2003/7/22        ゼータ関数のいつくかの点について その1

 ゼータ関数に関連したある関数について興味深い事実がわかりました。
(ゼータ関数は、素数の秘密を知っているとされ、現代数学で活発に研究されているものの一つです)



2003/7/22(7/25改)     <ゼータの面白い性質>

 ある理由から、次の関数が気になっていろいろと調べていました。
 Sn(x)=1/(1+x)^n+1/(2+x)^n+1/(3+x)^n+・・・ -------@

 n=1, 2, 3, 4・・・などの低次元の場合のテイラー展開を調べていたところ、面白い公式を見出すことが
できました。n=1のとき@は、次のようになります。

 S1(x)=1/(1+x) + 1/(2+x) + 1/(3+x)+・・・

これを、テイラー展開してみますと、
 S1(x)=1/(1+x) + 1/(2+x) + 1/(3+x)+・・・
     =1+1/2+1/3+1/4+・・・
         - ζ(2)x + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 -・・・ ---------@
 
 S1(x)は発散する関数ですが、たしかにこうなります。簡単な計算ですので、皆さんもぜひ確めてください。
 ζ(s)は、ζ(s)=1+1/2^s+1/3^s+1/4^s+1/5^s+・・・・・   -------A
で定義されるリーマン・ゼータ関数です。

 @は不思議な式ですが、さらに、@の 1+1/2+1/3+1/4・・・を
  1+1/2+1/3+1/4・・・=ζ(1)で置き換えると

   1/(1+x) + 1/(2+x) + 1/(3+x)+・・・
      =ζ(1)x^0 - ζ(2)x + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 -・・・ ---------B
                                 (ただし、-1<x<1で成立)
という摩訶不思議としかいいようのない形になりました。
 ベキ級数の係数がすべてζ(n)の値となっているのがなんとも神秘的です。ちなみに、 1+1/2+1/3+1/4・・は
収束しない、発散する級数として有名です。




7/22   ζ(n)の具体的数値


 ζ(n)の値を感覚的に把握してもらうために、具体的数値を示しておきましょう。

Aの定義式 ζ(s)=1+1/2^s+1/3^s+1/4^s+1/5^s+・・・・・   -------A
より、

ζ(2)=1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+・・・・ =π^2/6=1.64493・・  

ζ(3)=1+1/2^3+1/3^3+1/4^3+・・・・ = ?

ζ(4)=1+1/2^4+1/3^4+1/4^4+・・・・ =π^4/90=1.08232・・ 

ζ(5)=1+1/2^5+1/3^5+1/4^5+・・・・ = ?

ζ(6)=1+1/2^6+1/3^6+1/4^6+・・・・ =π^6/945=1.01734・・

ζ(7)=1+1/2^7+1/3^7+1/4^7+・・・・ = ?

ζ(8)=1+1/2^8+1/3^8+1/4^8+・・・・ =π^8/9450=1.00481・・

上で?としたのは、現代数学でも奇数のζ(n)の正体がなにも分かっていないからなのですが、しかし、Aよりある
程度は近似的には計算できますから、それぞれ10項までの値を関数電卓で求めてみると、次のようになりました。

ζ(3)=1+1/2^3+1/3^3+1/4^3+・・・・+1/10^3 = 1.19753・・
ζ(5)=1+1/2^5+1/3^5+1/4^5+・・・・+1/10^5  = 1.03691・・
ζ(7)=1+1/2^7+1/3^7+1/4^7+・・・・ +1/10^7 = 1.00835・・

 10項までしか求めていませんから、いずれもこれよりやや大きな値をもつと言えますが、上値でもおおよその大き
さはつかめると思います。
 ここでは、ζ(n)の値を感覚的に把握してもらうために具体的数値を示しました。




2003/7/22     < 関数 1/(1+x)^n+1/(2+x)^n+1/(3+x)^n+・・・ の不思議 >

 上方では次式のn=1の場合を調べました。

 Sn(x)=1/(1+x)^n+1/(2+x)^n+1/(3+x)^n+・・・ -------@

じつは順序が逆になったのですが、私は、まずはじめにn=2, 3, 4,・・・の場合を調べていました。
(そのあと、@のn=1を調べていて、ζ(2) - ζ(3) + ζ(4) - ζ(5) +・・・=1 という式に到達しました)
 n=2, 3, 4,・・・の場合でも、じつに興味深い式が出るのです。それを、以下示します。

まずn=3の
 S3(x)=1/(1+x)^3+1/(2+x)^3+1/(3+x)^3+・・・
をテイラー展開すると、
  S3(x)=1/2{2・1ζ(3) - 3・2ζ(4)x + 4・3ζ(5)x^2 - 5・4ζ(6)x^3 + 6・5ζ(7)x^4 -・・・・}  -----A
という式になることがわかりました。これも美しいですね。

また、n=2の
 S2(x)=1/(1+x)^2+1/(2+x)^2+1/(3+x)^2+・・・
の場合は、
 S2(x)=1・ζ(2) - 2・ζ(3)x + 3・ζ(4)x^2 - 4・ζ(5)x^3 + 5・ζ(6)x^4 -・・・  ---------B

となるのです。これも神秘的です。
 これらもn=1の場合と同様、ζ(n)を係数にもつ”べき級数”表現になっているのがとにかく魅力です。
そして、後のn=4, 5・・の場合も同じような規則性で出てくるのですが、それをつぎのように微分の形で表しておきま
す(この方が書き易いので)。

S2(x)=ζ(2)x´- ζ(3)x^2´ + ζ(4)x^3´ - ζ(5)x^4´ + ζ(6)x^5´ -・・・                -----C
                    
S3(x)=1/2!{ζ(3) x^2´´- ζ(4)x^3´´ + ζ(5)x^4´´- ζ(6)x^5´´ + ζ(7)x^6´´ - ・・・}    ------D

S4(x)=1/3!{ζ(4) x^3´´´- ζ(5)x^4´´´ + ζ(6)x^5´´´ - ζ(7)x^6´´´ + ζ(8)x^7´´´ - ・・・}  ------E

S5(x)=1/4!{ζ(5) x^4´´´´- ζ(6)x^5´´´´ + ζ(7)x^6´´´´ - ζ(8)x^7´´´´ + ζ(9)x^8´´´´ - ・・・} -----F
 ・
 ・

このようにきわめて美しい規則性で生成されていきます。この後のnでも、全く規則正しく出てきます。
「´」はもちろん1回微分。
 A、Bは、それぞれD、Cに対応しており、全く同じものとなっていることを確認してください。

 それにしても、これらを眺めていると、@の関数(下)は驚くべき深さを秘めているといえると思います。
   Sn(x)=1/(1+x)^n+1/(2+x)^n+1/(3+x)^n+・・・ ------@

 M先生によれば、この@の関数自体は、 Hurwitz (フルヴィッツ)のゼータ関数という関数とほぼ同じものである
とのことです。
 Hurwitz のゼータ関数とは、次のようなものです。
  ζ(s,a) = 1/(a+0)^s + 1/(a+1)^s + 1/(a+2)^s + ...

 第一項の違いはありますが、たしかに、これは私の@と本質的にほぼ同じです。1882年にHurwitzという数学者が
発見したものだそうです。
(20041/18追記 じつはこのわずかな違いが今後の展開に大きく影響することになります。)

 またC〜Fははじめての結果なのかどうかM先生に問うたところ、「@のテイラー展開の係数がζ(n)になることは、
かなり自明なことなので、Hurwitzはおそらくこのテイラー展開も知っていたはず。ただHurwitzが論文に書いているか
どうかは知らない」とのことでした。
 ただそれにしても、このテイラー展開の形は、私にすれば、あまりにも不思議であり、数学の本などで出てこない
のが不可解なので、このHPに書きました。

 美しさを味わうために、n=1を含めたn=3までをもう一度下に書いておきましょう。

 S1(x)=1/(1+x)+1/(2+x)+1/(3+x)+・・・
    =ζ(1)x^0 - ζ(2)x + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 -・・・

 S2(x)=1/(1+x)^2+1/(2+x)^2+1/(3+x)^2+・・・
    =ζ(2)x´- ζ(3)x^2´ + ζ(4)x^3´ - ζ(5)x^4´ + ζ(6)x^5´ -・・・ 
                    
 S3(x)=1/(1+x)^3+1/(2+x)^3+1/(3+x)^3+・・・
    =1/2!{ζ(3) x^2´´- ζ(4)x^3´´ + ζ(5)x^4´´- ζ(6)x^5´´ + ζ(7)x^6´´ - ・・・}
  ・
  ・
                                        (ただし、全てのnにおいて、-1<x<1)

 上を微分の形ではなく、普通のベキ級数の形に書くと下になります。

 S1(x)=1/(1+x) + 1/(2+x) + 1/(3+x)+・・・
    =ζ(1)x^0 - ζ(2)x + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 -・・・
                                               
 S2(x)=1/(1+x)^2+1/(2+x)^2+1/(3+x)^2+・・・
    =1・ζ(2) - 2・ζ(3)x + 3・ζ(4)x^2 - 4・ζ(5)x^3 + 5・ζ(6)x^4 -・・・

 S3(x)=1/(1+x)^3+1/(2+x)^3+1/(3+x)^3+・・・
    =1/2{2・1ζ(3) - 3・2ζ(4)x + 4・3ζ(5)x^2 - 5・4ζ(6)x^3 + 6・5ζ(7)x^4 -・・・}
  ・
  ・
                                     (ただし、全てのnにおいて、-1<x<1)

 私は眺めているだけで十分です。

注意ですが、例えば、S2(x)の場合を例にとりますと、
1/(1+x)^2+1/(2+x)^2+1/(3+x)^2+・・・
    =1・ζ(2) - 2・ζ(3)x + 3・ζ(4)x^2 - 4・ζ(5)x^3 + 5・ζ(6)x^4 -・・・

という式の等号(=)が成立するのは、-1<x<1の範囲のxに限られるという点に注意ください。
それは、左辺をテイラー展開した結果が右辺でありn回微分できる範囲が-<x<1に限られるためです。すなわち、
1<x<1の範囲でしかテイラー展開できないということを示しています。
 または別理由として、右辺のベキ級数はダランベールの判定定理から収束半径は1であり、例えばx=2では右辺
は発散してしまいますが、一方同じx=2で左辺は収束する、という矛盾に陥ることを考えてもそのことはわかると思い
ます(ただし、S1(x)だけはこの別理由は適用できないので先の方の理由を適用します)。
 この考察はすべてのnに適用できますから、全てのSn(x)で同様のことが言えるわけです。


 最後に、M先生にはゼータ関数に関する歴史や文献など色々な有用な情報を教えて頂き、誠にありがとうございまし
た。また、当初私は、C〜Fを非常に複雑な方法を用いて導いていたのですが、数学を語る友であるYさんは、テイラー
展開を示唆してくれました。それを用いると議論が簡潔になることがわかりました。ご指摘に深く感謝いたします。




2003/7/28
下記の式は知られていました。

 私は、上の事実に関連づけて下記4つの式も導きましたが、Ya先生が下記の右辺が1と3/4の2式は、クヌ−スの
「コンピュ−タの数学」(共立)に載っていると教えてくださいました。下記は任意の2つが独立で、他の二式は他から
導かれますので、従って下記4式は、新しいものではありません。ご指摘に感謝致します。

 {ζ(2) - 1}+{ζ(3) - 1}+{ζ(4) - 1}+{ζ(5) - 1}+・・・・=1
 {ζ(2) - 1}+{ζ(4) - 1}+{ζ(6) - 1}+{ζ(8) - 1}+・・・ =3/4
 {ζ(3) - 1}+{ζ(5) - 1}+{ζ(7) - 1}+{ζ(9) - 1}+・・・ =1/4
 {ζ(2) -ζ(3)} + {ζ(4) - ζ(5)} +{ζ(6) - ζ(7) }+・・・=1/2




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                   超越数のこと

  上で超越数の問題を出しましたが、超越数の理論というのは、進歩著しい現代数学にあって最も発展
の遅れている分野ではないでしょうか。

 サイエンスライター・吉永良正さんの名著「数学・まだこんなことがわからない」(講談社ブルーバックス)に、
超越数に関してきわめてうまくまとめられている箇所があります。
 私が”超越数”という言葉を耳にするたびに、いつも思い出す箇所ですので、紹介します。

 『・・・ 
   有理数の”数(濃度)”より、もっと多いというのに、私たちが手にした超越数は本当に数えるほどしか
  ありません。
   たとえてみれば、海へ一度も行ったことのない人が、数個の貝がらを宝物のように大事に床の間に
  飾っているというのが、超越数に対する私たちの現状なのです。
   いつの日か、大海原へ行き、あふれんばかりの貝がらにうもれて、その貝がらで首飾りを作ることができる
  のでしょうか?
   ギリシヤの三大作図問題が二千数百年の間、謎に包まれていたように、超越数がひしめく海岸も何世紀
  もの間、不可視のベールに隠され続けるのでしょうか?あるいは世界は、未来に駆ける三番目の”伝説”を
  待ち望んでいるのかもしれません。                                      』


  超越数の現状が、素晴らしい比喩とともに説明されています。
 超越数は、ほんとうにこの先何世紀もの間、まだまだ不可視のベールに隠れつづけるのか?
 それとも、突然風穴があくのでしょうか。
  立ちはだかる巨大な壁に風穴をあけ、貝がらで首飾りを作るのは、いったい誰?
 若い力による新しい”伝説”が待ち望まれます。                       M.S..