< ゼータ関数L1(s) >
ディリクレのL関数L(χ,s)の一種であるL1(s)の母関数を調べる。L1(s)は実2次体Q(√2)に対応するゼータである。
cos(x/n)型、cos(x/n^2)型、cos(x/n^3)型を考察。普遍的な一般式を導出。
L1(s)は、次で定義されるゼータ関数である。
L1(s)=(1 - 1/3^s - 1/5^s + 1/7^s ) + (1/9^s - 1/11^s - 1/13^s + 1/15^s ) + ・・・ ----@
L1(s)も、ディリクレのL関数L(χ,s)
L(χ,s)=χ(1)/1^s + χ(2)/2^s + χ(3)/3^s + χ(4)/4^s + χ(5)/5^s + χ(6)/6^s + ・・・・
の一種のゼータ関数である。
L1(s)は、mod 8に対応したディリクレ指標χ(a)をもち、
「a≡1 or 7 mod 8-->χ(a)=1、 a≡3 or 5 mod 8 -->χ(a)=-1、 それ以外のaではχ(a)=0」というχ(a)に対応
したL(χ,s)となる。mod 8なので、このχ(a)の導手は8である。
@をもうすこし長く書くと、
L1(s)=(1 - 1/3^s - 1/5^s + 1/7^s ) + (1/9^s - 1/11^s - 1/13^s + 1/15^s )
+ (1/17^s - 1/19^s - 1/21^s + 1/23^s) + (1/25^s - 1/27^s - 1/29^s + 1/31^s) + ・・・----A
となることはいうまでもない。
ディリクレ指標χ(a)の定義を再度書いておく。
χ(a)は、ある自然数Nについて、次の3条件を満たすものである。
(1)a≡b mod N ならχ(a)=χ(b)
(2)χ(ab)=χ(a)χ(b)
(3)aとNが共通因数を持つときに限り、χ(a)=0
@のディリクレ指標「a≡1 or 7 mod 8-->χ(a)=1、 a≡3 or 5 mod 8 -->χ(a)=-1、 それ以外のaではχ(a)=0」が、
この3条件を満たしていることは容易にわかる。
最小単位の導手8でもってL1(s)は特徴づけられていることが@やAからわかるであろう。
L1(s)は実2次体Q(√2)に対応するゼータ関数でもある。
「実2次体の類数公式」というディリクレが19世紀に証明した公式を少しみてみよう。
L(χ,1)=2h・log(εk)/√N ------B
である。これからL(χ,s)のs=1での値L(χ,1)がわかるのである。logは自然対数。
ここで、hは実2次体Q(√2)の類数、Nはディリクレ指標χ(a)の導手、εkは、Q(√2)の基本単数である。
単数とは、体Q(√2)に対応すつ環Z(√2)で、Aとその逆数1/Aがともに環Z(√2)に属する数Aのことで、Aで1より
大きいものの中で最小のものをとくに基本単数とよぶ。
例えば、環Z(√2)とは、
環Z(√2)={a+b√2;a,bは整数}
という数の世界のことである。環とは、「足す、引く、掛けるが自由にできる集合世界」のことである。
そこで、√2+1という数の逆数は、√2-1であり、これらは当然、環Z(√2)に含まれている。よって、√2+1も√2-1も
どちらも単数である。そして環Z(√2)の単数はじつは±(√2+1)^n (nは整数)と表現されることが知られている。
よって、定義より、√2+1が基本単数となる(*1)。
類数というのは、イデアルと数のズレをあらわす。素因数分解の一意性に関係している。イデアルは、クンマーが
フェルマーの最終定理を解こうとした過程で発明した革命的概念である(*2)。
L1(s)は実2次体Q(√2)に対応するゼータである。Q(√2)類数hは1であり、Q(√2)の基本単数はεk=√2+1
である。またL1(s)の導手Nは8である。
これらを
L(χ,1)=2h・log(εk)/√N ------B
に代入して、
L1(1)=2・1・log(√2+1)/√8=log(√2+1) /√2
となる。
すなわち、
(1 - 1/3 - 1/5 - 1/7 ) + (1/9 - 1/11 - 1/13 - 1/15 ) + ・・・ =log(√2+1) /√2
とわかる。
余談終わり。
このページでは、L1(s)の母関数を調べる。もちろん、「その1」で発見した手法の類似を行うわけである。
(*1)雑誌「数学のたのしみ No.17」(2000年2月号)の加藤和也氏の「岩澤理論の拡張について」
(*2)雑誌「数学のたのしみ」No.15(1999年10月号)の加藤和也氏の記事「イデアル類群の喜び」
次の母関数を構成した。
F(x)=cos(x/1)/1^s - cos(x/3)/3^s - cos(x/5)/5^s + cos(x/7)/7^s + ・・・ ------@
”cos(x/n)型L1(s)母関数”と名づける。まずs=1とした場合を考えよう。すなわち、
F(x)=cos(x/1)/1 - cos(x/3)/3 - cos(x/5)/5 + cos(x/7)/7 + ・・・
を見る。右辺をx=0周りでテイラー展開すると、次となる。
F(x)=L1(1) - L1(3)・x^2 /2!+ L1(5)・x^4 /4!- L1(7)・x^6 /6!+ L1(9)・x^8 /8!- ・・・
すなわち、次が成り立つ。
cos(x/1)/1 - cos(x/3)/3 - cos(x/5)/5 + cos(x/7)/7 + ・・・
=L1(1) - L1(3)・x^2 /2!+ L1(5)・x^4 /4!- L1(7)・x^6 /6!+ L1(9)・x^8 /8!- ・・・ -----A
F(x)がL1(s)の母関数となっていることがわかる。
すぐわかるが、
F(0)=L1(1)
であり、またF(x)を2回微分したF´´(x)のF´´(0)が F´´(0)=-L1(3) となる。すなわち、
F(0)=L1(1)
F^(2)(0)=-L1(3)
F^(4)(0)=L1(5)
・
・
となっている。F^(n)(x)は、F(x)のn回微分を表す。
F(x)は全ての実数(-∞<x<∞)を定義域にとれる。Aのべき級数を見ると収束半径RはR=∞となるからそれがわかる。
(また右辺の項をすこし先にいけば、ほぼL1(n)はほとんど1とイコールとなるので、それ以降はcosxと同じであるともいえ、それによっても-∞<x<∞が
わかる。)
次にs=2とした場合を考える。
F(x)=cos(x/1)/1^2 - cos(x/3)/3^2 - cos(x/5)/5^2 + cos(x/7)/7^2 + ・・・
右辺をx=0周りでテイラー展開すると、次となる。
F(x)=L1(2) - L1(4)・x^2 /2!+ L1(6)・x^4 /4!- L1(8)・x^6 /6!+ L1(10)・x^8 /8!- ・・・
すなわち、次が成り立つ。
cos(x/1)/1^2 - cos(x/3)/3^2 - cos(x/5)/5^2 + cos(x/7)/7^2 + ・・・
=L1(2) - L1(4)・x^2 /2!+ L1(6)・x^4 /4!- L1(8)・x^6 /6!+ L1(10)・x^8 /8!- ・・・
同様にして、s=3と s=4 では、次が成り立つ。
cos(x/1)/1^3 - cos(x/3)/3^3 - cos(x/5)/5^3 + cos(x/7)/7^3 + ・・・
=L1(3) - L1(5)・x^2 /2!+ L1(7)・x^4 /4!- L1(9)・x^6 /6!+ L1(11)・x^8 /8!- ・・・
cos(x/1)/1^4 - cos(x/3)/3^4 - cos(x/5)/5^4 + cos(x/7)/7^4 + ・・・
=L1(4) - L1(6)・x^2 /2!+ L1(8)・x^4 /4!- L1(10)・x^6 /6!+ L1(12)・x^8 /8!- ・・・
以上を一般的に書けば、次が成り立つ。
cos(x/1)/1^n - cos(x/3)/3^n - cos(x/5)/5^n + cos(x/7)/7^n + ・・・
=L1(n) - L1(n+2)・x^2 /2!+ L1(n+4)・x^4 /4!- L1(n+6)・x^6 /6!+ L1(n+8)・x^8 /8!- ・・・ ----B
この式から、nが大きくなるほど、右辺は(つまり左辺は)cosxにどんどん近づくことがわかる。
L1(s)=(1 - 1/3^s - 1/5^s + 1/7^s ) + (1/9^s - 1/11^s - 1/13^s + 1/15^s ) + ・・・
というL1(s)の定義式から、sが大きくなると、L1(s)は1にきわめて近くなる。
よって、Bより、F(x)は
limF(x)=cosx
(n->∞)
となることがわかる。
まとめておく。(一般式のnはsで表した)
次に、cos(x/n^2)型L1(s)母関数を構成しよう。
F(x)=cos(x/1^2)/1^s - cos(x/3^2)/3^s - cos(x/5^2)/5^s + cos(x/7^2)/7^s + ・・・ ------@
まずs=1とした場合を考えよう。
F(x)=cos(x/1^2)/1 - cos(x/3^2)/3 - cos(x/5^2)/5 + cos(x/7^2)/7 + ・・・
右辺をx=0周りでテイラー展開すると、次となる。
F(x)=L1(1) - L1(5)・x^2 /2!+ L1(9)・x^4 /4!- L1(13)・x^6 /6!+ L1(17)・x^8 /8!- ・・・
すなわち、次が成り立つ。
cos(x/1^2)/1 - cos(x/3^2)/3 - cos(x/5^2)/5 + cos(x/7^2)/7 + ・・・
=L1(1) - L1(5)・x^2 /2!+ L1(9)・x^4 /4!- L1(13)・x^6 /6!+ L1(17)・x^8 /8!- ・・・ -----A
F(x)がL1(s)の母関数となっていることがわかる。F(x)は全ての実数(-∞<x<∞)を定義域にとれる。
次にs=2とした場合を考える。
F(x)=cos(x/1^2)/1^2 - cos(x/3^2)/3^2 - cos(x/5^2)/5^2 + cos(x/7^2)/7^2 + ・・・
右辺をx=0周りでテイラー展開すると、次となる。
F(x)=L1(2) - L1(6)・x^2 /2!+ L1(10)・x^4 /4!- L1(14)・x^6 /6!+ L1(18)・x^8 /8!- ・・・
すなわち、次が成り立つ。
cos(x/1^2)/1^2 - cos(x/3^2)/3^2 - cos(x/5^2)/5^2 + cos(x/7^2)/7^2 + ・・・
=L1(2) - L1(6)・x^2 /2!+ L1(10)・x^4 /4!- L1(14)・x^6 /6!+ L1(18)・x^8 /8!- ・・・
同様にして、s=3と s=4 では、次が成り立つ。
cos(x/1^2)/1^3 - cos(x/3^2)/3^3 - cos(x/5^2)/5^3 + cos(x/7^2)/7^3 + ・・・
=L1(3) - L1(7)・x^2 /2!+ L1(11)・x^4 /4!- L1(15)・x^6 /6!+ L1(19)・x^8 /8!- ・・・
cos(x/1^2)/1^4 - cos(x/3^2)/3^4 - cos(x/5^2)/5^4 + cos(x/7^2)/7^4 + ・・・
=L1(4) - L1(8)・x^2 /2!+ L1(12)・x^4 /4!- L1(16)・x^6 /6!+ L1(20)・x^8 /8!- ・・・
以上を一般的に書けば、次が成り立つ。
cos(x/1^2)/1^n - cos(x/3^2)/3^n - cos(x/5^2)/5^n + cos(x/7^2)/7^n + ・・・
=L1(n) - L1(n+4)・x^2 /2!+ L1(n+8)・x^4 /4!- L1(n+12)・x^6 /6!+ L1(n+16)・x^8 /8!- ・・・ ----B
この式から、nが大きくなるほど、右辺は(つまり左辺は)cosxにどんどん近づくことがわかる。
まとめておく。(一般式のnはsで表した)
次に、cos(x/n^3)型L1(s)母関数を構成しよう。
F(x)=cos(x/1^3)/1^s - cos(x/3^3)/3^s - cos(x/5^3)/5^s + cos(x/7^3)/7^s + ・・・ ------@
まずs=1とした場合を考えよう。
F(x)=cos(x/1^3)/1 - cos(x/3^3)/3 - cos(x/5^3)/5 + cos(x/7^3)/7 + ・・・
右辺をx=0周りでテイラー展開すると、次となる。
F(x)=L1(1) - L1(7)・x^2 /2!+ L1(13)・x^4 /4!- L1(19)・x^6 /6!+ L1(25)・x^8 /8!- ・・・
すなわち、次が成り立つ。
cos(x/1^3)/1 - cos(x/3^3)/3 - cos(x/5^3)/5 + cos(x/7^3)/7 + ・・・
=L1(1) - L1(7)・x^2 /2!+ L1(13)・x^4 /4!- L1(19)・x^6 /6!+ L1(25)・x^8 /8!- ・・・ -----A
F(x)がL1(s)の母関数となっていることがわかる。F(x)は全ての実数(-∞<x<∞)を定義域にとれる。
次にs=2とした場合を考える。
F(x)=cos(x/1^3)/1^2 - cos(x/3^3)/3^2 - cos(x/5^3)/5^2 + cos(x/7^3)/7^2 + ・・・
右辺をx=0周りでテイラー展開すると、次となる。
F(x)=L1(2) - L1(8)・x^2 /2!+ L1(14)・x^4 /4!- L1(20)・x^6 /6!+ L1(26)・x^8 /8!- ・・・
すなわち、次が成り立つ。
cos(x/1^3)/1^2 - cos(x/3^3)/3^2 - cos(x/5^3)/5^2 + cos(x/7^3)/7^2 + ・・・
=L1(2) - L1(8)・x^2 /2!+ L1(14)・x^4 /4!- L1(20)・x^6 /6!+ L1(26)・x^8 /8!- ・・・
同様にして、s=3と s=4 では、次が成り立つ。
cos(x/1^3)/1^3 - cos(x/3^3)/3^3 - cos(x/5^3)/5^3 + cos(x/7^3)/7^3 + ・・・
=L1(3) - L1(9)・x^2 /2!+ L1(15)・x^4 /4!- L1(21)・x^6 /6!+ L1(27)・x^8 /8!- ・・・
cos(x/1^3)/1^4 - cos(x/3^3)/3^4 - cos(x/5^3)/5^4 + cos(x/7^3)/7^4 + ・・・
=L1(4) - L1(10)・x^2 /2!+ L1(16)・x^4 /4!- L1(22)・x^6 /6!+ L1(28)・x^8 /8!- ・・・
以上を一般的に書けば、次が成り立つ。
cos(x/1^3)/1^n - cos(x/3^3)/3^n - cos(x/5^3)/5^n + cos(x/7^3)/7^n + ・・・
=L1(n) - L1(n+6)・x^2 /2!+ L1(n+12)・x^4 /4!- L1(n+18)・x^6 /6!+ L1(n+24)・x^8 /8!- ・・・ ----B
この式から、nが大きくなるほど、右辺は(つまり左辺は)cosxにどんどん近づくことがわかる。
まとめておく。(一般式のnはsで表した)
このページで得たL1(s)母関数の一般式を並べてみる。
cos(x/1)/1^s - cos(x/3)/3^s - cos(x/5)/5^s + cos(x/7)/7^s + ・・・
=L1(s) - L1(s+2)・x^2 /2!+ L1(s+4)・x^4 /4!- L1(s+6)・x^6 /6!+ L1(s+8)・x^8 /8!- ・・・
cos(x/1^2)/1^s - cos(x/3^2)/3^s - cos(x/5^2)/5^s + cos(x/7^2)/7^s + ・・・
=L1(s) - L1(s+4)・x^2 /2!+ L1(s+8)・x^4 /4!- L1(s+12)・x^6 /6!+ L1(s+16)・x^8 /8!- ・・・
cos(x/1^3)/1^s - cos(x/3^3)/3^s - cos(x/5^3)/5^s + cos(x/7^3)/7^s + ・・・
=L1(s) - L1(s+6)・x^2 /2!+ L1(s+12)・x^4 /4!- L1(s+18)・x^6 /6!+ L1(s+24)・x^8 /8!- ・・・
きれいな規則性があるので、さらに容易に一般化でき次を得る。
cos(x/1^r)/1^s - cos(x/3^r)/3^s - cos(x/5^r)/5^s + cos(x/7^r)/7^s + ・・・
=L1(s) - L1(s+2r)・x^2 /2!+ L1(s+4r)・x^4 /4!- L1(s+6r)・x^6 /6!+ L1(s+8r)・x^8 /8!- ・・・
普遍的な式と言える。これまではs、rが整数の場合だけを扱ったが、もちろん実数へと一般化できる。
まだ詳しく調べていないが、少なくともs、rは、s>0,r >=0とできる。定義域は-∞<x<∞である。
一般式をまとめておく。
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