルコに留学したこともあるそうで、さもありなんと思いました。「呉須釉ななかまど文双耳瓶」などの、沈んだ青い釉薬は、イスラムのモスクに使われていそうな、深みのある色あいです。
 17日まで。最終日は午後4時終了。

 MODERN EXISTENCE EXHIBITION No.22  第22回存在派展=アートスペース201(南2西1、山口中央ビル)6階
 札幌の金子辰哉さんが中心となって毎年開かれている現代美術展。
 常連さんたちは、わりといつもどおりの傾向です。
 川村雅之さんはエナメル絵の具が躍りまくる「Island」「Pill」などの平面だし、林玲二さん「now-here,no-where」はコンピュータのプリント用紙39枚を支持体に、多用なマチエールのドローイング(といってもほとんどペインティングです)で、深い抽象世界を展開しています。
 山岸誠二さんは、以前カフェ&ギャラリーShiRdiで開いた二人展の時の印画紙を再利用。印画紙に直接光を当てて描いた絵に、アクリル絵の具を散らし、ばらばらにちぎったものを壁に貼った、一種のインスタレーションです。いちばん底部に貼られているのは、裸になって印画紙の上に寝っころがって作った、初期の「印画紙絵画」だそうです。
 楢原武正さんは、例によって、黒いブリキをまいた木片を「冬がこい」状に立てた立体。
 樋爪俊二さんは本格的なSM写真。太田ひろさんは鉄製の(たぶん楽器兼用)の立体。野口耕太郎、椿宗千親、ニムエヒロミの各氏は絵画です。
 17日まで。

 北海道教育大学岩見沢校×札幌校 木工合同展覧会 ’02=同
 中田拓哉さん(岩見沢校、院1年)の「山華灯」。直線と曲線を組み合わせて、スマートに仕上げたあかりスタンド。
 樋口未来さん(同、3年)の「かたかたバス」はたのしそうなおもちゃです。メイプルとウォールナットの木の色のちがいも、うまく造形に生かしています。
 ほかに、札幌校の工藤智子、中川佳美、遠藤雄大、船山奈月、小林純平、高橋佳子、松本卓也、岩見沢校の金子佳宏、大澤真人、中畑亜紀子、赤坂真未、大槻力也、安藤みゆき、上林亜衣、只石光沙の各氏が出品しています。
 23日まで。

 道立函館美術館のニュースレター「ハコビ・ニュース」6号が出ました。
 あいかわらず、わずか4ページながら内容は濃く、とりわけ表紙の「オプ・アート展」の紹介文などは、「ただ易しく書いただけ」という凡百の美術館の作品紹介パネル類とは一線を劃するものであり、ぜひ機会があったらみなさんに読んでほしいのです(といって、札幌ではどこで読めるんだろう。道立近代美術館のリファレンスコーナーにあるんでしょうか)。
 ところで「編集後記」に、つぎのように書いてあるのが目を引きました。

帯広で開催された地域活性型のアート展「デメーテル」が不評のうちに幕を閉じたのは、現代美術の一ファンとして残念というほかない。競馬場という、今までは美術展にふさわしくないとされてきた独特の場所で行われることで、サイト・スペシティックな新たな試みとして評価が約束されていたはずである。にも関わらず、出品作家数の少なさなどから実際の展示が会場の広大さに見合っていなかったというのは、キュレーションの難しさを改めて考えさせられる出来事であった。成功していれば函館を含めた地域の活性化の一方法として考えられたかもしれないと思うと、この失敗は北海道美術全体にとってかなり大きな負の遺産となるかもしれない。

 ははは。そうか。失敗だったのか…(~_~;)←複雑な表情

 じつは、活字で「失敗」と決め付けたのを見るのは、これが初めてです。
 あの辛口で鳴るフリーペーパー「elan」でも、肯定論と否定論の両方を掲載してバランスをとっていました。
 筆者も、
「現代美術で人が呼べるかもしれない」
と、「とらぬ狸の皮算用」をした帯広商工会議所の人たちについては批判していますが、「本展」の内容については一定の評価をしていました。
 まあ、動員数が目標よりかなりすくなかったのはたしかなようです。
 それについて、筆者は実行委の人から、意外な理由を聞きました。

「地元でも、知名度が低い」

 (・_・)
 …札幌の人が知らないならむりもないかな―っておもうよ。
 でもさー、勝毎(十勝毎日新聞)で、あれだけ毎日、紹介記事が出てたんでしょ。道新(北海道新聞)のゴッホ展の記事量なんて比較にならないくらい、大露出だったじゃないですか。
 そっか。十勝の人って、勝毎、とってるだけで読んでないんだ。あはははー。

 CITY PROJECTとかいう関連企画がひどすぎたので、筆者の目には、本展がよく見えたのかな。まさか??

 ついに、旭川美術館の「因頭壽展」と、北網圏北見文化センターの「岸本裕躬・神田一明展」に行けず。悔いが残ります。


 12月14日(土)
 具象の新世紀展、つづき。

 A室。
 越智紀久張さん「彩」「月昇る」。
 いつもは広がりのある風景を描いている石狩管内厚田村の越智さん。それらの小品は、3階にならんでいました。「彩」は、紅葉の山々がモティーフ。青空は、右上にわずかにのぞくだけで、そのぶん平面的な処理となり、純粋な色彩の饗宴になっています。
 それにしても、これは個人的な感懐ですが、越智さんの絵を見ていると、ほんとに心がやすらぐおもいがします。筆者はゴッホの激しいストロークにひとつの「生」をよみとりますが、越智さんの絵で繰り返されるまるい筆の跡にも、ゴッホとは対極的なおだやかな「生」を見るおもいがするのです。

 阿部国利さん「刻の迷路」「意外なゴール」「三つのタマゴ」「時間の再生」
 モノトーンに近い色彩でシュールレアリスティックに人間像を描き、先だって亡くなった阿部さんは、わりとシャイなところのある人で、生前いろいろ話はしたのですが、絵画論となるとついに聞かなかったような気がします。ご自分の絵のことになると、話をはぐらかしてしまうのです。
 「刻の迷路」で、腕と足を折り曲げているふたりの裸婦は、腹から真っ二つに裂け、中からは、機械や動物の頭骨、はては樹木のある風景までが飛び出しています。醜悪で、ぶきみなのに、なぜか全体としてはしずかな印象を残す阿部さんの、なかばこわれた人間たち。人間のどんなところを描きたかったのか、あらためて知りたいおもいにかられましたが、それもかなわぬことになってしまいました。

 村上陽一さん「石の羽T」「石の羽U」
 昨年、道展の会員になった帯広の新鋭。
 「石の羽」シリーズでは、画面上方に、黒をバックにたたずむ女性の肖像が、下半分には、岩や旗のようなものが描かれるという構成がなされているようです。アカデミックな描写力で、夢幻的な雰囲気を現出します。

 板谷諭使さん「鳥の見た夢」「いつか海を見た」
 こちらは、ことし全道展の会員に推挙された旭川の画家。
 鳥や船、人間がドラマを繰り広げる、いささかふしぎな絵です。画肌もなんとなく、すべすべ感がなくて、吉田豪介さんは「金属的」と評しています。

 羽山雅愉さん「黄昏A」「黄昏B」
 羽山さんはここずっと、おもに小樽の風景を、いったん自分なりに咀嚼して絵にした作品を発表しています。「黄昏A」にしても、建物の配置は、丸井今井の食堂から見た小樽の風景そのものですが、黄色に光る海が、非現実的な効果を高めています。
 小樽在住、全道展会員。

 宮川美樹さん「刻T」「刻U」
 波打ち際を微細な筆で描いた連作。ガラス片をモティーフにした「U」は新作。
 日本水彩画会と道展の会員、岩見沢。

 B室
 東誠さん「デコレーションライフ」「改造計画の功罪」
 「改造…」は昨年の新道展出品作。あるいは加筆しているのかも。
 「デコレーション…」は、巨大なバースデーケーキが画面の中央から右を占めるたのしい絵。ケーキの壁が一部崩れて中がのぞいているが、内部は廊下や部屋のある空間になっており、コック帽をかぶった子どもたちが遊んでいます。木挽きのこぎりを持った子どもの先には、ロボットやパワーショベルの入ったおもちゃ箱が置かれています。空は一面真っ赤で、潮を吹いたクジラが、さかんにごみを落としながら飛行しています。
 というわけで、具体的になにを諷刺しているのかわからなくてもじゅうぶんたのしいのですが、今春の「新道展小品展」あたりから東さんは新しい画風をめざして試行をはじめています。この秋の新道展では、3人の男がフランスパンを持って登場する絵を出品していましたが、今回、3階でも、フランスパンの描かれた画面に絵の具が垂れ落ちるという小品が出品されていました。

 西田陽二さん「ひとりごと」「九月の部屋」
 白いモティーフばかりの部屋にいる裸婦を描くことで、裸婦の存在をうかびあがらせる西田さんの絵。といって、裸婦の肌も相当白い絵の具がまじっていますが。
 床に坐る裸婦の背に大きな鏡を置き、空間にひろがりをもたせるというのも、ここ最近試みているものです。
 光風会と道展の会員、札幌。

 C室
 伊藤光悦さん「Runway」「Airport」
 ことし2度の個展をひらきながら、なお新作を出してくる姿勢には頭が下がる。
 「Runway」は、滑走路が1本の、荒野にひろがる飛行場の全景ですが、もちろん飛行機は1機もえがかれず、人の気配もしない、廃墟のような空港として描かれています。
 二紀会と道展の会員、札幌。

 川畑盛邦さん「2002−4 Landscape」「2002−3 Landscape」
 「2002−4」は道展出品作。裸婦をめぐる風景が抽象的になり、寒色を中心とした色遣いと薄塗りに独特の冴えを見せています。
 道展会員、札幌。

 鈴木秀明さん「墜ちた天使」「赤い大地」
 廃墟の中に、こわれた人形を置く絵にとりくんでいます。
 廃墟とおもえぬほど色彩がカラフルなのも特徴です。「赤い大地」は、オレンジ色の空が目を引きますが、遠くに崩落した建物群が望め、いつになく画面空間に奥行きを持たせています。
 美術文化協会と新道展の会員、函館。

 黒坂陽一さん「湿原」「桜」
 前回7月の個展では出ていなかった新作だと思います。
 「桜」は、黒い夜空のひろがる風景をさえぎるように、空から薄いスクリーンがたれさがり、そこに桜の映像が投影されています。その周囲には、裸婦や木馬が配され、どこか童話風の雰囲気を保っています。
 日洋会委員、日展会友。札幌。

 ほかの作品はつぎのとおり。
 川口浩(全道展会員、札幌)「4月の風景」「石のように」
 佐藤武(札幌)「不安な時代」「夕月」「去りゆく日」
 福井路可(国展と全道展の会員、室蘭)「昨日の海」「昨日の風」
 森山誠(自由美術会員、札幌)「Aの肖像」「memory02’1」
 矢元政行(行動美術と全道展の会員、登別)「生き物たちのパレード」「方舟」
 梅津薫(全道展会員、岩見沢)「蒼穹の丘「蒼穹の大地」
 茶谷雄司(道展会員、光風会会友、札幌)「新しい風」(同題2点)
 西田靖郎(美術文化と新道展の会員、檜山管内熊石町)「ECLIPSE T」「ECLIPSE U」

 林雅治 ニュースペーパーは伝える After the fall=this is gallery(南3東1)
 林さんは、走泥社などに影響されて現代陶芸にたずさわる陶芸家(後志管内倶知安町在住)。
 「After the fall」というのは、米国同時テロから1年が経過したときの、カナダの新聞の見出しとのこと。
 作品はインスタレーションで、54枚の薄く白っぽい陶板に、さまざまな靴跡がついているというもの。壁には、陶の細い管をつなぎ合わせて、世界貿易センタービルをあらわす形がつくられています。
 足跡は、逃げた人のものということらしいです。まあ、死んだ人は、崩壊したビルの前に足跡はのこせませんから。
 「こういうのは神経がつかれる。こんどの夏の個展(大同ギャラリー)は、これまでとおなじような路線で行きます」
と林さんは話していました。

 三浦逸雄個展=はーぜんろっほ(南4西9)
 まったくノーマークだったけど、つよい印象をのこした絵画展。
 グワッシュとおぼしき16点で「インテリオール」と題した連作です。サイズはどれもおなじ、写真でいうと四つ切サイズくらいか。
 ほとんどの絵が、がらんとした室内を舞台にしています。
 全裸でうしろむきの少年が、大きなガラス窓(あるいは扉)から入ってくる紳士と向かい合っている「居間の少年」
 全裸の少女が、数匹の魚とともに床に寝そべっている「泥の室」
 天使がうしろむきに立っている「あした」
など、どれも顔などははっきりと描かれず、また室内には家具などがまったくありません。
 なんだか、以前見た夢を思い出してかいているような絵です。
 構図などは、非常に簡素ですが、しっかりしています。
 三浦さんは空知管内長沼町在住。お店にあった案内状によれば、45年札幌生まれで、70年代はスペイン活躍していたようです。
 「はーぜんろっほ」は、古い蔵を活用したすてきな、隠れ家みたいなレストランでした。でも「小学生以下はご遠慮ください」とのことなので、しばらく行けそうにないなあ。

 以上14日までで終了。
 15日までの展覧会について、たまっているので以下一挙に。

 新明史子展=TEMPORARY SPACE(北4西27)
 「本」形式の作品が3冊と、写真によるインスタレーションが5組。
 後者は、40−60枚ほどの写真をつなぎ合わせて一つの風景写真にするという方法論は、デイビット・ホックニーに似ていますが、ホックニーとちがってちゃんとオチがあります。
 写真はどれも最近の江差(檜山管内)をうつしたものなのですが、中心の、人が何人かうつっている1枚だけが、70年代なかばの、すこし色褪せた写真なのです。
 そして、おなじ人物が、四半世紀の時を経て、その近くに立っているのです。
 いちばん手前には、中心に貼られたふるい写真を手に持っているところを、もう一度撮るという、念入りな仕掛けをした写真が貼られています。
 おなじ風景の中で、25年の時をへだてた同一人物が立っている…。
 新明さんは、めまいのするような不思議な時空を、みごとにつくりだしてみせたのです。
 これは、江差だから可能だった、という側面もあるでしょう。
 札幌なら、むかしの風景は根こそぎ改変させられています。
 もちろん、コンクリートの塀がふるくなったり、木が大きくなったり、丘の上に風力発電機が立ったりという変化はありますが、基本的にはあまり変わっていないからこそ、このような写真が可能になったのでしょう。
 見ていると、他人なのに、或る種の懐かしさで、胸がいっぱいになりそうでした。

 前者は、例によって、ふるい人物写真をコピーして切り抜き、家族の来歴をイメージで物語るものです。
「おもひだしたこともないことを はじめての海 一九七五」(これは、春に芸術の森美術館でひらかれた「現代・版・展」に出品)
「おもひだしたこともないことを 六月二十四日 一九七九」
「水無月の人々」
の3冊です。
 「水無月…」は、71年に結婚式で集まった親戚と、84年に法事で集まった親戚の集合写真をコピーして切り抜き、左右のページに貼ったもので、13年の時の流れが、無言かつ雄弁にたちのぼってきます。最後に、集合写真全体のコピーを貼り、おまけとして、71年にはまだ存在していなかった子の写真のコピーを貼っている構成もニクイです。
 ただし、上のインスタレーションで、四半世紀後に登場しない人物が黙示されていることからもわかるように、これまでの作品にくらべ、新明さんが「死」という要素を意識し始めたのかなあ、という感じはします。4人家族ならとりあえず、「死」はまだ遠い先だもんね。でも、視野が家族の外に向くと、それは否応のない現実として、日々のスナップ写真にも刻印されているのです。
 新明さんは73年生まれ、札幌在住。今回は2度目の個展ですが、まさに次代の北海道の美術をになう逸材であることを確信したしだいです。
 2000−01年の「北の創造者たち」展はこちら。

 子供のきもち 末武晋一写真展札幌市写真ライブラリー(北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階)
 中判カメラ、モノクロで、わが子の成長を追った29枚組み、計136枚からなる個展。
 いまだから白状しますが、この手の写真、むかしは
「親バカだなー」
と見下していましたが、自分に子どもができると、じつにその気持ち、カメラをむけたくなるよく分かります。いやー、自然な表情が、ほんとにかわいいんだなあ。
 筆者のお気に入りは「ふうせんちょうだい」。
 大通公園3丁目にある石川啄木像の手に風船がゆわえてあるのを、うらやましそうに女の子が見ている図。
 もうひとつは「木はおかあさん」で、空に壮快なほど、トンボが群れをなして飛んでいるので、子どもたちが大喜びしている写真でした。

 珪奏窯 菊地敏治作陶展=さいとうギャラリー(南1西3、ラ・ガレリア5階)
 うつわが中心の、じつにオーソドックスな陶展。
 落ち着いた粉引と、三島の茶碗などが中心です。
 菊地さんは空知管内栗沢町美流渡の在住。

 渋谷栄一版画小品展=エルエテ・ギャラリースペース(南1西24の1の11リードビル2階)
 春陽会、全道展のベテラン銅版画家ですが、意外にも「小品展」ははじめてとのこと。
 全道展などでは、軽快な曲線のおどるパリ風景などでわたしたちをたのしませてくれます。今回は、その手の版画もありますが、女の子の横顔を画面いっぱいに描写したものや、「青い炎」といった抽象作品、木口木版もあり、知られざる渋谷さんの一面を見た思いでした。

 こすもす1107祭=コンチネンタルギャラリー(南1西11、コンチネンタルビル地下1階)
 「こすもす・いいおんな」は、働く女性たちの異業種交流グループ。サイトはこちら
 書道、デザイン、お菓子でつくった神社、クラフトなどもりだくさん。みんな、仕事と家庭でいそがしいのに、なおかつこうやって日々の暮らしを豊かにしているんだなあ。それにくらべて世の男どもはなにやっとんのかなあ。やっぱ酒のみすぎかなあ―などとついつい考えてしまいました。
 五十嵐道子さんの前衛書、山岸誠二さんみたい。たぶん偶然だけど。

 第三回 書道わか葉会展スカイホール(南1西3、大丸藤井セントラル7階)全室
 毎日書道展と書道道展の会員で、道内かなの第一人者だった故・松本春子の弟子、阿部和加子さんによる社中展。65人が1点ずつ出品しています。
 もちろん、ほとんどがかななので、良し悪しはよくわからんのですが、それぞれの作品に、赤ペンで振り仮名をつけた写真版を添えたのは劃期的。かなは読めないですからねー。
 二尺六尺などより、額装した小品がおおいですが、ちらしのしかたに独創がある作品がありました。とくに、短歌だと、最後の句が絶妙の場所にちらしてある例がかなりありました。
 うちのガキんちょが日々お世話になっている夫の和男さん(小児科医)も「病者の祈り」という大作を、顧問として出品しています。

 2002 あひる会絵画展札幌市資料館(大通西13)
 札幌市役所の絵画サークルの小品展。
 ところが、これがあなどれないのです。
 西澤宏基(となってたけど「宏生」じゃないのか)さんの「厚岸の春」は、海とトタン屋根の青の繰り返しが印象的。「北大早春」も出品。
 森山誠さんは、めずらしくみずみずしい「林檎」と、いつもの灰色で茫漠とモティーフ(帽子と花?)を描いた「卓上02−1」。
 中矢勝善さんは「採石現場のある風景」と「秋日」。後者は、近景の茶色の葉、中景の暗い集落、遠くのあかるいトーンの空と海―といったかたちが、いつもの作品と共通しています。
 白鳥洋一さんは「冬の港」と、めずらしく赤やピンクの模様が乱舞する「花火」。
 大林雅さんは「風化」「痕」「お台場」の3点。「痕」は、床板に赤い三角形の模様がめりこんでいる、大林さんにはめずらしい1枚。
 大林さんと「呑展」でいっしょの小林恒美さんは「サルタヒコの死」「オノコロ島誕生」。
 以上、有名どころ以外では、山田和加子さん「若い女性」が、ういういしい裸婦像で、好感を持ちました。

 写真で見る北海道の伝説 高田紀子作品展=同
 「札幌を開拓したお地蔵様」「江差の姥神さま」「伊達のチャランケ岩」など、道内各地に点在する伝説62について、カラー写真パネルと文章で紹介したもの。
 たいへんな労作ですが、本にするなどしたほうが、内容的にあっているように思います。

 三軌会南北海道支部展ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル)
 100号クラスの油彩のグループ展。
 水彩の得意な酒井芳元さんは「トレドの丘」を出品。イエローオーカー系の色を平坦に塗った空が特徴的。
 和田陽一さん(江別)の「懐」「衝」は、おびただしい色を使っていながら全体はクリアな、カラーフィールドペインティング。
 酒井嘉也さん(後志管内倶知安町)の「石切場」は、遠くの突堤や海と、中景の2本の巨大な裸木などが、まるで大きさのあわないのが不思議な絵。ほかに「三日月とバイオリン」。
 このほかの出品作はつぎのとおり。
 村山祥子(同ニセコ町)「仲秋のニセコ」
 赤部仁利(札幌)「山裾の秋」
 渡辺温夫(同管内余市町)「小樽運河A」小樽運河B」
 高松淳一(胆振管内白老町)「部屋の一隅」「城のある風景」
 山田則重(後志管内共和町)「懐古」
 多田眞光子(同京極町)「跨線橋」「廃屋」

 第55回市民美術・書道展札幌市民ギャラリー(南2東6)
 絵画はほとんどアマチュア。大賞は、木版画の伊勢陽子さん「冬のうた」。
 書道はかなと墨象を中心に、絵画ほど水準は低くない。大賞は、林維子さん「妙」(墨象)に贈られました。

 膨大な分量になったので、会期末まで間のある展覧会はあす以降にまわします。
 また、「亀山良雄展」も、近日中にアップします。


 12月13日(金)
 風邪です、風邪。
 12日は休みだったので一日寝てましたが、まったく病状がかわらないので、きょうは起きてうろうろしてました。

 第1回 具象の新世紀展札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
 一昨年まで10年つづいた「北の現代具象展」が衣替えして、15人の「実行委員」が、5年をめどに再スタートしました。
 とおもったら、けっこう「北の現代…」に出品してて、「新世紀」には出てない人って多いんですね。
 最大の違いは、日本画と版画のみなさんがいっせいに姿を消し、洋画グループとしての性格がつよまったことでしょう。
 日本画の伊藤洋子、白崎博、中野邦昭、羽生輝の4氏、版画の清水敦、福岡幸一両氏が、メンバーでからはずれています。
 それ以外には、油彩の白鳥信之さんもやめたようです。
 かわって、油彩の川口浩さん森山誠さん、福井路可さんがくわわりました。
 また、今回からのあたらしいこころみとして、美術評論家の吉田豪介さんに推薦してもらった作家から6人をえらんで、招待作家として出品をあおいでいるほか、3個所の移動展会場では、その地区ごとに「交流作家」として作品を出してもらっています。
 招待作家は、東誠、板谷諭使、梅津薫、茶谷雄司、西田靖郎、村上陽一の6氏。
 また、滝川展で真柄修一さんと浦隆一さん、千歳展に奈良昌美さん、根室展に高坂和子さん、西川孝さん、長谷川雅章さんが、それぞれ出品しました。以上の6人は、札幌では展示がありません。
 この結果、「地域や公募展のわくを超えた第一線画家のグループ」という性格はより強化されたということができますが、実行委員と招待作家がすべて男性となり、女性は根室展の高坂和子さんだけになりました。これはちょっとおもしろい現象というべきかもしれません。 

 札幌会場では、2階の3室が大作、3階の4室が小品というぐあいに分けて陳列されました。
 大作についていえば、公募展などで多忙のメンバーが多かったのでしょうか、全体的に既発表作が目立ちます。
 たとえば、福井さん、矢元政行さん、輪島進一さんは、昨年発足した「ACT5」のメンバーでもあります。
 輪島さんの絵「メランコリア」は、昨年の個展の段階では「夜明けの微風」と題されていたような…。
 しかも今回、絵が縦に真っ二つに分断される形で額装されていたのも気になります。

 (以下翌日)


 12月11日(水)
 「具象の新世紀展」と「辻けい展」について書かなきゃならんのですが、その前に「美術ペン」の原稿が締め切りを大幅にすぎているので、なんとかせにゃならんのです。


 12月10日(火)
 テレビでみましたが、東京の雪はすごいですね。
 札幌より雪の多い東京というのは、初めて見ました。

 香川軍男薯版画 北見・福村書店カレンダー展=ギャラリーたぴお(中央区北2西2、道特会館)
 ことし9月に87歳で亡くなった北見の薯(いも)版画家・香川軍男(ときお)さんは、1975年版から毎年、北見を代表する本屋さんである福村書店のカレンダー用に薯版画を作成していました。これを、ギャラリーたぴおの主宰者の竹田博さんがデザインしていたのです。
 カレンダーは、縦長の1枚もので、余白に8枚程度の版画をあしらったデザインが多いです。
 題材は、アイヌ民族の家、ラッセル車、デレッキ、レンガ倉庫といった、北国の風物詩、生活用具などが中心でした。なつかしい素朴な風合いです。
 年によっては、セザンヌ、小出楢重、ゴッホなど、東西の文化人をテーマにしていましたが、数センチの狭来年の福村書店のカレンダーい画面によく各人の特徴をとらえていましたし、乗り物でも、SL(蒸気機関車)の9600系とD51をちゃんと区別する芸の細かさもみせていました。
 各月の「1」から「31」までの数字も薯版です。ただ、これは毎年、12カ月おなじ版下をつかっています。
 自作は2000年が最後で、ホタテやホッケなど魚介類がテーマですが、これも陰翳の付けかたなどがじつにリアル。それ以降は体調をくずして新作を送ってこなくなり、竹田さんが旧作からえらんでデザインしていました。
 最新の2003年カレンダー=写真はその一部=は、コンピューターで旧作をスキャンしているため、薯版独特のハーフトーンはざんねんながら完全には出ていないようです。
 竹田さんは
「秋になると郵送されてきてた版画がもう来なくなると思うと、さびしいね」
と話していました。来年以降どうなるかもきまっていないようです。
 18日まで。日曜休み。

 第1回NPMテーマ展 都市を育む緑空間 札幌の森富士フォトサロン札幌(北2西4、札幌三井ビル別館)
 180万都市・札幌の市内にも、ちょっと都心を離れるとまだ多くの緑がのこっています。そんな近傍の森の表情や動植物をとらえたネイチャーフォト展。
 おおむね、冬から春、夏、秋そしてまた冬−という構成になっています。
 意外だったのは、筆者の家からあるいて15分ほどのところにある西岡公園で撮影した写真が多かったこと。久保田亜矢さんの写した「森のドラマー」は、大きなキツツキであるクマゲラが主役です。まあ、アカゲラなら北大あたりにもいて、めずらしくないですが、クマゲラがいるのはすごい。ほかに、エゾフクロウが写っているものもあります。
 ほかに、撮影地として、江別市にまたがる野幌森林公園や、滝野すずらん公園が多いのは、まあうなずけるところでしょう。
 これまた意外に思ったのは、堂々たるエゾヤマザクラの大木が何本もそびえている写真の撮影地が「北区・篠路」とあったこと。筆者の「篠路」のイメージって、新興住宅地、原野なんですけどねえ。探検のしがいがありそうです。
 「NPM」は「北海道Nature Photo Masters」の略。雨竜沼湿原の写真で知られる岡本洋典さんが代表を務めています。サイトはこちら
 写真展は18日まで。 

 VISION 2002 8つの視点=クレセール・アートバーグ(大通西9、札幌デザイナー学院)
 松村繁さんの鉛筆画「ことば」に注目しました。
 西洋人の兄妹とおぼしき少年少女を主要モティーフとし、画面の下には、やや谷っぽくなった地形に杉の疎林や家が描かれています。そして、それら全体が、巨大な葉の上にあるという構成になっています。
 どうしてなのか、タルコフスキーを連想させます。
 松村さんはアクリル画などで非凡な描写力を発揮しますが、それにくわえて、ロマン主義的な空気を発信した絵を、今回はじめて見ました。
 ほかに、伊藤幸子さんの彫刻「雫のハンモック」、藤田真理さんの抽象画「Under lie」、渋谷俊彦さんの版画「時の刻印T」「時の刻印U」、木路毛五郎さんのちょっとエロティックな絵画「ためらい」(同題2点)、品川等さんの立体「Snow Ball 8×12」、ばばのりこさんの挿絵、ながせ義孝さんの漫画が展示されています。
 13日まで。

 第15回 フォトクラブ北こぶし写真展=イーストウエストフォトギャラリー(南3西8、大洋ビル2階)
 風景、山岳を中心とした6人のグループ展。夕方の風景にひかれるものがありました。
 佐藤昌子さん「帰港」。夕ぐれの前浜、凪の海を帰っていく小舟を逆光でとらえた佳作。船外機の音がとおくから聞こえてきそうです。
 松尾明さん「紅葉」は、画面全体をオレンジ色のカエデが覆っています。隙間からわずかにのぞく青い空とのコントラストも絶妙です。
 杉山光男さん「シリパ岬夕景」も、たそがれの岬をバランスよくとらえていました。
 杉山玲子さん、鳥井睦子さん、八木沼陽子さんも出品しています。
 17日まで。

 坂田眞理子 陶・あかり展=らいらっく・ぎゃらりい(大通西4、道銀本店ビル1階)
 黒が特徴のうつわと、陶の灯りの個展。
 黒なので、あかりが映えます。
 入りぐち附近にあるインスタレーションふうのあかりの作品は、昨年の米国同時テロのニュースに接して浮かんできた塔のイメージを具現化したものだそうです。
 坂田さんは札幌に「吉兆窯」をひらいています。13日まで。
 来年1月7−12日にはさいとうギャラリーでも個展をひらきます。

 三橋紀子展=アリアンスフランセ−ズギャラリー(南2西5、南2西5ビル2階)
 床に人工芝みたいのを敷き、天井に紙を貼るなどして、会場を大々的に変容させたインスタレーション。ただし、このギャラリーに初めて来る人には、どこに作品があるのかわからないのではないでしょうか。
 13日まで。ご本人のサイト「artholic」はこちら。


 12月9日(月)
 INCREASE/増殖 紙によるインスタレーション=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)
 新道展のメンバーが、4ないし6人ずつ4つのグループに分かれ、共同作業でインスタレーションを構成していく試みです。
 制作作業は、5−7日に会場で公開され、あす10日まで展覧がなされています。
 筆者は、制作の公開中に多忙のため行けなかったのがざんねんですが、これは文句なしにおもしろいと思います。
 よその地方のことはよくわかりませんが、こんなことやっている県展って、本州や九州、四国にありますかね?
 コラボレーションによる「メルツバウ」というべきなのか…
「increase/増殖」の会場風景 新道展は一昨年にもおなじ会場で「ドローイング展」を共同作業で実現させています。

 もともと、大同ギャラリーは、ふたつのフロアが会場内の階段でむすばれるという、道内でも屈指のユニークな構造を持つ空間でありながら、そのユニークさをフルに活用した展覧会というのは、これまであまりひらかれていません。
 今回は、上下のフロアを、2グループずつが担当すると同時に、階段や吹き抜けの部分にまで、作品がはみ出しています。
 これで、ギャラリーの外の空中庭園の部分まで作品がはみ出していけば、もっとおもしろかったのでしょうけど、紙という素材を考えればこれはちょっとむりでしょう。

 手がけた作家の個性がよーく出ているので、知ってる人はより楽しめる展覧会になっています(もちろん、知らない人もじゅうぶん楽しめます)。
 たとえば、右上の写真で、奥の三角錐が垂れ下がっているあたりは、坂本順子さんを中心にしたチームの担当。手前の卵は、田中まゆみさんらのグループによるものです。
 このグループに参加した細木博子さんによると、当初は卵を立てようというプランだったらしいですが、どうしても立たず、半分に切って、のこりは入りぐち附近に立てかけたそうです。「increase/増殖」の会場風景
 田中さん、卵型がすきなんだなあ。
 上のフロアは、手前が林教司さんを実行委員とするスタッフ。
 メーンとなる図形は舟によく似ており、昨年の個展のことを思い出しました。
 かなりアドリブでつくったらしく、毎日形状が変わったとのことです。
 一方、阿智信美智さんを実行委員に、野又圭司さんらが加わった奥の班は、綿密な設計図をつくり、その通りにアーチ型の立体を、天井や壁に近接させながら作っていったのですが、ざんねんながら一部は橋脚部分ができただけで終わってしまったようです。

 参加者は次の通り。
 坂本順子・大橋弘子、福島靖代、古田瑩子
 田中まゆみ・池田宇衣子、伊藤みゆき、後藤和司、永野曜一、細木博子
 林教司・今荘義男、岩佐淑子、古川康子、横山隆
 阿智信美智・伊賀信、野又圭司、細野弥恵
 今回の作成の模様は、来年秋の新道展の会場で流すそうです。

 斎田英代作陶展=マリヤクラフトギャラリー(北1西3)
 会場中央のテーブルの上に、河原の石みたいのが200個あまりもならんでいます。
 じつはこれ、すべて蓋物。ふたをあけると、ちゃんと中には釉薬が塗られ、実用に耐えるようになっています(一輪挿しとか、マスタードいれとか)。
 外側は焼きしめが多いので、一見すると自然の石のようなのです。
 ほか、陶片20個ばかりからなるパズルなどもあり、あそび心満載の陶芸展です。
 作者は小樽在住。
 あす時計台ギャラリーあたりに行く人は、ぜひこちらも顔を出してほしい展覧会です。

 100の茶碗展アートスペース201(南2西1、山口中央ビル)
 西村和、工藤和彦、清水しおり、田中菜摘、七尾佳洋、武者千夏子の若手陶芸家6人によるグループ展。
 2室のうち1室は、茶碗の展示に、もう一部屋は、他の器や茶器、陶板などの展示につかわれています。
 西村さんは面取りの器に力を発揮し、清水さんは鉄釉やグレーの渋いものがよく、工藤さんも刷毛目や白土のが渋くて、また七尾さんも白釉が清新な感じ、武者さんは赤絵に特徴あり、田中さんはかなり変わった器を出品しています。

 いずれも10日まで。

 表紙のTOPICSにも書きましたが、イーストウエストフォトギャラリー(中央区南3西8、大洋ビル2階)が今年かぎりで閉館となります。
 イーストウエスト札幌支社が大洋ビルをひきはらうのだそうです。
 新年からは、すでにイーストウエストデジタルセンターが開設されている北18西3にあたらしいフォトサロンがオープンします。北18条駅すぐそばです。
 近くのギャラリーといえば、GALLERIA CAFFEクルトゥーラ(北区北12西4)くらいしかないのですが、古本屋めぐりついでに行ってみますか。そばには北天堂書店などもあるし。


 12月8日(日)
 北海道新聞などによると、オランダのファン・ゴッホ美術館から、ゴッホの絵2点が盗まれたそうです。
 その記事(共同電)には、「スヘフェーニンゲンの海の眺め」など2点−とありましたが、もう1点は、「ニューネンのプロテスタント教会を出る会衆」で、じつはこの絵、今年夏に道立近代美術館などでひらかれたゴッホ展に出品されていました。
 ゴッホの画業では、比較的初期に属する絵ですが、それにしてもびっくりですね。


 12月7日(土)
 
5日のつづき。

 可窯 岩井孝道 冬の器展アートスペース201(中央区南2西1、山口中央ビル5階)
 岩井さんは空知管内長沼町在住の陶芸家。
 岩井さんの持ち味といえる、メロン釉青白磁とメロン釉のうつわが中心です。前者は、澄んだ水色がじつにさわやかで、洋食の食卓ににあいそう。後者は、ガラス質を持った貫入が美しく、いつまでも見飽きません。

 X VISION (Haruka Nukada/Michiko Byakuno)=同
 札教育大在学中の額田春加さんと百野道子さんの二人展。
 額田さんは銅版画4点と油彩3点。油彩「Hole」は、茶色の塊が、底なしの深い穴を思わせます。
 百野さんは日本画4点とカラー写真。日本画「With Love」は、白い葉の舞うなか、禿頭の女性が毅然と前を見つめる姿を描きます。
 ということで、なんかふしぎな感じのする展覧会であります。
 いずれも10日まで。 

 「変貌の地」相澤良一写真展コニカプラザサッポロ(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階)
 道東の野付半島にある奇観「トドワラ」を、カラー24枚、モノクロ7枚でとらえた写真展。ほかに「道東点描」と題した風景写真がカラーで11点。
 野付半島は、地図で見ると、北海道から北方領土の択捉島のほうに突き出たエビのしっぽみたいに見えます。日本最大の砂洲です。いちばん細いところは、ちょっと大げさに言うと、道の両側が海岸という、まか不思議なところです。
 その、エビの脚にあたる附近にあるのがトドワラです。トドマツの林が、海水の浸入などで、白骨のように立ち枯れたものです。辺境のイメージの強い風景だけに、北海道観光のポスター等にもよくつかわれてきた光景です。
 しかし
「ここ数年で急速に立ち枯れがすすみ、倒木が増えてきました。昔のトドワラしか知らない人はおどろくはずです。その記録の意味もあり、写真を撮りに通いました」
と、網走管内置戸町の相澤さんは言います。
 今回の写真の特徴は、冬に撮影したものがわりと多いこと。海水が凍ったなかに、真っ白な倒木が固まっているさまは、おそろしいさびしさです。ありきたりのことばですが、大自然の厳しさを感じます。
 「道東点描」では、「朝光」と題した、逆光のシラカバ林の向こうから放射状に光が伸びてくる、荘厳な風景に心惹かれました。地平線から太陽がのぼってくる一瞬前をとらえたのでしょう。
 9日まで。

 近藤武義・幸子水彩小品展=札幌市民会館ギャラリー(北1西1)
 これは5日に終了しています。
 武義さんが31点。道内外、欧州の風景画が中心。
 幸子さんは26点で、こちらは花や野菜など静物画に、人物や風景もあります。お二人とも、写実的な画風です。
 とりわけ武義さんは、落ち着きのある筆致と安定した構図で、見ていて飽きません。中島公園や、春を待つ円山公園、秋の釧路湿原、手稲山を望む牧場を描いた「牧場の春」など佳品だと思います。が、「小公園の初夏」「廃屋の秋」といった、名もない風景を題材にした絵にも、心を奪われました。


 12月6日(金)
 きのうのつづき(一部、きょう見た展覧会もふくむ)。
 まず、8日までの展覧会から。

 HAKONIWA札幌市写真ライブラリー(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館3階)
 1978年−86年生まれの8人による写真展。
 昨年あたりから札幌では、若手による写真のグループ展がさかんですが、今回の展覧会は、そのなかでも大きな成果といえるでしょう。
 まず、会場を入ると、8人が1点ずつ、モノクロの巨大なプリントを貼っています。デカイので、粒子は粗いですが、ともあれ、メンバーの意気込みはびしばしとつたわってきます。とくに、柵山隆之さん(78年生まれ。小樽商大)の、幼い女の子のまなざしを撮った1枚が、印象につよく残ります。
 中に入ると、それぞれが展示に工夫をこらしていました。
 とりわけ、筆者がおどろいたのは飛世将利さん(81年生まれ)の展示でした。モノクロのみ17点で、1枚1枚を取り出してみると、さほどすごい写真というわけでもないのですが、組み合わせが絶妙なのです。
 棟方志功のように版木に顔を近づけてなにか彫っている男。公園の木。若い男の肖像。街路樹(?)の幹の肌に彫られたいたずらがき。…なんだか連想ゲームみたいに、なぞめいています。
 後半は、裸の女。入院患者らしきパジャマ姿の男。公園の芝生にベビーカーをとめ、こちらに背中を向けて坐っている女。うつむいている若い女の横向きの顔。…ヌードの主と若い女が同一人物かどうかはわかりませんし、ベビーカーの女やパジャマの男との関係もわかりません。ただ、いくつもの物語が編めるだけです。最後の1枚は、若い女が一筋涙を流しているバストショットです。
 以下、カラーが中心。真鍋裕美さん(78年生まれ。小樽商大)は、高層団地の無機質性を、じっくりと追っています。
 大沢亜実さん(82年生まれ。札幌学院大)は、女性モデルをぱしゃぱしゃ撮っています。「浅草」シリーズには、ロケハンの才能というか、おもしろい場所をさがしだす嗅覚のよさが感じられます。ご本人のサイトはこちら
 鈴木あゆ美さん(79年生まれ)はカラー15枚。「ヒトモシゴロ」がテーマで、夜のクラブ、フライヤーの貼られた壁、氷入りのグラスなど、夕方から夜にかけての街の体温のようなものを、ブレやボケをも語彙にして、とらえています。すっかりススキノが遠ざかってしまったおじさんの筆者には新鮮な感覚です。
 ほかに、久住絵里香さん(82年生まれ。北大)、本田知子さん(78年生まれ。北海学園大)、早坂ようこさん(86年生まれ、高校生)が出品しています。
 それにしても、鈴木さんはたしか「LAD」の呼びかけ人だったはずで、このふたつのグループは、人脈的にも近そうだけど、いったいどういう関係なんでしょうか。

 宮崎むつ展=ギャラリーミヤシタ(南5西20)
 札幌在住の抽象画家、宮崎さん。1992年には、道立近代美術館の「北海道・今日の美術」に出品し、今春の「札幌の美術−20人の試み展」にもノミネートされるなど、着実に評価されている人です。いただいた資料によると個展はこれが21回目。
 1階には「ひらく」「森」「花」「青い音」、それに2点組の小品「かすかなもの」「家の庭」、2階には「赤い音」「夜空」が展示されています。
 いずれも、赤または青を基調に、絵の具による小さな飛沫の点が全面をびっしりと覆っています。それこそ、満天の星空を見入っている時のような、画面にすいこまれるような感じを受けます。ただし、よく見ると、鉛筆による直線が、点々の下におびただしく横断していて、画面に鋭角的な感覚をあたえています。
 また「ひらく」などは、飛沫の集積から、ドーナツ型の同心円がぼんやりと浮き出て見えるようになっており、オールオーバーな画面づくりに取り組んでいるこの画家にしてはめずらしく、フォルムへの意志がにじんでいます。

 第3回 北の墨人選抜展札幌市民ギャラリー(南2東6)
 以前にも書いたけど、墨象の展覧会って、スポーツを観戦するみたいなすがすがしさを感じません?
 壁に並んでいる作品から、筆者は想像します。バケツになみなみと注がれた墨汁に太い筆をつけて、紙の上に思いっきり筆を走らせるさまを思い浮かべるのです。それは、まさにお上品な書ではなく、体力勝負の作業なのではないかと思います。
 とはいえ、展覧会場は、モノクロームの閑寂な世界であり、スポーツとはだいぶちがいます。その落差(?)も興味深いものがあります。
 さて、このグループ展、中堅というよりは墨象オールスターといったおもむきの顔ぶれです。
 馬場怜さん(後志管内余市町)や照井心磊さん(旭川)、樋口雅山房さん(札幌)らベテラン勢は、比較的小さな作品でまとめています。
 一方、渋谷北象さん(旭川)「帰山」は、わりと紙いっぱいに書かれることの多い墨象作品のなかではめずらしく、余白の美を生かしています。
 石田光子さん(札幌)「浄」、伊藤迪子さん(余市)「坐」(パンフレットには「座」になっていましたが、文字を見るかぎりでは「まだれ」はありません)は、飛沫がカッコよく、塚本宏美さん(札幌)「淡」も飛沫の配置がユニークです。
 立石芙美子さん(同)「実」は、小さくまとめるのを拒否するようなパワーを感じさせます。

 おなじ会場では、第17回グループ「游」書展も始まっているはずですが、まだ飾り付けをしていました。
 「宮の森倶楽部」作品展というのは、東急ストア円山店のカルチャーセンター発表大会。でも、あの場所(北1西24)で「宮の森」というのは、相当ムリがあるとおもいますが。

 第11回花見和夫写真展「豊平川」札幌市資料館(大通西13)
 上流域の豊平峡ダムから、石狩川との合流点まで、35点でまんべんなく川をとらえています。花火大会とか、いかだ競争とか、ごみゼロ作戦とか、人間が被写体のものが多いですが、「幌平橋の鮭の彫刻」は「南大橋」(通称九条橋)ではないでしょうか。
 ほかに、昌子と希美子二人展(油彩など)、さっぽろ野の花の会「野の花スケッチ絵展」、佐藤伸美油絵展「深呼吸」、友愛会展(油彩、水彩)も開催中。

 齊藤博之油絵展三越札幌店(南1西3)9階ギャラリー
 あいかわらずすごい描写力です。静物画を中心に22点。
 ことしの「第4回北の大地ビエンナーレ展」で道知事賞になった「裏山から」は、カシワの落葉が積み重なるなかに、リスやカタツムリ、蛙がかくれ、空中には羽虫がとんでいます。「裏山にて」も、似た主旨の作品。
 この2枚は背景が、これまでの作品と同様、真っ暗なのですが、フランスパンや、チューリップを描いた作品は、黄色系のバックです。
 齊藤さんというと、暗い背景に、動物の頭骨と落葉をモティーフにした絵をおもいうかべますが、そのころの作品よりも、心なしか雰囲気があかるくなってきたような気がします。
 最近は、年4、5回は全国各地で個展を開いているそうです。
 後志管内余市町在住。

 第8回 小谷博貞となかまたち展=ギャラリーユリイカ(南3西1、和田ビル2階)
 ことし6月に逝去された北海道美術界の重鎮、小谷さんは、1964年の札幌大谷短大美術科開設と同時に講師となり、その後助教授、教授を経て、93年に退職するまで、多くの教え子を育てました。
 小谷先生を慕う同窓生たちが95年に始めたのが「なかまたち展」です。
 主体展などには、重厚な抽象画を出品していた小谷さんも、この「なかまたち展」には、切手や羽を用いたしゃれたコラージュなどを出していたのが、印象にのこっています。
 しかし、逝去により、今回が最終回になってしまいました。
 最終回に陳列されている小谷さんの小品2点はいずれも未発表作。
 「霧の湖」は、1969年の作。青い山が湖面に反射するさまを、デカルコマニーの技法をもちいて描いています。エルンストを思わせる、鮮烈な作品です。
 いっぽう「THE いろ」は、ご自身のパレットをキャンバスに貼り付けた作品。「MAKE USE OF 1949−99」との注記が貼られています。意外にも、代表作「立棺」シリーズで目に付く茶色はほとんどなく、灰色の絵の具がかたまっています。
 それにしても、半世紀にわたってつかってきたパレットを、どういう形にせよ、老境を迎えてわが身から離してしまう、というのは、どんな心境なんでしょうか。
 出品している卒業生は本州勢もふくめ36人。
 山内敦子さん(全道展会友)、早川尚さん(道展会員)、吉田敏子さん(全道展会友)、関川敦子さん(全道展会員)など、版画家が多いのがめだちます。また、道内の女性具象彫刻家ではベテランの小野寺紀子さん(同)が「コスモス」という、さりげないレリーフを出しています。
 西山史真子さんは、ユリイカのむかいの居酒屋「いもたこなんきん」でビールを飲んで談笑している小谷さんのスケッチを出品しています。ただし、いもたこなんきんはことし、ほかの店に変わってしまいました。清水真千子さんの作品は、小谷さんのフィギュアです。
 ユリイカのオーナー、鈴木葉子さんも、小谷さんの教え子で、今回は書を出品。「10回はやりたいね、と言ってたんですが」としみじみ話していました。

 久保猶司 游工房展=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1)
 津軽塗の作家。
 黒、赤に加え、緑の重箱などがありました。伝統的ななかにも斬新さ、モダンさが感じられ、全体としてすっきりしています。
 大皿「月の皿」は、皿のぐるりに、月の満ち欠けを12の絵で表現したもの。
 ほかに、ブレスレット、文箱、壁掛けパネルなど、たくさんの作品がありました。

 以上8日まで。

 類似の分野の展覧会として、原清うるし展=レンガ館ギャラリー梅鳳堂(中央区北2東4、サッポロファクトリー・レンガ館2階)も開かれていますが、こちらは、塗り物のわりには、塗りが均質ではなく、わざと木の質感を出しているようです。ほとんど、栃やセンの木で、皿やお盆がならんでいます。
 終了日失念(すいません)。

 つづいて、あす7日で終わる展覧会。

 仙庭宣之絵画展「展望台」=this is gallery(南3東1)
 油彩6点。
 「public housing」は、コンビニエンスストアのある団地街。
 「plane ground」は、飛行場の滑走路。
 「plain place」は広場。
 そういうごくありふれた、しかし無人の風景を、写真で言えばかなり「ハイキー」ぎみの色調で、たんたんと描いています。いずれも、遠景ばかりなのも特徴でしょう。
 いま、ありふれた風景といいましたが、じつは絵筆を執る人の大半は、ありふれた風景など描かないわけで、そういう意味ではめずらしい。感覚でいうと、たとえば写真のホンマタカシとかと共通点があると思います。じつにドライなのです。

 創立15周年記念 六稜美術展=ギャラリーノルテ(北1西6、損保ジャパンビル3階)
 道教大旭川校と、その前身の道学芸大旭川分校、道第三師範学校、旭川師範学校の同窓生によるグループ展。58人が1点ずつ出品しています。
 パンフレットには「書道・篆刻・絵画・工芸・写真」とうたわれており、このうち筆者は篆刻はまったくわからないのでのぞきますが、のこる4分野のうち見ごたえのあるのは書道でした。絵画、写真は、だれひとり名前を知る人なく、工芸も、畠山三代喜さんの遺作をのぞくと、魚住劭さんの陶芸ぐらいしか知っている名前にであいません。
 書道は人材豊富で、高橋百遥さんが「白鴎飛ぶ」という、硬質の近代詩文を出品していますし、東志青邨さん「胞」は淡墨の濃淡が、まるで呼吸のようにリズミカルに表現されています。
 ほかにも、中野北溟さん、宇野雉洞さんらが出品しています。

 5日終了、あるいは9日以降終了の展覧会については、あす書きます。ご諒承ください。

 札幌の12月のギャラリー日程が、札幌市資料館の日程を追加して、ようやくそれなりのかたちになりました。どうぞ、ご利用ください。
 それにしても、資料館は、12月最終週はどうするのだろう。どこにも書いてありません。


 12月5日(木)
 本日は大量。の予定でしたが、ごめんなさい。あす以降に書きます。


 12月4日(水)
 きのうはネタがないのでさぼってしまいました。

 現代作家作品展13=ギャラリーたぴお(中央区北2西2、道特会館)
 男性ばかり11人によるグループ展。
 阿部啓八さんは、コラージュ。白を塗り重ねた地に、円形が八つ連なるのは、昨年亡くなった菊地又男さんを思わせますが、深みのある画面だと思います。
 加賀美光玄さんは書道(漢字)。淡墨で、余白を生かしたつくり。
 小林孝人さんは写真。ロシアの街の夕景でしょうか、手ブレをわざと起こした画面がおもしろいです。フレアを入れた写真もあります。
 斉藤邦彦さんはパステル画など。この人の絵も、マティエールに深みがあります。
 高坂史彦さんは「抽象」と題した2点ですが、絵柄よりも、数の子昆布のようなざらざらつぶつぶしたマティエールに惹かれました。
 あれっと思わせるのが藤川弘毅さん。もうオープニングパーティーは終わったはずなのに、どうしてスパゲッティなどの料理があるんだろう、と思ったら、食堂の入り口に置いてある、ろう製のサンプルが作品なのです。
 ほかに、一原有徳さん、竹田博さん、為岡進さん、長谷川雅志さん、林教司さんが出品しています。
 7日まで。

 三明伸水彩画展=さいとうギャラリー(南1西3、ラ・ガレリア5階)
 三明伸水彩画展の会場風景なんと、ことしに入って4度目の個展です(うち1回は函館)。ほかにも「歩歩の会」などグループ展にも出品しており、たいへんな活躍です。
 会社を退職されたばかりとのことで、思う存分筆をふるってらっしゃるのでしょう。
 今回も、透明感たっぷりの水彩画、サムホールから8号までの36点が展示されています。
 大半は、札幌や函館の風景を写実的に、丁寧に描いたもの。
 花の絵や、故郷の仙台をモティーフにした絵もあります。
 右の写真は「冬の道」。北区の百合が原公園を題材にしたものです。手前に樹木を、遠景に手稲山を配した構図は、無理なくひろがりを感じさせます。
 この絵の180°反対側を描いたのが「冬は歩くスキー場」と題した絵だそうです。
 「冬の道」にかぎらず、北大第二農場を描いた写真中央の「木立の中に」や、駒ヶ岳をとらえた「森町から」など、自然なスケール感が出ているのは、勢いで仕上げるのではない、細部までゆるがせにしない筆遣いのたまものでしょう。
 また、「朝の公園」は、大通公園の3丁目にある峯孝さん作の野外彫刻「牧童」を逆光ぎみに描いているのが、うまい効果を挙げています。
 なんて、あまりほめると三明さんが恐縮しそうですが。
 夫人の靖子さんが、サムエル・ウルマンの有名な詩「青春」を書いた書が、同時展示されています。
 8日まで。

 北玄12人展スカイホール(南1西3、大丸藤井セントラル7階)
 荒井啓公、梶浦翠巒、櫻井九晨、佐々木晴啓、竹本きみ、藤田美智子、和田遥花(以上札幌)、大崎泰漣(網走)、小川翠苑(函館)、橋本聳山(登別)、松尾大山(空知管内新十津川町)、山谷陽子(石狩)の各氏が出品しています。さいきん、この手の、社中全員ではなく、中堅選抜展みたいのがけっこう多いですね。今回は、漢字、かな、近代詩文と、種類、作風とも、じつにバラエティーに富んでいるのがうれしいところです。
 個人的なこのみでは、櫻井さんの「逐鹿」が、文字がダンスしているみたいですごいなーと思いました。
 橋本さんの「晴還舞」も、迫力と同時に余裕のようなものが感じられて、好きでした。 

 木村初江陶展=同
 今回は、うつわが中心。木村さんは、並べ方のセンスもいいなーと、いたく感心しました。
 ご本人のサイトはこちら
 いずれも8日まで。木村さんは期間中、午後6時までなのでご注意を。

 今週はちょっと遅れ気味ですね。
 とりあえず、あしたで終わるもののうち、市民会館の近藤武義・幸子水彩小品展は最終日ですが見に行くつもりでおります。


 12月2日(月)
 きょうは札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)のみ。

 赤石準一個展「自然への回帰」=A、C室
 シャープで明快な油彩の抽象画。版画もあります。
 「セネガル」は、カナリヤイエローの地に、青、オレンジ、緑の帯(zip)が横にまっすぐ、2本ずつ入っています。
 「川」は、反対に、青や水色の帯が縦に引いてあります。一種のカラーフィールドペインティング。
 これらは、抽象画ではあるけれど、どこかに、現実のモティーフのしっぽをわずかに残している感じ。
 いっぽう、「リズム」と題された一連の作品は、ビリジアン系の地に、棒状の空色やオレンジの長くない線が、交わることなしに、何本もひかれています。
 線のひかれかたは規則的といえば規則的ですが、ところどころで角度が変わったりしています。モンドリアンの絵が、デザイン的であるにもかかわらず、でもやっぱり絵画である、というのと、どこか共通しているような気がしました。

 富原加奈子彫刻展=B室
 昨年の道展あたりからだったと思うけど、人物をモティーフにするのをやめて、ふしぎな彫刻を作り始めた富原さん。
 通常は彫刻にされることのない風景に、果敢にとりくんでいます。
 「風の丘」「うるるのくに」などは、大福もちのような大地に、突起が付いていて、或るひとつの小宇宙のようなまとまりのある空間を表現しえています。
 また「風の塔」は、角錐がくっつきあった、ふしぎな形状の建築物をつくっています。
 こういうテーマだと、箱庭や、建築模型のようなものになりそうなもんですが、そうはならずに、ちゃんと彫刻になっているところは、すごいなーと思います。風景を写生するのではなく、あくまでイメージを具現化しているからなのでしょう。
 素材が、ブロンズ、木彫、金属(アルミ)、テラコッタなどと多彩なのもおもしろいです。

 サークルげん展=D室
 田口福生代(ふさよ)、中野頼子、田中恵子、横山真佐子、塚原宏平の5氏により開かれている絵画展。
 田中さんの「メモリー」がおもしろい。画面上方に壁があって、下に釣鐘状の窓があって…というふしぎな風景を、黒を多用して描いています。ルオーが風景画を描いたら、あるいはこんな風になるかも。

 武井悦子個展 CANDLE CRAFT2002 青の世界=E室
 白や青など、寒色系でまとめられたろうそくの数々。
 15年、キャンドルつくりに携わってきただけのことはあり、すっきりとフォルムがまとまっています。
 この展覧会がすてきなのは、見る人が、実際にこれらの作品に火がついて、作品が消尽していくさまを、想像する必要がある、というところにあると思います。作品がなくなっていくのがうつくしいなんて、キャンドル以外ではあまりないんじゃないでしょうか。

 第四回 グループ櫂 日本画展=G室
 竹澤桂子さん「Graffiti・02」は道展出品作。これは、絵がまずいということではないので誤解しないでほしいのですが、どうしても筆者の目には、消失点が上すぎるように感じられるのです。なぜでしょうか。
 植物画が全体的には多いです。

 7日まで。


 12月1日(日)
 伊藤三千代 彫刻小品展“海からの贈り物”=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階)
 新進彫刻家として筆者も注目している伊藤隆弘さん(空知管内長沼町在住。全道展会友)の奥様も彫刻家でした。
 「夫の端材をもらってつくる」という大理石などの小品が11点。これが、なかなかいいんですよ。
 うまく言えないけど、見ているうちに顔がほころんでゆくんです。
 抽象的なもの、具象的なものといろいろあるけど、とてもあたたかさを感じます。
 「海からの贈り物」と題された作品は、もともと色が入った不思議な味わいのある大理石を用いています。ちい伊藤三千代「海からの贈り物」さな生き物が、海流や、風の流れのなかから、ひょっこり頭を出したような、かわいらしさを宿した作品です。
 「上昇気流」は、らせん形のシンプルな作品。「風のオブジェ」は、ホイップクリームを思わせます。
 伊藤さんは石川県の生まれ。結婚してはじめて北海道に来て、長沼で風の強さを感じたということです。
 「彫刻は、その場所というのが大事だと思うんです」
と話します。「風のオブジェ」は、そんな長沼で受けた印象が元になっているのでしょう。
 札幌もすっかり大都会になってしまって猛吹雪も少なくなりましたが、長沼まで行くと、吹きすさぶ風は激しく、広大な石狩平野の風土というものを感じさせますよね。
 「北海道の人というのは、お互いの作品についてすごく言い合ったり、言葉にしたりしますよね。金沢ではあまり他人のことを言わないので初めはびっくりしましたが、まあそれもいいかなと、最近は思ってます」
 心のホッとする展覧会でした。
 デジカメの調子が悪く、写真のアップはあす以降にします(2日アップしました)。

 北海道浅井学園大学多年草展=同
 北海道女子短大時代、日本画を習っていた卒業生のグループ展。指導者の伴百合野さんが、古代ギリシャ・ローマ風の情緒あふれる「シエナ」を賛助出品しています。
 全体的に細い筆でこまかく描写した作品が多いです。技法やテーマなどを解説した紙片が附してあり、これは案外珍しい試みだと思います。
 峯祐子さん「secret-813」は、泳ぐ魚を環にして配置しており「水晶末を使った」という水色がさわやかです。
 小上由美子さん「麦殻風景〜川西の畑より」は、羊蹄山の麓にひろがる、秋の小麦畑を写実的に描いた作品。
 前鼻桜子さん「happiness」は、犬の周りにクローバーをたくさん描き込んでいます。絵の中にひとつだけ四つ葉のクローバーがあるそうですが、ナント、筆者は絵を見た瞬間に発見してしまいました。うーん、幸せになれるかなあ。

 いずれも3日まで。

 梅田東支子油絵展=パークギャラリー(南10西3、パークホテル内)
 ことしの道展・油彩部門で新人賞を得た滝川市江部乙町在住の女性。
 受賞作の「古代記憶」シリーズをはじめ、約30点が展示されています。
 「古代記憶」は、作者が10年以上にわたって取り組んでいるようです。背景に銅鏡や遺跡の壁画などを大きくあしらい、手前に女性像を配した構成画。なんといっても背後の壁画や鏡などの古びた質感がよく表現されており、情感をたかめています。
 小品は、花を描いたものが中心です。
 2日まで。

 それにしても今週はちょっとサボったなあ。
 見に行けずに後悔しているのは、きょうで終わった北海道書道連盟展と、黒百合会(北大美術部)展、北海道二科会展(写真)。
 きょうは、3カ所でオープニングパーティーがあったようですが、仕事なので出席しませんでした。

 いよいよことしも、年末回顧の時季がやってまいりました。
 昨年までと同様、専用のページを設けますので、どしどしご応募ください。いちおうベスト5ということにしておきますが、かく申す筆者はすでに10くらいの展覧会を選ぶつもりでおりますので、あまりウルサイことは言いません。また、別に美術じゃなくてもオーケーです。
 送付方法も、メールでもなんでもかまいませんので、よろしく!

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