シャッフルロマンス 5
開演前2345678終了後

 ハート姫は目を開けると自分がどこにいるのだか全く把握できていなかった。
 ただはっきりしているのは自分が全く知らない場所ということだけだった。
「気がついたか……」
 低い男の声が聞こえる。
 体を起こすと見知らぬ男がハート姫のことを見下ろしていた。
「……誰?ですか」
「クックックック…そうおびえることもあるまい」
 ハート姫の言葉に震えを感じ取ったのか男は低く笑う。
「笑ってないでお答え下さい。貴方は誰なのですか?」
 気丈にハート姫は問いただす。
 しかし、相手の威圧感にハート姫は怯える。
「私の名前ですか?ジョーカーと言います。よく世間では皇帝ジョーカーと言われますがね。あぁ、ご存知のはずですね」
「ここはポーカー帝国なのですか?」
「そうだと言ったらどうする気ですか?」
「私を、もとの場所に戻して下さい」
 ハート姫は悲痛な思いで言う。
「そういうわけにはいかないんですよ。せっかく手に入ったものなのに」
 そう言って、ジョーカー皇帝はハート姫のあごに手を当て上を向かせる。
「離して……離して下さい」
「怯える必要がどこにある?」
 そういうジョーカーの言葉がますますハート姫が怯える原因となっていった。
「オヤ、この指輪はどうされたのですか」
 皇帝は不意にハート姫の指にはまっている指輪に気付く。
「これは?どうなされたのですか?姫。これは外させていただきましょう」
「やめて下さい、この指輪に触れないで!!」
 抜こうとする皇帝にハート姫は強く抵抗した。
「まぁ、いいさ。手に入ったのだから焦る必要はない。どうせ、この城には誰も入れないのだからな。その指輪も後で違うのに返させて頂きますよ」
 そう笑って皇帝は部屋から出ていく。
「……助けて……スペイド……」
 そうつぶやくハート姫はふと一つの気配に気がつく。
『聞かれた……』
 身構えるハート姫にその気配はやんわりと言う。
「…怖がる必要はないわよ」
 そう言ってその気配は姿を見せる。
 紅いローブとマントに身を包んだ女性が出てくる。
 が、どこか実体感はない。
「私は紅き魔女。貴方の味方よ」
 そう言って紅き魔女は笑う。
「味方って……」
「そのままよ。大丈夫、貴女のことは私が必ず皇帝から守るわ。だからそんなに不安な顔をしないでくれない?」
「ありがとう…」
 そのハート姫の言葉に紅き魔女はにっこり微笑む。
「………いけない………が来たわ。ハート姫、心を強く持って大丈夫だから」
 そう言って、紅き魔女はハート姫の前から消える。
「…………スペイド王子………」
 そうハート姫はつぶやいていた。

 帝国の城…セブンハウス城の東側の森の中にスペイド王子の一行は来ていた。
 そして、1件の家の中に目指していた人物はいた。
「君が紅き魔女??」
 紅いマントとローブを身に付けた女性にスペイド王子は聞く。
「そうよ、私が紅き魔女…誰の紹介?」
「白き魔法使い…」
「そう………あなたはトランプ王国の王子スペイドね」
「そうだ、頼む紅き魔女、力を貸してくれ」
 その言葉で紅き魔女はすべてを悟る。
「ハート姫ね。そうしたら、帝国と戦うことになるわよ?」
「構わない。ハート姫を取り戻すためなら」
 スペイド王子の強い決意に気がついたのか一つ一つ質問を始めた。
「死んだらどうするの??」
「死ぬわけには行かない。彼女に悲しい顔なんてさせたくない」
「……」
「全身全霊を掛けて、彼女を守ることを彼女に約束している。そのためには僕は生きていなくてはならない」
「……帝国をもしかするとすべてを敵に回しても?」
「そうだ」
 強い意志を持っている。
 紅き魔女はそのスペイドの意志に紅き魔女は根負けする。
「………分ったわ。セブンハウス城に入る手段は2つ。一つは今の段階では不可能だけれど、もう一つは明日にでも実行ができる」
「教えてくれ、紅き魔女」
「良いわ。セブンハウス城にはその回りに異空間がただよっていて、それが結界の役目を担っているのだけれど、満月の夜に、一ヶ所だけその異空間が途切れる場所があるの。そこを通ってセブンハウス城内に入れるわ。ちなみに今日は満月よ」
 紅き魔女はそう言う。
「……それから、もし帝国を倒したいのなら、ハート姫を助けた後に来なさい」
 スペイド王子が外に出ると、フラッシュ、クローバーそしてクィンとエースの4人が待ちかまえていた。
「で、どないやった」
 待ちきれなかったのかフラッシュは開口一番そう言った。
「今晩、姫を助けにいく」
「ホンマ?でどないすんの?」
 クローバーの言葉に王子は俯きながら言う。
「一人で行く…」
 と。
「何でやねん。一人でなんて無理に決まっとるやないか」
 フラッシュの非難の声にスペイド王子は俯く。
「……セブンハウス城内に入るからだろう。一人でも捕まったら終わりだし、……って感じかな」
 エースの言葉にスペイドはうなずく。
「そうか、ならしゃあないわな。オレらはどうしたらえぇ?」
「……待っていてくれるだけで良い。ハート姫を助けるのはオレの役目だから……」
 そう言ってスペイド王子はマントを翻して、セブンハウス城の結界のはられていない場所に向かう。
「……スペイド王子……」
「エース……か」
「あぁ、抜け出すときの呪文。お前にやるよ」
「……ありがとうエース。お前がトランプ王国の魔法使いで良かった」
 そう言って、王子は月が昇った頃セブンハウス城に入っていった。




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