その1の続きで、ゼータ関数に関する面白い式を見出しました。
その1で導いた式をまずもう一度書いておきます。次のものです。
S1(x)=1/(1+x) + 1/(2+x) + 1/(3+x)+・・・
=ζ(1) - ζ(2)x + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 -・・・ -------@
S2(x)=1/(1+x)^2+1/(2+x)^2+1/(3+x)^2+・・・
=1・ζ(2) - 2・ζ(3)x + 3・ζ(4)x^2 - 4・ζ(5)x^3 + 5・ζ(6)x^4 -・・・ -------A
S3(x)=1/(1+x)^3+1/(2+x)^3+1/(3+x)^3+・・・
=1/2{2・1ζ(3) - 3・2ζ(4)x + 4・3ζ(5)x^2 - 5・4ζ(6)x^3 + 6・5ζ(7)x^4 -・・・・}---B
・
・
(ただし、全てのnにおいて-1<x<1)
上式の類似の方法で、次の式が成り立つことがすぐにわかります(上のxを”-x”に置き換えてもよい)。
S1-(x)=1/(1-x) + 1/(2-x) + 1/(3-x)+・・・
=ζ(1) + ζ(2)x + ζ(3)x^2 + ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 +・・・ -------C
S2-(x)=1/(1-x)^2+1/(2-x)^2+1/(3-x)^2+・・・
=1・ζ(2) + 2・ζ(3)x + 3・ζ(4)x^2 + 4・ζ(5)x^3 + 5・ζ(6)x^4 +・・・ ------D
S3-(x)=1/(1-x)^3+1/(2-x)^3+1/(3-x)^3+・・・
=1/2{2・1ζ(3) + 3・2ζ(4)x + 4・3ζ(5)x^2 + 5・4ζ(6)x^3 + 6・5ζ(7)x^4 +・・・・}----E
・
・
(ただし、全てのnにおいて、-1<x<1)
上のS1(x)、S2(x)・・と区別するために、下の一連の式では、S1-(x)、S2-(x)・・などと”−”をつけて区別しました。
これらの式はどれも美しい。
次では、@とCに的を絞って考察しましょう。
@とCを利用すると、偶数ゼータを係数にもつ級数と、奇数ゼータを係数にもつ級数を導くことができます。
もう一度、@とCを書きましょう。
1/(1+x) + 1/(2+x) + 1/(3+x)+・・・
=ζ(1) - ζ(2)x + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 -・・・ -------@
1/(1-x) + 1/(2-x) + 1/(3-x)+・・・
=ζ(1) + ζ(2)x + ζ(3)x^2 + ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 +・・・ -------C
(いずれも-1<x<1で成立)
@+Cを実行します。すると、簡単に、
1/(1+x) + 1/(1-x) + 1/(2+x) + 1/(2-x) + 1/(3+x) + 1/(3-x)+・・・
=2{ζ(1) + ζ(3)x^2 + ζ(5)x^4 + ζ(7)x^6 +・・・ } ----F
となります。また、C−@を実行すると、
1/(1-x) - 1/(1+x) + 1/(2-x) - 1/(2+x) + 1/(3-x)- 1/(3+x) + ・・・
=2{ζ(2)x + ζ(4)x^3 + ζ(6)x^5 + ζ(8)x^7 +・・・ } ----G
となります。
Fの右辺の係数はすべて奇数ゼータとなっており、Gのそれはすべて偶数ゼータとなっているところが面白い。
さて、FやGの左辺を変形し整理すると、つぎのようになります。
1/(1^2-x^2) + 2/(2^2-x^2) + 3/(3^2 - x^2) +・・・
=ζ(1) + ζ(3)x^2 + ζ(5)x^4 + ζ(7)x^6 +・・・ ----H
1/(1^2-x^2) + 1/(2^2-x^2) + 1/(3^2 - x^2) +・・・
=ζ(2) + ζ(4)x^2 + ζ(6)x^4 + ζ(8)x^6 +・・・ ----I
(いずれも-1<x<1で成立)
このような優雅な式が出ました。
これらは、左辺の各項を個々にテイラー展開してそれらを足し合わせても出ます。
導出過程はあまりに単純ですが、式自体の不思議さが際立っています。
なお、Hでx=0を代入すると、左辺はζ(1)に一致し、またIで同様にx=0のとき左辺はζ(2)となり、右辺に
一致します。当然のことですが、面白いものです。
左辺での分子だけがちょっと違っているところが、興味深いですね。
偶数ゼータζ(2)、ζ(4)、ζ(6)、・・・の値は現代数学で完全に分かっているのに奇数のζ(3)、ζ(5)、ζ(7)・・・・
に関してはζ(3)が無理数であること以外ほとんどなにも分かっていないのです。
偶数と奇数を分け隔てているものは何なのか・・・、不思議さは尽きません。
----------------------------
上のH式は、x^2=xとおいて左辺の分母分子をn^2のnで割り算すれば、次のようにも変形できます。
1/(1-x/1) + 1/(2-x/2) + 1/(3 - x/3) +・・・
=ζ(1) + ζ(3)x + ζ(5)x^2 + ζ(7)x^3 +・・・
こちらの方がBよりきれいですね。いやそれにしてもなんというシンプルさでしょう!
上の@とCは次のようにも表現できます。結果だけ書いておきます。
{log(1+x)(2+x)(3+x)(4+x)・・・}´
=ζ(1) - ζ(2)x + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 -・・・ ----J
-{log(1-x)(2-x)(3-x)(4-x)・・・}´
=ζ(1) + ζ(2)x + ζ(3)x^2 + ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 +・・・ ----K
(註:logの底はe、左辺の´は1回微分)
(いずれも-1<x<1で成立)
類似の方法で、いろいろと別の形を調べていると、次のような式も見つかりました。
1/(1-x) + 2/(2-x) + 3/(3-x)+ 4/(4-x)+・・・
=ζ(0) + ζ(1)x + ζ(2)x^2 + ζ(3)x^3 + ζ(4)x^4 +・・・ -----L
これは究極に美しい形と思います。本質的に同じですが、もちろん、次も成り立ちます。
1/(1+x) + 2/(2+x) + 3/(3+x)+ 4/(4+x)+・・・
=ζ(0) - ζ(1)x + ζ(2)x^2 - ζ(3)x^3 + ζ(4)x^4 - ・・・ -----M
(L、Mとも-1<x<1で成立)
さらに類似を重ねていくことにより、次々と別の形が導けます。
1^2/(1-x) + 2^2/(2-x) + 3^2/(3-x)+ 4^2/(4-x)+・・・
=ζ(-1) + ζ(0)x + ζ(1)x^2 + ζ(2)x^3 + ζ(3)x^4 + ・・・
1^3/(1-x) + 2^3/(2-x) + 3^3/(3-x)+ 4^3/(4-x)+・・・
=ζ(-2) + ζ(-1) x + ζ(0)x^2 + ζ(1)x^3 + ζ(2)x^4 + ・・・
・
・
(-1<x<1で成立)
以下全く同じ規則性で、式が生成されていきます。
さらに類似を重ねることにより、次の一群の式が成り立つことも容易にわかります。
1^(-1)/(1-x) + 2^(-1)/(2-x) + 3^(-1)/(3-x)+ 4^(-1)/(4-x)+・・・
=ζ(2) + ζ(3)x + ζ(4)x^2 + ζ(5)x^3 +・・・
1^(-2)/(1-x) + 2^(-2)/(2-x) + 3^(-2)/(3-x)+ 4^(-2)/(4-x)+・・・
=ζ(3) + ζ(4)x + ζ(5)x^2 + ζ(6)x^3 +・・・
1^(-3)/(1-x) + 2^(-3)/(2-x) + 3^(-3)/(3-x)+ 4^(-3)/(4-x)+・・・
=ζ(4) + ζ(5)x + ζ(6)x^2 + ζ(7)x^3 +・・・
・
・
(-1<x<1で成立)
以下同じ規則性で式が生成されていきます。
これらは、面白いですね。
上では、左辺の分母が n - x の形ばかりを見ましたが n + x も本質的に同じですので略しました。
少し話が雑然としてきましたので、まとめた形で書いておきます。
・
・
1^(-3)/(1-x) + 2^(-3)/(2-x) + 3^(-3)/(3-x)+ 4^(-3)/(4-x)+・・・
=ζ(4) + ζ(5)x + ζ(6)x^2 + ζ(7)x^3 ・・・
1^(-2)/(1-x) + 2^(-2)/(2-x) + 3^(-2)/(3-x)+ 4^(-2)/(4-x)+・・・
=ζ(3) + ζ(4)x + ζ(5)x^2 + ζ(6)x^3 +・・・
1^(-1)/(1-x) + 2^(-1)/(2-x) + 3^(-1)/(3-x)+ 4^(-1)/(4-x)+・・・
=ζ(2) + ζ(3)x + ζ(4)x^2 + ζ(5)x^3 +・・・
1/(1-x) + 1/(2-x) + 1/(3-x)+ 1/(4-x)+・・・
=ζ(1) + ζ(2)x + ζ(3)x^2 + ζ(4)x^3 + ・・・
1/(1-x) + 2/(2-x) + 3/(3-x)+ 4/(4-x)+・・・
=ζ(0) + ζ(1)x + ζ(2)x^2 + ζ(3)x^3 +・・・
1^2/(1-x) + 2^2/(2-x) + 3^2/(3-x)+ 4^2/(4-x)+・・・
=ζ(-1) + ζ(0)x + ζ(1)x^2 + ζ(2)x^3 + ・・・
1^3/(1-x) + 2^3/(2-x) + 3^3/(3-x)+ 4^3/(4-x)+・・・
=ζ(-2) + ζ(-1) x + ζ(0)x^2 + ζ(1)x^3 +・・・
・
・
(-1<x<1で成立)
以下同じ規則性で、式が生成されていきます。
なんとも美しい関係が成り立っているものです。
これらを一般的に書くと、次のようになります。
1^n/(1-x) + 2^n/(2-x) + 3^n/(3-x) + 4^n/(4-x)+・・・
=ζ(1-n) + ζ(2-n)x + ζ(3-n)x^2 + ζ(4-n)x^3 + ・・・ ------N
(nは任意の整数。 -1<x<1で成立)
念のため、左辺の分母が n + x の場合も書きますと(本質的にNと同じことですが)、次のようになります。
1^n/(1+x) + 2^n/(2+x) + 3^n/(3+x)+ 4^n/(4+x)+・・・
=ζ(1-n) - ζ(2-n)x + ζ(3-n)x^2 - ζ(4-n)x^3 + ・・・ ------O
(nは任意の整数。 -1<x<1で成立)
2003/8/3 <振り返って冷静に考えると・・・>
いま振り返って、”その1”での次のような結果を冷静に見直しますと、上のOでのあるnの場合の式を微分すること
でも出てくることがわかります。
1/(1+x)^2+1/(2+x)^2+1/(3+x)^2+・・・
=1・ζ(2) - 2・ζ(3)x + 3・ζ(4)x^2 - 4・ζ(5)x^3 + 5・ζ(6)x^4 -・・・
1/(1+x)^3+1/(2+x)^3+1/(3+x)^3+・・・
=1/2{2・1ζ(3) - 3・2ζ(4)x + 4・3ζ(5)x^2 - 5・4ζ(6)x^3 + 6・5ζ(7)x^4 -・・・・}
NやOがいかに本質的なものかがわかろうというものです。
「数学のたのしみ」という雑誌のエッセイのある部分で、数学者岡本清郷(きよさと)さんは、志村五郎という
世界的な数学者の名言を引用されています。
私は、その部分(下記)がとても好きでよく思い出すのです。
「・・・・
私が大阪大学の助手の頃、志村先生に「私の若い頃は机の上には本や雑誌など置かないで、紙と
鉛筆のみで研究したものだ」と言われたことがありました。最近になってやっとその意味が分かって来た
ような気がします。
名言1.数学の研究と魚釣りの原理
数学の研究は魚を釣るのに似ています。
魚釣りをする場合、釣りの竿、釣り糸、釣りの針、餌などについての知識や魚の習性や居場所などの
知識が必要です。
しかし、これらについて知識を得るために、図書館に日参して勉強することも必要かもしれませんが、
適当に勉強を切り上げて海や川へ出かけて行って実際に釣りをしなければ、いつまでたっても魚は
釣れません。
多くの人は、図書館に魚はいないのに、図書館で魚を釣ろうとしています。
実際、その土地の子供たちは貧弱な釣り竿で立派に魚を釣っています。
・・・・・・・・ 」
なんという素晴らしい言葉でしょうか。
じつは私も最近上のようなことを徐々に思い始めていたので余計に共感するのです。
これは数学に限ったことではないのかもしれません。すべての学問や仕事の上にも有効な言葉と
思われます。 (もちろん基礎は絶対に必要ですので、学生さんは、基礎だけは徹底的にやってくださいね)
基礎さえできていればオリジナルなものは案外創っていけるのかもしれません。
子供たちは貧弱な釣り竿で立派に魚を釣っています。
この言葉をもう一度噛締めたい・・
M.S
|