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アントニイ・バークリー
Anthony Berkeley



(注)【 】内はネタバレ。すでに読んだ方は反転させて読んでくださいね。

 ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎

途中までの展開があまりに軽いので、すっ飛ばしそうになってしまった・・・

饒舌なロジャーと頭を使わないアントニイ(笑)、現実派のモーズビー警部の
絶妙な会話で、軽いミステリーと見せて、複雑な仕掛けのある作品でした。

ロジャー・シェリンガムと従弟のアントニイはクーリア紙の依頼を受けて、
ヴェイン夫人の転落事件を取材に出かける。
そこにはすでにモーズビー警部が乗り込んできて捜査を始めていた。



推理小説・探偵小説の誕生から、大まかに言って100年くらいの年月が経っている。
その間、現在まで様々トリックや仕掛けが生み出されてきた。

発表当時は斬新なアイデアも、その後、模倣され応用され、量産されて、
ありふれた様式・型となって定着してしまう。

この小説を出版当時に読んだとしたら、衝撃を受けたかもしれないけど、
いろいろなミステリーを読んだあとでは、もう驚かないですね。

前作の「ウィッチフォード毒殺事件」で、犯罪ドキュメンタリーを見て推理してる視聴者のようと書いてしまったけど、それを高度に発展させた作品。

続きはネタバレ



推理小説のような複雑な謎は、現実には起こらないと書かれている推理小説。

たしかに一部の本格ものに登場するような手の込んだトリックは、
現実の事件ではありえないでしょうね。
殺人が目的か、トリックが目的か、わからないこともありますよね。

この小説では、現実的に考えて一番怪しいと思われる人物が犯人で、
ミステリー小説的に一番怪しくない人物が犯人という、ダブル詐術が使われている。

いえ、あえて探偵役が除外している人物が犯人というトリプル詐術かな。

でも犯人はわかりますね。崖下に靴を見つけたところで。
警部もロジャーも散々探して何も見つからなかったところに靴があるとは、
あれはいかにもわざとらしかった。




 ウィッチフォード毒殺事件

これは残念ながら苦手なパターンでした。

イギリスで現実に起こった毒殺事件を元にしたミステリーということだけど、
そもそも元になったその事件を知らないというハンデがある。
なので、小説の最初から時系列に沿った事件の説明もなく、どうしても情報が少ない。

それなのにロジャーはじめ、登場人物たちは盛り上がっているので、
まったく物語に入り込めない。

新聞でウィッチフォードで起こった毒殺事件を知ったロジャーが、
アレックを伴って現地に入り、そこで令嬢と3人で事件を調べるのだけれど、
今回は事件に何の関係もない第3者なので、もちろん被疑者に会うことも出来ないし
警察の捜査の状況もわからない。
完全に事件の外側から調査をするだけです。

なんとなく犯罪ドキュメンタリーを見て、あれこれ推理する視聴者のような・・・
まあ、でも最後は見事な解決があります。



 レイトン・コートの謎

1925年発表のバークリー第1作。2002年に翻訳出版。

私がバークリーを読んだ順番は、
毒入りチョコレート事件→最上階の殺人→ジャンピング・ジェニィ
これはもしかしたら最良の順番だったかもしれません。
この「レイトン・コート」が一番だったら、見限っていたかも(笑)

実業家のスタンワースは、ひと夏の滞在先としてレイトン・コートを選んだ。
数人のゲストも招かれていたが、その一人がロジャー・シェリンガム。

しかしある朝、そのスタンワースが書斎で自殺しているのが発見される。
書斎はドアも窓も施錠されていて、完全な密室になっていた。
警察も自殺で処理しようとしていたが、ロジャーは銃弾の痕を見て自殺説に疑問を持つ。

一番最初に浮かんだ言葉は「行き当たりばったり」(笑)
ロジャーは1つの証拠を見つけると、そこから謎解きストーリーを推理、
さっそく、その推理を確認に行くけれど、だいたいがっかりして帰ってくる(笑)

これはもう読者の視点ですよ。
あ、絶対こいつが犯人だ → なんだ違うのか・・・
最後までこれの繰り返し。

世の名探偵はわずかな手掛かりから、その裏に隠された秘密を見抜き、
「あなたが隠していることはすべてわかっています」と宣言するものだけれど、
ロジャー氏は、そこで自分の予想と違う告白をされて、
「そんな重大なことを隠していたのか」って感じで、驚く。

推理して真相がわかっていたんじゃなかったのね・・・

まあ、探偵が驚くくらいだから読者も驚くわけで、
そういう意味でも、結末がわかってから、もう1度読み返すと面白いです。

ジャンル分けをすると、動機探し・・・でしょうか。


 絹靴下殺人事件

バークリーの4作目で、「毒入りチョコレート事件」の前年に書かれた作品。
「最上階の殺人」が8作目だから、今のところ新しい作品から遡って読んでることになるわけで、キャラクターシリーズでもあるし、やっぱり発行順に読んだほうがわかりやすいかもしれないですね。

ロジャー・シェリンガムは新聞に連載しているコラムの読者から手紙をもらう。
それは消息のわからない娘を探して欲しいという依頼。

その娘は家計の苦しい家を出てロンドンで働いていたが、
急に音信がなくなり家族は心配していた。
同封されていた娘の写真を新聞社の人間に見せたところ、
彼女がコーラスガールとして舞台に立っていたことがわかる。
そして娘の芸名から、彼女がストッキングで首をつって自殺していたことが判明。

この結果を、娘の家族にどう伝えようか悩んでいる時に、
同じ方法で自殺した娘が複数いることがわかった。
連続する若い女性の自殺の影に、共通する人物の存在を感じたシェリンガムは独自に調査を始める。

これは先に読んだ2作とは違って、推理ゲームのような論理の遊びではなく、
探偵としての行動がメイン。

仮説の検証がなくて、いきなり行動に移るところや、
証拠はあまり重要視せずに、行動で犯人を追い詰めて行く過程はあまりにふつうで、
なにか物足りなさを感じてしまいました。

続きはちょっとネタバレ



無差別連続殺人で1つだけ他の事件と性格が違うものがあれば
それがポイントとなることはミステリーファンなら周知。
この作品では、伯爵令嬢レディ・アースラ事件。

木の葉を隠すなら森の中という理論から言えば、アースラの関係者があやしい。
そこまでは定石だけど、動機は快楽殺人だったとは驚き。

最後の実験は、いくらなんでもやり過ぎでしょう。
それに、これで犯人が自白するというのもわからない。





 毒入りチョコレート事件

古典名作シリーズ(^o^)

学識ある著名人が集まって殺人や毒物をさかなに語り合う犯罪研究会。
そこに持ち込まれた毒殺事件をメンバーが独自に調査。
それぞれの推理を発表したあとに、批評し合うことになった。

最初、安楽椅子探偵ものかと思ったんですが、このメンバーは聞き込みをしたり、証拠を集めたり実際の調査もしてしまうんですよ。
素人がそんなことして大丈夫なのかと思うけど、要はロンドンの上流階級という、誰もがどこかで誰かにつながっている狭い世界の話なので許されてしまうようです。

事件を持ち込んだのが現職の警部という事情もあるだろうけど。
そこには別の意味も・・・

その毒殺事件とは、試供品のチョコレートに毒が入れられていたというもの。

ロンドンの由緒あるクラブに所属する人物・ユーステス卿、彼の元にメーカーから新作のチョコレートが送られてくる。試食して感想を書いてほしいというもの。

しかし新作チョコレートのモニターになる気はないユーステス卿は、たまたまクラブに居合わせたベンディックス卿にそのチョコレートを譲る。
ベンディックス卿は妻にチョコレートを渡す。
食べたベンディックスの妻が死亡。
チョコレートから毒物が検出。

事件のあらましを聞いた研究会のメンバー6人は独自の調査を行い、一晩に一人づつ推理の結果を発表することになった。少ない手がかりから8つの解釈と6人の犯人が指摘される。

この単純で関係者も少ない事件に8つもの解釈があることに驚き。
読んでいるとどれも納得するものばかり。
しかし、そんな説得力のある解決も次の日になると他の会員によって覆されてしまう。

推理と、それに対する反論が展開されるのだけれど、証拠がすべて開示されてるわけではないので、読者は傍観者でしかないのが残念。
冷静に考えると、何も証明されてないわけですしね。

そういう意味ではやや消化不良気味の読後感でした。

以下はネタバレ。反転させて読んでください。



アリシア・ダマーズは毒入りチョコレートの小包を友人に託して送ったということだけど、その友人は差出人がアリシアの名でないことを疑問に思わなかったのかな?

この小包の行方は疑問が残るところなのだけれど、それを突き詰めようとするところでアリシアが退席してしまってチタウィックの論証も終わるので、尻切れの印象になってしまうんですね。

最初からずっと気になっていたのは、
ユーステス卿はチョコレートが好きかどうかということ。

それによって事件の真相はかなり違いますよね。
最初に確認されるべきことだと思うけど、誰も確認してない。

最後の方になってアリシア・ダマーズによってユーステス卿はメイスン社のチョコレートボンボンが好きだったということが語られるけど、もっと最初に証明してほしいことでしたね。





 ピカデリーの殺人

-

 第二の銃声

犯人探しというより、バークリーお得意の論理的実験小説。
言ってみれば「推理小説」への挑戦でしょうか。

読み終わって最初に思い浮かんだのが東野さんの「名探偵の掟」。
「推理小説」そのものをネタにしているという点では、共通点があるような気がします。

現在では誰でも認識しているお約束、
本格ミステリーに登場するような凝りに凝ったトリックは現実の事件ではありえないこと、
警察の捜査は事実を積み上げていくもので、名探偵の論理的試行錯誤方式とはまったく違うということを小説の中で揶揄している。というと言い過ぎになりますが、名探偵(読者)の陥る罠を証明しようとしている作品ですね。

そういう仕掛けなので、犯人はすぐわかってしまうと思いますが、
そこからが、この小説のトリックです。
いわば、この作品全体が読者への挑戦なんですね。

事件の発端は犯人探しゲーム。
ゲームの筋書きの中で本当の殺人事件が起こる。
その場にいた人のほとんどに犯人である可能性がある。
それを証明は出来ないけれど、推察することは出来る。
そしてその推察を1つ1つ論破していく、ある意味、おなじみの手法です。

続きはネタバレ


ピンカートンの性格が手記の前半と後半で違いますね。
誇張、あるいは演出が含まれているということなんでしょう。

前半の手記のピンカートンは自我が肥大して他人を見下し、
おそらく小心に起因するだろう女性に対する偏見を持つ性格。
外見もさえないようで小柄で運動嫌い、鼻眼鏡をしている。

そんな男になぜかアーモレルが惚れる。
これが不思議なんですよね。
と、さらに学生時代に射撃大会で優勝というエピソードも加わる。
ここで急にイメージが変わってくるんですよ。

もしかしたら読者がイメージしているピンカートンと、
現実の彼は違うキャラクターではないのかと。
ここがポイントでしたね。

あとは手記の中の
「エリックは私が寝かせた状態のまま横たわっていた」
「私は舞台に少しばかり手を入れることに専念した」
という記述がわかりやすいヒントでした





 最上階の殺人

おお〜これは爽快。見事な騙しの技に拍手

マンションの最上階に住む老婦人が殺され、現金が入っていた小箱が盗まれる。
室内は荒らされ、窓からはロープが下ろされていて、
マンションの塀を越えて逃げる怪しい男が目撃されていた。
警察は単純な強盗殺人事件として強盗常習犯をリストアップする。

一方、事件現場の捜査を見学していたロジャー・シェリンガムは、
残された証拠の矛盾から独自の推理を展開する。

1つ1つの事実と証言をもとに、仮定と可能性を追求し、それによってある仮説に至る。
そこから矛盾する事実を排除して、新たな仮説を作る。
それの繰り返しで事件を吟味、ついに至った1つの結論。

それは読者が事件直後から密かに抱いていた疑いと一致する。
さすがの名推理・・・

ということですが、これは賛否がある小説のようですね。

推理小説というのはなにか?
言うまでもなく警察の捜査とは別のもの。
警察は事件の真相を究明し、犯人を捕まえることが目的。

推理小説は推理の過程を楽しむもの。
騙される快感を味わうものと定義すれば、これほど見事な騙しはなかなかない。
そういう意味では、この小説はまさにロジックの遊び。

まじめな刑事が深刻な事件を解決するような小説を好む方には、
あまりお薦めできない小説。
推理パズル的なものが好きな方には楽しめると思います。

以下はネタバレ注意。


これだけ見事に組み立てた論理なのに、結論が間違いって面白い!
犯行時間の錯誤だけが正解で、犯人は警察がマークしてた常習犯でしたって、
そんな結末ありですか(笑)

ほとんどの読者は、まずステラを疑うんじゃないでしょうか。
遺産相続人でありながら相続を拒否するところもわざとらしいし、
亡くなった叔母とは関わりたくないと言いながら、
フラットの掃除を早々に、しかも自ら始める。
捜査に関係しているらしい作家の秘書に就職。など、疑う要素はたくさんある。

ただ難点は、本人の性格がどう考えても犯人らしくない。
およそ犯罪など行いそうもないタイプ。
これは引っかけなのか?、それともヒントなのか?ずっと悩んでました。

そして第十八章・・・
やっぱり、と思う反面、それじゃ中学生が考える構成だよという疑念も浮かぶ。

結果は、あの解決。
論理と騙しの面白さ全開でした。





 地下室の殺人

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 ジャンピング・ジェニィ

まだこんな傑作が未読だったとは。面白いです!

こういう形式のミステリーは、はじめて読むような気がする。
詳しくはネタバレになるので下で隠して書きますが、
犯人探しと倒叙物がいっしょになっているような、面白い仕掛けです。

ロジャー・シェリンガムが招かれたパーティは、
参加者が有名な犯罪者に仮装して集まるという変わった趣向。
しかも屋上には絞首台が作られ、藁人形までぶら下がっていた。
深夜になり参加者も一人二人と帰った後、屋上の藁人形が参加者の一人に入れ替わっていた。

なかなか絵的には怖いですが、もとはユーモアミステリー作家さん。
けっこうジタバタしたお話です(笑)

続きはネタバレで。


殺人シーンが描かれているけど倒叙物ではない。
かといって、刑事コロンボのように探偵役が犯人を追い詰めていくストーリーでもない。
警察と対峙して証拠隠滅を図るのがシリーズの探偵役ロジャーなのだけど、
それがなんとも大ざっぱで、見落としがいろいろありそうでハラハラする(笑)
そういう意味では事後従犯の倒叙ものとも言えますね。

しかもロジャーには殺害の真相はわかっていない。
勝手に犯人は被害者の夫と決め付けているけど、
それが間違っている事を読者は知っている。

でも読み進むうちに、もしかしたら医師が椅子を持ち去っただけは死なずに、
戻ってきた夫が最終的に死に至らしめたのかもしれないと疑いもある。

そして検視審問。

結局ロジャーの苦労は何の役にも立たなかったことがわかる(^^;)
嘘については、女性陣の知恵の方が上手だったわけですね。

そしてラストにはもう1つの真相が。
寄ってたかって災いの種を消すって、必殺シリーズみたいな話ですね(笑)




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