シャッフルロマンス 6
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 月があたりを照らす。
「……貴方に、私は屈服など致しません。トランプ王国、ブリッジ公国も同様です」
 あごを持ち上げられているハート姫は気丈にも皇帝に向かってそう言い放つ。
 初めて会ったときの怯えはすでに消えていたが、心の中は不安でいっぱいである。
「その強情さがどこまで持つかな」
「貴方は、力ですべてを押さえ込もうとする。それでは恐怖しか生まれないことをご存知ですか?」
「知っている。知っていてやっているのだよ、ハート姫。弱いものなのだよ、人間とは」
 そう言って、皇帝ジョーカーはハート姫を抱き寄せる。
「は、離して、離して下さい」
「そうはいかないのだよ。お前は自分の価値を今一つ理解していないらしい」
 不思議そうにハート姫は皇帝を見上げる。
「どういう意味ですか?それは」
「ブリッジ公国の姫を手に入れたものは巨万の富をわが物に出来る。そう伝えられているのだよ。不思議だとは思わぬか?力を入れたら手折れてしまいそうな小国な癖に、豊富な好物資源や豊穰な土が小さな国にあるのを。それは全てハート姫、お前のおかげなんだよ」
「……ブリッジ公国の姫は…私だけではございません」
「だが、ダイヤは魔道の力を持っている。魔道ではない力を持つ姫はお前しかいないのだよ。まぁ、ダイヤも役に立ってくれた。私はお前を手にいれるために、ダイヤを使ったのだからな」
「………ひどい………」
「酷い?酷いかな?彼女はお前のことを恨んでいた。恨まれていたということを知っていても酷いと言えるのかな」
「酷い………」
 ハート姫は皇帝をはねのけようとしながら泣く。
 しかし、やはり女性の身、体格の違う男にはかなうはずもなく、抱きすくめられてしまう。
「離して下さい……」
 か細い声が、腕の中から聞こえる。
「そういうわけにもいかないのだよ。ハート姫。
 ハート姫の顔を無理やり上げ、皇帝はその瞳をじっと見つめる。
「………やめて下さい」
「そういうわけにはいかない……」
 と、皇帝が姫に接吻をしようとしたその時だった。
「ハート姫!!!!!」
「、スペイド王子」
 何かの力が働いたのかハート姫は皇帝の束縛から逃れスペイド王子の下に駆け寄る。
 そんな姫を抱き寄せ、王子はいった。
「姫、ご無事でしたか?遅くなって申し訳ありません」
「王子が助けてくれるとずっと信じて待っていました。」
 ハート姫を抱きながらスペイド王子は皇帝ジョーカーに向かって言い放つ。
「皇帝ジョーカー、あなたにハート姫を渡すわけにはいかない」
「ほう、威勢がいいな、一介の騎士としてはなかなかの威勢ではないか?おっと失礼、一介の騎士ではなくトランプ王国の王子スペイドだったな」
「皇帝陛下、ハート姫を返していただきます。彼の姫はわたしのものだ!!」
 そう言ってスペイド王子はハート姫を背にかばう。
「ままごとのようなことをよく言えるな。王子スペイドよ。彼の姫にどのくらいの力があるのか知っておろう。おぬしにその力を使えるとは思えん」
「私は姫の力を使おうとは思っていない。姫のことを道具としか思っていないあなたになんかハート姫は渡せない」
「甘い…な。王子、政治家には向いていないぞ」
「そうだとしても、皇帝陛下、人を力で支配しようとする貴方のような人にはなりたいとは思っていない。ハート姫は返していただきます」
 そう言って、スペイド王子はエースにもらった魔法を使う。
 その瞬間、王子と姫はその場から消えてしまったのである。
「……そんなばかな………」
『皇帝陛下、すべての理は貴方の味方じゃないのよ』
 そう言った紅き魔女の言葉を皇帝は思い出していた。




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