第9話 雲国斎のうんちく
「名前を変えるしかないね」。
「むしゃぶろうを変えるんですか?。それはまずいなあ。小説の題名にもなっちゃってるし」。
「う〜ん、そうか。それは困ったね。あ、そうだ。そう言えば」。
「先生、何か妙案がありますか?」。
「いや、いや、うんこしようと思ってたの忘れてた。だから、ちょっと待ってて」。
「なんだよ」。
雲国斎は厠に行ってしゃがみ込み、うんこを出し始めた。その臭いが待っているむしゃぶ ろうのほうにも漂ってきた。そのくさいの何の。
「いや、いやお待たせ」。
「先生のうんこ臭いすねえ。こっちまでぷんぷんにおって来ましたよ。名は体を表すとはこのことですねえ」。
「何を生意気なことを言う。だまらっしゃい!。人生の何たるか、名前の何たるかも知らん若造が偉そうに。10年早いわ、このたわけめ!」。
「す、すいません。お気に障りましたか?」。
「当たり前じゃ。良いか。わしはうんこを臭いと言われたから怒っているのではないぞ。それは誤解をしないように。臭いものは臭いと言って良いのだ。私は何も君の言論の自由を束縛しようとするものではない。表現の自由を奪おうと言うものではない。ただそのあとが気に食わん。『名は体を表す』だと?。ふざけんのもいい加減にしろ。お主は、わしの名が雲国斎だから、うんこが臭い。そう言いたいのじゃろ。そうだろ!。それが甘いと言うのだ。人生を舐めきっておるぞ。舐めたらあかんぜよ!。うんこを舐めたらあかんぜよ〜」。
「舐めてませんよそんなもん」。
「うんこ、うんこ。二言目にはうんこ。うんこ臭い。おめえらはいつもそればっかりだ。馬鹿にしやがって」。
どうやらこの平賀雲国斎と言う男、そうとう自分の名前にコンプレックスがあるようで。
「もし、私がロンドンに行ったとしたらどうだ」
「..........?」。
「お前ロンドンでも私がそう言われると思うか?。イギリス人に『名は体を表すですね』と言われるとでも思うのか。馬鹿者」。
「?」。
「お前、わしの言う事が分からんのか。全く頭の弱い子だ。じゃあ、分かりやすく例を挙げて説明しよう。私の友達に、ゲーリー・ウンコビッチと言う男がおった。彼はユーゴスラビア系のイギリス人だ。彼は日本に来て散々な目にあったと嘆いておった。『私はゲーリー・ウンコビッチです』と言って挨拶をすると、日本人は皆怪訝な顔付きをし、握手をしようと手を差し出すと、まるで汚いものにでも触るように指先でちょいとつまんで、そうそうに立ち去ろうとする。鼻をつまむものまでおったそうじゃ。『失礼この上ない!』と、彼は怒っておった。彼はれっきとした紳士であって、上流階級のブルジョアで、礼儀正しく清潔な男だ。本国イギリスでは高貴なお方なのだ。にもかかわらず日本ではうんこ扱いをされた。どう思う。この日本人の態度を正しいと思うか。これでも君は『名は体を表す』と言うか。名前はあくまでも他と区別するための道具であって、その本質や性格などとは関係ないと思わんかね」。
「はあ」。
「わかったか」。
「あ、はい」。
「いや、まだよく分かっていないようだ。では、有名人を引き合いに出そう。昔プロレスラーでボボ・ブラジルと言う人がいた。知ってるね」。
「ああ、知ってますよ。背の高い黒人のプロレスラーですよね。ココナットバットが得意な。全日本プロレスによく出てましたね」。
「そうそう。で、彼の有名エピソードなのだが、彼が九州に巡業に行った時の話なのだが、彼はリングネームを変えざるを得なかった」。
「ええ、その話、知ってます。ボボって九州では女の性器をさす言葉ですもんね。だから ボボ・ブラジルって関東で言えばマ〇コ・ブラジルってことになる。それじゃあまずいってんでミスター・ブラジルだかなんだか忘れたけど、とにかく名前を変えてリングに上がったんですよね」。
「そうだよ。かわいそうだと思わんかね。名前による差別だよ君。彼は女性の生殖器をリングネームにしたつもりはないわけだし、本人は自分の名前をそんな恥ずかしい名前だとは思っておらんわけだからね」。
「ああ、そうですね」。
「じゃあ、サザンオールスターズの『チャコの海岸物語』も関西のごく一部の地域で放送禁止になりかけたって話は知ってるか?」。
「いえ、それは初耳です」。
「チャコって言うのもある一部の地域では女性の生殖器または性行為をさす言葉なのだ。だから『心から好きだよチャコ〜』と歌うとそれはその地域の人には『心から好きだよマOコ〜』と歌っている事になるわけで、それはまずいと」。
「で、放送禁止ですか」。
「結局はならなかったみたいだけどね。まあ、要するに私がここで言いたいのは、言葉は地域によって意味が異なるから、名は体を表すと言うのは間違いなんだということじゃ」。
「でも、先生のうんこはやっぱり臭かったすよ」。
「だからうんこが臭いと言うのはあくまでも私の食生活、または私の体調によるものであって私の名前にはなんら関係はないのだ」。
「ああ、そうか。わかりました」。
「わかったか」。
「わかりました、.....けど、この話何ナノ?」。
「話は最後まで聞きなさい。まだ先きがあるんだから。次に、私に上半身がなかった頃の話をしよう」。
つづく
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