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あーとだいありー2003年6月後半
6月28日(土) 熊谷榧油絵展=さいとうギャラリー(中央区南1西3、ラ・ガレリア5階) 仙人のような画家として高名な? 熊谷守一の次女で、山岳画家として著名です。 彼女の前に生まれた男児と、つぎに生まれた女児は、おさなくして死んでいることを思うと、おそらくもともと丈夫なのでしょう。70代半ばのいまも登山をこなしているそうです。 作品は40数点すべて油彩。国内外の登山に材を得た作品がほとんどです。 技法的には、輪郭線を太く引き、その内側には陰翳を欠いた色面があるという点で父親に似ていますが、その青や赤の輪郭線って、あらためてかいているんじゃなくて、下地の上に重ねた絵の具をひっかくことによって出しているんですねえ。これって、黒をただかいただけじゃ、絵が平板になるだけ。上の層の絵の具を引っかいて、下地の赤や青を露出させるところにおもしろみがあるのだと思います。 やわらかなハーモニー 鈴木登志子水彩画=北海道画廊(中央区南3西2、HBC三条ビル2階) 透明水彩のにじみ、色のぼかしを生かした静物画など二十数点。植物を描いても、すべてを描ききるのではなく、どこかに省略した部分をのこすあたり、日本の伝統的な絵画との接点を感じさせます。 いずれも29日まで。 第13回楡の会展=パークギャラリー(中央区南10西3、パークホテル) 札幌の横山トシさんと池田照幸さんの小品が大半を占めていますが、なかには、毛内康二さんや寺田理栄子さんの作品もあって、どういう会なのかよくわかりませんでした。 30日まで。 |
6月27日(金) 第4回“グループ環”油彩展=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階) 公募展の枠を超えて道内のベテラン画家13人が年1回あつまるグループ展も、ことしで4回目。 ほとんどが道内に取材した風景画ですが、画風のちがいがあり、じっくりとたのしめます。 昨年の入場者数は6日間で1800人! 第1、2回はおよそ1500人だったそうで、ことしも、すくなくてもそのペースは上回りそうだとか。 これって、すごいことですよね。美術館やデパートが会場ではなく、新聞社の主催事業などでもなくて、貸し画廊でやっているふつうの絵画展です。それで、これだけの人が、7階まで足を運ぶというのは、このグループのような絵に根強い人気があることの裏づけでしょうし、また、北海道の絵画好きが健在のようで、筆者までうれしくなっちゃいます。 それでは、個々の画家について。文に長短がありますが、それぞれの画家の絵の良し悪しとは関係ありませんので、ご容赦を。 斎藤洪人さん(1931−。札幌) ほとんど抽象画と見まがうほどに山の風景を簡略化し、太い筆でわっさわっさと描いています。メンバーで唯一の全道展会員。「積丹の山」(30S)「ニセコの秋」(同)「マルタの朝」(10F) 横田章さん(1927−。札幌) オーソドックスな風景画。ただし、今回気がついたのは、あんまり陰翳をつけてないのだなー、ということ。茶や緑などの色帯を、交互に配置することで、視線を手前から奥へとみちびいていきますが、それぞれの色帯というかモティーフには濃い影をつけていません。まあ、北海道は、南国のようにぎらついた太陽光線があるわけじゃないですからね。日洋展設立会員。「山間の村」(50F)「山湖のある風景」(20F)。「埠頭の娘」(20P)はかわいらしい女の子の絵。 萩原勇雄さん(1923−。札幌) やはりオーソドックスで手堅い風景画。画面構成に奥行き感があります。メンバーで唯一の無所属です。「秋の山湖」(40F)「白い丘陵」(30F)「春近い大地」(20F) 今野隆二さん(1926−。稚内) 昨年より色調がいくぶん明るくなったような気がします。「樹間」(30F)は、木々の間から海のある風景を、見下ろすような視点で描いています。道展会員。「港の一隅(入舟漁港)」(同)「海峡快晴」(同) 中吉功さん(1933−。札幌) 茫洋とした湿原や沼沢地帯を、茫洋とした? 筆遣いで描いています。あまり写実的に描いても、水面や草原がひろがるばかりで、大きさのとっかかりになるものがなにもないところなので、こういうあいまいな描き方のほうが、スケール感と、旅情のようなものが出るんですね。空が微妙な紫を帯びているのも中吉さんらしいです。モティーフは筆者も大好きな、湧洞沼(十勝管内豊頃町)のあたりです。道展会員。「湿原(A)」(30F)「湿原(B)」(同)「湿原(C)」(20F) 越澤満さん(1932−。札幌) 「ノサップ幻日」(30F)が圧巻。きびしい風土のため高い木のはえぬ根室の原野に夕日がしずむ光景をダイナミックに、持ち味のすばやいタッチで描ききっています。のこる2点は「石狩新雪」(同)「サロベツ原野と利尻富士」(同)ですから、あいかわらずげんきに道内を飛び回っています。道展会員 中村哲泰さん(1940−。恵庭) 今月上旬に個展をひらいたばかりなのに、新作3点をそろえてきました。やはり、ヒマラヤ行に取材した作品で、山塊の巨大さと格闘しているところもおなじです。今回の作品にかぎった特徴としては、中村さんの絵によくアクセントとしてつかわれる紫があまり見られず、そのかわり黄緑などが配されているところでしょうか。新道展会員。「氷河(6200m)」(30F)「大きな山に抱かれた集落」(20P)「クワンデイを望む(6799m)」(30P) 青塚誠爾さん(1923−。後志管内岩内町) 木田金次郎の最後の弟子。木田も岩内近辺に材をとった絵が大半でしたが、青塚さんのモティーフの範囲がさらにせまく、いつも漁港にイーゼルを立てて船を描いています。師匠ほどには自然を崩さず、丹念なタッチです。道展会員。「残雪の漁港」(20F)「係船」(20P) 香取正人さん(1936−。札幌) 昨年2度の個展をひらくなど旺盛な制作力をみせています。あざやかで、濁りがないのに、生っぽさのない色彩はあいかわらずお見事で、「十勝」(30F)にみられる雲の即興的な描写も香取さんらしいです。「木もれ陽」(20F)は、札幌市資料館の裏庭がモティーフ。「ニセコ」(30F)はペンション街を描いています。新道展会員 櫻井由紀子さん(1948−。札幌) 紅一点です。そして今回ただひとり、人物をモティーフにした絵で異彩を放っています。ふたりの裸婦をくみあわせた「不安な日々」2点(いずれも30S)で、背景は暗い色調。表面をひっかくことで動感を出しています。新道展会員 橋本禮三さん(1930−。札幌) 橋本さんの絵は、陰翳のないフラットな描きかたとあかるい色調が特徴です。また、ふつうならあまり題材にしない市内のビル街などもよくモティーフにしています。今回の「雪の遊園地」(50F)も、ちょっと見ない風景ですね。道展会員。「美瑛・十月」(20P)「夏の北大校庭」(20F) 西澤宏生さん(1933−。札幌) 西澤さんの風景もまた独特です。「手稲山晩夏」(30F)など、青と緑の筆致がセザンヌをおもわせます。すべてをかっちり描くのではないところに味が出ている−といえばいいのでしょうか。新道展会員。「ポプラ防風林早春賦」(同)「北大早春」(同) 冨澤謙さん(1935−。小樽) 丁寧な筆致で南イタリアや小樽の風景を描いており、今回の「駒ケ岳」(35F)はわりあいめずらしいモティーフ。山の巨大さ、雄大さを存分に描写しています。右下に、手前の丘を描きいれたのも、構図にいきいきとした感じをあたえるのに成功しています。「羊蹄・初冬」(25F)「新緑高島港」(同) 関連テキスト ■01年の同展 ■02年の同展 ■中村哲泰展(画像あり) ■02年の香取正人展(画像あり) ■中吉功・和子展 ■02年の冨澤謙個展(画像あり) 29日まで。 安房・加藤写真展=Gallery Strawberry’s(中央区南2西1、RISEビル3階) 北大4年の安房(あぼう)直子さんと、北星学園大4年の加藤D輔さんの二人展。ふたりともモノクロです(安房さんが一部ポラロイドのカラー)。 安房さんは、傘を指している人が大勢歩く雑沓の中でうつした8枚組の連作など、視点がユニーク。なにげない風景をとらえた作品は、どうも道端の名もない草花に興味があるようです。 機材も、中判カメラやポラロイドをふくめ、いろいろなものにチャレンジしています。 加藤さんは、先日個展をひらいたばかりで、盛り上がる札幌の若手写真シーンの中でももっとも活溌に発表をつづけているひとりです。今回は、ランダムにならべたような印象がありますが、砂浜と、立ち去る人物の足跡をとらえた作品は、内省的なところが加藤さんらしかったりします。 加藤さんは「写真展だからといってあらためて撮るのではなく、日常的に撮ったものから出したかった。安房さんは、ぼくにない視点を持っているのでおもしろい」 と語っていました。 30日まで。 大和田主悦展=ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル) 大和田さんは札幌西高出身の画家。いまは静岡県に住んでいますが、毎年のように札幌でも個展をひらいています。 油彩、水彩あわせて92点。いずれもフォービズム的な画風で、チューブからしぼりだしたばかりのような明るい色彩を画面に散らしています。強いていえば、神田日勝晩年の「馬と人」に近いかな。あそこまでは厚塗りじゃないけど。 富士山、中国東北部のスケッチもありますが、小樽や厚田、豊幌(江別市)、美瑛といった道内の風景に題材を得た絵もかなりたくさんならんでいます。ただし、どの海岸なのか、作品だけからは判断できません。自然から得た感動をそのままカンバスにぶつけているのでしょうが、地名の固有性はほとんど捨象されてしまっています。 29日まで。 |
6月26日(木) 岩間隆「風 Part4」 〜刀が風に舞う鳥のように〜=石の蔵ぎゃらりぃ はやし(北区北8西1) ブルドッグの木彫りや、悠久の時間を感じさせるオブジェで知られる札幌の木彫家。 某北海道新聞には、個展は3年ぶりだと出ていましたが、これは「風」と題した個展が3年ぶりだということのようです。 1階は「福郎」と題したフクロウのかわいらしい置物が中心。 2階は、「花火の夜」「夕焼けの頃」などと題した大皿や、「波立つ大地」という椅子とテーブルセットなど。これは、麦や鳥などがあしらわれています。鑿跡は、目立ちすぎず適度に表面を覆っています。 木に向かうとき「木」そのものの美しさを最大限に引き出すために、刀跡の流れの中に、かたちが現れてくるような作品を創りたい。厳しいだけでなくふとした遊び心も刀跡に込めて飛ぶように走るように彫り続けたい壁に、こう書いた紙が貼ってありました。 岩間さんなどの作品を紹介した「西野地区の画家」サイトはこちら 第12回NHK文化センター(水彩)八木教室 水の会作品展=札幌市資料館(中央区大通西13) ベテラン八木伸子さん(春陽会、全道展会員)が指導する教室展。13人が出品。 全体的には、道彩展の傾向に近い、“表現”系です。 近藤トミさん、花の色と背景の色がつりあっていますね。 これに対し、同館でひらかれている第3回色彩(いろどり)のなかま展は、国井しゅうめいさんに指導を受けていたと推察される、透明感のある画風。よし、こちらは“きれい系”と命名しよう。 以上29日まで。 川合麻紀写真展 バードアイランド=キヤノンサロン(北区北7西1、SE山京ビル) インド洋にうかぶセイシェル諸島のちいさな島「バード島」。珊瑚礁に囲まれた私有地の島で、シロアジサシやセグロアジサシなどがいっぱいです。 鳥たちの写真のほか、水平線近くまで真っ青な空、美しすぎる夕焼け、やしの木の向こう側でうつろいゆく星空と天の川など、まさに楽園とよぶのがふさわしいところのようです。あー、こういうところに行ってみたいなあ。 カラー40枚。リバーサルフィルムをスキャンして、大型のプリンターで出力したもの。こういう手法だとカラーでもかなりのところまで、じぶんでできるんですね。 7月4日まで。 以後、福岡(7月28日−8月8日)、大阪梅田(8月28日−9月3日)のキヤノンサロンに巡回。 |
6月25日(水) 西村一夫展 絵画と板による作品=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3) 例年、「坐る裸婦」をメーンのモティーフにした版画や、それを応用した人物をつかって現実世界へするどく切り込む作品を発表し続けている西村さんですが、今回はがらっと作風を変え、純粋な抽象作品が、72点の大半を占めています。 板を組み合わせただけの作品が4点ほど。あとは、3,4枚の板を張り合わせ、ジェッソで下地をつくり、アクリルガッシュで明るい色を塗ったものがほとんどです。 「これまでは人物に気持ちを託していたんですが、今回は色やかたちに、自分の心境を反映させてみようと思ったんです」 と西村さん。明るい色が多いってことは、心境も明るいということなんでしょう。ちょっと、ホッとします。 あえて塗った筆触をのこした作品や、板の鋸目をのこした作品もけっこうあります。 造型そのものに重きをおいた作品群ですが 「現実に対して言いたいことを言う−というのをやめたわけではないんです」 と話していました。 西村さんは道展会員、札幌在住。 佐藤武展=同 佐藤さんの絵を見ているといつも 「いまという瞬間と、永遠とが同居しているような絵だなあ」 ということを思います。 モティーフになっているのは、どことも知れぬ異国の風景。遺跡のような広大な城塞だったり、回廊だったりします。リアルに描かれたそれらの風景には、人はまったく登場しません。 時には、建築物が中空で、音もなく壊れ、朽ちていきます。今回でいえば「不安な時代V」(S100)などです。また、「予感」(M100)や「不安な時代U」(P120)には、浮遊する石(コンクリート?)の塊が登場します。 また、「暮れゆく時」(F8)は、窓の向こうに月や塔が見え、手前の室内はタイルがほのあかるく浮かび上がるという光景を描いていますが、なぜかなつかしさをただよわせています。 これまでとことなる点といえば、水面が登場している絵があることでしょう。「陽光」(F8)は、塔が水面に反射していますし、「夕月」(F80)では、宏壮な遺跡都市の中庭に水がたまっていました。 いずれも、瞑想的な気分にさそわれる、ふしぎな絵です。まさに、道内在住“全国区”画家のひとりといって、いいと思います。 他の出品作はつぎのとおり。 「夕月」(F6)(S80) 「夕景の回廊」(F8)(F10) 「夕景」(M30) 「朝霧」(F15) 「明」(M100) 「夕景の回廊V」(M100) 「予感」(S80) 「夜月」(0号) 「月光」(P4) 「星降る夜」(P20) 「夏の月夜」(M4) 「月明かり」(M4) 「夜の寺院」(M4) 第18回コスモス会展=同 豊田満さん(道展会員、札幌)の絵画教室展のひとつ。 飯島政雄さん「祝津漁港」(F4=目録に50号とあるのは誤記)はベテランらしい手馴れた筆致。 片桐千明さん「公園・盛夏」(F8)は、緑の濃淡を丁寧に描き分けて、暑い空気感を描出しています。 鈴木裕子さん「青い裸婦」(F20)は独特の色彩感覚。 川上茂昭さん「北の街並み」(P50)は小樽の堺町周辺を描いています。 関川敦子リトグラフ展=ギャラリーパレ・ロワイヤル(豊平区月寒中央通9) 旧作を中心にした版画展。昨年の全道展出品作「午後に想う」などがならんでいます。少年や少女と、擬人化された動物、それにちいさな妖精たちが同じ画面にいる絵が多いようです。 関川さんの版画はメルヘン調で、とくに前衛的だったり変わったところはないのですが、つくりがしっかりしているので、安心して見られます。色鉛筆画のような独特の風合も特徴です。 札幌在住、童画展、全道展会員。 以上、28日まで。 鈴木義隆陶芸展=工芸ギャラリー愛海詩(えみし=中央区北1西28) 網走管内湧別町芭露(ばろう)に「本間沢窯」をひらいている鈴木さんの個展。萩焼のうつわです。 穴窯で焼いた、しっかりしたつくりのうつわであるにもかかわらず、マグカップやコーヒーカップが1000円とか1500円という安さ。これはお買い得です。 萩焼は、灰色のなかにうっすらと桜色を帯びるのが特徴です。これは、酸素の入り具合などによって微妙にことなるんだそうですよ。ここらへんの景色をたのしむのも萩焼の醍醐味でしょう。 萩焼ですからもちろん茶器もあります。藁釉広口花入れなど、しぶいものです。めずらしいものでは焼締めの傘立てなんていうのもありました。 29日まで。 青青社小品展・書を楽しむ=NHKギャラリー(中央区大通西1) 毎日書道展審査会員で、前衛書家の竹下青蘭さん(札幌)の教室展。 竹下さんに書を習っている人がすべてそうだということではないと思うのですが、すべて前衛書です。22人が1点ずつ出品しています。 ひとり1点なので、めったなことは書けないのですが、井須青玉さんの広がり、国藤美智恵さんの直線的な感じ、佐藤小蘭さんの、画面は小さいのにスケール感のある作風などが、目を引きました。 26日まで。 原ゆりこ展「絵そらごと」=オリジナル画廊(中央区南2西26) オイルパステルによる小品展。いずれも心象風景的な抽象画。 26日まで。 吉田直樹展「1/3の時間」=TEMPORARY SPACE(中央区北4西27) 東北芸工大を卒業したばかりの若手(1977年生まれ)の絵画展。 展示されているのは、ポップな感じのするあかるい絵ばかり。となりのTEMPORARY cafeにある小品のほうが、近作で、今っぽい感じのする抽象です。 29日まで。 ところで、TEMPORARY SPACEのウェブサイトが6月30日スタートします。 URLはhttp://www.stmusic.net/nakamori/ 7月中はなんと8度ものライブが予定されています。 |
6月24日(火) 更新が滞っております。 とりあえず、24日で終わってしまった展覧会について。 大地康雄展=大同ギャラリー(中央区北3西3、大同生命ビル3階) 独立美術の会員に昨年推挙され、波に乗る大地さんの個展。 昨年まではギャラリーノルテで毎年ひらいていましたが、ことし1月で閉廊してしまったので、今回からは毎回会場を変えるそうです。 出品されているのは、すべて、以前から取り組んでいる「人間模様シリーズ」の油彩。 半立体の屏風型キャンバスに描いている大作が 「祭宴」(200F) 「艶宴」(100S) 「饗宴」(100F) 「形象」(30P) 「変貌」(20×20F) の5点。 小品が14点です。 このうち「祭宴」は、これまでの、角度が固定されていた屏風型キャンバスではなく、ほんとうに、蝶番で折りたためる絵画。白い裸婦像の群像を主体に、おびただしい装飾的模様を散らばせています。ことしの独立展に出品の予定で、これから加筆し、鏡片などを貼り付けるのだと話していました。 大地さんの絵は、洋画にとって日本的なるものはなにか、装飾とはなにか−について、考えさせる絵だと思いました。 札幌在住。全道展会員でもあります。 小品は「流宴」「夢宴」「占宴」(以上10F)「侠宴」「束宴」「奪宴」(以上6F)「疎宴」「棄宴」「候宴」(以上4F)「記念碑」「酔宴」「抵抗」「旅立」「無限」(以上サムホール) 関連ファイル:■一昨年の個展(画像あり) ■昨年の個展 水谷のぼる彫刻展−蝋型鋳造によるブロンズ小品展=同 ジャコメッティの人物像は細いけど、水谷さんの人物像は平たい。横から見ると、胴が板みたいです。じゃ、厚みがないからだめ、ということではなくて、独特の存在感があるのはたしかだと思います。「森の人」と題された作品を見ていると、寡黙な、しかししっかりした人間像がうかんできます。 1点だけ、写実的な技法でつくられた首がありました。 ■2001年8月の個展 新たなる「旅」の始まり・2003 第6回日本旅行写真家協会展=富士フォトサロン札幌(中央区北2西4、札幌三井ビル別館) 道内の風景もちらほら。浅野久男さん「朝霧の丘で」は、上川管内美瑛町の幻想的な風景。浅野さんのサイトはこちらです。 菊田勉さんは「雨に煙る天人峡」。及川修さんは、道南の浜辺に取材した「よろこび」。坂口よし朗さんは、函館ベイエリアに観光にきた女性のスナップ。 丸山達也さんが、渡島管内戸井町の海岸で撮った「春を待つ」は、岩に砕け散る鉛色の波をとらえ、迫力がありました。アンダーぎみの露光も作品にあっていると思いました。 道外勢では、海外の風景が多かったです。猪瀬義文さんの、チェコの古都チェスキークルムロフで撮ったものが印象にのこりました。 また、庄司利男さんの「高田公園の夜桜風景」も良かったです。桜の写真は、ほとんどの場合実物にはかなわないものですが、ライトアップされた人工的な景観を撮ったのがよかったのだと思います。 25日まで。 |
6月22日(日) 上田桑鳩と少覺史山ら滝川の書人たち展=滝川市美術自然史館(新町2) 上田桑鳩(そうきゅう)の書をはじめてまとめて見ました。 驚嘆。うまい。うますぎる。 桑鳩(1899−1968)は現代書の巨匠。54年に日展を脱退した年から縁あって毎年滝川をおとずれ、地元の書家・少覺史山らと交流していました。史山は桑鳩の死後も彼の作品の収集に努め、日本一のコレクションが滝川に生まれることになりました。 展覧会は、3部構成。第1部で桑鳩を、第2部で「金子鴎亭と収蔵著名書家たち」、第3部で「少覺史山を中心とする滝川の書人たち」を取り上げています。 やはり白眉は第1部。 すくなくても今回展示されている桑鳩の書は、力みなぎる大作というものではありません。むしろ脱力系。ただ、たとえば榊莫山(第2部で展示されています)あたりが飄逸の味だとすれば、ちょっとちがう。なんていうか、絶妙のバランス感覚ですね。「烈」「藍」「心」「花開時蝶来蝶来時花開」など、地と字の均衡、点画の配置が絶妙としかいいようがありません。 みずからかいた絵にことばをくわえた「画賛」もあります。茶碗のかんたんな絵に 「ほのくらきにわのすみより くちなしのにおうをききつつ つちひねりおる」 という自詠を書いたものなど、いかにも自在の境地。書画一致というのはこういうことをいうのでしょうか。 ちょうど会場に、書家の東志青邨さん(滝川在住、北海道書道展会員、第2部に「乾坤一艸」が展示されています)がいらしたので、お聞きしたら 「やはり表現の幅の広さが魅力ですね。『松風有清音』などは、おそらく紙を丸めたものを筆のかわりにつかっているのだと思います」 とのことでした。 陶芸の作品も6点出品されています。長次郎など楽焼、京焼の系譜に連なるものだと思いますが、やはり独特の伸びやかさがあります。 第2部は、鴎亭の「草野心平詩 蛙よ」、宇野静山の茫々とした「古質今奸」など。小川東洲さんは臨書です。 残念ながら22日で終了。 おおいに感心したので、2階の常設展示室ものぞいてきました。 少覺史山充ての書簡が展示されていました。巻紙です。すごいな、昭和40年で巻紙で手紙書いてた人なんてあまりいないんじゃないか。達筆ですが、なんとか読めます。文中の「塩田さん」は、塩田慥洲さん(旭川書壇の最長老)でしょうかね。 「忍」という文字のバランスのよさに、またもやシビれました。 北の創造者達展'03=旧上砂川駅跡地(空知管内上砂川町上砂川町) 昨年に続く野外展。炭鉱が閉山になり、坑道の跡につくられた無重力実験施設もなくなるという逆風の中、地域おこしへの期待を込めての催しのようです。 野外展ですので、精緻な作品より、おおざっぱでパワフルな立体のほうが似合います。小学生などの作品がけっこうイイ線いっているのもおもしろい。 右は、地元在住の伊藤武義さんの「炭鉱朽ち果つ」。新道展会員で、いつもは板を組み合わせた独特の絵画を出品していますが、これは、木や古靴を組み合わせた立体です。 やはり、元炭鉱町のせいか、炭鉱でつかわれていた道具や石炭を使った作品がめだちます。 松本静男さん「リターンパンツァー」は、石炭とコンクリート片をつかい、白と黒の対象が力づよいインスタレーション。 元木勇さん「杭底ペンギン」は、炭鉱の道具をくみあわせてペンギンに見立てたゆかいな立体。 作者名がありませんでしたが、ずらりとならんでいる炭鉱などの絵は早川季良さんのでしょうか。 石炭と直接関係ない作品ももちろんたくさんあります。 左の写真は、佐藤早人さん「平和への虹の架け橋」。単純にきれいです。 斉藤邦彦さんと笹村忠雄さんの「風の砦」は、色とりどりのテープ(すずらんテープともいい、古新聞をしばるのに使うやつ)を張り巡らせた大作で、見た目もさることながら、風が吹いてたてる音がおもしろい。 北村トシヒロさん・小見山典代さん「奇妙な現象」は、ごみ袋などに使う黒いビニールをちぎって棒にゆわえつけるなどしたものですが、端っこにビデオカメラがあるのはなぜでしょう。 27日まで。日の出から日没まで。 昨年の様子はこちら。 道立旭川美術館の「THE ドラえもん展」(7月6日まで)は、家族連れでいくとなかなか楽しめます。 それ以上にこれは、なにか決定的に新しい展覧会だという気がします。その分析はいずれまた。 なんだか書くべきテキストがどっさりたまってますが…。 |
6月21日(土) 「―素―そのやわらかなもの」については、「展覧会の紹介」をごらんください。 さて、きょうは、道立近代美術館(中央区北1西17)の「ギャラリートーク」を聴講し(遅刻したけど)、これくしょんぎゃらりいを見て(2度目)、ギャラリー市田(北1西18)で高橋渉二作品展をのぞき、ギャラリーどらーる(北4西17、HOTEL DORAL)の矢元政行展を見て、市民ギャラリー(南2東6)で全道展を見ました。 中味については、ガンバッテあした書きます。 明朝早いので、あしからず。 北海道新聞によると、ことしの第33回中原悌二郎賞(旭川市、旭川市教育委員会主催)に、舟越桂さんがえらばれたそうです。 優秀賞は多和圭三さんと青木野枝さんでした。 |
6月20日(金) 浅野修展=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3) 浅野さんは画家ですが、「現代美術」的なアプローチをする人のようです。 今回も、ギャラリーの壁を有効に使って、黒く塗った小さな木片を、絵から遠く離れたところに貼り付けたり、木版画の版木と刷った紙とを同時に陳列したりしています。大きな作品も、屏風のように半立体で、まるで「絵画」がどこまでいくと「絵画」でなくなるのか、臨界点で実験をしているかのようにも見えました。 鎌倉在住、主体展会員。 石崎哲男個展=同 「えらばれし者たち」などと題された群像画の新作が中心。 やや俯瞰気味の位置から、テーブルを囲んでなにやら議論をしている男女の群像です。 といって、なんの話をしているのかはわかりません。絵によって、人数は10人から14人とばらばら。内容も微妙に異なります。 男たちがほとんど同じスーツを着ている絵あり、あるいはみんなカジュアルな服装をしている絵があり、女のひとりが花嫁姿の絵あり、みな同じ方角を見ている絵あり、ひとりがテーブルに背を向けている絵ありといった具合。 みな、やや頭部が大きめ。しかも輪郭線が描かれているので、どこか戯画的な匂いがします。あまり賢人の会議という雰囲気でもありません。議論ばかりで話がすすまない人間たちへの皮肉ととれないこともないです。 画材はペイントとアクリル絵の具だそうです。 岩見沢在住、主体展会員。 以上、21日まで。 道美展工芸部作品展=コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階) 絵画、工芸、写真の3部からなる北海道美術作家協会の、工芸部によるチャリティー展。 陶芸、木工、木彫の28人(うちひとりが遺作)が出品しています。 まず、入口にある工藤竣さん(札幌)の「プチテーブル」があざやか。染織した布にアクリル板をかぶせたもののようですが、青の飛沫がまぶしいくらいです。「プチ」とありますが、ようするに、ちゃぶ台です。 加藤一義さん(日高管内静内町)の、木をくりぬいてこしらえた壺も、あいかわらず見事です。木目や節がたくまずしてつくる模様は、陶芸とはことなる味わいです。 陶芸も、灰釉のかかりぐあいがおもしろい村田征一さん(札幌)「焼締花器」、赤が映える香西毅さん(胆振管内白老町)「辰砂釉 壺」など、力作がそろっています。佐藤亮三さん(岩見沢)「河童オーケストラ」はユニーク。絃楽器と指揮者、女声コーラスからなる編成ですが、この調子で管楽器やピアノの人もつくってはいかがでしょう。 売り上げの一部を北海道新聞社会福祉基金に寄附するそうです。 関連テキスト:■昨年の道美展 第21回ふじ美術会展=札幌市資料館(中央区大通西13) 風景画に定評のある道展会員の越澤満さん(札幌)の教室展。 講師は、「穂高連峰と大正池」を賛助出品しています。生徒さんは18人が2点ずつ出品。 木村〓子(〓は「日」へんに「景」)さん「早春」は、落ち着いたタッチで水芭蕉と残雪のある光景を描いています。水彩です。 ほかに、上野満雄、蠣崎秀雄、勝部洋子、河田テイ、川西悦子、葛巻文美子、桑原吉信、関根すず子、竹内幸子、当摩尚、高村厚子、辻和子、坂東從子、西紀子、本間礼子、米永繁子、和田しのぶの各氏が出品。 第14回グループ・フォトQ写真展=同 講師の井上和雄さんと、女性13人が3点ずつカラーを出品。 藤沢節子さん「西湖の朝(中国、杭州)」は、まさに水墨画のようなモノクロ調。 菊池チエ子さんの「鴨三題」は、ふつうのネイチャーフォトカメラマンがずうずうしく? 自然に分け入っていくのとちがって、木の間からひかえめにカモを写しているようで、そこがかえっておもしろかったです。 以上、22日まで。 「―素―そのやわらかなもの」についてはもうちょっとお待ちください。 22日終了ですが、見に行って損はない展覧会だと思います。 |
6月18日(水) 北海道イラストレーターズクラブα設立30周年記念MY WORK HISORY+PEACE展=ギャラリー大通美術館(中央区大通西5、大五ビル) 30周年ということで、見ごたえのある展覧会になりました。クラブ会員がこれまでに手がけたポスター、新聞広告、パンフレット、新聞や雑誌の挿絵、キャラクターなどの数々がならんでいます。 また、会員がこれまでの来し方や代表作のコピーなど全紙にまとめたものが展示されています。なんだか、壁新聞というより夏休みの自由研究発表を連想しますが、そこはデザインのプロだけに、どれも見やすくたのしいものに仕上がっています。 順を追ってみていくと、道内で出版されたものはもちろん、全国的に流通している商品デザインなど、見おぼえのあるものが、かならずあると思います。 「へー、こんなものも手がけているんだ」 と、感心することうけあいです。 油彩や、現代美術といった分野で活動している人たちにとっては、縁の遠そうな世界ですが、プレゼンテーションの仕方という点では、学ぶところがあるようにも思いました。 さらに後半のコーナーでは、「PEACE」をテーマに一般から公募したポストカードを数百枚展示しているほか、会員のポストカードを100円で販売しています。 22日まで。 隣室では、安達ヒサ個展も開催中。 すべて小品の静物画。白を基調に、びんなどのモティーフをさまざまに配置して、絵画空間をつくりだすことに腐心しています。 ただ、春陽展の会友なのですから、1点くらいは大きいのも見たかったように思いました。旭川在住。 22日まで。 前日の話ですが、金工作家の田邉隆吉さん(江別。道展会員)にお会いしました。いま、後志管内赤井川村に、アトリエ兼ミニ美術館を自らの手でこしらえているそうです。オープンは来年の予定。赤井川まで車を飛ばし(江別からだと遠いと思うんですが)、じぶんで建設機械をうごかして、池のある庭などをつくっているとのこと。 「金属の作品は外に置いといてもだいじょうぶなものがあるから、外の壁にかけようかとか考えてますよ」 おもしろそうなので、またあたらしい情報が入ったら、お知らせします。 セラミックアートセンター(江別市)でひらかれている新進工芸作家グループ展「―素―そのやわらかなもの」については、あす報告の予定です。 |
6月17日(火) 塚原貴之個展=札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3) 塚原さんは、江別出身、埼玉在住の若手画家。主体展会員、全道展会友です。 以前は、牛と群像を主題にした絵を描いていましたが、一昨年あたりから画風をがらりと変えました。 今回の出品作で、牛を男たちが力づよくひっぱる「男たち」、子牛のまわりに人々があつまる「人たち」の2点が、ふるい系列の作品です。さまざまな人物の内面が力づよく表現された佳作だと思いますが、画風を変えたのはどうしてですか? 「どうしても劇画タッチになるというか、じぶんでかいていて『これはちがうぞ』という気持ちがありまして…。それでいまは、『時』をテーマに、人間の内面を描こうとしています。まだまだなんですが」 と控えめに話す塚原さんです。 あたらしい画風の作品は、左の「その時」や、先週の主体美術北海道展でも陳列されていた「過ぎ行く時の中で」などです。 モノクロの風景のまわりを、暗い色で描かれた人物がかこんでいます。それぞれの暗い表情が、いつまでも消えない人間の苦悩を表現しているようで、見る者にいずまいをたださせる迫力を宿しています。 人物には、銀箔などがつかわれ、油絵の具とはことなる硬質の質感が出ています。 小品の風景画「薫風」などは、明るい色彩と高い描写力を持っていますが、大作はほとんどモノクロームです。 「色を使えば会場ではめだつのかもしれませんが、それは色がめだっているのであって作品がめだっているのではない。あくまで作品の力でめだつようにしたいんです」 ほかに、木炭をつかって山塊を表現した「桜島」や、水彩の小品など。 21日まで。 渡會純价展 音の旅人−SPRING=スカイホール(中央区南1西3、大丸藤井セントラル7階) うーん、春から初夏というこの季節にぴったりですね、渡會さんの銅版画って。 今回は「音の旅人」というテーマ。ほぼ全作品に、五線譜など音楽をおもわせるモティーフと、鳥あるいは蝶が登場します。 題も「ユモレスク」というのが8点あるのをはじめ(ドボルザークのたのしい曲ですね)、「トレモロ」「ボレロ」「ノクターン」「スプリングソナタ」(これはベートーベン)「スプリングポルカ」「鳥よせ」「メヌエット」「シリンクス」「たわむれ」「ロマンス」(これもベートーベン)「かげろう」「ポロネーズ」(これはショパンが有名)「バラード」「吟遊詩人」「デュエット」「ダムール」といった具合で、音楽用語が多いです。 つまりは、春の音楽のようにかろやかなのです。 「SPRINGには、春という意味のほかに、跳ねるとか、飛ぶというような意味もあるからね」 ところで、今回気がついたこと。 渡会さんの絵って、モティーフが重なることがまずありません。鳥が8羽いたら、画面にちらばっている。 あえて遠近法的な画面づくりをせず、平面的に画面を構築しています。 札幌在住です。 札幌大谷短期大学美術科同窓会38th 谷の会展=同 多くの人が油彩を中心に作品を寄せています。 油彩では、全道展で協会賞をえたばかりの会田千夏さん「土と涙」が圧巻。 ひろびろとした風景をバックに、咢(がく)の付け根に人の顔がついている、ざくろを宿しているみたいな、奇妙で巨大な花を描いています。 朝田千佳子さんが染織「初夏」を出品しています。トレードマークの太陽(満月?)は登場していますが、全体の色使いはいつもより明るいです。 いずれも22日まで。 真砂雅喜 "Absence of Existence"-存在の不在=Free Space PRAHA(中央区南15西17) 3月の「札幌の美術2003」でカムバックした若手映像作家。 四つのプロジェクターをつかって、人間の映像を、4方向の壁に投影したビデオインスタレーション。 それぞれ顔の部分は暗く、どんな人物なのかは特定できないようになっています。 また、4人の映像は十数秒ずつくらいの間隔で明滅をくりかえし、4人全員がそろうことはないようです。 音声もついていますが、収録したときに流れていたテレビの音や人間の声などで、内容がはっきり聞き取れるものではないようです。 現れたり消えたりを繰り返す映像は、人間のはかなさ、存在のたよりなさを象徴しているかのようです。 22日まで。午後5時から8時までしか投影されていないので注意。 コレクションでふり返る 芸術の森美術館のあゆみ展=芸術の森美術館(南区芸術の森2) (この項敬称略) 札幌芸術の森は、南区の離農地跡などを利用して1986年オープンしました。美術館が開館したのは、その4年後の1990年です。 会場内のパネルによれば、当初は、メーン施設の野外美術館の関連施設として小規模なものが想定されていたとのことです。 そのため、収集は、ロダン以後の近代彫刻が柱になっており、そのほか、現代美術や地元作家などもくわえられています。 美術館には、常設展示室がないため、このように年1回ほどおこなわれる収蔵品展は、貴重な機会です。 筆者も、はじめて見る作品がずいぶんありました。 最初のセクションは、野外美術館の関連作品です。つまり、エスキスやモケット、石膏原型、同じ作家による同じ傾向の作品(板津邦夫「木偶」など)が展示されています。宮脇愛子「うつろひ」のリトグラフ、センターハウスの前にあって芸術の森のシンボル的存在になっているライモ・ウトゥリアイネン「昇」のモケット、芸術の森の池に浮かぶ、これまた芸術の森のシンボル彫刻の作者マルタ・パンの「オベロ」なんかもあります。 この構成はいいですね。芸術の森の“顔”が野外美術館であるということをあらためて認識させてくれます。 砂澤ビッキの大作「四つの風」もあります。この木彫とおなじ木でつくられた野外の「風に聴く」のパネルも展示され、傷みがめだつこの作品(作者は生前、朽ちるにまかせよという意味のことを言っていた)をどう保存していくのか−について、わかりやすくこれまでの経過が解説されています。 彫刻は、さすがに収集の柱とあって、有名どころがそろっています。サイズはそれほど大きくないですが。 ロダン「フロックコートを着たバルザック」 マリーニ「騎馬像」 マンズー「枢機卿」 マイヨール「パンセ・ドビュシー」 デスピオ「リュシアン・リエーヴル」 ザッキン「扇を持つ女」 所蔵品図録によると、このほかにもシュヴィッタースやアルプ、ドガ、ヘップワースなどがあるそうです。 国内勢では、高村光雲・光太郎親子、石井鶴三、中原悌二郎、戸張弧雁などが展示されていました。 つづいて、橋本信夫・邦江コレクションの、アフリカの仮面や楽器など。橋本さんは北大の先生で、漫画「動物のお医者さん」の登場人物のモデルといわれています。 後半は絵画、写真、版画など。絵画はほとんどが地元ゆかりの作家で、小谷博貞「原野昇天」など。鎌田俳捺子「交響詩による」は圧巻です。 また、この分野における「坂野コレクション」の存在感はかなりのものです。所蔵品図録を見ても、小品ばかりとはいえ、油彩の半数以上が、昨年亡くなられた札幌のコレクターが館に寄贈したものなのです。今回は、義江清司、久保守が、リズム感のある絵で、よかった。 写真は、昨年ひらかれた「四谷シモン展」を機に、四谷さんが寄贈したものばかりです。 版画は、札幌国際版画ビエンナーレの大賞受賞作を、丸井今井などが寄贈したものが何点かありました。フリーダ・カーロの絵をここまで引用しちゃっていいのか? と話題を呼んだアリシア・スカヴィーノの作品も、ひさしぶりに見ました。 というわけで、なかなか見ごたえのある展覧会だったのですが、よろこんでばかりもおれません。パネルを注意深く見ていくと、「購入」と書かれたものはすべて平成11年度以前の購入で、ここ数年はすべて「寄贈」になっていることがわかります。 芸術の森美術館も、購入予算がないのです。 この数年は、寄贈案件がハデかつ大量にあり、美術館の努力がしのばれるのですが、この調子で質の高い寄贈がつづくとはかぎりません。景気が回復したとしても、地方財政が好転することはしばらくはないでしょう。 どのように「地元の美の宝」を充実させていくか、むつかしいところに来ているとおもわれます。 展覧会は22日まで。 最後に訃報。 朝日新聞によると、イタリアの画家、エンリコ・バイさんが亡くなりました。78歳でした。 バイさんは機知に富むコラージュの作家として知られています。また「戦争と暴力」に反対をつづけ、核爆発の絵も描いたそうです。 |
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