第7話 むしゃぶろう敗る
「今度は私が相手だ。かかってこい」。
ウサマビンラディンと名乗る男は服を脱ぎ、素っ裸になった。むしゃぶろうはその股間を見て少しびびった。
「勃起してる。でけえ〜!」。
ビンラディンのチンポコは長かったし太かった。むしゃぶろうは自分の腕と見比べた。明らかに相手の方が上だった。
「さあ、どうだ。おまえさんの得意の金玉つぶし。やれるもんならやってみな」。
ウサマビンラディンはチンポコの先をむしゃぶろうの顔の正面に向けながら言った。むしゃぶろうはそのチンポコが邪魔で、相手の金玉まで手が届かない。
「どうした、むしゃぶろう。攻め手がないか。ぼやぼやしてたらこっちから行くぜ」。
ビンラディンはその硬い、バットのような一物をむしゃぶろうの顔に突きたてた。それはむしゃぶろうの鼻と口の間にある縦皺の部分を的確にとらえた。虚を衝かれたむしゃぶろうはその場にもんどりうって倒れた。
冷たいような、生温かいような感覚が口元から顎の辺りに流れた。血だった。前歯が二本折れていた。
「くそお」。
むしゃぶろうは何とか立ち上がるが、そこに間髪を入れず二発目が飛んで来た。ボコッ。咄嗟にスウェイバックで避けようとしたが一瞬間にあわず、左の頬骨の辺りに食らってしまった。痛みが頬骨から口元に響き、くらっときた。そして次の瞬間、さらに強烈な一撃がむしゃぶろうの顔面を襲った。今度のは横打ちだ。まるで金属バットで横っ面をしこたまひっ叩たかれた格好になったむしゃぶろうは2メートルも後方へとすっ飛んでしまった。
「やばい、殺られる」。
朦朧とした意識の中でむしゃぶろうは現在の状況を冷静に判断しようとしていた。素早い反射神経を持つむしゃぶろうにとって、これまで相手にまともに殴られる事などなかったし、ましてや三発も立て続けに相手の攻撃を食らうなどとは思ってもみない、信じられない出来事だった。
「何故、俺はやられたんだ」。
むしゃぶろうは瞬時に分析を始めた。
「ビンラディンは今までの相手とは違う。何が違うんだ。何が.....。そうだ。攻撃方法だ。攻撃手段が人と違うのだ。チンポコで殴ってくるなんて」。
ビンラディンの攻撃は意外性という点でむしゃぶろうに勝っていた。逆にむしゃぶろうは攻撃方法を見破られていた。相手の目の前で自分の必殺技である金玉つぶしを何度も見せてしまっていたのだ。これでは勝てるはずはない。しかし、現時点では対等の立場であるといえよう。なぜなら、お互いが手内を見せ合ったのだ。ビンラディンが勝っていたのは意外性であり、その攻撃は言わば奇襲である。奇襲は二度は使えない。相手のチンポコが武器であると分かってしまえば対応策はあるはずだ。むしゃぶろうは考えた。まずはあのチンポコをかいくぐって相手の股間に潜り込む方法はないのか。それと、そのチンポコそのものを握り潰す事は出来ないか。
しかし、チンポコそのものを握り潰すと言うのは不可能であることはすぐに察しがついた。握るには太すぎるのだ。あの太さでは、むしゃぶろうの手は回りきらない。手が回らなければ握力は半分も出ないだろう。しかも硬い。顔面へ攻撃を受けた事でその硬さは十分身に染みた。
では、相手の攻撃をかいくぐる手だてはあるのか?。立て続けに繰り出されるビンラディンのチンポコ打ち。それを、既に大きなダメージを負ってしまった自分が、恐らく普段のスピードの半分も出ないだろう自分が、全てをかいくぐって相手の股間に潜り込む事など.....それも不可能だ。となれば.....。どうしよう。どうしたらいいんだ。結局、むしゃぶろうが出した結論は「逃げる」だった。
ダメージはあるものの幸い足にはまだ力が残っていた。多少フラついてはいるものの、走り出せば追いつけないはずだ。
「俺は足が速い。相手はあれほど大きなものを振り回しているのだから早くは走れないはず。逃げ切れる。体力さえ戻れば、次回は必ず勝てる。ここは勝負を次回に持ち越すべきだ。それがベストだ」。
むしゃぶろうは立ち上がると一目散に後方へ駆け出した。「待て」と言ってビンラディンは追ってはきたが、すぐにその声は遠くなっていった。案の定、あのデカイチンポコが邪魔で走れなかったのだ。
果たしてむしゃぶろうは絶体絶命のピンチをしのいだ。
流血はまだおさまらない。町に帰ったむしゃぶろうは、まず折れた二本の前歯を治すべく医者を探した。歩いていると、
「平賀雲国斎。万病怪我、治療承ります」。
と書いてある看板が目に留まった。 引き違いの木戸を開けると、そこに白髪で田辺一鶴のような無造作で伸びっぱなしの口髭をたくわえた老人が、人の名前の書いてある紙を見ながら何やら考え込んでいた。恐らく患者の処方箋でも見ながら、与える薬の事でも考えているのだろう。
「へえがうんこくさい先生はこちらか」。
むしゃぶろうは口元を手で押さえながら言った。老人は顔を上げ、キッとむしゃぶろうを睨み付けた。
「へえがうんこくさいではない。ひらがうんこくさいじゃ」。
「ああ、それは失礼しました。ひらが、ね。へがうんこ臭いじゃあまりにも様になりませんものねえ」。
「余計な事を言うな。あ、口からずいぶんと血を流しておるな。どうしたのじゃ」。
「いやいや、面目ない。ちょいと転びまして」。
「嘘をつくな。頬も、鼻面もまっかに腫れあがっとるじゃないか。喧嘩をしたか。しかもこっ酷くやられたようだな。お見受けしたところお主は相当な腕前。そのお主をこれほどまでに痛めつける相手とは、これまた相当の腕のものであるな」。
「腕と言うより、チンポコですわ」。
「なんだ?」。
「いや、いや、こっちの話。とにかく見ての通りでございます。治療をお願いしたい」。
「うん、その前に名はなんと申される?」。
「乳之崎むしゃぶろうと申します」。
「どんな字じゃ。漢字で書け」。
平賀雲国斎はむしゃぶろうに墨のついた筆を手渡し、半紙を差し出した。むしゃぶろうはそこに「乳之崎武者不郎」と書いた。
「うわぁ、字画多いな」。
「どうでもいいでしょ、そんな事」。
「どうでも良くはない。数えるのが大変だ」。
「数えなくてもいいっすよ、そんなもん。早く治療を」。
「まあ、まてまて。慌てるでない。ええ〜っと」。
平賀雲国債は字画を数え出した。
「何やってんですか」。
口から血の滴がポタリポタリと土間に落ちていた。
「あのね、ちょっと先生」。
「ああ、うるさいだまっとれ。わかんなくなっちゃうでしょ」。
「なにやってんの?」。
つづく
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