シャッフルロマンス 2
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 そんなある日のことハート姫はわずかな供をつれ森へとやって来た。
 その森はブリッジ公国の人々の間では『憩いの森』と呼ばれ、明るい日差しが木々の間を走る気持ちのいい森であった。
「姫、あまり我々のそばから離れないで下さい。不審な輩がこの森を徘徊しているとのうわさがございます」
「分りました。気をつけましょう」
 ハート姫は側近の言葉にうなずく。
 その時だった!!!
 ずきんをかぶった10数名の男達が彼女達の前に立ちはだかったのである。
「何者だ!!ブリッジ公国のハート姫と知っての所業か?」
「もちろん。我々は姫を連れてこいとさるお方より命令されている」
 そう言ってずきんをかぶった男達は襲いかかってきた。
 多勢に無勢、負けは見えていたその時だった。
 はらりはらりと黒い羽が空からおりてくる。
 その刹那、全身を黒に統一した騎士が一向…姫…を守るかのように舞い降りたのだ。
「な、何奴!!!!!」
 ずきんをかぶった男達が剣を構える隙も与えず、騎士は男達を倒していく。
 そして、いつの間に駆けつけたのか太刀を携えた男も騎士の加勢をしていた。
「に、逃げろウ!!」
「お、覚えていやがれ!!!」
 ずきんをかぶった男達はそう捨てぜりふをはきながら退散していく。
「あ、ありがとうございます。お名前を教えていただけませんか?お礼をしたいのですが」
 ハート姫の言葉に太刀を持った男が言う。
「オレの名前はフラッシュや、こっちのくろーい奴はそやな、黒衣の騎士とでもよんだってや。そや、ねーちゃんの名前はなんていうんや?身なりからしてええとこのこやって言うの分るンやけど…」
「あ、申し訳ありません。私はこのブリッジ公国の姫ハートと申します」
「ねーちゃんがあのハート姫?ほぉ。気いつけや、ねーちゃん帝国に狙われてんで…」
 フラッシュと言う騎士の言葉にハート姫は驚く。
「どういうことですか???それは」
「あんたの供の者が知ってんと違う?ともかく気いつけたほうがええで」
 そう言ってフラッシュと黒衣の騎士は森の奥へと消えていった。
「どういうこと?ここはブリッジ公国の領地、帝国がやすやすと入ることは出来ないのでは?」
「ハイ、実は姫の耳にはお入れしたくはなかったのですが……ジョーカー皇帝が…姫を手にいれたがっているとか……。あくまでもうわさでしかありません。しかし、モーリス国王陛下そしてエリー王妃はその事を心配しておいでです。姫の御身を守るためにトランプ王国の王子との縁談をまとめておられるのです」
 突然の話にハート姫は驚く。
「なんとそのようなことが…………。戻ったら父王に伝えてもらえませんか?トランプ王国との王子との縁談…お受けすると」
「姫……かしこまりました」
 ハート姫は空を見上げる…。
「これで、良い。これで………白き魔法使い、私は貴方の言葉を信じます。スペイド……いつか貴方に……」

「姫、承諾してくれたか」
「ハイ、父様にはご心配を掛けて申し訳ありませんでした」
 ハート姫の静かな物言いにモーリス王は気になりはしたが、国王としての型通りの言い方しか出来なかった。
 部屋に戻ると姉姫のダイヤ姫がハート姫の帰りを待っていた。
「あら、ハート姫。貴女は本当にトランプ王国に行くのね」
「ダイヤ姉様、その方が……父様……ひいてはブリッジ公国のため。もとより承知しておりました」
「……ハート姫…、白き魔法使い…に逢った?」
 突然の姉の言葉にハート姫は驚く。
「えぇ」
「そう……」
「姉様?」
 姉の様子をハート姫は訝しげに見るが何も怪しい面は彼女からは見えなかった。
 だいたい、姉が怪しく感じたのは今日が初めてでは無い。
 もう、物心ついたときから姉の様子はおかしかった。
 それはハート姫しか感じないことではあったのだが。
「私は、貴女は帝国に行ったほうが良いと思っていたけれど…」
「姉様!どうして姉様は帝国が憎くはないのですか?」
「憎い?どうして?帝国は私達に何かした?」
「……帝国に蹂躙された近隣諸国の様子を姉様だってご存知でしょう?それを……」
「そうね……クス」
 そう笑ってダイヤ姫はハート姫の部屋から出ていった。
 姉の様子が気になる。
 だが、ハート姫は心のどこかで気がついていたのかも知れない。
 彼女の思い人は自分の思い人と同じ人だということを……。

 トランプ王国のとある一室には二組の男女が集まっていた。
「で、言ってきたんかあのねーちゃんに」
 一人はこの前黒衣の騎士とともに一緒にいた騎士フラッシュ。
「フラッシュ、あのねーちゃんって言うのは誰のこと?」
 一人はフラッシュの幼なじみで聖道士のクローバー。
「んなもん決まっとるやないか」
「決まってるって言われてもアタシ分ってへんのやけど」
「まぁまぁ、二人ともケンカしないでぇ。言ってきたよハート姫に」
 一人はこの前ハート姫の前に現れた青き助手クィン。
「あぁ、ハート姫ねぇ。元気やってん?」
「あんまり、元気ないね、下手したら自殺しそうな勢いだったけどな」
 最後の一人は青き助手とともに現れた白き魔法使いエースだった。
「でも、励ましてきたんやろ?」
「あぁ、でもどこまで持つか……そこが問題なんだけどな」
 フラッシュの言葉にそう答えてエースは俯く。
「時間がないっちゅうことか……」
「それに……帝国がいつまた邪魔に入るのかもしれへんのやろ?はよ、何とかしたほうがえぇんと違う?」
「クローバーの言う通りだよ、どうするのエース、フラッシュ」
「心配ないよ。その事についてはもうすでに手は打ってある」
 クィンの言葉にエースは言う。
「あぁ、エースの言う通りやで。クローバー、お前も手伝ってや」
「んな事言わんといても手伝うわ。うわさのハート姫アタシかてみたいやん」
 その後4人は小声で作戦を話し始める。
 ……すべての運命がまわり始める。
 すべては……二人の思いの元に……。




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