第五日
スタンドの操作方法について

「……の」

 よく晴れたある日、用も終わり特に何もすることが無くなった縫希(ぬうの)はいきつけの喫茶店に行くことにした。喫茶店のドアに手をかけたところで自分の名前を呼ばれた気がして周囲を見回したが、特に見知った人物がいなかったのでもう1度ドアに手をかけた。
 ポンッ、と背後から肩を叩かれて縫希は口から心臓が飛び出す勢いで驚いた。

「よう、縫希!暇なのか?季子(きこ)ちゃんはどうした?」

「…吾人(あーと)か。驚かすな」

 アートという名前のわりにはガッチリした体形をしている男が立っていた。身長は縫希より頭一つ高い。白いTシャツにやたらポケットがついている短パンをはいている。人なつっこい笑顔が特徴的である。立ち話も何なので、そのままイッショに喫茶店に入った。

「ところで季子ちゃんは今日はイッショじゃないの?」

 アイスコーヒーをそれぞれ注文したあと、吾人は再び季子のことを聞いてきた。吾人は縫希が1人の時には季子の事を必ず質問する。縫希も最初は苦笑いで対応していたが、今ではなれっこになってしまった。

「昨日、また車をぶつけて家で落ち込んでいるよ」

「確か3ヶ月前にも車をぶつけていなかったっけ?」

 アイスコーヒーを運んできたウェイターに吾人はきのこスパゲッティを追加注文した。 縫希はグラスに口をつけて、コーヒーを一口飲んだ。

「季子は運動神経は悪くないはずなんだけど、車の運転は何故かダメなんだよ。そのうち目的地まで自動に連れて行ってくれる車ができるから、それまで運転するのはよせって言っているんだけどね」

「自動操縦する車に乗ったら、運転する必要は無いだろう」もっともなことを言って吾人もアイスコーヒーに口をつけた。「ところで、おまえのジョジョの研究の中で『自動操縦』ってやつが有ったよな」

 いきなりジョジョの話題になり、縫希は少々面食らったがとりあえ頷いた。

「あの中でもう1つ『命令遂行』っていうのがあるがどう違うんだかよく解からないんだが」

「『自動操縦』と『命令遂行』かい。そうだな、そもそも……『自動操縦』は単に操作方法だけを表しているんじゃないんだよ。」縫希は喫茶店の天井の白さを一瞥(いちべつ)して話を続けた。「『自動操縦』を単に言葉だけの意味でとらえるならば、『命令遂行』も本体が操作しないのだから自動操縦といえる。だが…吾人、ジョジョで『自動操縦』といったら何を思い浮かべる?」

「『自動操縦』か?」逆に質問されて少しビックリしながら吾人は答える。「そうだな、「本体がダメージを受けない」とか「遠距離に行けるがパワーが強い」ってところかな」

「なぜ『自動操縦』だと「ダメージを受けず」、「遠距離でもパワーが落ちない」んだい?」

「う〜ん…と、確か『効果』がどうとかって話じゃなかったか?」

「そう、スタンド定理の3番目において「射程距離とパワーは反比例する、ただし『効果』はこの限りではない」とある。自動操縦型スタンドはつまりこの『能力効果』なんだ。例を挙げるなら、ゴールド・エクスペリエンスの創った生物が遠距離に行ってもそのパワーを損なわないことと全く同じなんだ。このことはJAGにもハッキリ書いてあるし、ちゃんと筋は通っている」

「でもよぅ、グー・グー・ドールズはグェスが離れたら徐倫は大きくなっただろ、これは『能力効果』のパワーが落ちたからじゃないのか?」

 吾人は氷をボリボリ食べ始めた。

「僕の考えた結論を言うと、それは『能力効果』が落ちたのではなく『能力射程』から外れてしまったからだ」縫希は左の人差し指でテーブルの上に2、3回クルクルと輪を描いた。「ちなみに、僕はスタンド自体の射程距離を『射程距離』、能力の射程距離を『能力射程』として分けている。JAGの射程距離はその2つをイッショにして考えているんだが」

「でも『能力射程』から外れたならすぐにパッと大きくなるんじゃないのか」

「う〜ん、さっき言った『能力射程』から外れるというのは正確ではないんだよ。正確には『能力射程』の限界に近づいたからだと思う。僕の考え方で『能力射程』は、まず能力が充分に発揮できる範囲がある。そして、それ以上の射程をとると『能力効果』は減少を始める、それがグー・グー・ドールズにおける身体が大きくなる距離だ。そして、そのまま『能力効果』が零(ゼロ)になるまで減少し続ける。この『効果』が減少する距離…便宜的に『ケイジス』と呼ぶが…ケイジスはスタンド個々によると思う。射程外に出ると即座に『効果』が解除されてしまうスタンドはケイジスが零または微小にしかないと考えることができる」

「リトル・フィートとかグレイトフル・デッドとかはすぐに能力が解除されていたな…そういえば」

「いや、吾人が言っているのは本体が倒された瞬間のことだろう。急激に能力が解除されたのはケイジスの問題ではなく、本体が『効果』を持続できない位のダメージを負ったからだ。グレイトフル・デッドのケイジスは描かれていない」

バステト女神とかエコーズ・ACT3は近づくと能力効果―磁力や重力―が上がるけど、それは能力射程じたいがケイジスということなのか?」

「どうかなぁ〜、僕は「近づくと能力効果が上がる」のは制約だと思うんだよ。逆に離れれば効果が落ちるだろ。それに近距離パワー型でもない彼らのスタンドが敵に接近するのは危険であり、大きなリスクのはずだから」

「きのこスパはこっちだよ」

 注文の品を運んできたウェイトレスに声をかける吾人。自然と一拍を置いたかたちになった。

「話を戻すと、『自動操縦』というのはスタンド能力による『効果』だということなんだよ。そして、『命令遂行』とはそれに対してスタンド自体が遠距離に行くタイプの事だ」

「スタンド自体が遠距離に行く?ならそれは『遠隔操作』だろ」

 吾人がフォークを右手に持ちながら質問をする。

「『遠隔操作』はスタンドが遠方に行っても本体はスタンドの状況が解かる。だが『命令遂行』はその状況認知ができないことが『遠隔操作』との一番大きい違いだ。ざっと例を挙げると、さっきも出たグー・グー・ドールズ、ハーヴェストマリリン・マンソン…」

「なるほどな。遠くへ行ってその状況が解かるのは『遠隔操作』、状況が解からないがパワーが大きいのが『自動操縦』、そして『命令遂行』が……」吾人がパスタを口に運んだため、少し間があいた。「ところで『命令遂行』って長所あるのか?」

「長所かい…。『命令遂行』というのは元々近距離操作型である群体型スタンドが、1体1体ではパワーが低いために遠距離に行けることが起源なんだ。だからどっちかというと遠隔操作タイプではなく、近距離操作なのに遠くへ行けるというとらえ方が正しいんじゃないのかな。ちなみに操作方法としての長所は無い…かな」

「ないだぁ〜〜〜」吾人はそばに近づいたウェイトレスにカルボナーラ・パスタを頼んだ。「じゃあ『命令遂行』とは何なんだ?存在意義はあるのか?」

「ハハ…、珍しく難しい言葉を使うじゃないか。もちろんあるさ。「本体がダメージを受けない」等のようにイメージが固まりつつある『自動操縦』と比べてより大きな発展性を持っているからさ」縫希は肘をついて両手を組んだ。「例えば『自動操縦』はどうしても戦闘的になってしまうが『命令遂行』ではより頭脳戦になる傾向になる。マリリン・マンソン戦みたいにね」

「ふ〜む、複雑なんだなぁ」

「まぁ、あくまで僕の考えだ。他にはスタンドを近距離でしか操作できない『近距離操作型』、自分に特別な力があることを自覚せず能力を行使する『無意識型』、後は『独立/暴走型』。『独立/暴走型』とは「スタンドが本体の意思とは無関係に活動する、またはスタンドが自分を生み出した本体の意思及び肉体から完全に離れて活動するタイプ」のスタンドだ」

「うんっ?つまり本体の言う事を聞かないスタンドのことだろう」

「まあ、そうなんだ。だがそれには2種類あると考えている。まず、本体から活動するエネルギーはもらっているが、本体の思うとおりには全く活動しないスタンド。例としては、トト神ローリング・ストーンがいる。このタイプのスタンドは本体が死亡した場合はイッショに消滅すると考えられる。そしてこちらの方が一般的だが、完全に本体と絆を断ってしまったスタンドだ。チープ・トリックチャリオッツ・レクイエム等だね」

「……考え出すと面倒だな」

「そうやって考えるのが楽しいのさ」
 とは言いつつも縫希は考えることを止めることにした。吾人の食欲に刺激されて、自分も食べ物を注文する事を縫希は決意したからだ。
「とりあえず、クリームパフェかな」

 縫希は甘いものが大好きであった。




(第5日 終)