**TOP**

 


アガサ・クリスティ1

  タイトル一覧

(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


「青列車の秘密」 

久々のクリスティ。

子供の頃に読んだ時は「青列車」というのがなんとも不気味で、
外国ではずいぶん怖い列車が走っているものだと思ったけど、
意訳すれば「ブルートレイン殺人事件」。

ただし「青列車」は富豪のための豪華列車だから、日本の寝台特急のイメージとは
かなり違いますが、トラベルミステリーなのは同じ。
海外のトラベルミステリーの原点といわれる作品だそうです。

内容も軽いというか浅いというか、推理よりストーリーが中心。
特にヒロインのキャサリン・グレーって、浅見シリーズのヒロインのような存在ですね。

タイトルに「列車」と入ってますが、事件現場が車内というだけで
ほとんどのストーリーは南仏のリゾートで展開されます。
ロマンスも絡んだ、いかにもリゾ−トっぽい話です。

ポアロものの5作目なんですが、前の4作は
「スタイルズ荘の怪事件」
「ゴルフ場殺人事件」
「アクロイド殺し」
「ビッグ4」

こう並べてみると、この頃までのポアロはまだ古いタイプの名探偵なんだと思いますね。
自分だけが隠された証拠を知っていて勝手に納得し、突然犯人を指摘する。
もちろん古典的探偵小説に比べればヒントはいろいろ書かれてるけど、
犯人が明かされた時の驚きは、意外というより唐突。
・・・ということで「意外な犯人」で有名な作品です。

ま、「意外」にもいろいろな「意外」があるわけで・・・

以下はネタバレ

離婚問題が動機かと思ったら、実は宝石泥棒だったという話。
作中に語られる「強盗を捕まえろ」は単なる捨て台詞じゃなかったのね。

冒頭のシーンがそのままラストにつながる。
途中のエピソードはなんだったの?という話ですね
〜】




◆ 「火曜クラブ」

わたしが最初に読んだ頃は「ミス・マープルと13の謎」というタイトルでした。
ミス・マープル初登場作。

ミス・マープルの家に集まった甥のレイモンドと、そのお客たち。
スコットランド・ヤードの元警視総監をゲストに迎えて迷宮事件が話題に上る。
そこで毎週火曜日に集まって、それぞれが知っている迷宮入り事件について推理を競うことになった。

事件の謎解きはもちろんですが、それ以上に雑談部分が面白い。

「わたしが言いたいのはね。
たいていの人間は悪人でも善人でもなくて、ただとてもおばかさんだってことですよ」

ほとんどの人間は放っておくと勝手なことをするということですね。
乱反射を読んで、簡単な社会ルールも守れない身勝手な人たちに腹を立てていたけど、
「それが人間というもの」と言われた気がします。

しかし、なくなったエビが気になる〜

火曜クラブ
夫と妻、妻のコンパニオン、その3人が家で夕食を食べた後に気分が悪くなり、妻が死亡。
夫が疑われたが、夫には夕食に細工をする機会はなかった。
こういう謎解きは参加できないので残念。

アスタルテの祠
古代の伝説の残る祠の前で起こった謎の事件。
仮装パーティで女神に扮した女性が伝説の祠の前で男性に呪いをかけると、
その男性が心臓を一突きされて死んでしまった。当然その女性に疑いがかけられたが、
彼女は剣を持っておらず、その男性から3mも離れたところに立っていただけだった。

これは謎解きパズルのようなトリッキーな作品。
問題編と解決編という感じです。
推理パズルのつもりで謎解きに挑戦してみると楽しいです。

金塊事件
マープルものでは珍しい金塊泥棒の話。
といっても巻き込まれたのは甥のレイモンドだからマープルが関わった事件ではないけど。
なんといってもミス・マープルが真相を見破るきっかけが面白いです。

舗道の血痕
女流画家のジョイス・ランプりエールは真夏の避暑地でスケッチをしている時に、
白い舗道に残る血痕を見てしまう。
その村は昔、海賊に襲われて皆殺しになり、
その時の血のあとが百年間消えなかったという伝説があった。
恐ろしくなったジョイスは近づいて確かめてみたが、やはりそこに血痕はなかった。
しかし伝説の呪いの通りに観光客が溺死する事件が起こる。

夏に陽射しと白い舗道の血痕。
その他にも色彩鮮やかで絵画的に見事な1篇。

動機対機会
資産家の男性が亡くなって遺言書が公開されたが、そこには何も書かれていなかった。
その遺言書は弁護士が立会いで署名され、
弁護士事務所の金庫に保管されていたものだったもので、
すり替える機会はなかったはずなのだが・・・

誰でもわかる謎解きかも?

聖ペテロの指のあと
ミス・マープルの姪であるメイベルは夫を殺したという噂に悩まされていた。
それというのも夫の死因が不明で、さらに夫が亡くなる前にメイベルが砒素を買い込んだことを薬屋が吹聴したからであった。
姪の疑いを晴らしたいとミス・マープルは死体発掘許可を受け検死解剖までするが、
砒素中毒は否定されても、死因は不明のままだった。
しかしメイベルの夫が息を引き取る直前に言った言葉が解決のヒントになる。

ダイイングメッセージものですけど英語がわからないからね・・・

青いゼラニウム
病弱なプリチャード夫人は心霊術や占いに凝っていた。
ある占い師に病室の壁紙に描かれているゼラニウムが青く変わったら死ぬと予言されて怯えていた。
そしてある朝、病室で亡くなっているプリチャード夫人が発見され、
ゼラニウムは青く変色していた。

なんか懐かしくなるわ〜

二人の老嬢
カナリア諸島にバカンスに来ていた二人のイギリス人の老嬢。
しかし到着した翌日、一人が海で溺れ死んでしまう。
単純な事故として済まされたのだが、事故をよそおった殺人だという目撃者もいた。
そしてその後、生き残った婦人が自殺。
はたして真相は・・・

40歳で老嬢ってorz

四人の容疑者
秘密結社の解体に尽力した博士が、追っ手を避けてイギリスの片田舎の村で暮らしていた。
小さな村では、よそ者が入り込めばとても目立つので安全だと思われたからであった。
しかしそんな用心にもかかわらず博士殺されてしまう。
村によそ者は入り込んでおらず、しかも博士家にいたのは身元の確かな人間だけだった。
博士の姪、40年も使えてきた家政婦、秘書として入り込んでいた護衛の警官、村で生まれ育った庭師。
この4人の誰が秘密結社の手先だったのか?

クリスマスの悲劇
ミス・マープルは、ある男の行動に不審を感じていた。
妻を事故に見せかけて殺そうとしているように思えるのだ。
ミスマープルは夫の行動に注意を払っていたが、ついに妻は殺されてしまう。
しかし夫には磐石のアリバイがあった。

ミス・マープルのアリバイ崩し。
ご本人の某名作と逆のトリック。

毒草
晩餐の献立に香草と間違えて毒草が混じりこんでいた。
同じ食事を取った一同は中毒を起こしたが、その中の若い娘が死んでしまう。
しかし香草と間違えて毒草を摘んできたのは、その娘だった。

バンガロー事件
容姿はたいへん美しいけれど頭は軽い女優が巻き込まれた泥棒事件の顛末。

女同士というのはいろいろな感情が絡み合って面倒なものですね。
一番の味方であり、一番の敵ですか。

溺死
村に滞在している都会の若者に、村の娘が恋をして妊娠。
しかしその若者はロンドンに婚約者がいた。
娘は絶望して河に身を投げる。

青春ドラマのような展開だけど、真相は2時間ドラマ。




◆ 「白昼の悪魔」

裏表紙のあらすじには「地中海の避暑地」と書いてあるけど、
舞台となるのはイギリス南西部の島にあるリゾートホテル。
映画化される時に地中海になってしまったらしいけど、
それではイメージがまったく変わりますね。登場人物を含めて。

「密輸船の島」という名のスマグラーズ島は、
潮が満ちると島に渡る橋が海中に没する半孤島。
その島に1つだけ建つ建物が、海賊旗という名の「ジョリー・ロジャー・ホテル」

夏の間、ここに滞在する客の中で殺人事件が起こる。
殺されたのは完璧な美しさで男を操る元女優アリーナ・マーシャル。
彼女をめぐる数多くのスキャンダルが動機の解明を難しくする。

最初はタイトルからイメージする内容とは違うストーリーだと思って読んでいたけど、
最後まで読むとタイトルの意味に納得。

一見無関係に思えるいくつかの事実が最後に1つの真相に収斂されるところが見事!
犯行現場に残されたハサミ、窓から投げ捨てられた空き瓶、
暖炉の燃えあと、風呂の水を流す音、
それぞれどういう意味があるのやら、ぜんぜん予想つかなかったものね〜
あ、【洞窟の香りは意味深だった

殺人トリックより推理の過程を楽しむミステリー。
残念なのは解決に至る最大の証拠の提出が唐突だというところかな。

真相がわかってから、もう1度伏線を確認したくなること請け合い。
特に第1章の2節から始まるテラスでの雑談。
ただ滞在客を紹介するだけの会話かと思って適当に読んでたけど、
すでにこの雑談から伏線が盛りだくさん。
2度楽しめるミステリーです。

苦言といえば、ポアロのしゃべり方がガラ悪いのよね(笑)
2時間ドラマの頭脳派デカ(刑事)という感じのしゃべり方で、
地元の刑事たちと区別が付かない。
翻訳の文章がもっと上手ければ、
何度でも読みたいミステリーになったかもしれません。



 「アクロイド殺し」

懐かしの再読。
最初に読んだのは高校時代だと思うけど、当時の話題の作品でした。
アンフェアというより、見事にだまされてという感想ですね。

ヘイスティングが南米に去り、引退したポアロは
イギリスの片田舎の小さな村でカボチャを投げている育ててる(笑)
そしてその村の大地主ロジャー・アクロイドが自宅で殺害される事件が起こる。

被害者の姪のフローラ・アクロイドはポアロに捜査を依頼する。

実はロジャー・アクロイドが殺される前に、ロジャーの恋人・フェラーズ夫人が自殺していた。
夫人はある人物から恐喝を受けており、それが自殺の原因だった。
フェラーズ夫人は自殺する前に恐喝者について告発した手紙をロジャーに宛てて残していた。
その手紙が届いた夜、ロジャーは自室で殺されたのだった。

村の医師であるシェパードは謎の電話で呼び出されて
アクロイド家に駆けつけ、ロジャーの遺体を発見する。

「ここにいる全員が何かを隠している」とポアロが指摘したとおり、
登場人物の誰もが重要な秘密を隠している。
そのために事件はややこしくもつれる。

現在ではいくつかのミステリーに使われて、
1つのパターンとして認識されているある手法が使われています。
この手法については今でも賛否両論があるようですが、
ヒントは書き込まれてるので、基本的にはフェアだと思いますね。

そのこと以外にも様々なミステリーの要素を全部詰め込んだ
トリッキーで面白い作品です。

以下はネタバレしています。反転させて読んでください。


ヒントその1は、10分間の空白。

抜粋すると「その手紙は9時20分前に運ばれてきた。わたしが彼のもとを辞したのは、
ちょうど9時10分前で、まで手紙はまだ読まれてなかった。」
この10分間に殺人が行われたということなんだけど、
退出の挨拶なんかしてたら、10分くらい経つだろうと思ってしまいました。
むしろ10分で人を刺して録音機を仕掛けて忙しい気がするな。

そして9時10分前に屋敷を出た医師は、門を通り抜ける時に9時の鐘を聞く。
玄関から門まではふつうに歩いて5分だから、ここでは5分間の空白。
この誤差に気づくのは難しいですね。やっぱり細かい。

もう1つはテープレコーダーによる犯行時刻の錯誤。
これもその後のミステリーで多用されるトリックだけど、
肉声と再生された声には違いがあると思うんですけどね。
欧米の住宅の厚い壁、ドア越しなら惑わされるのかしらね。

往診用の大きな鞄を持参してることが秘書の不審を招いたことも
についてもちゃんと言及されてる。

最大のヒントはシェパード医師を呼び出した電話。
この電話だけが他の証拠から説明が付かない。
それに気が付けば犯人は一人しかいないんですよね。





◆ 「ABC殺人事件」 

クリスティとしてはあまりに有名な作品。

それでも私の中ではそんなに強い印象のある作品でもなかったんですが、
再読して、こんなに面白かったのかと再認識。

事件はABCの頭文字の順に殺人が行われていくというもの。
発端はポアロの元に連続殺人を予告するような手紙が届くところから。
そしてその手紙に書かれたいたとおりに殺人事件が起こる。

アンドーヴァーでアッシャーという老婦人が殺され、
次にベイクスヒルでバーナードという若い女性が殺された。
二人にはAとBという頭文字意外にはなんの共通点もなかった。

これはある意味、現代の方が評価される作品かもしれません。
なぜならポアロが心理分析を利用して犯人探しをするミステリーだから。

第8章の最初の4ページでポアロが語る犯人像についての解析は、
まさに心理分析から犯人像に迫るプロファイル捜査。

そして18章ではブレインストーミングが始まります。
それまでに起こった事件の関係者を集めて彼らに思いついたことを自由に話させる。

「話してーー話してーー話しつくすんです。
何気ない言葉から、思いがけない発見があるかもしれません。」ポアロ。

解説で法月綸太郎氏が、1990年代にブームになったサイコものの先駆けとなる作品
と書いているけど、本当に当時評判になったサイコミステリーはすべてこの作品のアレンジと思えてくるくらい斬新な作品です。

学生時代にこの作品を評価できなかったのは、たぶんカスト氏の存在。



 「葬儀を終えて」 アガサ・クリスティ

ポアロもの。
これも評価の高い作品で、意外な犯人シリーズにも入るかもしれません。

最後まで読み終わったあとで、「えっ、そういうことだったの?」と、
もう1度読み返してしまいました。
たしかにどちらとも取れるように書いてはありますけどね・・・

富豪であるリチャード・アバネシーが自宅で急死。
葬儀の後、遺族が集まって遺言の発表を聞こうという時に
リチャードの妹であるコーラが突然「だってリチャードは殺されたんでしょう」と発言。
しかもその翌日、コーラは自宅で惨殺される。

この基本トリックは納得できない読者もいるんじゃないでしょうか。
正直私も疑問を感じてしまいました。
不可能というほどでもないですが。

これだけの大事件なのに警察の捜査もポアロの調査も徹底してない気がしたんですが、
そこもこのトリックを成立させるためには仕方ないことかもしれませんね。

でも真剣に探せばコーラの事件はもっと証拠が見つかりそうですよね。

続きはネタバレです。 反転させて読んでね。



最初に感じた疑問は、同じ屋敷に暮らしているならともかく、
わざわざ遠くまで出かけて行ってまで殺害するほど
コーラは重要な証拠を掴んでいたのかということ。
しかもあまり賢くないと思われている女性の言ったことなのに。

でもそれこそが事件のポイントだったんですね。
自宅で殺されることが必然の事件だった。

ミス・ギルクリストがコーラに成りすましていたということ自体も疑問なんですが、
その後、ギルクリストに会った老弁護士や遺族が気付かないのはありえるのかな?
階級社会の「使用人の顔なんてまともに見ない」という
いくら「はっきりしない顔立ち」と書かれてても疑問は感じますね。

ミス・ギルクリストは召使いではなくて上流社会の女性の話し相手・companionだそうですが。

手斧で惨殺という手口も、犯人が50代の白髪交じりの貧相な婦人ということから
たしかにミスリードになってますけどね。
それにしても思い切った殺害方法を選んだものだ。

返り血は付かなかったのかしらね。

孔雀石のテーブルと造花については、やけに詳しく書いてあると怪しんでたら、
あれが証拠だったんですね。
クリスティにしてはあからさまかも。

もう1つ。
毒入りケーキもかなりわかりやすいヒントでしたね。





「ねじれた家」 アガサ・クリスティ

ノンシリーズ。
事件を解くのはロンドン警視庁副総監の息子。

タイトルはマザーグースの1節から採られているけど、
童謡殺人という内容ではないですね。

事件が起こるのは増築を繰り返して、ねじれたように見える大邸宅。
殺されたのはその屋敷の主、87歳のアリスタイド・レオニデス。
移民から一代で財を成した男が自宅で殺された。
外から侵入者の形跡もなかったことから犯人は内部の人間に限定された。

そのねじれた屋敷には彼の一族がすべていっしょに暮らしていた。
彼の息子二人とその家族、亡くなった最初の妻の妹、
若い後妻、子供たちの家庭教師。

ふつうに考えれば若い後妻が怪しいわけですが、
この家族には何か重大な秘密がありそうです。

伏線がトリック関係ではなくて犯人の心理や状況を現しているところが特徴。
動機のミステリーとも言えますね。
見えてこないんですよ、動機がいつまでも。

犯人に関することはたくさん書いてあるのにね。
見えないんですよ、それが。

犯人がわかってから読み返すと、ストレートに犯人のことを書いているとしか思えないのに、
それがむしろ読者を惑わせる伏線になっているんですね。。

まるで不思議絵みたいです。
影の部分に注目すると別の画像が見えてくる不思議絵があるけど、
あれと同じ。
一度隠れた絵が見えてしまうと、もうそれしか見えないという。

それにしても、この一族の娘と結婚する総監の息子がすごい。



◆ 「スタイルズ荘の怪事件」

古き良き探偵小説ですね。
久しぶりの再読ですが、メインのストーリーはほとんど覚えていませんでした。

枝葉末節だけ覚えてるんですけどね(^^;)
例えば・・・
お屋敷に滞在するという休暇の過ごし方。
晩餐の前に自宅のテニスコートで楽しむ軽い運動のテニス。
正装に着替えての晩餐。
執事とか召使いという人たちがいる生活。
毒殺といえばストリキニーネ。

日本のミステリーとはまったく違う世界で起こる事件。
当時、こんなの推理できないよ〜と思って読んでました。
ということで学生時代はマイベストでは10位くらいの作家だったんですよね。

あらためて今読んで思うのは、やっぱりクリスティの描く人間関係は
中高生向きではないということ。
少し人生を経験してから読んだ方が味わい深いです。


傷病兵として送還されたヘイスティングスは旧友ジョン・カヴェンディッシュと出会い、
彼の屋敷・スタイルズ荘で休暇を過ごすことになった。

屋敷にいたのはジョンの母親エミリー、妻メアリ、弟ローレンス、
母エミリーの友人エヴリン・ハワード、エミリーの旧友の娘シンシア。
そしてエミリーの新しい夫アルフレッド・イングルソープ。
そう、エミリーは20歳も年下の得体の知れない男と再婚していたのだった。

ヘイスティングスが屋敷について早々、エミリーの再婚に反対してたエブリンがついに屋敷から出て行ってしまう。

そしてその後、エブリンが危惧していた事態がついに起る。
エミリー・イングルソープが毒殺されたのだ。

屋敷の見取り図、被害者の部屋の見取り図、破られたメモの一部など、
挿入された図を見てるだけでワクワクしてしまいます。

密室、毒薬、消えた遺言状、謎のメモなど、ミステリーの要素を充分に詰め込んだクリスティのデビュー作。

続きはネタバレ


暖炉の火がヒントだったとは。
さすがイギリス真夏でも夜は冷えるのねと思って読み流しました(^^;)

ジョンとメアリーの夫婦がお互いの感情を隠すから、
ややこしいことになってしまったのよね。

よく騎士道精神にあふれた若者が推理を混乱させるけど、
ローレンスはその典型だったのね。

犯人が手紙を書いて
それを夫婦の書斎の引き出しに入れたままというのはかなり間抜け。
いくら鍵付きでもね。

でも沈殿するストリキニーネなんて、わからないよね〜






◆ 「杉の柩」

クリスティの中でもかなり好きな作品。

この作品の要目は、なんといっても容疑者が少ないところ。
3人の女性が自宅で昼食を取り、その直後、そのうちの一人が死んでしまう。

死因は毒物中毒。しかも食事を作った女性と死んだ女性は恋敵。
さらに、その日、屋敷にはその3人しかいなかった。
犯人は明白のようで、当然食事を作った女性が逮捕される。

しかしそこでポアロ登場。彼女の冤罪を晴らす。
濡れ衣といっても、他に本人らしい人物は誰もいないわけで、
物語が進むほどに彼女以外の人物が毒物を入れるのは不可能と思われてくる。

どういう結末で終わるのか、最後まで惹き付けられる作品です。

なんとなく犯人を予想することは出来るんですけどね。
隠された情報も多いから真相を推理するのは困難。
ある程度のヒントは出されているので、もしかしたら?という程度かな。

終盤の法廷劇がドラマチック。

ここからネタバレ



ミステリーを読みなれた人ほど看護婦は執事や召使いと同じように、
容疑者候補から外してしまうのではないでしょうか。
ちゃんと伏線は書いてあるんですけどね。

でもふつうの人はモルヒネを中和する薬なんか知らないから、
バラのとげに刺されたという説明が不自然とは思っても意味はわからないですよね。

ホプキンズ看護婦がメアリイに遺言状を書くように提案するまではいいけど、
相続人の名前を限定するところで、ちょっと違和感は感じました。

しかしエリノアもお茶を飲んで死んでたら、どうだったんだろう?





◆ 「春にして君を離れ」

ミステリーではありません。
メアリ・ウェストマコット名義で発表された一般の小説。
でもそこはクリスティですから、ミステリー作家的な視点で人間を観察してます。

真実と、真実であると思われていることとの違い、
何かを見るということ、認識するということはどういうことなのかを考えさせられる小説です。

あらすじを簡単に書くと、中年の主婦が旅先で足止めに遭い、
無為に過ぎる時間の中で我と我が人生と振り返るという話なんですが、
だからといって、「本当の自分を見つける」という単純な話でもありません。

ジョーン・スカダモアは弁護士の夫と3人の子供を持つふつうの主婦。
子供たちはすでに独立して、今は夫婦二人の暮らし。
そんな時に末娘がバグダッドで病気で倒れる。
看病のためにバグダッドに赴いたジョーンは、
帰りの途中で天候不良のため砂漠の宿泊所に足止めされてしまう。
他に宿泊する客もなく、何もすることがない1週間。
長い長い無為の時間の中で、否応なく自分の人生を振り返ってしまうジョーン。
そして気がついたのは、今まで自分が知っていたこと見ていたことは、
本当に起こったことと違うのではないかということ。


世の中には一人になることを恐れ、常に忙しくしていないと不安な人がいるけれど、
ジョーンもそんな一人。
一人になって考え事をして、ずっと考えないようにしていたこと、
見ないようにしていたことに気づいてしまうのが怖いんですね。

ではジョーンが砂漠で自分を見直して終わりかというと、
そう簡単には終わるわけもなく、人生の深遠を覗き込む気がするラストです。

最初の登場シーンから価値観が固定された完璧タイプとして描かれているので、
そこに破綻を読み取る人もいるかもしれないですが、
はたして破綻なのかどうかは疑問・・・ですね。

ここからネタバレ


みなさんはロドニーの農場経営問題をどう考えますか?
まだ子供が小さい時に夫が安定した職業を捨てて、
農場を始めたいと言ったら、ほとんどの妻は反対するのではないでしょうか。
どうしてもやりたいなら子供が独立してからにしてくれと思うよね。

もちろん家庭の事情、社会の事情、妻の考え方で違うとは思うけどね。

仕事が嫌だ嫌だと言い続ける男もどうかと思う。
弁護士を続けなくてはならなかったのはジョーンのせいだと言いたいらしいけど、
最終的に決めたのは自分自身。
みんなそうやって働いているわけでしょうに。

どこが嫌われ者? どこが哀れ?
どこにでもよくいる、ふつうのおばさん(おじさん)じゃないの?

という気もしてきました・・・






◆ 「五匹の子豚」

「そして誰もいなくなった」の対極に位置するといっていいような、クリスティの"静"の傑作の1つ。
ポアロと読者がほぼ同じ情報を与えられて、そこから推理を展開。
フェアと言うならこれこそフェアな作品でしょう。

今回ポアロが解くのは16年前に起こった殺人事件で、
すでに犯人は有罪判決を受けて服役、獄中で亡くなっている。

殺されたのは著名な画家。
彼は絵のモデルになっていた若い女性と恋愛関係になり、離婚を拒否する妻に毒殺された。
妻は裁判にあたって、ことさらに反論することもなく獄中で亡くなる。
しかし実の娘にだけは自分が無実であることを書き残していた。
20歳になった娘は事件の真実を明らかにするために、ポアロに調査を依頼する。

事件のあった日に屋敷にいたのは7人。
被害者である画家。その妻。画家の愛人。
画家と妻の幼なじみである兄弟。妻の妹。その妹の家庭教師。

被害者と画家の妻を除く5人が容疑者となる。
ポアロはさっそく5人に会い、彼らに手記を書くこと依頼。
その証言と手記の相互の矛盾から、16年前に起こった真実を突き止める。

ちょっと変則のアームチェア・ディテクティブです。
文中でもこう言われているしね。
「あなたは椅子に腰掛けてじっとお考えになっただけで
事件の真相がおわかりになるに違いありません」

ここからネタバレ

カロリンが誰かをかばっているのだろうということは考えたので、
毒を入れたのはアンジェラかと思ったけど違ったか。
早川文庫版35ページだけで、すべて書かれてるようなものですね。





「ゼロ時間へ」

クリスティを読むのは10年ぶりくらいかもしれない。
これは高校時代に読んで、途中を飛ばし読みした記憶があるのですが、
ミステリーサイトで評価が高かったから再読。
はい、評判通りに面白かったです。
(たしかに高校生にはつまらないかもしれないけど…)

ゼロ時間とは殺人が行われる、まさにその時間のこと。

「殺人を扱った小説を読むとき、読者はふつう殺人事件が起きたところから出発します。
ですが、それは間違いです。
殺人は事件が起こるはるか以前から始まっているのです!
殺人事件は数多くのさまざまな条件が重なり合い、
すべてがある点に集中したところで起こるものです。

殺人事件自体は物語の結末なのです。つまりゼロ時間」

お屋敷ものです。
資産家の老夫人が住む海辺の古い館、そこに親族やその友人たちが集まってくる。
その中に、この機会を利用して殺人を計画している人物が一人いた。

誰が何のために誰を殺そうとしているのか?
犯人は最後までわかりませんが、殺人計画が練られるところ始まることもあって、
倒叙物にも近い緊張感があります。
容疑者は6人。

全編が罠とヒントと言っていいほど無駄がなく、
うっかり読み飛ばしたエピソードが重要なファクターになっている。
さすがに見事です。

続きはネタバレです。反転させて読んでください。

唐突に小指の長さの話が始まったと思ったら、
それが証拠の1つだったんですね。
「バックハンドが得意」というのも伏線だったとは。

でも、マクワーターの証言は裁判で月曜日の天気の持ち出されたらアウトですよね。
そこだけは不満が残ります。






「そして誰もいなくなった」

孤島に招待された10人の男女が次々に殺されていき、最後には誰も残らなかった・・・という、孤島もののバイブル的作品。

10人しかいないのだから、殺人が続いていくうちに容疑者は減っていく。
当然最後には2人だけが残って、どちらかが犯人ということになるはず。
そのあたりをどう解決するか? 

最初に読んだ時は、実を言うとちょっと不満でした。あらすじだけを聞いていたので期待が大きかったんですよね。もっとすごいトリックを期待していました。でも再読して、結末がわかっていても面白く読めたので、あらためて見直しました。小説としてよく出来ています。

「どんどん橋、落ちた」のような本格定義からは外れるけど、見事な構成です。
さらに細かく読むと、解決に至るヒントが書かれているのも発見。

【 判事が射殺されてるシーンで銃声が聞こえなかったと言う発言。最後の章で、10人の遺体が発見された時、銃が判事の部屋にあったという記述。 

ちゃんと押さえるところは押さえてます。
現在はいろいろな小説に使われているトリックだから、最近読んだ方は驚かないと思いますが、最初に考えたのはやっぱり素晴らしいですよね。


**TOP**


鮎川哲也 内田康夫 清水義範 奥田英朗 杉本苑子 永井路子 東野圭吾 宮部みゆき エラリー・クイーン