これまでの重回積分の方法を拡張することにより、任意のゼータ特殊値を得ることのできる統一的法則性を見出し
ました。また統一的法則と演算子との間に潜む対称性を明らかにしました。最後に「杉岡の逆問題」を提示しました。
これまで私は、次のオイラーの式を重回積分してその積分の次元を上げていくことで、次々とζ(3)、ζ(5)、ζ(7)・・
が求められることを示してきました。
log(sinx)=-Σ1/n・cos(2nx) - log2 ------@
(n=1〜∞)
ζ(n)を求めるには、@式の両辺を0〜π/2の範囲で(n-1)回積分すればよいことになります。
例えば、ζ(3)では2回積分、ζ(5)では4回積分をする、ということですね。
さて・・・・・、私は、ひょっとして・・と思いました。
上のような事実があるならば、例えば、ζ(-1)を考えた場合、(-1 - 1)=-2回積分、すなわち、2回微分すれば
ζ(-1)が出てくるのではないか?
さらに、ζ(-3)では、(-3 - 1)=-4回積分、つまり、4回微分すればζ(-3)が出てくるのではないか?
と予想しました。
試した結果、この予想は正しい、ことが判明しました。
並べてみれば次のようになっています。
・
・
@を6回積分--------------->ζ(7)出現
@を4回積分--------------->ζ(5)出現
@を2回積分--------------->ζ(3)出現
@を0回積分--------------->ζ(1)だけ出ない。
@を−2回積分(2回微分)---->ζ(-1)出現
@を−4回積分(4回微分)---->ζ(-3)出現
@を−6回積分(6回微分)---->ζ(-5)出現
・
・
これには驚きました。こんな面白い”演算による”統一的法則性がはり巡らされていたのです。
(”統一的法則性”とは私がここで勝手に名付けた呼称です。感じがよくわかる呼び名と思うのですが・・)
積分でも(0〜xの範囲で積分)微分でも演算した結果にx=π/2を代入すると、従来より知られている次の
負の奇数ゼータの不思議な特殊値が、次々と自動的に求まることがわかったのです。
ζ(-1)=”1+2+3+4+・・・・・”=-1/12
ζ(-3)=”1+2^3+3^3+4^3+・・・・・”=1/120
ζ(-5)=”1+2^5+3^5+4^5+・・・・・”=-1/252
・
・
このような手法で上記値が出てくる、というところがポイントです。
正の奇数ゼータの場合は重回積分で、負の奇数ゼータの場合は重回微分でその特殊値が
自動的に出てくる。
奇数ゼータζ(2n+1)で、2n+1が正の場合を地上世界、負の場合を地下世界とすると、地上から地下まで全く
秩序だった関係性で結ばれていました。
・・・,ζ(-7),ζ(-5),ζ(-3),ζ(-1),(極は除く),ζ(3),ζ(5),ζ(7),ζ(9),・・・・・
極ζ(1)を除く、負から正のすべての奇数ゼータが統一的手法で得られることが判明したのです。
計算は簡単ですので、ぜひ一度行ってみてください。みなさんにもその不思議さを味わってほしいと
思います(正の場合の重回積分での気の遠くなるような計算とは大違い!)。
(参考までに偶数ゼータζ(2n)は従来より非常によくわかっていて、負の特殊値ζ(-2)、ζ(-4)、ζ(-6)・・・
は不思議なことに、すべて0です。またもちろんζ(0)はζ(0)=”1+1+1+・・・”=-1/2です。)
リーマン・ゼータ関数ζ(n)のnが奇数の場合と偶数の場合を総括的に眺めてみますと、nが1以外のときは、
すべて何らかの有限の値をとる、ということです。
唯一1点だけ、ζ(1)だけが
ζ(1)=1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 +・・・=∞
という発散する値をとり、リーマン・ゼータの世界における極になっています。
そして、唯一このζ(1)だけが特異点的ポイントになっていて、この手法では値が求まりません。
求まらないのは当然で、これは極であり、発散ポイントだからです。n=1の場合には次式が出てきます。
log2=1 - 1/2 + 1/3 - 1/4 + 1/5 - 1/6 + 1/7 - 1/8 +・・・
この式自体は、公式集にも載っている全く常識的な式です。ところが・・・
ここで、ζ(1)を求めようと、上式の変形を行ってみると・・・
log2=1 - 1/2 + 1/3 - 1/4 + 1/5 - 1/6 + 1/7 - 1/8 +・・・
=1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 + 1/5 + 1/6 + ・・・-2( 1/2 + 1/4 + 1/6 + 1/8 +・・・・ )
=ζ(1) - 2・1/2( 1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 +・・・・ )
=ζ(1) - 2・1/2ζ(1)
=ζ(1) - ζ(1)
となり、この場合だけ、ζ(1)の値が求まらないという事態に陥るのです。
リーマン・ゼータの極では、このようなことになっています。極の話終わり。
話を本筋に戻します。
ちなみに、今回見出したこの関係性はもう一つ別の方法 x・log(sinx)=-Σ1/n・x・cos(2nx) - (log2)xを
重回積分する方法でも成立していることは容易に予想されますし、また杉岡の予想でも述べた通り、他の場合
への拡張も容易でしょう。
この統一的関係性の発見を通じて想うのは、ゼータの世界は、どこまでも調和と秩序で満たされている、という
ことです。その感をますます深くした事実でした。
まとめておきます。
追加2003/10/26
佐藤郁郎氏は、下記サイトで上の統一的法則性に関連し、上式にπ/2ではなくπ/4を!代入するという方法を用い、
ディリクレのL関数(偶数)特殊値までも含めた非常に興味深い結果を出されています。
さらに上式とは異なるΣcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2 - π^2/12という式を用い、やはりπ/4を代入する方法で、
偶数ゼータと奇数L関数の統一的関係性を示されました。
また、「佐藤の公式」と呼ぶべき奇数ゼータの多くの新しい式も導かれています。
具体例を上げた方が実感がわくでしょうから、ζ(-3)を例にとり、
ζ(-3)=”1+2^3+3^3+4^3+・・・・・”=1/120 という不思議な特殊値が本当に上の統一的手法から出るか、
見てみましょう。
[ζ(-3)の導出]
log(sinx)=-Σ1/n・cos(2nx) - log2 ------@
(n=1〜∞)
ζ(-3)は、上の導出方法より、@式の両辺を、-(-3-1)=4回微分することになります。
さて、計算していくと、
@の左辺の4回微分=-16Σn^3・cos(2nx) -----A
(n=1〜∞)
@の右辺の4回微分={-2(sinx)^2 - 6(cosx)^2}/(sinx)^4 -----B
となります。
AとBにx=π/2を代入します。
まず、Bにπ/2を代入すると、 Bの(x=π/2)の値=(-2 - 6×0)/1 =-2 ---C
次にAにπ/2を代入すると、
Aの(x=π/2)の値=-16(1^3cosπ+2^3cos2π+3^3cos3π+4^3cos4π+5^3cos5π+6^3cos6π+・・・)
=-16( -1^3 + 2^3 - 3^3 + 4^3 - 5^3 + 6^3 - ・・・)
=16( 1^3 - 2^3 + 3^3 - 4^3 + 5^3 - 6^3 + ・・・) -----D
さて、ここで、ゼータでよくやる変形を行います。
( 1^3 - 2^3 + 3^3 - 4^3 + 5^3 - 6^3 + ・・・)
=( 1^3 + 2^3 + 3^3 + 4^3 + 5^3 + 6^3 + ・・・) - 2( 2^3 + 4^3 + 6^3 + ・・・)
=ζ(-3) - 2( 2^3 + 4^3 + 6^3 + ・・・)
=ζ(-3) - 2・2^3( 1^3 + 2^3 + 3^3 + ・・・)
=ζ(-3) - 2・2^3ζ(-3)
=- 15ζ(-3)
よって、Dより結局、 Aの(x=π/2)の値=16×(-15)×ζ(-3) -----E
となります。
CとEは等しいので、 16×(-15)×ζ(-3) =-2
よって、ζ(-3)=1/120 が無事求まりました。
終わり。
ζ(-1)=”1+2+3+4+・・・・・”=-1/12 や ζ(-5)=”1+2^5+3^5+4^5+・・・・・”=-1/252 などもきちんと
出ますので、ぜひ計算してみてください。
ここでは、「その4」から様々に示してきたことをさらに一般的な視点から眺めてみたいのです。
本サイトで、種々の奇数ゼータの式を導きましたが、その考察の中心はオイラーの次の式でした。
log(sinx)=-Σ1/n・cos(2nx) - log2 -----@
(n=1〜∞)
また、佐藤郁郎氏のサイトで示され、氏が次々と新しい奇数ゼータの式を出されたのは次の式でした。
Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2 - π^2/12
(n=1〜∞)
すなわち、
(π/2-x)^2=Σcos(2nx)/n^2 - π^2/12 ----A
(n=1〜∞)
@とAに、なにか共通的な視点はないでしょうか?
私は、マグロウヒル公式集(*)を眺めていて@やAはフーリエ展開式(フーリエ級数)になっていることに気付
きました。
@はlog(sinx)のフーリエ展開、Aもやはり(π/2-x)^2のフーリエ展開となっています。
このことから、他の様々な関数を考察することでも、冒頭の統一的法則を適用することで、任意の奇数
ゼータの明示式を次々と示すことができることは容易に推測されます。
実際、マグロウヒル公式集には、すぐにでも使えそうな多くのフーリエ展開式が載ってます。
利用できそうなものを、いくつかをピックアップしてみましょう。
*****************************************************
[1] -π < x < π
log|cos(x/2)|=-(ln2 - cosx/1 + cos2x/2 - cos3x/3 + cos4x/4 - ・・・・)
*****************************************************
[2] 0 < x < π
log|sin(x/2)|=-(ln2 + cosx/1 + cos2x/2 + cos3x/3 + cos4x/4 + ・・・・) <---@と同じ
*****************************************************
[3] 0 < x < π
x(π-x)=π^2/6- (cos2x/1^2 + cos4x/2^2 + cos6x/3^2 + cos8x/4^2 + ・・・・) <---Aと同じ
*****************************************************
[4] 0 <= x <= 2π
x(x-π)(x-2π)/12= sinx/1^3 + sin2x/2^3 + sin3x/3^3 + sin4x/4^3 + ・・・・
*****************************************************
[5] -π < x < π
x= 2(sinx/1 - sin2x/2 + sin3x/3 - sin4x/4 + ・・・・)
*****************************************************
[6] 0 < x < 2π
x= π - 2(sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + sin4x/4 + ・・・・)
*****************************************************
[7] f(x) = 1 ( 0 < x <π のとき) 、
=-1 ( -π < x <0 のとき)
f(x)=(4/π)(sinx/1 + sin3x/3 + sin5x/5 + sin7x/7 + ・・・・)
*****************************************************
[8] f(x) =|x|= x ( 0 < x < π のとき) 、
=-x ( -π < x < 0 のとき)
f(x)=π/2 - (4/π)(cosx/1 + cos3x/3 + cos5x/5 + cos7x/7 + ・・・・)
*****************************************************
[9] -π < x < π
x^2=π^2/3- 4(cosx/1^2 - cos2x/2^2 + cos3x/3^2 - cos4x/4^2 + ・・・・)
****************************************************
まだまだ多くの式が載っていますが、この程度にしておきます。
右辺の形を見ているだけで、「これは利用できそうだ」とすぐわかるでしょう。
私がやったπ/2代入の方法や、また佐藤郁郎氏のπ/4代入の方法を採用すればL関数も含めた形で
かなり有用な結果が得られるだろうと考えられます。
まだあまり詳しく調べていないので、大雑把な言い方になりますが、冒頭の統一的法則を成立せしめて
いる根幹にフーリエ展開があった、ということです。
(注意:これは、下の<”演算”という立場から、さらに偶数ゼータも見直す>でベキ級数展開をも含めた、演算子
(作用素)における対称性という、さらに広い視点から論じられることになります。)
ただし、”任意の”関数のフーリエ展開までもが利用できるわけではないと思います。
たとえば、
-π < x < π, μは整数でない
sinμx=(2sinμx/π){sinx/(1^2-μ^2) - 2sin2x/(2^2-μ^2) + 3sin3x/(3^2-μ^2) - ・・・}
や、また
-π < x < π, |a| < 1
log(1-2a・cosx+a^2)=-2{a・cosx+(a^2/2)cos2x+(a^3/3)cos3x+・・・}
などは利用できないだろうと思えてしまいます。
利用できるのは、[1]〜[9]の右辺のような”うまい形”になっているものだけでしょう。
逆に言えば・・、ゼータ導出に利用できるフーリエ展開式は、どのようなものに限られるか?
という問いは、きわめて興味ある問いといえるでしょう。
(あるいは、「どのような関数をフーリエ展開すれば有用なものとなるのか?」と問うても同じですが)
[1]〜[9]を眺めていて気付いたことがあります。それは、左辺に三角関数が現れていないもの、すなわち、
xやx(x-π)やその他のxの多項式の類のものは左辺を数回微分するとすぐに0になってしまうことから、
佐藤氏が行った深い考察(http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/sugioka3.htm)と合わて、
そのような場合は偶数ゼータと奇数L関数の考察に有効である、と容易に推測されます。
また、左辺に三角関数(その他)が現れているものは、微分を何回続けてもその関数自体が0になることが
ないため、この場合は奇数ゼータと偶数L関数の考察に有効である、と言えるのではないかと思います。
まとめて言えば、
すべての奇数ゼータとL関数の統一的法則性の考察の大元にフーリエ展開(フーリエ級数)がある
ということになります。
*「マグロウヒル数学公式・数表ハンドブック」(Murray R.Spiegel 著、氏家勝巳訳、オーム社) <---素晴らしくまとまっている公式集です!
追記2003/11/19
上の「・・ような場合は偶数ゼータと奇数L関数の考察に有効である」という私の予想が正しいことは、佐藤郁郎氏が
そしていろいろと考えていたのですが、私は偶数ゼータでも同じような仕組みがあるのではないかと思いました。
「その3」で私はつぎのような不思議な式を次々と導き出しては、喜んでいました。 (じつはこれらはかなり知られている式であることが、後でわかりましたが) πx/tanπx=- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ } ---@
πx/tanhπx=2{-ζ(0) x^0 + ζ(2) x^2 - ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 - ・・・ }---A
(πx)^2/(sinπx)^2=2{-1・ζ(0) x^0 + 1・ζ(2) x^2 + 3・ζ(4)x^4 + 5・ζ(6)x^6 + ・・・ }---B πx/sinhπx = 2{ (1-2^1)ζ(0)x^0 - (1-2^(-1))ζ(2) x^2 + (1-2^(-3))ζ(4)x^4 - (1-2^(-5))ζ(6)x^6 +・・・ }---C πx/sinπx = 2{ (1-2^1)ζ(0)x^0 + (1-2^(-1))ζ(2) x^2 + (1-2^(-3))ζ(4)x^4 + (1-2^(-5))ζ(6)x^6 + ・・・ }---D log(πx/sinπx)= 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ }---E ( すべて0 < |x| < 1)
これらは左辺の関数のテイラー展開となっていますね。
奇数ゼータの議論を一段落したいま、これらを眺めて直していて、偶数ゼータにおいて奇数ゼータに対する双対的
現象と呼ぶべき現象が発現していることに気付きました。
演算という立場に立って、これらの式を眺めてみてください。ここでも、やはり統一的法則性が成立していると
考えられます。
具体的に@式を例にとってみますと次のようになります。
(Dは一回微分、∫は0〜xまでの定積分。もちろんDDは2回微分、∫∫は2回定積分を意味します。)
・
・
定数×DDDDDD(πx/tanπx)でx->0とした値 =ζ(6)
定数×DDDD(πx/tanπx)でx->0とした値 =ζ(4)
定数×DD(πx/tanπx)でx->0とした値 =ζ(2)
定数×(πx/tanπx)でx->0とした値 =ζ(0) ----------A
「ある定数」×∫∫(πx/tanπx)でx->0とした値=0=ζ(-2)?
「ある定数」×∫∫∫∫(πx/tanπx)でx->0とした値=0=ζ(-4)?
「ある定数」×∫∫∫∫∫∫(πx/tanπx)でx->0とした値=0=ζ(-6)?
・
・
と、こんな形になっています。
(πx/tanπx)の重回積分を直接計算するのは大変ですので、実際には、@の右辺を重回積分することに
なります。その結果にx->0とした結果がすべて0となるのは、@の右辺よりわかります(項別積分OK)。
もちろん
・・ζ(-6)=0、ζ(-4)=0、ζ(-2)=0、ζ(0)=-1/2、ζ(2)=π^2/6、ζ(4)=π^4/90、ζ(6)=π^6/945、・・・
です。
上では一応?としましたが、冒頭の奇数ゼータの統一的法則性成立との連関、そして、ここでの上の微分側での
統一的法則性の半分の成立、そして、積分側の”0”の並びを見ると、上の?はとれ、これはもうほとんど次が成立
していると予想されます。
・
・
6回微分で ----------->ζ(6)= π^6/945が出る。
4回微分で ----------->ζ(4)=π^4/90が出る。 2回微分で ----------->ζ(2)=π^2/6が出る。 0回微分で ----------->ζ(0)=-1/2が出る。
−2回微分(2回積分)で -->ζ(-2)=0 が出る。
−4回微分(4回積分)で -->ζ(-4)=0 が出る。
−6回微分(6回積分)で -->ζ(-6)=0 が出る。
・
・
このように統一的法則性がここでも成り立っているようです。
注意:上のAでの微分側の”定数”は既知ですが、積分側の「ある定数」がどんな数になるのかは不明です。
微分側が既知で積分側が不明であるのは、@式などでゼータがあらわに顔を出しているかいないかに依ることは
すぐわかるでしょう。ただ不明であっても、∫・・∫(πx/tanπx)が全て0なのですから、最終的な結果ζ(-2)、
ζ(-4)、ζ(-6)・・の値と結局すべて一致するわけです。
上の重回積分の方では結局、積分範囲を”0〜0”とするのと同等となっています。
これは、このページ冒頭の<重回積分の方法を拡張することで任意の奇数ゼータを統一的に導出できる>での
方法「積分の方は、0〜π/2で、微分の方はx=π/2で」にうまく対応しています。なぜならπ/2を0に置き換えると
上の方法つまり「積分の方は0〜0で、微分の方はx=0で」となるからです。
Aの計算の概略を説明します。
[導出の概略]
微分の方の計算は明らかですので、略します。
積分計算の方ですが、
πx/tanπx=- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ } -----@
ですので、
∫∫(πx/tanπx)を計算する代わりに、
∫∫[- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ }]を計算し、
また
∫∫∫∫(πx/tanπx)を計算する代わりに、
∫∫∫∫[- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ }]を計算し・・・・・・、
とこれを続けていくだけです(0〜xの範囲での重回積分)。
なお@の右辺の収束半径rはr=1ですので、0近傍での項別積分は”問題なし”です。
結局、それらの結果にx->0としてζ(-2)、ζ(-4)、ζ(-6)・・の値はすべて0となるわけです。
またA〜Dまでの式でも同様に成り立っています。
ただし、Eはどうでしょうか?
この式は本サイトで奇数ゼータを導出する際の要の役割を果たしてきた重要な式です。
log(πx/sinπx)= 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ }---E
他の@〜Dでζ(0)があらわに出ているのとは対照的に、 このEではζ(0)が表立って顔を見せていません。
積分の手法ではζ(-2)、ζ(-4)、ζ(-6)、・・が次々求まっていくことは同様に示せますから、後は、ζ(0)が
自然に出てくれれば”めでたし”となるわけですが、はたしてうまくいのでしょうか?
「その3」でEを導いたときは、全く気付かなかったことですが、Eをうまく解釈することによって、ζ(0)を求めることが
できます。
log(πx/sinπx)= 2{0・ζ(0) x^0+1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ }
となっていると考えます(顔を見せないのは0がかかっていたから・・)。
さて0回微分して(何も演算を施さない)で、x->0とすると、
log 1^(-1)=2・0・ζ(0)
よって、 (-1)log 1=2・0・ζ(0)
(-1)・0=2・0・ζ(0)
これより、 ζ(0)=-1/2(0/0)
したがって、 ζ(0)=-1/2
と求まる。
まるでオイラーがやったような形式的な計算ですが、このようにすると求まってしまいます。
現代的にいえば、うまく解析接続されていて正当化されるのだろうと思いますが、どうでしょう。
[終わり]
偶数ゼータにおいても地上から地下までこのような秩序で満たされていたとは、ゼータはやはり究極の調和を好む
生き物だということでしょう。
上で「大胆に推論・・」という表現を用いました。「そんなに大胆か?」と思われたかもしれませんが、これはじつに
大胆な推論だと言わざるをえません。
というのは、冒頭の奇数ゼータでの導き方では、途中で一旦かならず1^3+2^3+3^3+4^3+・・などと具体的な形が出て
きてその値ζ(3)を求めるという道筋をとったわけですが、ここでの偶数ゼータの議論ではζ(-2)、ζ(-4)、ζ(-6)、・・
は一切途中顔を出さずに、最後にいきなり顔を出すという過程をとるからです。
「大胆」という表現を使ったのもわかっていただけるでしょう。
これまでの奇偶ゼータの考察で、フーリエ展開とテイラー展開という、解析学において最も重要な二つの展開
(級数)が出ました。深いなにかがあるのでしょう。
注意1:Aの重回積分の方は、まだ予想の段階であることを再度断っておきます。
ただ、これは「ほとんど正しい予想」と思われます。なぜ「まだ予想である」なのかと言うと∫∫(πx/tanπx)や
∫∫∫∫(πx/tanπx)の値が0であるからと言って、それが絶対にζ(-2)やζ(-4)と結び付いているとは必ずしも
いえないからです。しかし、読者も既にお気づきと思いますが、これはもう「絶対にそう結びついている!」と確信させ
るものがあるからです。それは”統一的法則性”という強烈な法則がゼータでは常に成り立っていることが確信され
るからです。「本ページ冒頭の奇数ゼータの例でも成り立っていた。ならば、こちらではどうかと思い、見ると、なんと
微分側で統一的法則の半分が成立している・・しかも反対の積分側で0が並んでいる!・・ならば、これは、ζ(-2)、
ζ(-4)、ζ(-6)・・・の0と自然に結びつくだろう・・」とこうなるわけです。)
注意2:
<統一的法則性とフーリエ展開との連関>で述べたのと同じ注意ですが、Aのような統一的法則性が成り立つ
のは@のような非常にうまい形(きわめて特殊と言ってもいい)のテイラー展開となっている場合だけである
ということを強調しておきます。
逆に言えば、全偶数ゼータ導出に利用できるテイラー展開式は、どのようなものに限られるか?
という問いは、きわめて興味ある問いといえるでしょう。
(あるいは、どのような関数をテイラー展開すれば有用なものとなるのか?と問うても同じですが)
私は、利用できそうな、非常にうまい形のテイラー展開式を「その3」で多く見出しました。それらは@と同じような
形をしており、一見して「利用できそうだ」とわかるでしょう。
追記2003/10/31
非常に面白い事実に気付きました。
・
・
ζ(6)= 定数×DDDDDD(πx/tanπx)でx->0とした値。
ζ(4)= 定数×DDDD(πx/tanπx)でx->0とした値。
ζ(2)= 定数×DD(πx/tanπx)でx->0とした値。
ζ(0)= 定数×(πx/tanπx)でx->0とした値。 ----------A
ζ(-2)=「ある定数」×∫∫(πx/tanπx)でx->0とした値。
ζ(-4)=「ある定数」×∫∫∫∫(πx/tanπx)でx->0とした値。
ζ(-6)=「ある定数」×∫∫∫∫∫∫(πx/tanπx)でx->0とした値。
・
・
このサイトで示したこの上の事実は、佐藤郁郎氏が示された興味深い考察
での
Σcos(2nx)/n^2=(π/2-x)^2 - π^2/12 -----F
(n=1〜∞)
に対するn回積分-n回微分の関係性と完全に逆になっていることに気付きました。
佐藤氏はπ/2をxに代入するという方法で、上の統一的法則性の成立を確められました。
(また氏はπ/4代入の方法でも面白い結果を出されていますが、それは後ほど考察します)
私の場合は重回微分 <----{ζ(2)、ζ(4)、ζ(6)・・}------>佐藤氏の場合は重回積分
私の場合は重回積分 <----{・・ζ(-6)、ζ(-4)、ζ(-2)}--->佐藤氏の場合は重回微分
全く逆になっているのです。驚くべき対称性です!
私の場合は、ベキ級数展開(テイラー展開)式を考えました(@)。一方、佐藤氏の場合は、フーリエ展開式(F)。
”展開”の違いで逆になるのですから、ほんとうに面白い。
------------------------------------------------------------------------
を”最も直接的に”求める手法を提示していると見ることもできます。
本ページ冒頭で、任意の奇数ゼータを求める統一的法則を示しました。それは地上(正の奇数ゼータ)から地下 (負の奇数ゼータ)まで”重回積分-重回微分の方法”で統一的に導出できることを示したものではありますが、 その計算は、結構回り道をするようなもので、ζ(2n+1)がパッと直接的に計算されるものではありませんでした。 ところが上は、たった一つの関数を何回か微分したり積分したりするだけで直接的にζ(2n)が出てくるという より洗練された形となっているのです。 そして、その母関数とも呼ぶべき関数が上でわかっているのだから驚きます。その母関数とはもちろん、
πx/tanπxです。πx/tanπxがすべてのζ(2n)を生み出す母体となっている。
”すべての”というのは、もちろん ・・・・・・ζ(-6)、ζ(-4)、ζ(-2)、ζ(0)、ζ(2)、ζ(4)、ζ(6)、ζ(8)、・・・・・・・
を意味します。
これらがBを微分したり積分したりするだけで、自動的に出てくる。
「その3」で@式を見出したときは、もちろん正の偶数ゼータしか意識しませんでした(当然ですよね)。
それが、統一的法則性のおかげで、自動的に地下の負の偶数ゼータまで繋がっているのですから、なんと
すごい世界でしょう。
さらに、”ゼータを生み出す”という観点に立脚して考えれば、奇数ゼータに関する冒頭の等式
log(sinx)=-Σ1/n・cos(2nx) - log2 ------G
(n=1〜∞)
も、任意の奇数ゼータを次々に生み出すわけですから、ζ(2n+1)の母等式と呼ぶべきものになっている。
”母等式”とは聞きなれない呼び名ですが、しかし、”演算(作用)における統一的法則”という展望台に立って
見れば、母関数も母等式も同じ価値のものである、といえるのです。
これまで、私は、奇数ゼータが偶数ゼータの無限和で構成されていることを示してきました。
さていろいろと考えているうちに、ふと次のような疑問(問題)が浮かんできました。
偶数ゼータは、奇数ゼータの無限和で表現できないか?
偶数ゼータは、もうすべて値が次のように確定していますので、あえてこんな問いを発する意味があるのか
どうかわからないのですが、本質的ななにかに関わっていないとも限らず、また私自身興味がありますので、
逆問題として提示しておきます。
ζ(0)=-1/2、ζ(2)=π^2/6、ζ(4)=π^4/90、ζ(6)=π^6/945、ζ(8)=π^8/9450、ζ(10)=π^10/93555、・・
また負のζ(-2)、ζ(-4)、ζ(-6)・・・はすべて0。
奇数ゼータは偶数ゼータの無限和で表現された。では逆はどうなのか?と思ったのです。だから「逆問題」。
読者で、この問題が解けた!という場合はぜひお知らせください。
肯定的に解かれるのか、否定的な結果になるのか、とても興味があります。
追記:偶数ゼータの無限和が、フーリエ展開に似ているとする記述は間違っていると考えられるため削除しました。
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