森に歌声が響き渡る。
街に歌声が響き渡る。
風に乗ってどこかへと運ばれるその歌声。
彼女の歌声を聞いたことがない者はあまり居ないだろう。
その時、その時代で彼女は歌う。
なぜなら、彼女はエルフ神族。
エルフの歌姫なのだから……。
「サラ、こんな時にドコに行くつもりだ!!!」
ラルドエードの出入り口で宰相のバジル・ノーマンにサラ・ネイルは呼び止められる。
「そうね、こんな時だけど、ちょっと出掛けてくるわ」
「サラ、オレが言っている意味は分かっているのか!!」
「もちろん」
バジルの怒鳴り声にサラは苦笑いを浮かべながらうなずく。
今、ラルドエードは未曾有の危機に陥っていた。
魔王ゼオドニールが魔族を率いてラルドエードを攻めてきたのである。
今はまだそれほどの気配を見せてはいない。
だが、周囲を魔物、魔族が徘徊しているのは事実で先攻と称しておそってくる者もいる。
「すぐに戻るわ。なんだったら転移の方陣をココに書いてもいい。それでもだめ?」
「……国王陛下がまだ行方不明なのに……。セジェスを捜せるお前が居なくなってどうする」
「ハイファ………ごめん、バジル」
バジルに問い掛けようとしてその答えに気付いてサラは俯く。
ハイファは今、それどころではないのだ……。
サラ・ネイル。
彼女はエルフ神族が誇る歌姫だ。
古の歌を歌いその歌を伝承することの出来る唯一のエルフ。
彼女の歌声を聞いたことのない者は世界のドコにも居ないほどだという。
いつの時代でもだ。
「セジェスは外で探すわ。お願い、バジル。いかせて、時間がないの……」
サラには状況を理解していながらバジルの説得に応じるだけの時間がなかった。
彼女の時間はある。
時間がないのは彼女の時間ではない。
今からサラが行こうとしている所の時間がである。
たとえば、今ココで行くのをやめにしたとする。
魔族との戦いが終わってから行くとするならば……もうその時間は失われているだろう。
魔族との戦いは短期間ででは終わらない。
それはエルフ神族の誰もが気付いていた。
年単位……へたすれば数百年続いてしまうかもしれない。
長い時を生きるエルフ神族ならばその時間は大した時間でもないだろう。
だが、人ならばどうなのだろうか。
その時間はあまりにも長い。
時代を数回終えてしまう。
代を重ねてしまう。
「バジル………分かって」
「………ヴェルナーも一緒なんだろうな」
「えぇ、もちろん」
バジルの言葉にサラは自分の背後に視線を移す。
そこには待ち合わせをしていた護衛役のヴェルナー・シェンクがいた。
「分かった……。キラ達もジェス達もまだセジェスを見つけられない。後はお前だけが頼りだ」
「了解。行かせてくれるお礼に見つけてくるわ。あのバカ国王を」
バジルの言葉にサラは笑顔で応える。
「セジェスをバカ呼ばわり出来るのはお前だけだな」
「当たり前でしょう?あいつがはな垂れの頃から知ってるのよ?じゃあ、ハイファの事よろしくね」
「言われなくても」
バジルの返事を聞いてサラはヴェルナーと共にラルドエードの外に出る。
「バジルのせいで変に時間取っちゃったわね。今日の夕方までにハーシャに着くかしら?」
「寄り道しなければ問題ないだろう」
「あと魔族がおそってこない限り?」
「あぁ」
船着き場に着き船に乗る。
アトゥマクルの港は既に人は居ない。
居るのはエルフ神族とドワーフだけだ。
彼等だけが港で忙しく動いている。
「いつかこの港も人が戻ると良いわね。その時は、私いくらでも歌って良いわ」
「のどがつぶれないように気をつけろ」
「ありがとう。ヴェル……。それより楽しみね。レーアちゃんとアイズに会えるのよ」
甲板でサラは遠くの大陸を見つめる。
そこにいる人を思い浮かばせる。
「あれから……」
「きっと待ってるわ。コレが最後ね……。最期だなんていつも思うけど……寂しいな」
「サラ、それが、エルフ神族の宿命だ」
「そうね……」
風に髪を遊ばせながらサラは小さく呟く。
「サラ、たとえ、お前が知るものが居なくなっても……オレは……いつまでもお前の側にいる……」
「…………そうね……」
ヴェルナーの言葉にサラはどこか泣き出しそうな笑顔を浮かべた。
彼女は本編にほんのちょこーっとだけだしました。
ダーウィンが出てきた話のラスト。
歌っているのがサラ・ネイルです。
というわけでキャストサラ・ネイルは遠藤綾さん。ヴェルナー・シェンクは保志総一郎さんです……。