ゼータ関数のいくつかの点について その14

その13」に引き続き、奇数ゼータと偶数L関数の密接な関連性をさらに考察します。
L関数の無理数性の考察をし、ζ(3)のオイラー式に対応するL(2)式を出しました。またlogが作用するゼータ関数の
世にも不思議な式を示しました。ある問題を提示。


追加2004/1/11  <正の奇数ゼータと偶数L関数を結ぶ式の重要性>

  その13では、奇数ゼータと偶数L関数の関連性を研究して、この両者は根底のところで密接に絡まりあった
存在であることを見ました。

 簡単に復習しますと・・、
 (sinx + sin3x + sin5x + sin7x + ・・・)cosx=(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・・) ------@

 そこでの中心的な式は@であり、左辺の(sinx + sin3x + sin5x + sin7x + ・・・・)は偶数L関数の生成母体
右辺は奇数ゼータの生成母体であって、この式は眺めているだけで、奇数ゼータとL関数がもうはじめから密接に
関係しあっていることを示している、じつに恐ろしい式なのでした。

 そして、この@の両辺を次々に重回積分していった結果にπ/2を代入することで、次のような結果を得たので
した。これで、具体的に両者の特殊値がどのように絡まりあっているかがわかります。
 それを具体的に示すと、次のようになります。
  ・
  ・
@を8回積分--> -L(8) + 63π/128・ζ(7) - 5π^3/256・ζ(5) + 17π^5/46080・ζ(3)
                            =π^7/645120・log2 + ∫∫∫∫∫∫∫log(cos(x/2))dx 

@を6回積分--> L(6) - 15π/32・ζ(5) + π^3/64・ζ(3)
                           =π^5/3840・log2 + ∫∫∫∫∫log(cos(x/2))dx

@を4回積分--> -L(4) + 3π/8・ζ(3) =π^3/48・log2 + ∫∫∫log(cos(x/2))dx

@を2回積分--> L(2)=π/2・log2 + ∫log(cos(x/2))dx

 註:右辺の積分は、「0〜xで重回積分した結果にx=π/2を代入したもの」を意味する。奇数回積分は略。また
   dx・・・dxも dx一個で表現しています。

上でのL(s)は、ディリクレのL関数L(χ , s)の一種の
   L(s)=1/1^s - 1/3^s + 1/5^s - 1/7^s + ・・・
です。またζ(s)もL(χ , s)の一種です。
 これで復習は終わりです。

 「その13」では、私はここまでの結果で十分に満足していたのですが、よく見ると、偶数L関数が無理数か否かの
考察においてじつに重要な情報を提供してくれているわけですが、その前に上の係数にはある秩序がありますので
まずそれを指摘します。
係数に興味ある規則があるのですが、それを強調して書きますと、次のようになっている。
∫・・∫log(2cos(x/2)) dx=[偶数ゼータの無限和]ですから右辺はそれで表現しました(補足説明参照)。
(係数のない下二つは省きました)。

  ・
  ・
@を8回積分--> -L(8) + 3^2×7/2^7・πζ(7) - 5/2^8・π^3ζ(5) + 17/2^10×3^2×5・π^5ζ(3)
                                              =[偶数ゼータの無限和]
@を6回積分--> L(6) - 3×5/2^5・πζ(5) + 1/2^6・π^3ζ(3) =[偶数ゼータの無限和]

@を4回積分--> -L(4) + 3/2^3・πζ(3) =[偶数ゼータの無限和]


 青字のところですが、式の中で最大のnをもつζ(n)のnと、その係数の分母のnが一致していますね。
計算の規則性からずーっと先まで無限にこの規則は成立しています(証明は略。帰納法で簡単)。面白いですね。
他にも別の規則性がひそんでいるのかもしれませんが、よくわかりません。

 それよりも、もっと重大なことがあります。
 この奇数ゼータとL関数の絡まり合いの式は、L関数の無理数性を示すのに、決定的な役割を果たすことになる
のではないでしょうか。
 杉岡予想では「奇数ゼータは全て無理数であろう」とある強力な根拠とともに予想したわけですが、もしその予想が
正しいとすると(たぶん正しいでしょうが)、上の一連の式から、偶数L関数も全て無理数である可能性が高まった、
といえると思います。

 世間では、奇数ゼータのことが「よくわからない」と言われますが、じつは偶数L関数もじつはさっぱりわかって
いないのです。奇数ゼータではζ(3)だけ無理数とわかっており、後の全部ζ(5)、ζ(7)、ζ(9)・・は何もわかっ
ていないのですが、偶数L関数に関してはさらに何もわかっていない。つまり、L(2)、L(4)、L(6)、・・・が有理数なの
か無理数なのか現代数学においてもさっぱり不明なのです。
 上式はその解明のヒントを与えてくれるかもしれません。

 「偶数ゼータの無限和」が無理数なのか有理数」かは不明ですがそれでも「偶数L関数は必ず無理数であろう」
と、上式を見ると思えてきます。
 もちろん(π- 1)+ (2 -π)=1のようなまれなケースもありますから、「無理数+無理数」がいつでも無理数で
あるとはいえないのですが、しかし確率的には「偶数L関数は無理数」との可能性が非常に高まったといえると
思います。このような視点から、上式を見るのは非常に重要なことといえるでしょう。

佐藤郁郎氏は先に、氏のコラムの【3】 で奇数ゼータと偶数L関数の上と同類の絡まり合いの式を出されてますが、
それも非常に参考になります。
 すなわち、結局、「奇数ゼータがわかれば、偶数L関数もかなりわかる」
という構造になっています。

 また私は、奇数ゼータの類似的考察から杉岡予想の類似を提示し、「偶数L関数も全部無理数であろう」と
予想したのですが、その予想に信頼性を与えてくれるのが上記式であるといえるでしょう。

 上式の中で、一番下の式だけ少し見てみましょう。

   -L(4) + 3/2^3・πζ(3) =[偶数ゼータの無限和]

 さて、「ζ(3)が無理数である」ことが証明されていることを考えてみてください(アペリー、1978年証明)。この式の
重要性がよくわかると思います。




追加2004/1/11    <負の奇数ゼータと偶数L関数の関係式にある規則性>

 上では、正の奇数ゼータと偶数L関数の間に突如あらわれた係数の規則を見ました。
負の奇数ゼータと偶数L関数の間でも同じような規則がありますので、ここではそれを少し見ましょう。

  <奇数ゼータと偶数L関数の密接な関係--微分編>の結果を使いますがまず簡単に復習しておきましょう。

 (sinx + sin3x + sin5x + sin7x + ・・・)cosx=(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・・) ------@

 負の奇数ゼータと偶数L関数の間の具体的な絡まり具合を見るには、Bの両辺を重回微分した結果に
π/2を代入するだけでわかりますが、その結果を示します。

 @を1回微分---->  6ζ(-1)=-L(0)
 @を3回微分-----> -120ζ(-3)=3L(-2) + L(0)
 @を5回微分----> 2016ζ(-5)=-5L(-4) -10L(-2) - L(0)
 @を7回微分----> 32640ζ(-7)=7L(-6) + 35L(-4) + 21L(-2) + L(0)
  ・
  ・
註: 偶数回微分の行はすべて0=0となるので略しました。

 負の奇数ゼータと偶数L関数は、上のように繋がっているのでした。復習終わり。
さて、一つ上と類似の考察を行いましょう。係数に注目します。
 係数の整数を素因数分解すると、次のようになります。

 @を1回微分---->  2^1×3ζ(-1)=- L(0)
 @を3回微分-----> -2^3×3×5ζ(-3)=3L(-2) + L(0)
 @を5回微分----> 2^5×3^2×7ζ(-5)=-5L(-4) - 2×5L(-2) - L(0)
 @を7回微分----> -2^7×255ζ(-7)=7L(-6) + 7×5L(-4) + 3×7L(-2) + L(0)
  ・
  ・

青字を見てください。左辺の2^nのn とζ(-n)のn が一致しています。
これも計算の規則性から、永久に成り立ちます(証明は略。帰納法で簡単です)。
 他にも、右辺のL関数にかかる係数には素数の累乗が表れていないなどまだなんらかの規則が隠れている
可能性もありますが、はっきりしません。読者でまたなにかわかりましたら、お知らせください。

 それにしても、右辺は軽いのに、左辺はじつに重たい・・ですね。




追加2004/1/17 <奇数ゼータ、偶数L関数、L1関数、L2関数の絡み合った式---微分編

<奇数ゼータと偶数L関数の密接な関係----微分編>では、次の@式を重回微分してπ/2を代入することで
負の奇数ゼータと負の偶数L関数の絡み合った式を次々と導出したのでした。

 (sinx + sin3x + sin5x + sin7x + ・・・)cosx=(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・・) ------@

 さて、”その8”以来の流れから「それではπ/4を代入すればどうなるか?」と考えるのは全く自然であり、それを
今回調べましたので報告します。

@式を重回微分してπ/4を代入した結果は次のようになります。

 @を0回微分---->  -ζ(0)=1/2・L2(0)

 @を1回微分--->   12ζ(-1)=1/2・L1(-1) - 1/2・L2(0)

 @を2回微分--->  -4L(-2) =-1/2・L2(-2) - L1(-1) - 1/2・L2(0)

 @を3回微分----> -15ζ(-3)=-1/2・L1(-3) + 3/2・L2(-2) - 3/2・L1(-1) + 1/2・L2(0)

 @を4回微分--->   16L(-4)=1/2・L2(-4) + 2L1(-3) + 3L2(-2) + 2L1(-1) + 1/2・L2(0)
  ・
  ・

 このようになりました。(微分したものにπ/4を代入した結果の状態でおきました。つまり、符号の整理はしていない。)

トップの行を除いて、左辺は、負の奇数ゼータと負の偶数L関数が交互に現れます。
また、右辺は、全てL1関数、L2関数であり、そしてその係数は右辺の中で対称的な並びになっている。
 これら両辺の係数は、@式に微分という演算を作用させπ/4を代入することによって一意に決まります。
負の奇数ゼータ、負の偶数L関数は、L1関数、L2関数とも上のような関係で密接に繋がっているといえるので
しょう。
 なおL1関数、L2関数とは、ゼータ関数の一種で次式で定義されるものです。
これらはかなり昔から知られているものなのかもしれません。雑誌「数学のたのしみ」No.17の加藤和也教授
(京都大学)の記事「岩澤理論の拡張についての」の中で、L1関数に関して若干の解説があります(p. 87)。
ここでは佐藤郁郎氏の”L1, L2”という命名を使用しました。
  L1(s)=1/1^s - 1/3^s - 1/5^s + 1/7^s + ・・・
  L2(s)=1/1^s + 1/3^s - 1/5^s - 1/7^s + ・・・

註:上の符号(+、-)の並びが繰り返されます。

<奇数ゼータと偶数L関数の密接な関係----微分編>では負の偶数L関数が複数の負の奇数ゼータで表現
されたわけですが(逆も真なり)、今回の研究で、負の偶数L関数もまた負の奇数ゼータも複数のL1関数、L2関数
で表現できることがわかりました。




追加2004/1/18 <奇数ゼータ、偶数L関数、L1関数、L2関数の絡み合った式---積分編

一つ上では、微分側を見ましたので、ここでは積分側を調べます。
次の@式を重回積分したものにπ/4を代入した結果を見ていきます。

 (sinx + sin3x + sin5x + sin7x + ・・・)cosx=(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・・) ------@

@式を重回積分してπ/4を代入した結果は次のようになります。
  ・
  ・
@を5回積分--> 1/√2・L1(5) - 15345/16384・ζ(5) + 3π^2/128・ζ(3)
                                  =π^4/6144・log2 + ∫∫∫∫log(cos(x/2))dx 

@を4回積分-->  -1/√2・L2(4) + 1/16・L(4) + 3π/16・ζ(3)
                                =π^3/384・log2 + ∫∫∫log(cos(x/2))dx 

@を3回積分-->  -1/√2・L1(3) + 195/256・ζ(3)=π^2/32・log2 + ∫∫log(cos(x/2))dx 

@を2回積分-->  1/√2・L2(2) - 1/4・L(2)=π/4・log2 + ∫log(cos(x/2))dx 

@を1回積分-->  1/√2・L1(1) + 1/4・(1/4+1/8+1/12+・・)=log2 + log(cos(π/8))

@を0回微分----> -ζ(0)=1/2・L2(0)

 註:右辺の積分は、「0〜xで重回積分した結果にx=π/4を代入したもの」を意味する。

 このように、奇数ゼータζ、偶数L関数、そしてL1関数、L2関数が絡み合った関係式が出ました。
@を重回積分していくだけで得られるのですから、面白いことですね。

 なおL1関数、L2関数とは、次式で表現されるゼータ関数の一種です。
  L1(s)=1/1^s - 1/3^s - 1/5^s + 1/7^s + ・・・
  L2(s)=1/1^s + 1/3^s - 1/5^s - 1/7^s + ・・・

註:上の符号(+、-)の並びが繰り返されます。

 念のため、上で得た式の係数を素因数分解して書くと、次のようになります。
  ・
  ・
@を5回積分--> 1/√2・L1(5) - 3^2×5×11×31/2^14・ζ(5) + 3π^2/2^7・ζ(3)
                                   =π^4/6144・log2 + ∫∫∫∫log(cos(x/2))dx 

@を4回積分-->  -1/√2・L2(4) + 1/2^4・L(4) + 3π/2^4・ζ(3)
                                  =π^3/384・log2 + ∫∫∫log(cos(x/2))dx 

@を3回積分-->  -1/√2・L1(3) + 3×5×13/2^8・ζ(3)=π^2/32・log2 + ∫∫log(cos(x/2))dx

@を2回積分-->  1/√2・L2(2) - 1/2^2・L(2)=π/4・log2 + ∫log(cos(x/2))dx 

@を1回積分-->  1/√2・L1(1) + 1/2^2・(1/4+1/8+1/12+・・) =log2 + log(cos(π/8))

@を0回微分----> -ζ(0)=1/2・L2(0)

以上。




追加2004/1/22    <ζ(3)のオイラーの式に対応するL(2)の式>

 このページ冒頭に一連の次を示しましたが、うっかり面白い式が出ているのを見落としていました。
まず、その式をもう一度、書きます。
(奇数回積分は略。 奇数回積分まで含めた結果は、<奇数ゼータと偶数L関数の密接な関係-積分編>を見てください)
  ・
  ・
@を8回積分--> -L(8) + 63π/128・ζ(7) - 5π^3/256・ζ(5) + 17π^5/46080・ζ(3)
                             =π^7/645120・log2 + ∫∫∫∫∫∫∫log(cos(x/2))dx 

@を6回積分--> L(6) - 15π/32・ζ(5) + π^3/64・ζ(3)
                            =π^5/3840・log2 + ∫∫∫∫∫log(cos(x/2))dx

@を4回積分--> -L(4) + 3π/8・ζ(3) =π^3/48・log2 + ∫∫∫log(cos(x/2))dx

@を2回積分--> L(2)=π/2・log2 + ∫log(cos(x/2))dx

註:右辺の積分は、「0〜xで重回積分した結果にx=π/2を代入したもの」を意味する。


  さて、上の2回積分の式、つまり、

   L(2)=π/2・log2 + ∫0〜π/2 log(cos(x/2))dx   -------@
                  
に注目しましょう。”0〜π/2、0〜π/2の定積分を意味します。

 私はうっかりしていたのですが、これはなんと、オイラーが見つけていたζ(3)の式に対応するような式になって
います。その4でも示しましたが、オイラーの見付けたζ(3)の式とは、次のもので、「これは、あまり知られていない」
と「数学の夢 素数からのひろがり」(黒川信重著、岩波書店)に紹介されているものです。この@式も誰かが先に出し
ている可能性もありますが、重回積分の手法で自然に出てきたことに注目してください。

 ζ(3)=(π^2/7)log2 + 16/7∫0〜π/2 x・log(sinx)dx   -----A

 どうですか。全く類似的な式となっていますね。
Aを少し復習しますと、
 log(πx/sinπx)= 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ }  -----B

という決定的な式があるために、Aはζ(3)=「定数」+「偶数ゼータの無限和」という形に表せるのでした。
そして、@でも同じことがいえます。次の

 log(1/cos(x/2))={(x/π)^2(1-1/2^2)ζ(2) + (x/π)^4(1-1/2^4)ζ(4)/2
                + (x/π)^6(1-1/2^6)ζ(6)/3 + (x/π)^8(1-1/2^8)ζ(8)/4 + ・・・・}---C

というこれまた凄い式のおかげで、やはり、@でL(2)=「定数」+「偶数ゼータの無限和」と表せるのでした。

 上の式(次式)もよく見ると、Aの表現の自然な拡張になっているといえるでしょう。

 -L(8) + 63π/128・ζ(7) - 5π^3/256・ζ(5) + 17π^5/46080・ζ(3)
                           =π^7/645120・log2 + ∫∫∫∫∫∫∫log(cos(x/2))dx 

 L(6) - 15π/32・ζ(5) + π^3/64・ζ(3) =π^5/3840・log2 + ∫∫∫∫∫log(cos(x/2))dx

 -L(4) + 3π/8・ζ(3) =π^3/48・log2 + ∫∫∫log(cos(x/2))dx


 「その4」〜「その7」では、奇数ゼータζ(3)、ζ(5)、ζ(7)・・を次々と求めてきたのでしたが、そこではもっぱら
究極的に「偶数ゼータの無限和」の形として求めたわけですが(もうお気づきと思いますが)、もちろん、いま並べてい
る偶数L関数のように、ζ(3)、ζ(5)、ζ(7)・・でももちろん重回積分の形のまま置いておくことも可能です。

  さて、これらすべての流れを眺めていると、いまさらながら、”三角関数の逆数の絡む関数の保型性”、つまり、それ
らのテイラー展開がなぜか偶数ゼータを係数にもつ無限ベキ級数になることが多いという性質の面白さを感じますし、
またその8で見つけて以来使い続けている統一的法則性(重回積分-重回微分の規則)という法則の凄さを改めて認
識する次第です。
 統一的法則性がゼータ関数の中心を脈々と流れている母なる河であることに読者は気付かれていることでしょう。




追加2004/1/24       <logのトンネルを抜ける式>

 これだけいろいろな式が見つかってくると、面白い組合せがすぐ近くにあっても、うっかり見落としていたという
こともあります。そんな例(式)を昨日見つけましたので、ここで示します。
 
 まず「その12」の< 負の偶数L関数も”偶数ゼータの無限和”で表現できる >で示した次の式を示します。

log (cos(πx/2))= -{x^2(1-1/2^2)ζ(2) + x^4(1-1/2^4)ζ(4)/2
                                   + x^6(1-1/2^6)ζ(6)/3 + ・・・} -----@
                                                     (0 < x < 1)

 さらに、「その9」の< 奇数L関数でも対称性が成り立っている>で見た次の式も出します。

 (πx/2)/cos(πx/2)= 2{L(1) x^1+ L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・} -------A
                                          ( -1 < x < 1 )

上でのL(s)は、ディリクレのL関数L(χ , s)の一種の
   L(s)=1/1^s - 1/3^s + 1/5^s - 1/7^s + ・・・
です。またζ(s)もL(χ , s)の一種です。

さて@とAを出発点として面白い式を出します。
 Aの両辺のlog(もちろん自然対数)をとると、次のようになります。

  log (πx/2) - log(cos(πx/2))=log [2{L(1) x^1+ L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・}] ------B

@とAから、log(cos(πx/2))を消去すると、
  log (πx/2) + {x^2(1-1/2^2)ζ(2) + x^4(1-1/2^4)ζ(4)/2 + x^6(1-1/2^6)ζ(6)/3 + ・・・}
 =log [2{L(1) x^1+ L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・} ]

 これをさらに整理すると、次のようになります。

 log [(4/πx){L(1)x + L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・}]
  ={x^2(1-1/2^2)ζ(2) + x^4(1-1/2^4)ζ(4)/2 + x^6(1-1/2^6)ζ(6)/3 + ・・・}  -----C
                                                     (0 < x < 1)

  このような面白い式がたち現れたのです。
 そして、よく見ると、L(1)=π/4ですので、Cはさらに次のような形に変形できることに気付きました。

 log [{L(1)x + L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・} /L(1)x]
  ={x^2(1-1/2^2)ζ(2) + x^4(1-1/2^4)ζ(4)/2 + x^6(1-1/2^6)ζ(6)/3 + ・・・}  -----C
                                                     (0 < x < 1)

  この式の成立は奇跡のように思えます。
 L(2n+1)の無限個の集団がlogの長いトンネルを抜けると、そこはζ(2n)の無限個の集団の村に出た、という話ですが、
 左右とも全く秩序だった形であるところに注目してください。

 左辺のL(2n+1)の集団の姿は、全く調和に満ちた形をしていますし、また右辺のζ(2n)の集団もやや趣を変えて
いるとはいえ、これまた全く秩序だった形の世界となっている。
 logという過酷なトンネルを通っても、美は崩れないところに感動を覚えます。
 Cは数学者・加藤和也さんの日本昔話の世界をゼータ自ら体現している姿なのかもしれません。
 
 さて、さらに別の式を出しましょう。「その3」で示した次の二式を見てください。

  πx/sinπx = 2{ (1-2^1)ζ(0)x^0 + (1-2^(-1))ζ(2) x^2
                      + (1-2^(-3))ζ(4)x^4 + (1-2^(-5))ζ(6)x^6 + ・・・ }  -----D
                                           ( 0 < |x| < 1 )

  log(πx/sinπx)= 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ }   -----E
                                             ( 0 < |x| < 1 )

 次にD、Eからπx/sinπx を消去してみましょう。

 log(2{ (1-2^1)ζ(0)x^0 + (1-1/2^1)ζ(2) x^2 + (1-1/2^3)ζ(4)x^4 + ・・・ })
                  = 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ } ----F
                                                     ( 0 < |x| < 1 )

  これもまた驚くべき美しさです。
  Cと比べて不思議なのは、綺麗なζ(2n)の集団が、logトンネルをくぐっても、(L関数ではなく!)美しいζ(2n)の
世界に出ることです。なんとも、不思議です。

 また、形的に見てもFはCと類似的・対称的な姿をしています。鑑賞する意味で二つを並べておきましょう。

 log [{L(1)x + L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・}/L(1)x]

     ={x^2(1-1/2^2)ζ(2) + x^4(1-1/2^4)ζ(4)/2 + x^6(1-1/2^6)ζ(6)/3 + ・・・} ---C
                                                     (0 < x < 1)


 log(2{ (1-2^1)ζ(0)x^0 + (1-1/2^1))ζ(2) x^2 + (1-1/2^3)ζ(4)x^4 + ・・・ })

                  = 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ } ---F
                                                     ( 0 < |x| < 1 )


 さて、もう一つ面白い式を示しておきます。
 「その12」の<偶数L関数の統一的法則性 (別形式)>で見た次の式をまず書きます。

      1/2・log(cot(x/2)) =Σcos((2n-1)x)/(2n-1)
                         (n=1〜∞)
 これは、すなわち、次と同じです。

   log(cos(x/2)/sin(x/2)) =2(cosx + 1/3・cos3x + 1/5・cos5x + 1/7・cos7x + ・・・) ----G

 また、「その11」の<奇数ゼータの統一的法則性を究極の形へ>で見た次の式も書きます。

  cosx/sinx=2(sin2x + sin4x + sin6x + sin8x + ・・・・)  ------H

 G、Hより容易に次の美しい式が出ます。

   log[2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・・)]
                 =2(cosx + 1/3・cos3x + 1/5・cos5x + 1/7・cos7x + ・・・) ----I
                                                  ( 0 < x < π、x+2nπでもOK )

この式もまたCやFとある意味で類似的な式といえるかもしれません。

これらの等式を最後にまとめておきましょう。

 log [{L(1)x + L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・}/L(1)x]

     ={x^2(1-1/2^2)ζ(2) + x^4(1-1/2^4)ζ(4)/2 + x^6(1-1/2^6)ζ(6)/3 + ・・・}
                                                     (0 < x < 1)


 log(2{ (1-2^1)ζ(0)x^0 + (1-1/2^1))ζ(2) x^2 + (1-1/2^3)ζ(4)x^4 + ・・・ })

                  = 2{1/2・ζ(2) x^2+ 1/4・ζ(4)x^4 + 1/6・ζ(6)x^6 + ・・・ }
                                                     ( 0 < |x| < 1 )


 log[2(sinx + sin2x + sin3x + sin4x + ・・・・)]

                 =2(cosx + 1/3・cos3x + 1/5・cos5x + 1/7・cos7x + ・・・)
                                           ( 0 < x < π、x+2nπでもOK )






追加2004/2/1           <気になる問題>

 これまでいろいろと見てきて、「その8」で見つけて以来中心的な道具として使用している統一的法則性が、
ゼータを解明する上で極めて重大な法則であることがわかってきました。ゼータ関数の全体の輪郭がかなりはっきり
してきたとは思いますが、ただ、まだ少し気になる問題もいくつか残っています。
ここでは、まだHPで明記していない(私の内で気になっていた)問題を表に出し、明示しておきたいと思います。

 「その9」の<奇数ゼータでも・・>と<偶数L関数では・・>で示した次のような式を出しました。

   x/(1^2-x^2) + 2x/(2^2-x^2) + 3x/(3^2 - x^2) +・・・
                   =ζ(1)x + ζ(3)x^3 + ζ(5)x^5 + ζ(7)x^7 +・・・   ----@
                                                (-1 < x < 1で成立)

   1/(1^2-x^2) - 1/(3^2-x^2) + 1/(5^2 - x^2) - 1/(7^2-x^2) +・・・
                   =L(2) + L(4)x^2 + L(6)x^4 + L(8)x^6 +・・・   ----A
                                               (-1 < x < 1で成立)

 右辺が奇数ゼータの係数ばかり(or偶数L関数の係数ばかり)になっているきわめて意味深い式であるわけですが、
この式の左辺ははたして解析的な関数で表現できないのか?という疑問が以前よりありました。

 例えば、「その3」で示した次のような式を見てください。

 (πx/2)/cos(πx/2)= 2{L(1) x^1+ L(3)x^3 + L(5)x^5 + L(7)x^7 ・・・} ------B

 πx/tanπx=- 2{ζ(0)x^0 + ζ(2) x^2+ ζ(4)x^4 + ζ(6)x^6 + ζ(8)x^8 +・・・ } -----C

 これらは、左辺が三角関数だけで表現されており、様々な場合を考察するのに都合のいい形になっているのです。
 「解析的な関数」の意味は、@やAの左辺のような無限級数のようなものではなく三角関数やあるいはe^xやlogx
などのそんな普通の関数という意味です。

 @やAは解析的な関数で表現できないものか?
 もし表現できればこれは即座に微分ができて、たちどころに@からは奇数ゼータの各値が、またAからは偶数L関数
の値が出せるという夢のようなことがおこります。

 ただ、「その4」以降見てきたように奇数ゼータやL関数の特殊値はどんなに頑張っても「偶数ゼータの無限和」と
いう形(本質的には「πの無限べき級数」)でしか表現できないのです。これは近年同じような結果を多く出してい
た数学者の結果でもそうでした。

 なぜなのでしょうか?
 奇数ゼータは偶数ゼータζ(2)=π^2/6、ζ(4)=π^4/945・・・のように、あるいは偶数L関数は奇数L関数
L(1)=π/4、L(3)=π^3/32、・・・のようにきっちりとした値では表現不可能なのでしょうか?

 これまでの計算の感触から私は不可能だろうと思っているのですが、その証明はできていません。
よって、ここに問題として提示しておきます。みなさんの挑戦をお待ちしています。

問題

 次式@、Aの左辺は、解析的な関数として表現不可能か?

  x/(1^2-x^2) + 2x/(2^2-x^2) + 3x/(3^2 - x^2) +・・・
                   =ζ(1)x + ζ(3)x^3 + ζ(5)x^5 + ζ(7)x^7 +・・・   ----@
                                                (-1<x<1で成立)

  1/(1^2-x^2) - 1/(3^2-x^2) + 1/(5^2 - x^2) - 1/(7^2-x^2) +・・・
                   =L(2) + L(4)x^2 + L(6)x^4 + L(8)x^6 +・・・   ----A
                                                (-1 < x < 1で成立)


 この問題は、奇数ゼータの無理数性(無理性)とも地下深くでつながっている重要な問題と考えられます。





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数学の研究



                    πの不思議

   π/2=2×2×4×4×6×6×8×8×・・・/1×3×3×5×5×7×7×9×9×・・・
                                             1655年発見、ウリス(イギリス)


   π/4=1−1/3+1/5−1/7+1/9−1/11+1/13−1/15+・・・・・
                                     1400年代マーダヴァ学派(インド)
                               1670年代にライプニッツとグレゴリーも発見したがマーダヴァ学派が先


    π^2/6=1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+1/5^2+1/6^2+・・・・・・・
                                         1735年発見 オイラー(1707-1783)


    π^2=8(1+1・2^2/4!+(2!)^2・2^3/6!+(3!)^2・2^4/8!+・・・・)
                                                 建部賢弘(1664-1739)


    π=3(1+1^2/4・6+1^2・3^2/4・6・8・10+1^2・3^2・5^2/4・6・8・10・12・14+・・・・)
                                           1739年発見 松永良弼( ?―1747)


   π/4=1−1/2・3−1/2・4・5−1・3/2・4・6・7−1・3・5/2・4・6・8・9−・・・・・
                                                 安島直円(1732―1798)


  日本人もなかなかやります!
 江戸時代、和算は世界のトップレベルにあったことがわかります。
 安島直円(あじま なおのぶ)は、上の無限級数を、円理二次綴術(てつじゅつ)という方法で出しました。
 円理二次綴術に関しては、下記の上野健爾さんの本にくわしく載っています。

参考
 「円周率πをめぐって」(上野健爾著、日本評論社)
 「円の数学」(小林昭七著、裳華房)