シャッフルロマンス 3
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「姫……体に気をつけなさい」
「母上様」
「婚礼の儀の時には私達も出席するから」
 とうとうハート姫がトランプ王国に嫁ぐ日がやって来た。
 モーリス王もエリー王妃も涙を流しハート姫に声を掛けていた。
「では、行って参ります。父上、母上」
「つらくなったら帰ってきてもいいんだぞ」
「何言ってるのよ。それよりダイヤ姫はどうしたの?」
 エリー王妃の言葉にメイドが応える。
「申し訳ございません、ダイヤ姫様は気分が優れないということでお部屋で休んでおられます」
「そう……それは仕方ないことね。ハート姫の婚礼の儀までには直っていると良いのだけれど……。ハート姫、今生の別れでは無いのだから、涙を流さないで」
 泣いているハート姫にエリー王妃は話しかける。
「出立!!!」
 そうして、ハート姫は馬車に乗り込み、トランプ王国へと旅立っていった。
 そんな様子をダイヤ姫は窓から見ていた。
「ばかな娘……。トランプ王国に行かなければ貴女は不幸にならずにすんだのに……」
 と…そうつぶやいて…。

 天に月が昇るころ、ハート姫を乗せたブリッジ公国の馬車はトランプ王国との国境に近付いていた。
 その国境でハート姫はブリッジ公国からトランプ王国の馬車に乗り換えるのである。
「姫、寂しくはございませんか?もう少しでトランプ王国との国境につきますのでそれまでのご辛抱を」
「心遣いありがとう。でも心配しなくても大丈夫です」
 と、外にいる護衛の兵士に声をかけられたときだった。
 物音がしたかと思うとたくさんの兵士が現れたのである。
「お、おのれ何奴???」
「これをブリッジ公国ハート姫の馬車と知っての狼藉か?!」
「もちろん承知の上さ、この前はしくじったが今度こそ姫を連れ去れとの命令だ」
「我等帝国にとっては公国と王国はいがみ合ってもらわなくては困るんだよ!!」
 と、帝国の兵士が襲ってきた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 馬車の中にいたハート姫が外へ引きずり出され、連れ去られそうになったその時だった!!!
 はらりはらりと黒い羽が舞い降りてきたのだ。
「なんだ?」
「ま、まさか!!!!!!」
 帝国の兵士が驚いた瞬間、木の上にいたのであろう騎士が舞い降りてきたのである。
「こ、黒衣の騎士!?」
 そう、前に一度ハート姫の危機を救った黒衣の騎士である。
 そして、見ほれるほどの素早い剣さばきで帝国の兵士を追い払う。
 その間にこの前に黒衣の騎士を加勢していた騎士フラッシュも加勢しにやって来た。
「くそ、引け!」
「引け!!!」
 そう言い残して帝国の兵士が逃げていく。
「お助けいただいてありがとうございます」
「礼は言わんといてや。オレはトランプ王国側の使者やねんから、ともかく、はよ国境にある屋敷まで行かんと……」
 と、騎士フラッシュは言う。
 その言葉にブリッジ公国の者は従い国境にあるトランプ王国の屋敷へと向かったのである。

 無事、引き渡しの儀も終わり、ハート姫は屋敷内を自由に歩く許可をもらう。
「今晩はここにいてもらうんけど………なんか聞きたいことでもある?」
 ハート姫のそばについているのは聖道士クローバーと騎士フラッシュの二人である。
「…まずお礼を言わせて下さい。一度ならず二度までも私をお助けいただいてありがとうございます。騎士フラッシュさま」
「かまへん。そんなん気ぃつかわんても気にせんといてや。オレがお姫さんのこと助けたんは黒衣の騎士の手伝いやねんから」
「手伝い?」
 フラッシュの言葉にハート姫は疑問に思う。
「何故?」
「……詳しくは黒衣の騎士に聞いたほうがええんと違う?彼なら外におるから行ってもええよ」
 クローバーの言葉にハート姫は外に向かう。
 何故あうのを止めないのかという疑問を少し抱きながら。

 木に寄り掛かるように黒衣の騎士はその場に立ち尽くしていた。
 何かを思うように天にかかる月を眺めながら…。
「黒衣の騎士……」
 ハート姫は近づき声を掛ける。
「私の問いにお答え下さい。一度ならず二度までも私を助けて下さった貴方は一体誰なのです?」
 ハート姫の方に黒衣の騎士は振り向く。
「黒衣をまとった名も無き騎士殿……私の願いをかなえていただけるのなら、どうかその漆黒のかぶとをお取りになって素顔を私にお見せ下さい」
 何かの思いにせかされるようにハート姫は言う。
「………分りました。それが姫のお望みとあらばこの醜き傷をお負いしこの顔を月明かりの下にさらしましょう」
 透き通るようなテノールの声が姫の体を突き抜けていく。
「…………私はトランプ王国の王子スペイド」
 かぶとをぬぎ、ハート姫にそう次げたその眉間には昔つけられたのであろう刀傷がついていた。
「……その眉間の傷…………貴方はあのスペイドなのですか?昔、我が父ブリッジ公国の国王モーリス王に眉間を切られ追い払われた貴方が、黒衣の騎士………トランプ王国の王子だったとは」
「黙っていて申し訳ありません。ハート姫、貴女をだますつもりはなかったのです」
 そう言って黒衣の騎士……スペイド王子……はうつむく。
「…騙すだなんて……私は、今貴方にお逢いできたことがこの上もなくうれしいことですのに…。…スペイド王子、この指輪はあなたが下さったものですか?」
 ハート姫が首に下げていた指輪を王子に見せる。
 他国から来た王女は自国の物を身に付けてはならないのだが、その指輪が通されているチェーンだけは何故か外されずにすんだのである。
「そうです、それは、貴女に差し上げる為に用意したもの…。白き魔法使いはきちんと貴女に渡してくれたのですね」
 スペイド王子は指輪を受け取ると姫の華奢な指にはめる。
「スペイド王子…」
「姫………」
 そう言ってはハート姫を抱き寄せる。
「……スペイド王子、幼き日の約束を……まだお忘れで無ければ………」
 顔をあげ、ハート姫はスペイド王子の首に腕を絡ませながら言う。
「姫…」
「…はい……」
 自然とハート姫の瞳が閉じられる。
 姫の少しばかり開かれた口唇に王子はふさぐように深く長く接吻をした。
 そして、口唇を離し二人は見つめあう。
「………姫」
「王子……」
「何ですか姫?」
 満面の笑をたたえた王子に姫は不覚にも顔を染める。
「…幼きころの約束……覚えていて下さったんですね」
「……姫、私の妃になって下さいますね」
「私でよろしいのならば」
 そう姫の答えに王子はまた抱きしめたのであった。

 遠くの木の上でこの様子を見守っている一組がいた。
 白き魔法使いのエースとその青き助手のクィンである。
 夜の寒さから身を守るためか、白き魔法使いのは青き助手を自分のマントで包み込んでいた。
「なんかいいなぁ」
「何が?」
「ハート姫すっごく幸せそう」
「まぁ、王子も幸せでしょう。オレに感謝してもらいたいね」
「エースこんなところで見てたら感謝されるところか王子に殺されちゃうよ」
「バーロ、そんなことできねぇよ。このマジシャンであるオレにはね」
「……このままエースと一緒にいたいな」
 クィンはエースの方に顔を向けながら言う。
「……クィンがいたいって言うならオレはいいよ。一緒にいてやるよ」
「エース」
「な、なんだよ」
「エッチなことしないでよね」
「……ハハハハハ」
 そう笑ってエースはクィンを連れ姿を消した。
 屋敷内で同じくハート姫とスペイド王子の動向を見守っている二人がいた。
「なーんかえぇ雰囲気やね」
 窓の外を見ながらクローバーはフラッシュに言う。
「そやな昔からスキおうてた二人やし……」
「そうなん?フラッシュ、何でそんなことしってんの?」
「一応王子の幼なじみやねんけど」
「それやったらアタシも幼なじみと違う?」
 クローバーは窓から離れフラッシュの隣に行く。
「一応、王子と一緒にブリッジ公国に行っとったって意味でや」
「そないなこと言わなくても分ってるって」
「クローバーどないしたん?」
 ふと俯いたクローバーにフラッシュは疑問をもって聞く。
「今日は、フラッシュの隣におってもええ?」
「なんで?」
「………うらやましいって言うか………」
「……えぇよ。お前一人ぐらい隣におっても邪魔にはならへんしな」
 と、フラッシュはクローバーを抱き寄せそう言った。




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