「サガ、あたし頑張るからね。だからサガも頑張って」
そう力強く言った君の言葉は今も耳に残っている。
眠れなくて、宛がわれた部屋から外へと出る。
廃都リラは捨てられた都。
都市機能が失われ人が住まなくなったという意味ではなく、都ではなくなったという意味だ。
カバネル聖共和国は大きく言えば神聖リラとカスピウィークという国に分かれていた。
名前の通りリラとカスピが中心となって出来ていた国々。
だが、リラとカスピは融合してカバネル聖共和国として生まれ変わった。
首都は…世界の調停者と呼ばれる三聖人が居るカスピ。
リラは都ではなくなった。
人々は悲しみをこめてリラを廃都と呼ぶ。
古代の絶対神トルーア様の神殿付近は文字通り廃都と呼ぶのに相応しく遺跡となっているが。
オレは眠れない頭を何とかするために神殿の外にまででた。
リラの中心部はココよりももっと東の方にある。
トルーア様の神殿付近の遺跡群は西の外れ。
昼間であるならば古代の遺跡と古代神信奉者の観光で賑わいも見せるが今はあいにく夜。
ライトアップをするでもない遺跡群は夜目が利かない限り動くのにも苦労する。
星月夜。
空を見ればそんな言葉が似合うのだろうか。
無数の星が天を覆い、その明るさはまるで月のようでもある。
「綺麗だな」
素直に感想がこぼれた。
そして、
「ミラノはこの星を見てるのだろうか」
ふと、今ラテスにドコで引っ張り回されているのか分からない彼女の事を思った。
星を見て思い出すのは、彼女が良く夜になると星を見ていたからだろうか。
よく見える。
そう言っていつも夜空を見上げていた。
普通だと思っていたけれど……でもこの星月夜は見ていて飽きることがない。
「星を見ているのか」
突然隣に立った方に驚いた。
「トルーア様、お休みになったのではなかったのですか?」
「お前はどうなんだ、サガ」
質問を質問で返されオレは素直に答える。
「自分は眠れなかっただけです」
「私も同じ様なものだ。このような夜はいつも起き出してこうやって夜空を見ている」
顔を上げ夜空を見上げるトルーア様に倣ってオレも夜空を見上げる。
「流れ星とか見えないかなぁ」
この人がそんなことを言うとは思いも寄らなかった。
流れ星を期待する子供のようだ。
「お前は、願いをかけないのか?」
「子供だましですよ?」
「案外皮肉屋か?子供だましとは言っても願いの強さは子供も大人も変わらない。いや、大人の方が諦めも早いか?人とは寂しいものだな。願えばただ願えばいい。子供のように、流れ星に願いをかけて……。それほど強い願いならば叶うだろう?」
トルーア様の言うことは事実だろう。
強く願えばその願いは自分を突き動かす。
「で、星を見て何を考えた?」
聞きたかったのは……そこか?
この人は、思っていた以上に好奇心が旺盛な方だ。
他人の事情に案外、興味津々と言って良いだろう。
「ただ、つらい目には……苦労はしていないか……というだけです」
誰とは言わない。
おそらくトルーア様はオレの感情なんて手に取るように分かるだろう。
ミラノのことを思って言ったなんて。
「ラテスが一緒だからな。不安になる必要はない。彼女自身強いココロの持ち主だ。大丈夫」
すっかりバレているらしい。
「トルーア様、先に失礼します」
ココにいるのも何なのでオレは部屋に戻ることにした。
月のように明るい星々が神殿を淡く照らす。
彼女を思う。
ただそれだけで、毎日を過ごせる気がしてくる。
ミラノはオレに笑われないようにしっかり修行すると言っていた。
オレも同じようにまた明日を過ごそう。
彼女に笑われないように、彼女の側にいられるように。
サガは廃都リラに居ます。聖都リラとも呼ばれたりするんですが、遺跡の方は廃都リラ。
カスピの上の方。