面白いことに、予想L-4の中心母等式から関数等式が出ることが判明した。
「ゼータ惑星」の「冥王星 その11」で、次のζ(s)における重大な関数等式
ζ(1-m)=π^(-m)・2^(1-m)・(m-1)!・cos(mπ/2)・ζ(m) -----@
m=2,4,6,8,・・・
を導いた。そのときは、次のAから導いたが、途中やや危ない橋をわたりつつも実験結果を援用して、なんとか
@を示すことができたのであるが、やや危なっかしい議論であったことは否めない。
(0 < x < 2π)
先に「ハレー彗星 その1」で繰り込み値の意味を明らかにしたおかげで、なぜ上が危なっかしい議論になって
しまったか、その理由がわかった。それはAをx=0の周りでテイラー展開してしまったことが原因していた。
Aは(0 < x < 2π)としているように、x=0の地点というのは、Aにおける特異点的ポイントであり、ギリギリの地点
なのである。その危険なところでテイラー展開したため、ローラン展開もどきの形を経験せねばならず、議論が複雑
化したのであった。
「ハレー彗星 その1」を経験したおかげで、@をもっと自然に導出できたのである。
その結果、初等的な実数範囲内の議論で、なぜ不思議な@が成立するかの理由がわかった。
読者にとってもこれは面白い結果と思う。
Aと同値の次のBを用いて示していく。(Aでx=π-tと変数変換するとBになる)
sin(x/2)/cos(x/2)=2(sinx - sin2x + sin3x - sin4x + ・・・) -----B
(-π < x < π)
このBを出発点としよう。
Bを元に考えれば、具体的なイメージをともなって、なぜ@でなければならないのかその真の理由がつかめる
のであるが、一言で言えば、
Bでの「左辺の部分分数展開の各項それぞれのテイラー展開を経由した左辺のテイラー展開式」と
「右辺のsinx,sin2x・・の各項それぞれのテイラー展開を経由した右辺のテイラー展開式」とを一致
させるという観点から、@の関数等式が成り立っているのであった。
ゼータは、こんな意図をもって@を成立させていたのである。
これは「ハレー彗星 その1」でわかったのとはまた別視点にたってζ(-1),ζ(-3),ζ(-5),・・・の繰り込み
の仕組みが明らかになったという意味で、面白い結果と考えられる。
次で具体的に示す。
それでは、関数等式を導出していく。ゼータ世界できわめて重要な関数等式を再度書いておこう。
ζ(1-m)=π^(-m)・2^(1-m)・(m-1)!・cos(mπ/2)・ζ(m) -----@
m=2,4,6,8,・・・
上で見たA,Bも書いておく(AとBは同値)。
今回はBから@を導く。まったく自然にBから@が導出されるのだが、その自然さに読者は驚かれるにちが
いない。
(0 < x < 2π)
sin(x/2)/cos(x/2)=2(sinx - sin2x + sin3x - sin4x + ・・・) -----B
(-π < x < π)
方針は、一つ上で述べたとおり、次を基本にすすめればよい。
Bの「左辺の部分分数展開の各項それぞれのテイラー展開を経由した左辺のテイラー展開式」と
「右辺のsinx,sin2x・・・の各項それぞれのテイラー展開を経由した右辺のテイラー展開式」とを一致さ
せるという観点で、進めれば自然に@に到達する。
まず左辺の部分分数展開から考えていく。
Bの左辺はもちろんtan(x/2)であるが、じつはtanxの部分分数展開は公式集にあり、例えば
「マグロウヒル数学公式・数表ハンドブック」(Murray R. Spiegel著、氏家勝巳訳、オーム社)によると、
tanxの部分分数展開は次の通りとなる。
tanx=8x{1/(π^2-4x^2) + 1/(9π^2-4x^2) + 1/(25π^2-4x^2) + ・・・ } -----C
Bをx=πt/2と変数変換しておこう。するとCは次のようになる。
tan(πt/2)=4t/π{1/(1-t^2) + 1/(9-t^2) + 1/(25-t^2) + 1/(49-t^2) + ・・・ } -----D
この右辺の各項それぞれを、1/(1-r)=1+r+r^2+・・・を用いて展開していくと
1/(1-t^2)=1 + t^2 + t^4 + t^6 + ・・・
1/(9-t^2)=1/3^2 + t^2/3^4 + t^4/3^6 + t^6/3^8 + ・・・
1/(25-t^2)=1/5^2 + t^2/5^4 + t^4/5^6 + t^6/5^8 + ・・・
1/(49-t^2)=1/7^2 + t^2/7^4 + t^4/7^6 + t^6/7^8 + ・・・
・
・
これらを縦に足していって、tの同次数の項をまとめていくと、次のようになる。
1/(1-t^2) + 1/(9-t^2) + 1/(25-t^2) + ・・・
=(1+1/3^2+1/5^2+1/7^2+・・・) + (1+1/3^4+1/5^4+1/7^4+・・・)t^2
+ (1+1/3^6+1/5^6+1/7^6+・・・)t^4 + (1+1/3^8+1/5^8+1/7^8+・・・)t^6 + ・・・ -----E
さて、ここで例えば t^2の項の(1+1/3^4+1/5^4+1/7^4+・・・)をとって考えれば、
1+1/3^4+1/5^4+1/7^4+・・・
=1+1/2^4+1/3^4+1/4^4+1/5^4+1/6^4+1/7^4+・・・ - (1/2^4+1/4^4+1/6^4+・・・)
=ζ(4) -1/2^4・(1+1/2^4+1/3^4+・・・)
=ζ(4) -1/2^4・ζ(4)
=(1-1/2^4)・ζ(4)
となる。他の項も同様に変形すれば、Eは次のようになる。
1/(1-t^2) + 1/(9-t^2) + 1/(25-t^2) + ・・・
=(1-1/2^2)ζ(2) + (1-1/2^4)ζ(4)t^2 + (1-1/2^6)ζ(6)t^4 + (1-1/2^8)ζ(8)t^6 + ・・・ -----F
よってFをDに代入して、
tan(πt/2)
=4t/π{(1-1/2^2)ζ(2) + (1-1/2^4)ζ(4)t^2 + (1-1/2^6)ζ(6)t^4 + (1-1/2^8)ζ(8)t^6 + ・・・} -----G
となる。
ここで、πt=xと変数変換して、まとめると次のようになる。
sin(x/2)/cos(x/2)
=2{(2-1/2)ζ(2)x/π^2 + (2-1/2^3)ζ(4)x^3/π^4 + (2-1/2^5)ζ(6)x^5/π^6 + (2-1/2^7)ζ(8)x^7/π^8 + ・・・}--H
次に、Bの右辺のsinx,sin2x・・・のテイラー展開を考えよう。
これは、「ハレー彗星 その1」の<リーマン・ゼータζ(s)の繰り込みの意味>で既にやったものをそのまま借用する。
すると、右辺は不思議なことに、次のようになるのであった。
sinx - sin2x + sin3x - sin4x + ・・・
=(1-2^2)ζ(-1)x - (1-2^4)ζ(-3)x^3/3! + (1-2^6)ζ(-5)x^5/5!- (1-2^8)ζ(-7)x^7/7!+・・・ -----I
これで準備は整った。
B、H、Iより、次が成り立つ。
(1-2^2)ζ(-1)x - (1-2^4)ζ(-3)x^3/3! + (1-2^6)ζ(-5)x^5/5!- (1-2^8)ζ(-7)x^7/7!+・・・
=(2-1/2)ζ(2)x/π^2 + (2-1/2^3)ζ(4)x^3/π^4 + (2-1/2^5)ζ(6)x^5/π^6 + (2-1/2^7)ζ(8)x^7/π^8 + ・・・
両辺で対応するx^nの同次数の項どうしを比較する。
例えば、xの項に着目して、
(1-2^2)ζ(-1)=(2-1/2)ζ(2)/π^2
よって、ζ(1-2)=π^(-2)・2^(1-2)・(2-1)!・cos(2π/2)・ζ(2)
となっている。
また、x^3の項に着目して、
-(1-2^4)ζ(-3)/3!= (2-1/2^3)ζ(4)/π^4
よって、ζ(1-4)=π^(-4)・2^(1-4)・(4-1)!・cos(4π/2)・ζ(4)
となっている。
また、x^5の項に着目して、
(1-2^6)ζ(-5)/5!=(2-1/2^5)ζ(6)/π^6
よって、ζ(1-6)=π^(-6)・2^(1-6)・(6-1)!・cos(6π/2)・ζ(6)
となっている。
・・・
これは、まさに@の関数等式(次式)そのものである。
ζ(1-m)=π^(-m)・2^(1-m)・(m-1)!・cos(mπ/2)・ζ(m) -----@
m=2,4,6,8,・・・
部分分数展開に着目することで、初等的に実数範囲内でこんなにも自然に関数等式が導出されてくる。
部分分数展開は2年前にも考察したものだが(-->「ゼータ関数のいくつかの点について その3」)、それがこんな
ふうにまた役立ってくれた。面白いものである。
ゼータの天使たちは、どこまでもどこまでも自然さを好むようである
まず、関数等式を書いておきたい。
ζ(1-m)=π^(-m)・2^(1-m)・(m-1)!・cos(mπ/2)・ζ(m) -----@
m=2,4,6,8,・・・
「ハレー彗星 その1」の<cos(x/2)/sin(x/2)=・・式からも、繰り込み値が自然に出る>と類似の道筋を
たどることにより、次の予想L-4での中心母等式からも、@の関数等式を自然に導出することに成功したので
以下示したい。
(0 < x < 2π)
一つ上で考察したHをまず書くと次のようになる。
sin(x/2)/cos(x/2)
=2{(2-1/2)ζ(2)x/π^2 + (2-1/2^3)ζ(4)x^3/π^4 + (2-1/2^5)ζ(6)x^5/π^6 + (2-1/2^7)ζ(8)x^7/π^8 + ・・・}
この式で、x=π-tと変数変換すると、次のようになる。
sin(π/2-t/2)/cos(π/2-t/2)
=2{(2-1/2)ζ(2)・(π-t)/π^2 + (2-1/2^3)ζ(4)・(π-t)^3/π^4 + (2-1/2^5)ζ(6)・(π-t)^5/π^6 + ・・・}
ここで、sin(π/2-t/2)=cos(t/2),cos(π/2-t/2)=sin(t/2)より、そしてt を xに戻して、
cos(x/2)/sin(x/2)
=2{(2-1/2)ζ(2)・(π-x)/π^2 + (2-1/2^3)ζ(4)・(π-x)^3/π^4 + (2-1/2^5)ζ(6)・(π-x)^5/π^6 + ・・・} ----B
となる。うまいことに左辺はAの左辺になっていることに着目されたい。
次に、「ハレー彗星 その1」の<cos(x/2)/sin(x/2)=・・式からも、繰り込み値が自然に出る>で既にやったものを
そのまま使用しよう。次である。
sinx + sin2x + sin3x + ・・・
=-(1-2^2)・ζ(-1)・(x-π) + (1-2^4)・ζ(-3)・(x-π)^3/3!- (1-2^6)・ζ(-5)・(x-π)^5/5!+・・・ -----C
x-πを-(π-x)として変形するとCは次のようになる。
sinx + sin2x + sin3x + ・・・
=(1-2^2)・ζ(-1)・(π-x) - (1-2^4)・ζ(-3)・(π-x)^3/3!+ (1-2^6)・ζ(-5)・(π-x)^5/5!-・・・ -----D
これで準備はOKだ。
A,B,Dより、次の式が成り立つ。
(1-2^2)・ζ(-1)・(π-x) - (1-2^4)・ζ(-3)・(π-x)^3/3!+ (1-2^6)・ζ(-5)・(π-x)^5/5!-・・・
=(2-1/2)ζ(2)・(π-x)/π^2 + (2-1/2^3)ζ(4)・(π-x)^3/π^4 + (2-1/2^5)ζ(6)・(π-x)^5/π^6 + ・・・
(x-π)^nの同次数の項どうしを比較していく。
まず(π-x)の項に着目して、
(1-2^2)・ζ(-1)=(2-1/2)ζ(2)/π^2
よって、ζ(1-2)=π^(-2)・2^(1-2)・(2-1)!・cos(2π/2)・ζ(2)
となっている。
次に、(π-x)^3の項に着目して、
- (1-2^4)・ζ(-3)/3!=(2-1/2^3)ζ(4)/π^4
よって、ζ(1-4)=π^(-4)・2^(1-4)・(4-1)!・cos(4π/2)・ζ(4)
となっている。
次に、(π-x)^5の項に着目して、
(1-2^6)・ζ(-5)/5!= (2-1/2^5)ζ(6)/π^6
よって、ζ(1-6)=π^(-6)・2^(1-6)・(6-1)!・cos(6π/2)・ζ(6)
となっている。
・・・
このように@の関数等式(次式)が次々と出てくるのである。
ζ(1-m)=π^(-m)・2^(1-m)・(m-1)!・cos(mπ/2)・ζ(m) -----@
m=2,4,6,8,・・・
Aの中心母等式からも、ゼータの関数等式が自然に出てきた。
(0 < x < 2π)
A式は、ゼータ世界の中心を流れる大河の一つである。
シンプルで美しい式になんと豊な内容がつまっていることか・・
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