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第31話 「部屋とふんどしとまわし」

 むしゃぶろうは以前に一回だけ結婚披露宴なるものに参列したことがある。
 当初、料理を前にしながら長々と他人の話を聞かなければならないその儀式に、いささか閉口気味だったむしゃぶろうであったが、宴が進むにつれ、親類代表やら友人代表やらの余興が始まり、徐々に酔っ払ったものも出てきてにぎやかになると、あながちそんな雰囲気も「悪くないな」と思うようになった。大の大人が酔っ払って千鳥足で歩いているのも面白かったし、普段大人しくて無口な人が「この時ばかりは」とご陽気にしているのも面白かった。
 そんななか、むしゃぶろうの心の奥深くに強く刻まれる出来事が起こる。
 新婦側の友人の女の子5、6名が高砂の前のマイクのところに出てきて歌を歌いだしたのだ。そのとき彼女たちの歌った歌が、平松愛理「部屋とふんどしとまわし」である。
 当時この曲はかなり世間で流行っていて、ミリオン以上セールスのあった大ヒット曲であった。
 十年余り前の曲なので中学生以下の読者には知らない人も多いと思うので、ここに歌詞を紹介しておこう。

 お願いがあるのよ 私の四股名になるあなた
 大事に思うならば ちゃんと聞いてほしい
 負け越して帰っても 三場所までは許すけど
 四場所続けたなら 廃業してちゃんこ屋になれ〜
 部屋とふんどしとまわし 愛するあなたのため
 毎日磨いていたいから
 優勝のパレードでは 一緒に車に乗せてね
 賜杯を抱きながら〜

 美しいコード進行せたぐずぐずの歌詞。そのアンバランスさが当時の若者、特に20代の女性にうけた。平松愛理渾身の一作である。(この歌手はその後飲み過ぎで肝硬変を患い、一時生死をさまよったが今年になって復活したようだ)
 ただここでむしゃぶろうに強烈な印象を与えたのは、その歌そのものではない。歌い終わったあと、彼女たちはその場で服を剥ぎ取るように脱ぐと、まわし一丁の姿になった。そして、
「は〜、どすこい、どすこい」
 と声をそろえて手を前に突き出しながら言うと、ふてぶてしくも堂々とした風体でその場から立ち去ったのだ。
 けつほぼ丸出しの後姿が幼いむしゃぶろうには衝撃的だった。

 そして、今、胸の膨らんだ辰五郎の半裸姿を前に、むしゃぶろうの脳裏には、そのときの女性たちのまわし姿がまざまざとよみがえったのであった。
「辰、まわしをつけろ!。女相撲に出るんだ!」

つづく


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