草原の覇者オー・タンの支配者イルクーツク王の命じるままに、王女デイ・アナは森林の王国ラフリエルへと嫁ぐ。わずか十二才で、偽りと裏切りの婚礼に赴く彼女にはたった一つどうしても譲れない決意があった。デイ・アナは、草原を渡る風の巫女。その勤めは草原に生まれ草原に育った彼女にとって決して捨ることが出来ないが故、誓約を果たすために彼女は己の命を懸ける。後にラフリエル王国中興の祖となるレジナルド王に『最良の妻にして、最愛の風』と言わしめた風の王妃ディアナ、悲壮な覚悟を胸に自らを待ち受ける運命に立ち向かう。

序   1   2   3

ザタール帝国で最も有名な精霊使い、その正体は不明であった。噂だけが国内を流れ、その姿を見た者は一人も居ない、しかしついに時は来た。奴隷の娘として生まれ、闇の精霊王に愛されたメリーナは、絢爛華麗な姿とは裏腹なザタール宮廷社交界へ最初の一歩を踏み出す。師匠セルヴィアス、ザタール帝国三皇子、護衛士グラン、そして精霊王ジル・クファード。メリーナを取り巻くしがらみの糸、出生秘密。今、メリーナの人生が幕を開ける。

グライアス王国最北西ザルツ辺境伯爵領。王国よりも古い歴史を持ち、神々の末裔を名のるザルツ辺境伯が嫡子アリサ・ゴドウィン、その初陣の時が遂にやってきた。神聖ヘーダ帝国との戦は既に１０年の長きに亘る膠着状態に陥り、ザルツ辺境伯ファシク・ゴドウィンの負傷の報はグライアス国王に決断させた。ザルツ領のみに存在する狗兵団出陣の勅命を発し、アリサはゴドウィン家当主としてこの命を受け、ザルツ・リカオン二千頭の狗兵団を率いて戦場へと赴いてゆく。マリアリーサ・ゴドウィン１７の春、緋色の髪をなびかせゴドウィンが翔る。