ゼータ関数のいくつかの点について その11


 ここでは、中心母関数を定義しリーマン・ゼータ関数の根源部分を考察しました。


2003/12/2      <奇数ゼータの統一的法則性を究極の形へ>

 「その8」の<重回積分の方法を拡張することで任意の奇数ゼータを統一的に導出できる>では、統一的法則性と
いう美しい法則を用い、奇数ゼータが次々と紡ぎ出されていく様を見ました。
 簡単に復習すると、
  log(sinx)=-Σ1/n・cos(2nx) - log2 ------@
          (n=1〜∞)

という式を母等式に据え、

n>= 1の奇数ゼータζ(n)を求めるには@式両辺を0〜xの範囲で(k-1)回積分しx=π/2を代入すればよい。
n<=-1 の奇数ゼータζ(n)を求めるには@式両辺を(1-n)回微分してx=π/2を代入すればよい。

というものでした。具体的に書けば、
  ・
  ・
 @を6回積分--------------->ζ(7)出現
 @を4回積分--------------->ζ(5)出現
 @を2回積分--------------->ζ(3)出現
 @を0回積分--------------->ζ(1)だけ出ない
 @を−2回積分(2回微分)----->ζ(-1)出現
 @を−4回積分(4回微分)---->ζ(-3)出現
 @を−6回積分(6回微分)---->ζ(-5)出現
  ・
  ・
というものです。ζ(1)を除く全ての奇数ゼータが簡潔な規則によって次々に導き出されるという驚くべき法則です。
 私は上だけも十分ですが、ただ形の面でいえば、「できればn回積分(or微分)のnと、ζ(n)のnを一致
させる方がきれいなので、一致させたい」という気持ちがつよいのです。
美と調和の世界にすむゼータにはきっとその方がふさわしいし、また、
<”演算”という立場から、さらに偶数ゼータも見直す>で見たように、偶数ゼータではそのようにきれいな形で
成り立っているのです。奇数の方を整えない手はないでしょう。

 その整形手術は簡単です。
@の母等式を両辺一回微分するだけです。それを実行すると、@は、次のようになります。

  cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・)  ------A

 シンプルできれいな式が出てきました(左辺はもちろん1/tanxcotxと表現してもOKです)。

このAを母等式に据えれば、奇数ゼータにおける統一的法則性は、次のような全く美しい形になります。

n >= 1の奇数ゼータζ(n)を求めるにはA式両辺を0〜x範囲でn回積分しx=π/2を代入すればよい。
n <=-1 の奇数ゼータζ(n)を求めるにはA式両辺を n回微分してx=π/2を代入すればよい。

具体的に書けば、
  ・
  ・
 Aを7回積分--------------->ζ(7)出現
 Aを5回積分--------------->ζ(5)出現
 Aを3回積分--------------->ζ(3)出現
 Aを1回積分--------------->ζ(1)出現
 Aを−1回積分(1回微分)----->ζ(-1)出現
 Aを−3回積分(3回微分)---->ζ(-3)出現
 Aを−5回積分(5回微分)---->ζ(-5)出現
  ・
  ・
となります。きれいに左右の数字が一致しました。
そして、驚くべきは、この統一的法則性では、ζ(1)がζ(1)=+∞とちゃんと出てくるということです!
(完全に全部の奇数ゼータが算出されていく)
このことより、やはりAを中心にして統一的法則性を論じる方がより本質的であるといえるでしょう。

 ただ、じつは一点だけ、気になる点が残っています。
上の法則の成立はまず確実と考えられますが、Aを両辺定積分して(積分範囲0〜x)、@に一致することだけは
やはり示しておきたいと思うのです。そして、それを示すことに成功しました。次に示します。
--------------------------------------------------------------------
2003/12/7
Aを両辺積分すると@に一致することを示します。
[証明]

  cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・)  ------A

まず上の左辺を0〜xの範囲で定積分します。すると、
左辺=∫cosx/sinx dx=[log|sinx|](0〜x)
   =log|sinx| - lim(log|sinε|)(ε-->0)  -----B
             
次にAの右辺を0〜xの範囲で定積分します。
右辺=∫Σ2sin(2nx) dx
   =2∫Σsin(2nx) dx
   =2∫(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + sin10x + ・・・・)dx
   =2[-1/2・cos2x - 1/4・cos4x - 1/6・cos6x - 1/8・cos8x - ・・・・](0〜x)
   =-2[1/2・cos2x + 1/4・cos4x + 1/6・cos6x + 1/8・cos8x + ・・・・](0〜x)
   =-2[{1/2・cos2x + 1/4・cos4x +1/6・cos6x + 1/8・cos8x + ・・・・}
                          - {1/2 + 1/4 +1/6 + 1/8 + ・・・・}]
   =-{1・cos2x + 1/2・cos4x +1/3・cos6x + 1/4・cos8x + ・・・・}
                         + 2{1/2 + 1/4 +1/6 + 1/8 + ・・・・} <--このままの形でおくのがポイント

   =-Σ1/n・cos(2nx) + 2{1/2 + 1/4 +1/6 + 1/8 + ・・・・}  -----C
     (n=1〜∞)

 これで左辺、右辺とも計算できた。B=Cとすると、
  log|sinx| - lim(log|sinε|)(ε-->0) =-Σ1/n・cos(2nx) + 2{1/2 + 1/4 +1/6 + 1/8 + ・・・・}
となる。
あとは、2{1/2 + 1/4 +1/6 + 1/8 + ・・・・} + lim(log|sinε|)(ε-->0)が、-log2 に等しくなれば証明は
完了する。
 それを示したいが、それには次のlog(1+x)のテイラー展開を利用しよう。
 log(1+x)=x - x^2/2 + x^3/3 - x^4/4 + ・・・・  ----D
                (-1 < x <=1 )

 さて、まずε>0より log|sinε|=log|(sinε/ε)・ε|=log|(sinε/ε)| + log|ε|  ----E
と変形できる。
またlog|ε|=log{1 + (|ε| - 1)}とできるから、Dを利用して、
  log|ε|=log{1 + (|ε| - 1)}
        =(|ε| - 1) - 1/2・(|ε| - 1)^2 + 1/3・(|ε| - 1)^3 - 1/4・(|ε| - 1)^4 +・・・・ ---F

とできる。E、Fより、
 log|sinε|=log|(sinε/ε)| + (|ε| - 1) - 1/2・(|ε| - 1)^2 + 1/3・(|ε| - 1)^3 - 1/4・(|ε| - 1)^4 +・・・・

となる。ここで ε-->0のときsinε/ε-->1より、
    lim(log|sinε|)(ε-->0)=-1 - 1/2 - 1/3 - 1/4 - 1/5 - 1/6 - ・・・・・

となる。よって、
  2{1/2 + 1/4 + 1/6 + 1/8 + ・・・・} + lim(log|sinε|)(ε-->0)
  = 2{1/2 + 1/4 +1/6 + 1/8 + ・・・・}+ {-1 - 1/2 - 1/3 - 1/4 - 1/5 -1/6 - ・・・・・}
  = 2・1/2 + 2・ 1/4 + 2・1/6 + 2・ 1/8 + ・・・・+ {-1 - 1/2 - 1/3 - 1/4 - 1/5 -1/6 - ・・・・・}
  =-1 + (2-1)・1/2 - 1/3 + (2-1)・1/4 - 1/5 + (2-1)・1/6 -・・・ <---同類の項同士を計算するのがポイント
  =-1 + 1/2 - 1/3 + 1/4 - 1/5 + 1/6 - ・・・・    
  =-(1 - 1/2 + 1/3 - 1/4 + 1/5 - 1/6 + ・・・・)
  =-log2

となり、無事、2{1/2 + 1/4 +1/6 + 1/8 + ・・・・} + lim(log|sinε|)(ε-->0)=-log2 が示せた。
証明終わり。

 このようにAを両辺積分して@に一致することを示すことができましたので、後はもう
<重回積分の方法を拡張することで任意の奇数ゼータを統一的に導出できる>をそっくり全部利用できるため、
Aを母等式とする、完全に美しい形での統一的法則性が成立していることがわかったことになります。
それにしても上記証明は、じつにデリケートな計算であることがわかるでしょう。

これで奇数ゼータは、次式を母体として地上から地下まで完全に美しい一本の糸で結ばれていることがわかりました。

  cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・)  

<上の証明の感想>
 それにしても不思議な計算であります。
  2{1/2 + 1/4 +1/6 + 1/8 + ・・・・} は、途中一挙に整理して、1+1/2+1/3+1/4+・・・などとしてしまわない
のがポイントです。
 そして、この計算をもって、私がどうも気にかかってしかたなかった問題も同時に解決されてしまいました。
それは、<重回積分の方法を拡張することで任意の奇数ゼータを統一的に導出できる>でのでの不可解な
現象のことです。そこでは、次のように記していました。
************************************************************
  log2=1 - 1/2 + 1/3 - 1/4 + 1/5 - 1/6 + 1/7 - 1/8 +・・・
    =1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 + 1/5 + 1/6 + ・・・-2( 1/2 + 1/4 + 1/6 + 1/8 +・・・・ )
    =ζ(1) - 2・1/2( 1 + 1/2 + 1/3 + 1/4 +・・・・ )
    =ζ(1) - 2・1/2ζ(1)
    =ζ(1) - ζ(1)

となり、この場合だけ、ζ(1)の値が求まらないという事態に陥るのです。
************************************************************
これは、ゼータの心を反映した計算ではなかったわけです。
2行目から3行目がまずかった。こんな変形はしてはいけない。1行目から2行目は許されるでしょうから、
  log2=ζ(1) - 2( 1/2 + 1/4 + 1/6 + 1/8 +・・・・ )
つまり、
  ζ(1)=log2 + 2( 1/2 + 1/4 + 1/6 + 1/8 +・・・・ )  ----G
となっていると考えられます。
2( 1/2 + 1/4 + 1/6 + 1/8 +・・・・ )はこのままかもしくは、2・ 1/2 + 2・1/4 + 2・1/6 + 2・1/8 +・・・の形で
置いておかねばならない。これで調和が保たれます。
あるいはlog2=1 - 1/2 + 1/3 - 1/4 +・・・ということ(log(1+x)=x - x^2/2 + x^3/3 - x^4/4 + ・・・から
出ます)を考えても、いまいったことの意味(G式)はさらによくわかるのではないでしょうか。
ここでは無限というものの奥深さをみた気がしました。




2003/12/2      <全ゼータを生成させる中心母関数>

 上の形での統一的法則性は確実に成り立っているという予想の元に、さらに推論を進めます。
(---->確実に成り立っていることを上で証明しました)
上の奇数ゼータの母等式は、次のようなものです。

  cosx/sinx=Σ2sin(2nx)   -----@
         (n=1〜∞)

さて、<”演算”という立場から、さらに偶数ゼータも見直す>でも示しましたが、偶数ゼータの母関数の式は、
次のようなものでした。
(注意:偶数ゼータの母関数は他のものも考えられますが、次が形が一番美しく本質的であるといえるでしょう)

  πx/tanπx=- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ }
つまり、
  πx・cosπx/sinπx=- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ } ----A

このAを重回微分したり、重回積分したりして偶数ゼータを次々に出していったのでした。
じつは、佐藤郁郎氏のサイト(http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/sugioka7.htm)でも書かれて
いる通り、私はAの本当の姿は次の

  πx/tanπx=-2{・・・+ζ(-6)x^(-6)+ζ(-4)x^(-4)+ζ(-2)x^(-2)+ζ(0)・x^0+ζ(2)・x^2+ζ(4)・x^4+ζ(6)・x^6+・・・} --B

という形ではないか?と予想していました。 いいかげんな思いつきだったのです。
(負の偶数ゼータζ(-2)、ζ(-4)、・・はすべて0ですから、上のようになっていても不思議ではありません。ただ間違って
いるかもしれないと、自信などなかったのです。)佐藤氏は、上記サイトでBの複素領域における統一的法則性の成立
を示唆されました(びっくり!)。

@とAの左辺の関数を見比べてみてください。驚くべき一致ではありませんか。
@はcosx/sinxのフーリエ展開であり、Aはπx・cosπx/sinπxのテイラー展開になっている。

πのあるなしは、本質的なところではないので、
  @は、cosx/sinxのフーリエ展開
  Aは、x・cosx/sinxのテイラー展開

と表現できます。たった、xがかかっているかいないかだけの違いしかないのです!
 cosx/sinxはゼータの中心点に位置しているような気がします。
cosx/sinxはリーマン・ゼータの中心母関数とでもいったところでしょうか。

いえ、そう言いきることができる。
実際、Aを変数変換すると、
 x・cosx/sinx=-2{ζ(0) + ζ(2)x^2/π^2+ ζ(4)x^4/π^2 + ζ(6)x^6/π^2 +・・・ }
となりますが、両辺xで割って

 cosx/sinx=-2{ζ(0)/x + ζ(2)x/π^2+ ζ(4)x^3/π^2 + ζ(6)x^5/π^2 +・・・ }  ----C

 このCから、ζ(2)なら1回微分してx-->0とし、またζ(4)なら3回微分してx-->0などとすれば次々と偶数ゼータを
求めていくことができるからです!(ロピタルの定理を多用します)
これで左辺はxがかからない三角関数だけの姿となりました。

@とCに注目してください。まさしくcosx/sinxはリーマン・ゼータの中心母関数といえるでしょう。

結局、次のようになっているのです。
@のフーリエ展開式において、統一的法則性を用いれば全ての奇数ゼータが規則的に求まる。
Aのテイラー展開式において、統一的法則性を用いれば全ての偶数ゼータが規則的に求まる。

以上を、一言で表現すれば、

  cosx/sinxが全てのリーマン・ゼータの特殊値を生み出す根源となっている

ということになります。
 ここは、ゼータの多くの水脈の湧き出し口ともいうべき場所なのでしょうか。



2003/12/6     <[奇数ゼータ]=[偶数ゼータの無限和]となる理由>

 さらに、一つ上で見た中心的な二式を考察していきます。まずその二式@とAを書きます。

  cosx/sinx=Σ2sin(2nx) -----@
         (n=1〜∞)

  πx・cosπx/sinπx=- 2{ζ(0) + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ } ---A

Aは変数変換して書き直すと、次のようになります。
x・cosx/sinx
   =- 2{ζ(0) + ζ(2) (x/π)^2+ ζ(4)(x/π)^4 + ζ(6)(x/π)^6 + ζ(8)(x/π)^8 +・・・ }---B

 @は全ての奇数ゼータを生み出す式であり、Bは全ての偶数ゼータを生み出す式です。
さて、@とBから、cosx/sinxを消去すると、
x・Σ2sin(2nx)
   =- 2{ζ(0) + ζ(2) (x/π)^2+ ζ(4)(x/π)^4 + ζ(6)(x/π)^6 + ζ(8)(x/π)^8 +・・・ }

すなわち、
2x・(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + sin10x + ・・・・)
   =- 2{ζ(0) + ζ(2) (x/π)^2+ ζ(4)(x/π)^4 + ζ(6)(x/π)^6 + ζ(8)(x/π)^8 +・・・ }

 異様に美しい式だと思います。単なる美しさ、不思議さを飛びこえた”異様さ”を感じます。

2x・(sin0x + sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + sin10x + ・・・・)
   =- 2{ζ(0) + ζ(2) (x/π)^2+ ζ(4)(x/π)^4 + ζ(6)(x/π)^6 + ζ(8)(x/π)^8 +・・・ } ----D

とすると、余計に左右の対称性が際立ちます。上式を次のように変形しておきましょう。

sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + sin10x + ・・・・
  =- {ζ(0)/x + ζ(2)x /π^2+ ζ(4)x^3/π^4 + ζ(6)x^5/π^6 + ζ(8)x^7/π^8 +・・・ } ----E

 さて、このEがすべての秘密の鍵をにぎっていたのです。 sin0xは略。
Eを見ていると、奇数ゼータがなぜ偶数ゼータの無限和になるのかの理由がわかるのです。

 Eの左辺を奇数回積分or奇数回微分してx=π/2を代入しても、奇数ゼータの元(種)が出てくるのはすぐにわか
ります。
一方、右辺を奇数回積分or奇数回微分してx=π/2を代入しても、明らかにこれは偶数ゼータの無限和になります。
よって、
   奇数ゼータ=偶数ゼータの無限和

となるのです。(注意:「偶数ゼータの無限和」は、微分の場合は何個かは消える項も当然できてきますが)
なお1回積分の場合だけ冒頭の証明のようにデリケートな計算になります。気をつけてください。

このことから正の奇数ゼータζ(3)、ζ(5)、ζ(7)、・・のみならず、負の奇数ゼータζ(-1)、ζ(-3)、ζ(-5)、・・も
面白いことに”偶数ゼータの無限和”で表現できる!ことがわかります。

 例えば、上のやり方で計算すると(1回微分すると)、ζ(-1)=-1/6・Aとなります。ここでAは
  A=2/π^2 + ζ(2)/π^2 +3ζ(4)/π^4・(π/2)^2 +5ζ(6)/π^6・(π/2)^4 +・・・
というものです。数値計算でAは1/2に収束することが確認できますのでζ(-1)=-1/12と従来より知られている値に
一致することがわかります。
このように「負の奇数ゼータ=偶数ゼータの無限和」という形でも表現できることがわかったのです。
ちなみにζ(-3)=1/120、ζ(-5)=-1/252、・・・・です。
注意:”正の奇数ゼータ”や”負の奇数ゼータ”という呼び方をしていますが、これはζ(n)の中のnに対してその正や負を意味し
ています。

 まとめますと次のようになります。

[まとめ]
  cosx/sinx=Σ2sin(2nx) -----@
         (n=1〜∞)

 奇数ゼータを生み出す式は@式しかない。奇数ゼータの芽はいつでも@の右辺から出現してくる。
一方、@の左辺に目をやると、三角関数の逆数型関数のテイラー展開がどうしても偶数ゼータを係数にもつ
無限ベキ級数になってしまうので(その3参照)、右辺から芽を出した奇数ゼータは、必然的に
  奇数ゼータ=偶数ゼータの無限和

となるのです。
以上。

 以上の考察で、リーマン・ゼータの根幹部分が明らかになったような気がします。
いわば、奇数ゼータは偶数ゼータの無限和で表現されるように運命づけられていたといえるのかもしれ
ません。

 このリーマン・ゼータの根幹部分に、フーリエ展開(@式)とテイラー展開という重要な”展開”が決定的に
関わっているのは面白いという他ありません。




2003/12/12      <奇数ゼータが多様な表記になる理由>

 上では、「奇数ゼータ=偶数ゼータの無限和」となる理由を述べましたが、読者は「奇数ゼータの表記は、多くの
異なる表記があった。その多様性はどこから出てくるのか?」と思われることでしょう。
(多様な表記の例は、「ゼータ関数のいくつかの点について」の”その4”〜”その7”を見てください。)

 その理由を考えていくことにしましょう。まず奇数ゼータにおける中心的な式を書きます。

  cosx/sinx=Σ2sin(2nx) -----@
         (n=1〜∞)

これまでの考察で、奇数ゼータはどんな場合でもこの式から生み出されてくる、ということがわかったわけです。

 「その3」で私は三角関数の逆数型関数の類似的な式(テイラー展開式)を多く求めていました。
例えば、次のようなものです。
 πx/sinπx=2{(1-2^1)ζ(0)x^0 + (1-2^(-1))ζ(2) x^2
                    + (1-2^(-3))ζ(4)x^4 + (1-2^(-5))ζ(6)x^6 + ・・・ }

 変数変換すると、容易に
 x/sinx=2{(1-2^1)ζ(0) + (1-2^(-1))ζ(2) (x/π)^2
               + (1-2^(-3))ζ(4)(x/π)^4 + (1-2^(-5))ζ(6)(x/π)^6 + ・・・ } 

と変形できます。これで1/sinx=・・・としたものをまず@の左辺に代入すると、@の左辺は、
@の左辺=cosx・(2/x){(1-2^1)ζ(0) + (1-2^(-1))ζ(2) (x/π)^2
                  + (1-2^(-3))ζ(4)(x/π)^4 + (1-2^(-5))ζ(6)(x/π)^6 + ・・・ }

となります。すなわち@は、次のようになります。

2cosx/x・{(1-2^1)ζ(0) + (1-2^(-1))ζ(2) (x/π)^2+(1-2^(-3))ζ(4)(x/π)^4+(1-2^(-5))ζ(6)(x/π)^6+・・・}
                                = 2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + sin10x + ・・・・)

さらに変形して整理すると、
 sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + sin10x + ・・・
=cosx{(1-2^1)ζ(0)/x + (1-2^(-1))ζ(2) x/π^2+(1-2^(-3))ζ(4)x^3/π^4+(1-2^(-5))ζ(6)x^5/π^6+・・・}---A
                                  
となります。
また、一つ上で考察した式も出しておきます。次です。
 sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + sin10x + ・・・・
       =- {ζ(0)/x + ζ(2)x /π^2+ ζ(4)x^3/π^4 + ζ(6)x^5/π^6 + ζ(8)x^7/π^8 +・・・ } ----B

このAとBを比べてみてください。
 AもBも左辺は同じです。例えば1回微分しx=π/2を代入したら左辺から、ζ(-1)が出現してきます。
ところが、右辺を1回微分してx=π/2を代入すると、AとBとでは異なった形になるのです(どちらも”偶数
ゼータの無限和”ではありますが)。ちなみにBの右辺は、x/tanx のテイラー展開からきている。
計算結果は次のようになります。

Aを1回微分した式にx=π/2を代入した場合
 ζ(-1)=-1/(6π)・{1 + ζ(2)/2^2 + 7ζ(4)/8^2 + 31ζ(6)/32^2 + 127ζ(8)/128^2+・・・} ---A

Bを1回微分した式にx=π/2を代入した場合
 ζ(-1)=-1/(6π^2)・{2 + ζ(2) + 3ζ(4)/2^2 + 5ζ(6)/2^4 + 7ζ(8)/2^6 + ・・・}  --------B

 このように異なってしまうのです。両方とも右辺は同じ値”-1/12”に収束することを確認してください。

 こういうカラクリ(仕組み)があるので、奇数ゼータはどこまでいっても”偶数ゼータの無限和”で表されることに
なるのです。”三角関数の逆数型関数”のテイラー展開がどうしても偶数ゼータを係数にもつ無限ベキ級数に
なりますので、これは三角関数の逆数型関数が有する保型性的な性質が原因しているともいえます。
x/tanx x/sinxをテイラー展開しても、不思議なことにどちらも偶数ゼータを係数にもつベキ級数になって
しまう、という観点から、”型を保つ”という意味で保型性と呼びました。)
これが、奇数ゼータが多様な表記になる一つ目の原因です。

じつは原因はもう一つあります。再度、次式を持ち出しましょう。
 sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + sin10x + ・・・・
  =- {ζ(0)/x + ζ(2)x /π^2+ ζ(4)x^3/π^4 + ζ(6)x^5/π^6 + ζ(8)x^7/π^8 +・・・ } ----B

 1回微分した式にx=π/2を代入した場合と、x=π/4を代入した場合とでは、左辺からは、ζ(-1)が出現しま
すが、右辺は次のように異なった表記となってしまうことにお気付きでしょうか(”偶数ゼータの無限和”であること
は共通ですが)。つまり、次のようになっている。

x=π/2を代入した場合
 ζ(-1)=-1/(6π^2){2 + ζ(2) + 3ζ(4)/2^2 + 5ζ(6)/2^4 + 7ζ(8)/2^6 + ・・・} ----C

x=π/4を代入した場合
 ζ(-1)=-1/(12π^2){8 + ζ(2) + 3ζ(4)/4^2 + 5ζ(6)/4^4 + 7ζ(8)/4^6 + ・・・} ----D

 このようにどんな値を代入するかによって右辺の表記が異なってしまうのです。これが多様な表記を出現させる
2番目の原因となっています。(なお、ζ(-1)=-1/12です。)

 結局、これら二つの原因が組み合わさって、奇数ゼータの表記はまさに多種多様な様相を呈しているのだ
と思われます。
 上のA、B、C、Dの四式を見ても、すでに三つもの異なる式が出ていることがわかるでしょう。

 いまは、微分方向の場合(負の奇数ゼータ)しか考察しませんでしたが、正の奇数ゼータζ(3)、ζ(5)、ζ(7)・・、
(積分方向)においても本質はまったく同じです。微分方向の方がはるかに簡単な計算で済むためこちらで議論し
ました。




2003/12/10<ζ(5)、ζ(7)、ζ(9)、・・・の全ての奇数ゼータは無理数であろう--予想と推論

 私は上の二つで重大な事実を指摘しました。
負の奇数ゼータも偶数ゼータの無限和で表現することが可能、という事実です。

 これまでζ(3)、ζ(5)、ζ(7)・・・が「正の奇数ゼータ=偶数ゼータの無限和」と表現されることは「その4」〜
「その7」で示してきた通りです。一方、負の奇数ゼータの値はζ(-1)=-1/12、ζ(-3)=1/120、ζ(-5)=-1/252、・・・
有理数の値をとり、これも昔からよく知られています。
(注意:”正の奇数ゼータ”や”負の奇数ゼータ”という呼び方をしていますが、これはζ(n)の中のnに対してその
正や負を意味しています。)

 これらより私はてっきり”偶数ゼータの無限和”で表現できるのは正の奇数ゼータだけと思っていたのですが、
面白いことに、負の奇数ゼータも偶数ゼータの無限和で表現できることがわかったのです。全く論理的な考察から
の帰結でした。

さて・・・ここで、私は非常に面白い着想を得ました。
「その4」〜「その7」で得た奇数ゼータの形から、全ての奇数ゼータは無理数であろう、と漠然と予想していたの
ですが、その茫漠とした予想へのある直感的な根拠を得たのです。

ζ(-1)=-1/12、ζ(-3)=1/120、ζ(-5)=-1/252、・・・・と負の奇数ゼータはもちろんすべて有理数です。

また正の奇数ゼータも
  正の奇数ゼータ=偶数ゼータの無限和

となりますが、全ての正の奇数ゼータは無理数!となっていると思えてしかたがないのです。
現代数学の現状をいうと、n>=5の奇数ゼータζ(5)、ζ(7)、ζ(9)・・・に対しては無理数か有理数かほとんど
なにもわかっていない状況で現在まできてしまっています。

 一つの手がかりは、ζ(3)が無理数であるという事実です。これは1978年にフランスのアペリーが証明して
「オイラーが見落としたものを見つけた!」として話題になったものです。
この「ζ(3)が無理数である」ということを手がかりになにか見えてこないでしょうか?
じっと、全体に目を凝らしてみましょう。一つ上で示した「ζ(-1)=偶数ゼータの無限和」のBの式を見てください。

 ζ(-1)=-1/(6π^2)・{2 + ζ(2) + 3ζ(4)/2^2 + 5ζ(6)/2^4 + 7ζ(8)/2^6 + ・・・}

となっていますね。
(ζ(-3)、ζ(-5)、・・でも同じような形の式になります。)
上式の形が「その4」〜「その7」で様々に求めてきた正の奇数ゼータの式と”形的に”あまり違っていないことに
注目すべきです。そして、負の奇数ゼータの値は、なぜか全部有理数となっている。
ζ(-1)=-1/12ですから、上式の右辺は-1/12に収束します。

次の予想とその根拠を提示します。

 知られている顕著な成果だけあげると、1979年にアペリーがζ(3)が無理数であることを示しています。
2000年にT. Rivoalが無理数である奇数ゼータは無限に多く存在することを証明しています。これは「全ての奇数
ゼータが無理数」ということではないので注意。2001年W. Zudilinはζ(5),ζ(7),ζ(9), ζ(11)の内少なくとも
一つは無理数であることを示しました。

杉岡の予想

 全ての正の奇数ゼータは無理数であろう。
そしてそれは次の推論(根拠)によりほぼ確実に正しいであろうと思われる。


[私の推論]

ζ(-1)=-1/12、ζ(-3)=1/120、ζ(-5)=-1/252、・・・・
と負の奇数ゼータはもちろん有理数である。

また正の奇数ゼータも
  正の奇数ゼータ=偶数ゼータの無限和

となるが、正の奇数ゼータは全部無理数になっているのではないか?
その手がかりはもちろんζ(3)が無理数であるということである。
私は、奇数ゼータは正側と負側できれいに”対称的に反対に”なっていると思う。
すなわち、「負は全部有理数、正は全部無理数」と。

 一つ上で示したζ(-1)=[偶数ゼータの無限和]
の式を見ていただいたい(A〜D式)。これまで、私たちが、正の奇数ゼータで様々に求めてきた式と”形的に”
あまり違っていないことに驚くではないか。
にもかかわらず、負の奇数ゼータはなぜか全部有理数となっている。

正の側では、きっと全部無理数になっているに違いない。


 この推論は全く面白い着想だと思いますが、いかがでしょうか。
 このような推論をへて、ζ(3)、ζ(5)、ζ(7)、ζ(9)・・・は、全部無理数になっているに違いない、すなわち、
「予想はぜったいに正しい」と確信を得ました(ζ(3)だけは無理数と判明していますが)。
負の奇数ゼータでは現れない自然対数log が正の奇数ゼータで忽然と姿を見せるのも暗示的であり、この辺が
キーポイントとなるかもしれません。

 奇数ゼータは正側と負側できれいに”対称的に反対になっている”と思われます。
必ずそうなっている・・・
これは、これまで「その1」から延々と膨大なゼータ計算をしてきた一種の直感的な確信と、美と秩序を好むゼータ
への絶対的信頼性からきているともいえます。




2003/12/8   <奇数ゼータにおける究極の統一的法則性をL関数に拡張>

 冒頭では、奇数ゼータにおける最も美しい統一的法則性の成立を示しましたが、これが示せたことで、
佐藤郁郎氏が示されたL関数の場合にも完全にそっくりそのまま適用できることになりました。
佐藤氏は、<重回積分の方法を拡張することで任意の奇数ゼータを統一的に導出できる>で示した統一的法則性に
ある工夫を加えられ、奇数ゼータと偶数L関数を両方出す結果を得られました。
私のπ/2代入のし方ではなく、なんとπ/4を代入されたのです。その結果、奇数ゼータのみならず、偶数のL関数も
同時に表示されることになったのです。
詳しくは、氏のサイト(http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/sugioka3.htm)をご覧ください。

 本ページ冒頭の統一的法則性をL関数まで拡張した姿は次のようなものです。

 中心の母等式は次です。

  cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・)  -------@

この両辺に演算を施したものにx=π/4を代入すると、奇数ゼータ、偶数L関数が次々に得られるのです。
  ・
  ・
 @を7回積分--------------->ζ(7)出現
 @を6回積分--------------->L(6)出現
 @を5回積分--------------->ζ(5)出現
 @を4回積分--------------->L(4)出現
 @を3回積分--------------->ζ(3)出現
 @を2回積分--------------->L(2)出現
 @を1回積分--------------->ζ(1)出現
 @を0回積分--------------->L(0)出現
 @を-1回積分(1回微分)------>ζ(-1)出現
 @を-2回積分(2回微分)------>L(-2)出現
 @を-3回積分(3回微分)----->ζ(-3)出現
 @を-4回積分(4回微分)------>L(-4)出現
 @を-5回積分(5回微分)----->ζ(-5)出現
  ・
  ・

 見事な結果という他ありません。
 全くシンプルな次式に対し、積分or微分という演算を両辺に施すだけで(結果にx=π/4を代入する)、次々に
奇数ゼータとL関数が導出されてくる。n回積分のnと、ζ(n)、L(n)のnが完全に一致している。
光に満ちた天界から暗黒の地下まで一糸乱れぬ秩序で統一されていた。なんという調和に満ちた姿でしょう。

  cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・)


注意:佐藤氏のサイトでは例えば (3回積分)-->ζ(3),ζ(2n),L(4) として、L(4)とζ(3)の両方が記されていますが、
(2回積分)-->ζ(3),ζ(2n) ですのでこの「ζ(3)=偶数ゼータの無限和」という結果を、3回積分の結果に代入する
と結局 (3回積分)-->ζ(2n),L(4) となりますので佐藤氏の結果は本質的には「奇数L関数=偶数ゼータの無限和」
を示していることになります。この本質的な形で上の系列を書いています。





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  文明は進歩するが、数学は文化であり、文化は深化する。   志賀浩二(数学者)