フーリエシステムの視点から、奇数ゼータがわかりにくい理由を述べた。Cos級数からζ(6)を導出。
なぜ奇数ゼータζ(2n+1)が偶数ゼータζ(2n)に比べて難解なものになるか?その理由は以前発明したテイラーシステム
でわかった。すなわち、テイラーシステムでは偶数ゼータは、自明な零点の関係で右辺が有限和になり、きっちりと求
まる。しかし、奇数ゼータでは右辺が無限和になって明確な値としては求まらないから、ということであった。
さて、先日開発したフーリエシステムでも、テイラーシステムとは別の視点から「なぜ奇数ゼータは難解なのか?」の
理由がわかるのである。それを以下に述べる。
[理由の説明]
どちらもCos級数の場合を見る。
まずζ(3)から。
ζ(3)では、
ζ(3)=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^2 + sin2x/2^2 + sin3x/3^2 +・・)・(sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + ・・) dx ----@
となった。
Sin-Cos移動の法則(「その5」参照)を用いると、次のようにもできる。
ζ(3)=(2/π)∫(0〜π) (cosx/1 + cos2x/2 + cos3x/3 +・・)・(cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 + ・・) dx ----A
フーリエ級数の4つの公式を並べる。
sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 +・・=π/2 - x/2 (0 <x< 2π)
sinx/1^2 + sin2x/2^2 + sin3x/3^2 +・・=-xlog2 - ∫(0〜x) log(sin(t/2)dt (0 <=x<= 2π)
cosx/1 + cos2x/2 + cos3x/3 + ・・=-log(2sin(x/2)) (0 <x< 2π)
cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 +・・=(x-π)^2/4 - π^2/12 (0 <=x<= 2π)
これらフーリエ級数の公式を見ると、
@もAも∫内の()の関数は、
(難しい関数)×(簡単な関数)
となっているとわかるであろう。言うまでもないが1番目、4番目が「簡単な関数」であり、2番目、3番目が「難しい関数」
である。この難しい関数があるために、ζ(3)は簡単には求まらないのである!
次にζ(4)を見よう。
ζ(4)では、
ζ(4)=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^3 + sin2x/2^3 + sin3x/3^3 +・・)・(sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + ・・) dx -----B
となった。Sin-Cos移動の法則を使うと、
ζ(4)=(2/π)∫(0〜π) (cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 +・・)・(cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 + ・・) dx --C
=(2/π)∫(0〜π) (cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 +・・)^2 dx
ともできる。
Sin-Cos移動の法則は、機械的に変形していけるので非常に便利な規則である。
フーリエ級数の3つの公式を並べる。
sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 +・・=π/2 - x/2 (0 <x< 2π)
cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 +・・=(x-π)^2/4 - π^2/12 (0 <=x<= 2π)
sinx/1^3 + sin2x/2^3 + sin3x/3^3 +・・=(π^3 - π^2x + (x-π)^3)/12 (0 <=x<= 2π)
これらは、すべて「簡単な関数」となっている。B、Cを見ると、すべて∫内の関数は、これらの「簡単な関数」となって
いることがわかる。よって、ζ(4)は、B、Cの定積分が簡単に計算できてπ^4/90と出るのである!
[終わり]
他の奇数ゼータや偶数ゼータに関しても、まったく同様に説明できる。
このようにフーリエシステムを使うと、奇数ゼータがなぜ難解なのか、偶数ゼータはなぜ簡単なのか、その理由が明快
にわかるのである。
「その2」ではζ(5)まで求めていたが、そこではまだSin-Cos移動の法則を用いてはいなかった。
ここではSin-Cos移動の法則を用いてζ(6)を出しておく。
[ζ(6)導出]
フーリエ級数
f(x)=cosx/1^6 + cos2x/2^6 + cos3x/3^6 + cos4x/4^6 + ・・・ ------@
を考える。右辺の係数1/1^6,1/2^6,1/3^6,・・がζ(6)=1/1^6 + 1/2^6 + 1/3^6 + ・・の各項になっていることに
着目する。
コサイン級数の直交性を用いて、f(x)は@より、
1/1^6=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cosx dx
1/2^6=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cos2x dx
1/3^6=(2/π)∫(0〜π) f(x)・cos3x dx
・
・
さらに、右辺を部分積分する。f(x)は@であるから、簡単な計算から次となる。
1/1^6=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^5 + sin2x/2^5 + sin3x/3^5 + ・・)(sinx/1) dx
1/2^6=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^5 + sin2x/2^5 + sin3x/3^5 + ・・)(sin2x/2) dx
1/3^6=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^5 + sin2x/2^5 + sin3x/3^5 + ・・)(sin3x/3) dx
・
・
これらを縦に足し合わせて、
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^5 + sin2x/2^5 + sin3x/3^5 +・・)(sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + ・・) dx -----A
ここでSin-Cos移動の法則(「その5」参照)を用いるとAは次の2式と同値となる。
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) (cosx/1^4 + cos2x/2^4 + cos3x/3^4 +・・)(cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 + ・・) dx ---B
または、
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^3 + sin2x/2^3 + sin3x/3^3 +・・)(sinx/1^3 + sin2x/2^3 + sin3x/3^3 + ・・) dx
=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^3 + sin2x/2^3 + sin3x/3^3 +・・)^2 dx ----C
A-->B-->Cと規則正しく流れている秩序を見てほしい。これがSin-Cos移動の法則である。
まずAに注目しよう。
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^5 + sin2x/2^5 + sin3x/3^5 +・・)(sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 + ・・) dx -----A
これにフーリエ級数の公式(これらは、例えば「数学公式U」(森口・宇田川・一松著、岩波書店)を参照)
sinx/1 + sin2x/2 + sin3x/3 +・・=π/2 - x/2 (0 <x< 2π)
sinx/1^5 + sin2x/2^5 + sin3x/3^5 +・・=x(8π^4 - 20π^2x^2 + 15πx^3-3x^4)/720 (0 <=x<= 2π)
を代入して、
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) {x(8π^4 - 20π^2x^2 + 15πx^3-3x^4)/720}(π/2 - x/2 ) dx ----D
次にBを見る。
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) (cosx/1^4 + cos2x/2^4 + cos3x/3^4 +・・)(cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 + ・・) dx ---B
これにフーリエ級数の公式
cosx/1^4 + cos2x/2^4 + cos3x/3^4 + ・・={2π^2・(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15}/48 (0 <x< 2π)
cosx/1^2 + cos2x/2^2 + cos3x/3^2 +・・=(x-π)^2/4 - π^2/12 (0 <=x<= 2π)
を代入して、
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) {(2π^2・(x-π)^2-(x-π)^4-7π^4/15)/48}((x-π)^2/4 - π^2/12) dx ---E
次にCを見る。
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) (sinx/1^3 + sin2x/2^3 + sin3x/3^3 +・・)^2 dx ----C
これにフーリエ級数の公式
sinx/1^3 + sin2x/2^3 + sin3x/3^3 +・・=(π^3 - π^2x + (x-π)^3)/12 (0 <=x<= 2π)
を代入するとCは次のようになる。
ζ(6)=(2/π)∫(0〜π) {(π^3 - π^2x + (x-π)^3)/12}^2 dx ----F
D、E、Fを計算すると、どれも
ζ(6)=π^6/945
となる。
[終わり]
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