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アガサ・クリスティ2

 2 タイトル一覧

(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。


「鏡は横にひび割れて」 アガサ・クリスティ

これも高校時代に飛ばし読みした1冊。

クリスティ72歳の作品。
さすがにトリックや推理に目新しいところはないですが、
人生や人間に対する観察は、より深くなっています。
ミステリーというより、味わい深い小説と思って読んだ方がいいかもしれません。

その人間観察の深みが17〜8歳ではわからなかったということですね。
当時は、だらだらと間延びしたミステリーとしか思えなかった(^―^;)

ということで、ミス・マープルもすっかりおばあさんになっています。
100歳近いとかいてあるけど、そのくらいなのかしら。
セント・メアリ・ミードも開発が進み、郊外には新興住宅が立ち並び、
昔ながらの使用人は去り、ミス・マープルの身の回りもすっかり変わっている。

そしてあの「書斎の死体」のゴシントン・ホールも、何回か持ち主が変わり、
今は大女優であるマリーナ・グレッグが屋敷を買い取り、越してきたところ。
その改装した屋敷の公開と、新住人マリーナのお披露目も兼ねた慈善パーティで
殺人事件は起こる。

客として招かれていた慈善団体幹事の婦人が毒入りカクテルを飲んで亡くなる。
実は、そのグラスはマリーナのもので、婦人に渡したのはマリーナ自身であることがわかる。
はたして狙われたのはマリーナか、殺された婦人なのか。

亡くなったの女性の描写が特に見事。
親切で世話好きで面倒見がよいが、それがすべて独りよがりでしかない。
自分がやりたい事をやっているだけで、相手が求めている事をしているわけではない。
自分以外の人間は、まったく頭にない。
自分の言動が相手にとって、どういう意味を持つかも考えない。

「自分の行為が人にどういう影響を与えるかについての、真の意味の配慮がないからですわ。
いつもその行為が自分にどういう意味を持っているかを考えるだけで、
人にどんな気持ちを与えるかということは、ぜんぜん考えようともしないからですわ。」

もしかしたらクリスティは、こういう他人への配慮がない人たちに
多大な迷惑をこうむっていたのかもしれませんね。

真相や動機は、女性なら見当が付くかもしれませんね。
そういう意味でも現在の日本の、ある状況を考えて読むと、
ちょっと身に迫る恐ろしさがあります。

ちょっとだけネタバレ感想↓


第2第3の殺人は必要あったのかな?
無駄に長くなっているだけという気がしますね。
最初の事件だけでストレートに終わった方が悲劇性が高まったのではないかな。

それにしても伝染性の病気なのに無理に出勤する人とか迷惑ですよね。


「死者のあやまち」 アガサ・クリスティ

読み終わったあとで事件の全容がわかると、なかなか複雑な事件なんですが、
どうも読んでいる時はそれが伝わってこない。とても単純に思えてしまう。
ミステリーゲームで現実の殺人が起こるという仕掛けだけが目立つんですね。


事件が起こるのはイギリス南西部の王朝風の建物、ナス屋敷。
付近の同様の屋敷は取り壊されたりユースホステルに改装されたりしていたが、
ナス屋敷だけはお金持ちの実業家に買い取られて、なんとかその姿を保っていた。
それでも改築されたり増築されて俗っぽい東屋なども建っている状態。

そんなナス屋敷で園遊会が開催される。
様々の趣向の中に、犯人探しゲームが企画された。
そのゲームのシナリオを作るために有名な推理作家が招待される。
それがポアロの新しい相方のオリヴァ夫人。

そして園遊会当日、犯人探しゲームの被害者役の少女が本当に殺されてしまう。
さらに屋敷の女主人までもが行方不明になる。

お金持ちの夫と、若くて美しい妻、屋敷に出入りする若い男たち、
こうなると、被害者は夫や妻のどちらか。

園遊会で殺されたのは近所に住む少女で、夫人の姿が見えないとなれば、
殺されたのか?駆け落ちか?
少女は夫人が姿を消した原因となるなにかを見たために殺されたのだとは、
誰もが考えること。

船着場の老人の言葉で、ほぼすべての裏事情がわかるけど、
あとは解釈の問題ですね。ポアロならずとも人違いしそうです・・・

続きはネタバレです。


表面に見える事件の裏に、もう1つの事件があるという複雑な話だけど、
それが複雑ではなくて単純に描かれているのがもったいない気がしました。

船着場の老人の言葉「このナス屋敷はやっぱりフォリアット家のものですわい」で、
夫妻のうちどちらかが一族の人間と見当がつくけど、やっぱりハティの方だと思ってしまった。

でもなにも殺すほどのことはないのではないかと。
92歳の老人と孫娘の言うこと、うわさの類ですむんじゃないのかな。
動機の弱さが弱点ですね。

ド・スーザが現れたとしてもハティだけが消えればよかったこと。
お金持ちの老人と結婚した若く美しい夫人が
ある日突然姿を消したら、世間は勝手なうわさ話を作ったとしても理由は納得するでしょう。

心配なら宝石や金目のものもいっしょに消えたことにすればいいし、
あるいは男からの呼び出しの手紙を偽造すれば、もっと確実。
殺人事件を起こすより、ずっと有効な手段ですよね。





 雲をつかむ死

最初に読んだ時は。たしか「大空の死」というタイトルだったと記憶してます。
飛行中の旅客機の中での殺人。まさに閉ざされた空間です。

パリからロンドンに向う飛行機が空港に着いた時、
最後列の座席に座っていた婦人が死んでいるのが発見された。
死因は毒殺。そして機内からは吹き矢と毒蜂の死骸が発見された。

ファーストクラスだから乗客は11人。
犠牲者とポアロを除くと、容疑者は9人+スタッフ使用人3人。
しかも最後列に座る犠牲者に近づくことが出来た人間は限られている。
本当にクローズド。

でも、犯人はなんとなく予想がつきます。
論理的推理の結果ではなく、消去法で犯人らしくない人物を消していくと
一人しか残らないから。
動機もなんとなく想像出来たのですが、こちらは見事に騙されました。

犯行方法が謎めいていること、関係者が限られているので、
推理の過程はあまり楽しめません。
読んでいる途中で、ポアロは何がしたいんだろうと首を傾げてしまうシーンも
多かったです。
キーとなる証人の登場も唐突な感じだし。
そんなわけで、ちょっと中盤で退屈する場面もあるけど、ラストは急に盛り上がって、
どんでん返し。
読み終わると面白かったです。

以下はネタバレ感想


まさか本当に吹き矢で狙ったわけではないだろうとは思ったけど、
ではどういう殺害方法が使われたのか?
飛行機内で被害者に近づけないとしたら、なにか時間差で効果が出る方法。
そこで歯科医が乗っていたことに思いつく。
きっと時間が経つと口の中で毒が溶け出すような治療をしたのでは?と推理。

でも被害者が患者だったという記述はない。
もしかして応急処置かな〜と推理したけど、なかなかそういう記述も出てこない。

ということで、犯人は当たってたけど推理はハズレ。

まさかスチュワードに化けて近づいたとは。
でも歯科医の白衣とスチュワードの白衣が似てるということを知らないとわからないよね。

動機についても、きっとあの美容師がマダムジゼルの娘で、
歯科医は結婚によってその財産を得ようというしているのだと思ったけど、
でも娘が違っていたわけですね。

突然メイドが登場したときは「ずるい」と思ってしまったけど、
直接犯行に関係なくてよかった。






◆ ゴルフ場殺人事件

長編3作目、ポアロものの2作目。
ヘイスティングスが若い。いろんな意味で若い(笑)
そしてまだポアロの捜査方法に全幅の信頼を置いてるわけではないところも
面白い。

恋愛事件が中心で動きのある小説です。
ゴルフには特に関係もなく、殺人現場がゴルフ場のバンカーだったというだけ。

舞台はフランス。ある日、ポアロのもとに救いを求める手紙が届く。
それはフランスに移住したイギリス人富豪ルノー氏からのもので、
ある大きな秘密に関わったことから生命の危機に瀕しているという。

ポアロはさっそくフランスへ向ったが、ポアロが現地に着いた時には、
すでにルノー氏は殺害され警察の捜査が始まるところだった。

事件を担当するのはパリ警視庁の名刑事ジロー。
この刑事は証拠至上主義で、地面を這って小さな手掛かりを探すタイプ。
当然、名探偵といわれるポアロに対して対抗心むき出し。
でもポアロはまったく相手にせず、「人間猟犬」と冷笑。
クリスティもなかなか辛らつですね(笑)

ということで、本格派としては、
ポアロがいかにジロー刑事の鼻を明かすかという楽しみもあります(^^;)

さて事件、
ルノー氏は深夜に押し入った二人組の男に連れ去られ、
自宅裏の造成中のゴルフ場で刺殺体で発見される。
南米で資産を築いたルノーの過去のトラブルをめぐる犯行かと思われるが、
二人目の死体発見から事件は二転三転。

殺された富豪は下着の上にサイズの合わないコートを着ていたり、
2時間も進んでいた腕時計の謎、鍵が開いていた玄関の謎、花壇の足跡の謎と、
ミステリー的な謎も満載。

読みの浅い読者を導くようにポアロがヘイスティングスにヒントを与えるんだけど、
それでもやっぱり犯人は予想できませんでした〜

ここからネタバレ


大きな組織の犯罪かと思いきや、解決してみるとふつうの事件。
恋愛のもつれと財産目当て。
マルトのキャラに騙されたけど、細かく読むと性格の悪さも書いてありますね。

ベラの手紙とルノー氏のキャラが合わないと思ったら、
やっぱり息子への手紙だった。
どう考えてもあれは若い娘の手紙だものね。

最初の疑問は、屋敷で寝ているところを暴漢に襲われたにしてはルノー夫人が落ち着き過ぎてるところ。
本当に襲われたなら、かなりの衝撃だと思うので。







 動く指

事件らしい事件は起こらず、ひたすら村の暮らしが語られるので、
高校時代に読んだ時は途中で投げ出した本。

でも今になって読むと、村人の心理描写が人間の本質を突いている上に、
またそれがミスディレクションとして作用しているところが見事で、引き込まれて読んでしまいました。


一応ミス・マープルものとなっていますが、ミス・マープルはほとんど登場しません。
完全に脇役です。

舞台はロンドン近郊の小さな村。
そこへロンドンから移住してきた若い兄妹が事件を推理する主役。
兄の怪我のリハビリのためにしばらく田舎暮らしをすることになり、
世話をするために妹も付いてきたわけですが、
慣れない村の暮らしを始めた二人のもとに届いたのが中傷の手紙。

その内容は、実は二人は兄妹ではないということ。
現代の感覚では、それがどうした?と思ってしまうけど、
当時は血縁関係のない若い男女が同居してることはスキャンダルなんですね。

ふたりは新参者に対する嫌がらせかと思い、無視していたのですが、
中傷の手紙は村のほとんどの人に送りつけられていたことがわかります。

良心のある人々は兄妹と同じように黙殺していたのですが、
手紙の内容を深刻に考える人間もいて、ついに自殺者が出てしまう。
そこで単なる嫌がらせは事件になり、手紙を送った人物探しが始まります。

その手紙にはいくつかの特徴があったわけですが、
もっとも不思議なことは中傷の内容が的外れなものばかりだということ。
指摘されているスキャンダルはどれもありえないことばかり。
だからそれまでも信じる人間はいなかったのですね。

村には当然、本当のスキャンダルの噂もあるのですが、
なぜかそういう人物には手紙は送られていない。

それこそが最大の謎であり、解決のヒントでもあった。

シンデレラストーリーもあります。



 「書斎の死体」

ミス・マープル長編2作目。
ただし発表年は1作目から12年後。

「ありふれた設定」を「意外な展開で」と書かれているように、
書斎で死体が発見されることで始まるミステリーが多かったようです。
そういえば古典ミステリーには書斎で死体が発見されるものがいろいろあったような気がするけど、今のところ1つしか思い出せません。

前作ではセント・メアリ・ミード村の牧師館の書斎で死体が発見された事件でしたが、
今回は村から2・5km離れた地方行政官の屋敷の書斎で、
若い女性の死体が発見される。
地方行政官の夫人がミス・マープルの友人だったことから、
今回もミス・マープルは事件の当初から関わることになった。

殺された女性は村の近くの観光地の大きなホテルでダンサーをしている女性。
地方行政官と若いダンサーというスキャンダラスな展開に、村ではうわさ話が広がる。
友人の夫の汚名を晴らすべく、ミス・マープルは当のホテルに滞在して解決に尽力。

現代人が読むと「書斎の死体」より「意外な展開」の方がありふれている感覚。
発表年代と現代との捜査方法のギャップで、勘違いをする可能性があります。
それでもさりげない伏線を追っていくと、解決にたどり着くことは可能だと思いますが。

ここからネタバレ


いわゆる「顔のない死体」もの。
でもこの設定はDNA鑑定などが進んだ現代では成り立たせるのが難しいパターンになりましたね。
(果敢に挑んだ最近の人気作もありますが、あれも無理が多い)
この時代は身体的特徴だけで判定してたのかな。
最大のヒントは「咬んだ爪」ですが、他にもヒントはいろいろ描かれていますね。

P35: 
お化粧して髪を結ってマニュキュアをした女っていうのは誰でもそっくりに見えるものだし

P53: 
パメラ・リーヴス、16歳、ガールガイドの大会に出たあと、昨夜から行方不明。

P81: 
ジョージーがゆっくりと言った。「変だわ、こんなとこにー」






◆ 「牧師館の殺人」 ミス・マープル最初の事件

ミス・マープルの長編初登場作品。

短編集の「火曜クラブ」はサロンでの謎解きということなので、
殺人事件の捜査に関わるのもこれが初めてということになりますね。

今でこそ誰でも探偵役になってしまうミステリー界だけど、
元警察官でもなく、身内が警察関係者ということもなく、社会的地位もない、
ただの老婦人が警官を差し置いて犯罪を解決するのは、考えれば斬新。

それが可能だったのは、事件が小さな田舎の村で起こったこと、
殺人が行われた場所が牧師館で、ミス・マープルの家の隣だったということですね。

牧師館で殺されたのは地元の治安判事。
ある問題を話し合うために牧師館を訪れたが、牧師が留守だったために
書斎で待っている間に、何者かに撃ち殺される。

牧師館の書斎に通じる裏口はミス・マープルの家の庭に面しているので、
ミス・マープルは、まさに事件の一部を目撃していたわけです。
探偵役が目撃者であり、証人であるわけですから、推理小説としてはフェアこの上ないです。
しかもそれが詮索好きの有閑婦人ですからね(笑)

「このセント・メアリ・ミードでは誰もが他人のごく私的なことまで知っている」
「いったいこの村の住人は、いつ食事をするんだろう?
なにひとつ見逃さないように、窓際に立ったまま食事を取っているに違いない」

そういう狭い社会の中でも一目置かれる存在がミス・マープル。
村で起こったことは何でも知っていて、そこから常に真相を言い当てる。
本当のことを言うから嫌われているとも書かれていますね。

でも、その思い込みこそが引っかけでもあるんですけどね。
牧師の発言がポイント。
彼女が自分の目で見たことを話している場合は、全面的に信頼が置けるでしょう、と。

その証言を元に推理していくと、真相にたどり着くということです。

以下はちょっとだけネタバレ。


たしかにハンドバッグを持たないで町へ出る女性はいないですね。

レストレンジ夫人の正体は推理できました。





 パディントン発4時50分

最初に読んだのは高校生の頃。
当時ダイアグラムミステリーにハマっていて、これもタイトルから時刻表トリックだと
思い込んで読んだら、お屋敷ものだったので、がっかりした記憶があります(^^;)

今、再読してみると、それなりに鉄道っぽい要素もあるし、面白い作品でした。


ミス・マープルの友人マギリカディ夫人は、ロンドンから帰る汽車の窓から、
並走する汽車の中で行われた殺人がを目撃。
車掌や駅長にも通報したが、汽車の中はもちろん沿線からも死体は発見されず、事件にはならなかった。

だがミス・マープルだけは事件の発生を信じた。
それはマギリカディ夫人が空想などするはずのない性格ということ知っていたから。

警察の捜査でも死体が発見されないとなれば、独自に死体を捜さねばならない。
ミス・マープルは、パディントン発4時50分の汽車と併走する可能性のある汽車を探し出し、自らその汽車に乗って可能性を追求。1つの結論に至る。


この導入部の意外性とミス・マープルの推理が見事。
2時間ドラマ風にいえば「疾走する汽車から死体が消えた」「死体なき殺人」。
いや違う、実は「家政婦は見た」(笑)
その後の展開は意外な方向へ進みます。

ミス・マープルが雇った特別有能な家政婦ルーシー・アイルズバロウ。
彼女が潜入したお屋敷と、そこでの死体探しとなります。

でもこの家政婦さんは有能な上に若くて美人。
素晴らしい料理に男どもが次々に陥落していくところも面白いです(笑)
こんなに有能な家政婦さんがいたらいいと思うけど、高給なのよね。

犯人探しである前に被害者探しなんですね。
被害者が特定できないのだから、犯人探しが難航するのは仕方ない
それは読む方も同じ。
あれこれ推理したけど、最後まで翻弄されました(^^;)



動機が遺産相続に関連するのはわかるけど、
そのことと一族の身元が特定できないような女性を殺すことが結びつかない。

考えれば兄弟たちは相続の権利はある。
後は相続する額が増えるか減るかということ。

そう考えると、相続の権利がない人物の犯行ということになるけど、
読んでいる時は、なかなかそこまで考え付かなかったです。



そういえば、この小説の中では甥レイモンドの次男が成人してるらしい。
つい先日「火曜クラブ」を読んだばかりなので、なんか不思議な感じです。


 「殺人は容易だ」

・・・だれにも疑われなければ。

ノンシリーズ。
小さな村で起こる連続殺人を引退した警察官が独自に捜査。


引退した元警官ルーク・フィッツウィリアムはロンドンへ向う列車の中で、
同席した老婦人から彼女の住む村で起こっている連続殺人事件の話を聞く。
彼女はロンドン警視庁へ殺人事件の告発に向かう途中だと言う。

孤独な老婦人の空想話だと思っていたルークだったが、
翌日の新聞でその老婦人が交通事故で亡くなったという記事を読む。
さらに彼女が次の被害者になると名を上げていた医師の死亡広告を見る。
老婦人の話に信憑性を感じたルークはその村に調査に赴く。


素人探偵ものなので、調査の点で行き届かないところがあって、もどかしいです。
その上、ルークの視点、思考だけで話が進むので見落としが多く、そこも苛立たしい 
さらには「本当に警察官だったのか?」と疑問を呈したくなるほど先入観にとらわやすい人で、
何でも信じてしまうところが不満。

まあ、そんな難点はいくつかありますが、
殺人が行われていることさえ気付かない連続殺人という事件は面白かったです。
証拠などは役に立たないので、心理ミステリーですね。

犯人は登場イメージでけっこうわかってしまうかも。


以下はネタバレ感想です。反転させて読んでください。


1939年発表の作品。日本の年号では昭和14年。
当時のロンドンの交通事情はわからないけど、
現代より車の所有台数も交通量も少ないのはたしかでしょう。
そこで交通事故があっても、警察はひき逃げで捜査を諦めてしまうんだろうか。

それに、たとえ車の数は少ないとはいえ、田舎道や住宅街と違って、
都会の交差点でたった一人を狙って轢き殺すというのも難しそうです。
どのルートを通るか、いつ通りかかるかわからないしね。
徒歩なら尾行も出来る。
そう考えると、車を所有する人間だけに捜査を絞るのはミスだと思うんですけどね。

石作りのパイナップルの下敷きになって死ぬというのは、
ユーモアなのかな?





 「ポケットにライ麦を」

ミス・マープルの代表作の1つといわれている作品で、
マザーグースの童謡に模した連続殺人事件。

事件が起こったのは、投資信託会社社長のお屋敷。

最初に殺されたのは屋敷の当主である社長。レックス・フォテスキュー。
食事に毒を仕込まれたらしい。
その社長の上着のポケットにライ麦が入っていたことがタイトルの由来。

容疑者は社長の一族と、屋敷に住む人々。

性格が間逆で仲の悪い長男と次男。
その嫁たち。こちらも対照的な二人で一方は地味な女、一方は貴族出身。
慈善事業に夢中で父親に批判的な娘。
その娘の恋人は誰が見ても財産目当てで、レックスに結婚を反対されている。

そして、これもお決まりの息子たちよりはるかに若い後妻。
その男友達。

有能だが、含みのある言動の家政婦。
何かに怯えるメイド。
素行のよくない執事。その妻の料理人。

もう役者が揃っているというより、揃いすぎというくらいです。
捜査を担当するニール警部の感想のように
「舞台装置は定石どおり」で「犯罪シーンとして完璧」。

童謡連続殺人といっても、そんなにおどろおどろしい話ではありません。
そこがマープルもののいいところでもあるけど。
あっさりして読みやすい作品です。

裏表紙のあらすじに「ミス・マープルが仕込んだ若いメイド」と書いてあったので、
スパイとして入り込ませていたのかと思ってしまいました

でも、洗濯物を取り込むのにわざわざコートを着て庭に出るお屋敷生活ってすごいですね。

以下はネタバレです。反転させて読んでね。



これはなんというか、入れ替わりのトリックですね。

くろつぐみ鉱山で見殺しにされたマッケンジーの遺族は誰なのか?
小間使いのグラディスの恋人であるバートは誰なのか?

マザーグースの見立ては犯行の順序を偽るための仕掛けということだけど、
父親を殺した時に継母とメイドの殺人の手筈まで考えていたんだろうか?
マッケンジーの遺族に嫌疑をかける意味もあるかもしれないけど、
動機にもなっている「くろつぐみ鉱山」に注目されるのはむしろマイナスだと思うけど。





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