「ドコにいるかと思ったらココにいたの?
神殿のバルコニーに降る雪を見つめていたらこの神殿のもう一人の主、水の女神セアラ様がいらっしゃった。
「ファナ、外にいたら寒くない?」
「雪が降っているので……」
セアラ様の問い掛けに私はただ降る雪を見つめる。
「見るの初めて?ロマーニャって雪降らなかったっけ?」
「そう言うわけではなくて、ただ……」
「忘れたくない思い出?ってやつ」
その言葉に曖昧な笑顔をを浮かべながら私はうなずいた。
降り注ぐ雪の最後の……忘れたくない思い出は、まだロマーニャにいた頃。
フェルもマリーナもロマーニャにいて……。
アレキも居た。
アレキ・クセイル・キーナ。
わたし達の中で一番初めに小さな集落を出て行った。
わたしも、アイル兄様もオルトもパラもフェルもマリーナも出て行く事になったあの集落を、アレキは一番最初に……。
彼は強かった。
剣の腕は当時師範代ぐらいまでになっていたオルトを負かし、自分の身を守るためにと学んでいたフェルも負かしていた。
フェルはオルトと同じぐらいで師範代になるにも同じ時期だった。
もちろん………わたしも、アレキには負けた。
魔法の腕も高く、その腕前を見た兄様はアレキにさんざん言っていた。
共にカバネルに行こうと。
同い年で共に良く遊ぶアレキが兄様に誘われていくところは羨ましくもあり誇らしくもあった。
でも、アレキは首を縦に振らなかった。
兄様は寂しそうにそうかと言ったっきりその話題には触れなくなった。
だからアレキはずっとこの集落にいるのだと思っていた。
でも
「オレはココを出る」
その言葉を聞いたときは驚いた。
何故という言葉しか出てこないから。
「出てドコに行くの?」
アレキなら大丈夫だろう、そんな確信はあった。
大体の者はココに残る。
出て行っても戻ってくる。
理由はこの集落はフェルディナンド・ルカ・アレグリーニ・マグヌス三世の為に結成された騎士団で構成されているからだ。
フェルを守るために存在している騎士団。
アレキなら問題ないと思った。
彼の剣の腕は確かだし。
それでも出て行くという。
「何で?」
「何でだと思う?」
「分からない。分かるわけないじゃない」
近くにいるだけで何も話してはくれない、アレキは基本的に聞かれたことにしか答えない。
何で言わなかったのと聞けば聞かれなかったからとそう答える……。
「アレキ、教えてよ……」
「ファナ、オレはただ世界が見たくなったんだ……」
そう言ってアレキは外に目を向ける。
ロマーニャの端にある小さな集落。
アレキはドコを見ているんだろう……。
世界が見たくなったというのは単なる良い言い訳が見つからなかっただけなのかも知れない。
「アレキ……帰ってこないの?」
「ファナ、お前だってアイルの後を追ってカバネルに行くんだろう?」
その言葉に何も言えなくなった。
兄様はカバネルに向かう。
それを聞いて私も向かおうと思ったんだ。
「アレキ……」
「いつかまた逢えるかな…」
そう寂しそうに呟く。
その時だった。
雪がふわりふわりと落ちてきた。
その記憶が鮮明なのだ……。
ふわりふわりと降ってきてアレキに降り積もる。
「逢いたいって思ってもいいの?」
「オレは思うけど?」
それが集落での最後の会話だった。
まさか……カバネルの魔法学校にアレキも一緒にはいるとは思いも寄らなかったけど。
でも……彼は1年だけで居なくなってしまった……。
ドコにいるのだろう……。
今でも、今だからこそ強く思う。
「ファナ、いつまでもいたら風邪ひくわよ」
一緒に見ていたセアラ様が先に戻る。
「いつか逢える?アレキ」
そう雪空に問い掛けて私は部屋に戻る。
遠くない日に会えるだろうと、期待をこめて……。
私は眠りについた……。
というか……回想編。
気がついたらファナの幼なじみは大量になっていた……最初はアレキだけだったのに。
よくよく考えたらマリナやフェル、パラも幼なじみじゃんって事に…後から気付いたのだよ……。