その2で導いたゼータに関する等式群を、もう一度、別角度から考察することで、「整数の積」=「ゼータの和」の形の
面白い関係式をいくつも見出しました。
その2では、ゼータに関する面白い等式をいくつも導きました。それを起点にして、奇数ゼータを初等的に導くこと
に成功し、さらにはゼータとL関数に関して、統一的法則性と対称性を様々に考察してきましたが、ここではいま一度
出発点ともいえるそれらの等式をとり上げてみます。
その2では、次の一般公式を導きました。
1^n/(1-x) + 2^n/(2-x) + 3^n/(3-x) + 4^n/(4-x)+・・・
=ζ(1-n) + ζ(2-n)x + ζ(3-n)x^2 + ζ(4-n)x^3 + ・・・ ------@
1^n/(1+x) + 2^n/(2+x) + 3^n/(3+x)+ 4^n/(4+x)+・・・
=ζ(1-n) - ζ(2-n)x + ζ(3-n)x^2 - ζ(4-n)x^3 + ・・・ ------A
(両式とも、nは任意の整数。 -1<x<1で成立)
@での”x”を”-x”とすればAとなるので、@とAは本質的に同じですが、一応二つ書いておきました。
@とAでn=1とすると、それぞれ次のようになります。
1/(1-x) + 2/(2-x) + 3/(3-x)+・・=ζ(0) + ζ(1)x + ζ(2)x^2 + ζ(3)x^3 +・・・ ---B
1/(1+x) + 2/(2+x) + 3/(3+x)+・・・=ζ(0) - ζ(1)x + ζ(2)x^2 - ζ(3)x^3 +・・・ ---C
まず、これを前段階の知識として覚えておいてください。
これに関し面白いことに、気づいたのです。Bの左辺だけを書きますと、次のようになものです。
1/(1-x) + 2/(2-x) + 3/(3-x)+ ・・・
これは、+∞から・・・・, 3, 2, 1と分母、分子の数が大きい方から小さい方へと規則正しく落ちてきていますね。
これを、さらにもっと地下のマイナスの数まで続いている式に拡張すればどうなるでしょうか?
つまり、分母、分子の 3, 2, 1を 0,- 1, -2, 3, ・・へと自然に伸ばした式を考えるのです。
それは、次のような式となるでしょう。それをf(x)とすると、
f(x)=
・・+ (-3)/{(-3)-x}+(-2)/{(-2)-x}+(-1)/{(-1)-x}+0/(0-x)+1/(1-x)+ 2/(2-x)+3/(3-x)+・・--D
( 0 < |x| < 1 )
となります(x は0でない、としました)。
+∞から-∞まで、すべての整数が出現している式といえるでしょう。
これは、もちろん、
f(x)=・・・+ 3/(3+x)+2/(2+x) +1/(1+x) +1/(1-x) + 2/(2-x) + 3/(3-x)+・・・----E
( 0 < |x| < 1 )
と同じです。
さて、BとCを用いて、Eを変形すると、f(x)は次のようになります。
f(x)=2{ζ(0) + ζ(2)x^2 + ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 +・・・} ----F
となるのです。
ここにきて、私は、どうしても次の式を連想せざるをえません。
πx/tanπx=- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ・・・ } ----G
( 0 < |x| < 1 )
FとG、この一致はなんのでしょうか!?
このGは、私が「その3」で導いた式ですが(後で、先に数学者が導いていたこともわかりましたが)、
偶然の一致というには、あまりにも凄いといわざるをえません。
ここで、注意したいのは、Fのζ(0)は単に
ζ(0)=1 + 1 + 1 + 1 + ・・・・
としてしか考察されていないことです。一方、Gでは「その3」で指摘した通り、
πx/tanπx=1- 2{ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ }
からの自然な接続という意味から、ζ(0)=-1/2とされ、Gに至っているということです。
すなわち、D、F、Gから次が成り立っていることを意味していると考えられます。
-πx/tanπx=
・・+ (-3)/{(-3)-x}+(-2)/{(-2)-x}+(-1)/{(-1)-x}+0/(0-x)+1/(1-x)+ 2/(2-x)+3/(3-x)+・・----H
全ての整数が連続する調和に満ちた式が、ゼータを通じて三角関数と結びついているのです。
ζ(0)=”1 + 1 + 1 + 1 + ・・・・”=-1/2 -----I
という不思議な式によって、H式が成立していることを考えると、これはやはり、究極の調和を好むゼータが、
Iという必死の努力を行うことによって成立させられているとしか考えられず、ある種の感動を覚えます。
--------------------------------------------------------------------------------
追記 Hは次のように表すこともできます。
-πx/tanπx=・・+ 1/{1-x/(-3)}+1/{1-x/(-2)}+1/{1-x/(-1)}+1/(1-x/1)+ 1/(1-x/2)+1/(1-x/3)+・・
これも味のある形ですが、このようにすると”0”は出せなくなります。面白いものです。
上で見たf(x)の式を眺めていて、オイラーが発見した式との類似に気付きました。
上で示したことは、次のような等式です。
・・+ (-3)/{(-3)-x}+(-2)/{(-2)-x}+(-1)/{(-1)-x}+0/(0-x)+1/(1-x)+ 2/(2-x)+3/(3-x)+・・
=2{ζ(0) + ζ(2)x^2 + ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 +ζ(8)x^8 +・・・} ----@
( 0 < |x| < 1 )
これは、左辺が整数に関する項の和、右辺が偶数ゼータに関する項の和となっていますから、簡潔に
表現すると、
「整数に関する和」=「偶数ゼータに関する和」
となっています。結局、これは整数全体が偶数ゼータ全てを生み出している式と考えられます。
@は、さらに次のように変形できます。
{log[{(x+1)/(x-1)}^1・{(x+2)/(x-2)}^2・{(x+3)/(x-3)}^3・・・]}′
=2{ζ(0) + ζ(2)x^2 + ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 +ζ(8)x^8 +・・・} ----A
上で、logの底はeであり、左辺の´は1回微分です。
これは、
「整数に関する積」=「偶数ゼータに関する和」
と表現できるでしょう。
さて、私は上の事実を考えていて、ふと、これはオイラー積が自然数全体を生み出している式、
つまり、ゼータにおいて最も基本的且つ重要な次式
{1/(1-2^(-s))}・{1/(1-3^(-s))}・{1/(1-5^(-s))}・{1/(1-7^(-s))}・{1/(1-11^(-s))}・・・
=1 + 1/2^s + 1/3^s + 1/4^s + 1/5^s + 1/6^s + 1/7^s + 1/8^s + ・・・ -------B
と、たいへん似た式であると思いました。
B式は、
「素数に関する積」=「自然数に関する和」
となっているまさに驚愕の式ですが、私が全数学の中でもっとも好きな式がこのB式です。
これは結局、素数が全部の自然数を生み出している式と考えられます。
いま考察したAとBを比べてみてください。
Bは、全部の素数が協力して全ての自然数を生み出している。
Aは、全部の整数(0は除く)が協力して全ての偶数ゼータを生み出している。
非常に類似的、対称的な関係になっているとわかるでしょう。
Aはじつに面白い式といえるでしょう(@も面白いですが)。
なお素数をまとめあげたオイラー積表示こそが、次のようにリーマン・ゼータ関数ζ(s)の大元の定義であることを
考えると、
ζ(s)={1/(1-2^(-s))}・{1/(1-3^(-s))}・{1/(1-5^(-s))}・{1/(1-7^(-s))}・{1/(1-11^(-s))}・・・・
Aは、全部の自然数が協力して全ての素数を生み出している
ともいえます。
ゼータは素数をまとめあげたものですから、ゼータ=素数樹という表現もゆるされるでしょう。
この表現でまとめ直しますと、
Bは、全部の素数が協力して全ての自然数を生み出している。
Aは、全部の整数が協力して全ての偶の素数樹(偶数ゼータ)を生み出している。
とも表現でき、AとBは対称的な関係にあるといえるでしょう。
本ページ冒頭での式から、オイラーの式との類似にいろいろと気付きます。
冒頭の二式をもう一度書きます。
1^n/(1-x) + 2^n/(2-x) + 3^n/(3-x) + 4^n/(4-x)+・・・
=ζ(1-n) + ζ(2-n)x + ζ(3-n)x^2 + ζ(4-n)x^3 + ・・・ ------@
1^n/(1+x) + 2^n/(2+x) + 3^n/(3+x)+ 4^n/(4+x)+・・・
=ζ(1-n) - ζ(2-n)x + ζ(3-n)x^2 - ζ(4-n)x^3 + ・・・ ------A
(両式とも、nは任意の整数。 -1<x<1で成立)
@でn=0とおくと、
1/(1-x) + 1/(2-x) + 1/(3-x) + 1/(4-x) +・・=ζ(1) + ζ(2)x^1 + ζ(3)x^2 + ζ(4)x^3 +・・・ ---B
となります。
一つ上での同様の考察から、B式は、
「自然数に関する和」=「ゼータに関する和」
となっている。結局、これは自然数全体が、n>=1の全てのζ(n)を生み出している式と考えられます。
Aでn=0とおいた式
1/(1+x) + 1/(2+x) + 1/(3+x) + 1/(4+x) +・・=ζ(1) - ζ(2)x^1 + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 +・・・ ---C
でも全く同様です。
さらに、BとCは、それぞれ次のように変形できます(その2の追記参照)。
-[log{(1-x)(2-x)(3-x)(4-x)・・・}]´
=ζ(1) + ζ(2)x + ζ(3)x^2 + ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 +・・・ ----D
[log{(1+x)(2+x)(3+x)(4+x)・・}]´
=ζ(1) - ζ(2)x + ζ(3)x^2 - ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 -・・・ ----E
(いずれも-1<x<1で成立)
上で、logの底はeであり、左辺の´は1回微分です。驚くべきことに、このDやEは、
「自然数に関する積」=「ゼータに関する和」
となっています!
DやEは、オイラーの発見した次のF「素数に関する積」=「自然数に関する和」の式との類似となっている
のです。
{1/(1-2^(-s))}・{1/(1-3^(-s))}・{1/(1-5^(-s))}・{1/(1-7^(-s))}・{1/(1-11^(-s))}・・・
=1 + 1/2^s + 1/3^s + 1/4^s + 1/5^s + 1/6^s + 1/7^s + 1/8^s + ・・・ -----F
まとめますと、
DやE---> 「自然数に関する積」=「ゼータに関する和」
F-----> 「素数に関する積」=「自然数に関する和」
ということです。一つ上と同じように表現すれば、
DやEは、全部の自然数が協力して全ての素数樹(ゼータ)を生み出している。
Fは、全部の素数が協力して全ての自然数を生み出している。
となります。D(E)とFは対称的な関係にある式といえます。
これらの考察から、@やAは本質的に重要な式であることがわかります。
一つ上では、 「自然数に関する積」=「ゼータに関する和」という面白い関係を導きました。
その一つをもう一度、書きましょう。
-[log{(1-x)(2-x)(3-x)(4-x)・・・}]´
=ζ(1) + ζ(2)x + ζ(3)x^2 + ζ(4)x^3 + ζ(5)x^4 +・・・
(-1<x<1で成立)
自然数に関する積が、ゼータを生み出しています。面白い式です。
ただし、左辺は微分がかかっておりやや乱れた形という印象は否めません。
微分のかからないきれいな形のものはないでしょうか?ここではそれを求めてみましょう。
私の愛読書「数学の夢 素数からのひろがり」(黒川信重著、岩波書店)には、次のような式がのっています。
sin(πx)=πx・(1- x^2/1^2)・(1- x^2/2^2)・(1- x^2/3^2)・(1- x^2/4^2)・・・・ ----@
この素晴らしい式は、たしかオイラーが発見した式で広く知られているものです。
よく見ると、@は、
sin(πx)=πx・{(1+ x/-1)・(1+ x/1)・(1+ x/-2)・(1+ x/2)・(1+ x/-3)・(1+ x/3)・・・}---A
と変形できますから、右辺は「0を除く整数に関する積」というとても不思議な形になっていることに気付きます。
0まで含められれば完璧ですが、0は出てこないのです(どうしても出せない形となっている)。
さて、「その4」〜「その7」で多くの奇数ゼータの具体的表記を見出しましたが、その際の要の役割を果た
した式が、次の異様な美しさを誇る式でした。
log(πx/sinπx)= 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ } ----B
( 0 < |x| < 1 )
この式の証明が気になる読者は、「log(πx/sinπx)の式の初等的証明」を見てください。
さて、AとBを利用して目的の式を導きます。Aでπx/sinπx=・・としたものをBに代入すると、
-log{(1+ x/-1)・(1+ x/1)・(1+ x/-2)・(1+ x/2)・(1+ x/-3)・(1+ x/3)・・・・}
= 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ } -------C
となります。
これは、左辺が(0を除く)整数に関する積となっており、また右辺はζ(2n)に関する和という形であり、しかも、
左辺は微分のかからないきれいな形となっています。
つまり、
左辺=整数に関する積、 右辺=偶数ゼータに関する和
となっているのです。
Cの両辺を2で割って、-1/2=ζ(0)を用いると、
ζ(0)log{(1+ x/-1)・(1+ x/1)・(1+ x/-2)・(1+ x/2)・(1+ x/-3)・(1+ x/3)・・・}
= 1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・
( 0 <= |x| < 1 )
となります。
”0”がたち現れた格好はなんと調和に満ちていることでしょうか。
数学における検算の効用
昨今の日本は単純ミスによる事故が多くなった。
おびただしい数の医療ミス、また交通機関や工場でのミスによる事故、はては配線ミスによるロッケト打ち上げ
失敗にいたるまで、あとちょっと確認すれば済むようなミスが多すぎるのはないか。
いったい、この原因はなんなのだろうか?
こんな意見はおそらく一度も出されたことがないと思いますが、私は「その理由として」独自の見解をもっています。
単純ミス多発の現状。それは「ゆとり教育」という誤った政策を長年つづけ、数学を十数年にわたって軽視して
きたつけがきているのではないか?ということです。
数学では、検算ということをやります。
検算とは、計算した後も、本当にその答えが正しいか、別角度から計算し直して確認・検証する作業です。
計算すればだれでも、計算ミスをします。
人間は間違える動物なのです。
ところが、この検算を行うことによって、かなりの凡ミスを防ぐことができる。
方程式を解いても、この答え、本当に正しいかな?といつも心配になる。その答えを実際に方程式に入れて、
ちゃんとイコールが成立していれば間違っていない。もしイコールが成り立っていなければ、必ずどこかにミスが
あるとわかる。
このように、数学では、いつも検算をやるのです。
逆にいえば、数学をやっていると、自然に検算(=再確認)の作業の習慣が身につきます。
「ある作業をした、これは本当にも間違っていないか?別角度からも検証しておこう」という習慣。
数学とは、ほんとうは役にたつからやるとかやらないとかいった代物ではないのです。
その美と不思議の世界に身を浸し、人間の情操を育てるというのが第一にあるべきです。
それでも、なお上のように、実際に目に見えないところで社会におおいに役にたってもいるのです。
M.S.
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