━━━━━━ 螺旋を描き永遠に堕ちてゆく・・・そして ━━━━━━
目覚めはいつも唐突にやってくる、善し悪しで言うなら確実に悪いほうが多い。しかし夢も現もそれ程の差が有るわけでなく、堕ち続けてゆくだけならばいっそ目覚めなければ良いと思う。そう口にしたら、昔馴染みの連れは一瞬の驚愕の後で心底嫌そうな顔をして
「貴様にそんなことを言う権利は無い」
と断言された。
忍の癖に妙に常識人を気取るおかしなやつだ。最も本人の申請ほど常識の持ち合わせがある筈もなく、所詮忍は忍誰もが歪んだり欠けたりしている
。
・・・・・ダカラナノカモシレナイ
・・・・・
忍らしくない忍・・・極普通の中忍、というよりもよく中忍選抜試験に合格できたと呆れる忍。はっきり言って今年自分が受け持つことになった下忍のガキどもよりも頼り無い感じがした。
なのにその中忍はアカデミーの教師であり部下となったガキどもの元担任だという、それこそ出来の悪い夢じゃないかと大笑いすることが出来た。
三代目のクソじじいが、手を変え品を変え
今まで送り込んできた下忍達の中で漸くましだと言えるガキども、そのガキどもを指導して来たアカデミー教師があの ”ウミノ イルカ” だと思い出したのは当の本人を
完璧に怒らせた後だった。
「暇だな、思いっきり暇だ」
でかくて鬱陶しいアスマが椅子の脚を軋ませながら呟いた。同意するのにやぶさかではないが、さりとて反論するのも莫迦くさい。俺は自分より背丈の大きなやつは嫌いだ。
「仕方がないでしょうが・・・」
アスマの呟きに投げ遣りに答えたのは新顔の女上忍紅。くの一の癖にあまり女を感じさせない珍しいやつだ。俺に色目を使ったりしないところがいい。
「・・・・・んー」
何か答えるのも面倒くさくて生返事をしたら、
「って、おい、それだけか、カカシ?」
「・・んー・・飽きたな、超メンド」
俺の愛読書『イチャイチャパラダイス』をめくりながら答えてやると、アスマのやつは器用にも椅子の上で扱けていた。
「お・・おまえってやつは、少しは心配しろよぉ」
「心配・・・・ふ〜ん心配ね。そんな事してもね・・・」
「その間はナンダ、その間は」
「いい加減にしなさいよ、アスマ。それ何回目だと思ってるの?カカシじゃなくても聞き飽きたわよ!」
ひょっとしなくても木の葉の里で一番のオトコマエな紅はすっぱりとアスマの言い掛かりを切り捨てた。中忍選抜試験に、教え子兼部下のガキどもを送り出した俺達は確かに暇だった。
部下がいなけりゃ任務もない
、まあ、全く無いと言う訳でもないが今更シンドイ仕事を引き受けるのもそれこそウザい。下忍を受け持てとクソじじいの煩い御達しに従ってやったのだから、これ以上めんどくさい任務だとか内蔵吐き捲くりの裏任務も御免被りたい。お陰で暇をもてあました挙句いつもの休憩所で三上忍が面つき合わせてガキどもの心配をして、麗しい師弟愛振りを試みたのはその
せいかもしれない。
もっとも、俺自身はガキどもの心配なんかはしていない。
あくまで付き合いだ。波の国での任務の後ガキどもはそれなりに進歩を見せている。サスケにしろサクラにしろ何より意外性1のナルトにしろ余程まずい事でもない限り失敗するとは考えられない。見込みがあると思うから鍛えもしたし、それなりにこちらの期待に答えもする。
特にナルトなんかはこれから先も更に化け続けそうな塩梅だし。鬱陶しい年寄り共が
くだらない心配するよりあれは大物だろう。
アスマの所と紅の所がどうだろうと、そんなことは俺の知ったことじゃない。
つまり、アスマの御託は杞憂ってやつだろう。第一それ程まめに面倒を見ていた節は見られないのに、こんな時だけ心配して見せようとは、本当に器用なやつだと思う。多分振りなんだろうが、
俺達三人の中で一番まともにガキどもを案じているのは紅だろうし、それ言うならイルカ先生のほうが余程ガキ共の心配をしているはすだ。信じられない事に俺達三人の受け持ち全部が、あの先生の教え子なのだからアスマなんかの比じゃない。
9人分だ。
上忍たちばかりの中でただ一人はっきりと心配を口にした中忍先生。
上忍たちばかりの中でただ一人いた中忍、その意味するところ。
在り来りで平凡な中忍などではありえない。わざと怒らせて見れば、鋼針の如き鋭い気、頼り無いだなんてとんでもない別の貌を隠し持つ忍。二つの貌の狭間でどう折り合いをつけたのか。
あれ以来、あの中忍先生ともう一つの面影が頭の中で永久運動でもしている様な気がしてならない。
・・・・・ダカラナノカモシレナイ・・・・・
「おい、カカシ。てめえ人の話を聞いてんのか?ああ」
「・・・・んー、なんか言ったか」
「いい加減その本から離れろ!いいか、俺が聞きたいのは何だってあの天然先生を挑発したんだって事だ」
なにやら妙に興奮してるアスマにちらりと目をやろうとしたら、意外にも紅の視線とかち合った。どうやら木偶の坊を焚きつけたのは此方の方だ。新任上忍なだけに情報収集は怠りたくないと言う訳か、やはり麗しい師弟愛は幻想か蜃気楼と言うところが妥当だろう。
「・・・天然ね〜・・・んー、お前本当にそう思ってるわけね・・・」
「ぁんだと」
「あら、違うのかしら」
やっぱりアスマと紅じゃ微妙な意見の相違があるみたいだ。
「・・・アスマ、もーちっと頭使ったほうがいーぞー・・・んームリか・・・」
「てっめぇ」
「やめなさいって、アスマ」
胸倉目掛けて伸びてくるアスマの手を難なくやり過ごせば、紅の制止が入る。
「何か知ってるの、カカシ」
結構剣呑な眼つきが物騒な紅にどうしたものかと考えたが、まあこいつなら話した所で害はない。くの一らしくないくの一だし、どこまで食い込んでいるのかも少々気になる。
「・・・単なる中忍に、Aランクの任務はないでしょ?」
「「あのイルカ先生が??」」
「ネタ元は勘弁ね。・・・ある意味意外性のある人だと思うな〜」
どうやら二人とも言葉もないほどに驚いている様だが、あの狐憑きナルトの担任を任されていただけでも只の中忍だなんていい草が通用するなら、里の連中も大概にお目出度い。
九尾の狐を封じるだけでどれだけの損害が出たのかを考えれば、そもそもナルトがアカデミー入りを果たしたことも異様さ炸裂だ。
これまでナルトが里人から受けてきた差別や批判から判断すると、四代目にしても三代目にしても火影の名を継ぐ者が、手ぬるく甘い判断をする筈もない。
何かの作為があって当然、そのど真ん中にいてイルカ先生が只の中忍でございって言うのは屁理屈にしか聞こえない。第一俺自身がその作為の一端なのだからイルカ先生もご同様ってなもんだろう。
ナルトを忍びとして育て上げるならば、そこには里としての判断があり決定がある。つまり、イルカ先生が何の事情も知らされていない訳がなく、知って尚且つナルトの面倒を見てきたなら、単なる天然で済む訳がない。幾ら天然であろうと二親を目の前で殺されては怨み辛みの一つ位は在った筈
。
それでもナルトを指導教育し、里の連中からの嫌がらせを向こうに廻し本気でナルトの行く末を案じる男が只の天然さん、熱血教師、万年中忍であるだろうか?答えは否だ。
何より俺の知っている"ウミノ イルカ"と"イルカ先生"の差を俺自身の記憶が強く否定している。人が良いのも善良なのも本物ではあるけれど、只の中忍如きにAランクの任務は務まらない。ならば俺の記憶に残る"ウミノ イルカ"は何者だったのか。
・・・・・ダカラナノカモシレナイ・・・・・
「だから言ったでしょ、あの人は俺が惚れた人だって・・・」
「「カカシっー!!」」
「その話はやめろ!!!」
「冗談じゃなかったの?!」
俺の呟きに反応して驚愕の金縛りが解けたのか、またもや意見が微妙に食い違う紅とアスマが雄叫びを上げた。
恐らく"ウミノ イルカ"は中忍であり続ける事を自ら選んだのだろう。
・・・・・ダカラナノカモシレナイ・・・・・
夜叉の貌と菩薩の貌。
俺の内側で囁く声が聞こえる・・・・
ミタイ・・キキタイ・・カンジタイ・・・・・・ タイ・・・・
己が歪みきっている事など当に判っている。エリートだの呼ばれても所詮は忍、殺し続けるだけが存在の理由。国の威信を懸けた道具であることに狂わずにいるのは遠い約束がひとつ。
絶望を味わった者と味あわせた者、二人ながらに歪む事のなさが俺の内側で、囁きこだまする、虚ろの孔で響き続ける。
何故、あの二人は師弟なのか・・・・
何故"ウミノ イルカ"は中忍であり続ける事を自ら選んだのだろう。
何故・・・・・ダカラナノカモシレナイ・・・・・
菩薩の貌のイルカ先生、夜叉の貌の"ウミノ イルカ"
今一度、夜叉の"ウミノ イルカ"に・・・・・
ナルトパロ初作品、こうしてみると裏への深読みが自己増殖
どうやら私の頭の中ではイルカ先生ってば正体不明
なんでだろ・・・・
中忍選抜試験発表直後の妄想でした |